説明

係止材用積層不織布

【課題】 フック状係止部材、特に浅い多点フック状係止材に対応して剥離時に不織布表面上の繊維の毛羽立ちを抑え、また係止時の負荷に対する部材の形態保持を可能とし、フック状係止部材に対して、効率的な結合強力を得ると共に、繰り返し結合しても結合強力が低下しないループを有する係止材用不織布を提供する。
【解決手段】 表面層が熱可塑性繊維ウェブあるいは不織布と少なくとも一層以上の他の不織布との積層不織布において、目付が150g/m以下、繊度が11デシテックス以下であって、表面層が部分熱圧着部で囲まれて形成される非熱圧着域を配置する、さらに係止方向の選択によって効率的に結合強力が得られるように表面層の繊維配列に優位方向を持たせた係止材用積層不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係止材用積層不織布、特に面ファスナーにおいてフック状係止部材に対して用いられる、繰り返し結合可能なループを有する係止材用不織布に関し、さらに詳しくは、繰り返し使用に際して形態保持性の優れたループ部を有する係止材用積層不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、面ファスナーにおいては、天然繊維あるいは合成繊維からなる糸でループを形成した織編物とフック状係止部材とを、それぞれ結合しようとする二つの面にあらかじめ接着または縫製により固定させておき、フックをループに引掛けることで着脱可能に結合する方法が知られている。例えば、車両や飛行機等の座席シートカバーの固定や、使い捨てオムツの止着用として、トリコットなどのループが形成された織編物とフック状係止部材を結合する方式等があげられる。
【0003】
しかし、これらの用途に用いられるトリコットなどのループを形成した織編物等では、カットした時、繊維状のほつれ等が発生するため、製造工程上でトラブルを生じることが問題であり、防止策としてのほつれ止め加工、引きつれ対応も合わせて、裏材を貼り合わせるなどの対策を講ずるが、コスト高になる等の問題があった。
【0004】
特許文献1に開示されている捲縮長繊維の不織布を用いれば、上記のような、ほつれ、コスト面の問題については解消される。しかし、このような一般的な不織布において、貼り直し等で繰り返し結合を行うと、不織布の繊維がフックにより剥ぎ取られ、また、不織布の表面上を毛羽立たせるという問題が生じる。この場合、毛羽立った繊維は、他のループ糸を隠すように表面を覆ってしまい、また剥ぎ取られた繊維はフックに詰まった状態となる。このため、繰り返し結合した時、毛羽立った繊維とフックに詰まった状態の繊維が結合を阻害し、その結合強力を低下させる問題があった。
【0005】
繊維の接合に関しては、特許文献2のように、熱圧着部がマトリックス状の不織布の提案があるが、係止し易いループを形成するために繊維の固定を粗くすると、使用に際しての張力等が原因して、係止部材自体の形態が崩れやすくなり、必要部位への部材固定時、また係止時の負荷による形態保持性等の問題があった。
【特許文献1】特開平2−193607号公報
【特許文献2】特開平11−75912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記欠点を解消し、フック状係止部材に対して、繰り返し結合をしても、結合強力が低下しないループを有すると共に、実使用時における形態保持性の優れた係止材用不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは、面ファスナーの使用され方を詳しく検討し、例えば結合面における状態を調査したところ、最近の面ファスナーにおいては、単にフックでループを引掛ければ良いと言う訳でなく、フック形状等の改良も進み、例えば、フックの形状が、浅く、小さくなり、かつ単位面積あたりの個数、密集度が大きいフック部材になる傾向があり、またフック表面を手でなぞっても凹凸が感じないほどに平滑で、密集度の高い形状となり、手で触れても違和感のない程度に、フックの形状が改良されていることが分った。例えば、フックの高さは、0.2mm程度と小さく、個数は約250個/cmと、深く係止せず、浅く数多く係止するものが多くなっている。従って、最近の面ファスナーのフック材の傾向としては、従来タイプの大きく、深いフックを用いて、できるだけ強く繊維を係止し、結合強力を得ようとするものから、最近では、小さく浅いものを数多く係止して、結合強力を得る考えのものに変化している。
【0008】
一方、ループ材に関しては、従来、特に不織布のループ材は、係止し易くするために非固定状態の繊維域をルーズ化し、また広くすることが行われてきたが、このようにすると不織布としては柔軟であるが形態安定性に劣り、ループ材の固定時、また係止時の負荷によって変形し易い等の問題があった。
【0009】
本発明者は、最近のフック形状に適応し、かつ形態保持性の優れたループ材を見出すことを狙いとして検討を進めたところ、繰り返し係止での切断を少なくすること、切れた繊維で係止域が覆われないこと、さらにフックへの毛羽付着を少なくし、フックの形状に合わせ、係止のためのループ繊維層は必要な範囲でできるだけ薄くして、低目付で粗な構造にし、さらにループ材と同じ繊維層を用いて形態保持を図るのではなく、基布となる少なくとも一層以上の不織布を積層することが有効であることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
【0010】
(1)熱可塑性繊維ウェブまたは熱可塑性繊維不織布からなる表面層と、少なくとも一層以上の他の熱可塑性繊維不織布の層とからなる積層不織布において、該積層不織布を構成する繊維の繊度が1デシテックス以上、11デシテックス以下、目付が150g/m以下であり、かつ該表面層が、熱圧着部で実質的に囲まれて形成される非熱圧着域を有していることを特徴とする係止材用積層不織布。
(2)前記表面層のウェブまたは不織布が、該ウェブまたは不織布の係止方向を横切るように優位に配列された長繊維を含むことを特徴とする(1)に記載の係止材用積層不織布。
【0011】
(3)前記非熱圧着域の長さ(非固定長)が7mm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の係止材用積層不織布。
(4)前記非熱圧着域の形状が、丸状形または角状形であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【0012】
(5)前記非熱圧着域の1箇所の占有面積が2〜100mmであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
(6)前記熱圧着部の巾が、0.5mm以上であることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【0013】
(7)前記非熱圧着域を形成する熱圧着部とは別のパターンで形成された、非連続の部分熱圧着部を有することを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
(8)前記積層不織布を構成する繊維が捲縮を有する繊維を含有することを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【0014】
本発明において、表面層に用いる熱可塑性不織布としては、柔軟性を保持し、かつ剥離性に優れるために、熱圧着部で実質的に囲まれて形成される、閉鎖状の非熱圧着域を有していることが必要である。
【0015】
本発明において、非熱圧着域とは、係止用熱圧着部により取囲まれるように形成された、圧着部と圧着部の間の非熱圧着部分を示すものであり、非熱圧着域の繊維は互いに接合されることなく、係止用熱圧着部の間でループを形成している。
【0016】
この非熱圧着域の長さ(非固定長)を適度の長さに選定することにより、切断しても毛羽長が短くなり、係止域が切断繊維で覆われることが無く、かつフックにも付着しにくくなる。好ましい非熱圧着域の長さは、7mm以下、好ましくは5〜1mmである。この熱圧着部は、積層する不織布との接合を兼ねてもよい。
【0017】
さらに、面ファスナーにおいて必要な結合強力を得るには、基本的にフックに係止する繊維数を同じ程度にすることをポイントとして検討した結果、一方向に係止する考えを加味し、構成する繊維の配列方向を偏らせること、すなわちファスナーの結合に必要な係止方向を横切る方向に繊維の配列方向を優位にすることによって、一方向の結合強力を持たせることが可能なことを見出した。すなわち、本発明の表面層の不織布は、該不織布の係止方向を横切るように優位に配列された長繊維を有することが好ましい。このような繊維配列にすると、ランダムな配列より、係止時に繊維が束状になって有効な繊維が増え、切れにくくなると考えられる。また係止後の繊維の毛羽立ち、結合強力の点からも、係止する深さを浅くし、係止点数を多くすることが、基材の破壊を抑える上でも好ましいことが分った。
【0018】
熱圧着部及びそれで囲まれる非熱圧着部の形状は、係止用フック材の形状、高さ等にもよるが、図1(1)、(2)および(3)に示すように熱圧着部1が連続したマトリックス状のもの(図中、2は非熱圧着域、a−a´断面を同一図面中に示す。)、または図2(1)および(2)に示すように、熱圧着部1は非連続であるが、非熱圧着域2の周辺は全方位熱圧着部1で囲われたものなどの形状があげられる。この熱圧着部1を係止用熱圧着部ということがある。
【0019】
熱圧着部1が非連続の場合は、熱圧着部が連続したものに比べ柔軟な布になるが、全方位熱圧着部で囲われているものの一部でも連なった繊維が毛羽立ち易いために、その圧着部間の最短間隔は7mm以下であることが好ましく、5mm以下がより好ましい。熱圧着部の面積率は、必要結合強力、係止面積、非熱圧着域の大きさ、配置によって異なるが、10〜70%が好ましく、より好ましくは20〜50%である。10%未満では、柔軟であるが、繊維の固定が弱く、または少なくなり、毛羽立ち易くなる。70%を越えると、係止する非熱圧着域が少なくなり、係止し難くなり、結合強力が弱くなり、また全体が硬くなり過ぎたりする。言い換えれば、非熱圧着域の面積率は、30〜90%が好ましい。
【0020】
本発明での非熱圧着域において、実質的閉鎖空間である1箇所の占有面積は、2〜100mmが好ましく、4〜50mmがより好ましい。2mm未満では係止する繊維層の膨らみが小さく、係止し難くなり、100mmを越えると、切断した繊維が長くなり過ぎる。実用上は、使用するフックの形状に合わせて、設定することが必要である。
熱圧着部の巾は、熱圧着部の形状で意味が異なるが、繊維の固定が充分行われ、また充分な係止面積を得るために、少なくとも0.3mm、好ましくは0.5mm以上、10.0mm以下の範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明において、繊維が優位に配列された方向とは、不織布表面上の繊維配列方向が多い方向のことであり、特に本発明では表面層の繊維配列が重要であり、表面層を形成するウェブまたは不織布がその係止方向を横切るように、優位な方向に繊維が引き揃っていることが好ましい。この繊維配列方向を示す指標は、不織布の強力縦横比にほぼ現れ、この縦横比が1.5〜8.0の範囲が好ましく、より好ましくは2.0〜8.0の範囲であり、より繊維配列の効果が発揮できる。強力の縦横比が1.5未満であると、ループを形成する繊維が乱れて配列されるため、結合強力に有効なフックへの引掛かりが少なくなり結合強力が低下する。強力の縦横比が8.0を超えると不織布自体の横強力が低くなりすぎ、フック状係止部材との剥離時に不織布が引き裂かれ破壊されることがある。なお、本発明では表面層がウェブあるいは不織布の強力を直接測定可能な場合は、その機械(縦)、巾(横)方向の強度比で、またウェブ等でそのまま測定不可能な場合は、一旦ウェブを接合するなどして相対的な強力比で確認することができる。
【0022】
実用に当たって、積層不織布をテープ状にスリットした際のカット面の開放、ほつれの発生などが問題になる場合、また不織布の強力及び寸法安定性保持のため、ループ形成に有効な熱圧着部と共に、該熱圧着部とは別に、ループ形成及びループとしての機能を阻害せず、かつ寸法安定性を保持するために、該熱圧着部とは別のパターンを有する、非連続の部分熱圧着部を組合せることが好ましい。上記非連続の部分熱圧着部としては、係止用熱圧着部とは別のパターンを有し、非連続に散在した丸状、角状等の点状の部分的熱圧着部が好適である。該部分的熱圧着部の1個当たりの面積は、0.03mm〜5mmが好ましく、その間隔は0.5mm〜4.0mmが好ましい。部分的熱圧着部と係止用熱圧着部とは、部分的に重なる部分があってもよい。部分熱圧着の面積率は3〜50%が好ましく、5〜30%がより好ましい。
【0023】
本発明において、使用する繊維としては、圧着部の形成、強度等の点で熱可塑性繊維、とくに結晶性熱可塑性繊維が好ましく、例えば、軽量で比較的低融点で圧着しやすいポリプロピレン繊維等のポリオレフィン系繊維、単糸強度及び寸法安定性の良いポリエチレンテレフタレート繊維等のポリエステル系繊維、単糸強度及び布の柔軟性の良いナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維を、単独あるいは混合したものを挙げることができる。また、これらの繊維を複合繊維として用いてもよいが、コスト面やリサイクル可能な点から単一成分で構成する繊維がより好ましい。なお、積層する係止用の表材、補強用の裏材は同一素材、異素材であっても良い。形態保持の点では、裏材は吸湿変化しにくいポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維が好ましい。
【0024】
また、本発明の積層不織布の表面層は、フック状係止部材との剥離時に、単糸に張力がかかる点や、糸抜けが生じにくいなどでの強力面で有利であることから、前記繊維からなる長繊維ウェブから構成されるものが好ましい。
【0025】
本発明において、不織布を構成する単繊維の繊度は、1.0〜11.0デシテックスが柔軟性、係止効果の点で好ましく、より好ましくは2.0〜9.0デシテックスである。単繊維繊度が1.0デシテックス未満であると、単糸が切れやすくフック状係止部材との結合強力が低下する。また、単繊維繊度が11.0デシテックスを超えると単糸が切れにくくなるが、得られる不織布の風合いが硬くなり、係止材としての柔軟性を損なうことになる。
【0026】
本発明の繊維として、捲縮繊維を用いると、得られる不織布が嵩高になり、また、フック状係止部材の種々のフック形状に対し、係止適応性がよくなるので、より好ましい。捲縮は、らせん状捲縮を有する連続フィラメントとして形成されているのが好ましく、捲縮数は2個以上/25mmが好ましい。捲縮数は多い方ほどより好ましい。捲縮らせん径は0.3〜2.0mmが好ましく、さらに0.3〜1.0mmであるとより好ましい。捲縮らせん径が2.0mmを超える場合は、単位長当たりの捲縮数が少なくなるので嵩高性が劣り、また0.3mm未満の場合はらせん形状によって得られる空間が極度に小さくなりすぎるため嵩高性が劣ることになり、捲縮繊維の効果が発揮できなくなる。
【0027】
さらに、本発明に用いる繊維は、糸断面が通常の丸状型以外に、これを変形した特殊形状に形成されていてもよい。単一成分での捲縮繊維では、捲縮発現の点から一手法として特殊形状も用いることができる。この場合、糸断面形状の少なくとも一部の凸部をまたは凹部を有する形状であればよい。また、単一成分での捲縮糸は、繊維製造時に糸条を不均一に冷却する非対称冷却法等により物理的に形成してもよく、また複合繊維では、貼合せ構造等のバイメタル効果によって捲縮を持つ繊維で形成することができる。
【0028】
本発明の積層不織布は、部分的熱圧着で接合されるが、係止用熱圧着部及び散点状の非連続熱圧着部は、彫刻を施したロールを用いて形成される他に、平板を押しあてる方法でも形成することができる。生産効率の点ではロール法が好ましい。また一方を彫刻ロールとし、他方を平滑な金属ロールとする組合せ、また上、下共彫刻ロールとして、つき合わせる方法等を用いて形成してもよい。熱圧着程度は、得られる不織布の強力、繊維の固定程度あるいは毛羽立ち性等の要求性能に応じて、上、下ロールの温度、接圧を設定することによって定められるが、強度、風合上温度は使用する繊維の融点以下に設定するのが好ましい。係止用熱圧着部及び散点状の非連続熱圧着部は、同時または二段階に分けて施してもよい。
【0029】
本発明の積層不織布の目付は、使用目的により任意に選択できるが、全体としては軽さ、強度等を勘案した取扱いの便宜から10〜150g/mの範囲が好ましく、実用上20g/m〜60g/mの範囲が好ましい。なお、表面層の不織布またはウェブは、係止用機能を有する程度の目付であれば良く、粗い構造を形成する上でも、5〜50g/mが好ましく、より好ましくは10〜30g/mである。
【0030】
また支持体用の基布として補強機能を持つ裏材の不織布は、目付が15〜120g/mが好ましく、より好ましくは20〜60g/mの範囲である。これらの貼り合せは、係止用エンボス柄による接合のほか、接着剤、ウエルダー法等も有効であるが、効率、適用性の点で熱圧着法が好ましい。
【0031】
なお、本発明で使用するフック状係止部材は、繊維を引掛けることの可能なフック状、または突起状のものが配列された一般的なものでよいが、前記した繊維の毛羽立ち、結合強力の点から、係止する深さが浅く、係止数を多くするような図3に示すようなものが、基材の破壊を抑える上でも有効である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の不織布は、表面層が熱可塑性繊維ウェブあるいは熱可塑性繊維不織布であり、係止熱圧着部で囲まれて形成され、実質的に閉ざされた領域となる非熱圧着域を配置してなるため、繰返し係止しても、良好な結合強力を有すると共に、非熱圧着部繊維の固定範囲を区切り、非熱圧着部内に両端を熱固定したループを形成することができる。さらに、一層以上の他の不織布との積層不織布で構成されることから、係止時の負荷による部材の形態保持性に優れ、表面層が少なくとも縦方向に配列された長繊維とすることにより、表面層の繊維配列の優位方向を係止する効率的な使用が可能で、低目付でも係止材として十分な結合強力を発揮し得ることが可能となる。また、熱圧着部のパターンとは別に、テープ状にスリットした際でもカット面の開放、ほつれの発生が解消される係止部材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、得られた不織布の性能は次のような方法で測定した。
(1)結合強力
高さ約0.25mmのきのこ状フックが1cmあたり約250個設けられた幅3cmのフック状係止部材と、実施例及び比較例で作成した不織布(幅3cm)とを、繊維配列の優位方向を横切る方向(機械の巾(横)方向)を係止方向として、3cmの長さで700gのローラで加重結合した。島津製作所(株)製テンシロンを用いて、結合していない部分の上下をつかみ、つかみ巾100mm、試験速度300mm/minで引張試験をおこない、最大強力を読み取り、これを結合部の面積で除した値を結合強力(N/cm)とした。さらに繰り返し結合し試験をおこなった。
【0034】
(2)係止剥離後の毛羽及び形態評価
係止後の毛羽立ちはその毛羽立ち程度を官能的に等級で示した。係止の無いものを5級、散点状圧着部(丸0.45φ、1.5mm間隔)で熱圧着したものの5回係止後の毛羽立ち状態を1級とし、この中間レベルの僅かに毛羽立ったものを4級、かなり毛羽立ったものを2級、毛羽立っているがフックの引っ掛けの可能な程度のものを3級として、n=5の平均値で示した。実用可能なレベルを3級以上とする。また係止後の形態保持性は外観の崩れ状態を官能評価し、「安定」、「崩れ」で示した。
【0035】
(3)表面層ウェブ及び不織布の引張強力
表面層がウェブまたは不織布の強力を直接測定可能な場合はその機械(縦)、巾(横)方向の強度比で、またウェブ等でそのまま測定不可能な場合は例えばウェブを点状熱圧着で接合して強力比を確認した。なお、ウェブまたは不織布の強力は幅3cm(縦横同一なら任意)長さ20cmの試験片を島津製作所(株)製テンシロンを用いて、つかみ巾100mm(必要に応じて0cm)、試験速度300mm/minで引張試験をおこなった。不織布の繊維配列優位方向を機械(縦)方向とし、対する90度の方向を巾(横)方向として強力を測定し、縦方向の強力値を横方向の強力値で除した値を強力の縦横比とした。
【実施例】
【0036】
[実施例1、2及び3]
ポリプロピレン(JIS−K7210の表1の条件で測定したMFR=40)を原料とし、丸断面のノズルから溶融押出した長繊維を紡口の近傍にて側方から冷却しながら、エアーサッカー等の牽引引取装置で引き取った。牽引引取装置を出た糸条は、帯電装置を通過させて開繊させた後、移動する金網コンベアー上にウェブとして捕集した。このウェブ(20g/m)を搬送し、同様にして得たウェブを、すでに点状の圧着部(0.45mm径、1.5mm間隔、千鳥配列、圧着面積率7%)で接合した不織布(30g/m)上に重ね、図1(1)に示すような円形(4.5φ)の非圧着域を有する連続圧着部が彫刻された加熱ロールと平滑ロール間に通し、圧着表面温度138℃で部分的に接合して、熱圧着部間で形成された円形の非熱圧着域を有する積層不織布を得た(実施例1)。表面層の不織布の構成繊維は2.8デシテックス、目付は20g/mであった。同様に4.0mm角の正方形の非圧着域を柾目状に配置した(図1(2))加熱ロール、さらに一辺2cmの六角形(亀甲)の非圧着域を60°斜め千鳥状に配置した(図1(3))加熱ロールを用い、実施例1と同様にして積層不織布を製造した(実施例2及び実施例3)。これらの積層不織布とフック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。
【0037】
実施例1〜実施例3の積層不織布は、繊維の感触を持ち、5回係止繰り返し使用でも、充分な結合強力を有し、繰返し使用における係止後の毛羽立ちが少なく、形態保持性に優れ、負荷時の変形力にも耐える実用的な係止材用積層不織布であった。
【0038】
[実施例4]
実施例1において、異形のV型ノズルから溶融押出した長繊維を紡口の近傍にて側方から冷却し、牽引引取装置を出た糸条はらせん状捲縮を付与して得られた捲縮数約10〜15個/25mm、らせん径約0.8mmの顕在捲縮糸のウェブを用いた以外、実施例1と同様にして係止用不織布を得た。この不織布は、非熱圧着域の繊維が、捲縮を有するループであり、一層係止し易く、また嵩のある柔軟性の優れた不織布であった。裏材としての補強用不織布の無いものが、係止後の剥離で不織布が崩れ、破壊し易いものであるのに対し、実施例4では、これらの問題が無く、形態保持性が優れたものであった。
【0039】
[実施例5]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート繊維の不織布用短繊維(繊維長52mm)を用いたウェブ(構成繊維2.0デシテックス、20g/m)を表材とし、裏材をポリエチレンテレフタレート繊維スパンボンド(30g/m、1mmピッチ0.5mm角織目エンボス柄、圧着面積率14.5%)として重ね合わせ、圧着表面温度235℃とした以外は同様な方法で、目付50g/mの積層不織布を得た。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。得られた不織布は、幾分硬めであるが、短繊維特有の捲縮を持つ結合し易い係止材であり、短繊維不織布だけでは係止後の剥離で不織布が崩れ易いのに対し、実施例5においては、その問題も解消され、充分実用に耐えるものであった。
【0040】
[実施例6及び7]
実施例1において、加熱ロールの彫刻した柄を、図2(1)のY形、及び(2)の織目状の熱圧着部を蜜に配置した柄を彫刻した加熱ロールを用いた以外は同様にして目付50g/mの積層不織布を得た。この不織布は、それぞれ連続熱圧着部で固定したものに比べると柔軟であり、結合強力も充分あり、係止を繰り返しても長い毛羽立ち、変形も無く充分耐えるものであった。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。
【0041】
[実施例8及び9]
実施例8として、実施例1において実施例4の表面材である、捲縮した長繊維ウェブ(20g/m)を用い、裏材として、目付40g/mのものを用いて、重ね合わせ不織布とし、実施例6で用いた図2(1)のY形の彫刻柄の加熱ロールを用い、熱圧着表面温度135℃で接合した。
【0042】
実施例9として、実施例1において原料をナイロン6樹脂とし、表材をナイロン6長繊維ウェブ(構成繊維2.0デシテックス、20g/m)、裏材にナイロン6繊維スパンボンド(40g/m、1mmピッチ0.5mm角織目エンボス柄、圧着面積率14.5%)を用いて重ね合わせ、実施例6で用いた図2(1)のY形の彫刻柄の加熱ロールを用い、圧着表面温度200℃で接合し、それぞれ目付60g/mの積層不織布を得た。いずれの不織布も、柔軟性に優れ、係止し易いものであり、係止を繰り返しても毛羽立ちが少なく、形態の崩れもなかった。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。
【0043】
[実施例10及び11]
実施例1において捕集したウェブを、繊維相互の接合のための散在した点状の部分熱圧着部(0.45mm径、1.5mm間隔、千鳥配列、圧着面積率7%)が彫刻された加熱ロールに通し、圧着表面温度135℃で部分的に接合したポリプロピレンスパンボンド(構成繊維は2.8デシテックス)を表材に20g/mとして用い、裏材として30g/mを用い重ね合わせて、実施例1及び2で使用した加熱ロールに、それぞれ圧着表面温度135℃で通し、圧着して目付50g/mのそれぞれの係止材用積層不織布(実施例10、実施例11)を得た。両者の不織布ともに、表面層の繰返し係止での結合強力はやや低下するが、繰返し係止後の毛羽立ちは少ないものであった。
【0044】
[比較例1]
実施例10において、繊維相互の接合のための点状の部分熱圧着(0.45mm径、1.5mm間隔、千鳥配列、圧着面積率7%)のみを有する目付50g/mとし、積層しない構成での1層構造不織布を形成し、係止特性を実施例10と比較した。比較例1では、非熱圧着部は、繊維層の膨らみを持つが平面的で連続したものであった。この不織布をフック状係止部材と繰返し結合したところ、初期の強力は十分な結合強力を有していたが、繰返し着脱をおこなうと、一度の剥離操作で不織布表面の繊維はフックにより切れ、不織布表面上の長い繊維が毛羽立ち、また、切れた繊維がフックに詰まり、5回係止後は結合しても十分な結合強力は得られず、繰り返しの使用に耐えないものであった。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
実施例1において、積層せず、表材のみの目付20g/mの不織布を形成し、係止の比較をした。比較例2の不織布へのフック状係止部材の係止特性は、低目付で粗構造のため、実施例1と同様に係止し易いものであったが、剥離を繰り返すにしたがって不織布の形態が崩れ実用に耐えるものではなかった。これにより、繰返し係止後の形態安定性が、表材の粗構造と、裏材との積層による補強効果で得られることが分る。
【0046】
[比較例3]
実施例1で得られた積層不織布へのフック状係止部材の係止方向を、巾(横)方向では無く機械(縦)方向にして結合強力等の性能を評価した結果、係止状況、し易さは同じであったが、結合が弱く約3割程度の結合強力であった。すなわち、係止特性に、繊維配列の方向性が大きく影響していることが明らかである。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に使用する加熱ロールの係止材用彫刻柄の一例を示す平面図。
【図2】本発明に使用する加熱ロールの係止材用彫刻柄の一例を示す平面図。
【図3】本発明不織布を係止するフック部材の側面の顕微鏡写真を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性繊維ウェブまたは熱可塑性繊維不織布からなる表面層と、少なくとも一層以上の他の熱可塑性繊維不織布の層とからなる積層不織布において、該積層不織布を構成する繊維の繊度が1デシテックス以上、11デシテックス以下、目付が150g/m以下であり、かつ該表面層が、熱圧着部で実質的に囲まれて形成される非熱圧着域を有していることを特徴とする係止材用積層不織布。
【請求項2】
前記表面層のウェブまたは不織布が、該ウェブまたは不織布の係止方向を横切るように優位に配列された長繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の係止材用積層不織布。
【請求項3】
前記非熱圧着域の長さ(非固定長)が7mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の係止材用積層不織布。
【請求項4】
前記非熱圧着域の形状が、丸状形または角状形であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【請求項5】
前記非熱圧着域の1箇所の占有面積が2〜100mmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【請求項6】
前記熱圧着部の巾が、0.5mm以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【請求項7】
前記非熱圧着域を形成する熱圧着部とは別のパターンで形成された、非連続の部分熱圧着部を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の係止材用積層不織布。
【請求項8】
前記積層不織布を構成する繊維が捲縮を有する繊維を含有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の係止材用積層不織布。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−281545(P2006−281545A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103208(P2005−103208)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】