説明

便器洗浄水タンク装置

【課題】便器への洗浄水供給量を、予め設定された量よりも簡単に増量させることのできない便器洗浄水タンク装置を提供すること。
【解決手段】便器へ供給するための洗浄水を貯留するとともに、前記便器と連通する排水口を底部に設けた洗浄水タンクと、前記排水口を開閉する排水弁と、この排水弁を引き上げ操作する操作部と、この操作部と前記排水弁とを連結する連結部材と、この連結部材を挿通した状態で当該連結部材上に取付けられるとともに、前記洗浄水に没した状態で前記排水弁を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロートと、を備えた便器洗浄水タンク装置において、前記連結部材に、当該連結部材上における前記フロートの移動範囲を規制する上側留部と下側留部とを設け、少なくとも前記下側留部は、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材から取り外すことができない下側不可逆留具を備えること構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水に没した状態で排水弁を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロートを具備する便器洗浄水タンク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便器へ供給するための洗浄水を貯留する洗浄水タンクと、この洗浄水タンクの底部に設けられ、前記便器と連通する洗浄水供給路に連通する排水口と、この排水口を開閉する排水弁と、この排水弁を引き上げ操作する操作部と、この操作部と前記排水弁とを連結する連結部材と、この連結部材を挿通した状態で当該連結部材上に取付けられるとともに、前記洗浄水に没した状態で前記排水弁を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロートとを備えた便器洗浄水タンク装置がある。
【0003】
かかる構成により、前記操作部を操作して前記排水弁を引き上げて排水口を開口すると、洗浄水が便器へ供給され、便器のボウル部内の汚物などを排出することができる。
【0004】
この種の便器洗浄水タンク装置において、前記排水弁から所定距離をおいて洗浄水中で浮遊している前記フロートの取付け位置を変更し、このフロートと前記排水弁との距離を調整することにより、洗浄水から便器への供給量を任意に調整可能としたものがあった(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】実開昭62−35081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の便器洗浄水タンク装置は、フロートの位置を誰でも簡単に変更可能となっているため、例えば、フロートを下方位置へ下げてしまうと、洗浄水の供給量が必要以上に増加して洗浄水を無駄に流してしまうことになる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決することのできる便器洗浄水タンク装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するため、本発明では、便器へ供給するための洗浄水を貯留するとともに、前記便器と連通する排水口を底部に設けた洗浄水タンクと、前記排水口を開閉する排水弁と、この排水弁を引き上げ操作する操作部と、この操作部と前記排水弁とを連結する連結部材と、前記連結部材を挿通した状態で当該連結部材上に取付けられるとともに、前記洗浄水に没した状態で前記排水弁を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロートと、を備えた便器洗浄水タンク装置において、前記連結部材に、当該連結部材上における前記フロートの移動範囲を規制する上側留部と下側留部とを設け、少なくとも前記下側留部は、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材から取り外すことができない下側不可逆留具を備えることとした。
【0008】
(2)本発明は、上記(1)記載の便器洗浄水タンク装置において、前記上側留部は、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材から取り外すことができない上側不可逆留具及び/又は前記連結部材に対して着脱自在に取付けることにより前記フロートの移動範囲を変更可能とした物理的な可逆性を有する上側可逆留具からなることを特徴とする。
【0009】
(3)本発明は、上記(2)記載の便器洗浄水タンク装置において、前記上側留部は、前記上側不可逆留具及び前記上側可逆留具からなり、前記上側不可逆留具を前記フロートに対して離隔して配設し、この上側不可逆留具と前記フロートとの間に、前記上側可逆留具を取付けることを特徴とする。
【0010】
(4)本発明は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の便器洗浄水タンク装置において、前記下側留部は、前記下側不可逆留具と、前記連結部材に対して着脱自在に取付けることにより前記フロートの移動範囲を変更可能とした物理的な可逆性を有する下側可逆留具とからなり、前記下側不可逆留具を前記フロートに対して離隔して配設するとともに、この下側不可逆留具と前記フロートとの間に、前記下側可逆留具を取付けたことを特徴とする。
【0011】
(5)本発明は、上記(1)又は(2)に記載の便器洗浄水タンク装置において、前記フロートの中央部に、前記連結部材を挿通する凹部を形成し、この凹部内に前記下側不可逆留具及び/又は上側不可逆留具を収納配設したことを特徴とする。
【0012】
(6)本発明は、上記(5)記載の便器洗浄水タンク装置において、前記凹部内に前記下側不可逆留具のみを配設し、当該下側不可逆留具よりも大径に形成した上側可逆留具を、前記フロートの上面に当接するように取付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連結部材に、当該連結部材上におけるフロートの移動範囲を規制する上側留部と下側留部とを設け、少なくとも前記下側留部は、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材から取り外すことができない下側不可逆留具を備える構成としたため、例えば使用者などが勝手にフロートの位置を下げて、便器に応じて適切に設定された洗浄水の供給量を増加させることができなくなり、洗浄水を無駄に流してしまうことを未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を、いくつかの実施形態を通し、図面を参照しながら説明する。図1は便器洗浄水タンク装置の説明図、図2は同便器洗浄水タンク装置におけるフロートの配設状態を示す概略説明図である。なお、以下の各実施形態では、同一構成要素については同一符号を付して説明する。
【0015】
図1に示すように、便器洗浄水タンク装置1は、便器2上に設置されており、便器へ供給するための洗浄水3を貯留するとともに、前記便器2と連通する排水口12を底部に設けた洗浄水タンク10と、前記排水口12を開閉する排水弁13と、この排水弁13を引き上げ操作する操作部14と、この操作部14と前記排水弁13とを連結する連結部材15と、この連結部材15を挿通した状態で当該連結部材15上に取付けられるとともに、前記洗浄水3に没した状態で前記排水弁13を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロート16と、を備えている。11は便器2のボウル部(図示せず)と排水口12とを連通連結した洗浄水供給路である。
【0016】
また、17はオーバーフロー管であり、このオーバーフロー管17の基端部に排水弁13は枢支連結されており、操作部14を回動操作すると、これに連動して連結部材15が引き上げられ、この連結部材15の先端に連結された排水弁13が枢支部13aを中心に上方へ回動して排水口12を開放し、便器2のボウル部(図示せず)内に洗浄水3が供給される。
【0017】
なお、フロート16は、洗浄水3の中に没した状態で浮力を発揮し、この浮力は連結部材15を介して排水弁13に作用する。このフロート16が排水弁13に対して作用する浮力は、洗浄水タンク10内の水位が満水時の水位FWLにあるときに、洗浄水3がその水圧に基づいて排水弁13を加圧する力よりも小さくなるように設定されている。したがって、満水時における排水弁13は、フロート16の浮力が作用していても排水口12に対して閉弁状態を維持することができる。
【0018】
排水弁13が開いて排水口12が開放されると、洗浄水3が便器2に供給される。そして、洗浄水タンク10内の水位が低下してフロート16の止水線DWLに達すると、フロート16の浮力が減殺され、排水弁13が自重及び排水口12からの吸引力によって自動的に閉弁され、便器2への洗浄水3の供給が停止する。したがって、便器2に供給する水量は、洗浄水タンク10における満水時の水位FWLからフロート16の止水線DWLまでの量に規定されることになる。
【0019】
(第1の実施形態)
かかる構成において、第1の実施形態に係る便器洗浄水タンク装置1は、図2に示すように、玉鎖からなる連結部材15に、当該連結部材15上における前記フロート16の移動範囲を規制する上側留部4と下側留部5とを設けており、少なくとも前記下側留部5は、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材15から取り外すことができない下側不可逆留具50を備える構成としている。
【0020】
本実施形態では、下側留部5が下側不可逆留具50を備えていればよく、上側留部4については如何なる留具を用いても構わない。
【0021】
例えば上側留部4としては、前記下側不可逆留具50と同じ部材からなり、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り連結部材15から取り外すことができない上側不可逆留具40、あるいは連結部材15に対して着脱自在に取付けることによりフロート16の移動範囲を変更可能とした物理的な可逆性を有する上側可逆留具41のいずれかを備えた構成でもよいし、上側不可逆留具40と上側可逆留具41の両方を備えた構成であってもよい。
【0022】
ここで、「物理的不可逆性を有する」とは、外部から手を加えて変形させた場合、容易には元の状態に再び戻れない性質を指し、下側不可逆留具50は、例えば、切断したり溶解したり、塑性変形させるなどして破壊しない限り連結部材15からは外せない留具である。
すなわち、ここで「破壊」とは、切断や溶解などにを加え、可塑性を有する材料に力を加えて塑性変形させて連結部材15から取り外せるようにしたものも含む概念である。
したがって、例えば可塑性を有する材料で下側不可逆留具50を形成し、これ塑性変形させて連結部材15から取り外すことは可能である。
しかし、一旦塑性変形させて連結部材15から取り外した場合、元の形状に戻すように力を加えて変形させて再度留具として再利用したとしても、外される前の状態と全く同じ状態に再現されることはないため、再利用することは望ましくない。
なお、下側不可逆留具50や上側不可逆留具40の形態としては特に限定されるものではないが、フロート16の浮きとしての機能を損なわないように可及的に軽量であることが望ましい。
【0023】
一方、上側可逆留具41とは、前述した下側不可逆留具50や上側不可逆留具40に対し、連結部材15に対して容易に着脱可能であり、取り外した後も再度使用することが可能な留具である。また、下側不可逆留具50や上側不可逆留具40と同様に、その形態などは何ら限定されるものではない。そして、この場合も、下側不可逆留具50や上側不可逆留具40の場合と同様の理由で可及的に軽量であることが望ましい。
【0024】
このように、少なくとも下側留部5が前述した下側不可逆留具50を備える構成とすれば、フロート16は、連結部材15上を下側不可逆留具50の位置よりも下方へ移動することを完全に禁止された状態となる。
したがって、下側不可逆留具50を破壊しない限りフロート16をこれ以上下方へ移動させることができない。つまり、フロート16の止水線DWLを下げることができないため、洗浄水3の便器2への供給量が設定された量以上に変更することはできず、洗浄水3を便器2に無駄に流してしまうおそれがない。
【0025】
例えば、一回の洗浄につき、洗浄水3の使用量を5リットル未満に設定した節水タイプの便器2を市場に投入した場合、従来であれば、使用者や設置業者などによって、フロート16の位置を適宜下げて5リットル以上の洗浄水3を便器2に流すことも可能であったが、本実施形態によれば、下側不可逆留具50を用いたことにより、5リットル以上の洗浄水3を使用できるように簡単に改造されたりするおそれがなくなる。
【0026】
かかる構成の一例として、例えば、図2(a)に示すように、フロート16の上面及び下面に当接するように上側留部4と下側留部5とを設けることができる。
この例によれば、フロート16は連結部材15への取付位置が一点に規定されることになるため、フロート16は上下へ移動することなく、洗浄水3中の挙動も安定する。したがって、操作部14を操作した際に、フロート16が踊るようなことがなく、当該フロート16と連結部材15とが絡まったりするような不具合を防止することができる。
【0027】
また、この例では、下側留部5は下側不可逆留具50で構成しているが、上側留部4は上側可逆留具41で構成している。この例においては、下側不可逆留具50は、連結部材15に対して溶着して固定しており、切断して破壊しないと連結部材15からは取り外せないようにしている。一方、上側可逆留具41は、連結部材15を挿通するための挿通部から半径方向にスリット状の切欠部を形成し、この切欠部を通して、工具などを用いることなく連結部材15に対して着脱自在としている。
したがって、例えば、図2(b)に示すように、これを取り外して上方側へ位置変更することが可能である。
すなわち、この図2(b)に示す例によれば、予め定めた規定量を超えて洗浄水3を便器2へ流すことはできないが、規定量以下であれば洗浄水3の供給量を任意に再設定することが可能である。
【0028】
また、本実施形態は、図2(c),(d)に示すような形態に変形することもできる。
【0029】
これらは、下側留部5が下側不可逆留具50を備え、上側留部4も上側不可逆留具40を備えた構成としたものである。
【0030】
図2(c)に示す例は、上側留部4及び下側留部5が共に物理的な不可逆性を有する部材からなる上側不可逆留具40及び下側不可逆留具50から構成し、しかも、上側不可逆留具40をフロート16の上面に、下側不可逆留具50をフロート16の下面に当接させている。
【0031】
したがって、この例によれば、フロート16は連結部材15への取付位置が一点に固定されることになり、便器2へ流す洗浄水3の供給量は、予め設定された量に固定されることになる。すなわち、フロート16を上方へ移動させて、DWLを上げるような調整も禁じられているため、便器2への洗浄水の供給量が少なすぎて、洗浄不良を起こすおそれがない。また、図2(a)で示した例と同様にフロート16は上下へ移動することなく、洗浄水3中の挙動は安定したものとなり、操作部14を操作した際にも、フロート16が踊ってしまい、連結部材15と絡まったりすることがない。
【0032】
図2(d)に示す例も、上側留部4が上側不可逆留具40、下側留部5が下側不可逆留具50から構成されている。
すなわち、図2(e)に示すように、上側不可逆留具40と下側不可逆留具50との間隔Lをフロート16の高さHよりも大きくして、フロート16をある程度移動可能とするとともに、ここでは、上側不可逆留具40に加えて、前述した上側可逆留具41を用いて、フロート16を間隔Lの間の適宜位置に保持している。
したがって、この例によれば、洗浄水3の便器2への供給量は、設定された供給量を超えたり、かつ洗浄不良を起こすほどに供給量を減じたりするような調整が禁じられ、洗浄性能を維持できる範囲の上限及び下限が規定されることになり、かかる範囲内であれば、供給量の設定は任意に行えることになる。
【0033】
このように、図2(d)に示した例は、上側留部4は上側不可逆留具40及び上側可逆留具41からなり、上側不可逆留具40をフロート16に対して離隔して配設し、この上側不可逆留具40とフロート16との間に、上側可逆留具41を取付けた構成となっており、上側不可逆留具40に加えて上側可逆留具41をさらに用いることで、使用者は、洗浄性能を維持できる範囲内で、供給量の設定を自由に行うことが可能となる。
【0034】
また、図3に示すように、本実施形態の一例として、前記上側留部4が上側不可逆留具40及び上側可逆留具41からなり、上側不可逆留具40をフロート16に対して離隔して配設し、この上側不可逆留具40とフロート16との間に、上側可逆留具41を取付けるとともに、前記下側留部につても下側不可逆留具50と、連結部材15に対して着脱自在に取付けることによりフロート16の移動範囲を変更可能とした物理的な可逆性を有する下側可逆留具51とからなり、下側不可逆留具50をフロート16に対して離隔して配設するとともに、この下側不可逆留具50とフロート16との間に、下側可逆留具51を取付けた構成とすることもできる。
【0035】
かかる構成では、フロート16の止水線DWLが所定範囲(上側不可逆留具40と下側不可逆留具50との間隔L)内から逸脱することがないことから、洗浄水3の便器2への供給量の上限と下限が規制されることになる。つまり、洗浄水3の便器2への供給量を、洗浄性能を維持できる範囲において使用者が自由に設定可能となる。しかも、フロート16の上面及び下面に当接するように上側可逆留具41と下側可逆留具51が取付けられているため、フロート16が上下への移動する自由度が殆ど無く、図2(a),(c)で示した例と同様に、洗浄水3中でフロート16の挙動が安定し、やはり、フロート16が踊るような不安定な挙動をなすことがなく、操作部14を操作した際に、フロート16と連結部材15とが絡まったりするような不具合を防止することができる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る便器洗浄水タンク装置の第2の実施形態について、図4を参照して説明する。
【0037】
図4は第2の実施形態に係る便器洗浄水タンク装置におけるフロートの配設状態を示す概略説明図であり、先の第1の実施形態においても同様であったが、本実施形態に係るフロート16は、その中央部に、連結部材15を挿通する凹部としての中央孔部16aを形成した構成としている。
【0038】
そして、本実施形態において先の実施形態と異なるのは、かかる中央孔部16a内に下側不可逆留具50及び/又は上側不可逆留具40を収納配設した点にある。
【0039】
すなわち、図4に示すように、フロート16は、連結部材15を挿通する挿通孔16cを形成した円板部16dと、この円板部16dの周囲に一体的に連接された浮き輪状の円環部からなるフロート本体16bとから構成されており、円板部16dが位置するフロート本体16bの内側壁から形成される中央孔部16a内に、当該中央孔部16a径よりは小さく、前記挿通孔16cよりは大径とした下側不可逆留具50や上側不可逆留具40を配置している。
【0040】
また、図4に示した例では、下側不可逆留具50や上側不可逆留具40を中央孔部16a内に収容しない場合でも、フロート16の上面あるいは下面に当接状態に取付けているため、フロート16は、連結部材15への取付位置が一点に規定されることになり、フロート16は上下へ移動することがない。したがって、操作部14を操作した際に、フロート16が踊るようなことがないため、当該フロート16と連結部材15とが絡まったりするような不具合を防止することができる、しかも、中央孔部16a内に収納配設された留具は外部から手が加えられ難い状態にあるため、上側不可逆留具40にしても下側不可逆留具50にしても破壊することさえ難しくなり、フロート16の配置変更が極めて困難にすることができる。
【0041】
図4(a)は、上側不可逆留具40及び下側不可逆留具50を、共に中央孔部16a内に収納した例を示し、図4(b)は、下側不可逆留具50のみを中央孔部16a内に収納した例を示している。これらの例では、少なくとも下側不可逆留具50が中央孔部16a内に収容された状態であるため、フロート16を現在の位置から下方へ移設することは極めて困難であり、予め規定された洗浄水3の便器2への供給量を増加することができなくなっている。
【0042】
一方、図4(c)は、上側不可逆留具40のみを中央孔部16a内に収納した例を示している。この場合も下側留部5は下側不可逆留具50から構成されているため、これを破壊しなければフロート16の下方への移設は不可となっているが、上側不可逆留具40は中央孔部16a内に収納配設されているため、フロート16を現在の位置から上方へ移設することは極めて困難となっており、予め規定された洗浄水3の便器2への供給量を減じることはできない。
【0043】
ところで、図4に示した各例では、中央孔部16a内に収納していない留具であっても物理的な不可逆性を有する留具(上側不可逆留具40又は下側不可逆留具50)としたが、中央孔部16a内に収納していない留具については可逆性を有する留具とすることもできる。
【0044】
かかる実施形態の一例として、前記中央孔部16a内に下側不可逆留具50のみを配設し、当該下側不可逆留具50よりも大径に形成した上側可逆留具41を、フロート16の上面に当接するように取付けた場合について、図5〜図7を参照しながら、より具体的に説明する。
【0045】
図5は便器洗浄水タンク装置1における洗浄水タンク10の縦断面視による説明図、図6は便器洗浄水タンク装置1の要部となるフロート16の取付構造を示す縦断面視による説明図、図7は同フロート16の取付構造の斜視図である。なお、洗浄水タンク10及びフロート16については、図1で説明した構成と基本的に同じであるため、図1で説明した構成要素と同一のものについては同一符号を付してある。
【0046】
図5に示す洗浄水タンク10は、上部開口を蓋体10bで覆蓋された箱型に形成されており、ここでは、便器2(図1参照)への洗浄水3の供給量を5リットルに設定してある。
【0047】
また、この洗浄水タンク10は、タンク本体内に水を供給する給水装置6と、洗浄水タンク10内に蓄えられた水を便器に向けて排出して供給する供給装置7とを備えている。そして、この洗浄水タンク10は、給水装置6により、給水源(図示せず)から供給された水を貯留するとともに、供給装置7により、貯留した水の5リットルを洗浄水として便器2に供給することができる。
【0048】
給水装置6は、洗浄水タンク10内の左側方に立設され、下端を給水源と接続した給水管60と、洗浄水タンク10へ向けた吐水/止水が切替えられるように給水管60の上端に設けた給水バルブ61と、洗浄水タンク10内の水位の変動に応じた上下動によって給水バルブ61の吐水/止水の切替え作動を行うフロート部62とを備えている。
【0049】
供給装置7は、排水口12を開閉する排水弁13と、この排水弁13を外部操作により引き上げて開閉する操作部14と、この操作部14と前記排水弁13とを連結する連結部材15と、この連結部材15を挿通した状態で当該連結部材15上に取付けられるとともに、前記洗浄水3に没した状態で前記排水弁13を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロート16とから構成されている(図1参照)。
【0050】
操作部14となる操作レバー14aには、回転軸71の一端が連結され、他端は洗浄水タンク10内を略水平に伸延している。すなわち、回転軸71を操作レバー14aの操作により回転自在となすとともに、回転軸71の他端から環状部材15aを複数個連結したチェーン体からなる連結部材15を垂下して、操作レバー14aの操作により、連結部材15の下端に接続した排水弁13を引き上げて、排水口12を開放可能としている。
【0051】
なお、ここでは、連結部材15としては玉鎖ではなく、複数の環状部材15aを数珠状に連結したチェーン体を用いているが、連結部材15としてはこれらに限定するものではなく、紐状のものであればよい。また、材質としても特に限定されず、軽量で耐水性に富むものとしておけばより好ましい。
【0052】
なお、図5において、12aは排水ガイド筒であり、洗浄水タンク10の底部10aの中央に設けた排水口12の内周面に嵌着し、洗浄水タンク10の内部に上端を、外部に下端を突出させ、洗浄水3の排水案内をするとともに、排水ガイド筒12aの上端面が排水弁13の開閉作用を受ける弁座の機能を果している。
【0053】
かかる構成において、先に、図1を参照して説明したように、排水弁13の上方に所定距離を保持してフロート16を取付けている。
そして、このフロート16の連結部材15への取付構造は、図6及び図7に示すように、中央孔部16a内に下側不可逆留具50のみを配設し、当該下側不可逆留具50よりも大径に形成した上側可逆留具41を、フロート16の上面に当接するように取付けている。
【0054】
ここで、本実施形態における下側不可逆留具50と上側可逆留具41との具体的な構成について説明する。
先ず、フロート16の中央孔部16a内に収納配設される下側不可逆留具50について説明すると、この下側不可逆留具50は、図6及び図7に示すように、一端結束すると、切断しない限り結束を解くことのできない結束バンド(所謂「インシュロック(商品名)」を利用して形成している。
【0055】
すなわち、結束バンドにおける所定長さのバンド部50aの先端を連結部材15の環状部材15aの環内に通してロック部50bに挿通し、バンド部50aを十分に引き締めた後、ロック部50bから突出した部分を切り落としたものである。
【0056】
かかる結束バンドを用いることで、極めて容易に下側不可逆留具50を形成することが可能であるが、かかる結束バンドを利用するために、連結部材15を構成するチェーン体の環状部材15aの幅は、フロート16の円板部16dに形成した挿通孔16cに応じて設定している。すなわち、挿通孔16cに挿通するには支障がなく、下側不可逆留具50を取付けた場合は、当該下側不可逆留具50が挿通孔16cからは決して抜けることのない幅としている。
【0057】
一方、フロート16の上面に当接するように取付けられた上側可逆留具41は、図6及び図7に示すように、フロート16が連結部材15に沿って上方へ移動することのないように、係止部材としての機能を備えていればよく、円板状に形成した留具本体41aの周縁の一部から、中央に向けてスリット状の切欠部41bを形成し、この切欠部41bから連結部材15の環状部材15aを出し入れ可能としている。41cは留具本体41aの中央に上方へ突設した横断面視略U字状の係止部であり、この係止部41c内において連結部材15の環状部材15aが挟持される。
【0058】
図8は下側不可逆留具50のその他の具体例を示す説明図である。以下、図8を参照して、上述した結束バンド以外の他の構成からなる下側不可逆留具50の具体例について説明する。
【0059】
図8(a)に示した例では、下側不可逆留具50として、例えばアルミ製の筒体50cをかしめたものを用いている。50dはかしめ部である。
すなわち、下側不可逆留具50は、筒体50c内に連結部材15を挿通し、その中央をかしめることにより、交互に略90度向きを変えて互いに連結されている環状部材15aの一つをかしめ部50dによって挟持した状態に取付けている。したがって、下側不可逆留具50は、これ自体を破壊しない限り、取付けられた位置から移設することができず、この下側不可逆留具50により下方への移動が規制されるフロート16についても、下方への移設が不可となっている。
【0060】
また、下側不可逆留具50としてこのような筒体50cを用いる場合、かしめる代わりに、筒体50cの内部に接着剤を充填し、筒体50cを連結部材15に一体的に固着してもよい。
【0061】
図8(b)に示したものは、下側不可逆留具50を、所謂「地獄ほぞ」を応用して形成したものであり、釣針状の凸部50eを形成した雄部50fと、前記凸部50eを受ける凹部50gを形成した雌部50f’とをペアリングした構成としている。
【0062】
雄部50fと雌部50f’とを一旦結合すると、凸部50eは凹部50gから抜けることがなく、これも破壊しない限り、連結部材15から取り外すことができない。なお、雄部50fと雌部50f’とを強引に引き離し、再度両者を合体させることが可能な場合もあるが、かかる場合は、雄部50fの凸部50eが変形し、所望する留具としての機能は発揮できない。
【0063】
図8(c)に示したものは、下側不可逆留具50を、フロート16に連結部材15を挿通した状態で、当該フロート16と排水弁13との間全体に介在させるだけの長さを有するスリーブ50hにより形成したものである。なお、スリーブ50hは、金属製あるいは合成樹脂製とすることができる。また、この場合もスリーブ50hの内部に接着剤を充填し、スリーブ50hを連結部材15に一体的に固着することができる。
【0064】
図8(d),(e)に示したものは、連結部材15の一部を下側不可逆留具50と兼用したものである。
すなわち、図8(d)では、連結部材15を構成する環状部材15aの一つを、フロート16の挿通孔16cよりも大径とした大型環状部材15bとしている。
なお、この図8(d)で示した例において、環状部材15aが、例えば可塑性を有する線状の金属材料の端部同士を付き合わせて環状に形成されている場合、前記大型環状部材15bで形成した下側不可逆留具50は、ペンチなどの工具を用いて塑性変形させて(破壊して)前記当接した端部同士を離隔し、連結されている他の環状部材15aから取り外すことは可能である。しかし、一旦塑性変形させて連結部材15から取り外した場合、再度端部同士が当接するように力を加えて変形させても、外される前の状態と全く同じ状態に再現されることはなく、留具としての強度も取り外す前よりは低下してしまう。
【0065】
また、図8(e)は連結部材15とし玉鎖を用いた場合の例であり、玉鎖を構成する玉体のうちの一つをフロート16の挿通孔16cよりも大径とした大型玉体15cとしている。
【0066】
以上、説明してきたように、本実施形態によれば、フロート16が上側留部4と下側留部5とにより、連結部材15への取付位置が規定されているため、操作レバー14aの操作により、排水弁13が引き上げられるときに、フロート16が踊って連結部材15と絡んだりするおそれはなく、また、排水弁13が開いて排水口12が開放されると、洗浄水3は、満水時の水位FWLからフロート16の止水線DWLまでに規定された量(ここでは5リットル)が便器2に供給される。そして、フロート16の移動を規制する下側留部5が、下側不可逆留具50により構成されているため、フロート16の止水線DWLを現在以上に下げることができず、洗浄水3の供給量を不変とすることができる。しかも、下側不可逆留具50を、フロート16に形成した中央孔部16a内に収容した状態で配設しているため、外部から下側不可逆留具50に手を加えることも難しく、洗浄水3の便器2への供給量を予め定めた量よりも増加させることがますます困難となっている。
【0067】
したがって、例えば、国や地方自治体などで、水洗トイレにおける一回の洗浄水の使用量を法的に規制した場合などを想定した場合、本実施形態に係る便器洗浄水タンク装置1を用いることによって、フロート16の取付け位置を不正に変更するなどの不法行為を未然に防止することができる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述してきた各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0069】
また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】便器洗浄水タンク装置の説明図である。
【図2】同便器洗浄水タンク装置における第1の実施形態に係るフロートの配設状態を示す概略説明図である。
【図3】同第1の実施形態に係るフロートの配設状態の変形例を示す説明図である。
【図4】第2の実施形態に係る便器洗浄水タンク装置におけるフロートの配設状態を示す概略説明図である。
【図5】同第2の実施形態に係る洗浄水タンクの縦断面視による説明図である。
【図6】同第2の実施形態おける便器洗浄水タンク装置の要部となるフロートの取付構造を示す縦断面視による説明図である。
【図7】同フロートの取付構造の斜視図である。
【図8】同フロート取付構造における下側不可逆留具の変形例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 便器洗浄水タンク装置
2 便器
3 洗浄水
4 上側留部
5 下側留部
10 洗浄水タンク
12 排水口
13 排水弁
14 操作部
15 連結部材
16 フロート
40 上側不可逆留具
41 上側可逆留具
50 下側不可逆留具
51 下側可逆留具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器へ供給するための洗浄水を貯留するとともに、前記便器と連通する排水口を底部に設けた洗浄水タンクと、
前記排水口を開閉する排水弁と、
この排水弁を引き上げ操作する操作部と、
この操作部と前記排水弁とを連結する連結部材と、
この連結部材を挿通した状態で当該連結部材上に取付けられるとともに、前記洗浄水に没した状態で前記排水弁を開弁状態に維持するための浮力を発揮するフロートと、
を備えた便器洗浄水タンク装置において、
前記連結部材に、当該連結部材上における前記フロートの移動範囲を規制する上側留部と下側留部とを設け、少なくとも前記下側留部は、物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材から取り外すことができない下側不可逆留具を備えることを特徴とする便器洗浄水タンク装置。
【請求項2】
前記上側留部は、
物理的不可逆性を有し、破壊しない限り前記連結部材から取り外すことができない上側不可逆留具及び/又は前記連結部材に対して着脱自在に取付けることにより前記フロートの移動範囲を変更可能とした物理的な可逆性を有する上側可逆留具からなることを特徴とする請求項1記載の便器洗浄水タンク装置。
【請求項3】
前記上側留部は、
前記上側不可逆留具及び前記上側可逆留具からなり、前記上側不可逆留具を前記フロートに対して離隔して配設し、この上側不可逆留具と前記フロートとの間に、前記上側可逆留具を取付けることを特徴とする請求項2記載の便器洗浄水タンク装置。
【請求項4】
前記下側留部は、
前記下側不可逆留具と、前記連結部材に対して着脱自在に取付けることにより前記フロートの移動範囲を変更可能とした物理的な可逆性を有する下側可逆留具とからなり、前記下側不可逆留具を前記フロートに対して離隔して配設するとともに、この下側不可逆留具と前記フロートとの間に、前記下側可逆留具を取付けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の便器洗浄水タンク装置。
【請求項5】
前記フロートの中央部に、前記連結部材を挿通する凹部を形成し、この凹部内に前記下側不可逆留具及び/又は上側不可逆留具を収納配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載の便器洗浄水タンク装置。
【請求項6】
前記凹部内に前記下側不可逆留具のみを配設し、当該下側不可逆留具よりも大径に形成した上側可逆留具を、前記フロートの上面に当接するように取付けたことを特徴とする請求項5記載の便器洗浄水タンク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−240493(P2008−240493A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86971(P2007−86971)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】