説明

便座装置

【課題】
より座り心地の優れた便座装置を提供すること。
【解決手段】
内部に空洞58が設けられ、剛体であるベース部材50と、使用者が着座する部分であって、ベース部材50の材料よりも軟質の材料で形成され、ベース部材50のうち少なくとも上面52aを被覆し、ベース部材50に着脱可能に取り付けられる被覆部材40と、空洞58内に配置される加熱用電気ヒータ56と、を備える便座4であって、被覆部材40は発泡倍率が5〜30倍の発泡ポリエチレン樹脂で形成され、被覆部材40の表面温度は周囲温度が20℃の条件下で約30℃に制御される構成としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公知の便座装置が、後述の特許文献1に記載されている。この便座装置は、内部に空洞を有するベース部材(便座筐体)と、使用者が着座する部分であって、ベース部材のうち少なくとも上面を被覆し、ベース部材に着脱可能に取り付けられる被覆部材と、空洞内に配置されるヒータとで構成される。被覆部材は、ベース部材の材料よりも軟質の発泡樹脂(発泡ウレタン樹脂等)で形成され、弾力を有する。
【特許文献1】特開2006−197962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のものにおいて、被覆部材は使用者の臀部等が直接接触する部位であるが、被覆部材の表面温度の適正値については具体的な言及がない。このため、被覆部材の材料として発泡樹脂が用いられているものの、発泡樹脂という軟質且つ多孔質の材料が持つ高い断熱性を生かした実用性のある表面温度設定が十分に提案されておらず、優れた座り心地の実現という点でさらなる検討の余地があった。
【0004】
よって、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、より座り心地の優れた便座装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明にて講じた技術的手段は、請求項1に記載の様に、内部に空洞が設けられ、剛体であるベース部材と、使用者が着座する部分であって、前記ベース部材の材料よりも軟質の材料で形成され、前記ベース部材のうち少なくとも上面を被覆し、前記ベース部材に着脱可能に取り付けられる被覆部材と、前記空洞内に配置されるヒータと、を備える便座装置であって、前記被覆部材は発泡倍率が5〜30倍の発泡ポリエチレン樹脂で形成され、前記被覆部材の表面温度は周囲温度が20℃の条件下で約30℃に制御される構成としたことである。
【0006】
好ましくは、請求項2に記載の様に、前記ベース部材の表面温度は約45℃以下に保持されると良い。
【0007】
好ましくは、請求項3に記載の様に、前記被覆部材の熱伝導率は0.005〜0.05W/mKであると良い。
【0008】
好ましくは、請求項4に記載の様に、前記被覆部材の平均厚さは約10mmであると良い。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、発泡ポリエチレン樹脂の持つ高い断熱性を生かして被覆部材の表面温度が好適に設定され、周囲温度が20℃の条件下で被覆部材の表面温度が約30℃に制御されるので、使用者にとって快適なより座り心地の優れた便座装置を実現できる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、ベース部材の表面温度が約45℃以下に保持されるので、被覆部材を清掃等の目的で取り外している場合に、使用者がベース部材の表面にうっかり触れたり間違えて着座したりしたとしても、使用者の安全性が保たれる。
【0011】
請求項3及び請求項4に記載の発明によれば、被覆部材の表面温度の制御に好適な物理特性を被覆部材が有するので、被覆部材の表面温度をより効率的に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を基に説明する。
【0013】
図1乃至図3において、1は便器、2は人体局部洗浄装置で、21は後部装置収納部、21aは後部装置収納部の上カバー、21bは後部装置収納部の下カバーである。3は便蓋、4は便座で、後部装置収納部21に回動自在に取り付けられる。
【0014】
図4において、後部装置収納部21の下カバー21bには、便座4の電気制御を行う電気制御基板ユニット211、温水洗浄ノズル212、温水供給系ユニット213、着座検知手段214が設けられる。
【0015】
図5において、便座4(便座装置)は、被覆部材40と、被覆部材40が装着されるベース部材50から構成されている。被覆部材40は、平面部41と、側面部42と、平面部41の下面に複数個設けられた突起部43とから成っている。被覆部材40は、使用者が着座する部分であって、ベース部材50のうち少なくとも上面52aを被覆する。被覆部材40は、ベース部材50の材料よりも軟質な発泡ポリエチレン樹脂で形成される。この発泡ポリエチレン樹脂の発泡倍率は、図9に示す実験データに基づき、5〜30倍に設定されている。被覆部材40の発泡ポリエチレン樹脂の材料には、抗菌作用を有する成分や難燃性成分が添加されており、清潔性と安全性が確保されている。被覆部材40は、弾力を有し、使用者の着座にともなって弾性変形可能である。被覆部材40において平面部41と側面部42とは互いにほぼ同一の肉厚を有しており、その平均厚さは8mm〜15mm(約10mm)の範囲となっている。以上のような物理特性を有する発泡ポリエチレン樹脂製の被覆部材40の熱伝導率は0.03〜0.05W/mKの範囲にあることが実験的にも得られている。
【0016】
ベース部材50は、剛体であって、樹脂製の上方部材52、下方部材51が組み合わされた構成で、内部に空洞58が設けられている。空洞58内には、加熱用電気ヒータ56が設けられる。加熱用電気ヒータ56は、上方部材52の裏面に両面テープ等で固定されている。加熱用電気ヒータ56にはコード状のヒータ線561が配設されている。そして、上方部材52の上面52aには、被覆部材40の複数個の突起部43に対応した位置に複数個の嵌合穴523が形成されている。これら突起部43と嵌合穴523は、略左右対称に円弧状または馬蹄形状に複数個配置されている。特に、便座4の中央開口部57の周辺領域の後半分は、しばしば使用者の臀部や大腿部が当接する箇所で、着座や離座を繰り返すことにより、装着された被覆部材40がベース部材50から浮き上がったりして離れやすい部位であるので、この領域に装着固定用の突起部43と嵌合穴523を対応させて適宜配置することは重要である。
【0017】
また、加熱用電気ヒータ56のヒータ線561は、上述の複数個の嵌合穴523を避けて嵌合穴523の裏側に形成された円筒形状部527の外周にできるだけ近接するように配設されている。これにより、ベース部材50の嵌合穴523とこれに嵌合される被覆部材40の突起部43とで形成される固定嵌合部の加熱用電気ヒータ56による表面温度が他の部分に比べて低下する割合を最小限にしている。しかも、これらの臀部が接触する領域は、冬場において加熱用電気ヒータ56による加温が必要な領域でもあり、被覆部材40の浮き防止固定機構とできるだけ均一な加熱の双方の機能が必要な領域であり、本構造によって成立させることができる。
【0018】
図6及び図7において、ベース部材50は、上方部材52と下方部材51が組み合わされた構成で、その内部には加熱用電気ヒータ56のヒータ線561が熱伝達用のアルミシート562に固着した状態で上方部材52の下面に接着されている。また、下方部材51とヒータ線561の間には断熱材55が装着され、ヒータ線561による下面方向への放熱を防いでいる。さらに、被覆部材40はベース部材50の上方部材52の表面(上面52a及び側面52b)の形状に対応して平面部41と側面部42が装着され、平面部41の突起部43が対応する上方部材52の嵌合穴523に嵌合され、またさらに側面部42の両側の下面部には小突起42a、42bが対応する上方部材52の両側の下面部にある凹部521a、521bと嵌合することで、被覆部材40が上方部材52の表面から浮き上がることを防止している。被覆部材40の平面部41には、使用者が着座する着座面41aと、上方部材52の上面52aと接触する接触面41bが設けられる。被覆部材40の平面部41において、接触面41bは着座面41aの裏側に設けられる。
【0019】
図8において、ベース部材50の上方部材52の中央部下面から垂下したボス上部522と下方部材51の対応するボス下部511が締結ネジ53で下方部材51を貫通する構造で、両部材を締結している。
【0020】
また、締結ネジ53の締結箇所には、その位置に合わせてゴム脚54が下方部材51の下面側から装着され、締結ネジ53を覆っているので、外側からは締結ネジ53が見えないようになっている。このことはベース部材50の外観性を向上させている。さらにゴム脚54は2個の組み付け用突起部541を持ち、下方部材51の対応する2個のゴム脚嵌合穴512を貫通して水密固定されている。
【0021】
また、図示はしていないが、ベース部材50の上方部材52と下方部材51の内周、外周の組み合わせ部分には、水密性のあるワイヤー状パッキンが配設されており、ベース部材50の全体的な水密性を保持している。
【0022】
ここで、本出願の考案者らは、図6乃至図8に示した構造において、発泡ポリエチレン樹脂で形成された被覆部材40をベース部材50に装着した状態において、加熱用電気ヒータ56に定格電圧AC100Vを通電して所定時間後に被覆部材40の表面温度が安定したときに、実使用状態と同等の方法で被験者に実際に被覆部材40に着座させて、暖房便座として最も好ましいと感じる被覆部材40の表面温度を計測した。その結果、周囲温度が20℃の場合(暖房便座を必要とする春期及び秋期の代表的な周囲温度)においては、28.5〜31.5℃(約30℃)であった。またこのときの被覆部材40が装着されているベース部材50の上方部材52の表面温度は42.5〜44.5℃(約45℃)であるという結果が得られた。
【0023】
次に、同様のやり方で冬期を想定して周囲温度のみを5℃に変更して、被覆部材40の表面温度を計測したところ、その温度は22〜24℃となった。そこで前述と同じ被験者を実際に着座させて暖房便座としての温度が適切な範囲であると言えるか否かを確認した結果、90%を超える被験者が適切な温度範囲であるとの認識を示した。
【0024】
以上の検討をふまえて、本実施形態の便座装置4では、被覆部材40は発泡倍率が5〜30倍の発泡ポリエチレン樹脂で形成され、被覆部材40の表面温度は周囲温度が20℃の条件下で約30℃に制御される。このときのベース部材50の表面温度は約45℃以下に保持される。また、被覆部材40の熱伝導率は0.005〜0.1W/mKの範囲にあり、被覆部材40の平均厚さは約10mmに設定される。
【0025】
本実施形態によれば、発泡ポリエチレン樹脂の持つ高い断熱性を生かして被覆部材40の表面温度が好適に設定され、周囲温度が20℃の条件下で被覆部材40の表面温度が約30℃に制御されるので、使用者にとって快適なより座り心地の優れた便座装置4を実現できる。
【0026】
また、周囲温度が20℃の条件下で、従来の硬質樹脂製便座の一般的な表面温度である約40℃よりも低い約30℃という温度で暖房便座としての性能を満足させることができたので、使用者にとって熱すぎることのない、温度安全性の高い、使用者に優しい温度の暖房便座を提供することができる。
【0027】
また、断熱性のある軟質の発泡ポリエチレン樹脂製の被覆部材40の表面温度を従来の硬質樹脂製便座の一般的な表面温度である約40℃よりも低く、しかも人間の体温よりも低い約30℃(周囲温度20℃)という温度で暖房便座としての性能を満足させることができたので、高齢者や肌の弱い人が長時間にわたって便座に座ることがあっても、低温火傷等が発生する恐れの全くない暖房便座を提供することができる。
【0028】
また、ベース部材50の表面温度が約45℃以下に保持されるので、被覆部材40を清掃等の目的で取り外している場合に、使用者がベース部材50の表面にうっかり触れたり間違えて着座したりしたとしても、使用者の安全性が保たれる。便座は使用者が臀部等の皮膚を直接に接触させて使用する製品であるので、安全性が保たれることは非常に重要である。
【0029】
また、被覆部材40の表面温度の制御により好適な物理特性(熱伝導率、平均厚さ)を発泡ポリエチレン樹脂製の被覆部材40が有するので、被覆部材40の表面温度をより効率的に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る便座4を備えた一般的なトイレ装置の図。
【図2】本発明に係る便座4を備えた一般的なトイレ装置の図。
【図3】本発明に係る便座4を備えた一般的なトイレ装置の図。
【図4】本発明に係る便座4を備えた一般的なトイレ装置の図。
【図5】便座4の分解斜視図。
【図6】図4におけるA−A線に沿う断面図。
【図7】図4におけるB−B線に沿う断面図。
【図8】図4におけるC−C線に沿う断面図。
【図9】被覆部材40の材料である発泡ポリエチレン樹脂の発泡倍率の設定に係る実験データを示す図。
【符号の説明】
【0031】
4 便座(便座装置)
40 被覆部材
50 ベース部材
52a 上面
56 加熱用電気ヒータ(ヒータ)
58 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞が設けられ、剛体であるベース部材と、
使用者が着座する部分であって、前記ベース部材の材料よりも軟質の材料で形成され、前記ベース部材のうち少なくとも上面を被覆し、前記ベース部材に着脱可能に取り付けられる被覆部材と、
前記空洞内に配置されるヒータと、
を備える便座装置であって、
前記被覆部材は発泡倍率が5〜30倍の発泡ポリエチレン樹脂で形成され、前記被覆部材の表面温度は周囲温度が20℃の条件下で約30℃に制御されることを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記ベース部材の表面温度は約45℃以下に保持されることを特徴とする請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
前記被覆部材の熱伝導率は0.005〜0.1W/mKであることを特徴とする請求項2に記載の便座装置。
【請求項4】
前記被覆部材の平均厚さは約10mmであることを特徴とする請求項3に記載の便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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