説明

便座装置及びトイレ装置

【課題】便座が回動したときに、便座後部とタンクなどとの干渉を回避できる、もしくは使用者が手すりなどをより近い位置で使用することができる便座装置及びこれを備えたトイレ装置を提供する。
【解決手段】便器の上部に固定されるベース部と、前記ベース部の上部に設けられる便座と、を備え、前記便座は、前記ベース部の上面に略沿うように前後移動可能とされ、かつ前記便座の中心位置が前記便座の回動に伴って逐次移動する偏心回動可能とされたことを特徴とする便座装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座装置及びトイレ装置に関し、具体的には回動可能な便座を有する便座装置及びこれを備えたトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車いすを使用している体の不自由な障害者などは、便座から車いすに移乗するとき、または車いすから便座に移乗するとき、トイレ室に備えられた手すりを利用したり、介護者からの介護を必要とする。一方、足腰の弱った高齢者なども同様に、便座から起立するとき、または便座に着座するとき、トイレ室に備えられた手すりなどを利用する。
【0003】
しかし、便座が略水平面内において便器などに固定されていると、使用者は車いすや手すりなどのある方向に体を向けようとしても便座が追従しないため、体の方向転換が容易ではない。すなわち、使用者が便座から車いすに移乗したり、手すりを利用することは容易ではない。一方、便座に移乗する場合であっても、便座が追従しないため、便座に着座しにくく、使用者は不安を感じるおそれがある。
【0004】
これに対して、便座が略水平面で回動できる便座装置がある(例えば、特許文献1および2)。特許文献1および2に記載された便座装置は、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動できる構造を有している。そのため、使用者は、車いすや手すりなどの方向に体を方向転換しやすく、便座からの移乗を比較的容易に行うことができる。しかし、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動するため、使用者にとって車いすや手すりなどが遠い。つまり、使用者は手すりなどを利用するときには前傾姿勢を取る必要があり、転倒する危険性があったり、足腰への負担が大きくなるという問題がある。
【0005】
一方、便座が便器に対して滑らかに回動できる便座装置がある(例えば、特許文献3)。しかし、特許文献3に記載された便座装置は、特許文献1および2に記載された便座装置と同様に、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動する。そのため、使用者は手すりなどを利用するときには前傾姿勢を取る必要があり、転倒する危険性があったり、足腰への負担が大きくなるという問題がある。さらに、特許文献1〜3に記載された便座装置は、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動するため、便座が回動したときに、便座後部とタンクまたは臀部洗浄装置などとが干渉するおそれがある。
【特許文献1】特開2002−282171号公報
【特許文献2】特開平7−204125号公報
【特許文献3】特開平11−332787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、便座が回動したときに、便座後部とタンクなどとの干渉を回避できる、もしくは使用者が手すりなどをより近い位置で使用することができる便座装置及びこれを備えたトイレ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、便器の上部に固定されるベース部と、前記ベース部の上部に設けられる便座と、を備え、前記便座は、前記ベース部の上面に略沿うように前後移動可能とされ、かつ前記便座の中心位置が前記便座の回動に伴って逐次移動する偏心回動可能とされたことを特徴とする便座装置が提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、便器と、前記便器に付設された上記の便座装置と、を備えたことを特徴とするトイレ装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、便座が回動したときに、便座後部とタンクなどとの干渉を回避できる、もしくは使用者が手すりなどをより近い位置で使用することができる便座装置及びこれを備えたトイレ装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
図1に表したトイレ室は、便座装置10と、便器100と、手すり300と、を備えている。便座装置10は、便座12と、ベース部14と、固定手段16と、を有している。ベース部14は便器100の上部に設置されており、便座12はベース部14の上部に設置されている。固定手段16は、便座12の後方部に付設されている。
【0011】
手すり300は、壁面200に設置されている。但し、手すり300は、壁面200に対向する図示しない壁面に設置されていてもよいし、便座装置10の前方にある図示しない壁面に設置されていてもよい。壁面200には、さらにペーパーホルダ310が設置され、そのペーパーホルダ310にトイレットペーパー312が設置されていてもよい。
【0012】
便座装置10の後方には、ロータンク104が設置されている。但し、図1に表したトイレ室においては、洗浄機構がいわゆる「ロータンク式」の大便器を例示しているが、この洗浄機構はロータンクを用いない、いわゆる「水道直圧式」であってもよい。また、便座12に座った使用者の「おしり」などに向けて水を噴射し、「おしり」の洗浄を可能とした温水洗浄便座装置102(臀部洗浄装置)が、ベース部14に付設されていてもよい。便座12は、後に詳述するように、ベース部14および便器100に対して移動することができるが、便座12の移動時に温水洗浄便座装置102が誤作動を起こすと、使用者の服に吐水がかかるなどするため、好ましくない。そこで、このように温水洗浄便座装置102と便座12とを分離することによって、着座センサが人体の非着座状態を検知することになり、温水洗浄便座装置102の誤作動防止を期待することができる。
【0013】
車いすを使用している体の不自由な障害者などは、便座12から車いすに移乗するとき、または車いすから便座12に移乗するとき、例えば手すり300などを利用する。一方、足腰の弱った高齢者なども同様に、便座12から起立するとき、または便座12に着座するとき、例えば手すり300などを利用する。
【0014】
図2は、本実施形態にかかる便座装置を斜めから眺めた模式斜視図であり、図2(a)は、便座が前方移動した状態を表した模式図であり、図2(b)は、便座が回動した状態を表した模式図である。
また、図3は、本実施形態にかかる便座装置を上方から眺めた模式上面図であり、図3(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図3(b)は、便座が前方移動した状態を表した模式図であり、図3(c)は、便座が回動した状態を表した模式図である。
【0015】
ベース部14は、図示しない固定手段によって便器100に固定されている。図示しない固定手段は、いわゆる「ボルト」などと呼ばれるものであってもよい。そのため、ベース部14は、便器100に対して移動することはできない。また、ベース部14は、便座12に対向する面にガイド部24を有している。このガイド部24は、ベース部14の右側辺部と左側辺部との略中心部に前後方向に沿って設けられている。
【0016】
便座12は、ベース部14に対向する面に回動軸22を有し、この回動軸22は、ガイド部24に係合されている。回動軸22は、便座12の右側辺部と左側辺部との略中心部であり、かつ後方部に設けられている。但し、本実施形態においては、便座12が回動軸22を有し、ベース部14がガイド部24を有しているが、これだけに限られるわけではなく、例えば、便座がガイド部を有し、ベース部が回動軸を有し、この回動軸がガイド部に係合されていてもよい。
【0017】
なお、便座12は、前端部12bに切り欠き部を有していてもよい。このようにすれば、便座12が移動することによって生ずる便座12とベース部14との間の空隙において、使用者の身体が挟み込まれることを防止することができる。
【0018】
回動軸22は、ガイド部24に沿って前後方向に移動することができる。すなわち、便座12は、図2(a)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24に略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、前後移動400を行うことができる。さらに、回動軸22はガイド部24の内部において、回動することができる。すなわち、便座12は、図2(b)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ベース部14の上面に略沿うように、回動軸22を中心とした回動410を行うことができる。その結果、便座12は、便座12の中心位置が回動410に伴って逐次移動する偏心回動を行うことができる。
【0019】
ここで、便座装置10は、後に詳述するように、最前方へ移動した後でなければ回動410を行うことができない構造を有していてもよいし、前後移動400の途中であっても回動410を行うことができる構造を有していてもよい。このように、便座12が前後移動400および回動410を行うことによって、後に詳述するように、使用者は手すり300または車いすなどに近づくことができる。
【0020】
図4は、回動軸とガイド部との設置位置の変形例を例示する模式図である。
図4に表した回動軸22は、便座12の右側辺部と左側辺部との略中心部ではなく、略中心部より右側方寄りに設けられている。一方、回動軸22がベース部14に対向する面に設けられ、ガイド部24に係合されている点においては、図3に表した回動軸22と同様である。
【0021】
ガイド部24は、ベース部14の右側辺部と左側辺部との略中心部ではなく、略中心部より右側方寄りに前後方向に沿って設けられている。一方、ガイド部24が便座12に対向する面に設けられている点においては、図3に表したガイド部24と同様である。
【0022】
便座12は、図4(b)に表したように、ベース部14および便器100に対して前後移動400を行うことができる。この動作は、図3(b)に表した動作と同様であるため、その説明は省略する。一方、便座12は、図4(c)に表した動作のように、回動軸22を中心とした回動410を行うことができるが、回動軸22が便座12の略中心部より右側方寄りに設けられているため、便座12の前端部12bは、図3(c)に表した便座12の前端部12bよりも前方および右側方に位置することができる。そのため、手すり300が便座装置10の右側方または前方の壁面に設置されている場合には、後に詳述するように、便座12は図3に表した便座装置10よりもさらに近づくことができる。その他の動作は、図3に表した便座装置10と同様である。
【0023】
図5は、回動軸とガイド部との設置位置の他の変形例を例示する模式図である。
図5に表した回動軸22は、図3に表した回動軸22と同様であるため、その説明は省略する。ガイド部24は、ベース部14の後方部における右側辺部と左側辺部との略中心部と、ベース部14に設けられた開口部14aの後方部における右側辺部と左側辺部との略中心部より右側方寄りの部分と、を結ぶ直線に沿って設けられている。その他の構造については、図3に表した便座装置10と同様である。
【0024】
便座12は、図5(b)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して右斜め前後移動402を行うことができる。つまり、便座12は前方移動を行いつつ、右側方移動を行うことができる。さらに、便座12は、図5(c)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、回動軸22を中心とした回動410を行うことができる。その結果、便座12は、便座12の中心位置が回動410に伴って逐次移動する偏心回動を行うことができる。これらの動作によって、便座12の前端部12bは、図3(c)および図4(c)に表した状態よりも右側方に位置することができる。そのため、手すり300が便座装置10の右側方の壁面に設置されている場合には、後に詳述するように、便座12は図3および図4に表した便座装置10よりもさらに近づくことができる。その他の動作は、図3に表した便座装置10と同様である。
【0025】
図6は、本実施形態にかかる便座装置を右側方から眺めた模式図である。
図6に表した便座装置10において、便座12はベース部14および便器100に対して前方移動404を行っている。このとき、便座12の前端部12bと、便器100の前端部100bと、の間において空間106が生ずる。したがって、使用者は便座12から起立するとき、または車いすに移動するとき、この空間106に足を引き込むことができるため、自然な前傾姿勢を取ることができる。すなわち、使用者は足を空間106に引き込むことで、起立動作や車いすへの移乗動作を楽に行うことができる。
【0026】
さらに、便座12の後端部12cと、ロータンク104の前方面と、の間において空間108が生ずる。したがって、例えば、介護者が使用者の背後から介護を行う必要がある場合には、使用者とロータンク104との間の空間108に介護者が入り込むことで、介護を楽に行うことができる。これに対して、便座12が前方へ移動しない場合には、使用者とロータンク104との間に空間108が生ずることはなく、使用者の背後から介護を行うことは容易ではない。
【0027】
図7は、便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図7(a)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図7(b)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
図7(a)および(b)に表した便座装置において、温水洗浄便座装置102(図1参照)は設けられていない。図7(a)に表した便座装置における便座12は、前方移動404、および回動軸22(図3参照)を中心とした回動410を行っている。この場合、便座12が前方移動404を行っているため、回動410を行ったとしても、便座12とロータンク104との間に空間110が生ずる。すなわち、便座12とロータンク104とは干渉しない。
【0028】
これに対して、図7(b)に表した比較例の便座装置における便座12は、便座12に設けられた開口部12aの略中心部を中心とした回動410のみを行っている。この場合、便座12は前方移動を行っていないため、便座12とロータンク104とが、干渉部112において干渉するおそれがある。便座12とロータンク104とが干渉すると、便座12の回動角度が小さくなるだけではなく、便座12またはロータンク104が破損するおそれがあるため、好ましくない。
【0029】
図8は、温水洗浄便座装置が設けられた便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図8(a)は、便座が用便位置にある状態を表す模式図であり、図8(b)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図8(c)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
図8に表した便座装置において、便座12の後方に温水洗浄便座装置102(図1参照)が設けられている。図8(a)に表した状態のように、便座12が用便位置にあるときは、便座12と温水洗浄便座装置102とは干渉していない。
【0030】
図8(b)に表した便座装置における便座12は、前方移動404、および回動軸22(図3参照)を中心とした回動410を行っている。この場合、便座12が前方移動404を行っているため、回動410を行ったとしても、便座12と温水洗浄便座装置102との間に空間114が生ずる。すなわち、便座12と温水洗浄便座装置102とは干渉しない。
【0031】
これに対して、図8(c)に表した比較例の便座装置における便座12は、便座12に設けられた開口部12aの略中心部を中心とした回動410のみを行っている。この場合、便座12は前方移動を行っていないため、便座12と温水洗浄便座装置102とが、干渉部116において干渉するおそれがある。便座12と温水洗浄便座装置102とが干渉すると、便座12の回動角度が小さくなるだけではなく、便座12または温水洗浄便座装置102が破損するおそれがあるため、好ましくない。
【0032】
図7および8を参照しつつ説明したように、便座12が開口部12aの略中心部を中心とした回動410のみを行う場合、便座12の後方部において、便座12と、ロータンク104または温水洗浄便座装置102と、が干渉するおそれがある。これに対して、本実施形態の便座装置によれば、便座12は前方移動404、および回動軸22を中心とした回動410を行うため、便座12と、ロータンク104または温水洗浄便座装置102と、の干渉を回避することができる。
【0033】
図9は、便座と手すりとの位置関係を上方から眺めた模式上面図であり、図9(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図9(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
また、図10は、便座と手すりとの位置関係を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図10(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図10(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【0034】
図9(a)および図10(a)に表した動作のように、本実施形態にかかる便座装置10の便座12は、前方移動404および回動軸22(図3参照)を回動中心とした回動410を行うことができる。つまり、便座12の前端部12bは、用便位置にある場合と比較すると、壁面200に設置された手すり300により近づくことができる。したがって、便座12が前方移動404を行うことによって、使用者は手すり300に近づくことができる。さらに便座12が回動410を行うことによって、使用者は身体を手すり300の方向に向けることができ、手すり300に近づくことができる。
【0035】
このようにして、使用者は足腰への負担を軽減した状態で、手すり300を利用して起立したり、車いすに移乗することができる。一方、便座12に着座する場合においても、便座12が手すり300または車いすなどに近づくことができるため、使用者は安心して着座することができる。また、使用者が小柄で手すり300に手が届きにくい場合であっても、便座12を前方移動404および回動軸22を回動中心として回動410させることで、手すり300に近づくことができるため、使用者は体格によらず楽に手すり300を利用することができる。
【0036】
使用者が車いすを使用している場合、トイレ室内における車いすでの移動を少なくすることができれば、使用者および介護者にとって楽になる。これは、狭いトイレ室内において、車いすを自由に移動させることが容易ではないためである。そこで、便座12を前方移動404および回動軸22を回動中心として回動410させることで、便座12を車いすに近づけることができるため、トイレ室内における車いすでの移動を少なくすることができる。したがって、使用者は便座12または車いすからの移乗動作を楽に行うことができ、介護者にとっても楽に介護を行うことができる。
【0037】
また、図4に表した便座装置を使用すれば、便座12をさらに手すり300や車いすに近づけることができる。但し、図9および10に表したトイレ室のように、手すり300が便座装置10の左側方に位置する壁面200に設置されている場合には、回動軸22およびガイド部24を、便座12およびベース部14のそれぞれの右側辺部と左側辺部との略中心部より左側方寄りに設ける必要がある。
【0038】
なお、便座12を座面と基台部との二層構造に分割し、基台部に回動軸22を設けてもよい。このようにすれば、便座装置10を設置するときに、基台部を表裏反対にして便座12に固定し、かつベース部14を表裏反対に便器100に固定することによって、回動軸22およびガイド部24を、便座12およびベース部14のそれぞれの右側辺部と左側辺部との略中心部より左側方寄りに設けることができる。
【0039】
また、図5に表した便座装置を使用すれば、図3および図4に表した便座装置よりも、便座12をさらに手すり300や車いすに近づけることができる。但し、図9および10に表したトイレ室のように、手すり300が便座装置10の左側方に位置する壁面200に設置されている場合には、図5に表したガイド部24を、ベース部14の右側辺部と左側辺部との略中心部に対して左右対称となる方向に設ける必要がある。
【0040】
なお、便座装置10を設置するときに、ベース部14を表裏反対に便器100に固定できるようにしてもよい。このようにすれば、図5に表したガイド部24を、ベース部14の右側辺部と左側辺部との略中心部に対して左右対称となる方向に設けることができる。
【0041】
図5に表した便座装置10においては、便座12が斜め前方へ移動したとき、すでに便座12は手すり300に近づいている。したがって、この場合には、使用者は前方へ移動したときに、すでに手すり300や車いすなどに近づいている。この状態から、便座12を回動させると、使用者はさらに手すり300や車いすなどに近づくことができる。
【0042】
これに対して、図9(b)および図10(b)に表した動作のように、比較例にかかる便座装置は、便座12に設けられた開口部12aの略中心部を中心とした回動410のみを行う。つまり、便座12の前端部12bを、手すり300の方向に向けることはできるが、図9(a)および図10(a)に表した便座装置のようには、手すり300に近づけることはできない。
【0043】
したがって、便座12に着座した使用者にとっては、手すり300が遠いため、手すり300を利用する場合は、無理に前傾姿勢を取って手すり300を掴む必要がある。しかし、この動作は足腰への負担が大きいため、足腰の弱った高齢者などにとっては容易ではない。また、便座12が手すり300に近づかないため、便座12へ移乗する場合、使用者は不安を感じるおそれがある。
【0044】
図11は、本実施形態にかかる便座装置の回動部機構を例示する模式図であり、図11(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図11(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
図11に表した回動軸22は、略直方体の形状を有している。また、図11に表したガイド部24は、前方部に略円柱の形状をした円柱部24bと、後方部に略直方体の形状をした直方体部24aと、を有している。回動軸22の左右方向の幅寸法と、直方体部24aの左右方向の幅寸法と、は略同じである。そのため、回動軸22が直方体部24aにある場合には、回動軸22は回動することはできない。すなわち、回動軸22が直方体部24aにある場合には、便座12は前後移動400を行うことはできるが、回動410を行うことはできない。
【0045】
一方、回動軸22の前後方向の幅寸法は、円柱部24bの直径と、は略同じである。そのため、回動軸22が前方へ移動し、円柱部24bに到達した場合には、回動軸22は円柱部24bの内壁に沿って回動することができる。すなわち、便座12は、最前方へ移動した後でなければ回動410を行うことはできない。
【0046】
これによれば、便座12は用便位置にあるときには回動410を行うことができないため、使用者は便座12がより安定した状態で用便を行うことができる。すなわち、足腰の弱った高齢者などが使用する場合、より安全に用便を行うことができる。さらに、便座12は最前方に移動した後でなければ回動410を行うことができないため、使用者はより安定した状態で便座12の前後移動400を行うことができる。また、使用者は、便座12が回動410を行うことができる略位置を把握することできるため、より安全に前方移動404から回動410へ移行することができる。
【0047】
図12は、回動部機構の変形例を例示する模式図であり、図12(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図12(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
図12に表した回動軸22は、略円柱の形状を有している。また、図12に表したガイド部24は、図11に表したガイド部24と同様に、前方部に略円柱の形状をした円柱部24bと、後方部に略直方体の形状をした直方体部24aと、を有している。円柱部24bには、内壁に沿ってベアリング24cがさらに設けられている。ベアリング24cの個数は7個の場合を例示したが、これに限られるわけではなく、適宜変更してもよい。
【0048】
回動軸22の直径と、直方体部24aの左右方向の幅寸法と、は略同じである。そのため、回動軸22が直方体部24aにある場合には、回動軸22は回動しようとしても直方体部24aの内壁から摩擦力を受けることになるため容易ではない。すなわち、回動軸22が直方体部24aにある場合には、便座12は前後移動400を行うことはできるが、回動410を行うことは困難である。但し、便座12が左右方向から強い力を受けた場合などは、回動軸22は直方体部24aの内壁から受ける摩擦力よりも大きな力を受けて回動することができる。
【0049】
一方、回動軸22が円柱部24bに到達した場合には、円柱部24bの内壁に沿ってベアリング24cが設けられているため、回動軸22は円滑に回動410を行うことができる。すなわち、便座12は、最前方へ移動した後でなければ、円滑に回動410を行うことはできない。
【0050】
これによれば、便座12が左右方向から強い力を受けない場合には、使用者は便座12がより安定した状態で用便することができ、さらに前後移動400を行うことができる。一方、便座12または使用者が左右方向から強い力を受けた場合には、その力を逃げさせるように便座12は回動410を行うことができる。そのため、使用者が力を受けた場合における転倒防止を期待することができる。
【0051】
図13は、回動部機構の他の変形例を例示する模式図であり、図13(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図13(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
図13に表した回動軸22は略球の形状を有している。また、図13に表したガイド部24は、略直方体の形状をした直方体部24aを有している。すなわち、図13に表したガイド部24は、図11および12に表した円柱部24bを有していない。
【0052】
図12に表した回動部機構においては、回動軸22は略円柱の形状を有しているため、回動軸22と直方体部24aとの接触面積は大きい。そのため、回動軸22が直方体部24aにある場合には、直方体部24aの内壁から受ける摩擦力が大きいため、回動軸22は回動410を行うことは容易ではない。これに対して、図13に表した回動部機構においては、回動軸22の直径と、直方体部24aの左右方向の幅寸法と、は略同じであるが、回動軸22は略球の形状を有しているため、回動軸22と直方体部24aとの接触面積は小さい。そのため、回動軸22が直方体部24aにある場合であっても、直方体部24aの内壁から受ける摩擦力は小さいため、回動軸22は回動410を行うことができる。
【0053】
ガイド部24は略直方体の形状を有しているため、回動軸22がガイド部24の最前方に到達した場合であっても、同様に回動軸22は回動410を行うことができる。すなわち、便座12は、回動軸22の位置に関わらず、回動410を行うことができる。これによれば、便座12が前後移動400を行っている途中であっても、便座12は回動410を行うことができるため、使用者は自由に手すり300または車いすの方向に身体を向けることができる。したがって、便座12からの起立動作や車いすへの移乗動作、または便座12への移乗動作に自由度を持たせることができる。
【0054】
図14は、回動部機構のさらに他の変形例を例示する模式図であり、図14(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図14(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
図14に表した回動軸22は略球の形状を有している。回動軸22は、球の略中心を通る円周上にベアリング22cを有している。したがって、回動軸22の位置に関わらず、回動軸22の略中心を通る円周上には常にベアリング22cが存在することなる。なお、ベアリング22cの個数は7個の場合を例示したが、これに限られるわけではなく、適宜変更してもよい。
【0055】
また、図14に表したガイド部24は、図13に表したガイド部24と同様であるため、その説明は省略する。これによれば、便座12は、回動軸22の位置に関わらず、円滑に回動410を行うことができる。したがって、使用者は小さな力で前後移動400および回動410を行うことができるため、便座12からの起立動作や車いすへの移乗動作、または便座12への移乗動作を楽に行うことができる。また同様に、介護者は小さな力で足腰の弱った高齢者などの介護を行うことができる。
【0056】
図15は、便座の固定手段を例示する模式図である。
なお、図15に表した便座装置において、説明の便宜上、便座12を省略している。
本実施形態にかかる便座装置は、前述のように便座12が移動するため、便座12から車いすなどに移乗するときには、または車いすから便座12に移乗するときには、便座12を固定することが好ましい。移乗の際に便座12が移動すると、使用者の体勢が不安定となり、便座12から転倒するおそれがあるためである。したがって、本実施形態にかかる便座装置は、便座12の固定手段16(図1参照)を備えている。
【0057】
便座の固定手段16は、便座12の後方部に付設されている。固定手段16は、ベース部の方向に向かう固定軸16aと、使用者が操作するための取っ手16bと、を有している。固定軸16aと取っ手16bとは締結されており、また、図示しない付勢手段によって、ベース部14の方向へ付勢されている。付勢手段は、例えば「ばね」などが挙げられる。また、ガイド部24は、前方部に孔24dと、後方部に孔24eと、を有する。ベース部14は、ガイド部24の左右側方に孔14dを有する。
【0058】
固定軸16aの直径と、孔24d、24eの直径と、は略同じである。したがって、固定軸16aが孔24d、24eに挿入された状態のときは、便座12の前後移動400および回動410を抑制することができる。一方、便座12をベース部14の上面に略沿うように移動させる場合には、取っ手16bを上方へ持ち上げ、固定軸16aを孔24d、24eから外すことで、便座12を移動させることができる。なお、孔24d、24eは、ガイド部24の中間位置に設けられていてもよい。さらに、孔の個数は2個だけに限られず、適宜変更してもよい。
【0059】
また、固定軸16aの直径と、孔14dの直径と、は略同じである。したがって、固定軸16aが孔14dに挿入された状態のときは、便座12の前後移動400および回動410を抑制することができる。一方、便座12をベース部14の上面に略沿うように移動させる場合には、前述と同様に、取っ手16bを上方へ持ち上げ、固定軸16aを孔14dから外せばよい。
【0060】
なお、固定手段16と孔14dとを利用して便座12の回動410および前後移動400を抑制する場合には、回動軸22(図3参照)を、便座12の後端部ではなく、後端部から前方へ適宜移動させた位置に設ける必要がある。これは、回動軸22を便座12の後端部に設けると、便座12は後端部に設けられた回動軸22を中心とした回動410を行うため、固定手段16が孔14dに到達できなくなるからである。また、孔14dの設置位置または個数は、適宜変更されてもよい。
【0061】
これによれば、使用者が便座から起立する場合や車いすへ移乗する場合、または便座へ移乗する場合、便座12の前後移動400または回動410を止めることができるため、より安全に起立動作や移乗動作を行うことができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、便座12は前方移動404、および回動軸22を中心とした回動410を行うため、便座12と、ロータンク104または温水洗浄便座装置102と、の干渉を回避することができる。また、便座12が手すり300または車いすに近づくことができるため、使用者は足腰への負担を軽減した状態で、手すり300を利用して起立したり、車いすに移乗することができる。一方、便座12に着座する場合においても、使用者は安心して着座することができる。また、便座12は前方移動404を行うため、使用者は足を空間106に引き込むことで、起立動作や車いすへの移乗動作を楽に行うことができる。一方、介護者は、使用者とロータンク104との間の空間108に入り込むことで、使用者の背後から介護を楽に行うことができる。さらに、便座12が車いすに近づくことができるため、トイレ室内における車いすでの移動を少なくすることができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、回動軸22やガイド部24などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや便座装置10の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、ベース部14に回動軸22が設けられ、これに係合するガイド部24が便座12に設けられていてもよい。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
【図2】本実施形態にかかる便座装置を斜めから眺めた模式斜視図であり、図2(a)は、便座が前方移動した状態を表した模式図であり、図2(b)は、便座が回動した状態を表した模式図である。
【図3】本実施形態にかかる便座装置を上方から眺めた模式上面図であり、図3(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図3(b)は、便座が前方移動した状態を表した模式図であり、図3(c)は、便座が回動した状態を表した模式図である。
【図4】回動軸とガイド部との設置位置の変形例を例示する模式図である。
【図5】回動軸とガイド部との設置位置の他の変形例を例示する模式図である。
【図6】本実施形態にかかる便座装置を右側方から眺めた模式図である。
【図7】便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図7(a)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図7(b)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図8】温水洗浄便座装置が設けられた便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図8(a)は、便座が用便位置にある状態を表す模式図であり、図8(b)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図8(c)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図9】便座と手すりとの位置関係を上方から眺めた模式上面図であり、図9(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図9(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図10】便座と手すりとの位置関係を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図10(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図10(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図11】本実施形態にかかる便座装置の回動部機構を例示する模式図であり、図11(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図11(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図12】回動部機構の変形例を例示する模式図であり、図12(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図12(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図13】回動部機構の他の変形例を例示する模式図であり、図13(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図13(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図14】回動部機構のさらに他の変形例を例示する模式図であり、図14(a)は、上方から眺めた模式上面図であり、図14(b)は、斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図15】便座の固定手段を例示する模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10 便座装置、 12 便座、 12a 開口部、 12b 前端部、 12c 後端部、 14 ベース部、 14a 開口部、14d 孔 16 固定手段、 16a 固定軸、 16b 取っ手、 22 回動軸、 22c ベアリング、 24 ガイド部、 24a 直方体部、 24b 円柱部、 24c ベアリング、 24d、24e 孔、 100 便器、 100b 前端部、 102 温水洗浄便座装置(臀部洗浄装置)、 104 ロータンク、 106、108、110 空間、 112 干渉部、 114 空間、 116 干渉部、 200 壁面、 300 手すり、 310 ペーパーホルダ、 312 トイレットペーパー、 400 前後移動、 402 右斜め前後移動、 404 前方移動、 410 回動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の上部に固定されるベース部と、
前記ベース部の上部に設けられる便座と、
を備え、
前記便座は、前記ベース部の上面に略沿うように前後移動可能とされ、かつ前記便座の中心位置が前記便座の回動に伴って逐次移動する偏心回動可能とされたことを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記ベース部及び前記便座のいずれか一方はガイド部を有し、いずれか他方は前記ガイド部に係合する回動軸を有し、
前記便座は、前記ガイド部に略沿うように前後移動可能とされ、かつ前記回動軸を中心として回動可能とされたことを特徴とする請求項1記載の便座装置。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記ベース部または前記便座の右側辺部と左側辺部との略中心部において前後方向に沿って設けられたことを特徴とする請求項2記載の便座装置。
【請求項4】
前記ガイド部は、前記ベース部または前記便座の右側辺部と左側辺部との略中心部から偏心した位置において前後方向に沿って設けられたことを特徴とする請求項2記載の便座装置。
【請求項5】
前記ガイド部は、
前記ベース部または前記便座の後方部における右側辺部と左側辺部との略中心部と、
前記ベース部または前記便座が有する開口部の後方部における右側辺部と左側辺部との略中心部から偏心した位置と、
を結ぶ直線に沿って設けられたことを特徴とする請求項2記載の便座装置。
【請求項6】
前記便座は、前記回動軸が前記ガイド部の最前方位置に到達した場合に前記回動が可能となり、前記回動軸が前記ガイド部の最前方位置に到達していない場合には、前記前後移動のみが可能であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項7】
前記便座は、前記回動軸が前記ガイド部のいずれの位置にある場合であっても、前記前後移動および前記回動が可能であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項8】
前記ベース部及び前記便座のいずかれ一方は、孔を有し、
前記ベース部及び前記便座のいずれか他方は、固定手段を有し、
前記固定手段が前記孔に挿入されることによって、前記便座は前記前後移動および前記回動を抑制されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項9】
前記ベース部に臀部洗浄装置が付設されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項10】
前記便座は、前端部に切り欠き部を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項11】
前記ベース部は、前記便器との固定手段を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項12】
便器と、
前記便器に付設された請求項1〜11のいずれか1つに記載の便座装置と、
を備えたことを特徴とするトイレ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−297458(P2009−297458A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158478(P2008−158478)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発介護動作支援ロボット及び実用化技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】