説明

便座リフトアップ装置及び昇降便座

【課題】便器本体の大きさの変化に対応することができ、便座装置を便器本体の上面に安定して取り付けることができる便座リフトアップ装置及び昇降便座を提供する。
【解決手段】便座リフトアップ装置20は下プレート30と上プレート40と便座取付具50とを備えている。下プレート30は、貫通孔31Aと貫通孔31Aの前後方向の中心に対して前後方向の一方に偏った位置に設けられた複数の第1係止部33とを有し、上下面を反転させずに前後を反転して便器本体1A、1Bの上面に固定することができる。上プレート40は、前後方向に変位した位置で下プレート30に対して昇降し、下降した際に第1係止部33に係止する複数の第2係止部43を有し、便座支持部材13が取り付けられる。便座取付具50は、上プレート40の前後方向の変位に対応した位置に取り付けられて下方に延び、下プレート30を便器本体1A、1Bの上面に固定し、上下方向に伸縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便座リフトアップ装置及び昇降便座に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1には、従来の便座リフトアップ装置が開示されている。この便座リフトアップ装置は、便座と、この便座を回動自在に軸支する便座支持部材とを備えた便座装置を便器本体の上面に取り付けて昇降させることができる。また、この便座リフトアップ装置は、便座支持部材の底面に取り付けられて下方に延びる軸部材と、便器本体に貫設された取付孔に固定され、軸部材が挿通する貫通孔を有するボルト部材と、ボルト部材の貫通孔内に収納されて軸部材を上昇させる方向に弾性力を付与する弾性部材とを備えている。軸部材の外側面には上下方向の離れた位置に複数の係止凹部が形成されている。ボルト部材の側面には、軸部材の凹部に係止する係止爪が設けられている。
【0003】
この便座リフトアップ装置では、弾性部材の弾性力に抗して軸部材を下降させた状態で係止爪を係止凹部に係止させることにより、軸部材を下降位置に保持することができる。これにより、便座装置は便器本体の上面に載置した状態になる。また、この便座リフトアップ装置では、係止爪と係止凹部との係止を解除すると、弾性部材の弾性力が軸部材を上昇させる方向に働く。このため、弾性部材の弾性力を利用して、便座装置を便器本体の上面より上方に上昇した位置に保持することができる。このようにして、便座支持部材の下面と便器本体の後部上面との間に隙間を生じさせ、その隙間を利用して便器本体の上面を容易に清掃することができる。
【0004】
特許文献2には、従来の他の便座リフトアップ装置が開示されている。この便座リフトアップ装置も、便座と、この便座を回動自在に軸支する便座支持部材とを備えた便座装置を便器本体の上面に取り付けて昇降させることができる。また、この便座リフトアップ装置は、便器本体の上面に取り付けられる下プレートと、下プレートに対して昇降し、便座支持部材が取り付けられる上プレートとを備えている。下プレートは下面から下方に延びて形成された一対のボルト部を有している。ボルト部は、便器本体の左右に並んで貫設された一対の取付孔に挿通され、軸方向に貫通孔が形成されている。上プレートは、下面から延びて形成された一対の軸部を有している。軸部はボルト部の貫通孔に挿通される。各軸部の外側面には上下方向に離れた位置に複数の係止凹部が形成されている。下プレートには軸部の係止凹部に係止する係止爪を有する係止部材が組み込まれている。
【0005】
この便座リフトアップ装置では、便座支持部材と共に上プレートを上方に引き上げて係止凹部に係止爪を係止させることにより、便座装置を便器本体の上面より上方に上昇させた位置に保持することができる。このようにして、便座支持部材の下面と便器本体の後部上面との間に隙間を生じさせ、その隙間を利用して便器本体の上面を容易に清掃することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−5100号公報
【特許文献2】特開2004−344475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2の便座リフトアップ装置では、便器本体の大きさの変化(大型便器と標準便器)に対応して便器本体の上面に取り付けることができない。また、特許文献2の便座リフトアップ装置のボルト部を特許文献1のボルト部材と同様の構成にすることにより弾性部材の弾性力を利用して上プレートを上方に保持することが考えられる。しかし、このように構成した便座リフトアップ装置では、弾性部材の弾性力に抗して上プレートを下降位置に保持する際、軸部材の係止凹部に係止爪を係止するのみであり、上プレートと下プレートとが係止するものではない。このため、便座支持部材が取り付けられる上プレートの安定性に欠けるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、便器本体の大きさの変化に対応することができ、便座装置を便器本体の上面に安定して取り付けることができる便座リフトアップ装置及び昇降便座を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の便座リフトアップ装置は、便座と、この便座を回動自在に軸支する便座支持部材とを備えた便座装置を便器本体の上面に取り付けて昇降させる便座リフトアップ装置であって、
上下方向に貫設された貫通孔と、この貫通孔の前後方向の中心に対して前後方向の一方に偏った位置に設けられた第1係止部とを有し、上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定することができる下プレートと、
この下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定されることにより前後方向に変位する前記第1係止部に対応して前後方向に変位したそれぞれの位置で前記下プレートに対して昇降し、下降した際に前記第1係止部に係止する第2係止部を有し、前記便座支持部が取り付けられる上プレートと、
この上プレートの前後方向の変位に対応した位置に取り付けられて下方に延び、前記貫通孔と前記便器本体に貫設された取付孔とを挿通して前記下プレートを前記便器本体の上面に固定し、上下方向に伸縮する便座取付具とを備え、
前記第1係止部又は前記第2係止部の一方が左右方向に往復移動可能であり、左右方向から前記第1係止部又は前記第2係止部の他方に係止することを特徴とする。
【0010】
この便座リフトアップ装置では、下プレートの上下面を反転させずに前後を反転して便器本体の上面に取り付けると、第1係止部が便器本体の取付孔に対して前後方向に変位した位置に配置される。これにより、上プレートは、第1係止部の変位に対応して前後方向に変位したそれぞれの位置で昇降することができる。この上プレートの前後方向の変位を大型便器及び標準便器における便器本体の左右取付孔の中心を結んだ線から便器本体の前端までの寸法差に設定することにより、この便座リフトアップ装置は大型便器及び標準便器のそれぞれに便座装置を取り付けることができる。
【0011】
この便座リフトアップ装置では、下プレートを上下面を反転させずに前後を反転して便器本体の上面に取り付けても、下プレートに設けられた第1係止部又は上プレートの設けられた第2係止部の一方が左右方向に往復移動し、第1係止部又は第2係止部の他方に左右方向から係止するため、下プレートに設けられた第1係止部と上プレートに設けられた第2係止部とが良好に係止する。このため、便座支持部材が取り付けられる上プレートは下降位置において安定して保持される。
【0012】
したがって、本発明の便座リフトアップ装置は、便器本体の大きさの変化に対応することができ、便座装置を便器本体の上面に安定して取り付けることができる。
【0013】
前記第1係止部と前記第2係止部は複数個ずつ設けられ得る。この場合、上プレートが下プレートに対して下降した際に、下プレートに設けられた複数の第1係止部と上プレートに設けられた複数の第2係止部とが係止するため、便座支持部材が取り付けられる上プレートは下降位置においてさらに安定して保持される。
【0014】
前記各第1係止部は、前後方向に並んで配置されており、前記下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定されても前後方向に並んで配置された前記各第2係止部に対して同じ位置関係に配置され得る。この場合、下プレートが上下面を反転せずに前後を反転して便器本体の上面に取り付けても、下プレートに設けられた複数の第1係止部と上プレートに設けられた複数の第2係止部とを良好かつ強固に係止することができる。
【0015】
前記各第1係止部は、左右方向に並んで配置されており、前記下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定されても左右方向に並んで配置された前記各第2係止部に対して同じ位置関係に配置され得る。この場合、下プレートが上下面を反転せずに前後を反転して便器本体の上面に取り付けても、下プレートに設けられた複数の第1係止部と上プレートに設けられた複数の第2係止部とを良好かつ強固に係止することができる。
【0016】
本発明の昇降便座は、前記便座装置と前記便座リフトアップ装置とを備えていることを特徴とする。この昇降便座では上述した効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】便座リフトアップ装置と便座装置とを示す斜視図である。
【図2】昇降便座を大型便器に取り付けた状態を示す概略図である。
【図3】昇降便座を標準便器に取り付けた状態を示す概略図である。
【図4】大型便器に取り付ける際の便座リフトアップ装置を示す分解図である。
【図5】大型便器に取り付けられた下プレートを示す平面図である。
【図6】大型便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す側面図である。
【図7】大型便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す側面図である。
【図8】大型便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す平面断面図である。
【図9】標準便器に取り付ける際の便座リフトアップ装置を示す分解図である。
【図10】標準便器に取り付けられた下プレートを示す平面図である。
【図11】標準便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す側面図である。
【図12】標準便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す側面図である。
【図13】標準便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す平面断面図である。
【図14】大型便器に取り付けられた便座リフトアップ装置を示す平面図である。
【図15】便座リフトアップ装置の動作を示す概略図であり、(a)レバー部材が圧縮コイルバネの弾性力により右側に位置した状態、(b)レバー部材が中間位置に引き出された状態、(c)レバー部材が左方向へ引き出された状態を示す。
【図16】便座リフトアップ装置の動作を示す概略図であり、(a)レバー部材が圧縮コイルバネの弾性力により右側に位置した状態、(b)レバー部材が中間位置に引き出された状態、(c)レバー部材が左方向へ引き出された状態を示す。
【図17】図14の矢視X−X断面において、上プレートが下降位置に位置した状態を示す断面図である。
【図18】図14の矢視X−X断面において、上プレートが上昇位置に位置した状態を示す断面図である。
【図19】便座装置が上昇位置に位置した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の便座リフトアップ装置を利用して便器本体の上面に便座装置を取り付けて昇降可能にした昇降便座を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<実施例>
実施例の昇降便座は、図1〜図4に示すように、便座装置10と便座リフトアップ装置20とを備えている。便座装置10は、便座11、便蓋12及び便座支持部材13を備えている。便座支持部材13は便座11と便蓋12を回動自在に軸支している。また、便座支持部材13は2本の局部洗浄ノズル13A、温水タンク13B及び制御装置13C等を収納している。2本の局部洗浄ノズル13Aはおしり用とビデ用である。温水タンク13Bは局部洗浄ノズル13Aに洗浄水を供給する図示しない給水路の途中に設けられている。制御装置13Cは、温水タンク13B内の水温調整や、図示しない給水路の途中に設けられた開閉弁の開閉等を制御する。
【0020】
便座支持部材13の底面には、便座リフトアップ装置20の重ね合わされた状態の下プレート30及び上プレート40を収納する凹部14が設けられている。凹部14を形成する左右の内側面には、下端縁から内側に向かって突出した段部14Aが形成されている。この段部14Aは、便座リフトアップ装置20を凹部14内に収納した際、便座リフトアップ装置20の上プレート40に設けられた鍔部41Aが係止する。
【0021】
また、便座支持部材13は、便座支持部材13の左右方向に移動可能に組み込まれたレバー部材15を有している。レバー部材15は、便座支持部材13の底面に沿って延びており、凹部14内で下方に突出する2つの爪部15Aを有している。レバー部材15の一端部には操作部15Bが設けられている。操作部15Bは、便座支持部材13が便器本体1A、1Bに取り付けられた際に便器本体1A、1Bの前方側から見て左側面に露出している。レバー部材15と便座支持部材13との間には圧縮コイルバネ16が介在している。この圧縮コイルバネ16はレバー部材15に対して右方向へ弾性力を付与している。このため、常時、レバー部材15は、操作部15Bの外側面が便座支持部材13の左側面と面一になるように配置されている。
【0022】
便器本体1A、1Bの後部上面には所定間隔を有して左右に並んだ取付孔3が貫設されている。図2に示す便器本体1Aは、左右の取付孔3の中心を結んだ線から便器本体の前端までの寸法が470mm±20mmに設計され、製造された陶器製の大型便器である。また、図3に示す便器本体1Bは、左右の取付孔3の中心を結んだ線から便器本体の前端までの寸法が440mm±20mmに設計され、製造された陶器製の標準便器である。
【0023】
便座リフトアップ装置20は、図4及び図9に示すように、下プレート30、上プレート40及び便座取付具50を備えている。
【0024】
下プレート30は、1枚の金属板を切り欠いたり、折り曲げたりして形成されている。下プレート30は、左右両端に設けられ、前後方向に延びる縦長矩形状の左右両端部31と、左右両端部31の間に設けられ、左右方向に延びる横長矩形状の中間部32とを有している。左右両端部31には前後方向に延びる長孔形状の貫通孔31Aが貫設されている。各貫通孔31Aは便器本体1の左右に並んだ取付孔3の間隔と同じ間隔で形成されている。
【0025】
また、各貫通孔31Aの前後方向の長さは約50mmに形成されている。これにより、便器本体1A、1Bの製造過程における公差に対応することができる。特に、便器本体1A、1Bが陶器製である場合、便器本体1A、1Bの左右の取付孔3の中心を結んだ線から便器本体1A、1Bの前端までの寸法は±20mmの公差が見込まれている。このため、各貫通孔31Aの前後方向の長さを約50mmにすることにより、便座装置10を便器本体1A、1Bの上面に取り付ける際、便座11及び便蓋12の前端を便器本体1A、1Bの前端より僅かに前方へ突出するように微調整することができる。
【0026】
中間部32の左右の2ヶ所には、前後方向に並んで配置された一対の第1係止部33が設けられている。この一対の第1係止部33は貫通孔31Aの前後方向の中心に対して前後方向の一方に偏った位置に設けられている。また、中間部32の左側に設けられ前後方向に並んだ第1係止部33と右側に設けられ前後方向に並んだ第1係止部33とは、左右方向にも並んで配置されている。左右方向に並んだ第1係止部33は、下プレート30の左右中央部に対して対称位置に配置されている。各第1係止部33は、中間部32から立ち上がる立上り片33Aと、立上り片33Aの上端から内側に屈曲した係止片33Bとを有している。各第1係止部33は、係止片33Bの下方に後述する第2係止部43の被係止片43Bが左右両方向から移動可能に形成されている。
【0027】
下プレート30の左右両端部31の外側部には外側に張り出した嵌合部34が形成されている。この嵌合部34は、貫通孔31Aの前後方向の中心から約15mm前後方向に離れた位置(第1係止部33が位置する方向)に形成されている。このため、下プレート30を上下面を反転させずに前後を反転させると、貫通孔31の前後方向の中心に対して、前後方向に約15mmずつ嵌合部34が変位する。
【0028】
下プレート30の中間部32であって各貫通孔31Aの内側には、貫通孔31Aの前後方向の中心位置を示すマーク35が形成されている。マーク35は三角形状に凹設され、貫通孔31A側に向いた1つの頂点が貫通孔A31の前後方向の中心位置を示している。
【0029】
下プレート30の左右両端部31の下面には、貫通孔31Aより僅かに大きい形状の開口36Aが形成された縦長矩形状の滑り止め用パッキン36が貼着されている。
【0030】
上プレート40は、上プレート本体41、スライド部材42及び保持部材44を備えている。上プレート本体41は、便座支持部材13に組み込まれたレバー部材15の2つの爪部15Aに対応する位置に前方及び上方に開口した2列の係止溝45を有している。各係止溝45の後端部は直角に右方向に屈曲しており、爪部15Aが係止する段部45Aが形成されている。
【0031】
上プレート本体41は各係止溝45より外側に形成され、上方に開口した固定凹部46を有している。各固定凹部46は、下プレート30の左右両端部31に貫設された貫通孔31Aに対応する位置に形成されている。この固定凹部46は前後方向に延びている。各固定凹部46の左右方向の中央部には前後方向に延びる長孔46Aが貫設されている。この固定凹部46には、便座取付具50を上プレート40に固定する際、その固定に利用されるワッシャーW1及びボルトB1が収納される。また、長孔46AはボルトB1が挿通される。
【0032】
上プレート本体41は、左右上端縁から外側に突出する鍔部41Aを有している。また、上プレート本体41は、左右側部の前後方向の中央部の下縁に下方に向けて開口して切り欠かれた被嵌合部47を有している。被嵌合部47は上プレート40が下プレート30に対して下降した際に下プレート30の嵌合部34に嵌合させる。これにより、下プレート30に対する上プレート40の位置決めを行うことができる。
【0033】
上プレート本体41の中間部41Bには、下方に開口した収納凹部が形成されている。この収納凹部には、スライド部材42を収納し、収納凹部の下方から保持部材44をビスSにより固定する。このようにして、スライド部材42は収納凹部内で左右方向に往復移動可能に収納されている。収納凹部には、スライド部材42が収納された際にスライド部材42の凹部42Aに収納された圧縮コイルバネ48の一端が当接する当接部41Cが下方に垂下して形成されている。これにより、収納凹部42Aに収納されたスライド部材42には、右方向に向けて圧縮コイルバネ48の弾性力が付与されている。
【0034】
スライド部材42の左右両端部には前後に並んだ一対の第2係止部43が設けられている。各第2係止部43は、スライド部材42の下面から垂下する垂下片43Aと、垂下片43Aの下端から外側に突出した被係止片43Bとを有している。前後に並んだ2つの垂下片43Aの間隔は、下プレート30に設けられた前後に隣り合う2つの第1係止部33の係止片33Bの間隔より小さく形成されている。また、各被係止片43Bは、下プレート30に設けられた第1係止部33の各係止片33Bに対応する位置に形成されている。このように形成された第2係止部43はスライド部材42と伴に左右方向に往復移動可能である。
【0035】
スライド部材42の右側面の後方には右方向に突出する凸部42Bが形成されている。凸部42Bはスライド部材42の右側面の中間部から後方に向けて徐々に右方向に延びる傾斜面42Cを有している。
【0036】
便座取付具50は、軸部材51と筒部材52と圧縮コイルバネ53とを有している。筒部材52は軸部材51を挿通する貫通孔を有している。圧縮コイルバネ52は軸部材51が上昇する方向に弾性力を付与している。
【0037】
軸部材51は、円柱状の第1軸部51Aと、この第1軸部51Aの下端に連続する円柱状の第2軸部51Bと、第1軸部51Aの上端に連続する円盤状の頭部51Cとを有している。第2軸部51Bの外径は第1軸部51Aの外径よりも小さく形成されている。頭部51Cの直径は第1軸部52Aの外径よりも大きく形成されている。
【0038】
第2軸部51Bの下端部の外周には第2軸部51Bを一周する溝部51Dが設けられている。この溝部51DにはOリング54がはめ込まれて取り付けられている。Oリング54は圧縮コイルバネをリング状に連結したものである。
【0039】
第2軸部51Bの下端面には円盤状の停止部材51EがボルトB2により取り付けられている。停止部材51Eは筒部材53の下端部に取り付けられる後述する被結合部材55の外径より僅かに大きい外形を有している。このため、停止部材51Eが被係止部材55の下端面に当接し、軸部材51が筒部材52から上方へ抜けてしまうことを防止している。
【0040】
筒部材52は、外周面にねじ山が刻まれた円筒状の胴部52Aと、胴部52Aの下端に取り付けられる被結合部材55と、胴部52Aの上端に連続する平面視が正方形の平板状の頭部52Bとを有している。筒部材52は軸部材51の第2軸部51Bより長く形成されている。被結合部材55は内周面に軸部材51のOリング54が係止する段部55A(図17及び図18参照)が形成されている。
【0041】
圧縮コイルバネ53は、筒部材52の貫通孔の内周面と、筒部材52の貫通孔に挿通した第2軸部51Bの外周面との間に収納されている。圧縮コイルバネ53は軸部材51を上昇させる方向に弾性力を付与している。このように、便座取付具50は上下方向に伸縮可能に形成されている。
【0042】
便座取付具50は、軸部材51の頭部51CとボルトB1が挿通するワッシャーW1とにより上プレート40を挟み込んだ状態でボルトB1をねじ込むことにより、上プレート40から下方に延びて取り付けられる。また、便座取付具50は、筒部材52を下プレート30の貫通孔31Aと便器本体1A、1Bに貫設された取付孔3とを挿通し、筒部材52の下端から挿入したワッシャーW2を挟持してナットNをねじ込むことにより、下プレート30を便器本体1A、1Bの上面に固定することができる。
【0043】
このように構成された便座リフトアップ装置20を利用して、図2及び図4〜図8に示すように、大型便器の便器本体1Aに便座装置10を取り付けて昇降便座を構成する場合と、図3及び図9〜図13に示すように、標準便器の便器本体1Bに便座装置10を取り付けて昇降便座を構成する場合とを比較して説明する。
【0044】
大型便器の便器本体1Aに便座装置10を取り付ける際には、標準便器の便器本体1Bに便座装置10を取り付ける際に比べて、図2及び図3に示すように、便器本体1A、1Bの取付孔3に対して便座装置10を前方側に取り付けることになる。つまり、大型便器の便器本体1Aに便座装置10を取り付ける際(図6、図7参照)には、標準便器の便器本体1Bに便座装置を取り付ける際(図11及び図12参照)に比べて、上プレート40を取付孔3に対して前方側に取り付ける。このためには、図5及び図10に示すように、下プレート30を上下面を反転させずに前後を反転させて便器本体1A、1Bの上面に固定する。
【0045】
上下面を反転させず前後を反転させて下プレート30を便器本体1A、1Bの上面に固定するそれぞれの場合、貫通孔31Aの前後方向の中心位置を示すマーク35に便座取付具50の筒部材52を合わせて、貫通孔31と、便器本体1A、1Bに貫設された取付孔3とに筒部材52を挿通する。その後、筒部材52の下端から挿入しワッシャーW2を挟持してナットNをねじ込む。
【0046】
このようにして下プレート30を便器本体1A、1Bの上面に固定すると、下プレート30を反転させる前後において、前後に並んで配置された各第1係止部33が取付孔3に対して30mmずつ前後方向に変位する。つまり、大型便器の便器本体1Aに下プレート30を取り付けた場合、標準便器の便器本体1Bに下プレート30を取り付けた場合に比べて、取付孔3に対して30mmずつ各第1係止部33を前方に変位させることができる。
【0047】
また、マーク35によって筒部材52を貫通孔31に挿通する基準位置を容易に認識することができるため、便座リフトアップ装置20の便器本体1A、1Bへの取り付けを容易に行なうことができる。また、各第1係止部33を前後方向に確実に30mmずつ変位させることができる。
【0048】
下プレート30を上下面を反転させずに前後を反転することにより第1係止部33を前後方向に変位させるため、下プレート30の前後方向の長さは短くすることができる。このため、下プレート30の前端部が便器本体1A、1Bの取付孔3より前方に大きく迫り出すことを防止することができ、下プレート30の前端部を便器本体1A、1Bに形成された便鉢2の後端縁から離すことができる。よって、飛散した尿等が下プレート30と便器本体1A、1Bの後部上面の間に侵入し難くなる。また、上プレート40が上昇し、便器本体1A、1Bの後部上面と便座支持部材13との間に隙間を設けると、露出する便器本体1A、1Bの後部上面の面積を大きくすることができ、良好に清掃することができる。
【0049】
したがって、実施例の便座リフトアップ装置20は、便器本体1A、1Bの後部上面が汚れ難く、かつ清掃性を良好にすることができる。
【0050】
大型便器の便器本体1A又は標準便器の便器本体1Bに合わせて下プレート30を取り付けた後、図6〜図8及び図11〜図13に示すように、下プレート30に対する上プレート40の位置決めを行うとともに、上プレート40を下プレート30に対して下降させて第1係止部33と第2係止部43とを係止させる。
【0051】
つまり、上プレート本体41の長孔46Aの上方からワッシャーW1を介してボルトB1を挿通する。長孔46を挿通したボルトB1は、便座取付具50の軸部材51の頭部41Cに形成された螺子孔51Fに仮締めされる。この状態で上プレート40を下降させ、下プレート30の嵌合部34に上プレート40の被嵌合部47を嵌合させる。そして、ボルトB1を螺子孔51Fに本締めする。このため、下プレート30に対する上プレート40の位置決めを容易に行なうことができる。
【0052】
このようにして、上プレート40を取付孔3に対して前後方向に30mm変位して取り付けることができ、それぞれの位置で上プレート40を下プレート30に対して昇降させることができる。このため、取付孔3に対して前後方向に30mm変位させた上プレート40に便座装置10の便座支持部材13を取り付けることにより、大型便器及び標準便器のそれぞれに対応した昇降便座を構成することができる。
【0053】
便器本体1A、1Bの上面に取り付けられた便座リフトアップ装置20は、図13及び図14に示すように、上プレート40が下降した際、下プレート30に設けられた4つの第1係止部33と上プレート40に設けられた4つの第2係止部43とが係止する。
【0054】
つまり、上プレート40に設けられた4つの第2係止部43は、左右方向(図13及び図14において上下方向)に往復移動可能なスライド部材42に設けられているため、下プレート30に設けられた4つの第1係止部33の係止片33Bの下方に左側(図13及び図14において上側)から第2係止部43の被係止片43Bが進入し、第1係止部33と第2係止部43は係止することができる。このように、下プレート30が上下面を反転させずに前後を反転して便器本体1A、1Bの上面に取り付けられても、下プレート30に設けられた第1係止部33と上プレート40に設けられた第2係止部43とは良好に係止することができる。
【0055】
また、4つの第1係止部33は、前後方向及び左右方向に2つずつ並んで配置されており、下プレート30が上下面を反転させずに前後を反転して便器本体1A、1Bの上面に固定されても、前後方向に並んで配置された各第1係止部33は、前後方向に並んだ配置された第2係止部43に対して同じ位置関係に配置され、かつ左右方向に並んで配置された各第1係止部33は、左右方向に並んで配置された第2係止部43に対して同じ位置関係に配置される。このため、下プレート30が上下面を反転せずに前後を反転して便器本体1A、1Bの上面に固定されても、下プレート30に設けられた各第1係止部33と上プレート40に設けられた各第2係止部43とを良好かつ強固に係止することができる。これにより、上プレート40は下降位置において安定して保持される。
【0056】
したがって、実施例の便座リフトアップ装置20は、便器本体の大きさの変化に対応することができ、便座装置10を便器本体1A、1Bの上面に安定して取り付けることができる。
【0057】
大型便器の便器本体1A又は標準便器の便器本体1Bの上面に取り付けられ、上プレート40が下降して第1係止部33と第2係止部43とが係止した状態の便座リフトアップ装置20に対し、便座装置10を以下に説明するように取り付ける。
【0058】
便座装置10を便座リフトアップ装置20よりも前の便器本体1A、1Bの上面に載置し、便座支持部材13の凹部14に便座リフトアップ装置20の重ね合わされた下プレート30と上プレート40とが収納されるように、便座支持部材13を後方へスライドさせる。この際、凹部14の段部14Aに上プレート40の鍔部41Aが係止し、かつ凹部14内で下方に突出する2つの爪部15Aが上プレート40の2列の係止溝45に挿入されるようにスライドさせる。便座支持部材13が後方へスライドする際、爪部15Aがスライド部材42の凸部42Bの傾斜面42Cに当接し、スライド部材42を左方向に移動させる。爪部15Aは傾斜面42Cに当接し、徐々にスライド部材42を左方向に移動させるため、抵抗が少なく、便座支持部材13を後方へ容易にスライドさせることができる。便座支持部材13を完全に後方へスライドさせると、圧縮コイルバネ49の弾性力によりスライド部材42が右方向に移動し、爪部15Aが係止溝45の段部45Aに係止する。これにより、便座支持部材13が前方へ移動することができなくなり、便座装置10は、図15(a)、図16(a)及び図17に示すように、便座リフトアップ装置20に取り付けられる。
【0059】
便座リフトアップ装置20を利用して便座装置10を便器本体1A、1Bの上面に取り付けた昇降便座は、図15(B)及び図16(B)に示すように、便座装置10のレバー部材15の操作部15Bを左方向に引き出すと、爪部15Aがスライド部材42の凸部42Bに当接して、スライド部材42を左方向に移動させる。このため、スライド部材42に設けられた第2係止部43が左方向に移動し、その中間位置において、第1係止部33との係止状態が解除される。この状態で、便座装置10の便座支持部材13を保持して、上方へ引き上げると、便座取付具50の圧縮コイルバネ53の弾性力を利用して、図18及び図19に示すように、便座装置10を容易に引き上げることができる。
【0060】
また、便座装置10を上昇位置まで引き上げると、便座取付具50の軸部材51のOリング54が被結合部材55の段部55Aに係止し、便座装置10を上昇位置に保持することができる。
【0061】
便座装置10のレバー部材15の操作部15Bを完全に左方向に引き出すと、図15(C)及び図16(C)に示すように、爪部15Aが係止溝45の段部45Aより左方向に移動し、係止状態が解除される。このため、便座装置10を前方へ引き出すことができ、便座装置10を便座リフトアップ装置20から取り外すことができる。
【0062】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例では、第1係止部を移動させずに第2係止部を左右方向に往復移動可能としたが、第1係止部を左右方向に往復移動可能として第2係止部を移動させない構成としてもよい。
(2)実施例では、第1係止部と第2係止部を4つずつ設けたが、下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して便器本体の上面に固定されても第2係止部に対して同じ位置関係に配置されていれば第1係止部及び第2係止部の数はいくつであってもよい。
(3)実施例では、第1係止部と第2係止部を前後方向及び左右方向に並んで4つずつ設けたが、下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して便器本体の上面に固定されても第2係止部に対して同じ位置関係に配置されていれば第1係止部及び第2係止部の前後方向のみ、又は左右方向のみに並んで設けてもよい。また、前後方向及び左右方向に3つ以上並べてもよい。
(4)実施例では下プレートに第1係止部、上プレートに第2係止部及びロック機構を設けたが、下プレートに第2係止部及びロック機構と同様な機構を設け、上プレートに第1係止部と同様な機構を設けてもよい。
(5)実施例では係止部を1枚の金属板を切り欠き、さらに折り曲げて形成しているが、係止部は別体に形成し下プレートに一体にしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1A、1B…便器本体
3…取付孔
10…便座装置
11…便座
13…便座支持部材
20…便座リフトアップ装置
30…下プレート
31A…貫通孔
33…第1係止部
40…上プレート
43…第2係止部
50…便座取付具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座と、この便座を回動自在に軸支する便座支持部材とを備えた便座装置を便器本体の上面に取り付けて昇降させる便座リフトアップ装置であって、
上下方向に貫設された貫通孔と、この貫通孔の前後方向の中心に対して前後方向の一方に偏った位置に設けられた第1係止部とを有し、上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定することができる下プレートと、
この下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定されることにより前後方向に変位する前記第1係止部に対応して前後方向に変位したそれぞれの位置で前記下プレートに対して昇降し、下降した際に前記第1係止部に係止する第2係止部を有し、前記便座支持部が取り付けられる上プレートと、
この上プレートの前後方向の変位に対応した位置に取り付けられて下方に延び、前記貫通孔と前記便器本体に貫設された取付孔とを挿通して前記下プレートを前記便器本体の上面に固定し、上下方向に伸縮する便座取付具とを備え、
前記第1係止部又は前記第2係止部の一方が左右方向に往復移動可能であり、左右方向から前記第1係止部又は前記第2係止部の他方に係止することを特徴とする便座リフトアップ装置。
【請求項2】
前記第1係止部と前記第2係止部は複数個ずつ設けられていることを特徴とする請求項1記載の便座リフトアップ装置。
【請求項3】
前記各第1係止部は、前後方向に並んで配置されており、前記下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定されても前後方向に並んで配置された前記各第2係止部に対して同じ位置関係に配置されることを特徴とする請求項2記載の便座リフトアップ装置。
【請求項4】
前記各第1係止部は、左右方向に並んで配置されており、前記下プレートが上下面を反転させずに前後を反転して前記便器本体の上面に固定されても左右方向に並んで配置された前記各第2係止部に対して同じ位置関係に配置されることを特徴とする請求項2又は3記載の便座リフトアップ装置。
【請求項5】
前記便座装置と請求項1乃至4のいずれか1項記載の便座リフトアップ装置とを備えていることを特徴とする昇降便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−212107(P2011−212107A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81237(P2010−81237)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】