説明

便器排水路の吸気装置

【課題】常にサイホン作用を発生させることができ、便器本体の設置場所や使用状況にかかわらず、便器洗浄を良好に行なうことができる便器排水路の吸気装置を提供する。
【解決手段】便器排水路5の吸気装置20は、ハウジング30H内に第1隔膜31が設けられ、第1隔膜31によって第1室32と第2室33とに区画され、第2室33が便器排水路5に連通されている吸引タンク30と、第1室32の空気を吸引して第1隔膜31を上方向に移動させる駆動装置40とを備えている。駆動装置40は、筒状のケース本体41と、ケース本体41内に収納された移動体42を有している。ケース本体41内には、移動体42と底壁41Bとに囲まれ、連通管50によって第1室32に連通されている気密室47が形成されている。移動体42は、ケース本体41から外部に引き出され、移動体42を上方向に引き上げる鎖39が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器排水路の吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図7に従来の便器排水路の吸気装置が開示されている。この吸気装置は吸引タンク及び水圧式駆動装置を備え、便器本体の水封部の下流側に連なる便器排水路から空気を吸引するものである。
【0003】
吸引タンクは、ハウジング内に設置時の上下方向で移動可能に第1隔膜が設けられ、第1隔膜によって上側の第1室と下側の第2室とに区画されている。吸引タンクの第2室は便器排水路に連通されている。水圧式駆動装置は、水道水が給水されることにより上方向に移動する第2隔膜と、第2隔膜の上面に取り付けられ、先端が第1隔膜に接続された棒状部材とを有している。
【0004】
この吸気装置は、水圧式駆動装置に水道水が給水されると、第2隔膜が上方向に移動し、棒状部材が第1隔膜を上方向に押し上げ、便器排水路の空気が吸引タンクの第2室に吸引される。このため、便器排水路が洗浄水で満水になり、サイホン作用が発生する。よって、少ない洗浄水でもサイホン作用を発生させることができ、便器本体外へ汚物を排出することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平5−311719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の吸気装置では、水圧式駆動装置に水道水が給水されない等の異常が生じ、第2隔膜が上方向に移動されないと、第1隔膜が上方向に押し上げられず、サイホン作用を発生させることができない。この場合、便器洗浄が良好に行われないおそれがある。
【0007】
また、便器本体が設置される地域、建物、階等の設置場所や、便器本体が使用される時間帯等の使用状況が相違すると、水道水の単位時間当たりの給水量等が変化してしまうため、第2隔膜の上方向への移動速度や移動量が変化してしまう。すると、棒状部材が第1隔膜を上方向に押し上げる速度等が変化し、第2室による便器排水路の空気の吸引状態がばらつき、便器洗浄が良好に行われないおそれがある。
【0008】
つまり、第1隔膜が上方向に押し上げられる速度が速すぎると、便器本体に洗浄水が充分に供給されていない状態で第2室が便器排水路から空気を吸引することになり、便器排水路内に十分な洗浄水を流入させることができず、サイホン作用を発生させることができない。また、第1隔膜が上方向に押し上げられる速度が遅すぎたり、移動量が少なかったりすると、便器排水路からの第2室による空気の吸引力が弱くなり、便器排水路内に十分な洗浄水を流入させることができず、やはりサイホン作用を発生させることができない。このようにサイホン作用が発生しないと、汚物が便器本体外へ排出されず、便器洗浄が良好に行なわれないおそれがある。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、常にサイホン作用を発生させることができ、便器本体の設置場所や使用状況にかかわらず、便器洗浄を良好に行なうことができる便器排水路の吸気装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の便器排水路の吸気装置は、便器本体の水封部の下流側に連なる便器排水路から空気を吸引する便器排水路の吸気装置において、
ハウジング内に設置時の上下方向で移動可能な第1隔膜が設けられ、該第1隔膜によって上側の第1室と下側の第2室とに区画され、該第2室が前記便器排水路に連通されている吸引タンクと、該第1室の空気を吸引して該第1隔膜を上方向に移動させる駆動装置とを備え、
該駆動装置は、設置時の上下方向に延びる筒状のケース本体と、該ケース本体内に該上下方向に移動可能に収納された移動体を有し、
該ケース本体は、下端を密閉する底壁を有し、
該ケース本体内には、該移動体と該底壁とに囲まれ、該移動体の移動によって容積が変化し、連通管によって前記第1室に連通されている気密室が形成され、
該移動体は、該ケース本体から外部に引き出され、該移動体を上方向に引き上げる引上げ具が連結されていることを特徴とする。
【0011】
この便器排水路の吸気装置では、使用者が手動で引上げ具を引き上げることにより、移動体を上方向に移動させ、サイホン作用を発生させることができる。また、使用者が便鉢内の洗浄水量の増減やサイホン作用の発生等を確認しながら引上げ具を引き上げることにより移動体を上方向に移動させることができるため、サイホン作用を確実に発生させることができ、汚物を便器本体外へ排出することができる。
【0012】
したがって、本発明の吸気装置は、常にサイホン作用を発生させることができ、便器本体の設置場所や使用状況にかかわらず、便器洗浄を良好に行なうことができる。
【0013】
引上げ具は、玉鎖等の鎖、ワイヤ、有機繊維ロープ等、種々のものを採用することができる。
【0014】
移動体は、ケース本体の内周面に沿って上下に延びる筒部と、筒部の一端から外方に延びてケース本体の内周面に固定される鍔部と、筒部の他端から内方に延びる中央部とからなる第2隔膜と、
中央部に取り付けられ、中央部が水平状態を保ちながら上下方向に移動するように第2隔膜を案内するガイドとを有し得る。
【0015】
この場合、移動体がスムーズにケース本体内を移動できるため、移動体を上方向に移動させるために引上げ具を引き上げることが手動で容易に行うことができる。また、第2隔膜は、鍔部がケース本体の内周面に固定されており、移動体が移動する際に、ケース本体の内周面等に対して摺動するものではない。このため、第2隔膜は摩耗し難く、気密室の気密性を長期にわたって保つことができる。よって、この吸気装置は、優れた耐久性を呈することができる。また、駆動装置の部品交換等のメンテナンスの手間を少なくすることができる。
【0016】
ガイドは、第2隔膜の中央部下面に取り付けられる上壁と、上壁の周縁から下方に延び、ケース本体の内周面に沿って下方に延びる側壁と、側壁の下端の外周縁から外方に延びるフランジとから形成されてもよい。
【0017】
この場合、ガイドの側壁と、フランジの外周縁とがケース本体の内周面に沿って上下に移動するため、第2隔膜の中央部を水平状態に保ちながら移動体がスムーズにケース本体内を上下方向に移動する。また、第2隔膜は、鍔部がケース本体の内周面に固定され、移動体が上昇する際には、ガイドの側壁の外周面を被覆するように変形するため、ケース本体の内周面に対して摺動しない。
【0018】
駆動装置は、底壁に設けられた開口に接続され、移動体を上方向に移動させる移動装置を有し、
移動装置は、上方向に突出し、移動体を押し上げる棒状体と、棒状体を昇降させるモーターとを内蔵し得る。
【0019】
この場合、モーターを駆動して移動体を押し上げることができるため、常時はモーターを駆動するための駆動スイッチを使用者が操作するのみで便器洗浄を良好に行うことができる。また、停電等によりモーターを駆動させることができない場合には、使用者が手動で引上げ具を引き上げて移動体を上方向に移動させることにより、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0020】
駆動装置は、ケース本体より上方に設けられ、引上げ具を上下方向に挿通する案内具を有し得る。使用者が手動で引上げ具を引き上げる際、引上げ具は案内具を通って引き上げられる。このため、便器本体に組み込まれた洗浄水供給装置等の他の部材に引上げ具が干渉することを防止することができ、引上げ具を上方向に容易に引き上げることができる。よって、移動体を手動でスムーズに引き上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の便器排水路の吸気装置を洋風水洗式便器に具体化した実施例1〜3を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0022】
図1及び図2に示すように、実施例1の洋風水洗式便器は、便器本体1と、便器洗浄装置Sとを備えている。なお、便座及び便蓋の図示は省略する。
【0023】
便器本体1は、便鉢2の上部内周にリム3を有している。また、便器本体1には便鉢2の下端から上方向に延びる上昇流路2Aが形成され、便鉢2の下方には水封部4が形成されている。便器本体1の上昇流路2Aは接続管と接続されており、接続管内は便器排水路5、滞留部6及び排水口7が形成されている。
【0024】
便器洗浄装置Sは、洗浄水供給装置10と便器排水路5の吸気装置20とを備えている。
【0025】
洗浄水供給装置10は、便器本体1が据え付けられたトイレルームの床面又は壁面から引き出された水道管に取り付けられた止水栓V1に接続され、便器本体1のリム3に連通する導水管11を有している。導水管11には、上流側から順に止水弁及びストレーナを内蔵するストレーナ装置12、定流量弁13、開閉弁V2及びバキュームブレーカ14が設けられている。開閉弁V2は、弁を開閉させる駆動軸に着脱自在に取り付けられた洗浄ハンドルHを有している。
【0026】
便器排水路5の吸気装置20は、ハウジング30H内に設置時の上下方向で移動可能な第1隔膜31が設けられた吸引タンク30と、第1隔膜31を上方向に移動させる駆動装置40とを備えている。吸引タンク30及び駆動装置40は、図示しないが、便器本体1の側壁に囲まれ、便鉢2の後方に形成された収納空間に配置される。
【0027】
吸引タンク30の内部は、第1隔膜31によって上側の第1室32と下側の第2室33とに区画されている。第1室32及び第2室33は気密性を有している。第1室32は、連通管50を介して後述する駆動装置40の気密室47に連通されている。また、第2室33は、吸引管60を介して便器排水路5に連通されている。
【0028】
駆動装置40は、上下方向に延びる筒状のケース本体41と、ケース本体41内に上下方向に移動可能に収納された移動体42と、下端が移動体42に連結され、上端がケース本体41の上端面から外部に引き出された引上げ具である鎖49とを有している。鎖49の上端は洗浄ハンドルHに連結され、洗浄ハンドルHは開閉弁V2の駆動軸に着脱自在に取付けられている。このように、鎖49の上端が、便器洗浄装置Sの特定の位置に配置されるため、使用者が鎖49の上端の位置を容易に把握することができる。また、鎖49の上端がケース本体41内に入り込んでしまうことを防止することができる。
【0029】
ケース本体41の下端は、底壁41Bにより密閉されている。ケース本体41内には、移動体42と底壁41Bとに囲まれ、移動体42の移動によって容積が変化する気密室47が形成されている。ケース本体41の上端面には、空気が出入可能な開口41Aが形成されている。開口41Aには、ケース本体41内にゴミ等が侵入しないようにフィルターが取り付けられている。
【0030】
移動体42は、可撓性を有する第2隔膜43と、第2隔膜43の中央部43Cの下面に取り付けられた第1ガイド44と、第2隔膜43の中央部43Cの上面に取り付けられた第2ガイド45とから構成されている。第2隔膜43は、ケース本体41の内周面に沿って上下方向に延びる筒部43Aと、筒部43Aの一端から外方に延びてケース本体41の内周面に挟持されて固定される鍔部43Bと、筒部43Aの他端から内方に延びる中央部43Cとから形成されている。
【0031】
第1ガイド44は、第2隔膜43の中央部43Cの下面に取り付けられる上壁44Aと、上壁44Aの周縁からケース本体41の内周面に沿って下方に延びる側壁44Bと、側壁44Bの下端の外周縁から外方に延びるフランジ44Cとから形成された下向きのカップ形状とされている。上壁44Aは、第2隔膜43の中央部43Cより一回り小さい相似形状とされている。この第1ガイド44は、下降した状態では、ケース本体41内の下部に位置する。
【0032】
第2ガイド45は、第2隔膜43の中央部43Cの上面に取り付けられる底壁45Aと、底壁45Aの周縁から上下方向に延び、ケース本体41の内周面に沿った側壁45Bとから形成されている。底壁45Aは、第1ガイド44の上壁44Aより大きい相似形状とされている。
【0033】
この移動体42は、第1ガイド44及び第2ガイド45によりケース本体41内をスムーズに上昇、下降することができる。つまり、移動体42が上昇、下降する際には、第1ガイド44の側壁44B及びフランジ44Cと、第2ガイド45の側壁45Bとにより、移動体42がケース本体41の内周面に沿って移動する。このため、第2隔膜43の中央部43Cが水平状態を保ちながらスムーズに上昇、下降するため、移動体42を上方向に移動させるために鎖49を引き上げることが手動で容易に行える。
【0034】
図2に示すように、使用者が開閉弁V2の駆動軸から洗浄ハンドルHを取り外し、鎖49を手動により引き上げることにより、移動体42が上昇する際、第2隔膜43は、第1ガイド44の側壁44Bの外周面を被覆するように変形する。一方、引き上げた鎖49を緩めると、移動体42は自重により下降する。この際、図1に示すように、第2隔膜43は、第2ガイド45の側壁45Bの下端周縁に押さえられながら変形する。
【0035】
このように、移動体42が上昇、下降する際、第2隔膜43がケース本体41の内周面に対して摺動しないため、第2隔膜43は摩耗し難く、気密室47の気密性を長期にわたって保つことができる。よって、この吸気装置20は、優れた耐久性を呈することができる。また、第2隔膜43の交換等の駆動装置40のメンテナンスの手間を少なくすることができる。
【0036】
ケース本体41の側壁には連通管50が接続され、気密室47は連通管50を介して吸引タンク30の第1室32に連通されている。連通管50の中間部には、常時は大気に開放しており、駆動装置40の移動体42が移動する際、閉弁する開閉弁48が設けられている。
【0037】
駆動装置40は吸引タンク30から離して配置することができる。このため、駆動装置40を便器本体1の便鉢2の後方に設けられた収納空間の空いたスペースに配置することができ、スペースを有効に利用することができる。また、駆動装置40を吸引タンク30の上方に配置しないことにより、ローシルエットの洋風水洗式便器を実現することができる等、洋風水洗式便器の設計の自由度が高まる。
【0038】
以上の実施例1の洋風水洗式便器の便器洗浄は、以下のように行われる。
【0039】
使用者が開閉弁V2の駆動軸に取り付けられている洗浄ハンドルHを手動で操作して開閉弁V2を開弁させる。これにより導水管11から洗浄水がリム3に供給され、便鉢2の内面に沿って旋回しながら流れ落ち、便鉢2内に旋回流が形成される。この旋回流により、汚物が便鉢2の中央側に集められるとともに、トイレットペーパーがほぐれて洗浄水となじみ、水中に分散するようになるので、後にサイホン作用が発生すると、汚物及びトイレットペーパーがスムーズに便器本体1外へ排出される。
【0040】
使用者は、洗浄水が便鉢2に供給され、所定時間以上経過し、便鉢2内の水位が充分に高くなるのを確認すると、開閉弁V2の駆動軸から洗浄ハンドルHを取り外し、鎖49を手動で一気に引き上げる。これにより、図2に示すように、移動体42が所定の高さまで上昇し、気密室47の容積は拡大する。この際、連通管50に設けられた開閉弁48は閉弁しており、連通管50を通じて吸引タンク30の第1室32内の空気が気密室47側に移動する。
【0041】
第1室32内の空気が気密室47側に移動することにより、第1隔壁31が上方向に上昇する。これにより、便器排水路5内から空気が第2室33内に吸引される。この時には、滞留部6内に上昇流路2Aから溢れた洗浄水が流入し、便器排水路5内と排水口7側との間は完全に封鎖されているため、便器排水路5内から空気が吸引されると、水封部4側から便器排水路5内へ洗浄水が勢いよく流入し、強力なサイホン作用が発生する。このため、汚物が便器本体1外へ確実に排出される。
【0042】
使用者は、サイホン作用が発生し、鎖49を引き上げた状態を所定時間保持した後、便鉢2内の水位が低下するのを確認し、洗浄ハンドルHを開閉弁V2の駆動軸に取り付け、引き上げた鎖49を緩めると、移動体42は自重により下降する。これにより、気密室47内の空気が連通管50を通じて吸引タンク30の第1室32側に移動するため、第1隔膜31が下降する。この後、連通管50に設けられた開閉弁48は大気に解放され、気密室47内及び第1室32内は大気圧とされるため、移動体42及び第1隔膜31が下降途中で止まることなく、最下点まで確実に下降する。
【0043】
第1隔膜31が下降すると、第2室33から便器排水路5内に空気が排出され、便器排水路5内の洗浄水が水封部4側と滞留部6側とに押し込まれる。このため、便器排水路5内の洗浄水の流れが分断され、サイホン作用が終了する。その後、便鉢2内の水封部4に所定の水位を有する封水が形成されるように洗浄水供給装置10から洗浄水が供給され、使用者は、洗浄ハンドルHを手動で操作して開閉弁V2を閉弁させ、便器洗浄を終了する。
【0044】
このように、実施例1の吸気装置20では、便器洗浄を行う際、使用者が手動で鎖49を引き上げることにより、確実に移動体42を上方向に移動させることができる。また、使用者が便鉢2内の洗浄水量の増減やサイホン作用の発生等を確認しながら鎖49を引き上げて移動体42を上方向に移動させることができるため、サイホン作用を確実に発生させることができ、汚物を便器本体1外へ排出することができる。
【0045】
したがって、実施例1の吸気装置20は、常にサイホン作用を発生させることができ、便器本体1の設置場所や使用状況にかかわらず、便器洗浄を良好に行うことができる。
【実施例2】
【0046】
実施例2の洋風水洗式便器は、図3〜図5に示すように、実施例1のケース本体41の底壁41Bに開口を設け、この開口に移動体42を上方向に移動させる移動装置46が接続された駆動装置400を備えている。また、洗浄水供給装置10の開閉弁V2は、洗浄ハンドルHを手動で操作して開閉可能であると共に、図示しない電磁式アクチュエータが組み込まれ、電磁駆動により開閉可能とされている。それ以外の構成は実施例1と同様であるので、同一の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0047】
実施例2の駆動装置400は、図3に示すように、ケース本体41の底壁41Bに設けられた開口に、移動装置46の上部が下方から挿入され、移動装置46の上部がケース本体41内に収納されている。ケース本体41と移動装置46とはパッキンPを介在させて気密性を保つように接続されている。
【0048】
移動装置46は、モーター46Mと、モーター46Mにより回転するネジ軸46Aと、ネジ軸46Aに外嵌したナット部を下端に有し、上端が移動装置46の上方から突出して円盤状の押上板46Cが固定された棒状体46Bとを有している。押上板46Cの上面は移動体42に固定されていない。このため、移動体42は、押上板46Cが上昇すると上方向へ押上げられ、押上板46Cが下降すると自重により下降する。
【0049】
駆動装置400も吸引タンク30から離して配置することができる。このため、駆動装置400を便器本体1の便鉢2の後方に設けられた収納空間の空いたスペースに配置することができ、スペースを有効に利用することができる。また、駆動装置400を吸引タンク30の上方に配置しないことにより、ローシルエットの洋風水洗式便器を実現することができる等、洋風水洗式便器の設計の自由度が高まる。
【0050】
以上の実施例2の洋風水洗式便器の便器洗浄は、以下のように行われる。
【0051】
使用者が図示しない洋風水洗式便器の便器洗浄スイッチを操作すると、先ず、洗浄水供給装置10の開閉弁V2が電磁駆動により開弁する。これにより、実施例1と同様、導水管11から洗浄水がリム3に供給され、便鉢2内に旋回流が形成される。洗浄水が便鉢2に供給され、便鉢2内の水位が十分に高くなると、駆動装置400が駆動される。つまり、図4に示すように、移動装置46のモーター46Mが駆動され、棒状体46Bの押上板46Cが所定の速度で所定の高さまで上昇し、移動体42を所定の高さまで押し上げる。これにより、気密室47の容積は所定の速度で所定の量に拡大する。これにより、実施例1と同様、便器排水路5内から空気が吸引タンク30の第2室に吸引され、水封部4側から便器排水路5内へ洗浄水が勢いよく流入するため、強力なサイホン作用が発生し、汚物が便器本体1外へ確実に排出される。
【0052】
サイホン作用が発生し、所定時間が経過した後、モーター46Mを逆回転させ、棒状体46Bの押上板46Cを下降させると、移動体42は自重により下降する。これにより、気密室47内の空気が連通管50を通じて吸引タンク30の第1室32側に移動するため、第1隔膜31が下降する。この後、連通管50に設けられた開閉弁48は大気に開放され、気密室47内及び第1室32内は大気圧とされるため、移動体42及び第1隔膜31が下降途中で止まることなく、最下点まで確実に下降する。これにより、第1実施例と同様、サイホン作用が終了する。その後、便鉢2内の水封部4に所定の水位を有する封水が形成されるように洗浄水供給装置10から洗浄水が供給され、便器洗浄が終了する。
【0053】
このように、実施例2の便器洗浄装置S1では、常時は、使用者が便器洗浄スイッチを操作するのみで便器洗浄を良好に行うことができる。また、実施例2の吸気装置200では、便器洗浄を行う際、モーター46Mによって所定のタイミングの下、所定の速度かつ所定の移動量だけ、押上板46Cを上昇させることにより、第1隔膜31を所定のタイミングの下、所定の速度かつ所定の移動量だけ上方向に移動させることができる。このため、便器排水路5からの空気の吸引状態がばらつかず、水封部4側から便器排水路5内へ洗浄水を勢いよく流入させることができるため、強力なサイホン作用が確実に発生して汚物を便器本体1外へ確実に排出することができる。また、吸気装置200によって、便器排水路5から空気を吸引することにより、少ない洗浄水でもサイホン作用を発生させ、汚物を便器本体1外へ排出することができるため、洗浄水の節水を図ることができる。
【0054】
また、停電等により、モーター46Mを駆動させることができない場合には、図5に示すように、使用者が手動で便器洗浄を行うことができる。つまり、使用者は、先ず、開閉弁V2の駆動軸に取り付けられている洗浄ハンドルHを手動で操作して開閉弁V2を開弁させる。これにより、実施例1と同様、洗浄水が便鉢2に供給され、所定時間以上経過した後に開閉弁V2の駆動軸から洗浄ハンドルHを取り外し、鎖49を手動で一気に引き上げる。これにより、便器排水路5内から空気が吸引され、強力なサイホン作用が発生し、汚物を便器本体1外へ確実に排出することができる。
【0055】
使用者は、サイホン作用が発生し、鎖49を引き上げた状態を所定時間保持した後、洗浄ハンドルHを開閉弁V2の駆動軸に取り付け、引き上げた鎖49を緩める。これにより、実施例1と同様、便器排水路5内に空気が排出され、サイホン作用が終了する。その後、洗浄水が便鉢2内に供給され、水封部4に所定の水位を有する封水が形成される。使用者は、洗浄ハンドルHを手動で操作して開閉弁V2を閉弁させ、便器洗浄を終了する。このように、停電等により、モーター46Mを駆動させることができない場合にも、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0056】
したがって、実施例2の吸気装置200も、常にサイホン作用を発生させることができ、便器本体1の設置場所や使用状況にかかわらず、便器洗浄を良好に行うことができる。
【実施例3】
【0057】
実施例3の洋風水洗式便器は、図6及び図7に示すように、駆動装置400のケース本体41より上方に設けられ、引上げ具である玉鎖49Tを上下方向に挿通する案内具49Aを有している。案内具49Aは、上端から下端にわたって形成されたスリット49Sを側面に有し、上下方向に延びる円筒状の部材により形成されている。この案内具49Aは、洗浄水供給装置10のストレーナ装置12、定流量弁13、開閉弁V2及びバキュームブレーカ14からなるバルブユニットの外面に生じる結露水及びバキュームブレーカ14からの溢れ水を受ける水受け具18に一体に形成されている。この水受け具18は、便器本体1の後部上面に固定されたフレーム17に固定され、便器本体1の後部上面より上方に配置されている。このため、案内具49Aに挿通された玉鎖49Tは、洗浄水供給装置10等に干渉することなく、上方向に容易に引き上げることができる。よって、駆動装置400内の移動体を手動でスムーズに引き上げることができる。
【0058】
玉鎖49Tの玉と玉とを連結する針金部分は、案内具49Aのスリット49Sを挿通することができるため、この針金部分をスリット49Sの下端から挿通させながら玉鎖49Tを上方に引き上げることにより、案内具49Aの内部に玉鎖49Tを挿通させることができる。玉鎖49Tの玉はスリット49Sの幅より大きく、玉鎖49Tの上端には、洗浄ハンドルHが連結されているため、玉鎖49Tは案内具49Aから外れることがない。このため、洗浄ハンドルHから手を離しても玉鎖49Tは案内具49Aの上端に引っ掛かる。よって、洗浄ハンドルH及び玉鎖49Tが、便器本体1の便鉢2の後方に設けられ、駆動装置400等が収納されている収納空間内に落下してしまうことを防止することができる。
【0059】
図6に示すように、実施例3の便器本体1の上昇流路の下流端には、便器排水路5を内部に形成する下流排水管8が接続されている。下流排水管8の下流端には、滞留部6を内部に形成し、排水口7を有する排水接続具9が接続されている。排水口7は、図示しない便器本体1が据え付けられたトイレルームの床面に引き出された排水管に連通されている。
【0060】
図6及び図7に示すように、実施例3の洗浄水供給装置10は、止水栓V1に接続され、便器本体1のリムに連通する導水管11を有している。導水管11は、ストレーナを内蔵するストレーナ装置12、定流量弁13、開閉弁V2及びバキュームブレーカ14からなるバルブユニットと、バルブユニットの上流側及び下流側に接続された耐圧性を有するフレキシブルホースとから構成されている。バルブユニットの上流側に接続されたフレキシブルホースは便器本体1の後部から引き出され、止水栓V1に接続されている。一方、バルブユニットの下流側に接続されたフレキシブルホースは、先端にノズル11Nが取り付けられ、便器本体1のリムに連通されている。
【0061】
ストレーナ装置12は、上端の蓋部材12Hを回転し、取り外すと、上端が開放され、ストレーナを取り外すことができる。開閉弁V2は、パイロット弁を開閉することにより主弁であるダイヤフラム弁が開閉するものである。この開閉弁V2は、パイロット弁が2つ設けられており、一方のパイロット弁は、電磁アクチュエータ15により開閉駆動され、他方のパイロット弁は、駆動軸16を手動で操作することにより開閉駆動される。洗浄ハンドルHは、この駆動軸16の先端部に着脱自在に取り付けられている。
【0062】
実施例3の吸気装置は、実施例2と同様の構成を有する吸引タンク30及び駆動装置400を備えている。図6に示すように、吸引タンク30及び駆動装置400は、便器本体1の側壁1Aに囲まれ、便鉢2の後方に形成された収納空間に配置されている。
【0063】
実施例3の洋風水洗式便器は、図8に示すように、洋風便器本体1の後部上面に取り付けられ、便蓋71及び図示しない便座を回動可能に支持する収納ケース70と、収納ケース70の上面に着脱自在に取り付けられ、収納ケース70の上面を覆うカバー72とを有している。収納ケース70内には、便器洗浄装置S2の洗浄水供給装置10が収納されている。また、収納ケース70は、吸引タンク30及び駆動装置400が収納されている収納空間の上部開口を塞ぐように取り付けられている。また、収納ケース70の上面には、洗浄水供給装置10の一部が露出する開口73が設けられている。この開口73からストレーナ装置12の蓋部材12Hを回転させて、ストレーナを取り外すことができる。また、この開口73から開閉弁V2の他方のパイロット弁の駆動軸16に取り付けられた洗浄ハンドルHを手動で操作することができる。また、図9に示すように、駆動軸16から取り外した洗浄ハンドルHを手動で引き上げることができる。実施例1及び実施例2と同一の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0064】
以上の実施例3の洋風水洗式便器の便器洗浄は、以下のように行われる。
【0065】
常時は、収納ケース70の上面には、カバー72が装着されている。使用者が図示しない洋風水洗式便器の便器洗浄スイッチを操作すると、先ず、洗浄水供給装置10の開閉弁V2の一方のパイロット弁が電磁アクチュエータ15により開弁し、主弁であるダイヤフラム弁が開弁する。これより後の便器洗浄は、実施例2と同様であり、強力なサイホン作用が発生し、汚物が便器本体1外へ確実に排出された後、サイホン作用が終了し、便鉢2内の水封部4に所定の水位を有する封水が形成されて便器洗浄が終了する。
【0066】
このように、実施例3の便器洗浄装置S2でも、常時は、使用者が便器洗浄スイッチを操作するのみで便器洗浄を良好に行うことができる。また、便器排水路5からの空気の吸引状態がばらつかず、水封部4側から便器排水路5内へ洗浄水を勢いよく流入させることができるため、強力なサイホン作用が確実に発生して汚物を便器本体1外へ確実に排出することができる。また、少ない洗浄水でもサイホン作用を発生させ、汚物を便器本体1外へ排出することができるため、洗浄水の節水を図ることができる。
【0067】
また、停電等により、駆動装置400のモーターを駆動させることができない場合には、図8及び図9に示すように、使用者は、先ず、収納ケース70の上面からカバー72を取り外し、収納ケース70の上面に設けられた開口73から開閉弁V2の他方のパイロット弁の駆動軸16に取り付けられた洗浄ハンドルHを手動で操作して開弁し、主弁のダイヤフラム弁を開弁させる。これにより、実施例1及び実施例2と同様、洗浄水が便鉢2に供給され、所定時間以上経過した後にパイロット弁の駆動軸16から洗浄ハンドルHを取り外し、玉鎖49Tを手動で一気に引き上げる。この際、玉鎖49Tは案内具49Aに挿通されているため、洗浄水供給装置10等に干渉することなく、上方向に容易に引き上げることができる。このため、駆動装置400内の移動体を手動でスムーズに引き上げることができる。これにより、便器排水路5内から空気が吸引され、強力なサイホン作用が発生し、汚物を便器本体1外へ確実に排出することができる。
【0068】
使用者は、サイホン作用が発生し、玉鎖49Tを引き上げた状態を所定時間保持した後、洗浄ハンドルHをパイロット弁の駆動軸16に取り付け、引き上げた玉鎖49Tを緩める。これにより、実施例1及び実施例2と同様、便器排水路5内に空気が排出され、サイホン作用が終了する。その後、洗浄ハンドルHを手動で操作して、主弁のダイヤフラム弁を閉弁させ、便器洗浄を終了する。便鉢2内にはサイホン作用が終了された後、洗浄水が供給され、水封部4に所定の水位を有する封水が形成される。このように、停電等により、駆動装置400のモーターを駆動させることができない場合にも、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0069】
したがって、実施例3の吸気装置200も、常にサイホン作用を発生させることができ、便器本体1の設置場所や使用状況にかかわらず、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0070】
以上において、本発明を実施例1〜3に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨に逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0071】
例えば、実施例2又は実施例3において、モーター46Mを制御して、第1隔膜31の上昇速度を変化させるようにしてもよい。より具体的には、吸気装置20が便器排水路5からの空気の吸引を開始してから特定時間が経過するまでは第1隔膜の上昇速度が速くなるようにモーター46Mを制御し、吸気装置20の便器排水路5からの空気の吸引力を強くする。その後、第1隔膜31の上昇速度が遅くなるようにモーター46Mを制御し、吸気装置20の便器排水路5からの空気の吸引力を弱くする。このようにすると、吸気装置20が便器排水路5からの空気の吸引を開始してから特定時間を経過するまでの間にサイホン作用を確実に発生させて重い汚物を便器本体1外へ排出し、その後はサイホン作用を継続させて軽い汚物を便器本体1外へ排出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は洋風水洗式便器に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の模式図である。
【図2】実施例1の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の便器洗浄状態を示す模式図である。
【図3】実施例2の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の模式図である。
【図4】実施例2の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の便器洗浄状態を示す模式図である。
【図5】実施例2の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の停電時の便器洗浄状態を示す模式図である。
【図6】実施例3の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の斜視図である。
【図7】実施例3の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の一部拡大図である。
【図8】実施例3の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の外観図である。
【図9】実施例3の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の一部拡大外観図である。
【符号の説明】
【0074】
1…便器本体
4…水封部
5…便器排水路
20、200…吸気装置
30…吸引タンク
30H…ハウジング
31…第1隔膜
32…第1室
33…第2室
40、400…駆動装置
41…ケース本体
41B…底壁
42…移動体
47…気密室
49…鎖(引上げ具)
50…連通管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体の水封部の下流側に連なる便器排水路から空気を吸引する便器排水路の吸気装置において、
ハウジング内に設置時の上下方向で移動可能な第1隔膜が設けられ、該第1隔膜によって上側の第1室と下側の第2室とに区画され、該第2室が前記便器排水路に連通されている吸引タンクと、該第1室の空気を吸引して該第1隔膜を上方向に移動させる駆動装置とを備え、
該駆動装置は、設置時の上下方向に延びる筒状のケース本体と、該ケース本体内に該上下方向に移動可能に収納された移動体を有し、
該ケース本体は、下端を密閉する底壁を有し、
該ケース本体内には、該移動体と該底壁とに囲まれ、該移動体の移動によって容積が変化し、連通管によって前記第1室に連通されている気密室が形成され、
該移動体は、該ケース本体から外部に引き出され、該移動体を上方向に引き上げる引上げ具が連結されていることを特徴とする便器排水路の吸気装置。
【請求項2】
前記移動体は、該ケース本体の内周面に沿って上下に延びる筒部と、該筒部の一端から外方に延びて該ケース本体の内周面に固定される鍔部と、該筒部の他端から内方に延びる中央部とからなる第2隔膜と、
該中央部に取り付けられ、該中央部が水平状態を保ちながら上下方向に移動するように該第2隔膜を案内するガイドとを有している請求項1記載の便器排水路の吸気装置。
【請求項3】
前記駆動装置は、前記底壁に設けられた開口に接続され、前記移動体を上方向に移動させる移動装置を有し、
該移動装置は、上方向に突出し、該移動体を押し上げる棒状体と、該棒状体を昇降させるモーターとを内蔵する請求項1又は2記載の便器排水路の吸気装置。
【請求項4】
前記駆動装置は、前記ケース本体より上方に設けられ、前記引上げ具を上下方向に挿通する案内具を有する便器排水路の吸気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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