説明

便器洗浄水用の排水装置

【課題】洗浄水の1回当りの使用量を減らす節水タイプの排水装置を提供すること。
【解決手段】便器を洗浄するための洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水口に取付けられる排水装置において、洗浄水の流入口と流出口とを有し、前記排水口に取付けられる排水部本体と、前記流入口を開閉するための排水弁体と、前記排水部本体の前記流入口よりも下流側に基端を連通連結し、先端を上方へ伸延させたオーバーフロー管と、前記排水部本体の内側に形成され、前記流入口から前記流出口に洗浄水を導くためのガイド部と、を備え、前記ガイド部は、下方に向けて滑らかに漸次縮径させ、前記排水部本体の内側面との間に間隙を形成した縮径部と、この縮径部から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように連続形成された絞り流路部とを有し、しかも、前記絞り流路部の長さ寸法を当該絞り流路部の口径よりも大きくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器洗浄水用の排水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、便器を洗浄するための洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水口に取付けられる便器洗浄水用の一般的な排水装置として、洗浄水の流入口と流出口とを有し、前記排水口に取付けられる排水部本体と、前記流入口を開閉するための排水弁体と、前記排水部本体の前記流入口よりも下流側に基端を連通連結し、先端を上方へ伸延させたオーバーフロー管とを備えたものがある。
【0003】
また、時代の流れの中で、洗浄水の1回当りの使用量を減らす節水タイプの排水装置が求められてきている。その要求に応えるために、単位時間当たりの流量を大きくすることにより、洗浄能力を維持しながら節水する技術が考えられた。
かかる技術として、例えば、洗浄水タンクの底部に設けられた排水口に洗浄水ガイドを設け、このガイドの流路断面積を、洗浄水の流入口よりも流出口の方が大きくなるように連続的に変化させたものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
しかし、排水部本体にオーバーフロー管が連通連結されている場合、洗浄水ガイドを設けたとしても、オーバーフロー管からの空気吸入により、洗浄水ガイド中における洗浄水の流れに剥離が生じてしまい、期待通りには単位時間当たりの流量増加を図ることができなかった。
【0005】
そこで、排水部本体の流入口と同心円的に洗浄水流路を形成し、この流路の周壁によって、洗浄水流路とオーバーフロー管の排水部本体との連通部が形成されたオーバーフロー水流路とを仕切る構成が考えられる。
洗浄水の流れとオーバーフロー管の排水部本体との連通部とを仕切る技術思想として、元々洗浄水の流量が少なくて済む簡易水洗方式便器の洗浄水タンクに関するものではあるが、排水口の流入口と同心円的に、オーバーフロー管の接続口の高さ位置に、円環状の仕切りを設け、この仕切り内を洗浄水流路としたものがある(例えば、特許文献2を参照。)。
【特許文献1】特開2001−262657号公報
【特許文献2】実開昭58−94770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の排水装置は、流路の全周が大きく絞られており、また、その仕切りによって形成される流路の長さやその形状についても全く考慮されていないため、これを一般の水洗便器に適用しても、短時間当りの流量増加が図れなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決することのできる便器洗浄水用の排水装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するため、本発明に係る便器洗浄水用の排水装置では、便器を洗浄するための洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水口に取付けられる排水装置において、洗浄水の流入口と流出口とを有し、前記排水口に取付けられる排水部本体と、前記流入口を開閉するための排水弁体と、前記排水部本体の前記流入口よりも下流側に基端を連通連結し、先端を上方へ伸延させたオーバーフロー管と、前記排水部本体の内側に形成され、前記流入口から前記流出口に洗浄水を導くためのガイド部と、を備え、前記ガイド部は、下方に向けて滑らかに漸次縮径させ、前記排水部本体の内側面との間に間隙を形成した縮径部と、この縮径部から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように連続形成された絞り流路部とを有し、しかも、前記絞り流路部の長さ寸法を当該絞り流路部の口径よりも大きくしたことを特徴としている。
【0009】
(2)上記(1)の便器洗浄水用の排水装置において、前記ガイド部は、前記絞り流路部の下端部が前記排水部本体の流出口と略同位置となるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
(3)上記(1)の便器洗浄水用の排水装置において、前記ガイド部は、前記絞り流路部の下端部の略半周分が前記排水部本体の流出口よりも長く形成されていることを特徴とする。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の便器洗浄水用の排水装置において、前記ガイド部と前記排水部本体との間に形成された間隙は、前記オーバーフロー管側の間隙が広くなるように形成されていることを特徴とする。
【0012】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の便器洗浄水用の排水装置において、前記排水弁体は前記オーバーフロー管に回動自在に支持されたフラッパー弁であることを特徴とする。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の便器洗浄水用の排水装置において、前記ガイド部は、少なくとも前記縮径部から前記絞り流路部に至るまでの間に親水処理が施されていることを特徴とする。
【0014】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の便器洗浄水用の排水装置において、前記ガイド部は、前記排水部本体に対して着脱自在に取付けられていることを特徴とする。
【0015】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の便器洗浄水用の排水装置において、前記ガイド部は、前記排水部本体に向かって放射状に突出した複数の脚部を備えていることを特徴とする。
【0016】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の便器洗浄水用の排水装置において、前記排水部本体の流入口の外周に、この流入口よりも高く突出した防波リングを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流入口から前記流出口に洗浄水を導くためのガイド部を設け、このガイド部は、下方に向けて滑らかに漸次縮径させ、前記排水部本体の内側面との間に間隙を形成した縮径部と、この縮径部から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように連続形成された絞り流路部とを有し、しかも、前記絞り流路部の長さ寸法を当該絞り流路部の口径よりも大きくしているため、洗浄水の排水時に、流路内にオーバーフロー管からの空気を吸い込むことがなく、流路の負圧が壊されることを防止できるとともに、絞り流路部の流路断面積がいたずらに小さくならず、かつ排水が縮流とならないために排水部本体下方からの空気の侵入も防止し、しかも、絞り部流路の長さが十分に確保できるために、強力なサイホン現象を発生させ、洗浄水の単位時間当たりの流量を増加させることが可能となり、便器洗浄性能を向上させ、節水に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本実施形態に係る便器洗浄水用の排水装置は、便器を洗浄するための洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水口に取付けられており、洗浄水の流入口と流出口とを有し、前記排水口に取付けられる排水部本体と、前記流入口を開閉するための排水弁体と、前記排水部本体の前記流入口よりも下流側に基端を連通連結し、先端を上方へ伸延させたオーバーフロー管と、前記排水部本体の内側に形成され、前記流入口から前記流出口に洗浄水を導くためのガイド部とを備え、前記ガイド部は、下方に向けて滑らかに漸次縮径させ、前記排水部本体の内側面との間に間隙を形成した縮径部と、この縮径部から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように連続形成された絞り流路部とを有し、しかも、前記絞り流路部の長さ寸法を当該絞り流路部の口径よりも大きくしたものである。
【0019】
すなわち、本実施形態によれば、排水部本体中において、ガイド部が実質的な洗浄水流路を形成するものとなり、このガイド部は、洗浄水が流入してくる部分(排水部本体の流入口に対応する箇所)に縮径部が形成されているため、ガイド部の内側面と流れ込んできた洗浄水との間に剥離が生じることを可及的に防止して縮流の発生を防止することができる。
また、実質的に洗浄水流路を形成する当該ガイド部によって、排水部本体に形成されたオーバーフロー管の連通口に連通するオーバーフロー水流路と、前記洗浄水流路とが区画されることになるため、洗浄水の流路内に生じる負圧が破壊されることがなく、サイホン現象によって洗浄水の単位時間当たりの流量を増加させることができる。しかも、絞り流路部の長さを、当該絞り流路部の口径よりも大きくしているため、より流速が増加して瞬間最大流量が増加する。
【0020】
すなわち、洗浄水の単位時間当たりの流量(瞬間最大流量)を増加させるには、ガイド部内に形成される洗浄水流路中、絞り流路部内において安定した負圧領域(サイホン)を発生させることが有効である。
【0021】
そして、サイホンを発生させる条件としては、絞り流路部内の管内壁面に水が確実に接した状態で流れるようにする必要があり、そのためには、以下の点に留意することが肝要である。
(1)流入口の付近で水流を剥離させない。
(2)上・下及び横(オーバーフロー管)方向からのエア進入を防止する。
(3)十分な負圧領域を確保する。
【0022】
そこで、本実施形態では、上述したように、ガイド部を下方に向けて滑らかに漸次縮径させて縮径部を形成し、この縮径部から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように絞り流路部を連続形成するとともに、流路内を滑らかにすることで、コアンダ効果を生起させてして水流の剥離を防止し、またオーバーフロー管の排水路と本流の排水路を分離してオーバーフロー管からのエア進入を防止し、しかも、絞り流路部の長さ寸法を当該絞り流路部の口径よりも大きくすることで、管状のガイド部の下部から空気の流入を防いで安定した負圧領域を確保している。
【0023】
かかる構成により、サイホン現象によって洗浄水の単位時間当たりの流量(瞬間最大流量)を増加させることが可能となり、便器洗浄性能を向上させて節水に寄与することが可能となる。
【0024】
また、本実施形態に係るガイド部は、前記絞り流路部の下端部が前記排水部本体の流出口と略同位置となるように形成されている。
【0025】
したがって、排水部本体の流出口側からの空気の吸い込みが防止でき、より強力なサイホン現象を生起させることができる。
【0026】
しかも、ガイド部が排水部本体から必要以上に突出することがないため、本排水装置を備えた洗浄水タンクは、いかなるタイプの便器への取り付けも容易に対応可能となる。
【0027】
また、前記ガイド部の変形として、前記絞り流路部の下端部の略半周分が前記排水部本体の流出口よりも長く形成することもできる。
【0028】
すなわち、排水部本体の流出口よりも下方へ突出した延長部が形成されたガイド部としたものであり、換言すれば、このガイド部は、下端半周部分を切欠した切欠部が形成されたものである。
【0029】
かかるガイド部とした場合、本ガイド部を装着した排水装置を洗浄水タンクの排水口に取り付ける場合は、洗浄水タンクが便器に取り付けられたときに、前記切欠部が前側(便器のボウル側)に向くようにしておく。
このように洗浄水タンクを便器に取り付けると、絞り流路部で発生した負圧による吸引力で流速、すなわち運動エネルギが増した洗浄水が、便器本体内に自由落下し、便器本体に当たって横方向の流れに変えられるとき、洗浄水は延長部に妨げられて便器のボウル側に開口する切欠部より水勢を保ちながら流出するため、例えば便器本体に形成したリム穴やジェット穴からボウル面に流れ落ちることになり、より少ない流量で汚物を搬送することができ、節水を図ることが可能となる。
【0030】
また、上述してきたガイド部と前記排水部本体との間に形成された間隙は、前記オーバーフロー管側の間隙が広くなるように形成することが好ましい。
【0031】
このように構成すれば、オーバーフロー管としての機能を十分に発揮できるとともに、洗浄水の流路の横断面積についても十分な広さを確保できる。
【0032】
また、上述してきた便器洗浄水用の排水装置において、前記排水弁体は前記オーバーフロー管に回動自在に支持されたフラッパー弁とすることができる。
【0033】
なお、フラッパー弁では、枢支部分(通常、この種の排水装置ではフラッパー弁の枢支部はオーバーフロー管の基端部に設けられる)と対向する側からの流入量が多くなるが、上述したガイド部の構造とあいまって、洗浄水流路における洗浄水の剥離を防止することができるとともに、何よりもフラッパー弁は構造が簡単で安価であり、排水装置のコスト増を可及的に抑えることができる。
【0034】
さらに、前記ガイド部は、少なくとも前記縮径部から前記絞り流路部に至るまでの間に親水処理を施すことができる。
【0035】
親水処理を施すことにより、絞り流路部内の管内壁面に水が確実に接するようになり、水流の剥離を効果的に防止し、結果的により強力なサイホンを発生させることができる。
【0036】
ところで、上述してきたガイド部は、前記排水部本体に対して着脱自在に取付けることが好ましい。
【0037】
ガイド部を洗浄水タンクに装着する場合、タンクの種類などに応じて最適なガイド部を選択して後付けすることができる。また、ガイド部を何らかの理由でメンテナンスする必要が生じても、その作業が容易となる。
【0038】
また、前記ガイド部は、排水部本体に向かって放射状に突出した複数の脚部を備えた構成とすることが好ましい。
【0039】
この脚部を設けることによって、排水部本体内にガイド部を装着する場合、このガイド部と排水部本体との間に所定の間隙を維持しながら嵌入することが容易となる。
【0040】
また、便器洗浄水用の排水装置の他の形態として、排水部本体の流入口の外周に、この流入口よりも高く突出した防波リングを設けることができる。
【0041】
この防波リングにより、洗浄水タンク内の水が洗浄水流路へ流入する際の水勢を抑え、絞り流路部内における水流の剥離を防止して、強力なサイホンを発生させることが可能となる。また、排水弁体(例えば、フラッパー弁)が閉止する際に、弁体は水を押しのけていくが、この押しのけられる水は、防波リングによってその移動が妨げられるため、水がクッションのように緩衝機能を生起し、排水弁体がサイホンによって吸引されても急激な閉止とはならず、排水弁体の閉止音を弱めるため、騒音の発生も効果的に防止することができる。
【0042】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながらより具体的に説明する。図1は本実施形態に係る便器洗浄水用の排水装置を具備する洗浄水タンクの説明図である。
【0043】
図1に示すように、本実施形態に係る便器用の洗浄水タンク1は、洗浄水2を貯留可能とした箱型形状のタンク本体10と、このタンク本体10の上部開口部を閉蓋する着脱自在の蓋体11と、タンク本体10内に水を供給する給水装置3と、タンク本体10内に貯留された洗浄水2を図示しない便器へ供給するための排水機構4とから構成されている。
【0044】
そして、前記給水装置3により、給水源から供給された水をタンク本体10内に貯留するとともに、前記排水機構4により、貯留した水を洗浄水として便器に供給するようにしている。
【0045】
給水装置3は、タンク本体10内の左側方に立設され、下端を給水源と接続した給水管30と、タンク本体10へ向けた吐水/止水が切替えられるように給水管30の上端に設けた給水バルブ31と、タンク本体10内の水位の変動に応じた上下動によって給水バルブ31の吐水/止水の切替え作動を行うフロート部32とを備えている。
【0046】
排水機構4は、タンク本体10の底部10aに形成した排水口12に取り付けられた本実施形態における要部をなす排水装置5と、この排水装置5の一部を構成する排水弁体6(詳しくは後述する)を外部操作により引き上げて開閉する操作部40と、この操作部40と排水弁体6とを連結するチェーン状の連結部材42とから構成されている。なお、連結部材42の材質は特に限定されないが、軽量で耐水性に富むものとしておくことが好ましい。
【0047】
図1において、41は操作部40を構成する操作レバーであり、この操作レバー41に回転軸43の一端を連結するとともに、他端をタンク本体10内に略水平に伸延させ、この他端側から連結部材42を垂下している。したがって、操作レバー41の操作によって回転軸43を回転させると、連結部材42の下端に接続した排水弁体6が引き上げられ、排水装置5の上部が開口されて洗浄水2が便器へと供給される。
【0048】
ここで、図1及び図2〜図9を参照しながら、排水装置5について詳述する。図2は排水装置の斜視図、図3は同排水装置の縦断面視による説明図、図4(a),(b)はガイド部の斜視図、図5(a)は同ガイド部の正面図、図5(b)は同背面図、図6(a)は同平面図、図6(b)は同底面図、図7(a)は図6(a)のA−A断面図、図7(b)は図6(b)のB−B断面図、図8はガイド部の縮径部の説明図である。
【0049】
図1に示すように、排水装置5は、タンク本体10の底部10aに形成された排水口12に取付けられている。図2及び図3に示すように、排水装置5は、洗浄水2の流入口71と流出口72とを有する筒状に形成した合成樹脂製の排水部本体7を備え、この排水部本体7の高さ方向略中央位置に形成したフランジ部73の直下位置に形成した嵌合部74を排水口12に嵌合している。
図3に示すように、排水部本体7は、フランジ部73を境にして、相対的に厚肉に形成された上半部7aと、外径が上半部7aよりも小で、かつ上半部7aよりも薄肉状に形成した下半部7bとから形成されている。そして、下半部7bのフランジ部73の直下位置を肉厚に形成して排水口12の内径よりも僅に大として嵌合部74を形成し、図1に示すように、下半部7bを排水口12内に挿通するとともに、嵌合部74を排水口12内に嵌着している。図1中、74はフランジ部73とタンク本体10の底部10aとの間に介設されたパッキンである。
【0050】
また、排水装置5は、排水部本体7の流入口71を開閉するための前記排水弁体6と、排水部本体7の流入口71よりも下流側に基端を連通連結し、先端を上方へ伸延させたオーバーフロー管51と、排水部本体7の内側に形成され、排水部本体7の流入口71から流出口72に洗浄水を導くためのガイド部8とを備えている。
【0051】
オーバーフロー管51は、排水部本体7と一体成形されており、基端と連通する排水部本体7の周壁上部から水平方向に一旦伸延するとともに、先端が鉛直上方へ伸延している。そして、オーバーフロー管51の先端部には、給水装置3から伸延する溜水供給管33の先端が挿通されている(図1参照)。
【0052】
排水弁体6は、図1〜図3に示すように、前記連結部材42の取付部61aを背部に形成した円形プレート61の腹部側に板状の環状弁体62を配設し、オーバーフロー管51の基端部に設けた枢支ピン63を中心に上下回動自在としたフラッパー弁により構成されている。フラッパー弁は構造が簡単で安価であり、排水装置のコスト増を可及的に抑えることができる。
【0053】
このフラッパー弁(排水弁体6)は、円形プレート61から後方へ伸延させた枢支アーム64の終端部を、オーバーフロー管51から突設した枢支ピン63に回動自在に係合させている。また、円形プレート61の背面左右位置から、左右一対のウイングアーム65を、オーバーフロー管51を挟むようにして後方斜め上方に伸延させ、これらの先端部間にウイング部66を設けている。67は、枢支アーム64とウイングアーム65とを連結した連結アームである。
ウイング部66は、便器への洗浄水2の供給時にはタンク本体10内の洗浄水2中において、フラッパー弁が閉止方向へ回動する際の抵抗体となって流入口71の開放状態を維持するとともに、供給終了時には、ウイング部66の表面と洗浄水2の水面との間で表面張力が生じ、フラッパー弁が急激に閉止することを防ぎ、騒音の発生を防止している。
【0054】
ガイド部8は、本実施形態に係る排水装置5の特徴的な構成を有するもので、合成樹脂製としており、実質的な洗浄水流路を形成するものである。
すなわち、図3〜図8に示すように、ガイド部8は、排水部本体7の流入口71と同形状に形成し、前記排水弁体6の弁座として機能する上端開口部8aから下方に向けて滑らかに漸次縮径させ、排水部本体7の内側面との間に間隙Dを形成した縮径部81と、この縮径部81から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように連続形成されて下端開口8bを形成した絞り流路部82とを有する管体からなり、しかも、絞り流路部82の長さ寸法Hを、当該絞り流路部82の口径Wよりも大きくしている。
【0055】
したがって、排水部本体7の流入口71に対応する箇所に洗浄水2が流入する場合、ガイド部8の対応個所には縮径部81が形成されているため、ガイド部8の内側面と流れ込んできた洗浄水2との間に剥離が生じることが可及的に防止され、縮流の発生を防止することができる。なお、この縮径部81の形状については後に詳述する。
【0056】
また、図3(b)に示すように、排水部本体7に形成されたオーバーフロー管51の連通口51aに連通するオーバーフロー水流路52と、前記洗浄水流路(ガイド部8内)とが区画されることになるため、洗浄水流路内に生じる負圧領域が、オーバーフロー管51から侵入する空気によって破壊されることがなく、サイホン現象によって洗浄水2の単位時間当たりの流量を増加させることができる。
【0057】
特に、図示するように、ガイド部8と排水部本体7との間に形成された間隙Dは、オーバーフロー管51側の間隙を広くしている。
【0058】
したがって、オーバーフロー管51は、オーバーフロー管51としての機能を十分に発揮できるとともに、ガイド部8内に形成される洗浄水流路の横断面積についても十分な広さを確保でき、洗浄水2の排水量を十分に確保することができる。
【0059】
しかも、ガイド部8の絞り流路部82の長さを、当該絞り流路部82の口径よりも大きくしているため、より流速が増加して瞬間最大流量が増加する。図9に、絞り流路部82の長さ寸法Hと口径Wとの関係の違いによる水流の変化を示す。図9(a)はW≫Hの場合、図9(b)はW>Hの場合、図9(c)はW≦Hの場合を示している。
【0060】
図9(a)に示すように、絞り流路部82の縦の長さ寸法Hが口径Wに比べて短すぎると、ガイド部8の下端開口8bから空気が流入しやすく、「負圧領域」が形成できないため、サイホンが発生せずに洗浄水2の瞬間最大流量が増加しない。
【0061】
図9(b)に示すように、絞り流路部82の縦の長さ寸法Hが口径Wに比べてやや短い場合は、たとえ「負圧領域」が形成されたとしても、やはりガイド部8の下端開口8bからは空気が流入しやすいために、「負圧領域」が消滅していまい、連続的に安定したサイホン現象を維持できず、結果的に洗浄水2の瞬間最大流量を増加させることが難しい。
【0062】
図9(c)は本実施形態のガイド部8と同様に、絞り流路部82の縦の長さ寸法Hが口径Wに比べて長い場合であり、絞り流路部82内でコアンダ効果により洗浄水2は流路壁面にしっかりと当接した状態で流れるため排水量が増加する。しかも、縦長の流路(管路)内で、洗浄水2は自然落下で加速されて流速が上がり、ガイド部8の下端開口8bからの空気の流入も防止される。したがって、「負圧領域」が安定して生じ、負圧に吸引されて給水量(排水量)も増加するのでサイホン現象が安定して維持され、洗浄水2の瞬間最大流量は大幅に増加することになる。
【0063】
また、本実施形態に係るガイド部8は、前記絞り流路部82の下端部が前記排水部本体7の流出口72と略同位置となるように形成されている。
【0064】
したがって、ガイド部8が排水部本体7の下端から必要以上に突出することがなく、本実施形態に係る排水装置5を備えた洗浄水タンク1は、いかなるタイプの便器への取り付けも容易となる。
【0065】
また、図4〜図7に示すように、ガイド部8には、排水部本体7に向かって放射状に突出した複数の脚部83が一体的に形成されている。
【0066】
隣接する脚部83,83間の間隔については適宜決定してよく、これら脚部83を設けることによって、排水部本体7内にガイド部8を装着する場合、このガイド部8と排水部本体7との間に所定の間隙Dを維持しながら嵌入することが容易となる。そして、嵌入した状態では、脚部83の先端が排水部本体7の内周壁面に当接し、所望する間隙Dを維持しながらガイド部8を排水部本体7内でしっかりと保持することができる。
【0067】
ここで、ガイド部8の縮径部81の形状について説明する。
図3(b)に示すように、ガイド部8への洗浄水2の流入量は、排水弁体6の構成及びその取付構造から、オーバーフロー管51から離隔した側からの方がオーバーフロー管51に近接した側よりも多くなる(排水弁体6が枢支ピン63を中心に上方へ回動した場合、オーバーフロー管51と対向する側の開口面積が大となる)。したがって、水流の剥離もガイド部8内(洗浄水流路)においては、オーバーフロー管51と離隔した側の周面において発生しやすいことが実験的に分かっている。
【0068】
そこで、本実施形態では、ガイド部8の縮径部81は、オーバーフロー管51と離隔した側においては、上端開口部8aから下方に向けて滑らかに漸次縮径させる際に、大きな曲率から急激に小さくし、さらに漸次この曲率を小さくして直線的になるようにしている。したがって、上端開口部8aに対して横方向から流入する洗浄水2は周壁面に沿って流入することになってガイド部8の上端近傍での水流の剥離が防止され、さらに、周壁面に沿って流入した洗浄水2がそのままこの周壁面に沿って自由落下していけるように形成されている。
【0069】
具体的には、縮径部81を、図8に示すような特徴的な曲面を有する形状としている。なお、これは、実験を通して決定されたものであり、図示するように、ガイド部8の縮径部81の周面は、基準となる水平線aに対して上端開口部8aの始端側を先ず7.5度の角度とし、その後曲線と水平線aとがなす角度の変化が、垂直な絞り流路部82の周面へ向かうに従って、徐々に小さくなるように漸次変化させていき、例えば図8では45度となるように急激に曲率を小さくして結ぶともに、その後は65度、75度、85度と漸次曲率を小さくして直線に近似させていきながら垂直な絞り流路部82の周面と滑らかに結んでいる。
【0070】
このように、本実施形態におけるガイド部8の縮径部81は、オーバーフロー管51と離隔した側においては、コアンダ効果が生起されて水流の剥離を効果的に防止することができ、前述したように、洗浄水2の瞬間最大流量の増加に寄与する形状となっている。
【0071】
また、ガイド部8の変形例として、絞り流路部82内の内壁面に水が確実に接するようにして、水流の剥離をより効果的に防止して、より強力なサイホンを発生させることができるように、ガイド部8の内周壁について、縮径部81から絞り流路部82に至るまでの間に親水処理を施すことができる。親水処理としては、親水性を発揮する材料によるコーティングが考えられる。
【0072】
図10〜図12にさらなるガイド部8の変形例を示す。
これは、絞り流路部82の下端部の略半周分を排水部本体7の流出口72よりも長く形成したものである。
【0073】
すなわち、図11に示すように、排水部本体7の流出口72よりも下方へ突出した延長部84が形成されたものである。逆の見方をすれば、図10に示すように、ガイド部8の下端半周部分を切欠して切欠部85を形成したものとも言える。図11中、91は便器9に形成された給水路であり、図12に示すように、洗浄水タンク1からの洗浄水2はこの給水路91を通ってボウル90に流出していく。
【0074】
このような延長部84(あるいは切欠部85)を有するガイド部8とした場合、かかるガイド部8を装着した排水装置5を洗浄水タンク1の排水口12に取り付ける場合は、図12に示すように、洗浄水タンク1が便器9に取り付けられたときに、前記切欠部85が前側(便器9のボウル90側)に向くようにしておく。
【0075】
このようにして洗浄水タンク1を便器9に取り付けると、絞り流路部82で発生した負圧による吸引力で流速、すなわち運動エネルギが増した洗浄水2が、便器本体内、すなわち給水路91に自由落下し、この給水路91に当たって例えばリム通水路92などに向かって横方向の流れに変えられるとき、洗浄水2は延長部84に妨げられて便器9のボウル90側に開口する切欠部85より水勢を保ちながら流出するため、例えば便器9に形成したリム穴やジェット穴(図示せず)からボウル90に流れ落ちることになり、より少ない流量で汚物を搬送することができ、節水を図ることが可能となる。
【0076】
変形例を含めて説明してきた上述の排水装置5は、さらに、防波リング55を備えた構成とすることができる。図13は防波リングを備える排水装置5の斜視図、図14は防波リングを設けた排水装置による洗浄水の排水状態を示す説明図である。
【0077】
防波リング55は合成樹脂製であり、内径が排水部本体7の外周に密着する下側周壁55aと、この下側周壁55aよりも拡径され、下側周壁55aから上方へ延設した上側周壁55bとを有する略筒状体より構成されている。
そして、下側周壁55aを排水部本体7のフランジ部73に載置するようにして排水部本体7の流入口71の外周に配設した際に、当該流入口71よりも上端部55cが高く突出した状態となるように高さ寸法が定められている。
【0078】
かかる防波リング55を備えた排水装置5による排水動作を、図14を参照して説明する。操作レバー41(図1、図11参照)が操作されて排水弁体6が上方回動し、排水部本体7の流入口71と重合するガイド部8の上端開口部8aが大きく開放され、洗浄水2が矢印で示すように流れ込む(図14(a))。
【0079】
このとき、上端部55cが流入口71(ガイド部8の上端開口部8a)よりも高い防波リング55により、洗浄水2が洗浄水流路となるガイド部8内へ流入する際の水勢が抑えられる。しかも、上述してきたように、ガイド部8の縮径部81は特徴的な曲面を有する形状であるため、防波リング55を設けることで水流が流路内で剥離することをより効果的に防止できることになり、その結果強力なサイホンを発生させて洗浄水2の瞬間最大流量を増加させることが可能となる。すなわち、少量の洗浄水2でも汚物搬送が可能となるため、節水効果が高まることになる。
【0080】
洗浄水2が便器9(図12参照)に供給され、タンク本体10内における洗浄水2の水位が低下していくに伴い、排水弁体6は閉止方向に回動する(図14(b))。
このとき、排水弁体6は水を押しのけようとするが、この押しのけられるべき水が防波リング55によってその移動が阻害され、水があたかもクッションのように緩衝機能を生起する。
したがって、排水弁体6がサイホン現象による負圧によって排水部本体7側に吸引されても急激な閉止とはならず、図14(c)に示すように、排水弁体6が完全に閉止した際に、その閉止音が弱まり、騒音発生が効果的に防止される。
【0081】
このように、防波リング55は、排水装置5において、強力なサイホンを発生させて洗浄水2の瞬間最大流量を増加させ、節水に寄与するばかりでなく、排水弁体6の閉止音を弱めて騒音防止の効果も奏する有用な部材となる。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述してきた各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0083】
また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本実施形態に係る便器洗浄水用の排水装置を具備する洗浄水タンクの説明図である。
【図2】同排水装置の斜視図である。
【図3】同排水装置の縦断面視による説明図である。
【図4】ガイド部の斜視図である。
【図5】(a)はガイド部の正面図、(b)は同背面図である。
【図6】(a)は同ガイド部の平面図、(b)は同底面図である。
【図7】(a)は図6(a)のA−A断面図、(b)は図6(b)のB−B断面図である。
【図8】同ガイド部の縮径部の説明図である。
【図9】絞り流路部の長さ寸法と口径との関係の違いによる水流の変化を示す説明図である。
【図10】ガイド部の変形例を示す斜視図である。
【図11】同ガイド部の変形例を示す説明図である。
【図12】同ガイド部の変形例を示す説明図である。
【図13】防波リングを備える排水装置の斜視図である。
【図14】同排水装置による洗浄水の排水状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0085】
1 洗浄水タンク
2 洗浄水
5 排水装置
6 排水弁体
7 排水部本体
8 ガイド部
12 排水口
51 オーバーフロー管
55 防波リング
71 流入口
72 流出口
81 縮径部
82 絞り流路部
D 間隙
H 長さ寸法
W 口径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器を洗浄するための洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水口に取付けられる排水装置において、
洗浄水の流入口と流出口とを有し、前記排水口に取付けられる排水部本体と、
前記流入口を開閉するための排水弁体と、
前記排水部本体の前記流入口よりも下流側に基端を連通連結し、先端を上方へ伸延させたオーバーフロー管と、
前記排水部本体の内側に形成され、前記流入口から前記流出口に洗浄水を導くためのガイド部と、
を備え、
前記ガイド部は、
下方に向けて滑らかに漸次縮径させ、前記排水部本体の内側面との間に間隙を形成した縮径部と、この縮径部から鉛直下方に、流路断面が略一定となるように連続形成された絞り流路部とを有し、しかも、前記絞り流路部の長さ寸法を当該絞り流路部の口径よりも大きくしたことを特徴とする便器洗浄水用の排水装置。
【請求項2】
前記ガイド部は、
前記絞り流路部の下端部が前記排水部本体の流出口と略同位置となるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項3】
前記ガイド部は、
前記絞り流路部の下端部の略半周分が前記排水部本体の流出口よりも長く形成されていることを特徴とする請求項1記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項4】
前記ガイド部と前記排水部本体との間に形成された間隙は、
前記オーバーフロー管側の間隙が広くなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項5】
前記排水弁体は、
前記オーバーフロー管に回動自在に支持されたフラッパー弁であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項6】
前記ガイド部は、
少なくとも前記縮径部から前記絞り流路部に至るまでの間に親水処理が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項7】
前記ガイド部は、
前記排水部本体に対して着脱自在に取付けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項8】
前記ガイド部は、
前記排水部本体に向かって放射状に突出した複数の脚部を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の便器洗浄水用の排水装置。
【請求項9】
前記排水部本体の流入口の外周に、この流入口よりも高く突出した防波リングを設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の便器洗浄水用の排水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−19471(P2009−19471A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184986(P2007−184986)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】