説明

便座装置

【課題】 トイレの使用者の快適性を損なうことなく、便座温度を調整する際の消費電力をより一層低減して省エネルギー化を実現することのできる便座装置を提供する。
【解決手段】 便座装置が備える制御部は、待機状態においては、便座温度検知手段44が検知する22便座の温度が、所定の待機温度となるように、発熱体29への通電を制御し、着座意志情報を検知した場合には、便座22の温度が、待機温度から、該待機温度より高温であって使用者の22便座への着座を想定した着座温度範囲内の温度まで、所定速度で上昇するように、発熱体29への通電を制御し、更に、第2の温度検知手段48により検知したトイレ室内温度に応じて、待機状態における発熱体29への通電を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座装置の便座の着座部の温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の便座装置においては、人体に不快感を与えないようにするために、人体が直接接触する箇所の温度を適切な温度に調整する様々な機能を有する装置が案出されている。なかでも、使用者が冬場等気温が低い場合においても不快を感じることなく便座に着座することができるように、便座の着座部の温度制御の方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の便座装置においては、便座の裏面に設けた便座の温度を検知する便座温度検知手段と、室温を検知する室温検知センサと、便座の裏面に設けた発熱体と、発熱体の通電を制御する制御部とを備えている。
【0004】
このような構成において、制御部は、便座温度検知手段と室温検知センサの信号に基づいて、便座の発熱体の通電を制御する。便座温度検知手段は、便座の裏面の空洞内にあるため、外気に触れないため冷めにくく、トイレ内の室温が低い場合は、実際に着座する便座表面の温度に対して差が大きくなる。そこで、室温検知センサによって室内温度を計測し、便座表面が最適温度となるように便座ヒータへの出力を補正する。それにより、使用者は快適に便座に着座することができる。
【0005】
また、室温に基づいて便座の発熱体への通電量を制御する構成が、特許文献2に開示されており、使用者による便座への着座状態などに応じて、便座温度の目標値を多段的に設定する構成が、特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−210230号公報
【特許文献2】特開2007−312882号公報
【特許文献3】特開平11−293740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような特許文献1に開示された従来の衛生洗浄装置においては、室温検知センサを便座の制御専用に設ける必要があり、構成が複雑になりコストがかかるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2の便座装置によると、使用者のトイレ室への入室状況にかかわらず、便座温度を一定に保持しようとするものであり、消費電力に無駄が多く、近年における省エネルギー化の要望に応えることができない。特許文献3の便座装置の場合は、使用者による利用状況に応じて便座温度の目標値を多段的に設定している点で、ある程度の省エネルギー化が期待できると考えられる。しかしながら、最も長期間の状態である待機状態(例えば、使用者がトイレ室に入室していない状態など)においても、トイレ室内の環境条件を考慮せずに便座温度を制御している。従って、実際には、環境条件によっては待機状態の温度として設定された値より高い温度に便座が保温されるなど、無駄な消費電力が生じる可能性がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、トイレの使用者の快適性を損なうことなく、便座温度を調整する際の消費電力をより一層低減して省エネルギー化を実現することのできる暖房便座装置を提供することである。また、更なる本発明の目的は、構成を単純化しながらも、便座ヒータの出力補正を実現することにより、安価で精度の高い快適な暖房便座装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る便座装置は、着座部を有する便座と、前記便座を昇温する発熱体と、前記発熱体に通電する電力を制御する制御部と、前記便座の温度を検知する便座温度検知手段と、トイレ室内の温度を検知する第2の温度検知手段と、使用者による便座への着座意志を示す着座意志情報を検知する着座意志検知手段とを備え、前記制御部は、前記着座意志検知手段により前記着座意志情報を検知していない待機状態では、前記便座温度検知手段により検知する前記便座の温度が、前記待機状態での維持温度として設定された所定の待機温度となるように、前記発熱体への通電を制御し、前記着座意志検知手段により前記着座意志情報を検知した場合には、前記便座温度検知手段により検知する前記便座の温度が、前記待機温度から、該待機温度より高温であって使用者の前記便座への着座を想定した着座温度範囲内の温度まで、所定速度で上昇するように、前記発熱体への通電を制御し、更に、前記第2の温度検知手段により検知したトイレ室内温度に応じて、前記待機状態における前記発熱体への通電を変化させる。
【0011】
これにより、本発明に係る便座装置は、少なくとも待機状態と着座状態とで区別して、それぞれの状態で互いに異なる待機温度と着座に適した着座温度範囲内の温度とになるよう制御するため、発熱体による消費電力を低減することができる。更に、最も長期間の状態である待機状態において、トイレ室内温度に応じて発熱体への通電を変化させることとしているため、消費電力をより低減することができ、より一層の省エネルギー化を図ることができる。
【0012】
また、前記制御部は、前記待機状態において、前記トイレ室内温度が相対的に高い場合には前記発熱体へ通電する電力を低減するように構成されていてもよい。
【0013】
これにより、トイレ室内温度が相対的に高く、便座表面からの放熱量が相対的に少ない場合には、発熱体へ通電する電力をトイレ室内温度が低い場合より低減しても、待機温度を維持することができるため、消費電力の低減を図ることができる。
【0014】
また、前記所定速度は0.5〜5[ケルビン/秒]であってもよい。
【0015】
この便座の昇温速度は、ヒータの昇温能力と該ヒータにより暖める便座部分の熱容量などの便座構成とによってきまる。そしてこの昇温速度によれば、着座意志検知手段により検知した使用者の着座意志情報に基づいて待機温度から昇温を開始して、実際に着座するまでの時間内(発明者らの実験により得られた知見ではトイレ室への入室から着座まで約6秒)で、確実に着座に十分な温度(発明者らの実験により得られた知見では着座時に冷たいと感じない温度は約29度)まで温めることができる。また、これだけの昇温能力があれば、待機温度を低く設定することができるため、環境温度の比較的高い夏場においては、待機するための通電が不要な状態とすることがきて、省エネルギー化が実現できる。
【0016】
また、前記着座意志検知手段は、前記トイレ室への使用者の入室を検知する人体検知手段であってもよい。
【0017】
これにより、使用者が便座に着座する可能性が高く、且つ、実際に着座するまでの期間を最も長く確保することができる。そして、着座するまでに長期間を確保することによって、より低い待機温度からであっても着座温度範囲内の温度まで昇温することができる。従って、待機温度をより低く設定することができるため、待機状態での消費電力をより低減することができる。
【0018】
また、前記第2の温度検知手段は、前記トイレ室内に設けられた室内暖房手段をトイレ室温に基づいて制御すべく備えられた室温検知手段、洗浄後の使用者の局部に温風を吹き付ける乾燥手段をトイレ室温に基づいて制御すべく備えられた室温検知手段、前記トイレ室への使用者の入室を検知する人体検知手段の感度及び出力をトイレ室温により補正すべく備えられた室温検知手段、及び使用者の局部を洗浄する洗浄水の水温を検知する水温検知手段のうちの何れかと共用していてもよい。
【0019】
これにより、トイレ室内温度を検知する第2の温度検知手段として、待機温度を制御するための専用のものを用意する必要がないため、構成を単純化し、安価で精度の高い便座の温度制御が実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の便座装置によれば、トイレの使用者の快適性を損なうことなく、便座温度を調整する際の消費電力をより一層低減して省エネルギー化を実現することのできる便座装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1における便座装置の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における便座装置の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1における便座の一部切り欠き平面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における便座のケース上部の要部断面図である。
【図5】便座ヒータの駆動および便座部の表面温度の変化を示すタイムチャートである。
【図6】(a)は1200W駆動時に便座ヒータを流れる電流の波形図、(b)は1200W駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部に与えられる通電制御信号の波形図である。
【図7】(a)は600W駆動時に便座ヒータを流れる電流の波形図、(b)は600W駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部に与えられる通電制御信号の波形図である。
【図8】(a)は低電力駆動時に便座ヒータを流れる電流の波形図、(b)は低電力駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部に与えられる通電制御信号の波形図である。
【図9】便座部の表面温度とサーミスタの測定温度値の関係を示すグラフである。
【図10】室温が変動した場合のサーミスタの測定温度値と便座部の表面温度および報知時期の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態2における暖房便座の構成図である。
【図12】本発明の実施の形態3における暖房便座の構成図である。
【図13】本発明の実施の形態4における暖房便座の構成図である。
【図14】トイレ室内温度に基づいて通電率を変化させる態様の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
<1> 便座装置の外観
図1は本発明の第1の実施の形態における便座装置の斜視図であり、図2は概略構成図であり、図3は同実施例の便座の一部切り欠き平面図、図4は便座のケース上部の要部断面図である。
【0024】
図1に示すように、便器20の上面に本体21が取り付けられており、この本体21には便座22および便ふた23が回動自在に設けられている。
【0025】
本体21の袖部には赤外線センサ部24が設けられ、操作リモコン(図示せず)および人体検知部(着座意志検知手段)25からの赤外線信号を受信する。人体検知部25は例えば焦電センサと赤外線発光部からなり、トイレ空間に人体の存在を検出すると、赤外線信号(着座意志検知信号)を送信する。この赤外線信号は、使用者が便座22に着座する意志を有してトイレ室に入室したことを示す信号であるとみなすことができ、従って、使用者による便座22への着座意志を、高い蓋然性をもって検知することができる。
【0026】
また、本体21の上面にお知らせLED280が設けられている。このお知らせLED280は便座22の昇温状態を報知する報知手段であり、便座の昇温開始直後から点滅を開始し、便座22に着座しても冷たくない温度以上に昇温した場合は連続して点灯し、使用者に便座22の昇温の状態を報知する。
【0027】
図2、図3に示すように、便座22は、合成樹脂製の上・下2つの部材をそれぞれの内周縁および外周縁で溶着接合することによりケース26を形成し、その内部には水等の浸入を阻止できる密閉された空洞部27を有する構造となっている。
【0028】
上記空洞部27の内部には便座22の着座部に対向して、アルミ板を鏡面仕上げした輻射反射板28と輻射型の発熱体であるランプヒータ29とが設けられている。輻射反射板28の端部は全周にわたり上方への折り曲げ部を有しており、その折り曲げ部によりランプヒータ29からの熱輻射が偏向されるので、ランプヒータ29から離れている外周縁部および内周縁部の輻射密度を上げるように作用し、ケース26上部への輻射分布の均一化を図っている。このランプヒータ29の近傍には、ランプヒータ29と直列に電気接続したサーモスタット30および温度ヒューズ31が設けられ、万一の不安全事態に対して温度過昇を防止するよう作用する。
【0029】
上記ランプヒータ29は、ガラス管32の内部にタングステンからなるフィラメント33を貫通しハロゲンガス34を封入して構成されており、フィラメント33の発熱に伴ってハロゲン化タングステンを形成するハロゲンサイクル反応を繰り返すことにより、フィラメント33の消耗を防止するよう作用している。この作用により熱容量の非常に小さいフィラメント33を熱源とすることができ、輻射エネルギーの極めて急峻な立ち上がりを行わせることができる。このランプヒータ29は、弾性材であるゴムブッシュ35を有するランプヒータ固定具36により輻射反射板28に固定され、輻射反射板28はゴム足37によりケース26に固定されている。便座22の脚ゴム39内には、マイクロスイッチ40で構成された着座検知手段38が設けられており、便座22への加重でスイッチがオンすることにより使用者の着座を検知するようになっている。
【0030】
図4に示すように、ケース26は透明ポリプロピレン樹脂材料を用いて射出成形で構成されたケース本体41の上面に、カーボンブラックを多量に含有する輻射熱吸収層42を形成し、さらにその上にランプヒータ29から放射される全ての可視光を遮蔽するとともに、表面硬度,耐薬品性能,光沢等を考慮した光遮断層である表面化粧層43を形成したものである。ケース本体41は透明ポリプロピレン樹脂材料を平均厚み2.5mmにて成形することにより、輻射熱透過率を70%以上に設定すると同時に、その剛性から便座の構造矩体として機能している。また、形成されている輻射熱吸収層42の厚みは0.1m
m,表面化粧層43の厚みは0.2mmであり、これら両層はケース本体41を透過した輻射熱を完全に吸収し、熱容量が非常に小さいので瞬時に昇温すると同時に、放射可視光を完全に遮蔽する。
【0031】
ケース26の内面に設けられた凹部にはサーミスタ44がはめ込まれ、該サーミスタ44は輻射熱吸収層42と略同一温度になるように接触しているので、輻射熱吸収層42の温度を直接検知できるようになっている。また、便座22の後部には左右方向に延びる回動軸45が設けられ、便座22は該回動軸45を基点にして起立状態と水平の使用状態との間で上下へ揺動可能になっている。この回動軸45には電極46が形成されており、本体21の軸受け部(図示せず)とともに便座位置検知手段47を構成し、便座が起立状態にあるか着座して使用される略水平の使用位置にあるかを検出するようになっている。本体21には、室温を検知するためのセンサとしての室温検知センサ48とともに、便座22のランプヒータ29に通電することにより昇温を開始した時点からの経過時間をカウントするタイマー部49を有する制御部50が設けられている。そして、人体検知部25、着座検知手段38、サーミスタ44、便座位置検知手段47、及び室温検知センサ48からの信号は、それぞれ制御部50に伝達され、これらの信号に基づいて採暖面である便座22の上面の温度が所定の温度になるよう、ランプヒータ29への通電が制御されるようになっている。
【0032】
また図2に示すように、トイレ室内には室内暖房部52が設けられており、該室内暖房部52は、室内暖房ヒータ53と室内暖房ファン54とを備えて、トイレ室内の暖房を行う。
【0033】
上記構成により、使用者がトイレに入室した場合、人体検知部25がそれを検知し、その信号が赤外線センサ部24を介して制御部50に送られる。このとき、便座位置検知手段47の信号により便座22が略水平の使用位置にあるのを確認すると、制御部50はランプヒータ29に通電を開始する。通電を開始すると、フィラメント33からガラス管32および輻射反射板28を経てケース本体41の方向に光が照射され、瞬時にランプの光が輻射エネルギーとして放射される。さらに、輻射エネルギーはケース本体41の内部で一部吸収あるいは反射されるが、その大半は透過し輻射熱吸収層42および表面化粧層43の昇温に寄与する。以上の如く便座22の着座部の採暖面をほぼ瞬時に加温することができるので、ヒータを常時通電しておくことなく非常に省エネになる。
【0034】
また、本実施の形態においては便座22の着座部を加熱する発熱体としてランプヒータ29を使用したが、発熱体はランプヒータ29に限るものではなく、例えばエナメル線を使用した線状ヒータを便座22の着座部の裏面に粘着した構成としてもよい。エナメル線は、耐熱性能に優れ、十分短時間で便座22を昇温でき、かつ電気絶縁性および安全性を確保することができる。
【0035】
<2> 便座装置の通電シーケンス
ランプヒータ29の駆動の制御は、ランプヒータ29を駆動する電力を大きく3つに変化させることにより行う。
【0036】
例えば、便座22を第1の温度勾配で昇温させる場合、制御部50は約1200Wの電力でランプヒータ29を駆動する(1200W駆動)。
【0037】
ランプヒータ29の抵抗値を8.33Ωとすると、ランプヒータ29に交流100Vが印加されると、(100V×100V)÷8.33Ω=1200Wの電力が発生する。すなわち、ランプヒータ29に交流電源の全周期に渡って電流を流すことにより、1200Wの電力が発生する。
【0038】
また、便座22を第1の温度勾配よりもやや緩やかな第2の温度勾配で昇温させる場合、制御部50は約600Wの電力でランプヒータ29を駆動する(600W駆動)。
【0039】
さらに、便座22の温度を一定に保つ場合、制御部50は約50Wの電力でランプヒータ29を駆動する(低電力駆動)。なお、低電力駆動とは、1200W駆動および600W駆動に比べて十分に低い電力(例えば、0W〜50Wの範囲内の電力)によりランプヒータ29を駆動することをいう。
【0040】
1200W駆動、600W駆動および低電力駆動の切替えは、制御部50の通電率切替回路が、制御部50からランプヒータ29への通電を制御することにより行われる。
【0041】
制御部50には図示しない電源回路から交流電流が供給されている。そこで、制御部50は、通電率切替回路から与えられる通電制御信号に基づいて供給された交流電流をランプヒータ29に流す。
【0042】
図5は、ランプヒータ29の駆動例および便座22の表面温度の変化を示す図である。図5においては、便座22の表面温度と時間との関係を示すグラフと、ランプヒータ29を駆動する際の通電率と時間との関係を示すグラフとが示されている。これら2つのグラフの横軸は共通の時間軸である。
【0043】
本実施の形態では、使用者が予め暖房機能をオンし、便座設定温度を高く(38℃)設定した場合を想定する。
【0044】
冬季等室温が待機温度である18℃よりも低い場合、制御部50は、便座22の温度を18℃となるように温度調整する。このように、制御部50は、人体検知部25により使用者の入室が検知されるまでの待機期間D1の間、便座22の表面温度が18℃で一定となるように、ランプヒータ29の低電力駆動を行う。この待機期間D1での低電力駆動では、トイレ室内温度に応じて、ランプヒータ29への通電を変化させることにより消費電力の低減を図っているが、これについては後述する。
【0045】
制御部50は、時刻t1で人体検知部25により使用者の入室が検知された場合、突入電流低減期間D2の間、600W駆動を行う。なお、この600W駆動は、突入電流を十分に低減するために行う。ランプヒータ29は、電力投入前のフィラメント33が冷えていると大きな突入電流が生じてしまう。ここで発生する過電流は一過性であるとしてもヒータや回路に負荷がかかり、寿命に悪影響を与え、過電流に耐性のある電子部品を用いて回路設計にすることもできるが、コストアップにつながる。本実施の形態では、まずは突入電流を抑えるため半分の電力量を投入して影響がでることを抑制している。この場合、便座22の表面温度はやや緩やかな第2の温度勾配で上昇される。
【0046】
なお、ここでは人体検知部25により使用者の入室を検知した時点を時刻t1としているが、これに限定されない。例えば、トイレ室に対する入退室の際に開閉するドアの開閉を検知する手段を設けておき、これによりドアの開放を検知した時点を時刻t1と設定してもよい。このようにドアの開放を検知する場合でも、人体検知部25による場合と同様に、使用者が近々便座22に着座するであろうその意志を検知することができるため、この時点を時刻t1とすることによって便座22を事前に適温にまで昇温することができる。この他にも、使用者の着座意志を事前に検知する手段として、便蓋23を開放動作(上方へ開く動作)を検知する手段、便座22を下方に揺動させる動作を検知する手段などを採用することも可能である。
【0047】
その後、制御部50は、突入電流低減期間D2の経過後の時刻t2で、ランプヒータ29の1200W駆動を開始し、第1の昇温期間D3の間ランプヒータ29の1200W駆動を継続する。この場合、便座22の表面温度は上述の第1の温度勾配で上昇される。
【0048】
ここで、便座22の表面温度は急激に上昇される。ランプヒータ29の1200W駆動は、便座22の表面温度が所定温度(以下、「使用初期目標温度」ともいい、例えば30℃である)に達するまで行われる。もちろん、この所定温度(使用初期目標温度)は暖房温度として設定された温度であってもよいが、この所定温度は暖房温度にまで十分に上昇した温度でなく、それよりも低くても、使用者が着座した際に冷たいという不快感情を生じない最低限界の温度(冷感限界温度)以上であればよい。この限界温度は、発明者らの実施した被験者実験により約29℃であることがわかっている。即ち、使用初期目標温度としては、待機温度より高温であって使用者の便座22への着座を想定した着座温度範囲(例えば、約29〜38℃)内の温度であればよく、その下限値としては上述した冷感限界温度(約29℃)を採用することができる。
【0049】
このように、第1の昇温期間D3においては、便座22の表面温度が1200W駆動により迅速に所定温度まで上昇される。それにより、使用者は便座22を冷たいと感じることなく便座22に着座することができる。
【0050】
ここで、上述した待機温度(例えば、18℃)は、第1の昇温期間D3が終了する時点の便座22の表面温度である使用初期目標温度と、ランプヒータ29の昇温能力とに基づいて決定している。即ち、突入電流低減期間D2と第1の昇温期間D3とを合わせた期間で、ランプヒータ29の昇温能力を考慮した上で使用初期目標温度にまで到達可能な、最も低い温度として、待機温度を設定している。これにより、使用初期目標温度としては、使用者が着座したときの快適性を確保できる便座22の表面温度を達成しつつ、待機期間D1においては、待機温度をできるだけ低く設定することにより、待機温度を維持するための消費電力を低減している。
【0051】
なお、本実施の形態では、このようなランプヒータ29の昇温能力としては、便座22の表面温度を0.5〜5ケルビン/秒の速度で昇温できるスペックを採用することができる。あるいは、使用者の着座意志を検知してから実際に便座22に着座するまでの間に、3〜25℃程度昇温可能なスペックであることが好ましい。更に、例えば日本の個人邸宅の場合であれば、トイレ室のドアを開けてから脱衣して便座22に着座するのに、平均すると約6秒間を要することが、発明者らの実験により明らかになっている。従って、この約6秒間に待機温度から使用初期目標温度に到達できるだけのスペックを有することが好ましく、この場合、昇温速度は少なくとも1.7ケルビン/以上、より望ましくは2ケルビン/秒以上であることが好ましい。
【0052】
また、このような昇温能力を有するヒータであれば、ランプヒータ29に限定されず、輻射熱を利用しないシートヒータやチュービングヒータや面ヒータを着座面の裏面に貼り付ける、更に他の構成の着座部を加熱する構成、例えばヒータを便座の部材に埋め込む、などの構成としてもよい。
【0053】
また、上述のように、便座22の表面温度を急激に上昇させると、その温度変化にオーバーシュートが生じる。しかしながら、本実施の形態では、便座22の表面温度が所定温度に達したときにランプヒータ29の1200W駆動を600W駆動に切替える。したがって、便座22の表面温度の変化がオーバーシュートした場合でも、その表面温度は便座設定温度を超えない。その結果、使用者が着座時に便座22を熱いと感じることが防止さ
れる。
【0054】
続いて、制御部50は、第1の昇温期間D3の経過後の時刻t3で、ランプヒータ29の600W駆動を開始し、第2の昇温期間D4の間ランプヒータ29の600W駆動を継続する。この場合、便座22の表面温度は上述の第2の温度勾配で上昇される。
ランプヒータ29の600W駆動は、便座22の表面温度が便座設定温度(38℃)に達するまで行われる。
【0055】
第2の温度勾配は第1の温度勾配よりも緩やかである。これにより、便座22の表面温度の変化に大きなオーバーシュートが生じることが防止される。
【0056】
制御部50は、第2の昇温期間D4の経過後の時刻t4で、ランプヒータ29の低電力駆動を開始し、第1の維持期間D5の間ランプヒータ29の低電力駆動を継続する。それにより、便座22の表面温度が便座設定温度で一定となる。
【0057】
制御部50は、時刻t5で着座検知手段40により使用者の便座22への着座が検知された場合、低電力駆動の通電率を低下させ、第1の着座期間D6の間便座22の表面温度が便座設定温度を維持するようにランプヒータ29の低電力駆動を継続する。本実施の形態では、第1の着座期間D6は約10分に設定される。
【0058】
また、制御部50は、第1の着座期間D6の経過後の時刻t6で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の着座期間D7の間便座22の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)に低下するようにランプヒータ29の低電力駆動を継続する。本実施の形態では、第2の着座期間D7は約2分に設定される。
【0059】
制御部50は、第2の着座期間D7の経過後の時刻t7で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の維持期間D8の間便座22の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)で一定となるようにランプヒータ29の低電力駆動を継続する。以下の説明では、第2の維持期間D8において一定に維持される期間便座22の表面温度、すなわち便座設定温度よりもやや低い温度を維持温度と称する。
【0060】
このように、本実施の形態では、使用者が便座22に着座した後、制御部50が徐々に便座22の表面温度を低下させる。それにより、使用者が低温やけどすることが防止される。
【0061】
制御部50は、時刻t8で着座検知手段40により使用者が便座22から離れたことを検知すると、停止期間D9の間ランプヒータ29の駆動を停止する。それにより、便座22の表面温度が低下する。
【0062】
制御部50は、便座22の表面温度が18℃に達した時刻t9で、再びランプヒータ29の低電力駆動を開始し、便座22の表面温度が18℃で一定となるように待機期間D10の間ランプヒータ29の低電力駆動を維持する。なお、この待機期間D10での低電力駆動においても、待機期間D1のときと同様に、トイレ室内温度に応じて、ランプヒータ29への通電を変化させることにより消費電力の低減を図っているが、これについては後述する。
【0063】
このように温度勾配が徐々に緩やかになる場合、便座22の温度変化により生じるオーバーシュートを十分に小さくすることができる。
【0064】
本実施の形態では、使用者の便座22への着座後、ランプヒータ29の駆動に用いる電力を調整することにより便座22の表面温度を徐々に低下させているが、ランプヒータ29の駆動は使用者の便座22への着座時に停止してもよい。この場合においても、使用者が低温やけどすることが防止される。
【0065】
上記のように、本実施の形態では、時刻t8に使用者が便座22から離れたことが検知されることによりランプヒータ29の駆動が停止される旨を説明したが、ランプヒータ29の駆動の停止は、使用者が便座22から離れたことが検知された時刻t8から一定時間(例えば1分間)経過後に行われてもよい。この場合、一度使用者が便座22から離れた後に再度便意をもよおし、再度便座22に着座する際にも、便座22の表面温度が低下しない。これにより、使用者は快適に便座22に着座することができる。
【0066】
1200W駆動時、600W駆動時および低電力駆動時における便座22への通電状態を通電率切替回路の通電制御信号とともに説明する。
【0067】
以下の説明において、通電率とは交流電流の1周期に対して便座22(より正確には、ランプヒータ29)に交流電流を流す時間の割合をいう。従って、ランプヒータ29への通電率が高いということは、ランプヒータ29へ通電する電力が大きいことを意味し、反対に通電率が低いということは、ランプヒータ29へ通電する電力が小さいことを意味する。
【0068】
図6(a)は1200W駆動時に便座22(より正確には、ランプヒータ29)を流れる電流の波形図、図6(b)は1200W駆動時に通電率切替回路から制御部50に与えられる通電制御信号の波形図である。
【0069】
図6(b)に示すように、1200W駆動時における通電制御信号は常に論理「1」となる。制御部50は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座22に流す(図6(a)太線部)。それにより、全周期の期間に渡って交流電流が便座22に流れる。その結果、便座22が約1200Wの電力で駆動される。
【0070】
図7(a)は600W駆動時に便座22を流れる電流の波形図、図7(b)は600W駆動時に通電率切替回路から制御部50に与えられる通電制御信号の波形図である。
【0071】
図7(b)に示すように、600W駆動時における通電制御信号は、制御部50に供給される交流電流と同じ周期のパルスからなる。パルスのデューティー比(論理「1」のパルス幅のパルス周期に対する割合)は50%に設定される。
【0072】
制御部50は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座22に流す(図7(a)太線部)。それにより、半周期の期間交流電流が便座22に流れる。その結果、便座22が約600Wの電力で駆動される。
【0073】
図8(a)は低電力駆動時に便座22を流れる電流の波形図、図8(b)は低電力駆動時に通電率切替回路から制御部50に与えられる通電制御信号の波形図である。
【0074】
図8(b)に示すように、低電力駆動時における通電制御信号は、制御部50に供給される交流電流と同じ周期のパルスからなる。パルスのデューティー比は50%よりも小さく(例えば数%程度)に設定される。
【0075】
制御部50は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座22に流す(図8(a)太線部)。各周期においては、パルス幅に相当する期間交流電流が便座22に流れる。その結果、便座22が例えば約50Wの電力で駆動する。
【0076】
上記の他、便座22の温度を低くする場合、または便座装置110の暖房機能をオフしている場合等には、通電率切替回路は制御部50に通電制御信号を与えない(通電制御信号を論理「0」に設定する)。これにより、制御部50は便座22を駆動しない。
【0077】
ここで、一般に、電子機器に供給される電流が高調波成分を有する場合、ノイズが発生する。本実施の形態では、上述のように便座22の1200W駆動または600W駆動を
行う場合には、便座22に供給される電流がサインカーブを描くように変化するので、電流の大きさが大きくなってもノイズの発生が十分に低減される。
【0078】
また、便座22の低電力駆動を行う場合、便座22に供給される電流は高調波成分を有するが、電流の大きさが1200W駆動時および600W駆動時に比べて非常に小さいので、ノイズの発生が十分に低減される。
【0079】
上記のように、本実施の形態では、便座22を1200W、600Wおよび約50Wの電力で駆動するとしているが、他の大きさの電力で便座22を駆動してもよい。
【0080】
例えば、便座22に半周期の期間交流電流を流す場合には、交流電流を流すタイミングを2周期または3周期等所定の周期の間隔で設定する。それにより、1200W、600Wおよび約50Wとは異なる大きさの電力で、ノイズの発生を十分に防止しつつ便座22を駆動することができる。
【0081】
なお、本実施の形態では、制御部50は通電制御信号が論理「1」のときに便座22に電流を供給し、通電制御信号が論理「0」のときに便座22への電流の供給を停止しているが、通電制御信号が論理「1」のときに便座22への電流の供給を停止し、通電制御信号が論理「0」のときに便座22に電流を供給してもよい。
【0082】
なお、ランプヒータ29のオンおよびオフは時間により制御されるため、時間の計測がずれると便座22の温度が所定値を超えたり、所定値に達しない。そこで、時間の計測がずれないように、制御部50では、2つの計測源にて便座22のオンの時間を計測する。1つの計測源として、制御部50のプログラムの実効速度を規定する発振子によりランプヒータ29のオンの時間を計測し、もう1つの計測源して、交流電圧の周期を基準としてランプヒータ29のオンの時間を計測する。これらの計測値の少なくとも一方が規定時間を超過すると、次の通電パターンに移行する。
【0083】
特に、便座に1200W通電される時間が正確に計測されることにより過昇温が確実に防止される。これにより、さらに機器の安全性が向上する。ここでは、計測源を複数設けることにより計測の精度を向上させる方法について記載したが、ランプヒータ29がフル通電される時間を計測し、強制的にヒータへの通電を遮断もしくは制限する方法であっても、同様の効果を得ることができる。
【0084】
<3>お知らせLEDの動作
本体21の上面には報知手段であるお知らせLED280(図1)が設けられている。お知らせLED280はランプヒータ29への通電開始時に点滅を開始し、便座22の温度が上がっていって前述の冷感限界温度(29℃)に達したときに点灯する。
【0085】
お知らせLED280は冷感限界温度よりも検出温度(サーミスタ44測定温度)が低い場合は第1の報知形態である点滅を、検出温度が高い場合は第2の報知形態である点灯を行い、使用者に便座22の着座面が冷たいと感じるか否かをお知らせLED280を見ることで判別することができ、便座22に着座することができる。
【0086】
また、人体検知部25によるトイレットルームの人体の有無を検出する機能により、使用者がトイレットルームから退出してから一定時間(例えば1分間)経過すると、ランプヒータ29の通電を停止し、お知らせLED280は点滅、点灯の状態によらず消灯する。さらに、一定時間が経過しなくても便ふたが閉じると消灯する。
【0087】
お知らせLED280の報知が第1の報知形態から第2の報知形態に変わる時期は、前
述の通り便座22の着座面の温度が限界温度29℃に達したときである。
【0088】
図9に便座22の着座面の温度とサーミスタ44の測定温度値の関係を示す。この図9に示すように便座22の着座面の温度とサーミスタ44の測定温度値とでは測定面が異なるため差異が生じる。瞬間的に昇温する便座ではサーミスタ44の温度応答が遅くなり、正確に便座22の着座面の温度を検知できない。したがって、サーミスタ44の測定温度値で第2の報知形態であるお知らせLED280を点灯させる場合、便座22の温度上昇値とサーミスタ44の測定温度値との相関をあらかじめ測定し、温度応答の誤差を予測する必要がある。
【0089】
例えば、便座22の便座22の着座面の昇温に対し、サーミスタ44の昇温が10%低下している場合、便座22の着座面の温度が18℃から29℃まで11deg上昇する間に、サーミスタ44の昇温は9.9degである。したがって、サーミスタ44が27.9℃を検知した際にお知らせLED280を点滅から点灯に切替えればよい。
【0090】
また、通電開始前のサーミスタ44による検知温度と、このときに便座22の着座面が冷感限界温度に到達するのに要した到達時間との相関をあらかじめ測定し、通電開始時の温度で報知変更までの時間を決定してもよい。例えば通電前の温度t0が18℃であり、このときに着座面が29℃まで昇温するのに要する時間t1が5.5秒、t0が20℃であればt1は4.5秒、といった具合に相関を出しておき、初期温度(即ち、t0)のみで報知を変更する。このような構成は、サーミスタ44の検知の遅れが大きい場合には有効である。
【0091】
しかしながら、サーミスタ44の測定温度値と便座22の便座22の着座面の温度の相関や、通電開始時の温度と到達時間の相関は、電圧、室温等の設置環境やランプヒータ29の抵抗値のバラツキ等による個体バラツキをあらかじめ加味することは困難である。この場合、使用者に適切な時期に報知できなくなるため、使用環境や個体差に基づく補正が必要となる。
【0092】
<4> 室温検知センサによる補正
トイレ室内温度に基づいて、サーミスタ44の測定温度値と便座22の着座面の温度との誤差を解消すべく、お知らせLED280による報知時期を補正する場合について説明する。ここでは、本体21に設置した室温検知センサ48により検出した室温に基づき、予め制御部50の記憶部に記憶させた室温ごとに設定した放熱量に基づく補正値を用いて、お知らせLED280による報知時期の補正を行う。図10に室温が変動した場合のサーミスタ44の測定温度値と便座22の着座部の表面温度および報知時期の関係を示す。
【0093】
例えば室温(図10においてRTと表記する)が15℃で便座22を18℃に保温している場合、誤差が10%(便座22の着座部の表面温度の昇温速度に対し、サーミスタ44の検知する昇温速度が「−10%」)であれば、便座22の着座部の表面温度が冷感限界の29.0℃(待機温度18℃から11℃上昇して到達する温度)に対して、サーミスタ44検知温度を27.9℃(11℃から10%差し引いた9.9℃を、待機温度18℃に加算した値)で報知を点滅から点灯に変更する。これが室温が5℃の場合には便座22の放熱が大きく誤差が少なくなる。例えば誤差が8%であった場合には、補正すべき誤差は0.88degであり28.12℃で報知を変更すればよい。
【0094】
以上の本実施の形態においては報知時期が冷感限界温度である場合について説明したが、これは設定温度やそれに準ずる温度でも構わない。
【0095】
通常の温度制御、例えば設定温度への到達温度を正確に把握する手段としても活用が可能である。つまり報知時期の変更ではなく通電変更時期として使用しても良い。通電制御は1200Wから600Wや約50Wの位相制御へと便座表面温度によって変更するが、その変更時期の補正にも使用できる。補正をすることで便座表面温度が38℃に到達したことを正確に把握できるため快適性が増す。
【0096】
前述の通り便座表面温度の昇温速度が速く、検知手段であるサーミスタ44に応答遅れ
が生じるため、便座表面温度が設定温度に到達しても、検知手段は設定温度よりも低い温度を検知している。この誤差は、報知時期と同様に設置環境による電圧や室温および便座ヒータの抵抗値のバラツキによって変わってくる。よって報知時期と同様の補正をすることで到達温度を正確に把握することができ、より快適な便座とすることができる。
【0097】
特に設定温度では、応答遅れが予め想定していた遅れより大きい場合には、便座表面温度は設定温度より高い温度に到達してしまう。従って、この場合は環境温度(トイレ室内温度)に基づく補正を行うことで、快適性と安全性をより向上することができる。
【0098】
特に、室温が低い場合に、便座22の放熱が大きくなり便座表面温度とサーミスタ44の測定温度の誤差が少なくなることを利用して、室温が低い場合には、設定温度に対するサーミスタ44の目標温度や人がトイレットルームに入室していない待機時の保温温度(本実施例では18℃)を下げることも可能である。この場合消費電力の節減が期待できる。
【0099】
一方、図10から分かるように、室温が高い場合は、同じ待機時の保温温度からでも、設定温度までの昇温速度が大きく、便座22は早く温まる。これを利用して、人がトイレットルームに入室していない待機時の保温温度(本実施例では18℃)を下げることも可能である。この場合も消費電力の節減が期待できる。
【0100】
<5> 室温検知センサによる待機温度制御
次に、トイレ室内温度に応じて、待機期間(図5の期間D1,D10など)中におけるランプヒータ29の低電力駆動時に、ランプヒータ29への通電を変化させ、消費電力を低減するための制御部50による制御について説明する。
【0101】
既に説明したように、トイレ室内温度(環境温度)の高低により、便座22の放熱量は異なってくる。例えば、トイレ室内温度が相対的に高い場合、便座22の着座面からの放熱量が相対的に少なくなる。従って、仮にランプヒータ29へ通電する電力をトイレ室内温度が低いときと同じにした場合は、放熱量が少ない分、より高い温度になってしまい、設定した待機温度(例えば、18℃)を超えてしまう可能性がある。これでは、余計な電力の消費につながることから好ましくない。
【0102】
そこで、本実施の形態に係る便座装置では、室温検知センサ48によってトイレ室内温
度を検知し、これが相対的に高い場合には、ランプヒータ29への通電率(即ち、通電する電力)を低減させるように制御する一方、トイレ室内温度が相対的に低い場合には、通電率を増大させるように制御している。
【0103】
図14は、このようにトイレ室内温度に基づいて通電率を変化させる態様の一例を示すグラフであり、ここで通電率は、図6〜8を用いて説明したデューティー比により示している。この図14に示すように、横軸に示す温度が相対的に高いほど、デューティー比が小さくなるように、換言すれば通電率が小さくなるように設定されている。そのため、トイレ室内温度の変化にかかわらず、便座22の着座面の温度を、所定の待機温度に維持することができる。
【0104】
従って、例えば、トイレ室内温度が高い場合に、所定の待機温度を超えた状態で待機してしまい、さらに必要以上の温度まで昇温をするなどして余分な消費電力が発生するのを抑制することができる。また、反対にトイレ室内温度が低い場合には、所定の待機温度以下で保温されてしまって使用者が入室した際に使用初期目標温度まで所望の時間で昇温できない、といった事態を回避することができる。
【0105】
なお、制御部50へ送信するためのトイレ室内温度を検知するタイミングとしては、人体検知部25によって人体を検知したときとすることが可能である。また、人体検知部25または操作リモコン(図示せず)にタイマー手段を設けておき、一定時間が経過するたびにトイレ室内温度を検知するようにしてもよい。このようにして得られた最新室温情報に基づいてその後の待機温度を制御する。
【0106】
<6> 室温検知センサの共用
ところで、本実施の形態に係る制御部50は、例えば図5に示す第1の昇温期間D3において、通電開始時のサーミスタ44および室温検知センサ48の信号をもとに、両者の温度差やそれぞれの温度から演算を行い、あらかじめ設定および記憶されている通電制限時間の最適値を選択し、タイマー部49でカウントしている経過時間が通電制限時間に到達すると通電量を低減またはゼロにするという第1ステップを実行し、その後サーミスタ44の信号をもとに便座22の着座部が適温になるよう通電量を制御するという第2ステップを実行する。
【0107】
本実施の形態に係るトイレ室には、トイレ室内の暖房を行う室内暖房部52が設置されているが、該室内暖房部52は、制御部50が、上述したように第1ステップにて利用する室温検知センサ48からの信号を検知することによって、室内暖房ヒータ53と室内暖房ファン54の出力制御を行う。このように、便座の温度制御と室内暖房の温度制御を同一の温度センサにて行うことにより、便座制御専用の温度センサを設ける必要がなく、構成が単純で、安価で精度の高い、快適な便座の温度制御が実現できる。同様に、待機期間中のランプヒータ29への通電率の制御に利用するトイレ室内温度の検知手段も、室内暖房の温度制御に用いる温度センサと共用することにより、同様のことが言える。
【0108】
(実施の形態2)
図11は本発明の実施の形態2の温水洗浄機能付き便座装置の構成図である。実施の形態1と異なる点は、洗浄後の局部に温風を吹き出す乾燥機能部55を設けたことである。
【0109】
制御部50は、室温検知センサ56からの信号によって乾燥ヒータ57と乾燥ファン58の出力制御を行う。そして、便座の温度制御(待機期間中の通電率制御を含む)と乾燥の温度制御を同一の温度センサにて行うことにより、便座制御専用の温度センサを設ける必要がなく、実施の形態1と同様に構成が単純で、安価で精度の高い便座の温度制御が実現できる。
【0110】
(実施の形態3)
図12は本発明の実施の形態3の温水洗浄機能付き便座装置の構成図である。実施の形態1および2との違いは、人体検知部25の内部に室温検知センサ59を設けたことである。人体検知部25は室温検知センサ59からの信号を赤外線発光部によって本体21の制御部50に送信する。人体検知部25は室温検知センサ59からの信号に基づいて、人体検知センサの感度および出力の補正を行う。
【0111】
そして、便座の温度制御(待機期間中の通電率制御を含む)と人体検知部25の人体検知センサの補正を同一の室温検知センサ59にて行うことにより、便座制御専用の温度センサを設ける必要がなく、実施の形態1および2と同様に構成が単純で、安価で精度の高い便座の温度制御が実現できる。
【0112】
(実施の形態4)
図13は本発明の実施の形態4の温水洗浄機能付き便座装置の概略構成図である。実施の形態1〜3との違いは、給水源から供給される洗浄水を加熱し、洗浄水を人体に噴出する温水洗浄機能部60に、給水源の水温を検知する入水温度検知手段61を備え、制御部50は、便座のサーミスタ44と入水温度検知手段61の信号に基づいて、便座の温度制御を行うことである。すなわち入水温度から室温を推定するのである。
【0113】
そして、便座の温度制御(待機期間中の通電率制御を含む)と洗浄水の温度制御を同一の温度センサ(入水温度検知手段61)にて行うことにより、便座制御専用の温度センサを設ける必要がなく、実施の形態1〜3と同様に構成が単純で、安価で精度の高い便座の温度制御が実現できる。
【0114】
<7>他の構成
上記実施の形態2〜4では、室温検知センサを共用する場合について説明したが、もちろん便座装置によって搭載される機能が異なるので、それに応じた室温センサと共有するようにすればよい。さらに2つ以上の機能を搭載している便座装置であれば室温検知センサを2つ以上共有する構成としてもよい。
また、これに換えて、便座22の温度制御に用いるトイレ室内温度を専用に検知する室温検知センサを設けてもよいことは言うまでもない。この場合、設置箇所を適切に選択することによって、より正確なトイレ室内温度の検知を行うことができる。例えば、そのような設置箇所として、人体検知部25や本体21とは別体に用意された操作リモコンを挙げることができる。また、より正確な検知が可能であれば、上述した室内暖房部52に、トイレ室内温度を専用に検知する室温検知センサを設けてもよいし、照明器具にそのような室温検知センサを設けてもよい。
【0115】
また、トイレ室内温度を専用に検知する複数の室温検知センサを設けてもよい。これにより、より正確なトイレ室内温度の検知を実現することができる。この場合、複数の室温検知センサのうち少なくとも1つを、他の目的をもった温度センサと共用するようにしてもよい。
【0116】
また、本実施の形態1〜4においては、便座は、合成樹脂製の上・下2つの部材をそれぞれの内周縁および外周縁で溶着接合することによりケースを形成したものとしたが、ヒータの昇温能力を向上させ、昇温速度を確保するため、暖める便座部材の熱容量をできるだけに小さくすることが望ましい。そのために、アルミ合金などの金属からなる着座部を設けるようなことも可能である。このような構成にすることで、昇温特性、均一性のより優れた暖房便座とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、トイレの使用者の快適性を損なうことなく、便座温度を調整する際の消費電力をより一層低減して省エネルギー化を実現することのできる便座装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
22 便座
25 人体検知部
29 ランプヒータ(発熱体)
44 サーミスタ(温度検知手段)
48 室温検知センサ(第2の温度検知手段)
50 制御部
52 室内暖房部(室内暖房手段)
55 乾燥機能部
56 室温検知センサ(第2の温度検知手段)
59 室温検知センサ(第2の温度検知手段)
60 温水洗浄機能部
61 入水温度検知手段(第2の温度検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座部を有する便座と、
前記便座を昇温する発熱体と、
前記発熱体に通電する電力を制御する制御部と、
前記便座の温度を検知する便座温度検知手段と、
トイレ室内の温度を検知する第2の温度検知手段と、
使用者による便座への着座意志を示す着座意志情報を検知する着座意志検知手段と、
を備え、
前記制御部は、
前記着座意志検知手段により前記着座意志情報を検知していない待機状態では、前記便座温度検知手段により検知する前記便座の温度が、前記待機状態での維持温度として設定された所定の待機温度となるように、前記発熱体への通電を制御し、
前記着座意志検知手段により前記着座意志情報を検知した場合には、前記便座温度検知手段により検知する前記便座の温度が、前記待機温度から、該待機温度より高温であって使用者の前記便座への着座を想定した着座温度範囲内の温度まで、所定速度で上昇するように、前記発熱体への通電を制御し、
更に、前記第2の温度検知手段により検知したトイレ室内温度に応じて、前記待機状態における前記発熱体への通電を変化させることを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記待機状態において、前記トイレ室内温度が相対的に高い場合には前記発熱体へ通電する電力を低減することを特徴とする請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
前記所定速度は0.5〜5[ケルビン/秒]であることを特徴とする請求項1又は2に記載の便座装置。
【請求項4】
前記着座意志検知手段は、前記トイレ室への使用者の入室を検知する人体検知手段であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の便座装置。
【請求項5】
前記第2の温度検知手段は、
前記トイレ室内に設けられた室内暖房手段をトイレ室温に基づいて制御すべく備えられた室温検知手段、
洗浄後の使用者の局部に温風を吹き付ける乾燥手段をトイレ室温に基づいて制御すべく備えられた室温検知手段、
前記トイレ室への使用者の入室を検知する人体検知手段の感度及び出力をトイレ室温により補正すべく備えられた室温検知手段、及び、
使用者の局部を洗浄する洗浄水の水温を検知する水温検知手段、
のうちの少なくとも1つの手段と共用していることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の便座装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−110623(P2010−110623A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233590(P2009−233590)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】