説明

係留索

本発明は、合成繊維を含み、長さが少なくとも800メートルであり、かつ水浮上体機構を定位置に固定するのに好適な係留索であって、少なくとも第1および第2構成単位を備え、少なくとも第1および第2構成単位の組成が異なる係留索に関する。本発明による索は、水浮上体機構を定位置に固定するのに用いるのに好適である。水浮上体機構は、水面に浮遊している機構であっても、水中の特定の水深で浮いている機構であってもよく、好適な例としては、浮体式生産貯蔵積出設備、円柱浮標、半潜水式またはそれ以外の炭化水素貯蔵および/または処理などが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、合成繊維を含む係留索であって、長さが少なくとも800メートルであり、かつ水浮上体機構(water floating system)を定位置に固定するのに好適な係留索に関する。
【0002】
合成繊維を含み、長さが少なくとも800メートルであるこのような係留索は、強度が高くかつ剛性が高いという利点を有するため、水浮上体機構を定位置に固定するなどの海洋における重作業用途に既に使用されている。ここで言及すべきさらなる重要な利点は、軽量化されていることと腐食しない性質とにある。
【0003】
合成繊維を含む長さが少なくとも800メートルの既存の係留索の問題点は、水浮上体機構の寸法およびトン数が増加し続けていることに伴うものである。したがって、今日の係留索は、設計、寸法、および機械的性質に関する要件が一段と厳しくなっている。固定されたアンカーポイント(anchoring point)と水浮上体機構との距離が増大するにつれて、大きな水浮上体機構を定位置に固定することが一層困難になる。風、水の波、水流等の外的要因は水浮上体機構の動揺に大きく影響する。一方、例えば原油や天然ガスの生産に用いられる機構の場合など、浮上体機構を定位置に正確に固定することが非常に重要な場合が多い。
【0004】
前記係留索を構成する合成繊維の製造に通常使用される材料は、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエチレン等であり、どの材料にもそれぞれ一長一短がある。
【0005】
石油掘削装置等を定位置に固定するのに使用される周知の係留索としては例えばポリエステル繊維を含む係留索があり、この種の係留索は強度および剛性があり、そしてクリープが小さい。ところが、ポリエステル繊維を含み長さが少なくとも800メートルである係留索は極端に重く、直径が250mmを超え、そして取り扱いが極めて困難である。それ以外の欠点は、ポリエステル繊維の剛性が比較的低いことから、水浮上体機構が風の流れや水の波などの外的要因に曝されたときに元の位置から大きく移動してしまうことにある。
【0006】
長さが少なくとも800メートルの係留索には鋼線製のものもあるが、この種の係留索には、極めて重いことに加えて水深が2000メートルを超える場所では使用できないという欠点もある。水深が2000メートルを超える場合は鋼線係留索の長さが長くなるため、自重で破断する危険性が非常に高くなる。さらに、この種の鋼線係留索には浮力を補うことが必要となる場合も多く、また、このように重い鋼線係留索が負荷によって破損した場合は、接触し得る機材を損傷する危険性が高くなる。
【0007】
剛性の高いポリエチレン繊維も同様に前記係留索の作製に用いられる。ポリエチレン繊維を含む係留索は、例えばポリエステル繊維を含む同じ直径の係留索よりも強度が高い。これに加えて、軽量で取り扱い性がより高いという利点もある。長さが少なくとも800メートルの係留索を水浮上体機構を定位置に固定するために使用することの欠点は、水浮上体機構が水流または波によって上下動すると、ポリエチレン繊維の剛性がより高いために、前記係留索を破損させる原因となり得る高い張力とともに高いピーク荷重も生じる場合があることにある。
【0008】
上述した欠点により、長さが少なくとも800メートルの周知の係留索は、固定されたアンカーポイントと水浮上体機構との距離が非常に大きいという条件が含まれると、水浮上体機構を永続的に係留するための適性がより低くなってしまう。
【0009】
本発明の目的は、水浮上体機構を定位置に固定するのに好適な、長さが少なくとも800メートルである係留索であって、合成繊維を含み、寸法および機械的性質のバランスが改善された係留索を提供することにある。
【0010】
驚くべきことに、この目的は、少なくとも第1および第2構成単位(module)を含み、少なくとも第1および第2構成単位の合成繊維の組成が異なる本発明による係留索によって達成される。
【0011】
驚くべきことに、本発明による係留索(以後、前記係留索を、便宜上、組合せ式(modular)係留索と称する)によって、水浮上体機構を元の位置により正確に保持することができることが見出された。さらなる利点は、この組合せ式係留索が組成の異なる(したがって機械的性質の異なる)構成単位を備えていることにより、波、風、または水流によって前記組合せ式係留索に生じる高いピーク荷重がより上首尾に減衰されることにある。係留索の構成単位を設計することによって、水浮上体機構の固定と高いピーク荷重の減衰との適切なバランスが必要とされる特定の用途に見合った係留索がより容易に得られるようになる。さらなる利点は、前記組合せ式係留索にかかる張力が、特殊な構成単位設計によって低減されることにある。前記組合せ式係留索のさらなる利点は、本発明の説明から明らかになるが、組合せ式係留索の強度および寸法のバランスを適切なものにするべく前記構成単位の組成を調整することにより達成される。
【0012】
索とは、ロープ(rope)、紐(cord)、トワイン(twine)、ケーブル(cable)、細紐(string)、ならびに繊維および短繊維を含む類似の構造体であると理解される。本明細書における係留索とは、固定されたアンカーポイントに水浮上体機構をアンカーで固定するために使用される索であると理解される。
【0013】
構成単位とは、係留索の特徴的な繊維組成を有する部分であって、前記部分すなわち構成単位の前記繊維組成が、隣接している部分すなわち構成単位に特徴的な繊維組成とは異なっているものであると理解される。
【0014】
好ましくは、前記構成単位の両端には連結具が備えられており、前記連結具は、構成単位の末端を他の構成単位の末端と繋いで前記組合せ式索を形成するために使用される。さらに、この連結具は、前記組合せ式係留索と水浮上体機構との連結にも、固定されたアンカーポイントとの連結にも使用してもよい。前記連結具は、例えば、異なる種類のシャックルやループ等であってもよい。例えば、構成単位の末端を前記連結具を用いて他の構成単位の末端と繋ぐことにより、この2つの構成単位が一続きになる。例えば、構成単位の末端を他の2つ以上の構成単位の末端と連結して構成単位を束にしてもよい。当業者は、具体的な用途に従い、寸法および機械的性質のバランスが改善された組合せ式係留索を製造するために好適な組合せを選択するであろう。
【0015】
水浮上体機構とは、係留索を介してアンカーポイントにアンカーで固定される機構であると理解される。前記水浮上体機構は、水面に浮遊している機構であっても、水中の特定の水深で浮いている機構であってもよく、その好適な例としては、浮体式生産貯蔵積出設備、円柱浮標、半潜水式またはそれ以外の炭化水素貯蔵および/または処理等が挙げられる。
【0016】
本発明による組合せ式係留索において、構成単位を構成する合成繊維は、合成繊維の製造に好適なあらゆる種類の材料、例えば、プロピレン、ポリエステル、ポリプロピレンまたはポリエステルのコポリマー、ナイロン、アラミド、ポリオレフィン等、およびこれらの組合せからの繊維であってもよい。
【0017】
構成単位を構成する合成繊維は、合成長繊維を撚り合わせることによって得られる。好ましくは、前記合成繊維は、少なくとも100本の合成長繊維、より好ましくは少なくとも200本の合成長繊維、よりさらに好ましくは少なくとも300本の合成長繊維からなる。合成長繊維の線密度すなわち繊度は広範囲に変化させてもよく、好ましくは、合成長繊維の繊度は、繊維当たりのdtexが0.2〜50、より好ましくは0.3〜20dtex、最も好ましくは0.4〜10dtexである。
【0018】
さらに、この合成繊維は、好ましくは撚り合わされてヤーンが形成されており、前記ヤーンは、好ましくは、少なくとも10本の合成繊維、より好ましくは少なくとも20本の合成繊維、よりさらに好ましくは少なくとも50本の合成繊維からなる。このヤーンは、さらに好ましくは、撚り合わされてストランドが形成されており、各ストランドは、好ましくは少なくとも10本のヤーン、より好ましくは少なくとも20本のヤーン、最も好ましくは少なくとも50本のヤーンからなる。構成単位は、前記ストランドの撚合(laying)、編組(braiding)、もしくは編組(plaiting)、またはこれらの組合せによって得てもよい。当業者は、その知識に基づくかまたはある程度の計算もしくは実験を利用して、構成単位の所望の最終構造および寸法に関連する種類の構造を選択することができる。好適な例としては、中空編み(hollow braided)または撚り構成単位、中実編み(solid braided)または中実撚り(solid laid)構成単位、撚り編み(twisted braided)構成単位、平編み(plain braided)または平撚り(plain laid)構成単位等が挙げられる。構成単位の構造は、上述の構成単位の形態のみに限定されるものではなく、他の任意の形態の構成単位も本発明に従い上首尾に使用され得ることを理解すべきである。
【0019】
前記構成単位を構成する繊維および/または前記構成単位は、摩耗および内部摩擦の低減、摩損および浸食(fretting)の防止、構成単位の寿命の延長、望ましくない物質の構成単位内部への侵入の防止などを目的として、その上に施される潤滑被覆でさらに被覆されていてもよい。構成単位は、研磨性粒子の侵入を防ぐ障壁として使用されると同時に周囲環境すなわち空気や水を構成単位内部を循環させるために使用される微粒子フィルタをさらに含んでいてもよい。
【0020】
以下に本発明による係留索の好ましい実施形態を例示し、前記構成単位を使用することにより得られる利点を実証する。好ましい実施形態は以下に示すもののみに限定されず、当業者であれば、以下の詳細な説明を添付の特許請求の範囲と合わせて読むことによって明らかになるであろう本発明によるさらなる実施形態および利点を容易に見出すであろうことを理解すべきである。
【0021】
好ましい実施形態においては、本発明による組合せ式係留索は、水浮上体機構を定位置に固定するのに用いるのに好適であり、この構成単位は、長さが少なくとも100メートル、より好ましくは少なくとも200メートル、よりさらに好ましくは少なくとも300メートル、よりさらに好ましくは少なくとも500メートル、最も好ましくは少なくとも700メートルである。
【0022】
好ましくは、本発明による組合せ式係留索の構成単位はいずれも合成繊維を含み、より好ましくは、構成単位はいずれも合成繊維からなる。
【0023】
さらなる好ましい実施形態においては、本発明による組合せ式係留索は、少なくとも第1および第2構成単位を備え、前記第1構成単位は、ポリエステル繊維を含む。
【0024】
さらなる好ましい実施形態においては、本発明による組合せ式係留索は、少なくとも第1および第2構成単位を備え、前記第2構成単位は、第2繊維として高機能ポリオレフィン繊維を含む。
【0025】
さらなる他の好ましい実施形態においては、本発明による係留索は、少なくとも第1および第2構成単位を備え、前記第1構成単位は、第1繊維を少なくとも51重量%含み、前記第2構成単位は、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも51重量%含む。
【0026】
第1構成単位中の第1繊維は、繊維の製造に好適なあらゆる種類の材料、例えば、プロピレン、ポリエステル、ポリプロピレンまたはポリエステルのコポリマー、ナイロン等、およびこれらの組合せからの繊維であってもよい。好ましくは、第1構成単位は、第1繊維を少なくとも60重量%、より好ましくは第1繊維を少なくとも75重量%、最も好ましくは第1繊維を少なくとも95重量%含む。第1構成単位は、第1繊維以外に、高機能ポリオレフィン繊維も含んでいてもよい。
【0027】
本発明による第2構成単位中の第2繊維は、高機能ポリオレフィン繊維である。好ましくは、第2構成単位は、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも60重量%、より好ましくは、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも75重量%、最も好ましくは、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも95重量%含む。第2構成単位は、高機能ポリオレフィン以外に、他の種類の繊維も含んでいてもよい。
【0028】
好ましくは、高機能ポリオレフィン繊維を含む第2構成単位の自由端は、海底上のアンカーポイントを提供することとなるアンカーと連結されている。したがって、第1繊維を含む構成単位の自由端には、好ましくは、組合せ式係留索を水浮上体機構に固定するのに好適な連結具が備えられている。本発明による組合せ式係留索の自由端と、水浮上体機構および海底のアンカーポイントを提供することとなるアンカーとの連結は、好ましくは、長さが好ましくは最長で100メートルの鋼製ワイヤロープまたは鋼製チェーンを用いて行う。取り付けられた後の鋼製ワイヤロープまたはチェーンは、摩擦や取り扱いミス等によって起こり得る偶発的な損傷を防ぐことを目的として、本発明による組合せ式係留索を水浮上体機構または海底のアンカーポイントと直接接触させないために利用される。
【0029】
よりさらに好ましい実施形態においては、本発明による組合せ式係留索は、少なくとも第1および第2構成単位を備え、前記第1構成単位は、ポリエステル繊維を少なくとも51重量%含み、かつ前記第2構成単位は、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも51重量%含む。
【0030】
前記高機能ポリオレフィン繊維の製造に使用してもよい好適なポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレンホモポリマー、ポリプロピレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレンコポリマー等およびこれらの組合せが挙げられる。最も好ましい高機能ポリオレフィン繊維は、好ましくは超高分子量のポリエチレン(UHMWPE)繊維である。
【0031】
本発明による組合せ式係留索のこの実施形態は、ポリエステル繊維に特有の耐久性および低クリープ性と、UHMWPEポリエチレン繊維に特有の軽量性および高強度とを兼ね備えており、前記組合せ式係留索の総重量および体積が大幅に低減されているとともに取り扱い性が向上している。本発明による組合せ式係留索は、既存のポリエステル係留索に比べて重量および体積が大幅に低減されることが見出された。さらなる利点は、前記組合せ式係留索の水中における破断長が大幅に増加していることにある。前記組合せ式係留索は、軽量であることから取り扱い性が向上しており、したがって、前記組合せ式係留索の敷設および保守に関わる作業者の安全性が向上するとともに、前記組合せ式係留索が接触し得る機材が損傷を受ける危険性が低減される。本発明による前記組合せ式係留索は、張り、捻れ、および曲げ疲労が明らかに向上していることも見出された。
【0032】
UHMWPE繊維よりも剛性が低いポリエステル繊維を含む構成単位が存在することによる利点は、石油掘削装置等に特徴的な上下揺れの影響がより効果的に弱められる(detuned)ことにある。したがって、ポリエステル繊維を含む構成単位が存在することにより、組合せ式索に生じるピーク荷重の低減を助ける良好な減衰性が組合せ式係留索に付与される。
【0033】
さらに、前記組合せ式係留索は、剛性、破断伸び、およびエネルギー吸収がより良好に両立されている。さらなる利点は、UHMWPE繊維を含む構成単位が存在することによって、長い使用期間を経た後であっても水浮上体機構を元の位置により正確に保持することがより容易になることにある。
【0034】
したがって、本発明に従い前記組合せ式係留索を使用することによって、より良好な固定、水浮上体機構の動揺のより良好な制御、および組合せ式係留索の全張力の最小化が達成される。前記組合せ式係留索は、荒天になりやすい場所または水流が極めて強い場所で水浮上体機構を定位置に固定するために用いるのに特に好適である。このような場所は、例えば、ハリケーン、強風、および強い水流が絶えず発生するために石油掘削装置等を十分に固定することが非常に重要となるメキシコ湾に見られ得る。
【0035】
前記ポリエステル繊維の製造に用いてもよい好ましいポリエステルは、直鎖状テレフタル酸エステルであるポリエステル、すなわち、2〜20個の炭素原子を含むグリコールと、テレフタル酸を好ましくは少なくとも75パーセント、より好ましくは90パーセント含む残りのジカルボン酸成分とのポリエステルである。残りのジカルボキシリック(dicarboxylic)は、セバシン酸、アジピン酸、イソフタル酸、スルホニル−4,4’ジ安息香酸、2,8−ジベンゾフランジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の任意の好適なジカルボン酸であってもよい。グリコールは、鎖上に2個を超える炭素原子を含んでいてもよく、例えば、ジエチレングリコールブチレンズ(butylenes)グリコール、デカメチレングリコール、およびビス−(1,4−ヒドロキシメチル)シクロヘキサンである。最も好ましい直鎖状テレフタル酸エステルであるポリエステルは、ポリ(エチレンテレフタレート)である。
【0036】
ポリエステル繊維の引張強度は、好ましくは少なくとも0.6GPa、より好ましくは少なくとも0.7GPa、最も好ましくは少なくとも0.8GPaである。前記ポリエステル繊維の破断伸びは、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも16%である。前記ポリエステル繊維の繊度は、好ましくは最大で50dtex、より好ましくは最大で110dtex、最も好ましくは最大220dtexである。
【0037】
UHMWPE繊維は、好ましくは、ゲル紡糸法に従い製造される。UHMWPEのゲル紡糸は当業者に周知であり、EP0205960A、EP0213208A1、米国特許第4,413,110号明細書、GB2042414A、EP0200547B1、EP0472114B1、WO01/73173A1、および最新の紡糸技術(アドバンスト・ファイバー・スピニング・テクノロジー;Advanced Fiber Spinning Technology)、T・ナカジマ(T.Nakajima)編、ウッドヘッド出版(Woodhead Publ.Ltd)(1994年)、ISBN1−855−73182−7、ならびにその中に引用されている参考文献等、多くの刊行物に記載されている。ゲル紡糸とは、超高分子量ポリエチレンの溶液を紡糸溶媒中で少なくとも1本の繊維に紡糸するステップと、得られた繊維を冷却することによってゲル繊維を得るステップと、このゲル繊維から紡糸溶媒の少なくとも一部を除去するステップと、紡糸溶媒を除去する前、途中、または後に少なくとも1つの延伸ステップにおいて繊維を延伸するステップとを少なくとも含むものと理解される。好適な紡糸溶媒としては、例えば、パラフィン、鉱物油、灯油、またはデカリンが挙げられる。紡糸溶媒は、蒸発、抽出によるかまたは蒸発および抽出経路を併用することによって除去してもよい。繊維の断面形状は、紡糸孔の形状を選択することによって選択してもよい。
【0038】
本発明の文脈において、超高モル質量ポリエチレン(UHMWPE)とは、固有粘度(IV)が少なくとも5dl/gであるポリエチレンであると理解される。IVは、PTC−179法(ハーキュリーズ・インコーポレーテッド・レビュー(Hercules Inc.Rev.)、1982年4月29日)に従い、135℃の温度で、UHMWPEの溶媒としてデカリンを使用し、溶解時間を16時間とし、酸化防止剤であるDBPCの量を溶液中2g/lとし、異なる濃度における粘度を濃度ゼロに外挿することによって決定したものである。特に好適なUHMWPEは、IVが好ましくは8〜40dl/g、より好ましくは10〜30dl/g、よりさらに好ましくは12〜28dl/g、最も好ましくは15〜25dl/gのものである。
【0039】
好ましくは、UHMWPEは、炭素原子100個当たりの分岐鎖または側鎖が1個未満、好ましくは炭素原子300個当たりの側鎖が1個未満の直鎖状ポリエチレンであり、分岐鎖は通常、少なくとも10個の炭素原子を含む。直鎖状ポリエチレンは、さらに1種またはそれ以上のコモノマー(プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテン等のアルケン等)を5モル%まで含んでいてもよい。
【0040】
好ましい実施形態においては、UHMWPEは、少量の比較的小さな基、好ましくはC1〜C4アルキル基を側鎖として含む。この種の基を特定量含むUHMWPEからの繊維はクリープ挙動が低減されていることがわかった。側鎖が長すぎるかあるいは側鎖の量が多すぎると、これらが存在することでUHMWPE繊維の加工および特に延伸挙動に悪影響が及ぼされることとなる。こうした理由から、UHMWPEは、好ましくは、側鎖としてメチルまたはエチル基またはこれらの組合せ含み、より好ましくは、UHMWPEは、側鎖としてメチル基のみを含む。側鎖の量は、好ましくは、炭素原子1000個当たり少なくとも0.3個、より好ましくは、炭素原子1000個当たり少なくとも0.5個、最も好ましくは、炭素原子1000個当たり少なくとも1個である。側鎖の量は、好ましくは、炭素原子1000個当たり最大で20個、より好ましくは、炭素原子1000個当たり最大10個である。
【0041】
UHMWPEは、単一のポリマーグレードであってもよいが、少なくとも2種の異なるUHMWPEグレードの混合物であってもよい。UHMWPEグレードとは、特定のIVまたはモル質量分布(molar mass distribution)および特定の数の側鎖を有し、前記側鎖が特定の配置を有するUHMWPEであると理解される。
【0042】
UHMWPEポリマーは、通常量(一般には5重量%未満)の慣用の添加剤(酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、核剤、流動助剤、残留触媒等)をさらに含んでいてもよく、他のポリマー、好ましくは、他のポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらのコポリマー(EPDM、EPR等のゴム状共重合体を含む)等のポリオレフィン系ポリマーも含んでいてもよい。
【0043】
UHMWPE繊維の長繊維の線密度すなわち繊度は広範囲に変化させてもよい。好ましくは、UHMWPE長繊維の繊度は、繊維当たりのdtexが0.2〜20、より好ましくは0.3〜10dtex、最も好ましくは0.4〜5dtexである。
【0044】
好ましくは、UHMWPE繊維の引張強度は、少なくとも1.5GPa、より好ましくは少なくとも2.0GPa、最も好ましくは少なくとも3.0GPaである。引張強度は、ASTM D885Mに規定されているように、ファイバー・グリップ(Fibre Grip)D5618C型のインストロン(Instron)2714チャックを用いて、繊維の公称チャック間距離を500mm、クロスヘッド速度を50%/minとし、多繊糸(multi−fiber yarn)について測定する。
【0045】
好ましくは、UHMWPE繊維の剛性は、少なくとも35GPa、より好ましくは少なくとも50GPa、よりさらに好ましくは少なくとも70GPa、よりさらに好ましくは少なくとも100GPa、最も好ましくは少なくとも140GPaである。好ましい実施形態においては、UHMWPE繊維の剛性は、110GPa〜135GPaである。
【0046】
ポリエステル繊維を含む第1構成単位の長さは、好ましくは最長2000メートル、より好ましくは最長1500メートル、よりさらに好ましくは最長1000メートル、よりさらに好ましくは最長500メートル、よりさらに好ましくは最長350メートル、最も好ましくは200メートルである。ポリエステル繊維を含む構成単位の長さとUHMWPE繊維を含む構成単位の長さとの比率は、好ましくは最大90%、より好ましくは最大60%、最も好ましくは最大30%である。
【0047】
前記比率に調整することの利点は、組合せ式係留索を使用する場所に応じて、UHMWPE繊維を含む構成単位が、水温が好ましくは15度未満の水深に配置されることにある。こうすることにより、UHMWPE繊維を含む構成単位が確実に、UHMWPE繊維の機械的性質の維持に有効な水温の水深で使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を含み、長さが少なくとも800メートルであり、かつ水浮上体機構を定位置に固定するのに好適な係留索であって、少なくとも第1および第2構成単位を備え、少なくとも前記第1および前記第2構成単位は合成繊維の組成が異なることを特徴とする、係留索。
【請求項2】
前記構成単位の長さが少なくとも100メートルであることを特徴とする、請求項1に記載の係留索。
【請求項3】
前記第1構成単位が、ポリエステル繊維を含むことを特徴とする、請求項1および2のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項4】
前記第2構成単位が、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を含むことを特徴とする、請求項1および2のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項5】
前記第1構成単位が、第1繊維を少なくとも51重量%含み、かつ前記第2構成単位が、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも51重量%含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項6】
前記第1構成単位が、第1繊維を少なくとも60重量%含むことを特徴とする、請求項5に記載の係留索。
【請求項7】
前記第1構成単位が、第1繊維を少なくとも95重量%含むことを特徴とする、請求項5に記載の係留索。
【請求項8】
前記第2構成単位が、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも60重量%含むことを特徴とする、請求項5に記載の係留索。
【請求項9】
前記第2構成単位が、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも95重量%含むことを特徴とする、請求項5に記載の係留索。
【請求項10】
前記第1構成単位が、ポリエステル繊維を少なくとも51重量%含み、かつ前記第2構成単位が、第2繊維としての高機能ポリオレフィン繊維を少なくとも51重量%含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項11】
前記高機能ポリオレフィン繊維が、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維であることを特徴とする、請求項10に記載の係留索。
【請求項12】
前記ポリエステル繊維が、引張強度が少なくとも0.6GPaであり、かつ破断伸びが少なくとも3%であることを特徴とする、請求項3および10に記載の係留索。
【請求項13】
前記UHMWPE繊維が、引張強度が少なくとも1.5GPaであり、かつ剛性が少なくとも35GPaであることを特徴とする、請求項11〜12のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項14】
ポリエステル繊維を含む前記第1構成単位の長さが最長2000メートルであることを特徴とする、請求項4および11〜13のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項15】
ポリエステル繊維を含む前記構成単位の長さとUHMWPE繊維を含む前記構成単位の長さとの比率が最大90%であることを特徴とする、請求項11〜14のいずれか一項に記載の係留索。
【請求項16】
高機能ポリオレフィン繊維を含む前記構成単位の自由端が、海底上のアンカーポイントを提供することとなるアンカーと連結されていることを特徴とする、請求項4〜16のいずれか一項に記載の係留索。

【公表番号】特表2009−527408(P2009−527408A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555683(P2008−555683)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001426
【国際公開番号】WO2007/096121
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】