説明

係合穴を複数備えた焼結品の製造方法

【課題】成形工程において成形体を損傷せず、歩留まりを向上して生産性を向上する。
【解決手段】雌ねじ部22a,22bを形成する複数の係合穴形成部材19,20を焼成時の加熱により分解消失する材料により形成し、この係合穴形成部材19,20を型枠12内に装着し、型枠12内にセラミックスの顆粒を充填し、等方圧静水成形機により圧力を掛けて係合穴形成部材19,20を備えた成形体21を得、この成形体21を焼成して焼結体を得るとともに、係合穴形成部材19,20を分解消失させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、他の部材との係合穴を複数備えた焼結品の製造方法に係り、例えば、コンクリート構造物内に埋設されて鉄筋などの筋体と接続固定されるセラミックスからなるセラミックス継手の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
出願人は、鉄筋等の筋体と接続される継手であって、筋体との係合部(螺合部)を複数備えたセラミックス継手に関して、多数の出願をしている。例えば、特許文献1においては、筋体と筋体を連結する接続継手をセラミックス焼結体により構成し、またこの接続継手と鉄筋又は接続ボルトとを用いてコンクリートを増設することが示されている。又、特許文献2においては、セパレータの端部に螺着される端止体と型枠締付体とにより型枠を係合するとともに、端止体をセラミックス焼結体からなるインサート本体とインサート本体に連接されたスリーブ体とから構成し、型枠間にコンクリートを打設したものが示されている。
【0003】
上記した特許文献1,2においては、筋体間を接続するためのセラミックス焼結体からなるセラミックス継手が記載されており、このセラミックス継手の製造方法を図6により説明する。まず、図6(a)に示すように、上型1及び下型2にそれぞれ金属製の雌ねじ部形成体(雄ねじ部)3,4を装着し、この上型1及び下型2とゴム型5とからなる型枠6内にセラミックス粉体7を充填し、等方圧静水成形機内に収納して加圧成形する。成形後、上型1及び下型2を取り外すと図6(b)に示すようになり、さらに雌ねじ部形成体3,4を回転させて除去し、成形体8を取り出す。この成形体8を焼成炉に導入し、所定の昇温パターンで加熱と冷却を行ない、セラミックス焼結体からなる樽形状のセラミックス継手を得る。このセラミックス継手は軸方向の中間部に隔壁9を有するとともに、隔壁9の両側に両端部に開口した雌ねじ部10,11を有し、雌ねじ部10,11に鉄筋の端部が螺合される。
【0004】
上記したセラミックス継手はコンクリート内に埋設されるが、軸方向の中間部に隔壁9を有するので、浸水による腐食が発生しない。
【特許文献1】特開2002−356952号公報
【特許文献2】特開2002−371709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したように、従来のセラミックス継手は複数の雌ねじ部10,11を有しており、成形工程後に成形体8の雌ねじ部10,11から雌ねじ部形成体3,4を取り外す必要があり、取り外し作業中に成形体8を損傷することがあり、歩留まりが低下し、生産性が低下した。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するために成されたものであり、成形工程後に係合穴形成部材を取り除く必要がなく、成形体に損傷を与えることがないとともに、歩留まりを向上して、生産性を向上することができる係合穴を複数備えた焼結品の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
出願人は、他の部材との複数の係合穴を有する焼結体の製造方法において、係合穴の形成のために複数の係合穴形成体を着脱する方法ではなく、係合穴形成体を焼成工程での加熱により消失する材料で形成する方法を採用すれば、複数の係合穴形成体を取り除く必要がなくなり、成形体を損傷しなくなることに着目した。
【0008】
この発明の請求項1に係る係合穴を複数備えた焼結品の製造方法は、他の部材との係合穴を複数備えた焼結品の製造方法であり、係合穴を形成する複数の係合穴形成部材の全部又は一部を焼成時の加熱により分解消失する材料により形成し、当該係合穴形成部材を型枠内に装着し、型枠内に焼結品原料を充填して係合穴形成部材を備えた成形体を得、当該成形体を焼成して係合穴形成部材の全部又は一部を分解消失させるものである。
【0009】
請求項2に係る係合穴を複数備えた焼結品の製造方法は、係合穴が、雌ねじ部であるものである。
【0010】
請求項3に係る係合穴を複数備えた焼結品の製造方法は、焼成時の加熱により分解消失する係合穴形成部材が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンの何れかにより形成されたものである。
【0011】
請求項4に係る係合穴を複数備えた焼結品の製造方法は、係合穴形成部材が、型枠内に型枠を貫通する保持具により保持固定されたものである。
【0012】
請求項5に係る係合穴を複数備えた焼結品の製造方法は、焼結品が、セラミックスであるものである。
【0013】
請求項6に係る係合穴を複数備えた焼結品の製造方法は、焼結品が、円柱状の両端に開口した雌ねじ部を備えるとともに、コンクリート内に埋設され、雌ねじ部を介して筋体と接続されるセラミックス継手であるものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のようにこの発明によれば、係合穴の形成のために複数の係合穴形成部材を着脱する方法ではなく、係合穴形成部材を焼成工程での加熱により消失する材料で形成する方法を採用しており、成形工程後に係合穴形成部材を取り除く必要がなくなり、係合穴を複数備えた成形体に損傷を与えることがなくなる。このため、係合穴を複数備えた焼結品を歩留まり良く生産することができ、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。図1(a)〜(d)はこの発明の実施最良形態による焼結品であるセラミックス継手の製造方法の説明図であり、まず秤量工程においては、主成分として酸化アルミニウムやジルコニア等のセラミックスが使用され、酸化アルミニウムを使用した場合、平均粒径が1μm以下で純度99.9%以上のAl23粉末を所定量(90〜98W%の範囲)秤量し、焼結助剤としての副成分を添加する。主成分としての酸化アルミニウムの量が90W%以下となると、接続継手としての強度靭性が不足し、特にねじ部のねじ山が破損する。また、98W%以上になると焼結温度を高くする必要が生じて経済的に好ましくない。従って、主成分としてのAl23の量は、90〜98W%の範囲が適当である。副生分である焼結助剤としては、MgO、SiO2、CaOが好ましく、このうちの一種類もしくは複数種の混合で2〜10W%添加する。この副成分は、焼成温度を低下させるための働きをする。
【0016】
次の混合破砕工程では、秤量工程で秤量された主成分と副成分よりなる出発原料に純水を加え、ボールミルによって10時間程度の混合破砕を行う。次の繊維物添加工程では、混合破砕された粉末に、例えば炭素珪素よりなる長繊維、短繊維のウイスカーを繊維状物質として体積比で0.01〜5.0%添加する。これによって、靭性が増す。なお、繊維物添加工程は省略することができる。次に、造粒工程では、混合破砕工程で得られた粉末又は繊維物添加工程によって得られた原料スラリーに、ポリビニールアルコールなどの有機バインダーと、分散剤として例えばポリカルボン酸アンモニウム塩を添加し、スプレードライヤーで150℃程度の温度で乾燥し、噴霧造粒する。造粒された顆粒としては、その粒径が30μm以下になると流動性が悪化し、成形型への充填が困難となって空洞が発生する。また、粒径が200μm以上になると、接続継手としての強度、靭性が低下して所望値のものを得ることが困難になる。従って、約30〜200μmの範囲に分布しているものが良く、この分布範囲のものが80%以上を占めているものが良い。
【0017】
次に、成形工程においては、図1(a)に示すように造粒工程で得られた顆粒を型枠12内に充填し、等方圧静水成形機により圧力をかけて成形する。成形圧力としては、約3〜10MPaの範囲、好ましくは5MPaとして成形する。この範囲以下になると成形圧力不足によって欠けやクラックが発生し、またそれ以上になると圧力解除までの時間がかかり過ぎて生産性が低下し、しかも離型性が悪くなって型割れが発生しやすくなる。型枠12は、上型1と、下型2と、上型1及び下型2の貫通孔1a,2aを貫通する雄ねじからなる保持具13,14と、上型1、下型2の外面側で保持具13,14に挿通された支持板15,16と、支持板15,16の外面側で保持具13,14に螺着されたナット17,18と、上型1及び下型2の内側において保持具13,14に螺合された係合穴形成部材19,20と、係合穴形成部材19,20の外周側に配置されたゴム型5により形成される。
【0018】
係合穴形成部材19,20は焼成時の加熱により分解消失する材料(分解温度180〜350℃)、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン等により形成される。係合穴形成部材19,20は図1(d)に示すように外端に鍔部19a,20aを有するとともに、この鍔部19a,20a側の中心から軸方向に途中まで雌ねじ部19b,20bが形成され、図1(c)に示すように鍔部19a,20aは上型1及び下型2の内面側に形成された凹部1b,2bに嵌合し、位置決めされる。又、係合穴形成部材19,20の外周には雄ねじ部19c,20cが形成される。そして、上型1及び下型2の貫通孔1a,2aに貫通された保持具13,14を係合穴形成部材19,20の雌ねじ部19b、20bに螺合し、この保持具13,14に支持板15,16を挿通してナット17,18を締着することにより保持具13,14が上型1及び下型2に固定され、係合穴形成部材19,20も上型1及び下型2の内面側に固定保持される。
【0019】
成形体21を成形後、ナット17,18、支持板15,16及び保持具13,14を取り外し、上型1又は下型2の一方を取り外して、ゴム型5を取り外し、図1(b)に示すように係合穴形成部材19,20を備えた成形体21を得る。次に、焼成工程では、成形体21を例えばガス炉によって焼成保持温度1500〜1700℃で1.5〜3時間焼成し、焼結体を得る。焼成後は焼成保持温度から400℃近辺まで50〜200℃/時間の降温速度で冷却する。この焼成工程においては、分解温度が180〜350℃である係合穴形成部材9,20は分解消失し、樽状で軸方向両端に開口した一対の雌ねじ部を備えたセラミックス継手が形成される。
【0020】
上記実施最良形態においては、係合穴の形成のために複数の係合穴形成部材を着脱する方法ではなく、係合穴形成部材19,20を焼成工程での加熱により消失する材料で形成する方法を採用しており、成形工程後に係合穴形成部材19,20を取り除く必要がなくなり、成形体21に損傷を与えることがなくなる。このため、係合穴を複数備えた焼結品を歩留まり良く生産することができ、生産性を向上することができる。
【0021】
なお、上記実施最良形態においては、全部の係合穴形成部材19,20を焼成時の加熱により分解消失する材料により形成したが、係合穴形成部材の一部は金属性の材料により形成し、その他の係合穴形成部材を焼成時の加熱により分解消失する材料により形成してもよい。又、係合穴を雌ねじ部により形成したが、単なる凹穴により形成してもよい。
【0022】
図2は上記実施最良形態によるセラミックス継手22の第1の適用例であるコンクリート構造物の断面図を示し、セラミックス継手22は樽状で、その軸方向の両端に開口した雌ねじ部22a,22bを有し、雌ねじ部22a,22b間に隔壁22cを有する。雌ねじ部22bには鉄筋23の一端の雄ねじ部23aを螺合するとともに、セラミックス継手22を雌ねじ部22aの開口端がコンクリート24の表面と同一面になるようにコンクリート24に埋設し、雌ねじ部22aには追加鉄筋又は接続ボルト25の雄ねじ部25aを螺合し、追加鉄筋又は接続ボルト25に型枠を配置して既設のコンクリート24に新設のコンクリートを増設する。この例では、セラミックス継手22が樽形状をしているので、追加鉄筋又は接続ボルト25が引張られた際にセラミックス継手22が抵抗体として働くとともに、セラミックス継手22が左右対称であるので、コンクリート24への埋設時に方向性を考慮しなくて良く、作業性が向上する。
【0023】
図3(a),(b)は上記したセラミックス継手の変形例の適用例であるコンクリート構造物の断面図及び係合穴形成部材の正面図を示す。係合穴形成部材26は前述したように焼成時の加熱により分解消失する材料により形成され、一端に上型1及び下型2の凹部1b,2bに嵌合する鍔部26aを有するとともに、この鍔部26a側端部の中心から軸方向に途中まで雌ねじ部26bが形成され、外周には雄ねじ部26cが形成され、さらに先端には半球状の中空部形成部26dが形成される。雌ねじ部26bは保持具13,14と螺合され、セラミックス継手27は前述したセラミックス継手22と同様の工程により形成され、セラミックス継手27は円柱状に形成されるとともに、軸方向両端部に開口した雌ねじ部27a,27bを有し、雌ねじ部27a,27bの先端には半球状の中空部27c,27dが形成され、さらに雌ねじ部27a,27b間には隔壁27eが形成される。セラミックス継手27は雌ねじ部27aの開口端がコンクリート24の表面と同一面となるようにコンクリート24に埋設され、雌ねじ部27bには鉄筋23の先端の雄ねじ部23aが螺合されるとともに、雌ねじ部27aには追加鉄筋又は接続ボルト25の雄ねじ部25aが螺合される。
【0024】
図3に示した適用例においては、雌ねじ部27a,27bの先端に半球状の中空部27c,27dを有しており、応力集中を緩和し、強度を確保することができる。
【0025】
図4及び図5はセラミックス継手22の第2の適用例であるコンクリート構造物の製造方法の説明図及びコンクリート構造物の断面図を示し、図4において、セラミックス継手22には無機質材からなる筒状のスリーブ体28及びゴムパッキン33を接続して端子体29を構成し、一対の端子体29間にはセパレータ30を接続する。この場合、各セラミックス継手22の一方の雌ねじ部22b間にセパレータ30の両端の雄ねじ部を螺合して接続する。又、セラミックス継手22の他方の雌ねじ部22aには型枠31、ゴムパッキン33及びスリーブ体28を挿通したボルト32を螺合する。ボルト32は型枠31と当接するフランジ部32aを有する。又、ボルト32には桟木34、パイプ35及び当接体36を介してナット37が螺合され、これらのボルト32、桟木34、パイプ35、当接体36及びナット37により型枠締付体38が構成され、型枠31は端子体29と型枠締付体38との間に保持され、一対の型枠31間にコンクリート24が打設される。一定の養生後に型枠締付体38を取り外し、型枠31も取り外し、さらにゴムパッキン17を取り外し、図5に示すようなコンクリート構造物が得られる。
【0026】
図5に示した第2の適用例においては、セラミックス継手22にスリーブ体28を連接したので、所望のかぶり寸法を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施最良形態によるセラミックス継手の製造方法の説明図である。
【図2】実施最良形態によるセラミックス継手の第1の適用例によるコンクリート構造物の断面図である。
【図3】実施最良形態によるセラミックス継手の変形例の適用例によるコンクリート構造物の断面図及び係合穴形成部材の正面図である。
【図4】実施最良形態によるセラミックス継手の第2の適用例によるコンクリート構造物の製造方法の説明図である。
【図5】実施最良形態によるセラミックス継手の第2の適用例によるコンクリート構造物の断面図
【図6】従来のセラミックス継手の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
12…型枠
13,14…保持具
19,20,26…係合穴形成部材
19b,20b,22a,22b,26b,27a,27b…雌ねじ部
21…成形体
22,27…セラミックス継手
23…鉄筋
24…コンクリート
25…追加鉄筋又は接続ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の部材との係合穴を複数備えた焼結品の製造方法であり、係合穴を形成する複数の係合穴形成部材の全部又は一部を焼成時の加熱により分解消失する材料により形成し、当該係合穴形成部材を型枠内に装着し、型枠内に焼結品原料を充填して係合穴形成部材を備えた成形体を得、当該成形体を焼成して係合穴形成部材の全部又は一部を分解消失させることを特徴とする係合穴を複数備えた焼結品の製造方法。
【請求項2】
係合穴は、雌ねじ部であることを特徴とする請求項1記載の係合穴を複数備えた焼結品の製造方法。
【請求項3】
焼成時の加熱により分解消失する係合穴形成部材は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンの何れかにより形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の係合穴を複数備えた焼結品の製造方法。
【請求項4】
係合穴形成部材は、型枠内に型枠を貫通する保持具により保持固定したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の係合穴を複数備えた焼結品の製造方法。
【請求項5】
焼結品は、セラミックスであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の係合穴を複数備えた焼結品の製造方法。
【請求項6】
焼結品は、円柱状の両端に開口した雌ねじ部を備えるとともに、コンクリート内に埋設され、雌ねじ部を介して筋体と接続されるセラミックス継手であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の係合穴を複数備えた焼結品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−281534(P2006−281534A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102866(P2005−102866)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】