説明

係止具

【課題】壁等の取付面に対する取付作業を容易に行うことができるとともに、取付状態を安定して保持することができる係止具を提供する。
【解決手段】ガスバリア性を有する合成樹脂シート12の裏面に粘着剤皮膜13を接着する。合成樹脂シート12の表面に取付基板14を溶融接合部15によって接合する。前記取付基板14の前面にフック部16を一体に形成する。前記合成樹脂シート12の粘着剤皮膜13を取付面に接着する。前記合成樹脂シート12の表面から該シート12を透過してシート12と粘着剤皮膜13の接合界面に水が侵入することはないので、接合強度を維持できるとともに、粘着剤皮膜13の劣化を防止でき、取付面に対する合成樹脂シート12の接合強度を保持して、係止具11の取付状態を安定して保持することができる。このため、防水等のシール手段の施工作業を不要にして、係止具11の取付作業を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、浴室やトイレあるいはキッチン等の壁に例えば脱臭剤を収容した消臭容器、調理用具等の他部材を係止するための係止具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミックス製の側壁の表面に、例えばキッチンタオル、バスタオルあるいは消臭容器等の他部材を装着する場合には、係止具が用いられる。この係止具は、図9に示すように、ある程度の剛性を有する樹脂製基板51の裏面に両面テープ52を接着し、この両面テープ52により樹脂製基板51を前記側壁の表面に接着するとともに、樹脂製基板51の表面に設けられたフック部53に前記他部材を装着するようになっている。
【0003】
又、従来、粘着剤皮膜を形成した合成樹脂シートを、セラミックス製の側壁の表面に接着した後、該シートの表面に例えば別部材の吸盤を吸着させる構成の係止構造も提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前者の従来の係止具は、例えば、トイレの小便器の内壁面や浴室等のように水分が両面テープ52に浸入する場所においては、ガスバリア性及び耐水性が低い両面テープ52に水分が浸入しないように、両面テープ52の外周縁全体を覆うための防水手段を施す必要があるので、壁面に対する係止具の取付作業が非常に面倒であるという問題があった。
【0005】
又、前者の係止具は、樹脂製基板51の裏面全体に両面テープ52が装着されているので、フック部53に作用する他部材の荷重により樹脂製基板51の上端縁が壁面から離れようとする力を受け、取付状態を安定して保持することができないという問題があった。
【0006】
一方、後者の他部材の係止構造は、合成樹脂シートを粘着剤皮膜により壁面に接着した後に、シートの表面に吸盤を取り付ける作業が必要となるので、現場での施工作業が面倒であるばかりでなく、合成樹脂シートの表面から吸盤が離れ易く、他部材を安定して取り付けておくことができないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、取付体の取付面に対する取付作業を容易に行うことができる係止具を提供することにある。
本発明の別の目的は、上記目的に加えて、取付面が曲面の場合にも取付を適正に行うことができるとともに、取付状態を安定して保持することができる係止具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ガスバリア性を有するシートの表面に対し、他部材を係止するための係止部を連結し、前記シートの裏面に対し粘着剤皮膜又は接着剤皮膜を設けたことを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記シートは柔軟性を有し、前記係止部は、前記シートの外周縁よりも内側に連結されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、前記シートの材料は合成樹脂であって、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン及びスチロール樹脂の中から1種類選択されたものであることを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記係止部の材料は、前記シートの選択された1種類の合成樹脂材料と同じ材料であることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項において、前記粘着剤皮膜の材料は、水性エマルション型粘着剤、アクリル系粘着剤及び熱硬化型ゴム系粘着剤の中から1種類選択されたものであることを要旨とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項において、前記シートの表面に前記係止部が溶融接合部によって連結されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜6に記載の発明によれば、ガスバリア性を有する合成樹脂シートの裏面に粘着剤皮膜を設けたので、取付体の取付面に合成樹脂シートが粘着剤皮膜又は接着剤皮膜を介して接着された状態において、ガスや水分が合成樹脂シートを透過して該シートと粘着剤皮膜又は接着剤皮膜との接合界面に侵入することはない。従って、前記接合界面の接合強度を維持できるとともに、粘着剤皮膜又は接着剤皮膜の劣化を防止することができ、さらに、前記取付面と粘着剤皮膜又は接着剤皮膜の接合強度も維持でき、取付状態を安定して保持することができる。このため、別途防水等のシール手段を施さなくてもよく、取付作業を容易に行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、柔軟性を有する合成樹脂シートの外周縁よりも内側に前記係止部が連結されているので、該係止部に他部材による外力が作用した場合に、前記合成樹脂シートの上端縁が前記取付面から離隔する方向への外力を受けることがなく、このため、前記取付面に対する合成樹脂シートの取付状態を安定して保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した係止具の一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
図2に示すように、係止具11を構成するガスバリア性を有するポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)製の横長四角形状をなす合成樹脂シート12の裏面には、耐水性を有する粘着剤皮膜13が形成されている。前記柔軟性を有する合成樹脂シート12の表面には、同じくポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)製の取付基板14が溶融接合部15によって接合されている。前記取付基板14の表面にはフック部16が一体に形成されている。前記取付基板14の表面には、前記フック部16の下方に位置するように位置規制用の突起部17が一体に形成されている。この実施形態では前記取付基板14、フック部16及び突起部17によって係止部Kを構成している。この係止部Kは図2に示すように合成樹脂シート12の外周縁よりも内側に位置するように接合されている。
【0015】
前記溶融接合部15は、例えば塩化メチレン等の溶剤を用いて合成樹脂シート12と取付基板14の接合界面を相互に溶かして接合して形成されている。又、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂用の接着剤として、溶剤ケトンにアルコールを5〜25%含有したものを用いてもよい。ケトンとしてはメチルエチルケトンを、アルコールとしては、メタノール又はエタノールが選ばれる。上記ケトン75〜95重量%と、上記メチルアルコール若しくはエチルアルコール5〜25重量%とを含有している。
【0016】
前記粘着剤皮膜13の表面には、剥離剤皮膜18を形成した紙製のカバー用シート19が接着され、粘着剤皮膜13の表面からカバー用シート19を剥離剤皮膜18とともに容易に剥離できるようになっている。
【0017】
前記合成樹脂シート12を形成する合成樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート以外に、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン及びスチロール樹脂の中から1種類選択されている。前記係止部Kは、前記合成樹脂シート12の複数の合成樹脂材料の中から選択された1種類の材料と同じ材料(この実施形態ではポリエチレンテレフタレート)によって形成されている。
【0018】
この実施形態では、前記粘着剤皮膜13の粘着剤として、例えば水性エマルション型粘着剤、アクリル系粘着剤及び熱硬化型ゴム系粘着剤の中から一種類が選択されるようになっている。具体例としては、東洋インキ製造株式会社製の感圧性接着剤[商品名「オリバイン」、品番「YK−30122、BPS6080、4595、5320、5513、5373、5012、5565」」のうちいずれか一種類が用いられる。
【0019】
前記合成樹脂シート12の厚さ寸法は、例えば0.1mm〜2.0mmの範囲に設定され、望ましくは0.5〜1.0mmである。又、粘着剤皮膜13の膜厚寸法は、例えば1μm〜500μmの範囲に設定され、望ましくは10μm〜100μmである。
【0020】
図3は上記のように構成した係止具11を用いて、例えば取付面としての男性用のセラミックス製の小用便器の内側壁面41(図5参照)に取り付けられる消臭容器21を示す。この消臭容器21を構成する合成樹脂製の本体ケース22の裏面の左右両側部には、図4に示すように一対の縦長四角筒状部23が一体に形成され、それらの内部には取付孔24が上下方向に貫通するように形成されている。前記縦長四角筒状部23の中間部には、前記係止具11のフック部16を係止するための係止孔25が形成されるとともに、ピン挿入孔26,27が形成されている。前記本体ケース22の底部には上方から進入した水を下方に排出するための排水口28が形成されている。
【0021】
図5に示すように、前記本体ケース22の中間高さ位置には多数の通水孔29aを有する支持板29が水平に支持され、この上面には脱臭剤30が支持されている。前記本体ケース22の上部には本体ケース22の内部に水を取り入れるための水案内板31が装着されている。前記本体ケース22の取付孔24の上部には前記水案内板31の一対(図5に一箇所のみ図示)の脚部31aが嵌入され、該脚部31aは、前記縦長四角筒状部23の前記ピン挿入孔26に貫通された連結ピン32によって縦長四角筒状部23に連結されている。
【0022】
前記本体ケース22の下部には、本体ケース22内から排水口28を通して外部に排出される水が飛散しないように案内するための水案内板33が装着されている。前記縦長四角筒状部23の取付孔24の下部には、前記水案内板33の一対(図5に一箇所のみ図示)の脚部33aが嵌入され、前記ピン挿入孔27に貫通された連結ピン34によって、縦長四角筒状部23に連結されている。
【0023】
次に、前記係止具11を用いて、消臭容器21を小用便器の内側壁面41に取り付けるための取付作業について説明する。
最初に、図1に示す係止具11の粘着剤皮膜13の表面から、剥離剤皮膜18を備えたカバー用シート19を剥離する。そして、図5に示すように、合成樹脂シート12の裏面に接着された粘着剤皮膜13を前記内側壁面41に接着する。その後、前記係止具11のフック部16の先端部を消臭容器21の縦長四角筒状部23に形成した係止孔25に進入させて、前記フック部16に本体ケース22の縦長四角筒状部23を係止する。この状態で、前記水案内板31の先端縁が内側壁面41に接触され、水案内板33の先端縁も内側壁面41に接触される。
【0024】
前記壁面41が男性用の小用便器の内側壁面41に沿って洗浄用の水が流下された場合に、水が水案内板31の表面により案内されて本体ケース22の内部に流入し、脱臭剤30に水が作用して、脱臭剤30により便器内の脱臭が行われる。前記支持板29の通水孔29aを通過した水は、前記排水口28から水案内板33の上面に案内されて、下方に流下される。
【0025】
上記実施形態の係止具によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、ガスバリア性を有する合成樹脂シート12の裏面に粘着剤皮膜13を接着し、この粘着剤皮膜13により係止具11を内側壁面41に接着するようにした。このため、ガスや水分が合成樹脂シート12を透過して該シート12と粘着剤皮膜13との接合界面に侵入することはない。従って、前記接合界面の接合強度を維持できるとともに、粘着剤皮膜13の劣化を防止することができ、さらに、前記内側壁面41と粘着剤皮膜13の接合強度も維持でき、取付状態を安定して保持することができる。従って、別途防水等のシール手段を施さなくてもよく、内側壁面41に対する合成樹脂シート12の取付作業を容易に行うことができる。
【0026】
(2)上記実施形態では、合成樹脂シート12の表面に係止部Kを溶融接合部15によって予め連結したので、吸盤を取り付ける従来の係止構造と比較して、内側壁面41への係止具11の取付作業を容易に行うことができる。
【0027】
(3)上記実施形態では、柔軟性を有する合成樹脂シート12を用いたので、内側壁面41が曲面であっても、その曲面にならうようにして、合成樹脂シート12を取り付けることができ、取付作業を容易に行うことができる。
【0028】
(4)上記実施形態では、合成樹脂シート12の外周縁よりも内側の部分に取付基板14を接合したので、内側壁面41に対する消臭容器21の装着状態において、消臭容器21による荷重がフック部16に作用した場合に、図5において取付基板14及びこの取付基板14と対応する合成樹脂シート12が内側壁面41から離隔する方向に外力を受ける。しかし、前記取付基板14と対応しない合成樹脂シート12の外周縁は、内側壁面41から離隔する方向への外力を受けることがないので、内側壁面41から合成樹脂シート12が剥離するのを防止することができる。このため内側壁面41に対する係止具11の取付状態を安定して保持することができる。
【0029】
(5)上記実施形態では、粘着剤皮膜13を合成樹脂シート12の裏面に形成したので、除去作業が必要となった場合に、従来の両面テープを用いる構成と比較して、内側壁面41に粘着剤皮膜13を残さないで、合成樹脂シート12を粘着剤皮膜13とともに内側壁面41から除去することができ、内側壁面41の表面の清掃作業を容易に行うことができる。
【0030】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 図6に示すように、前記合成樹脂シート12の表面に対して、四角ブロック状をなす係止部Kとしての係止具45を溶融接合部15によって接合すると共に、係止具45の前面及び上面に各種の他部材を取り付けるボルトを螺合するためのネジ穴45a,45bを形成してもよい。
【0031】
○ 図7に示すように、円形状の合成樹脂シート12の前面に、円形状の取付基板14を溶融接合部15によって接合し、取付基板14の前面に一つのフック部16を一体に形成してもよい。
【0032】
○ 図8に示すように、楕円形状の合成樹脂シート12の前面に十字状の取付基板14を溶融接合部15によって接合し、取付基板14にフック部16を一体に形成してもよい。
【0033】
○ 合成樹脂シート12に代えて、例えばアルミニウムシート、ステンレススチールシート等のガスバリア性のある金属シートを用いたり、ブチルゴムシート、エチレン・プロピレン系共重合ゴム(EPゴム)シート等のガスバリア性のあるゴムシートを用いたりしてもよい。
【0034】
○ 前記粘着剤皮膜13に代えて、接着力の強い接着剤皮膜を用いてもよい。
○ 前記合成樹脂シート12に対し取付基板14又は係止具45を加熱融着したり、瞬間接着剤により接着したりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の係止具を示す側面図。
【図2】係止具の斜視図。
【図3】消臭容器の斜視図。
【図4】消臭容器の本体ケースの斜視図。
【図5】消臭容器を係止具によって便器の内側壁面に取り付けた状態を示す断面図。
【図6】この発明の別の係止具を示す斜視図。
【図7】この発明の別の係止具を示す斜視図。
【図8】この発明の別の係止具を示す斜視図。
【図9】従来の係止具を示す斜視図。
【符号の説明】
【0036】
K…係止部、12…合成樹脂シート、13…粘着剤皮膜、15…溶融接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性を有するシートの表面に対し、他部材を係止するための係止部を連結し、前記シートの裏面に対し粘着剤皮膜又は接着剤皮膜を設けたことを特徴とする係止具。
【請求項2】
請求項1において、前記シートは柔軟性を有し、前記係止部は、前記シートの外周縁よりも内側に連結されていることを特徴とする係止具。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記シートの材料は合成樹脂であって、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン及びスチロール樹脂の中から1種類選択されたものであることを特徴とする係止具。
【請求項4】
請求項3において、前記係止部の材料は、前記シートの選択された1種類の合成樹脂材料と同じ材料であることを特徴とする係止具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、前記粘着剤皮膜の材料は、水性エマルション型粘着剤、アクリル系粘着剤及び熱硬化型ゴム系粘着剤の中から1種類選択されたものであることを特徴とする係止具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、前記シートの表面に前記係止部が溶融接合部によって連結されていることを特徴とする係止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−149861(P2006−149861A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347482(P2004−347482)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(302010378)タナカ技工 株式会社 (3)
【Fターム(参考)】