説明

便座

【課題】男性の小便時には、便座は起立した状態にされることが多く、便座底板表面に尿の飛沫等の液体汚れが付着しやすい。付着した液体汚れは長時間経つと固化するため、その後の清掃において容易に拭き取ることができなくなる。そこで、付着した液体汚れが固化しにくく、その後の清掃においても容易に拭き取ることができる便座を提供すること。
【解決手段】便器の後方に回動可能に軸支された便座において、前記便座の底板の表面には複数の凹部が設けられ、前記複数の凹部により前記便座の底板に付着した液体汚れが保持されることを特徴とする便座が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰掛式便器の後方に回動可能に軸支された便座の底面部分を構成する便座底板の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腰掛式便器には、便器上面を覆うための便蓋と同様に回動可能に軸支された便座が備えられている。この便座は男性の小便時には、起立した状態にされることから、この便座の底面部分、即ち、倒伏時に便器の上縁部と対向する部分を構成する便座底板の表面には尿の飛沫等が多く付着する。付着した尿の飛沫は長時間放置しておくと固化し、後の清掃時に拭き取ろうとしても容易には取り除けないという問題があった。
【0003】
その問題を解決するために従来の技術として、特許文献1がある。図6はその代表図であり、便座の倒伏時における、便器及び便座の断面図である。
【0004】
図6に示すように、従来の便座底板21は、便座の底面部分を構成する部材であり、便器23上に載置して使用されるものである。便座底板21においては、ポリプロピレン樹脂などで形成された板リング形状の底板本体25と、底板本体25の底面に突設された錐台形状の台座部25aと、台座部25aの頂上面に付設された弾力性を有する緩衝材27によって構成され、底板本体の底面、台座部の側面および緩衝材の露出面は、撥水性を有する撥水層28で被覆されている。このような構成とすることにより、便器内からの汚物の跳ね返りにより汚物が付着したり、または便座が起立した状態で、男性小便時の尿が付着するなどしても、便座底板21の露出面が撥水層28で被覆されているので、その撥水効果により付着した液体汚れを弾き、弾かれた液体汚れは水玉状になるため、撥水層で被覆しない時と比べて、便座底板表面との接触面積が抑えられる。よって、清掃時のふき取りにおいても、容易にふき取ることができる。また、撥水層28は、底板本体25とインサート成形している為、隙間がなく、汚れも入りにくい。
【0005】
ところで、前記のような構成の便座にあっては、底板本体25の露出面を撥水層28で被覆するため、コストが高くなり、製造においても手間がかかる。また、いくら撥水層であっても、一度その表面に尿の飛沫や水洗水あるいは局部洗浄装置からの吐出水などが付着してしまえば、自然に取り除かれることはなく、特に便座の起立状態においては、付着した液体汚れが鉛直方向に垂れたり、広がったりしてその表面積が増加する。表面積は空気との接触面積であるため、表面積が増加すればその分だけ水分が蒸発しやすくなり、より一層乾きやすくなる。付着した液体汚れが一旦乾いてしまうと、その後の清掃によって取り除こうとしても、なかなか取り除けず、清掃にかかる負荷が大きくなってしまうといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−93271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、便座底板に尿の飛沫等の液体汚れが付着して長時間経とうとも、液体汚れが固化しにくく、その後の清掃において容易に拭き取ることができる便座を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。すなわち、本発明の便座は、便器の後方に回動可能に軸支された便座であって、前記便座の底板の表面には複数の凹部が設けられ、前記複数の凹部により前記便座の底板に付着した液体汚れが保持されることを特徴とする。
このような構成とすることにより、便座の底板に尿の飛沫等の液体汚れが付着しても、付着した液体汚れが前記凹部に侵入し、前記凹部と液体汚れとの接触面積がフラットな表面に比べて大きくなるため、便座の倒伏時、起立時のいずれの状態であっても、液体汚れが下方に垂れたり、広がったりせず、前記凹部に溜まった状態を維持できる。したがって、付着した液体汚れの表面積(空気との接触面積)を抑えることができるため、長時間経った後の清掃においても、液体汚れが乾かずに液状を維持することができ、容易に拭き取ることができる。
【0009】
さらに前記構成の便座において、前記便座の底板を平面視で見た時の前記凹部の開口形状が、円形状であることが望ましい。なお、円形状とは、角のない形状であれば良いため、完全な円に限らず、楕円であっても良い。このような構成とすることにより、前記凹部の開口形状を角のない形状にすることができ、清掃時において容易に拭き取ることが出来る。
またさらに前記構成の便座において、前記凹部の断面形状が、前記便座の底板の平面部分から連続して滑らかに形成されていることが望ましい。このような構成とすることにより、前記凹部の断面形状を角のない形状にすることができ、前記凹部に溜まった液体汚れを拭き取る際に、角に汚れが溜まり、拭き取りが困難になることがない。
【0010】
またさらに前記構成の便座において、前記便座の起立状態で前記便座の底板表面を見た時に、その鉛直方向の線上に、少なくとも2つ以上の前記凹部が重なるように配設されていることが望ましい。
このような構成とすることにより、前記凹部1つだけでは保持しきれないくらい多量の液体汚れが付着した場合であっても、1つ目の凹部で保持しきれなかった液体汚れは、鉛直方向下方に待ち受ける別の凹部の方へ流れて、そこで保持されるため、多量の液体汚れが付着した場合であっても、確実に液体汚れの垂れ、広がりを抑えることが出来る。
【0011】
またさらに前記構成の便座において、前記便座の起立状態で前記便座の底板表面を見た時に、その水平方向に並んだ前記凹部同士の間隔は、前記凹部の直径以下とすることが望ましい。ここで、前記凹部の直径とは、前記便座の底板を平面視で見た時に、その表面に形成された前記凹部の開口径のことをいう。また、前記凹部同士の間隔とは、前記便座の底板表面に形成された水平方向に隣合う二つの凹部において、その開口径同士を最短距離で結んだ線の長さのことを言う。このような構成とすることにより、前記凹部同士の間隔を狭くすることができるため、付着した液体汚れを高い確率で捉えることが出来る。
【0012】
またさらに前記構成の便座において、前記便座底板の外周縁部と内周縁部との中間より内周縁部に近い内周側は、外周縁部に近い外周側と比べて、単位面積当たりの前記凹部が保持できる液体の量が多くなるように構成されていることが望ましい。
このような構成とすることにより、液体汚れが付着しやすい内周側に前記凹部を効率的に配置できるため、清掃時の拭き取りにおいて、手にかかる負担を抑えながらも、液体汚れを確実に捉えることができ、広がりを抑えることができる。
【0013】
そして前記構成は、内周側の前記凹部の数を多く配置すること、前記凹部の直径を大きくすること、前記凹部の深さを深くすることなどによって実現可能である。またそれら各種構成の組み合わせによっても前記同様の効果を奏する。
【0014】
本発明によれば、便座の底板に尿の飛沫等の液体汚れが付着しても、付着した液体汚れが前記凹部で保持されるため、便座の倒伏時、起立時のいずれの状態であっても、液体汚れが垂れたり、広がったりせず、前記凹部に溜まった状態を維持することができる。したがって、長時間経った後の清掃においても、液体汚れが乾かずに液状を維持することができるため、容易に拭き取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態である便座底板を示す底面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1の便座底板を構成する底板本体表面の拡大図である。
【図4】図3の凹部の配設に関する拡大図である。
【図5】便座底板の内周接合部と外周接合部とを示した底面図である。
【図6】従来の便座の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態である便座底板を示す底面図であり、図2は図1のA−A線断面図であり、図3は図1の底板本体の表面を拡大した底面図である。
【0017】
図1、図2で示すように、本実施形態の便座底板1は便座4の底面部分を構成する部材であり、便座4は腰掛式の便器(図示せず)に回動可能に載置して使用される。便座底板1においては、ポリプロピレン樹脂などで形成された板リング形状の底板本体3の底面に複数の緩衝用突起2が凸設され、各緩衝用突起2は、底板本体3の底面から長円錐台形状に突出した複数の台座部と、各台座部の頂上面に付設された弾力性を有するゴム製の緩衝材とで構成されている(図示せず)。また、底板本体3の露出面(底面)には複数の凹部5が形成されている。この複数の凹部5は直径が5〜15mm、深さが1〜10mmであることが好ましい。これにより、凹部5に液体汚れが浸入した時に、侵入した液体汚れが凹部5にて保持される。また、その後の清掃においても、容易に拭き取ることが可能となる。
なお本実施例では、図2、3から分かるように前記凹部5は開口形状が円形状で、断面形状が半円形状の凹みを、前記底板本体3の表面に複数設けてあるが、前記凹部5は液体汚れが浸入した時に、平面よりも液体汚れとの接触面積を増やすことができれば良いため、本実施例のような凹みに限らず、溝部を設けることによっても、液体汚れが保持でき、清掃時に容易に拭き取ることが可能となる。
【0018】
男性の小便時などでは、便座4は起立状態で使用される。この時、便座4は便器の上方に位置しているので、尿の飛沫がかかりやすい。また、便座4を倒伏状態にし、使用者が便座4上に座って使用している時であっても、水洗水あるいは局部洗浄水の吐出水などが人体に当たり、その跳ね返り水が便座底板1の底板本体3の露出面に付着することもある。しかし、底板本体3の表面には、複数の凹部5が形成されているため、その表面に液体汚れが付着しようとも、複数の凹部5によって液体汚れを保持することができ、便座2の倒伏状態または起立状態のいずれの状態であっても、液体汚れの広がり、垂れ下がりを抑制することができる。この時、液体汚れが直接凹部5に入らないことも考えられるが、その様な場合であっても、液体汚れは重力によって鉛直方向下方へ流れるため、最終的にはいずれかの凹部5に侵入することになる。そして、一度凹部5に侵入してしまえば、長時間凹部5によって保持されることになり、それ以上垂れたり、広がったりすることがない。よって、液体汚れの表面積の広がりが抑制され、液状を長時間維持することができ、清掃時のふき取りにおいて容易にふき取ることができる。また、清掃時に市販の液体スプレー、泡スプレーなどを使用する場合は、凹部によってその洗浄液を保持することが出来るため、少量の洗浄液でも十分に汚れを落とすことができ、環境にとっても有益なものである。また更に、底板本体3を撥水層で被覆したり、特殊な表面処理をしなくても、清掃時に容易にふき取れるため、製造コストの低減にもつながる。
【0019】
本実施例では、前記凹部5の開口形状を角のない円形状にしている。これにより清掃時のふき取りにおいて、汚れが取り除きにくい角部をなくすことができる。また、前記便器の倒伏状態または起立状態のいずれの状態であっても、液体汚れを均一に保持することができる。なお、本実施例では、前記凹部5の開口形状を完全な円にしているが、角のない形状であれば良く、楕円形状などでも良い。また本実施例では、前記凹部5の断面形状を角のない半円形状にしている。これによっても清掃時の拭き取りが容易になる。なお、前記凹部5の入口部分(底板本体3の平面部分から前記凹部5の入口にかけての部分)の断面形状が角ばっているが、これも滑らかにできれば更に清掃時の拭き取りが容易になる。
【0020】
そして、本実施例では、図3に示すように、前記便座の起立状態で、その鉛直方向の線上に、少なくとも2つ以上の前記凹部が重なるように配設されている。すなわち、本実施例では、前記便座の起立状態において、その鉛直方向の線上に、複数の凹部5a、5bが配設されているため、仮に一つの凹部5aによって保持しきれない程多量の液体汚れが付着したとしても、凹部5aから溢れて垂れた液体汚れが、下方に配設されたもう一つの凹部5bによって保持されるため、液体汚れを確実に保持することができる。なお、本実施例では、底板本体3のどの部分に鉛直方向の線をとったとしても、必ずその線上に前記凹部5が2つ以上重なって配設されているため、広範囲にわたって、確実に液体汚れを保持することができる。
【0021】
図4は、底板本体3の表面に形成された凹部5の配置を示したものである。
本実施例では図4に示すように、前記便座4の起立状態において、前記底板本体3の表面に水平方向に並んだ前記凹部5同士の間隔Cは、前記凹部の直径B以下で配設されている。これにより、前記凹部5同士の間隔を狭くすることができるため、付着した液体汚れを高い確率で捉えることが出来る。
【0022】
図5は、図1の便座底板を示す底面図に、外周縁部と内周縁部との中間の線を付加したものである。
本実施例では、上ケース(図示せず)と底板本体3とは一体化されている。その接合部として、略半楕円形状の外周縁部8と、略楕円形状の内周縁部9がある。この外周縁部8と内周縁部9との中心線6より内周縁部9に近い内周側7は、外周側10と比べて、単位面積当たりの前記凹部5が保持できる液体の量が多くなるよう配置されている。
【0023】
前記底板本体3の内周側7は、外周側10に比べ、液体汚れの付着が多く、汚れやすい部分である。よって、その内周側7に効率的に凹部5を配設することにより、効率的に液体汚れを保持することができる。また前記凹部5は清掃時のふき取りにおいて、摩擦の増加につながり、清掃者の負担になることがある。よって、その凹部5の配設箇所、個数等については、液体汚れの付着しやすい内周側に効率的に配設することにより、清掃者の負担を減らしながらも、効率的に液体汚れを保持することができる。
【0024】
単位面積当たりの前記凹部5が保持できる液体汚れの量を多くするためには、前記凹部5の数を増やすこと、前記凹部5の平均直径を大きくすること、前記凹部5の平均深さを深くすること等により対応可能である。また、これらの構成を組み合わせることによっても、前記と同様の効果を奏する。ここで、平均直径とは、例えば内周側7において、内周側7に設けられた前記凹部5全ての直径を足して、個数で割ったものを指す。また、平均深さに関しても同様である。
【符号の説明】
【0025】
1 便座底板
2 緩衝用突起
3 底板本体
4 便座
5 凹部
6 内周縁部と外周縁部の中心線
7 内周縁部と外周縁部の中心線より内周縁部に近い部分(内周側)
8 外周縁部
9 内周縁部
10内周縁部と外周縁部の中心線より外周縁部に近い部分(外周側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の後方に回動可能に軸支された便座において、
前記便座の底板の表面には複数の凹部が設けられ、
前記複数の凹部により前記便座の底板に付着した液体汚れが保持されることを特徴とする便座。
【請求項2】
前記凹部の開口形状が、円形状であることを特徴とする請求項1記載の便座。
【請求項3】
前記便座の起立状態で前記便座の底板表面を見た時に、
その鉛直方向の線上に、
少なくとも2つ以上の前記凹部が重なるように配設されていることを特徴とする請求項2に記載の便座。
【請求項4】
前記便座の起立状態で前記便座の底板表面を見た時に、
水平方向に並んだ前記凹部同士の間隔は、
前記凹部の直径以下とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の便座。
【請求項5】
前記便座の外周縁部と内周縁部との中間より内周縁部に近い内周側は、外周縁部に近い外周側と比べて、単位面積当たりの前記凹部が保持できる液体の量が多くなるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の便座。
【請求項6】
前記内周側は、外周側に比べて単位面積当たりの前記凹部の数が多いことを特徴とする請求項5に記載の便座。
【請求項7】
前記内周側に設けられた凹部は、前記外周側に設けられた凹部に比べ、凹部の平均直径が大きいことを特徴とする請求項5に記載の便座。
【請求項8】
前記内周側に設けられた凹部は、前記外周側に設けられた凹部に比べ、凹部の平均深さが深いことを特徴とする請求項5に記載の便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152264(P2012−152264A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11673(P2011−11673)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】