説明

便器塗布用抗菌コート剤及び便器の抗菌方法

【課題】コート液を便器に噴霧又は塗布して、常温で自然に放置した状態でゲル化して透明な硬質ガラス質となり、該ガラス質に抗菌性ガラスが固定されて耐久的な抗菌効果を有する便器塗布用抗菌コート剤の提供。
【解決手段】シラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、炭素数1〜7のアルコールとよりなるコート液であって、前記ガラス質ゾルが、アミノ基を含むシラン化合物とホウ素化合物よりなる高分子物質組成物並びに、合成樹脂成分とより成る、便器表面にコートされて常温で自然に放置した状態でゲル化して抗菌性可溶性ガラスを固定し、微生物の増殖を抑制して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コート液を便器に噴霧又は塗布して、常温で自然に放置した状態でゲル化して透明な硬質ガラス質となり、該ガラス質に抗菌性ガラスが固定されて耐久的な抗菌効果を奏して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防する便器塗布用抗菌コート剤及び該抗菌コート剤によって便器を抗菌処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
便器では、一般細菌、特に大腸菌が出すウレアーゼ酵素が、尿中に含まれる尿素を分解してアンモニアを生成して悪臭の原因となる。更にpHが8.0〜8.5を超えると、尿中に溶解しているカルシウムイオンが難溶解性カルシウム化合物になり、これが尿石と云われている。尿石は多孔質であるため、有機物や一般細菌が蓄積しやすい性質があり、黄ばみや黒ずみとなって汚れの原因となる。便器の表面の微細な凹凸に強く付着するので清掃作業が困難である。尿石は、視覚的に不快感を招くだけでなく、配水管の詰まりを起こし、トイレの最大の課題である悪臭、汚染、細菌の増殖の原因となっている。
【0003】
従来尿石汚れの除去について多くの開発がなされており、特開2005-194296号公報に、酸性プロテアーゼとカチオン電荷を帯びる界面活性剤を含む洗浄用組成物による尿石汚れ除去の洗浄剤があり、特開2005-179588号公報に、キサンタンガム、キレート剤、界面活性剤を含む汚れ除去洗浄剤があり、特開2006-188648号公報に、グリセリルエーテル類にEDTAと界面活性剤を配合した除菌性の高い汚れ除去の洗浄剤が開示されている。
これら洗浄液によるEDTAなどのキレート剤の排出は、環境上の問題となっており、世界的に否定される傾向にある。特に汚れの強固なトイレのレム部裏側に蓄積する尿石汚れの除去が困難なこともあって、環境対策の立場から尿石汚れには銀イオンによる抗菌剤の使用が有望な技術として注目されている。
【0004】
銀イオンによる尿石汚れを予防する技術には、特開平6-127975号公報にある銀を含むリン酸カルシウム化合物と釉薬との混合物を便器陶器に焼き付ける方法、特開平7-196384号公報にある、釉薬と酸化銀を混合して陶器表面に焼き付ける方法、特開2004-300086号公報にある、銀とP2O5を含むフリットとが混合された釉薬を便器表面に焼き付ける方法が知られている。しかし銀抗菌剤を釉薬に配合して焼き付けるには、一般に1000℃異常の高温度である。該高温度の焼付け工程で銀抗菌剤の構造が崩れて抗菌性に著しい影響がある。また、銀による抗菌性は、銀イオン濃度の放出を10〜50ppbに調整することが重要であり、10ppb以下では抗菌性が低く、50ppb以上特に100ppbになると着色汚染する問題があり、銀イオンの放出には微妙な調整が必要であり、銀放出の程度が高温度により変化することは銀系抗菌剤にとって命取りになる問題である。
便器、特に便器表面域に常在する細菌は、今までのところ一般細菌で26種、真菌で8種が検出されており、これらの微生物の増殖を抑制して尿石の予防効果を得るには、高度の抗菌性が必要であり、釉薬に配合する方法では有効な抗菌効果を安定して得ることが難しい現状にある。
【0005】
【特許文献1】特開2005-194296号公報
【特許文献2】特開2005-179588号公報
【特許文献3】特開2006-188648号公報
【特許文献4】特開平06-127975号公報
【特許文献5】特開平07-196384号公報
【特許文献6】特開2004-300086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述するように、便器において恒久的に微生物の増殖を抑制して、ウレアーゼ酵素の生成を防止し、アンモニアの生成と尿石の生成を未然に防ぐことは、環境対策上に有望として注目されているが、釉薬に銀系抗菌剤を配合して焼付ける従来の方法では、充分な抗菌効果が得られ難くて、尿石の予防効果が低い問題があった。
上述するように便器で高温処理を必要としない抗菌加工については、未だ実用性の高い技術は開発されていない現状にある。
本発明は、上記課題を解決するために、便器に抗菌性可溶性ガラスを、シラン化合物によるガラス質ゲルにより常温で固定して、抗菌性可溶性ガラスの構成を損傷することなく、耐久性に優れた抗菌性を得ることにより、細菌の増殖を抑制して尿石汚れを予防する、便器の抗菌コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願第1の発明では、シラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、炭素数1〜7のアルコールとよりなるコート液であって、前記シラン化合物によるガラス質ゾルが、アミノ基を含むシラン化合物とホウ素化合物よりなる高分子物質組成物と、合成樹脂成分とよりなることを特徴とする。
また、第2の発明では、前記コート液が、便器表面にコートされて常温で自然に放置した状態でゲル化して抗菌性可溶性ガラスを固定し、微生物の増殖を抑制して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防することを特徴とする。
第3の発明では、前記抗菌性可溶性ガラスが、P2O5を網目形成の主成分とし、B2O3を網目形成の補助成分として、ZnO及び/又はCaOを網目修飾成分とする、Ag2O含有率が0.2〜3重量%の可溶性ガラスであり、粒子径1〜10μmの粉末状であることを特徴とする。
第4の発明では、シラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、炭素数1〜7のアルコールとよりなるコート液であって、前記ガラス質ゾルが、アミノ基を含むシラン化合物及びホウ素化合物よりなる高分子物質組成物並びに合成樹脂成分より構成される抗菌コート剤によって便器を抗菌処理する方法を特徴とする。
第5の発明では、コート液が、便器表面にコートされて常温で自然に放置した状態でゲル化して抗菌性可溶性ガラスを固定し、微生物の増殖を抑制して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防する便器の抗菌処理方法を特徴とする。
第6の発明では、前記抗菌性可溶性ガラスが、P2O5を網目形成の主成分とし、B2O3を網目形成の補助成分として、ZnO及び/又はCaOを網目修飾成分とする、Ag2O含有率が0.2〜3重量%である可溶性ガラスであり、粒子径1〜10μmの粉末状である便器の抗菌処理方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、シラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、炭素数1〜7のアルコールとを配合されたコート液であって、該コート液を便器表面に噴霧又は塗布によりコートすることにより、常温で自然に放置した状態で空気中の湿度によりゲル化して鉛筆硬度で8H〜6Hに硬化し、該硬化ガラス質により抗菌性可溶性ガラスを固定する。
本発明の抗菌性可溶性ガラスは、水に10〜100ppbの溶解性を有しており、強固に固定して、銀イオンを継続的に放出して恒久的な抗菌効果を奏する。
【0009】
本発明のアミノ基を含むシラン化合物としては、以下の式で表される。
R4-n−Si−(OR’)n
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表し、R’はメチル基、エチル基又はプロピル基を表し、nは1〜3から選ばれた整数を表す)
【0010】
上記アミノ基含有の有機基のRとしては、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、テトラアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、テトラアミノブチル及びこれらより炭素数の多いアルキル基又はアリール基を有する有機基等を挙げることができるが、それらに限定されるものではなく、γ−アミノプロピルやアミノエチルアミノプロピルが特に好ましい。
また、R’は、上述するようにメチル基、エチル基又はプロピル基の中で、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
上述アミノ基を含むシラン化合物の適当な化合物としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0011】
本発明のホウ素化合物としては、H2BO3又はB2O3を用いるのが適当である。
上記アミノ基を有するシラン化合物とホウ素化合物の反応における各成分の使用量は、シラン化合物1モルに対してホウ素化合物0.02〜6モルの割合であるが、シラン化合物1モルに対してホウ素化合物2モルの割合で反応させて粘稠な高分子物質組成物とする。
本発明に用いるシラン化合物を含むガラス質ゾルは、上記高分子物質組成物50〜70重量部に対して合成樹脂50〜30重量部を配合する。追加的にシリコーンや金属アルコキシドを配合することは、塗布面を強化することに有効である。
【0012】
本発明の金属アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましい。合成樹脂は、クラック防止のために有効であり、合成樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂を挙げることができるが、その中でもビニルエステル樹脂、エポキシアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が好ましい。
【0013】
本発明のガラス質のゾル液としては、常温硬化型のハードコート剤であるSSGコート剤(日東紡株式会社製品)を用いることができる。
本発明の抗菌性可溶性ガラスとしては、銀を0.2〜3重量%含有する可溶性ガラスで、ミリオンキラーIPL(興亜硝子株式会社製品、Ag2O 2重量%)、イオンピュアPG701(石塚硝子株式会社製品、Ag2O 2.3重量%)を挙げることできる。本発明には、P2O5を可溶性の主成分とする抗菌性ガラスで、水溶解性が10〜100ppbにあるものが好ましい。
本発明は、シラン化合物によるガラス質ゾル20〜60重量%、抗菌性可溶性ガラス0.1〜3重量%、炭素数1〜7のアルコール79.9〜39.7重量%よりなる配合液を、便器に噴霧又は塗布して常温で自然に放置した状態にすればよい。加熱する必要はない。2〜3日で硬化して恒久的な抗菌性が得られて尿石汚れ及びアンモニア臭が予防される。
本発明の抗菌コート剤は、硬度が鉛筆硬度(JIS−K−5401、鉛筆引っかき試験)で8H〜6Hが得られ傷がつかない特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
SSG 10A(商品名、日東紡株式会社)(シラン化合物によるガラス質ゾル;配合率、シラン系高分子物質組成物70重量%、合成樹脂30重量%)1000gに、イソプロパノール1000gを加えて、抗菌性可溶性ガラスとして、ミリオンキラー PG701 F2(商品名、興亜硝子株式会社製品、平均粒子径3μm)9gを配合した。該配合液を陶器製の男子用便器及び同質の陶器板5×5cm角のテスト片に噴霧によりコートした。10分程度で乾燥し、そのまま室温で2日間放置してコート面が鉛筆硬度で、8Hの硬度であった。テスト片で抗菌試験を行い、男子用便器は毎日10名が使用して、尿石汚染と臭いの発生を調べた。
比較例1として、上記配合に抗菌性ガラスを配合しない場合について同様の試験を行って表1に示す。
【実施例2】
【0016】
SSG 21B(商品名、日東紡株式会社製品)(シラン化合物によるガラス質ゾル;配合率、シラン系高分子物質組成物65重量%、合成樹脂35重量%)1000gにブタノール900gを加えて、抗菌性可溶性ガラスとして、ミリオンキラー PG701(商品名、興亜硝子株式会社製品、平均粒子径1μm)7gを配合した。該配合液を陶器製の男子用便器及び同質の陶器板5×5cm角のテスト片に噴霧によりコートした。15分程度で乾燥し、そのまま室温で2日間放置によりコート面が鉛筆硬度で7Hの硬度であった。
テスト片で抗菌試験を行い、男子用便器は毎日10名が使用して、尿石汚染と臭いの発生を調べた。比較例2として、上記配合に抗菌性ガラスを配合しない場合について同様の試験を行って表1に示す。
【実施例3】
【0017】
SSG 31B(商品名、日東紡株式会社製品)(シラン化合物によるガラス質ゾル;配合率、シラン系高分子物質組成物50重量%、合成樹脂50重量%)1000gにブタノール900gを加えて、抗菌性可溶性ガラスとして、イオンピュア−IPL(商品名、石塚硝子株式会社製品、平均粒子径10μm)8gを配合した。該配合液を陶器製の男子用便器及び同質の陶器板5×5cm角のテスト片に噴霧によりコートした。15分程度で乾燥し、そのまま室温で2日間放置によりコート面が鉛筆硬度で6Hの硬度であった。
テスト片で抗菌試験を行い、男子用便器は毎日10名が使用して、尿石汚染と臭いの発生を調べた。
〔抗菌試験結果〕
磁気テスト片を、JIS Z 2801;2000に準じて抗菌性試験方法を行った(n=3)。使用菌株として大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)を用いて試験結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1〜3では、いずれも60日後にも尿石汚れがなく、アンモニア臭が無く衛生的に維持されていることは、微生物に対する効果として恒久性があると認定される。
テスト片のコート面の硬度(鉛筆硬度)は、実施例1で8H,実施例2で7H,実施例3で6H,の硬度が得られた。合成樹脂の配合が多くなるとクラックの安全は高いが、硬度はやや低下する。
比較例1,2は抗菌性が全く無い。3日後に汚染及びアンモニアの臭いを確認された。汚染と臭いは通常の微生物状態で3日で確認される時期と一致しており、通常に微生物が増殖していると考えてよい。
本発明により上記の通りすぐれた抗菌性と防汚性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、炭素数1〜7のアルコールとよりなるコート液であって、前記ガラス質ゾルが、アミノ基を含むシラン化合物及びホウ素化合物よりなる高分子物質組成物並びに合成樹脂成分からなることを特徴とする便器塗布用抗菌コート剤。
【請求項2】
前記コート液が、便器表面にコートされて常温で自然に放置した状態でゲル化して抗菌性可溶性ガラスを固定し、微生物の増殖を抑制して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防することを特徴とする請求項1に記載の便器塗布用抗菌コート剤。
【請求項3】
前記抗菌性可溶性ガラスが、P2O5を網目形成の主成分とし、B2O3を網目形成の補助成分として、ZnO及び/又はCaOを網目修飾成分とする、Ag2O含有率が0.2〜3重量%である可溶性ガラスであり、粒子径1〜10μmの粉末状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の便器塗布用抗菌コート剤。
【請求項4】
シラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、炭素数1〜7のアルコールとよりなるコート液であって、前記ガラス質ゾルが、アミノ基を含むシラン化合物及びホウ素化合物よりなる高分子物質組成物並びに合成樹脂成分より構成されることを特徴とする抗菌コート剤によって便器を抗菌処理する方法。
【請求項5】
前記コート液が、便器表面にコートされて常温で自然に放置した状態でゲル化して抗菌性可溶性ガラスを固定し、微生物の増殖を抑制して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防することを特徴とする請求項4の便器を抗菌処理する方法。
【請求項6】
前記抗菌性可溶性ガラスが、P2O5を網目形成の主成分とし、B2O3を網目形成の補助成分として、ZnO及び/又はCaOを網目修飾成分とする、Ag2O含有率が0.2〜3重量%である可溶性ガラスであり、粒子径1〜10μmの粉末状であることを特徴とする請求項4又は5の便器を抗菌処理する方法。

【公開番号】特開2008−308437(P2008−308437A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157465(P2007−157465)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000212005)
【出願人】(595118010)
【Fターム(参考)】