説明

便器用洗浄剤組成物

【課題】便器の表面に塗布した後も、付着物の形態が安定しており、繰り返しのフラッシュに対する徐溶性にも優れた便器用洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)特定のポリアルキレングリコール21〜50質量%、(b)塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウム、並びに(c)水を含有し、(b)と(c)の質量比(b)/(c)が0.08〜0.7である、便器用洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器用洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗便器の洗浄に関して、従来、タンク内の洗浄水に洗浄剤有効成分を溶出させて、持続的に便器の汚れを洗浄し、清潔な状態を保たせることを目的とした洗浄剤組成物が知られている。これらは、トイレ用のオートクリーナーとして知られている。例えば特許文献1にはゲル化剤として、カラギーナン、洗浄剤、及び香料を配合してなる、水に対して徐溶性の洗浄ゲル組成物が記載されている。また、特許文献2には塩化カルシウムと界面活性剤等を含有する洗浄剤組成物が記載されている。塩化カルシウムの吸湿特性により当該組成物が吸水し、吸水された水が界面活性剤等の薬剤を溶解し、洗浄剤として対象物に作用する。また、特許文献3には、製剤の硬質表面への固着性の持続のための非イオン性界面活性剤、起泡性のためのアニオン界面活性剤、及び製剤の比重を調整するための硫酸カルシウムを含有する投入式固形芳香洗浄剤が記載されている。
【0003】
また、便器等に直接塗布して有効成分をフラッシュ水で徐放させるタイプの洗浄剤も提案されている。特許文献4には、容器から吐出したら硬質表面に付着し続ける洗浄剤組成物、及び、容器から吐出した洗浄成分が、硬質表面に対し付着固化した後、水によって徐溶化しながら有効成分を徐放することによって洗浄する洗浄方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−162799号公報
【特許文献2】特開2002−3885号公報
【特許文献3】特開平10−140186号公報
【特許文献4】特開2005−187511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、近年タンクを有さない便器が増えつつある。このような便器にはタンク内の洗浄水に洗浄剤が徐溶する、従来から普及しているトイレ用オートクリーナーを用いることはできない。そのため、タンクを有さない便器にも適用可能なトイレ用オートクリーナー用組成物、及びそのような組成物を使用した洗浄方法が求められている。しかしながら、特許文献1乃至3では洗浄剤組成物の便器表面への組成物の付着については何ら記載されていない。一方、特許文献4に記載されている水溶解遅延成分と洗浄成分を含む組成物は、便器表面に塗布して使用できるものであるが、塗布後、長時間便器表面で付着した状態で放置されることで、水分が揮発により結晶が生じ、透明性を失い、さらには難溶化や崩落を起こし、本来、発揮されるべき性能を発揮できなくなってしまう。
【0006】
従って、本発明の課題は、便器への表面に塗布した後も、付着物の形態が安定しており、繰り返しのフラッシュに対する徐溶性にも優れた便器用洗浄剤組成物を提供することである。更に、本発明の課題は、洗浄力の維持性にも優れた便器用洗浄剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)下記一般式(a1)で表されるポリアルキレングリコール〔以下、(a)成分という〕21〜50質量%、(b)塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウム〔以下、(b)成分という〕、並びに(c)水〔以下、(c)成分という〕を含有し、(b)と(c)の質量比(b)/(c)が0.08〜0.7である、便器用洗浄剤組成物に関する。
1a−O−〔(PO)m/(EO)n〕−H (a1)
〔式中、R1aは、炭素数8〜22の炭化水素基であり、POはプロピレンオキシ基、EOはエチレンオキシ基であり、m、nはそれぞれ、PO、EOの平均付加モル数を示し、それぞれ0〜100の数であり、m、nは同時に0にならない数である。POとEOの付加順序は問わない。また、“/”は、POとEOの付加形態がブロックでもランダムでもよいことを意味する。〕
【0008】
また、本発明は、下記1〜2の工程を含む便器の洗浄方法に関する。
工程1:上記本発明の便器用洗浄剤組成物を便器に塗布する工程。
工程2:工程2で塗布した組成物に水を適用して(a)と水とを含む洗浄媒体を生じせしめ、該洗浄媒体を便器に適用する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、便器への表面に塗布した後も、付着物の形態が安定しており、繰り返しのフラッシュに対する徐溶性にも優れた便器用洗浄剤組成物が提供される。更に、本発明によれば、洗浄力の維持性にも優れた便器用洗浄剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(a)成分>
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(a)成分として、下記一般式(a1)で表されるポリアルキレングリコールから選ばれる化合物を含有する。(a)成分は洗浄成分であるとともに、本発明の便器用洗浄剤組成物の便器表面への付着性、付着後の形態安定性、及び洗浄力の持続性にも影響する成分である。
1a−O−〔(PO)m/(EO)n〕−H (a1)
〔式中、R1aは、炭素数8〜22の炭化水素基であり、POはプロピレンオキシ基、EOはエチレンオキシ基であり、m、nはそれぞれ、PO、EOの平均付加モル数を示し、それぞれ0〜100の数であり、m、nは同時に0にならない数である。POとEOの付加順序は問わない。また、“/”は、POとEOの付加形態がブロックでもランダムでもよいことを意味する。〕
【0011】
一般式(a1)中、R1aは炭素数8〜22の炭化水素基である。本発明の便器用洗浄剤組成物の便器表面への付着性、付着後の形態安定性、及び洗浄力の持続性の観点から、R1aは炭素数8〜22の直鎖又は分岐のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、炭素数8〜22の直鎖のアルキル基またはアルケニル基がより好ましく、炭素数8〜22の直鎖のアルキル基が更に好ましい。又、本発明の便器用洗浄剤組成物の便器表面への付着性、付着後の形態安定性、及び洗浄力の持続性の観点から、R1aの炭素数は8以上であり、好ましくは12以上である。また、本発明の便器用洗浄剤組成物の洗浄性能及び便器に付着後の形態安定性の観点から、R1aの炭素数は22以下であり、好ましくは18以下であり、より好ましくは14以下である。
【0012】
また、(a)成分は本発明の便器用洗浄剤組成物の便器表面への付着性、付着後の形態安定性、及び洗浄力の持続性の観点から、一般式(a1)中、R1aが異なる炭素数の炭化水素基を有する化合物の混合物であっても良い。
【0013】
また、本発明の便器用洗浄剤組成物では、洗浄力の持続性の観点から、(a)成分中の、R1aの炭素数が12〜18である化合物の割合が、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは40〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。
【0014】
また、一般式(a1)中、mは0〜100の数である。便器表面への付着性、付着後の形態安定性、洗浄力、及び洗浄力の持続性の観点から、好ましくは30以下であり、より好ましくは5以下であり、より好ましくは1以下であり、更により好ましくは0である。
【0015】
また、一般式(a1)中、nは0〜100の数であり、かつnとmは同時に0にはならない。便器表面への付着性、及び付着後の形態安定性の観点から、nは0以上であり、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。洗浄力、及び洗浄力の持続性の観点から、100以下であり、好ましくは80以下であり、より好ましくは70以下であり、更に好ましくは50以下であり、より更に好ましくは30以下である。
【0016】
(a)成分は、一般式(a1)中のmが0、nが20〜80、更に20〜30の化合物が好ましい。
【0017】
<(b)成分>
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(b)成分として、塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムを含有する。(b)成分は吸湿性、又は潮解性を有し、塗布後の付着物の形態安定性ならびに透明性を維持する成分である。
【0018】
(b)成分は便器用洗浄剤組成物の塗布後の付着物の形態安定性並びに透明性の観点から、塩化カルシウムが好ましく、塩化カルシウム無水物及び塩化カルシウム二水和物がより好ましく、塩化カルシウム無水物が更に好ましい。
【0019】
<(c)成分>
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(c)成分として水を含有する。
【0020】
<便器用洗浄剤組成物>
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を特定の条件で含有することにより、トイレ用オートクリーナーとしての洗浄効果に加えて、便器用洗浄剤組成物の便器表面への付着性、便器用洗浄剤組成物の塗布後の優れた形態安定性により、優れた洗浄力の持続性を有している。
【0021】
この理由は定かではないが、(a)成分と(c)成分が適度な粘度のゲルを形成するため、便器用洗浄剤組成物の便器表面への付着性を発現する。更に吸湿性を有する(b)成分を(c)成分に対して特定の比率で含有することにより、(c)成分の揮散を防止し、付着した組成物の優れた形態安定性及び洗浄力の持続性を発現させていると考えられる。その際、後述の比較例で示したように、吸湿性を有する化合物であっても(b)成分に該当しない化合物では、本発明の効果が得られないことから、(b)成分は吸湿性とは異なる作用機構により特有の効果を発現させているものと推察される。
【0022】
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(a)成分の量は21〜55質量%である。ゲルの形成、及び便器への付着性の観点から21質量%以上であり、好ましくは25質量%以上であり、更に好ましくは35質量%以上であり、形態安定性、洗浄力維持性、及び付着後の透明性維持性の観点から、55質量%以下であり、好ましくは40質量%以下である。
【0023】
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(b)成分を付着後の形態安定性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上含有し、付着後の形態安定性、及び付着後の透明性を維持する観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。なお、本発明では、質量%や質量比を算出する(b)成分の質量は、無水物換算の質量とする。
【0024】
本発明の便器用洗浄剤組成物は、上記各成分とともに(c)成分として水を含有する。水の含有量は、便器用洗浄剤組成物の合計で100質量%となるように調整する量である。つまり、便器用洗浄剤組成物の残部は水である。
【0025】
本発明の便器用洗浄剤組成物の(b)成分と(c)成分の質量比(b)/(c)は0.08〜0.7である。(b)/(c)は付着後の形態安定性、及び付着後の透明性を維持する観点から0.08以上であり、好ましくは0.09以上であり、付着後の透明性を維持する観点から0.7以下であり、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、更に好ましくは0.2以下である。
【0026】
本発明の便器用洗浄剤組成物の(a)成分と(c)成分の質量比(a)/(c)は付着後の形態安定性、付着後の透明性の維持性及び徐溶性の観点から好ましくは0.3〜1.5であり、より好ましくは0.3〜1.0、更に好ましくは0.5〜1.0であり、特に好ましくは0.7〜0.9である。
【0027】
本発明の便器用洗浄剤組成物には、殺菌性を付与する目的で炭素数6〜18、好ましくは8〜14の炭化水素基を1つ又は2つ有する4級アンモニウム塩型の殺菌性を有するカチオン性界面活性剤〔以下、(d)成分という〕を配合しても良い。
【0028】
上記カチオン性界面活性剤としては、下記一般式(d1)で表されるカチオン性界面活性剤及び一般式(d2)で表されるカチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上のカチオン性界面活性剤が好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
〔式中、R1dは炭素数8〜18の炭化水素基又は
【0031】
【化2】

【0032】
(式中R5d、R6d、R7d、R9d、R10dはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基であり、R8d、R11d、R12dはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキレン基である。)で表わされる基を示し、R2d、R3dはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、R4dは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。Z-は陰イオン基であり、好ましくはハロゲンイオン、アミノ酸イオン、脂肪酸セッケンアニオン残基、炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を有するリン酸エステルアニオン残基、ホスホン酸エステルアニオン残基、スルホン酸エステルアニオン残基若しくは硫酸エステルのアニオン残基、又は重合度3以上のスチレンスルホン酸イオンを有するか若しくは置換基として炭化水素基を有することがある多環式芳香族化合物のスルホン化物のホルマリン縮合物を含有するアニオン性オリゴマー若しくはポリマーを示す。〕
【0033】
【化3】

【0034】
〔式中、R13d及びR14dはそれぞれ独立に炭素数6〜14、かつR13d及びR14dの合計炭素数が16〜26の長鎖アルキル基、長鎖アルケニル基又は長鎖ヒドロキシアルキル基を示し、R15d及びR16dは独立に炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシアルキル基又は−(OR17dn−OH(式中R17dは炭素数が2〜4のアルケニル基、nは1〜10の数を示す。)で表される基を示し、Z-は前記と同じ意味を示す。〕
【0035】
一般式(d1)中、R1dは、殺菌性の観点から、炭素数6〜18のアルキル基が好ましく、さらに炭素数8〜14のアルキル基が好ましい。一般式(d2)中、R13d及びR14dはそれぞれ独立に炭素数8〜12のアルキル基が好ましい。また、一般式(d1)及び(d2)中のZ-としては、ハロゲンイオンが好ましい。
【0036】
上記カチオン性界面活性剤の含有量は、殺菌性の点から、組成物中、0.1〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。
【0037】
本発明の便器用洗浄剤組成物は、(a)成分以外の洗浄成分〔以下、(e)成分という〕を含有することができる。洗浄成分としては界面活性剤が好ましく、その中でも、(a)成分以外の非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0038】
ここで好ましい(e)成分としては、(e−1)アルキルグリセリルエーテル型界面活性剤〔以下、(e−1)成分という〕、並びに、(e−2)両性界面活性剤〔以下、(e−2)成分という〕、(e−3)アルカノールアミド型界面活性剤〔以下、(e−3)成分という〕及び(e−4)アミンオキシド型界面活性剤〔以下、(e−4)成分という〕から選ばれる界面活性剤等が挙げられる。
【0039】
(e−1)成分としては、アルキル基の炭素数が6〜18のアルキルグリセリルエーテルを含有することが好ましい。具体的には下記一般式(e1)の化合物が好適である。
1e−O−(Gly)r−H (e1)
〔式中、R1eは炭素数6〜18のアルキル基を示し、Glyはグリセリンから2つの水素原子を除いた残基を示し、rは平均付加モル数であり、1〜4の数を示す。〕
【0040】
Glyで示される構造はグリセリンの1位と3位のヒドロキシ基が結合している−CH2CH(OH)CH2−で示される構造か、又はグリセリンの1位と2位のヒドロキシ基が結合している−CH(CH2OH)CH2−で示される構造であり、触媒や反応条件によって異なる。
【0041】
(e−1)成分の含有量は、組成物中、0.1〜10質量%、更に1〜5質量%が好ましい。
【0042】
(e−2)成分としては、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、及びイミダゾリン型界面活性剤が挙げられ、通常の洗浄組成物に用いられるものであれば何れを用いても良い。かかるベタイン型界面活性剤としては、例えば、ラルリルスルホベタイン等のスルホベタインや、ラウリルジメチルベタイン等のアルキルベタインや、ヤシ脂肪酸アミドプロピルベタイン等のアルキルアミドプロピルベタインや、2−ウンデシル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリニウムベタインが挙げられる。(e−2)成分の含有量はゲルの安定性の観点で、組成物中、0.1〜10質量%、更に1〜5質量%が好ましい。
【0043】
(e−3)成分としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルモノエタノールアミンなどのアルカノールアミンとラウリン酸、ミリスチン酸などの脂肪酸とのアミド化物が挙げられる。(e−3)成分の含有量はゲルの安定性の観点で、組成物中、0〜10質量%、更に0〜5質量%、より更に0〜1質量%が好ましい。
【0044】
(e−4)成分としては、N−アルカノイルアミノプロピル−N,N−ジアミノメチルオキシド(アルカノイルとしてはラウロイル又はミリスチロイル)、N−アルキル−N,N−ジアミノメチルオキシド(アルキル基としてはラウリル基又はミリスチル基)が挙げられる。(e−4)成分の含有量はゲルの安定性の観点で、組成物中、0.1〜10質量%、更に1〜5質量%が好ましい。
【0045】
本発明の洗浄剤組成物の(a)成分の含有量は、(a)成分、(d)成分、及び(e)成分の含有量の合計に対して、付着後の組成物の徐溶性の観点から、好ましくは30〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%である。これは、〔(a)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量+(d)成分の含有量+(e)成分の含有量〕×100で求められる比率である。
【0046】
本発明の便器用洗浄剤組成物には、洗浄性を向上する目的でビルダー成分〔以下(f)成分という〕を配合しても良い。ビルダー成分としては、以下のものが挙げられる。
【0047】
(i)アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン等のアミノ酸、及びそのアルカリ金属塩又はアルカノールアミン塩。
【0048】
(ii)ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジエンコル酸等のアミノカルボン酸、及びそのアルカリ金属塩又はアルカノールアミン塩。
【0049】
(iii)ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキシメチル酒石酸等の有機酸、及びそのアルカリ金属塩又はアルカノールアミン塩。
【0050】
これらの中でも、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸等のアミノカルボン酸、及びこれらの塩が好ましい。塩の形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩が好ましい。
【0051】
上記ビルダー成分の含有量は、洗浄力の点から、組成物中、0.1〜5質量%が好ましく、特に1〜3質量%が好ましい。
【0052】
本発明において、上記一般式(1)及び(2)で示したカチオン性界面活性剤と、上記(i)〜(iii)に記したビルダー成分を組み合わせて使用することで、便器水封部に発生するリング汚れの防止効果がより向上する。そのため、カチオン性界面活性剤とビルダー成分を組み合わせて使用することが好ましい。カチオン性界面活性剤とビルダー成分の質量比は、カチオン性界面活性剤/ビルダー成分で0.1〜10であることが好ましく、0.5〜2の範囲であることが更に好ましい。この理由については明確ではないが、ビルダー成分とカチオン性界面活性剤が弱い相互作用を起こし、カチオン性界面活性剤が便器表面に吸着安定化することを防ぐことにより、リング汚れ発生の起因となる水封部内で殺菌効果を発現すると考えられる。
【0053】
本発明の便器用洗浄剤組成物は、便器への付着性及び便器表面上での形態安定性の観点から、好ましくは25℃での粘度が10Pa・s以上である。組成物の粘度は、例えば、Anton Paar社製のPhysica MCR―301、プレートとしてCP50―1(Series3275)を用い、せん断速度が0.1s-1の条件で測定することができる。25℃での粘度は、便器への付着性及び便器表面上での形態安定性の観点より、10Pa・s以上、1,000Pa・s以下がより好ましい。
【0054】
また、本発明の便器用洗浄剤組成物は水に対して徐溶性であることが好ましい。ここで、水に対して徐溶性であるとは、便器(TOTO製 C730B)内のリムから約3cmの所に質量0.60〜0.65gを取り、直径12〜15mm、厚さ約5mmの円盤状に組成物を塗布し、2分間隔で繰り返しフラッシュを行った場合に完全に付着後の組成物がなくなるまで6回以上、好ましくは15回以上のフラッシュを要することである。この場合、組成物を1つの便器の複数の箇所、好ましくは2箇所に塗布して試験を行い、各組成物が消失するまでのフラッシュ回数の平均値を採用してもよい。また、フラッシュ回数が100回以上であれば、十分な徐溶性を有すると判断できることから、フラッシュ回数の上限を100回とすることができる。
【0055】
本発明の便器用洗浄剤組成物の25℃でのpHは、好ましくは2〜13、より好ましくは3〜11、特に好ましくは3〜7である。pHは組成物を蒸留水等で例えば、界面活性剤濃度が1質量%になるまで希釈したものの値を、(株)堀場製作所pHメータD−52S、pH電極6367−10Dを用いて測定することができる。
【0056】
<便器の洗浄方法>
本発明の便器の洗浄方法は、本発明の洗浄剤組成物を便器に塗布し、塗布されたゲル状の組成物に水を適用して(a)成分のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを溶出させて、便器を洗浄するものである。具体的には、下記1〜2の工程を含む。
工程1:上記本発明の便器用洗浄剤組成物を便器に塗布する工程。
工程2:工程2で塗布した組成物に水を適用して(a)成分と水とを含む洗浄媒体を生じせしめ、該洗浄媒体を便器に適用する工程。
【0057】
工程1での洗浄剤組成物の便器への塗布は、ヘラなど道具を用いて塗布する方法、注射器様の道具に充填し押し出して塗布する方法等が挙げられる。洗浄剤組成物の塗布量は、便器表面への1回あたりの使用量が2〜15gとなるようにすることが好ましく、より好ましくは3〜10gである。洗浄力の持続性の観点より2g以上が好ましく、洗浄剤組成物の使用効率の観点より15g以下が好ましい。
【0058】
工程2では、工程1で塗布した組成物に水を適用(例えば流水を接触させる等)して(a)成分と水とを含む洗浄媒体を生じせしめ、該洗浄媒体を便器に適用する。工程1では、好ましくは粘度が25℃で10Pa・s以上の本発明の組成物を塗布する。工程1で塗布された本発明の便器用洗浄剤組成物は、一般的な水洗トイレでのフラッシュ1回あたりの洗浄であれば、水との接触により、剥離、過剰な溶解、粘度の低下等は生じず、塗布箇所に滞留して水との接触により(a)成分を含む洗浄成分が放出されて便器の洗浄が行われる。すなわち、(a)成分と水とを含む洗浄媒体が便器と接触することで洗浄が行われる。(a)成分と水を含む洗浄媒体は、ゲルからの水溶性成分を適宜含むことができる。本発明の洗浄剤組成物は、便器用洗浄媒体用組成物、便器用洗浄剤組成物用組成物、或いは便器用オートクリーナー用組成物であってもよい。
【0059】
本発明では、洗浄剤組成物を、腰掛式水洗便器(いわゆる洋式便器)のリム部分(縁裏部分)に塗布することが好ましい。通常、腰掛式水洗便器では、便器本体のボウルの内壁面を洗浄するための洗浄水の供給口が設けられ、多くは、便器周辺の縁裏に水の排出口が設けられている。本発明では、工程1で、腰掛式水洗便器から排出される洗浄水の流路下流に本発明の洗浄剤組成物を塗布してゲルを形成させることが好ましい。
【実施例】
【0060】
<実施例1及び比較例1>
表1、2に示す各成分を用い、実施例、比較例の便器用洗浄剤組成物を得た。各便器用洗浄剤組成物を用い、下記の方法により塗布、付着後の組成物の形態安定性、透明度維持性、及び徐溶性の試験を行った。
【0061】
なお、表中、各種評価の欄に以下の記号が記載されている組成物については、それぞれの理由により評価を行えなかった。
(注1) 配合組成物がゲルにならず、便器表面に付着しなかった。或いは、配合組成物をシャーレ表面に塗布直後に流れてしまった。
(注2) 配合組成物に沈澱が生じて塗布できなかった。
(注3) 配合組成物が分離して評価できなかった。
【0062】
(形態安定性)
ガラス製シャーレ中央に組成物0.5gを秤量し山型(直径14mm、高さ10mm程度)に塗りつけた。このシャーレを30°の傾斜をつけて、20℃、70%RHの室内に静置する。7日後の組成物の形態を下記評価基準により評価した。
4;7日後の組成物の高さが8mm以上
3;7日後の組成物の高さが3mm以上8mm未満
2;7日後の組成物の高さが1mm以上3mm未満
1;7日後の組成物の高さが1mm未満
【0063】
(透明性の維持性)
次いで、形態安定性の試験においては、7日後の時点で最初に塗布した部分に残っている組成物の外観を観察し、下記評価基準により評価した。7日後の時点で最初に塗布した部分から移動した組成物、更に沈澱が生じて塗布できなかった配合組成物(前記注2)、分離して評価できなかった配合組成物(前記注3)については評価は行わなかった。
3;付着している組成物が透明(組成物中に不均一な濁りがなく、光を透過する状態)である
2;付着している組成物の一部が白濁している
1;付着している組成物の全体が白濁している
【0064】
(徐溶性)
便器(TOTO製 C730B)内の手前中央のリムから3cm水封部側の地点とそこからリムの延伸方向に5cm右側(リムから3cm)の2箇所に質量0.60〜0.65gを取り、直径12〜15mm、厚さ約5mmの円盤状に組成物を塗布し、繰り返しフラッシュを行った。フラッシュとフラッシュの間隔は2分とし、付着物が完全になくなるまでフラッシュを続け、その回数を徐溶性の尺度とした。ただし、フラッシュの上限は100回とした。この条件でフラッシュを行った場合、完全に付着後の組成物がなくなるまで6回以上、好ましくは15回以上のフラッシュを要するものが、徐溶性を有するものとなる。なお、表1、2には2箇所のフラッシュ回数の平均値を示した。
【0065】
(組成物の粘度)
Anton Paar社製のPhysica MCR―301、プレートとしてCP50―1(Series3275)を用い、せん断速度が0.1s-1の条件で測定した。その結果、実施例の組成物の25℃での粘度は全て10Pa・s以上、1,000Pa・s以下の範囲内にあった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表中の成分は以下のものである。また、pは平均付加モル数である。
*1 サニゾールC(花王株式会社製)
*2 エマノーン3199RV(花王株式会社製)
【0069】
実施例1−1〜1−3と比較例1−1〜1−2の結果より、(a)成分の含有量が所定の範囲内であれば、配合組成物が均一のゲルになるのに対し、(a)成分の含有量が本発明の範囲よりも少ない場合(比較例1−1)は、組成物はゲル状にならず、組成物を塗布しても便器表面上に滞留させることができないことが分かった。また、(a)成分の含有量が本発明の範囲よりも多い場合(比較例1−2)は、配合成分の一部が分離した不均一な状態となり、トイレ用オートクリーナーとして使用できないことが分かった。
【0070】
実施例1−4〜1−6と比較例1−3〜1−5の結果より、(b)/(c)質量比が本発明の範囲よりも小さい場合(比較例1−3、1−4)は、塗布、付着後の組成物の形態安定性及び透明性維持性が劣り、大きい場合(比較例1−5)は、組成物の一部が沈澱し、トイレ用オートクリーナーとして使用できないことが分かった。
【0071】
比較例1−6〜1−14の結果より、(b)成分を使用しない場合や、(b)成分の代わりに(b)成分以外の吸湿性のある化合物を用いても、トイレ用オートクリーナーとして使用できる組成物とはならないことが分かった。また、比較例1−14のように、塩素イオンを供給し得る塩化ナトリウムとマグネシウムイオンとを供給し得る硫酸マグネシウムを併用しても本発明の効果を得ることができず、本発明では(b)成分の化合物を用いることに意義があることがわかった。
【0072】
<実施例2及び比較例2>
実施例1で得られた便器用洗浄剤組成物を用いて、以下の方法で洗浄性能の指標として、汚れ付着防止性と汚れ除去性の評価を行った。
【0073】
(汚れ付着防止性及び汚れ除去性)
(1)前処理
便器(TOTO製 C730B)内のリムから約3cmの所に、質量0.60〜0.65gを直径12〜15mm、厚さ約5mmの円盤型に、組成物を3箇所塗布し、1度フラッシュを行い、除溶した組成物で便器内を処理する。
(2)試験
(2−1)試験1回目
前処理を行った後、0.6質量%のスダン IIで着色したオレイン酸を便器水封部の手前(正面)上部約10cm付近に4箇所(合計で0.1g)滴下し、着色したオレイン酸が滴下部への残留が、目視で認められたかどうかを確認した。このときの状態を汚れ防止付着性の評価とし、以下の5段階で評価した。次いで、フラッシュを1回行い、滴下したオレイン酸が水封部より上部に残留したかどうかで汚れ除去性を評価した。評価は以下の5段階で行った。
【0074】
(2−2)試験2回目〜試験5回目
1回目の試験終了後、前処理を行わずに引き続き2回目〜5回目の試験を行った。すなわち、0.6質量%のスダン IIで着色したオレイン酸を便器水封部の手前(正面)上部約10cm付近に4箇所(合計で0.1g)滴下し、オレイン酸が滴下部への残留が、目視で認められたかどうかを確認した。このときの状態を汚れ防止付着性の2回目の評価を行い、次いで、フラッシュを1回行い、滴下したオレイン酸が水封部より上部に残留したかどうかの汚れ除去性(2回目)を評価した。この操作を繰り返し行い、汚れ付着防止性、汚れ除去性の評価を合計5回目まで行なった。各回毎の汚れ付着防止性、汚れ除去性能を評価した。結果を表3に示す。
【0075】
(汚れ付着防止性の評価基準)
5;滴下部に付着がない(0箇所)
4;滴下部への付着が1箇所
3;滴下部への付着が2箇所
2;滴下部への付着が3箇所
1;滴下部への付着が4箇所
【0076】
(汚れ除去性の評価基準)
5;4箇所の何れにもオレイン酸の残留が確認できない。
4;4箇所のうち1箇所だけにオレイン酸の部分的な残留が認められる
3;4箇所のうち2〜4箇所にオレイン酸の部分的な残留が認められる
2;4箇所のうち1〜3箇所が滴下した状態とほぼ同じ状態でオレイン酸が残っている
1;4箇所全てで、滴下した状態とほぼ同じ状態でオレイン酸が残っている
【0077】
【表3】

【0078】
汚れ付着防止性試験及び汚れ除去性試験の結果、本発明の組成物は優れた汚れ付着防止性及び汚れ除去性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、便器への表面に塗布した後も、付着物の形態が安定しており、繰り返しのフラッシュに対する徐溶性にも優れた便器用洗浄剤組成物、及び当該組成物を用いた便器の洗浄方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(a1)で表されるポリアルキレングリコール21〜50質量%、(b)塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウム、並びに(c)水を含有し、(b)と(c)の質量比(b)/(c)が0.08〜0.7である、便器用洗浄剤組成物。
1a−O−〔(PO)m/(EO)n〕−H (a1)
〔式中、R1aは、炭素数8〜22の炭化水素基であり、POはプロピレンオキシ基、EOはエチレンオキシ基であり、m、nはそれぞれ、PO、EOの平均付加モル数を示し、それぞれ0〜100の数であり、m、nは同時に0にならない数である。POとEOの付加順序は問わない。また、“/”は、POとEOの付加形態がブロックでもランダムでもよいことを意味する。〕
【請求項2】
25℃における粘度が10Pa・s以上である請求項1記載の便器用洗浄剤組成物。
【請求項3】
(a)と(c)の質量比(a)/(c)が0.3〜1.5である請求項1又は2記載の便器用洗浄剤組成物。
【請求項4】
(b)を5〜25質量%含有する請求項1〜3何れか1項記載の便器用洗浄剤組成物。
【請求項5】
(a)が、一般式(a1)中のmが0、nが20〜80の化合物である請求項1〜4何れか1項記載の便器用洗浄剤組成物。
【請求項6】
下記1〜2の工程を含む便器の洗浄方法。
工程1:請求項1〜5の何れか1項記載の便器用洗浄剤組成物を便器に塗布する工程。
工程2:工程2で塗布した組成物に水を適用して(a)と水とを含む洗浄媒体を生じせしめ、該洗浄媒体を便器に適用する工程。

【公開番号】特開2013−32437(P2013−32437A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168916(P2011−168916)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】