説明

便器洗浄装置

【課題】 ドップラー信号の検出には、受信データから必要な周波数帯域の信号を抽出する尿流検出フィルタの演算処理を行う必要がある。そのためには、まずドップラー信号の周波数に応じたサンプリング間隔で受信データをサンプリングしなければならず、そのためドップラー信号の処理に要する消費電力は大きかった。
【解決手段】 尿流を検出するドップラーセンサと、そのセンサ出力を所定のサンプリング周期で処理しそのサンプリング周期に適応した尿流検出フィルタ手段を通して尿流検出を行う尿流検出処理部と、その尿流有無出力に応じ制御を行う制御部とを備えた便器洗浄装置において、センサ出力に含まれる周波数を測定する周波数解析手段と、周波数解析手段の出力に応じてサンプリング周期を変更するサンプリング周期変更手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器洗浄装置に関するものであり、特に、マイクロ波などを利用したドップラーセンサによって人体検知および尿流検知を行う小便器洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、小便器洗浄においては、用足し後の便器本体の洗浄を自動化するために、便器に赤外線センサ等の人体検知を設置し、この人体検知センサが一定時間以上使用者を検知した場合には、その後に使用者が離れたことを検知して、給水路に設けられた給水バルブを開閉することにより一定量の洗浄水を流すようにしたものである。
【0003】
人体検知センサとしては、赤外線を利用した赤外線センサが一般的であり、このセンサは安価なため、広く利用されている。しかしながら、この人体検知センサは、光の反射を利用しているため、人体検知センサの設置位置は光を妨げるものがない位置に限定されてしまう。また、窓が汚れたりすると検知精度が劣化する。しかも、検知範囲を広くするには、光の出力を大きくし光を拡散しなければならないので、広範囲の検知は難しいといった問題点があった。
【0004】
そのため、近年、電波を利用したドップラーセンサによって人体検知をする便器洗浄装置が提案又は提供されてきている。このドップラーセンサは、樹脂や陶器を透過できる電波を利用しているため、本体カバーの中に隠蔽でき、見栄えが良く、悪戯もされにくい。しかも、人が近づいているのか遠ざかっているのかなども検知することができる。さらに、このドップラーセンサによって、人体検知だけでなく、尿流や洗浄水の検知も行なうことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、ドップラーセンサには、マイクロ波を送信する送信手段と、送信手段によって送信された電波の反射波を受信する受信手段と、受信手段で受信した信号の周波数と送信手段によって送信された信号の周波数との差分を求めてその差分に応じた信号を生成する差分検知手段が備えられている。
【0006】
そして、このドップラーセンサは、電波によるドップラー効果を利用して以下の原理で物体(動き)検知に用いられている。
【0007】
基本式:ΔF=FS−Fb=2×FS×ν/c
ΔF:ドップラ周波数
FS:送信周波数
Fb:反射周波数
ν:物体の移動速度
c:光速(300×106m/s)
アンテナから送信されたFSは、物体に反射し、相対運動νによるドップラ周波数シフトを受けFbとなる。この時、送信波と反射波の周波数差ΔFが出力信号として取り出せる。
【0008】
そして、アンテナと検知対象物(人体や尿流等)の距離は、ΔFの振幅の大きさに反比例することから、このΔFの周波数スペクトルを解析することにより、人が近づいているのか、遠ざかっているのかの検知や便器内に水流が存在するのか否かの検知が可能となる。
【特許文献1】国際公開第03/021052号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、便器洗浄装置においては、施工性、メンテナンス性の向上や省エネルギー化のために、洗浄水の給水路に翼車の回転により発電する発電機を設け、この発電機の電力を電磁弁開閉のための電源に利用した発電機内蔵タイプの小便器洗浄装置の要請が高まっている。
【0010】
しかし、上記特許文献1の便器洗浄装置では、このドップラーセンサを用いて人体検知及び便器内の水流検知を行うことができるものの、広い周波数帯域の検出には、受信データから広い周波数帯域の信号を抽出する尿流検出フィルタの演算処理を行う必要がある。そのためには、マイコンは、短いサンプリング間隔で受信データをサンプリングしなければならないので演算処理が多くなり消費電力も大きくなる。そのため、低消費で動作させる発電機内蔵タイプの小便器洗浄装置等への適用は難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、請求項1に記載の発明では、便器と、前記便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、前記便器へ排泄される尿流を検出するためのドップラーセンサと、前記ドップラーセンサのセンサ出力を演算処理するマイクロコンピュータを有しその出力に応じて前記給水バルブの開閉制御を行う制御部とからなり、前記マイクロコンピュータは前記センサ出力より尿流検出を行う尿流検出処理部とを備え、前記尿流検出処理部は前記センサ出力を所定のサンプリング周期でデジタル処理するサンプリング手段と、前記サンプリング手段の出力より尿流信号を抽出する尿流検出フィルタ手段と、前記センサ出力に含まれる周波数を測定する周波数解析手段と、前記周波数解析手段の出力に応じて前記サンプリング周期を設定変更するサンプリング周期変更手段とを有することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1記載の便器洗浄装置において、前記周波数解析手段は複数の周波数帯域に対応した複数の周波数フィルタ手段を有するとともに、前記周波数解析手段は前記センサ出力を前記複数の周波数フィルタ手段を通しそれぞれの周波数フィルタ手段の最大出力に対応する周波数帯域を出力することを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1又は2記載の便器洗浄装置において、前記尿流検出処理部は前記尿流検出フィルタ手段のフィルタ周波数を変更するフィルタ周波数変更手段を有するとともに、前記周波数解析手段の出力に応じて、前記フィルタ周波数を変更することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1乃至3のいずれか一に記載の便器洗浄装置において、前記尿流検出処理部が尿流無を出力すると、前記サンプリング周期変更手段は前記サンプリング周期を所定のサンプリング周期に再設定することを特徴とする。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、当初は所定のサンプリング周期にて、センサ出力の周波数を測定する。そして、その対象物の周波数を検出するとその周波数に合わせて、そのサンプリング周期を決定することができるため、周波数が所定の周波数より低い場合はサンプリング周期を広い間隔で処理することができ、これによって尿流検出中のマイコン処理時間が減少し消費電力を少なくすることができる。例えば、尿流信号の周波数が不明であるため、尿流検出中は常時1msec周期でサンプリングを行っていたとする。これに対して、周波数解析手段により尿の周波数が90Hzであることがわかった場合、90Hzの信号を受信するには3msec周期でサンプリングすれば十分であるため、尿流検出中のサンプリングに要する消費電力は3分の1に削減することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、周波数解析手段は複数の周波数フィルタ手段で構成し、その周波数フィルタ手段の出力に対応した周波数帯域をその周波数と擬制する。そうすることにより、フーリエ変換等の処理を行わず簡単な処理だけで尿流信号の主な周波数帯を知ることができ、簡便に周波数解析手段を構成できる。そして、その区分周波数に合わせたサンプリング周期でサンプリングを行えば、尿流信号の周波数を精度良く検出でき消費電力の低減を図ることができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2記載の便器洗浄装置において、前記尿流検出処理部は前記尿流検出フィルタ手段のフィルタ周波数を変更するフィルタ周波数変更手段を有するので、さらに、演算処理のかかる尿流検出フィルタ手段も前記周波数解析手段の出力に応じて、所定の周波数より低い場合はサンプリング周期を広い間隔で処理するできるため、さらに消費電流の低減を図ることができる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3のいずれか一に記載の便器洗浄装置において、前記尿流検出処理部が尿流無を出力すると、前記サンプリング周期変更手段は前記サンプリング周期を所定のサンプリング周期に再設定するので、常に最初に使うときは、尿流検出開始から一定期間は予め決められたサンプリング周期で検出を行うため、尿流信号の周波数を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施形態に係る小便器洗浄装置の全体的な構成を示す図、図2は本発明の実施形態に係るドップラーセンサの機能構成を示す図、図3は本発明の実施形態に係る制御部の構成を示す図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態における小便器洗浄装置1は、内部のドップラーセンサ5が収められた小便器本体2と、この小便器本体2に接続され、小便器本体2のボール部2a内空間を洗浄するための水(以下、「洗浄水」とする。)を供給する給水管3と、この給水管3の中途部に配置されて小便器本体2への洗浄水の供給及びその停止を行うための開閉弁である給水バルブ4と、この給水バルブ4を制御して洗浄水の供給及び停止を行う制御部6とを備えている。また、小便器本体2のボール空間内に流れる小便や洗浄水は、小便器本体2に連結された排水路7から排水される。
【0021】
このように構成された便器洗浄装置1は、ドップラーセンサ5を用いて、制御部6により人体検知や流水検知(尿流検知や洗浄水検知を含む)を行い、給水バルブ4を制御して洗浄水の供給を行なって、便器を洗浄するように動作する。すなわち、制御部6は、人体検知や流水検知を検知対象として、検知制御を行い、その検知状況に従って動作をする。
【0022】
ここで、ドップラーセンサ5の構成について、図2を参照して、以下具体的に説明する。
【0023】
ドップラーセンサ5は、例えば、10.525GHz(FS)の信号を生成する発振回路8と、発振回路8で生成された信号を電波であるマイクロ波として送信する送信手段である送信回路9と、この送信回路9が送信したマイクロ波の反射波を受信する受信手段である受信回路10と、送信回路9が送信するマイクロ波の周波数FSと受信回路10が受信するマイクロ波の周波数Fbとの周波数差ΔFの信号(以下、「差分信号」とする。)を出力する差分検出手段である差分検出回路11と、から構成されている。
【0024】
したがって、このドップラーセンサ5が動作しているときには、送信回路9からマイクロ波が送信され、受信回路10でその反射波を受信して、差分検出回路11から差分信号が出力される。
【0025】
また、本実施形態の小便器洗浄装置1では、電波を用いた場合のドップラ効果を利用する構成としたが、これに限られず、例えば、超音波等の音波を利用するドップラーセンサを用いてもよい。
【0026】
次に、小便器洗浄装置1の制御部の構成について、具体的に説明する。
本実施形態における小便器洗浄装置1の制御部6は、図3に示すように、マイクロコンピュータ15と、ドップラーセンサ5の差分検出回路11から出力された差分信号を増幅する増幅部12と、増幅部12によって増幅された差分信号の低周波成分を低減させ、さらに増幅をするハイパスフィルタ増幅部13(以下、「HPF増幅部」とする。)と、マイクロコンピュータ15から出力される信号に基づいて、バルブ4の開閉を行なうバルブ駆動部14とを備えている。
【0027】
ここで、マイクロコンピュータ15は、CPU(中央処理装置)、ROMやRAMなどの記憶手段21、入出力ポート、タイマ、A/Dコンバータなどを内蔵しており、このCPUが記憶手段21から動作用プログラムを読み出すことによって、本願発明の定在波検出手段16、人体検出手段17、尿流検出処理部18、周波数解析手段19及び演算手段20として動作する構成となっている。
【0028】
そして、増幅部12の出力信号とHPF増幅部13の出力信号を、それぞれマイクロコンピュータ15によって、デジタル的に信号処理し、それによりドップラーセンサ5から出力される差分信号を解析して、人体検知や流水検知などの検知制御を行う構成としている。以下、制御部6でのデジタル信号処理について具体的にその動作について説明する。
【0029】
まず、定在波検出手段16及び人体検出手段17について説明した後、尿流検出処理部18及び周波数解析手段19について説明する。
定在波検出手段16は、増幅部12から出力される信号から定在波信号を検出するものであり、ローパスフィルタ回路(交流成分除去回路)、位相シフト回路、全波整流回路、加算回路などから構成される。
【0030】
増幅部12の出力信号は、定在波信号である直流成分とドップラー信号である交流成分から構成されており、定在波検出手段16のローパスフィルタ回路によってドップラー信号成分を除去することによって定在波信号が抽出される。すなわち、増幅部12の出力信号から交流成分を除去するのである。
【0031】
この定在波信号は、ドップラーセンサ5と検出対象物(人体又は尿流)との距離に応じてそのレベルが変化する。すなわち、定在波信号の電圧レベルは、ドップラーセンサ5から検出対象物までの距離が近いほど大きくなっていく。
【0032】
そして、この定在波検出手段16は、人体検出用の定在波信号を生成する際に、まず、定在波検出手段16のローパスフィルタ回路から出力される定在波信号の位相をシフトした信号をシフト回路によって生成する。
【0033】
次に、定在波検出手段16は、このように位相がシフトされた定在波信号を全波整流回路によって全波整流すると共に、定在波検出手段16のローパスフィルタ回路から出力される位相シフトされていない定在波信号を全波整流回路で全波整流する。
【0034】
その後、定在波検出手段16は、このように全波整流した2つの定在波信号を加算回路によって加算して定在波合成信号を生成し、この定在波合成信号を人体検出用の定在波信号として人体検出手段17へ出力する。
【0035】
人体検出手段17は、定在波検出手段16から入力される人体検出用の定在波信号を用いて、小便器2を使用する使用者(人体)の有無を検出するものであり、人体検出手段として機能するものである。
【0036】
すなわち、定在波検出手段16によって生成された定在波信号は、ドップラーセンサ5と検出対象物である人体との距離に応じた電圧レベルの信号となることから、人体検出手段17は、この電圧レベルを検出することにより、ドップラーセンサ5と人体との距離を検出することができる。
【0037】
そのため、この人体検出手段17は、定在波検出手段16から入力される定在波信号の電圧レベルと、予め設定した所定の閾値とを比較する演算処理を行い、定在波信号の電圧レベルが設定した閾値よりも大きい場合に、使用者が存在すると判断することができる。
【0038】
また、HPF増幅部13、尿流検出処理部18は、尿流検知に必要な80〜180Hzの周波数帯域の差分信号を周波数帯に応じたサンプリング周期で抽出するように信号処理する。
【0039】
本実施形態における尿流検出処理部18は、図4に示すように、HPF増幅部13の出力信号のサンプリングを行うサンプリング手段23、ドップラー信号の周波数を解析する周波数解析手段19、ドップラー信号から尿流検出に必要な周波数成分のみを抽出する尿流検出フィルタ25(ここではデジタルフィルタを使う用途の名称)、サンプリング手段23のサンプリング周期を周波数解析手段19の出力に応じて変更するサンプリング周期変更手段22、尿流検出フィルタ25の通過帯域幅を周波数解析手段19の出力に応じて変更するフィルタ周波数変更手段24、尿流検出フィルタ25の出力と所定の閾値を比較し尿流の有無を判断する尿流検出閾値比較手段26とを備えている。
【0040】
また、本実施形態における周波数解析手段19は、図5に示すように、尿流検出処理部18のサンプリング手段23の出力を3つの周波数区分に分別するバンドパスフィルタ27、28、29(以下、「BPF」とする。)、BPF27、28、29の出力を比較し最も信号の大きな周波数帯を識別する比較手段30とを備えている。以下、尿流検出処理部18の信号処理について具体的にその動作について説明する。
【0041】
例えば、HPF増幅部13の出力信号に含まれる尿流信号が100Hzであるとする。まず、尿流検出処理部18のサンプリング手段23によりドップラー信号のサンプリングを行う。この段階では尿流信号の周波数は未知であるため、80〜180Hzまでの信号はすべて検出できるサンプリング周期でサンプリングを行う必要がある。ここでは、1ms周期でサンプリングを行ことにする。サンプリング手段23の出力は尿流検出フィルタ25へ入力される。尿流検出フィルタ25はバンドパスフィルタになっており、ここでは80〜180Hzの周波数帯を通過させ、尿流検値に必要な周波数帯を得ることができる。尿流検出フィルタ25の出力である尿流信号の電圧レベルを尿流検出閾値比較手段26により所定の閾値と比較し、所定の閾値よりも大きい場合は尿流が存在すると判断され、尿流検知確定となる。
【0042】
尿流検知が確定すると、尿流検出フィルタ25及び尿流検出閾値比較手段26の処理と並行して、サンプリング手段23の出力は周波数解析手段19にて一定時間周波数解析されることになる。サンプリング手段23の出力信号を、80〜180Hzの周波数帯を3段階に分割したBPF27(通過帯域幅:80〜110Hz)、28(通過帯域幅:110〜160Hz)、29(通過帯域幅:160〜180Hz)に通す処理を所定の時間行い、それらの出力信号の最大値を比較手段30により比較し、尿流信号の主な周波数帯を判断する。ここでは周波数判断処理の時間を1sとする。尿流信号の周波数は100HzであるためBPF27の出力の最大値が最も大きくなり、尿流信号の周波数帯は80〜110Hzであると判断され、その結果をサンプリング周期変更手段22、とフィルタ周波数変更手段24、へ出力する。
【0043】
周波数解析手段19から出力された周波数解析結果に応じて、サンプリング周期変更手段22はサンプリング手段23のサンプリング周期を検出精度に影響しない範囲で遅くするように動作する。例えば尿流信号の周波数帯が80〜110Hzの場合は3ms周期、110〜160Hzの場合は2ms周期、160〜180Hzの場合は1ms周期でサンプリングを行うようにする。この場合はサンプリング周期変更手段22はサンプリング手段23が3ms周期でサンプリングするように動作し、サンプリング手段23は3ms周期でHPF増幅部13の出力信号をサンプリングする。
【0044】
サンプリング手段23の出力は、尿流検出フィルタ25を通すことで尿流信号が抽出される。バンドパスフィルタである尿流検出フィルタ25は、その通過帯域幅をフィルタ周波数変更手段24により周波数解析手段19の出力に応じて変更することができ、その通過帯域幅は80〜110Hz、110〜160Hz、160〜180Hzの3つから尿流信号の周波数に応じて選択される。ここでは尿流検出フィルタ25は80〜110Hzのバンドパスフィルタとなる。なお、周波数帯に応じてサンプリング手段23のサンプリング周期及び尿流検出フィルタ25の通過帯域幅の変更が終了した後は、BPF27、28、29、比較手段30の処理を停止する。
【0045】
尿流検出フィルタ25の出力である尿流信号の電圧レベルを尿流検出閾値比較手段26により所定の閾値と比較し、所定の閾値よりも大きい場合は尿流が存在すると判断する。すねわち、尿流検知に必要な80〜180Hzの信号を周波数に応じたサンプリング周期で抽出することができ、常時一定の周期でサンプリングする場合と比較するとサンプリングに必要な消費電力を削減することが可能となる。
【0046】
なお、尿流信号の周波数に応じてサンプリング手段23のサンプリング周期を変更後に尿流信号の電圧レベルが所定の閾値を下回った場合は、サンプリング周期変更手段22、フィルタ周波数変更手段24によりサンプリング手段23のサンプリング周期及び尿流検出フィルタ25の通過帯域幅を初期の値(ここではサンプリング周期1ms、フィルタ周波数80〜180Hz)に戻し、尿流停止を確認する。再度尿流を検知した場合は、BPF27、28、29、比較手段30の周波数判別から処理を繰り返す。
【0047】
以上のように構成された小便器洗浄装置において、尿流検出精度に影響を与えることなく余分なサンプリングを減らすことができ、消費電力の削減を図っている。その動作について、以下図6、図7に基づいて具体的に説明する。
【0048】
図6は本実施形態の小便器洗浄装置における人体検知、尿流検知の動作タイミングチャートを示す図、図7はサンプリング周期変更の様子を示す概略図である。
【0049】
この小便器洗浄装置1では、比較的消費電力の小さい定在波検出手段16及び人体検出手段17により、定在波信号を用いて常時小便器2の使用者を検出する人体検出を行っており、人体検出手段17により人体の存在が検出されるまでの間、尿流検出処理部18による尿流検出動作は行わないようにしている。
【0050】
ここで、図6を用いて説明すると、使用者(人体)有無の状態、尿流の検出出力の有無、人体検出処理(定在波信号)のON/OFF状態、尿流検出処理(ドプラー信号)のON/OFF状態の変化とそれぞれの動作を示している。
まず、この人体検出手段17が使用者の存在を検出すると、使用者信号が無しから有りへ変化する。それに連動して、尿流検出処理部18は、ドップラー信号を用いた尿流検出処理(ドプラー信号)の動作をONし、サンプリング手段23は1ms周期でサンプリングを行い、尿流検出フィルタ25により80〜180Hzの尿流信号の検出を行う。
【0051】
次に、この尿流検出処理部18が尿流の存在を検出すると、尿流有りの処理を開始する。そして、周波数解析手段19の処理を開始する。尿流検出から1sの間1msのサンプリング周期でサンプリングを行い、尿流信号の周波数帯域の判別を行う。(ここでは尿流有り状態になってから50msで検出完了している。)ここで尿流検出処理は、尿流検出中なのでサンプリング周期3ms、尿流検出フィルタ80〜110Hzとして消費電流を低くなるようにする。そして、そのサンプリング手段23のサンプリング周期及び尿流検出フィルタ25の通過帯域幅を尿流信号の周波数に合わせて処理を継続する。サンプリング周期の変更は図7にあるように受信信号を、最初1ms周期で、次に3ms周期でサンプリングしている状態を示している。
【0052】
その後、尿流検出が途切れる(尿流有りから無しに変化)と、尿流検出処理は、サンプリング手段23のサンプリング周期及び尿流検出フィルタ25の通過帯域幅を初期の値(サンプリング周期3ms、尿流検出フィルタ80〜110Hz)に変更し、人体検出が途切れるまで尿流検出動作を継続する。そして、人体検出が途切れたら(使用者有りから無しに変化)、尿流検出処理を停止(OFF)する。
【0053】
また、図8、図9、図10に示す動作フローチャートを用いて各動作について説明を行う。
【0054】
まず図8について、便器洗浄装置において電源が投入されると、マイクロコンピュータ15は、内部のメモリからプログラムを読み出し、人体検知手段として機能が開始する。なお、人体検知手段は、定在波検出手段16と人体検出手段17から構成され、マイクロ波ドップラーセンサ5から抽出される定在波信号を用いて、人体の有無の検出を開始する処理を行う。(ステップS1)
【0055】
次にステップ2において人体検出手段17が定在波信号により人体検出したか否かの判断を行い、マイクロコンピュータ15は人体検出したと判断した場合に処理をステップS3へ移し、人体検出していないと判断した場合に、人体検出をするまでステップS2の処理を繰り返し行う。
【0056】
次に、ステップS3においてマイクロコンコンピュータ15は、尿流検出処理部18にて差分信号のサンプリングを行うサンプリング手段23のサンプリング周期をa、尿流信号の周波数成分を抽出する尿流検出フィルタ25の通過帯域幅をfd〜faに設定し、その後、処理をステップS4へ移す。なお、サンプリング周期a及び尿流検出フィルタの通過帯域幅は、尿流信号の周波数範囲をすべて検出可能である必要がある。上記実施形態においては、a=1ms、fa=180Hz、fd=80Hzとしている。
【0057】
次に、ステップS4においてマイクロコンコンピュータ15は、尿流検出処理部18に尿流検出動作を開始させる処理を行い、その後、処理をステップS5へ移す。
【0058】
次に、ステップS5においてマイクロコンピュータ21は、尿流検出処理部18がドップラー信号により尿流検出が確定したか否かの判断を行い、尿流検出が確定したと判断した場合に処理をステップS6へ移行し、処理が確定していないと判断した場合に処理をステップS7へ移す。
【0059】
次に、ステップS6においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出タイマをスタートさせる処理を行い、その後、処理を図9に示すステップS8へ移す。なお、フローチャート中の記号(t)は、尿流検出タイマのカウント値を示すものである。
【0060】
また、ステップS7においてマイクロコンピュータ15は、人体検出手段17が定在波信号により人体検出したか否かの判断を行い、人体検出したと判断した場合に処理をステップS5へ移し、人体検出していないと判断した場合に処理をステップS2へ移す。
【0061】
次に図9に示すように、ステップS8においてマイクロコンピュータ15は、周波数解析手段19による周波数判別処理をう。その後、処理をステップS9へ移す。この周波数判別処理については、後に図10を参照して具体的に説明する。
【0062】
次に、ステップS9においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出処理部18にて差分信号のサンプリングを行うサンプリング手段23のサンプリング周期をx、尿流信号の周波数成分を抽出する尿流検出フィルタ25の通過帯域幅をfy〜fxに設定し、その後、処理をステップS10へ移す。なお、変数x、fx、fyの値は、ステップS8の周波数判別処理にて決定される。
【0063】
次に、ステップS10においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出処理部18がドップラー信号により尿流検出が確定したか否かの判断を行い、尿流検出が確定したと判断した場合に尿流検出が確定しないと判断されるまでステップS10の処理を繰り返し行い、処理が確定していないと判断した場合に処理をステップS11へ移す。
【0064】
次に、ステップS11においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出タイマをストップさせる処理を行い、その後、ステップS12へ移す。
【0065】
次に、ステップS12においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出処理部18にて差分信号のサンプリングを行うサンプリング手段23のサンプリング周期をa、尿流信号の周波数成分を抽出する尿流検出フィルタ25の通過帯域幅をfd〜faに設定し、その後、処理をステップS12へ移す。上記実施励では、a=1ms、fa=180Hz、fd=80Hzとする。
【0066】
次に、ステップS13においてマイクロコンピュータ15は、人体検出手段17が定在波信号により人体検出したか否かの判断を行い、人体検出したと判断した場合に処理をステップS14へ移し、人体検出していないと判断した場合に処理をステップS16へ移す。
【0067】
次に、ステップS14においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出処理部18がドップラー信号により尿流検出が確定したか否かの判断を行い、尿流検出が確定したと判断した場合に処理をステップS15へ移し、処理が確定していないと判断した場合に処理をステップS13へ移す。
【0068】
次に、ステップS15においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出タイマを再スタートさせる処理を行い、その後、ステップS8へ移す。
【0069】
また、ステップS16においてマイクロコンピュータ15は、尿流検出処理部18にて行う尿流検出動作を停止させる処理を行い、その後、処理をステップS17へ移す。
【0070】
また、ステップS17においてマイクロコンピュータ15は、(t)が1s以上であるか否かの判断を行い、1s以上であると判断した場合に処理をステップS18へ移し、1s以上でないと判断した場合に処理をステップS19へ移す。
【0071】
次に、ステップS18においてマイクロコンピュータ15は、バルブ駆動部14に給水バルブ4の開閉制御を行わせることにより、小便器2へ洗浄水を供給する便器洗浄処理を行い、その後、処理ステップをS19へ移す。
【0072】
次に、ステップS19においてマイクロコンピュータ15は、尿流検知タイマをリセットする処理を行う。
【0073】
そして、小便器洗浄装置1のマイクロコンピュータ15は、電源が投入されている間、これらステップS1〜S19の処理を繰り返し実行するようにしている。
【0074】
次に、図10に示すフローチャートを参照して、マイクロコンピュータ15が行う周波数判別処理について具体的に説明する。
【0075】
この周波数判別処理においてマイクロコンピュータ15は、まず周波数解析手段19のBPF27、28、29において、サンプリング手段23にてサンプリングされた差分信号のデータを3つのバンドパスフィルタ1、2、3(通過帯域幅:fb〜fa, fc〜fb, fd〜fc)に所定時間通す処理を行い、それぞれ出力信号の最大値をA、B、Cとして出力する。(ステップS20)なお、上記実施形態においては、fa=180Hz、fb=160Hz、fc=110Hz、fd=80Hzとし、フィルタ処理を行う時間は1sとする。この処理が完了すると、処理ステップをS21へ移す。
【0076】
次に、ステップS21においてマイクロコンピュータ15は、AがBより大きいか否かの判断を行い、Aが大きいと判断した場合は処理ステップをS22へ移し、Aの方が大きいと判断しない場合は処理ステップをS23へ移す。
【0077】
次に、ステップS22においてマイクロコンピュータ15は、AがCより大きいか否かの判断を行い、Aが大きいと判断した場合は処理ステップをS24へ移し、Aが大きいと判断しない場合は処理ステップをS26へ移す。
【0078】
また、ステップS23においてマイクロコンピュータ15は、BがCより大きいか否かの判断を行い、Bが大きいと判断した場合は処理ステップをS25へ移し、Bが大きいと判断しない場合は処理ステップをS26へ移す。
【0079】
ステップS24においてマイクロコンピュータ15は、aを変数x、faを変数fx、fbを変数fyに設定し、その後、処理ステップを図9に示すS10へ移す。なお、本実施形態においては、a=1ms、fa=180Hz、fb=160Hzとしている。
【0080】
ステップS25においてマイクロコンピュータ15は、bを変数x、fbを変数fx、fcを変数fyに設定し、その後、処理ステップを図9に示すS10へ移す。なお、本実施形態においては、b=2ms、fb=160Hz、fb=110Hzとしている。
【0081】
ステップS26においてマイクロコンピュータ15は、cを変数x、fcを変数fx、fdを変数fyに設定し、その後、処理ステップを図9に示すS10へ移す。なお、本実施形態においては、c=3ms、fb=110Hz、fb=80Hzとしている
【0082】
このように、ステップS20〜S26においては、3つのバンドパスフィルタ1、2、3を一定時間通した出力のそれぞれの最大値A、B、Cの中で最大のものを検出し、その結果に基づいてサンプリング手段23のサンプリング周期及び尿流検出フィルタ25の通過帯域幅を、サンプリング周期変更手段22、フィルタ周波数変更手段24によりそれぞれ変更を行う処理を行っている。
【0083】
このような処理をマイクロコンピュータ15が行うことにより、本実施形態の小便器洗浄装置1では、図7に示すように、尿流検出の精度を落とすことなくサンプリング周期を遅くすることができ、消費電力の低減を図ることができる。
【0084】
また、上記実施形態では、周波数判別処理において複数のバンドパスフィルタを通すことで周波数帯の識別を行っているが、FFT解析により周波数の識別を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施形態に係る便器洗浄装置の全体的な構成を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係るドップラーセンサの機能構成を示す図。
【図3】本発明の実施形態に係る制御部の構成を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係る尿流検出処理部の構成を示す図。
【図5】本発明の実施形態に係る周波数解析手段の構成を示す図。
【図6】本発明の実施形態に係る人体検知処理、尿流検知処理の実施タイミングを示すタイミングチャートを示す図。
【図7】本発明の実施形態に係るサンプリング周期変更の概略を示す図。
【図8】実施形態の便器洗浄装置におけるマイクロコンピュータが実施する処理のフローチャートを示す図。
【図9】実施形態の便器洗浄装置におけるマイクロコンピュータが実施する処理のフローチャートを示す図。
【図10】実施形態の便器洗浄装置におけるマイクロコンピュータが実施する処理のフローチャートを示す図。
【符号の説明】
【0086】
小便器洗浄装置
小便器
2a.ボール部
3.給水管
4.給水バルブ
5.ドップラーセンサ
6.制御部
7.排水路
8.発振回路
9.送信回路
10.受信回路
11.差分検出回路
12.増幅部
13.HPF増幅部
14.バルブ駆動部
15.マイクロコンピュータ
16.定在波検出回路
17.人体検出手段
18.尿流検出処理部
19.周波数解析手段
20.演算手段
21.記憶手段
22.サンプリング周期変更手段
23.サンプリング手段
24.フィルタ周波数変更手段
25.尿流検出フィルタ
26.尿流検出閾値可変手段
BPF
30.比較手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器と、前記便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、前記便器へ排泄される尿流を検出するためのドップラーセンサと、前記ドップラーセンサのセンサ出力を演算処理するマイクロコンピュータを有しその出力に応じて前記給水バルブの開閉制御を行う制御部とからなり、前記マイクロコンピュータは前記センサ出力より尿流検出を行う尿流検出処理部とを備え、前記尿流検出処理部は前記センサ出力を所定のサンプリング周期でデジタル処理するサンプリング手段と、前記サンプリング手段の出力より尿流信号を抽出する尿流検出フィルタ手段と、前記センサ出力に含まれる周波数を測定する周波数解析手段と、前記周波数解析手段の出力に応じて前記サンプリング周期を設定変更するサンプリング周期変更手段とを有することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項2】
請求項1記載の便器洗浄装置において、前記周波数解析手段は複数の周波数帯域に対応した複数の周波数フィルタ手段を有するとともに、前記センサ出力を前記複数の周波数フィルタ手段を通しそれぞれの周波数フィルタ手段の最大出力に対応する周波数帯域を出力することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の便器洗浄装置において、前記尿流検出処理部は前記尿流検出フィルタ手段のフィルタ周波数を変更するフィルタ周波数変更手段を有するとともに、前記周波数解析手段の出力に応じて、前記フィルタ周波数を変更することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一に記載の便器洗浄装置において、前記尿流検出処理部が尿流無を出力すると、前記サンプリング周期変更手段は前記サンプリング周期を所定のサンプリング周期に再設定することを特徴とする便器洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−202246(P2008−202246A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36956(P2007−36956)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】