説明

便器殺菌装置

【課題】効率よく、より強力に持続的に便器内を殺菌することが可能な便器殺菌装置を提供する。
【解決手段】便器殺菌装置100は、銀イオンを付与された水が便器20内に吐出される吐出口11と、吐出口11から銀イオンを含む水が吐出された便器20内に光を照射する光照射部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器の殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、トイレには快適な環境が求められており、それに伴いトイレの衛生レベル向上が必然となっている。特に、便器はトイレ環境の中でも最も汚れやすく、また、排尿や排便に含まれる栄養分により、便器を洗い流すことによっては除去できなかった細菌が繁殖しやすい場所である。従来、便器内を衛生的に保つための便器の洗浄方法や装置、快適なトイレ空間を実現する便座装置が提案されている。
【0003】
たとえば、特開平11−106791号公報(特許文献1)は、金属イオンを含む殺菌水を金属電極の電気分解により生成し、これを便器に供給することにより便器やトラップ等を効果的に防汚及び防臭することのできる便器洗浄方法及びそのための装置を提供している。
【0004】
特開平11−336169号公報(特許文献2)に記載の便器洗浄方法は、電気分解により遊離塩素を水中に発生させ、その水を便器内に流すことにより便器表面を殺菌し、異臭発生を抑制する方法である。
【0005】
国際公開第96/10917号パンフレット(WO96/10917)(特許文献3)には、抗菌金属イオン及び金属状態の抗菌金属の双方を含むことを特徴とした抗菌性固形物材料が記載されている。これは、金属イオンと固形金属による長期的な殺菌効果を踏まえて便器への応用を前提としている。
【0006】
一方、特開平9−135791号公報(特許文献4)に記載の便座装置は、便器周辺に照明器具を取り付けている。これは、使用者が夜間などの就寝中に用便に起きる場合にトイレ全体を明るくせずとも、便器周辺だけを照明で照らすことにより、完全に覚醒することを防止し、スムーズに睡眠に戻ることができるようにするためである。
【特許文献1】特開平11−106791号公報
【特許文献2】特開平11−336169号公報
【特許文献3】国際公開第96/10917号パンフレット
【特許文献4】特開平9−135791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開平11−106791号公報(特許文献1)に記載の便器洗浄方法及びそのための装置は、金属イオンを含む水を便器に供給しているが、金属イオンは水中にあってこそ抗菌効果を発揮するもので、金属イオン水を供給後に便器が乾燥してしまうと、その殺菌効果を十分に発揮できないという問題がある。また、一定時間間隔で金属イオンを供給することによって、金属電極が著しく磨耗し、また大量の水を使用することになる。このことは、地球環境を保護するという観点から見ても好ましくない。
【0008】
特開平11−336169号公報(特許文献2)に記載の便器洗浄方法は、遊離塩素で殺菌を行う。しかし、水中の遊離塩素は時間と共に濃度が低下していくため、便器上を遊離塩素を含む水で濡らしたとしても、継続的な殺菌効果は期待できない。そのため、長期間便器に水を流さない状態が続いたときには十分な殺菌効果が得られにくい。
【0009】
国際公開第96/10917号パンフレット(WO96/10917)(特許文献3)には、抗菌性固形物を便器のトラップに置いて使用する例も記載されている。しかしながら、便器には、排便や排泄といった細菌にとっては栄養源になりやすい物質が頻繁に接触するため、細菌の増殖が殺菌に間に合わずに便器表面にバイオフィルムを形成する可能性がある。便器の表面にバイオフィルムが形成されると、便器を殺菌する効果は得られなくなる。
【0010】
特開平9−135791号公報(特許文献4)に記載の便座装置は、便器周辺を明るくするために光を照射するものであって、便器の殺菌を目的としていない。この便座装置によって便器周辺に光を照射しても、便器の殺菌をすることはできない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、効率よく、より強力に持続的に便器内を殺菌することが可能な便器殺菌装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に従った便器殺菌装置は、銀イオンを付与された水が便器内に吐出される吐出口と、吐出口から銀イオンを含む水が吐出された便器内に光を照射する光照射部とを備える。
【0013】
予め銀イオンが付与された部分に更に光を照射することによって、殺菌作用を向上させることができる。光によって銀イオン殺菌効果を高めることができるので、少ない銀の使用量で所定の殺菌作用を得ることができ、殺菌効果が持続する。便器内で銀イオンが付与された部分に光を照射することによって、効率よく殺菌作用を得ることができる。
【0014】
このようにすることにより、効率よく、より強力に持続的に便器内を殺菌することが可能な便器殺菌装置を提供することができる。また、便器内の殺菌により尿の主成分である尿素を分解する菌の繁殖を防ぐので、尿を原因とする臭いを抑制することができる。
【0015】
この発明に従った便器殺菌装置は、吐出口から銀イオンを含む水が便器内に吐出されると同時に、光照射部が所定時間、便器内に光を照射することができるように構成されていることが好ましい。
【0016】
このようにすることにより、便器内に銀イオン水が付与されると同時に光を照射するので、光照射時には便器に銀イオンが確実に付着しているため、確実に銀イオンと光の相乗効果による殺菌作用を得ることができる。
【0017】
この発明に従った便器殺菌装置においては、光照射部が、所定の時間間隔で便器内に光を照射するように構成されていることが好ましい。
【0018】
このようにすることにより、トイレがしばらく使用されない場合でも、乾燥した状態であっても銀イオンが付着している部分に光が照射されれば、十分な抗菌効果を発揮することができる。
【0019】
この発明に従った便器殺菌装置においては、光照射手段が照射する光は可視光を含むことが好ましい。
【0020】
可視光を含む光を照射することによって、殺菌作用をより向上させることができるとともに、紫外線照射に比べ物質の劣化、退色等の損傷を防止することができる。
【0021】
この発明に従った便器殺菌装置は、銀イオンを生成する銀イオン生成手段を備えることが好ましい。
【0022】
このようにすることにより、外部から銀イオン水を供給する必要がなく、また使用者が銀イオン水を供給し忘れることもないので、確実に銀イオンと光の相乗効果による殺菌作用を得ることができる。
【0023】
この発明にしたがった便器殺菌装置においては、光照射部が吐出口に配置されていることが好ましい。
【0024】
このようにすることにより、光照射部は吐出口の直近から便器内を照射するので、便器内に便器周辺の他の部品のために影ができるといったことがなく、銀イオン水が接触した部分を全て照らすことができる。このようにして、便器内を確実に殺菌することができる。
【0025】
この発明に従った便器殺菌装置は、便器の開口部を上から覆う便蓋と、便器の上に配置されて使用者が座るための便座とを備え、光照射部は、便蓋または便座の少なくとも一方に配置されていることが好ましい。
【0026】
便器は便蓋と便座の内側に位置するため、便蓋または便座に配置された光照射部によって、便器内に光を照射しやすくなる。また、光照射部が消耗した場合に、使用者は容易に光照射部を取り替えることができる。
【0027】
この発明に従った便器殺菌装置は、吐出口に水を供給する給水経路を備え、銀イオン生成手段は、給水経路に配置されていることが好ましい。
【0028】
このようにすることにより、便器に水を流したときに、銀イオン水を便器内に確実に供給することができる。
【0029】
この発明に従った便器殺菌装置においては、銀イオン生成手段は、電気分解によって銀イオンを生成することが好ましい。
【0030】
このようにすることにより、所望の濃度の銀イオン水を生成することができるので、少ない量の銀イオンで効率よく殺菌作用を得ることができる。
【0031】
この発明に従った便器殺菌装置は、便器をさらに備えることが好ましい。
【0032】
このようにすることにより、効率よく、より強力に持続的に便器内を殺菌することが可能な便器殺菌装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、この発明によれば、効率よく、より強力に持続的に便器内を殺菌することが可能な便器殺菌装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0035】
<第一の実施形態>
図1は、第一の実施形態として、便器殺菌装置を備えるトイレの全体構成を示す垂直断面図である。
【0036】
図1に示すように、便器殺菌装置100は、便器20と、便蓋21と、便座22と、吐出口11と、光照射部12と、銀イオン生成手段13と、制御部14を備える。便器20は、開口部23と、便器壁24と、制御室カバー25とを有する。便器20は、開口部23から便器壁24にかけて鉢状になっている。開口部23の縁部23aは、便器20の内側の方向に突き出している。
【0037】
便器20の制御室カバー25は、制御部14を覆って保護する。制御部14は、光照射部12の点灯や消灯を制御する。光照射部12は、図示しない配線によって制御部14と接続している。
【0038】
便蓋21と便座22は、それぞれ便蓋接続部品26と便座接続部品27によって便器20の制御室カバー25と接続しており、それぞれ便蓋接続部品26と便座接続部品27を中心に回動させて、便器20の開口部23の開閉をすることができる。便器20の開口部23は、便器20の上に便座22、その上に便蓋21が置かれることによって覆われる。
【0039】
銀イオン生成手段13は、給水管に接続され、電気分解によって銀イオン水を生成する。銀イオン生成手段13によって生成された銀イオン水は、吐出口11を通って便器20内の便器壁24に供給される。吐出口11と銀イオン生成手段13は、給水管によって連通されている。
【0040】
図2は、図1のII−II線の方向から見た便器の断面を示す断面図である。
【0041】
図2に示すように、便器20の開口部23の縁部23aの外周には吐出口11が複数設けられている。銀イオン生成手段13で生成された、銀イオンを付与された水である銀イオン水は、吐出口11を通って便器20の内側の便器壁24に満遍なく供給される。吐出口11の内側で開口部23の縁部23aの内周には光照射部12が設けられている。光照射部12は開口部23を取り囲むように、ひとつまたは複数個設置され、それぞれの光照射部12は配線によって制御部14に接続している。
【0042】
開口部23の縁部23aの外周に複数設けられた吐出口11は、給水管を通して開口部23の縁部23aの内部で互いに連通している。銀イオン生成手段13によって生成された銀イオン水は、給水管を通ってそれぞれの吐出口11に供給される。銀イオン生成手段13の電気的制御は制御部14で行う。
【0043】
図3は、本発明の第一の実施形態として、光照射部の全体を模式的に示す図である。
【0044】
図3に示すように、光照射部12は、主に可視光を含む光を照射する蛍光灯、白熱灯、発光ダイオード(LED)等からなる光源121を備える。光照射部12は、殺菌灯、紫外線(UV)ランプ等のように紫外域の光を主に含む光源、近紫外線を照射するブラックライト等のように近紫外域の光を主に含む光源、ハロゲンヒータ等のように赤外域の光を主に含む光源を含むように構成されてもよいが、蛍光灯、白熱灯、発光ダイオード(白色、青色、赤色、緑色などのLED)、可視光レーザー等のように可視光を主に含む光源を用いて構成されるのが好ましい。
【0045】
このように、可視光を含む光を照射することによって、殺菌作用をより向上させることができるとともに、紫外線照射に比べ物質の劣化、退色等の損傷を防止することができる。また、便器表面を殺菌することにより、尿を分解してアンモニア臭などの不快な臭いを発生させる細菌も殺菌されるので、尿を原因とする臭いを抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、光照射部12を複数使用しているが、光源121として光ファイバを用いてもよい。この場合、光ファイバを開口部23の縁部23aの裏側に沿って設置すると、光ファイバから放射される光が便器壁を隅々まで照らすことができる。
【0047】
図4は、本発明の第一の実施形態として、銀イオン生成手段の全体を模式的に示す図である。
【0048】
図4に示すように、銀イオン生成手段13は、給水管131と、給水管131に接続された銀イオン溶出ユニット132と、銀イオン溶出ユニット132と吐出口11との間を接続する給水経路133とから構成される。銀イオン溶出ユニット132の内部には、2枚の板状の銀電極134が所定の間隔をあけて配置されている。給水管131を通じて銀イオン溶出ユニット132の内部に水を供給し、一対の銀電極134間に電圧を印加することにより、銀イオン溶出ユニット132の内部に銀イオンが溶出する。銀イオン溶出ユニット132から溶出した銀イオンを含む水は、給水経路133内部を通って吐出口11から便器壁24に供給される。
【0049】
このように、電気分解によって銀イオンを生成することにより、所望の濃度の銀イオン水を生成することができるので、必要最小限の量の銀イオンで効率よく殺菌作用を得ることができる。
【0050】
便器殺菌装置100が銀イオン水生成手段13を備えることにより、外部において銀イオン水を準備する必要がなくなる。また、使用者が便器殺菌装置100に銀イオン水を供給することを忘れることもないため、手間をかけることなく、確実に銀イオンと光の相乗効果による殺菌作用を得ることができる。
【0051】
さらに、銀イオン生成手段13が給水経路133に配置されていることにより、便器20に水を流したときに、銀イオン水を便器20内に確実に供給することができる。
【0052】
なお、本実施形態では銀イオン溶出ユニット132においては銀電極134に電圧を印加することにより銀イオン水を生成しているが、銀イオン水の生成手段はこれに限らず、銀イオン溶出剤を使用してもよい。銀イオン溶出剤の具体例としては、金属イオンを担持しているゼオライト、シリカゲル、ガラス、りん酸カルシウム、りん酸ジルコニウム、ケイ酸塩、酸化チタン、ウィスカー、セラミックスなど、またはこれらの物質を含む樹脂や繊維などがある。これらの溶出剤は、水に浸漬することにより金属イオンが水中に徐放または溶解される構造を持つ物質である。
【0053】
以上のように、図1から図4に示す構成の便器殺菌装置100においては、吐出口11から銀イオン水が便器20内に供給された後、光照射部12が便器20内に光を照射する。
【0054】
このように、予め銀イオンが付与された部分に更に光を照射することによって、殺菌作用を向上させることができる。光によって銀イオンの殺菌効果を高めることができるので、少ない銀の使用量で所定の殺菌作用を得ることができて、殺菌効果が持続する。便器20内で銀イオンが付与された部分に光を照射することによって、効率よく殺菌作用を得ることができる。
【0055】
このようにすることにより、効率よく、より強力に持続的に便器内を殺菌することが可能な便器殺菌装置を提供することができる。また、便器内の殺菌により尿の主成分である尿素を分解する菌の繁殖を防ぐので、尿を原因とする臭いを抑制することができる。
【0056】
また、吐出口11と光照射部12を開口部23の縁部23aの内部に併設したことにより、便器20の他の部品が影になることなく便器壁24全体を光で照らすことが可能である。一般的に、開口部23の縁部23aは掃除が行き届きにくく、最も細菌が繁殖しやすい場所であるが、このようにすることにより、開口部23の縁部23aが光照射部12から最も近くなり、最も細菌の繁殖を抑制することができるようになる。このようにして、便器20内を確実に殺菌することができる。
【0057】
光照射部12の点灯および消灯は制御部14の制御によって自動的に行うが、吐出口11に銀イオン水が給水されたことを感知するセンサを吐出口11または便器壁24に設置し、制御部14がセンサからの信号を読み取って点灯してもよい。また、使用者が水を流す操作と連動させて制御部14が点灯させてもよい。消灯については、制御部14に設けられたマイクロコンピュータに、あらかじめ連続して光照射部12を点灯させる時間を設定しておき、この点灯時間が過ぎれば消灯するように設定しておく。
【0058】
光照射部12が光を照射するタイミングとしては、吐出口11から銀イオン水が便器壁24に供給されると同時でもよい。光の照射は一瞬ではなく、ある一定時間照射し続けることが好ましい。
【0059】
このように、便器20内に銀イオン水が付与されると同時に光を照射することにより、便器20に銀イオンが確実に付着している状態で光を照射することができるため、銀イオンと光の相乗効果による殺菌作用を確実に得ることができる。また、銀イオン水の供給と光照射部12の光源121の点灯とを連携させておくと、便器20内への銀イオン水の付与と同時に、光源121を確実に点灯させることができる。
【0060】
また、便器20がしばらく使用されない場合は、光照射部12から一定の時間間隔で光を照射してもよい。銀イオンの殺菌効果は水中でこそ発揮されるものであるが、便器20がしばらく使用されないときは、便器壁24の表面は乾燥してしまうため、銀イオンのみでは十分な抗菌効果を得ることができなくなる。しかし、乾燥した状態であっても銀イオンが付着している部分に光が照射されれば、十分な抗菌効果を発揮させることができる。
【0061】
このようにすることにより、便器20がしばらく使用されない場合でも、乾燥した状態であっても銀イオンが付着している部分に光が照射されれば、十分な抗菌効果を発揮することができる。
【0062】
<第二の実施形態>
続いて、本発明の第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、第一の実施形態と比較すると、光照射部12の設置位置が異なる。その他の部分は第一の実施形態と同様である。
【0063】
図5は、この発明の第二の実施形態として、便蓋を開口部側から見た図である。
【0064】
図5に示すように、便蓋21には光照射部12が設置されており、光照射部12は制御部14に接続されている。光照射部12は制御部14が制御することによって、吐出口11から便器20内に銀イオン水が供給されると自動的に点灯および消灯する。
【0065】
便蓋21が閉じられて、便器20の開口部23が便蓋21によって覆われると、光照射部12から発射される光は便器壁24に照射される。このようにして、便器壁24に高い抗菌効果を付与する。
【0066】
便器20は便蓋21と便座22の内側に位置するため、便蓋21に配置された光照射部12によって、便器20内に光を照射しやすくなる。また、このように便蓋21に光照射部12を設置することにより、使用者は光源121の交換を容易に行うことができるので、光照射部12が消耗した場合に、使用者は容易に光照射部12を取り替えることができる。そのため、光源121の交換が必要な状態のままで放置されることがなくなる。このようにして、常に銀イオンと光による高い抗菌効果を便器壁24に付与することができる。
【0067】
<第三の実施形態>
続いて、本発明の第三の実施形態について説明する。第三の実施形態は、第一の実施形態と比較すると、光照射部12の設置位置が異なる。その他の部分は第一の実施形態と同様である。
【0068】
図6は、この発明の第三の実施形態として、便座を開口部側から見た図である。
【0069】
図6に示すように、開口部23の周囲には光照射部12が設置されており、光照射部12は制御部14に接続されている。光照射部12は制御部14の制御により、吐出口11から便器20内に銀イオン水が供給されると自動的に点灯および消灯する。
【0070】
便座22が便器20上に下ろされると、便座22の下面に配置された光照射部12が便器20内部を向く。この状態で光照射部12が点灯すると、光照射部12が発射する光は便器壁24に照射され、便器壁24に高い抗菌効果を付与する。
【0071】
便器20は便蓋21と便座22の内側に位置するため、便座22に配置された光照射部12によって、便器20内に光を照射しやすくなる。また、このように便座22に光照射部12を設置することにより、使用者は光源121の交換を容易に行うことができるので、光照射部12が消耗した場合に、使用者は容易に光照射部12を取り替えることができる。そのため、光源121の交換が必要な状態のままで放置されることがなくなる。このようにして、常に銀イオンと光による高い抗菌効果を便器壁24に付与することができる。
【実施例】
【0072】
本発明者は、さまざまな局面から銀イオンを利用したさらに効果的な殺菌方法に関して鋭意研究を重ねた。その結果、銀イオンが付与された物質に、さらに光を照射することによって殺菌作用を向上させることができることを見出した。本発明にて得られる効果について、実験データを下に説明する。
【0073】
本発明の殺菌装置の殺菌効果を確認するために、殺菌対象の便器を構成する物質の一例としてポリエステルを用いて、銀イオンをポリエステルに付着させた後に、各種の光を照射することによって殺菌効果の有無を調べた。
【0074】
具体的には、銀イオンを付着させた試料に光を照射した後の抗菌効果の試験を行った。
【0075】
この試験に用いた試料は、便器を構成する物質の一例として、平板状のポリエステルに銀イオン水を付着させ、乾燥させたものである。銀イオン水は、八尾市の水道水を用いて、銀電極から電解によって水中に銀イオンを溶出することによって作製した。
【0076】
光照射条件を、白色蛍光灯、ブラックライト、光照射なしの3条件とし、試料の表面への銀付着量を0(銀イオン水の付着処理なし)、5、10、20ng/cmとした。抗菌試験は、抗菌製品技術協議会の光照射フィルム密着法にて行った。この方法は、試料に約1.0×10CFUの菌を含む菌液を付着させ、照射時間として24時間経過した後の菌数を測定する方法である。菌としては、黄色ブドウ球菌を用いた。白色蛍光灯は、20Wのものを使用し、サンプル付近の明るさ(照度)が5000ルクスとなる距離にサンプルを置いた。ブラックライトも同様に20Wのものを使用し、光源とサンプルの距離は、白色蛍光灯でサンプル付近の明るさ(照度)が5000ルクスとなった位置と同じ距離にした。
【0077】
その結果を表1と図7に示す。表1は、各光照射条件と銀付着量毎の試験後の菌数(単位:CFU)との関係を示す。図7は、試料への銀付着量と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。なお、グラフは、菌数の測定値が下限値(10CFU)以下の時の菌数を10CFUとみなして作図している。
【0078】
【表1】

【0079】
表1と図7に示すように、光を照射しなくても、銀付着量が20ng/cmであれば、十分な殺菌作用が認められた。この試料では、表面に銀イオン水の蒸発残留物が付着し、それが菌液を滴下した時に再度溶解し、銀イオンによる殺菌作用が発揮されたと考えられる。
【0080】
また、光を照射することによって、殺菌作用が向上していることがわかる。銀付着量が10ng/cmの試料では、ブラックライト、白色蛍光灯の照射で殺菌作用が向上しているが、銀付着量が5ng/cmのような銀付着量が少ない条件では、主に可視光を含む白色蛍光灯を照射する方が、主に近紫外光を含むブラックライトを照射するよりも殺菌作用が向上することが認められた。
【0081】
本試験方法では、前述のように乾燥したサンプルに菌液という形で水を加えて評価している。そのため、表面に付着した銀イオン水の蒸発残留物が、溶解して銀イオンとなり、その銀イオンに光が照射されることにより、殺菌作用が向上したものと考えられる。
【0082】
基本的には、完全に乾燥した条件(たとえば水分活性が0.5以下となるような条件)では菌は死滅する。しかし、一般環境中においては、そこまで乾燥されることはない。
【0083】
例えば十分に乾燥した便器であっても、表面に水分を含んでいる。そのため、特に湿潤な環境でなくても、一般環境中では至る所に菌が生息している。特に低温で乾燥したものであれば、このような形で含まれる水分はより大きい。
【0084】
従って、乾燥したサンプルにおける殺菌作用の評価方法として、水を加えることは、JIS Z2801、JIS L1902などでも行われている一般的な方法であり、不適切な方法ではない。
【0085】
また、本発明において乾燥した物が殺菌の対象であっても、菌が生存できる環境であれば、水分が存在するため、本試験で確認された効果も発揮される。菌が生存できない程度に完全に乾燥した環境であれば殺菌する必要はなく、問題ない。
【0086】
また、このような殺菌作用は、乾燥させずに銀イオン水が付着したままの試料に光を照射しても、銀イオン水には、今回の試験条件と同様に銀イオンが含まれているので、同様の殺菌作用の向上が得られると考えられる。したがって、銀イオン水の状態に光を照射しても殺菌作用を向上させることができ、たとえば、便器壁に銀イオン水が流れている状態であっても殺菌作用を向上させることができる。
【0087】
また、上記の試験にて、銀付着量が5ng/cmの試料に、主に可視光を含む白色蛍光灯を照射し、その照度(ルクス)を変化させた場合において試験後の菌数(単位:CFU)の変化を調べた。その結果を図8に示す。図8は、白色蛍光灯の照度と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【0088】
図8に示すように、光照射なしのときの菌数は8.0×10CFUであるのに対して、照度が1000ルクスのときの菌数は3.20×10CFUであり、照度が5000ルクスのときの菌数は10CFU以下程度であった。このように、光の強度(照度)によって本発明による殺菌作用に変化が認められた。銀イオンを付着させた物質に少なくとも所定の照度以上で光を照射することにより、殺菌作用をより向上させることができることがわかる。
【0089】
また、図8から読み取ると、光照射なしに対して菌数が2桁減少するのは1900ルクス付近であった。今回実施した光照射フィルム密着法では、抗菌効果の有無の判定を菌数が2桁減少しているか否かで判定する。また、菌数が2桁減少するというのは、JIS Z2801やJIS L1902などでも用いられており、一般的な抗菌効果の判断基準である。従って、殺菌作用を向上させるという観点から、所定の照度以上で光を照射するのが望ましいが、照射対象の位置での照度が1900ルクス以上であれば、より望ましい。
【0090】
さらに、上記の試験にて、銀付着量が5ng/cmの試料に、主に可視光を含む白色蛍光灯を照度5000ルクスで照射し、その照射時間を変化させた場合(銀あり光あり)において試験後の菌数(単位:CFU)の経時変化を調べた。比較として、銀付着量が5ng/cmの試料に光を照射しない状態で時間を経過させたもの(銀あり光なし)、銀イオンを付着させないで白色蛍光灯を照度5000ルクスで照射し、その照射時間を変化させたもの(銀なし光あり)、銀イオンを付着させないで光も照射しない状態で時間を経過させたもの(銀なし光なし)についても、菌数の経時変化を調べた。その結果を図9に示す。図9は、経過時間と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【0091】
図9に示すように、銀付着量が5ng/cmの試料に、主に可視光を含む白色蛍光灯を照度5000ルクスで照射し、その照射時間を変化させた場合(銀あり光あり)、非常に短時間の照射時間(1時間)で菌数が減少していることがわかる。したがって、人が頻繁に使用するトイレでは、延べ照射時間が1時間に到達すれば問題ないし、しばらく使用されないときは、一定時間置きに照射して延べ照射時間が1時間以上になるようにすればよい。
【0092】
さらにまた、上記の試験にて、試料に付着される銀イオンの生成方法を異ならせた場合において試験後の菌数(単位:CFU)を調べた。銀イオンの生成方法としては、上記の試験と同様に、水道水に浸漬した銀電極から電解(電気分解)によって水中に銀イオンを溶出することによって得られた銀イオン水(電解銀イオン水)を使用して作製した試料と、試薬の塩化銀(AgCl)を水に溶かして得られた銀イオン水(AgCl水溶液)を使用して作製した試料と、試薬の塩化銀(AgO)を水に溶かして得られた銀イオン水(AgO水溶液)を使用して作製した試料とを用いた。各試料の銀付着量を5ng/cmとした。各試料に、主に可視光を含む白色蛍光灯を照度5000ルクスで照射し、照射時間として24時間経過した後の菌数を調べた。比較として、各試料に光を照射しない状態で24時間経過した後の菌数も調べた。その結果を図10に示す。図10は、付着される銀イオンの生成方法の種類と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【0093】
図10に示すように、電解銀イオン水を使用して銀イオンを付着させた試料では、AgCl水溶液、AgO水溶液を使用して銀イオン水を付着させた試料に比べて、光照射後の菌数の減少の度合いが大きく、光照射後に最も菌数が減少していることがわかる。
【0094】
以上、本発明について、第一〜第三の実施形態と実施例とを用いて説明してきたが、上記の実施の形態と実施例に記載の構成は一例に過ぎず、便器の具体的な構成、光照照射部および銀イオン付与機構の具体的な形状や構成、取り付け位置などについても、すべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。
【0095】
また、本発明の実施形態においては、便器殺菌装置は便器と便蓋と便座とを含むものとしたが、便器殺菌装置は、便器と便蓋と便座の少なくともいずれか一つを備えていてもよく、便器と便蓋と便座のいずれも備えていなくてもよい。
【0096】
さらに、本発明の実施形態においては、便器殺菌装置は銀イオン生成手段を備えているが、外部から銀イオンを供給できるようにして、銀イオン生成手段を備えていなくてもよい。
【0097】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第一の実施形態として、便器殺菌装置を備えるトイレの全体構成を示す垂直断面図である。
【図2】図1のII−II線の方向から見た便器の断面を示す断面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態として、光照射部の全体を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態として、銀イオン生成手段の全体を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第二の実施形態として、便蓋を開口部側から見た図である。
【図6】本発明の第三の実施形態として、便座を開口部側から見た図である。
【図7】試料への銀付着量と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【図8】白色蛍光灯の照度と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【図9】経過時間と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【図10】付着される銀イオンの生成方法の種類と試料に存在する菌数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0099】
11:吐出口、12:光照射部、13:銀イオン生成手段、20:便器、21:便蓋、22:便座、23:開口部、100:便器殺菌装置、133:給水経路。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを付与された水が便器内に吐出される吐出口と、
前記吐出口から銀イオンを含む水が吐出された便器内に光を照射する光照射部とを備える、便器殺菌装置。
【請求項2】
前記吐出口から銀イオンを含む水が便器内に吐出されると同時に、前記光照射部が所定時間、便器内に光を照射することができるように構成されている、請求項1に記載の便器殺菌装置。
【請求項3】
前記光照射部が、所定の時間間隔で便器内に光を照射するように構成されている、請求項1または請求項2に記載の便器殺菌装置。
【請求項4】
前記光照射手段が照射する光は可視光を含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。
【請求項5】
銀イオンを生成する銀イオン生成手段を備える、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。
【請求項6】
前記光照射部が前記吐出口に配置されている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。
【請求項7】
便器の開口部を上から覆う便蓋と、便器の上に配置されて使用者が座るための便座とを備え、前記光照射部は、前記便蓋または前記便座の少なくとも一方に配置されている、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。
【請求項8】
前記吐出口に水を供給する給水経路を備え、前記銀イオン生成手段は、前記給水経路に配置されている、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。
【請求項9】
前記銀イオン生成手段は、電気分解によって銀イオンを生成する、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。
【請求項10】
便器をさらに備える、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の便器殺菌装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−63781(P2008−63781A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241212(P2006−241212)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】