説明

便器装置

【課題】停電時に手動でトラップ筒を上昇、下降させる際に、駆動モータに回生電流が流れて手動での回転が重くなってしまうのを防止する便器装置を提供する。
【解決手段】駆動モータMの正転・逆転によりトラップ筒の先端の下降・上昇を行う便器装置である。トラップ筒の駆動手段は、直流駆動モータMと、Hブリッジ回路からなる電流切り替え手段とを備える。高電圧部VとPup、Pdwとの間からグランドGに至るバックアップ用回路を分岐して該バックアップ用回路にバックアップ用のコンデンサCを設ける。コンデンサCとPup、Pdwとの間にコンデンサC側からPup、Pdw側への電流を通すダイオードDを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラップ筒が可動となったいわゆるターントラップ式の便器装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボウルの底部の排水口から連出されて先端の自由端部が上下回動可能に支持されたトラップ筒を備えた、いわゆるターントラップ式の便器が使用されている(例えば特許文献1参照)。トラップ筒は、回動駆動手段としての駆動モータが正転することで先端が下降し、駆動モータが逆転することで先端が上昇する。そして、トラップ筒2の先端が上昇して開口が上向きとなった状態で封水を行うと共に(図2(a)参照)、トラップ筒2の先端が下降して開口が下向きとなった状態で(図2(c)参照)、汚物が排出される。
【特許文献1】特開平10−237931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ターントラップ式の便器は、上述したように駆動モータを正転または逆転させるため、駆動モータを直流モータで構成し、電流切り替え手段により駆動モータを流れる電流の方向を切り替えて、正転および逆転を行うものであった。電流切り替え手段としては、駆動モータの両端子にリレーをそれぞれ設け、両リレーを切り替えることで正転および逆転を行うものであった。
【0004】
この従来のリレーを設けたものにあっては、停電時に手動でトラップ筒2を上昇・下降させる際、リレーの接点を切り離さなければ逆起電圧が発生して重い、という問題があるため、リレーの代わりにMOSFETを設けた回路が使用されるに至った。
【0005】
これは、図6に示すように、電力供給手段の高電圧部VとグランドGとの間に、P−chMOSFETとN−chMOSFETとを直列に設けた配線を並設し、P−chMOSFETとN−chMOSFETの間同士を接続して駆動モータMを設けてHブリッジ回路を構成したものである。また、高電圧部VとP−chMOSFET(Pup、Pdw)との間からグランドGに至るバックアップ用回路が分岐してあり、バックアップ用回路にバックアップ用のコンデンサCが設けてある。
【0006】
そして、駆動モータMを正転させてトラップ筒2の先端を下降させる場合には、図6に示すように、一方の配線のP−chMOSFET(図6中のPdw)と他方の配線のN−chMOSFET(図6のNdw)とをオンにすると共に他方の配線のP−chMOSFET(図6中のPup)と一方の配線のN−chMOSFET(図6中のNup)とをオフにし、駆動モータMを逆転させてトラップ筒2の先端を上昇させる場合には、PdwとNdwとをオフにすると共にPupとNupとをオンにするものである。
【0007】
また、トラップ筒2の先端を上端位置または下端位置で停止させておく場合には、NupとNdwをオンにすると共にPupとPdwをオフにして、Nupと駆動モータMとNdwとグランドGとで閉回路を形成して駆動モータMを外力に対する抵抗として利用することで、停止状態を保持するものである。
【0008】
停電時には、このコンデンサCからバックアップ用の電流が流れて駆動モータMが駆動されるが、コンデンサCからの電流がなくなると手動ハンドル(図示せず)にてトラップ筒2を手動で上昇、下降させるものであった。
【0009】
しかしながらこの場合、駆動モータMを手動で駆動させると、各MOSFETには該MOSFETをバイパスしてローサイド側からハイサイド側へと電流を流すダイオードが並設されているため、グランドGからNdwのダイオード、駆動モータM、Pdwのダイオード、コンデンサCを順に通ってグランドGに至る回路が形成されて、駆動モータMに回生電流i”が流れて手動での回転が重くなってしまうものであった。
【0010】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは、停電時に手動でトラップ筒を上昇、下降させる際に、駆動モータに回生電流が流れて手動での回転が重くなってしまうのを防止する便器装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明に係る便器装置3は、ボウル1の底部の排水口11から連出されて先端の自由端部が上下回動可能に支持されたトラップ筒2を備え、回動駆動手段の駆動モータMの正転または逆転により前記トラップ筒2の先端が下降または上昇する便器装置3であって、回動駆動手段は、直流モータである駆動モータMと、駆動モータMに直流を供給する電力供給手段と、駆動モータMを流れる電流の向きを切り替えるための電流切り替え手段と、で構成され、電流切り替え手段は、電力供給手段の高電圧部VとグランドGとの間に、高電圧部V側からP−chMOSFETとN−chMOSFETとを直列に設けた配線を並設すると共に、両配線のP−chMOSFETとN−chMOSFETの間の部分を接続してその途中に駆動モータMを設けて構成され、駆動モータMを正転させてトラップ筒2の先端を下降させる場合には、一方の配線のP−chMOSFET(Pdwとする)と他方の配線のN−chMOSFET(Ndwとする)とをオンにすると共に他方の配線のP−chMOSFET(Pupとする)と一方の配線のN−chMOSFET(Nupとする)とをオフにし、駆動モータMを逆転させてトラップ筒2の先端を上昇させる場合には、PdwとNdwとをオフにすると共にPupとNupとをオンにするように制御し、高電圧部Vと両配線のP−chMOSFET(Pup、Pdw)との間からグランドGに至るバックアップ用回路を分岐して該バックアップ用回路にバックアップ用のコンデンサCを設けた便器装置3において、コンデンサCと両配線のP−chMOSFET(Pup、Pdw)との間にコンデンサC側から両P−chMOSFET(Pup、Pdw)側への電流を通すダイオードDを設けて成ることを特徴とするものである。
【0012】
また請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、駆動モータMと並列にバリスタVaを設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、グランドから、Ndwをバイパスしてローサイド側からハイサイド側へと電流を流すダイオード、駆動モータ、Pdwをバイパスしてローサイド側からハイサイド側へと電流を流すダイオード、コンデンサを順に通ってグランドに至る回路が形成されてしまうのを防止することができ、手動でトラップ筒を上昇、下降させる際に、駆動モータに回生電流が流れて手動での回転が重くなってしまうのを防止することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、バリスタを設けたことで、回路素子にかかる電圧をバリスタ電圧以下とすることができ、回路素子を保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。まず、便器装置3の全体について図2に基づいて説明する。
【0016】
便器装置3はボウル1を洗浄水で洗浄するための便器洗浄手段を備えた水洗便器である。便器装置3の後部の内部にターントラップブロック4を内装してあり、便器装置3の後部のターントラップブロック4を配設した部分の上方位置には便器制御部ケース5を設けてあり、さらに便器装置3には洗浄水を供給するために洗浄水の供給路6を設けてあって、この供給路6の一端が水道管のような水供給管に接続してある。
【0017】
ターントラップブロック4のケース(図示せず)内には変形性を有する材料で筒状に形成したトラップ筒2を配置してあり、トラップ筒2の一端をボウル1の底部の排水口11に接続してあり、このトラップ筒2の排水口11と反対側の自由端側の端部は上下に回動可能になっている。ターントラップブロック4のケースには回動アーム41を回動自在に配置してあり、回動駆動手段としての駆動モータMの回動軸が回動アーム41の一端に連結してあり、回動アーム41の自由端である他端がトラップ筒2の先端のリング(図示せず)に連結してある。そして駆動モータMで回動軸を回動駆動すると、トラップ筒2が回動アーム41、リングを介して回動してトラップ筒2の自由端側の端部が上向きになったり、下向きになったりするようになっている。また、回動軸は手動ハンドル(図示せず)が連結してあり、手動ハンドルを手動で回転させることで、回動軸を回転させて、トラップ筒2の先端を上昇、下降させることができる。
【0018】
また便器制御部ケース5内には上記供給路6を開閉する洗浄弁(図示せず)を設けてあると共に便器装置3の各種制御をする制御部を設けてある。ボウル1の上端の周縁にはリム12を設けてあり、このリム12には複数の噴水穴を穿孔してあり、洗浄弁を開いて供給路6に水を供給したときリム12を介して噴水穴からボウル1に洗浄水を噴出するようになっている。便器装置3のボウル1の上には便座71と便蓋72を配置してあり、便座71や便蓋72の前端を回動自在に連結してあり、便座71や便蓋72が起倒自在になっている。
【0019】
上記のような便器装置3でボウル1の洗浄を行う場合は次のように動作する。図2(a)はボウル1の洗浄を開始するときの状態を示し、トラップ筒2の先端が上を向くように回動しており、ボウル1内に高い水位で洗浄水が保持されている。そして洗浄を開始したときには洗浄弁が開かれて供給路6から給水されてボウル1に洗浄水が噴出される。そしてトラップ筒2の先端が上を向いた状態からトラップ筒2の先端が下を向くように回動駆動され(以下「下降する」という)、図2(b)(c)に示すようにトラップ筒2の先端が下降して、トラップ筒2からボウル1内の水が一気に排水される。ボウル1内の水を一気に排水した後にトラップ筒2の先端が上に向くように回動駆動され(以下「上昇する」という)、ボウル1内が高い水位になるように洗浄水が保持され、次の使用に備えられる。上記のように洗浄されるのであるが、大便後に洗浄する場合は、大洗浄ボタンをオンすることにより洗浄弁が開かれて洗浄水が供給される時間が長い。また小便後に洗浄する場合は、小洗浄ボタンをオンすることにより洗浄弁が開かれて洗浄水が供給される時間が短い。
【0020】
上記のように便器装置3が構成されているが、本発明では男子小用時や便器掃除時にはボウル1内の洗浄水の水位が低くなるように制御部で制御するようになっている。つまり、男子小用のためや便器掃除のために便座71を起立させた時にトラップ筒2の先端の高さが図2(a)の上端位置より若干低い位置に下げてボウル1内の洗浄水の水位を低い位置に保つことができるようになっている。
【0021】
ターントラップは、駆動モータMを駆動して、その出力軸により回動アーム41を一方向に回転させることで(以下、この方向の回転を正転というものとする)、トラップ筒2を下降させると共に、駆動モータMを前記正転とは反対の方向への回転させることで(以下、この方向の回転を逆転というものとする)、トラップ筒2の先端を上昇させる。以下に、ターントラップを駆動する回動駆動手段について説明する。
【0022】
回動駆動手段は、駆動モータMと、駆動モータMに直流を供給する電力供給手段と、駆動モータMを流れる電流の向きを切り替えるための電流切り替え手段と、で構成される。
【0023】
駆動モータMには、直流モータが用いられると共に、電流切り替え手段には、いわゆるHブリッジ回路が用いられる。
【0024】
Hブリッジ回路は、図1の回路図に示すように、電力供給手段の高電圧部VとグランドGとの間に、ハイサイド側(すなわち高電圧部V側)にP−chMOSFET、ローサイド側(すなわちグランドG側)にN−chMOSFETを直列に設けた配線を並設し、両配線のP−chMOSFETとN−chMOSFETの間同士を接続して駆動モータMを設けて構成される。便宜上、図1、図3に示すように、一方の配線のP−chMOSFETをPdwとし、一方の配線のN−chMOSFETをNupとし、他方の配線のP−chMOSFETをPupとし、他方の配線のN−chMOSFETをNdwとする。また、Hブリッジ回路の各MOSFETの部分には、各MOSFETをバイパスして、ローサイド側からハイサイド側へと電流を流すダイオードが並設されている。そして上記制御部により各MOSFETのゲート電圧が制御され、各MOSFETのオン及びオフの制御が行われる。
【0025】
また、高電圧部VとP−chMOSFET(Pup、Pdw)との間からグランドGに至るバックアップ用回路が分岐してあり、バックアップ用回路にバックアップ用のコンデンサCが設けてある。
【0026】
上記回動駆動手段での基本的な動作について説明する。
【0027】
まず、トラップ筒2の先端を上昇させる時には、図3(a)に示すように、制御部によりPupとNupをオンにすると共にPdwとNdwをオフにして、電流iを高電圧部Vから、Pup、駆動モータM、Nupを順に通ってグランドGに流すことで、駆動モータMを逆転させる。
【0028】
また、トラップ筒2の先端を下降させる時には、図3(b)に示すように、制御部によりPdwとNdwをオンにすると共にPupとNupをオフにして、電流iを高電圧部Vから、Pdw、駆動モータM、Ndwを順に通ってグランドGに流すことで、駆動モータMを正転させる。
【0029】
また、トラップ筒2の先端を上端位置または下端位置で停止させておく場合には、図3(c)に示すように、制御部によりNupとNdwをオンにすると共にPupとPdwをオフにして、Nupと駆動モータMとNdwとで閉回路を形成して駆動モータMを外力に対する抵抗として利用することで、停止状態を保持するものである。この時、駆動モータMに回生電流i´が流れて抵抗となる。
【0030】
停電時において、コンデンサCからの電流がない場合、手動ハンドルにてトラップ筒2を手動で上昇、下降させるが、この時、図6に示すようにグランドGからNdwのダイオード、駆動モータM、Pdwのダイオード、コンデンサCを順に通ってグランドGに至る回路が形成されると、駆動モータMに回生電流i”が流れて手動での回転が重くなってしまうため、前記の回路が形成されないように、図1に示すように、コンデンサCと両配線のP−chMOSFET(Pup、Pdw)との間に、コンデンサC側から両P−chMOSFET(Pup、Pdw)側へのみ電流を通すダイオードDを設けるものである。これにより、停電時に手動でトラップ筒2を上昇、下降させる際に、駆動モータMに回生電流i”が流れて手動での回転が重くなってしまうのを防止することができる。なお、本実施形態では図1等に示すように、高電圧部Vからバックアップ用回路に至るまでの配線に、高電圧部V側からグランドG側にのみ電流を流すダイオードD1が設けてある。
【0031】
ところで、駆動モータMを手動で回転させる場合、図4のハッチングした領域に回転速度に応じた逆起電圧が発生するため、回転速度が速くなると逆起電圧が大きくなって回路素子が破損したりする惧れがある。そこで、図5に示すように、駆動モータMと並列にバリスタVaを設けてもよい。バリスタ電圧は、回路素子が耐えられる限界の電圧よりも低い電圧に設定する。
【0032】
前記バリスタVaを設けたことで、手動でトラップ筒2を上昇、下降させる際に、バリスタ電圧を超える逆起電圧が駆動モータMに発生する場合には、バリスタVaによりバリスタ電圧を超える電圧がカットオフされ、回路素子にかかる電圧をバリスタ電圧以下とすることができ、回路素子を保護することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態の電流切り替え手段の回路図である。
【図2】(a)(b)(c)はトラップ筒の動作を説明するための便器装置の側断面である。
【図3】(a)はトラップ筒の先端の上昇時の回路状態を説明する回路図であり、(b)はトラップ筒の先端の下降時の回路状態を説明する回路図であり、(c)はトラップ筒の先端の上端位置または下端位置での保持時の回路状態を説明する回路図である。
【図4】逆起電圧がかかる領域を示す説明図である。
【図5】バリスタを設けた実施形態の回路図である。
【図6】従来の便器装置の電流切り替え手段の回路図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ボウル
11 排水口
12 リム
2 トラップ筒
3 便器装置
4 ターントラップブロック
41 回動アーム
5 便器制御部ケース
6 供給路
71 便座
72 便蓋
C コンデンサ
D ダイオード
Va バリスタ
V 高電圧部
M 駆動モータ
G グランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボウルの底部の排水口から連出されて先端の自由端部が上下回動可能に支持されたトラップ筒を備え、回動駆動手段の駆動モータの正転または逆転により前記トラップ筒の先端が下降または上昇する便器装置であって、回動駆動手段は、直流モータである駆動モータと、駆動モータに直流を供給する電力供給手段と、駆動モータを流れる電流の向きを切り替えるための電流切り替え手段と、で構成され、電流切り替え手段は、電力供給手段の高電圧部とグランドとの間に、高電圧部側からP−chMOSFETとN−chMOSFETとを直列に設けた配線を並設すると共に、両配線のP−chMOSFETとN−chMOSFETの間の部分を接続してその途中に駆動モータを設けて構成され、駆動モータを正転させてトラップ筒の先端を下降させる場合には、一方の配線のP−chMOSFETと他方の配線のN−chMOSFETとをオンにすると共に他方の配線のP−chMOSFETと一方の配線のN−chMOSFETとをオフにし、駆動モータを逆転させてトラップ筒の先端を上昇させる場合には、一方の配線のP−chMOSFETと他方の配線のN−chMOSFETとをオフにすると共に他方の配線のP−chMOSFETと一方の配線のN−chMOSFETとをオンにするように制御し、高電圧部と両配線のP−chMOSFETとの間からグランドに至るバックアップ用回路を分岐して該バックアップ用回路にバックアップ用のコンデンサを設けた便器装置において、コンデンサと両配線のP−chMOSFETとの間にコンデンサ側から両P−chMOSFET側への電流を通すダイオードを設けて成ることを特徴とする便器装置。
【請求項2】
駆動モータと並列にバリスタを設けて成ることを特徴とする請求項1記載の便器装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−7317(P2010−7317A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166276(P2008−166276)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】