説明

便器

【課題】 内分泌攪乱化学作用を有すると疑われている化学物質の中で、女性ホルモン類は、洗浄水や排水処理液中の女性ホルモン活性が高いこと、水処理設備での除去率が低いことが、問題とされている。
【解決手段】女性ホルモン類を含む液体を供給する流路と貯留、分離、抽出、吸着、濃縮する機構と光触媒による分解機構と処理液を排出する流路を持つことを特徴とする装置を用いることで、女性ホルモンを酸化分解してホルモン活性のない物質へ変換でき、環境への影響を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒によるステロイド骨格を持つ物質の分解、除去装置に係り、特に女性ホルモン類の分解、除去に好適な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
女性ホルモンとしてヒトでは、天然エストロジェンである17β−エストラジオール、エストロン、エストリオール等と、合成エストロジェンであるエチニルエストラジオール、ヘキセストロール等が知られている。また、これらはそのままの構造だけでなく、代謝の過程でグルクロン酸や硫酸などと包合体を形成したり、あるいは薬として製剤化される場合には安息香酸などと塩を作った形で存在する場合もある。(以上をまとめて、以下女性ホルモン類という)
これらは体内で合成されたり体外から取り込まれた後、標的組織でホルモン効果を発揮する一方、尿を通じて一日数μg〜60μg程度体外に排泄されている[中央薬事審議会「ピルの内分泌かく乱化学物質としてのまとめ」、平成11年3月3日]。便器には女性ホルモン類を分解したり、不活性化する機能はないため、排泄された女性ホルモン類は、し尿の洗浄水に含まれてそのまま放流される。その後洗浄水は、一般的には個別浄化槽、し尿処理設備、下水処理設備などの水処理装置や水処理設備に運ばれ処理される。易分解性の有機物は、一般的な水処理装置や水処理設備で微生物により分解されると考えられているが、女性ホルモン類のひとつである17β−エストラジオールの除去率は80%以下と、環境ホルモンとして知られる他の化学物質の除去率に比べ低いために、現在は除去できない女性ホルモン類が環境中へ放流されている[松井三郎:環境技術,vol.27,No.9,p665〜675(1998年)、建設省都市局下水道部流域下水道課「下水道における内分泌攪乱化学物質に関する調査・中間報告について」、平成11年6月22日]。本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、し尿に含まれる女性ホルモン類をホルモン活性のない物質に酸化分解する装置を提供することにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
内分泌攪乱化学作用を有すると疑われている化学物質の中で、エストロジェン(女性ホルモン)は、その活性においても、水処理設備での除去率が低いことにおいても、最も問題とされている。これらの女性ホルモン活性は、環境ホルモンとして知られているノニルフェノール、ビスフェノールAに比べ、約1000倍から100000倍強い女性ホルモン活性を有している[松井三郎:環境技術,vol.27,No.9,p665〜675(1998年)]。女性ホルモン類は上述のような下水処理施設においても、その除去率は80%以下と低いだけでなく、活性汚泥を脱水する時に得られる脱水濾液から高濃度の女性ホルモン類が検出されることから、女性ホルモン類は一次的に生物吸着した状態で除去されているだけで、活性汚泥中の微生物による実際の分解率はかなり低いと推定できる[松井三郎:環境技術,vol.27,No.9,p665〜675(1998年)、建設省都市局下水道部流域下水道課「下水道における内分泌攪乱化学物質に関する調査・中間報告について」、平成11年6月22日]。本発明の目的は、液体中に含まれる女性ホルモン類が環境中に排出される量を減らすために、女性ホルモン類を光触媒により分解、除去する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第一の発明は、女性ホルモン類を含有する液体を供給する流路と、女性ホルモン類を含有する液体の貯留部と、光触媒により女性ホルモン類を分解する機構と、分解後の処理液を排出する流路とを持つ女性ホルモン類除去装置である。
【0005】
本発明においては、女性ホルモン類を含有する液体の貯留部を設けることにより、光触媒と女性ホルモン類を長時間接触させることができるため、高効率でホルモン活性のない物質に分解することができる。
【0006】
本発明においては、光触媒とは例えば酸化チタン(TiO2)や酸化亜鉛(ZnO)に代表される光触媒材料であり、その有機物分解作用により、女性ホルモン類をホルモン活性のない物質に分解することができ、環境中に排出される女性ホルモン類の量を低減できる。
【0007】
第二の発明は、女性ホルモン類を含有する液体を供給する流路と、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を分離または抽出する機構と、光触媒により女性ホルモン類を分解する機構と、分解後の処理液を排出する流路とを持つ女性ホルモン類除去装置である。
【0008】
本発明においては、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を分離または抽出し女性ホルモン類濃度を高くすることにより、女性ホルモン類を分解する作用を有する光触媒と女性ホルモン類との接触効率を高くすることができるため、高効率でホルモン活性のない物質に分解することができる。
【0009】
第三の発明は、女性ホルモン類を含有する液体を供給する流路と、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を吸着または濃縮する機構と、光触媒により女性ホルモン類を分解する機構と、分解後の処理液を排出する流路とを持つ女性ホルモン類除去装置である。
【0010】
本発明においては、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を吸着または濃縮し女性ホルモン類濃度を高くすることにより、女性ホルモン類を分解する作用を有する光触媒と女性ホルモン類との接触効率を高くすることができるため、高効率でホルモン活性のない物質に分解することができる。
【0011】
第四の発明は、女性ホルモンを含有する液体の貯留部を更に有する第二又は第三の発明記載の女性ホルモン分解装置である。
【0012】
本発明においては、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を分離または抽出する機構、もしくは、吸着または濃縮する機構を有し、かつ女性ホルモン類を含有する液体の貯留部を有することにより、女性ホルモン類を分解する作用を有する光触媒と女性ホルモン類との接触効率を高くすることができ、かつ長時間接触させることができるため、高効率でホルモン活性のない物質に分解することができる。
【0013】
第五の発明は、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を分離または抽出する機構を更に有する第三の発明記載の女性ホルモン類除去装置である。
【0014】
本発明においては、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を分離または抽出する機構と、吸着または濃縮する機構を有することにより、女性ホルモン類を分解する作用を有する光触媒と女性ホルモン類との接触効率をさらに高くすることができるため、高効率でホルモン活性のない物質に分解することができる。
【0015】
第六の発明は、女性ホルモン類を含有する液体の貯留部を更に有する第五の発明記載の女性ホルモン分解装置である。
【0016】
本発明においては、女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を分離または抽出する機構と、吸着または濃縮する機構を有し、かつ女性ホルモン類を含有する液体の貯留部を有することにより、女性ホルモン類を分解する作用を有する光触媒と女性ホルモン類との接触確率を格段に高くすることができ、かつ長時間接触させることができるため、高効率でホルモン活性のない物質に分解することができる。
【0017】
第七の発明は、光触媒により女性ホルモン類を分解する機構において、女性ホルモン類を含有する液体との接触面に光触媒を含む光触媒層と、光触媒層に光を照射する光照射手段とを備えたことを特徴とする第一の発明乃至第六の発明記載の女性ホルモン類除去装置である。
【0018】
本発明においては、酸化チタンや酸化亜鉛等の光触媒は微弱な光や自然光によっても光触媒作用を発現することは可能であるが、更に分解を促進して処理効率を上げるためには、強制的に光を照射することが好ましい。照射する光としては、例えば紫外線を用いることができる。特に酸化チタン光触媒の励起波長である380nm以下の波長の光を照射することが好ましい。
【0019】
第八の発明は、第一の発明乃至第七の発明のいずれか記載の女性ホルモン除去装置を有する大便器である。
【0020】
本発明においては、光触媒による女性ホルモン類除去装置を大便器に設けることにより、排泄物に含まれる女性ホルモン類を分解、除去できるので、環境に排出される女性ホルモン類の量が低減できる。この場合、ボール底部および水封を形成しているトラップ部さらに大便器自体に尿と大便を分離して貯留する部分に取り付けることによりコンパクト性が向上し,さらに確実に効率よく分解できる。
【0021】
第九の発明は、第一の発明乃至第七の発明のいずれか記載の女性ホルモン類除去装置を有する小便器である。
【0022】
本発明においては、光触媒による女性ホルモン類除去装置を小便器に設けることにより、尿中に含まれる女性ホルモン類を分解、除去できるので、環境に排出される女性ホルモン類の量が低減できる。
【0023】
第十の発明は、大便器の排水経路に第一の発明乃至第七の発明のいずれか記載の女性ホルモン類除去装置を有する女性ホルモン類除去システムである。
【0024】
本発明においては、大便器の排水経路に女性ホルモン類除去装置を設けることにより、排泄物中に含まれる女性ホルモン類を分解、除去できるので、環境に排出される女性ホルモン類の量が低減できる。また、排水経路に女性ホルモン類除去装置を設けることで、単体もしくは複数の大便器から排出される排泄物中に含まれる女性ホルモン類を一つの除去装置でまかなうことができる。
【0025】
第十一の発明は、小便器の排水経路に第一の発明乃至第七の発明のいずれか記載の女性ホルモン類除去装置を有する女性ホルモン類除去システムである。
【0026】
本発明においては、小便器の排水経路に女性ホルモン類除去装置を設けることにより、排泄物中に含まれる女性ホルモン類を分解、除去できるので、環境に排出される女性ホルモン類の量が低減できる。また、排水経路に女性ホルモン類除去装置を設けることで、単体もしくは複数の小便器から排出される排泄物中に含まれる女性ホルモン類を一つの除去装置でまかなうことができる。
【0027】
第十二の発明は、浄化槽やし尿処理装置や下水処理装置の排水経路に第一の発明乃至第七の発明のいずれか記載の女性ホルモン類分解装置を有する女性ホルモン類分解システムである。
【0028】
本発明においては、浄化槽やし尿処理装置や下水処理装置の排水経路に女性ホルモン類分解装置を設けることにより、排水中に含まれる浄化槽やし尿処理装置や下水処理装置に備えられている一般的な処理方法で分解できなかった女性ホルモン類を効率よく分解できるので、環境に排出される女性ホルモン類量が低減できる。
【0029】
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明の具体的構成について説明する。
【0031】
光触媒とは、酸化チタンや酸化亜鉛など光触媒作用により有機物分解力を有する物質などをさす。
【0032】
女性ホルモン類除去装置とは、光触媒を基材表面や吸着材などの表面に担持させることで女性ホルモン類と接触させ、光触媒作用により女性ホルモン類を分解、除去する装置などをさす。
【0033】
酸化チタンなど光触媒作用を発生させるには光源を用いた方が好適で、光源としては、紫外線ランプはもとより太陽光や蛍光灯、白熱電灯、メタルハライドランプ、水銀ランプなどを用いることができる。
【0034】
女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモンを分離または抽出する機構としては、高分子膜など分離膜を設けた機構や女性ホルモン類を含有しない固形分等を濾過、圧搾し抽出する機構などを用いることができる。
【0035】
女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を吸着する機構としては、活性炭やゼオライト、シリカゲルなどを用いることができる。また、吸着力を向上させるために温度や圧力を操作しても良い。
【0036】
女性ホルモン類を含有する液体の貯留部は、排水を制御する弁を内蔵し、女性ホルモン類と光触媒とを十分な時間反応させるようにしても良い。
【0037】
女性ホルモン類を含有する液体から女性ホルモン類を濃縮する機構としては、加熱手段を設け、蒸発させるなどして濃縮を行うことができる。
【0038】
本発明に係る女性ホルモン類除去装置の実施例について図面を参照にしながら説明する。図1は本発明の一実施例の概略構成図であり、大便器1に用いた場合である。大便器1のボール底部2やトラップ部3には、光触媒を担持させた吸着材4が充填されている。また、ボール底部の側面やトラップには、紫外線ランプ5が設置されている。大便器が使用されるとボール底部やトラップ中に尿や排泄物が溜まるが、このときボール底部やトラップに充填された吸着材により、尿および排泄物中に含有している女性ホルモンが吸着される。吸着された女性ホルモン類は、光触媒により分解される。十分な時間接触させ女性ホルモン類を分解させた後、大便器に洗浄水を供給することにより排出経路6から排出される。
【0039】
また,図2は,従来の大便器の構造を変え尿や排泄物を予め分離し貯めるようなトラップ部7,8を有した大便器を提案するものである。これにおいても、上記同様に分解装置を設置するとより効率良く分解できる。
【0040】
図3は本発明の一実施例の概略構成図であり、小便器9に用いた場合である。小便器のトラップ部10には、光触媒を担持させた吸着材11が充填されている。また、トラップには、紫外線ランプ12が設置されている。小便器が使用されるとトラップ中に尿が溜まるが、このときトラップに充填された吸着材により、尿中に含有している女性ホルモン類が吸着される。吸着された女性ホルモン類は、光触媒により分解される。十分な時間接触させ女性ホルモン類を分解させた後、小便器に洗浄水を供給することにより排出経路13に排出される。
【0041】
図4は、大便器の排水経路に本発明の女性ホルモン類除去装置を備えた一実施例の概略構成図である。ここでいう除去装置14は光触媒による分解機能,分離・抽出機能,吸着・濃縮機能を有するものであり、排出物が流れる大便器の排水経路15に設置することによって,複数の大便器16からの排出物の分解も可能となる。
【0042】
図5は、小便器の排水経路に本発明の女性ホルモン類除去解装置を備えた一実施例の概略構成図である。ここでいう除去装置16は光触媒による分解機能,分離・抽出機能,吸着・濃縮機能を有するものであり、排出物が流れる小便器の排水経路17に設置することによって,複数の小便器18からの排出物の分解も可能となる。
【0043】
図6は、浄化槽の排水経路に本発明の女性ホルモン類酸化分解装置を備えた一実施例の概略構成図である。ここでいう除去装置19は光触媒による分解機能,貯留機能,分離・抽出機能,吸着・濃縮機能を有するものである。一般的に浄化槽やし尿処理設備や下水処理設備では微生物処理などによって易分解性の有機物は分解処理されているので、処理水が流れる浄化槽21の排水経路20に分解装置19を設置することによって、前段の処理設備で分解できなかった液体中の女性ホルモン類を効率よく分解することが可能となる。
【0044】
酸化チタン光触媒による女性ホルモン類の分解活性を、特にエストラジオール(17β−エストラジオールと同じ)について、以下のように確認した。
【0045】
まず、17β−エストラジオールを1×10-7Mの濃度となるように水に溶かし、所定量の酸化チタンを加えて攪拌しながら、紫外線を照射(波長:360nm、照射強度:6mW/cm2)して、時間経過に伴う17β−エストラジオールの濃度をラジオイミュノアッセイ(RIA)法にて測定した。
【0046】
試験は表1のように、試験液1mlに酸化チタンを加えずに紫外線照射のみを行なった場合(実験群1)、試験液1mlに酸化チタン250μgを加えるが紫外線照射を行なわなかった場合(実験群2)、試験液1mlに酸化チタン50μgを加えるとともに、紫外線照射を行なった場合(実験群3)、試験液1mlに酸化チタン250μgを加えるとともに、紫外線照射を行なった場合(実験群4)について実施した。
【0047】
【表1】

【0048】
結果を図7に示す。図7から分かるように、酸化チタンと添加と紫外線照射の両方を行った場合にのみ、17β−エストラジオール濃度が大きく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の女性ホルモン分解装置を大便器に設置した概略図である。
【図2】本発明の女性ホルモン分解装置を大便器に設置した概略図である。
【図3】本発明の女性ホルモン分解装置を小便器に設置した概略図である。
【図4】本発明の女性ホルモン分解装置を大便器の排水経路に設置した概略図である。
【図5】本発明の女性ホルモン分解装置を小便器の排水経路に設置した概略図である。
【図6】本発明の女性ホルモン分解装置を浄化槽の排水経路に設置した概略図である。
【図7】酸化チタン光触媒による女性ホルモンの分解、除去効果を確認するための実験における特性図である。
【符号の説明】
【0050】
1:大便器
2:ボール底部
3:トラップ部
4:光触媒を担持した吸着材
5:紫外線ランプ
6:排出口
7:尿貯めのトラップ
8:排泄物貯めのトラップ
9:小便器
10:トラップ部
11:光触媒を担持した吸着材
12:紫外線ランプ
13:排出管
14:除去装置
15:大便器の排水経路
16:大便器
17:大便器の排水経路
18:小便器
19:除去装置
20:浄化槽の排水経路
21:浄化槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性ホルモン類除去装置を有する便器であって、便器のトラップ部に、光触媒を担持させた吸着材が充填され、該便器のトラップ部に紫外線ランプが設置されてなる、便器。
【請求項2】
前記便器は大便器または小便器である、請求項1に記載の便器。
【請求項3】
前記便器は大便器であって、大便器のボール底部に光触媒を担持させた吸着材が充填され、該ボール底部に紫外線ランプが設置されてなる、請求項1に記載の便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−57824(P2009−57824A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310646(P2008−310646)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【分割の表示】特願平11−333246の分割
【原出願日】平成11年11月24日(1999.11.24)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】