説明

保安用通信装置

【課題】特殊な出力回路を必要とせず、演算装置と同一ボード上でフェールセーフな信号出力を行う保安用通信装置を実現する。
【解決手段】正常時には交番信号を出力し、異常時には交番信号の出力を停止する異常検知手段と、演算器と、この演算器からの出力を入力として信号出力を生成する出力素子と、この出力素子に電源を供給する電源回路とを有する通信装置において、電源回路を、異常検知手段が出力する交番信号を変換して出力素子の電源を出力するものとすることにより演算装置と同一のボード上にフェールセーフな信号出力を実現する電源回路を組み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用の保安用通信システムに関わり、特に鉄道用の保安系送受信がネットワークを介して接続されるようにした信号保安システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子連動装置などのようにシステムの電子化が進められている鉄道用の保安系システムにおいて、フェールセーフな演算装置からの通信で制御される装置が増えており、通信をフェールセーフに停止する機構が演算装置の高安全化に繋がる。
従来のシステムにおいては、保安系の通信出力は出力用の通信ボードを経由して出力されており、演算装置が正常時には信号電圧が高電位(H)と低電位(L)の2値を交互に繰り返す発振状態となり、異常を検出した場合には発振が停止する交番信号を入力として、発振継続時には直流電圧を生成するフェールセーフな増幅器(FS-AMP)の出力電圧が、演算装置が異常となり交番信号が停止すると、出力が低下し、通信ボードの電源をONとするリレーの動作電圧に達せず、電源リレーがOFFとなることで、通信ボードの電源を止めて通信を停止する。
また、他の例として特許文献1においても、フェールセーフなセンサからの信号を取り込む際に、センサ異常が発生した場合、センサ入力が他装置に出力されないようにするため、後段素子の動作閾値に達さなくなるようなフェールセーフな回路を独立して設ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−31998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来システムにおいては、異常時に電源をOFFにするための電源リレーを持つ通信ボードを必要としており、こうした電源リレーには、電磁ソレノイド等を組み込む必要があるため高い電圧電源を要し、絶縁を必要とするため大きくなり、演算装置と異なるボードを必要とする。上記の特許文献1においても、センサ入力をフェールセーフに処理するために、出力回路として特殊な回路を独立して組み込む必要がある。
【0005】
本発明は、こうした電源リレーや特殊な出力回路を使用することなく、演算装置と同一のボード上に出力回路のための電源回路を組み込み、フェールセーフな信号出力を実現する保安用通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を実現するため、本発明の保安用通信装置においては、次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(1)正常時には交番信号を出力し、異常時には交番信号の出力を停止する異常検知手段と、演算器と、該演算器からの出力を入力として信号出力を生成する出力素子と、該出力素子に電源を供給する電源回路、とを有する通信装置において、前記電源回路を、前記異常検知手段が出力する交番信号を変換して前記出力素子の電源を出力するものとすることにより、異常時には、前記出力素子への電源供給が停止されるようにした。
【0007】
(2)上記の保安用通信装置において、前記電源回路が基準電位を共通とする負電圧整流回路、発振回路、正電圧整流回路を直列に接続したものであり、前記負電圧整流回路に入力される前記交番信号に基づいて、前記正電圧整流回路が前記出力素子への電源供給を行うようにした。
【0008】
(3)上記の保安用通信装置において、前記負電圧整流回路の入力側に、正電圧の直流電源に接続した電力増幅用トランジスタを設けた。
【0009】
(4)上記の保安用通信装置において、前記正電圧整流回路の入力側に電力増幅用トランジスタを設け、前記正電圧整流回路の基準電位を前記出力素子の動作電圧より低い電位に接続した。
【0010】
(5)上記の保安用通信装置において、前記電源回路自体が故障したときにも、前記正電圧整流回路が前記出力素子への電源供給が停止するようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保安用通信装置における演算器から出力素子、出力素子から装置外までの伝送路に対して変更を加えることなく、異常検知手段が出力する交番信号を変換して出力素子の電源とするフェールセーフな電源回路を同一ボードに追加することで、フェールセーフな通信出力を実現とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1の構成を示す図である。
【図2】実施例1における電源回路のブロック図である。
【図3】実施例1における電源回路の具体例である。
【図4】実施例1における電源回路の各部電圧の動作を示す図である。
【図5】実施例1の変形例を示す図である。
【図6】実施例2における電源回路の具体例である。
【図7】実施例3における電源回路の具体例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
通信装置における演算器から出力素子、出力素子から装置外までの伝送路に対して変更を加えず、異常検知手段が出力する交番信号を変換して出力素子の電源とする電子回路を追加することで、フェールセーフな通信出力を実現する保安用通信装置に関して、以下各実施例について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
[実施例1]
図1は本発明の実施例1における保安用通信装置の構成を示す図である。
本発明の保安用通信装置は、信号出力22を算出する演算器12と、演算器12からの信号出力22を入力とし信号出力22’を生成する出力素子13を有し、演算器12が正常時には発振状態となる交番信号21を出力し、異常時には交番信号21の発振を停止する異常検知手段11と、異常検知手段11が出力する交番信号21を変換して電源23を出力する電源回路14を有し、電源23を出力素子13の電源とする。
ここで、異常検知手段11は、例えば、演算器がCPUを2つ持つ2重系構成を採用している場合に、それぞれのCPUの演算結果が一致した場合に正常とし、不一致であった場合に演算器が異常であると判定する。
また、異常検知手段11が異常と判定する内容は、上記のような演算器の異常のみでなく、通信装置全体に関わる異常、例えば、通信装置の温度が動作保証温度を外れたなどを含むようにしてもよい。
【0015】
図2は本実施例における電源回路のブロック構成を示す図である。
電源回路14は、基準電位を共通とする負電圧整流回路14a、発振回路14b、正電圧整流回路14cを直列に接続している。負電圧整流回路14aは、交番信号21を入力すると負の直流電圧を出力する。発振回路14bは、負電圧整流回路14aが出力する負の直流電圧を入力として、負電圧側に発振する交番信号を出力する。
そして、この負の交番信号を入力として正電圧整流回路14cは正の直流電圧を出力し、これを出力装置13への電源とする。
【0016】
ここで、異常検知手段11が、演算器の異常を検知し、交番信号21が停止すると、負電圧整流回路14aの出力側に電流が流れないため、負の直流電圧出力を停止する。
負電圧整流回路14aが負の直流電圧出力を停止すると、発振回路14bも、負電圧側に発振する交番信号の出力を停止し、正電圧整流回路14cも正の直流電圧出力を停止することになる。
この結果、出力素子13には電源23が供給されず、信号出力22’を出力できないため、異常検知手段11が異常を検知して交番信号21の発振を停止すると、確実に信号出力22’を停止させることが可能となる。
このように、交番信号の発振が停止すると電力を出力しないようにすることにより、異常時に出力素子からの出力を防止する。
【0017】
図3は本発明にかかる電源回路の具体例を示している。
負電圧整流回路14a、正電圧整流回路14cは、それぞれ、コンデンサC1、C2とダイオードD1、D2、コンデンサC4、C5とダイオードD4、D5で構成されている。
そして、発振回路14bは、コンデンサC3、トランジスタT1、T2、抵抗R1で構成されている。
いずれの回路も交番信号21以外に入力がなく、外部からの電源供給を受けていない。従って、交番信号21の交番が停止すると、電源回路14にエネルギーを供給するものは存在しないため、確実に電源23の供給を停止できる。
【0018】
また、負電圧整流回路14aにおいて、コンデンサC1が絶縁破壊などにより短絡故障すると、コンデンサC1に電圧がチャージされず、このため、コンデンサC2にも電圧がチャージされず、発振回路14bへの出力側の電位差が消失するため、発振回路14bが交番を発生できず、電源23が供給されない。
ダイオードD1が短絡故障を発生すると、入力側に電位差がなくなり、コンデンサC1にチャージされた電荷が入力側に抜けて、発振回路14bへの出力側の電位差が消失するため、発振回路14bが交番を発生できず、電源23が供給されない。
ダイオードD2が短絡故障すると、コンデンサC2に正の電圧がチャージされ、整流回路の出力が正電圧となり、正電圧では発振回路14bが交番を発生できず、電源23が供給されない。
さらに、コンデンサC2が短絡故障すると、コンデンサC2に電圧がチャージされず、発振回路14bへの出力側の電位差が消失するため、発振回路14bが交番を発生できず、電源23が供給されない。
【0019】
また、発振回路14bにおいて、抵抗R1が断線故障すると、コンデンサC3に電圧がチャージされず、トランジスタT1がONとならず、トランジスタT2もONとならないため、発振回路14bが交番を発生できない。
コンデンサC3が短絡故障すると、コンデンサC3に電圧がチャージされず、トランジスタT1がONとならず、このため、トランジスタT2もONとならないため、発振回路14bが交番を発生できない。
トランジスタT1がON故障またはOFF故障すると、トランジスタT2が常時ONまたは常時OFFとなるため、発振回路14bが交番を発生できない。
トランジスタT2がON故障またはOFF故障すると、トランジスタT2が常時ONまたは常時OFFとなるため、発振回路14bが交番を発生できない。
このように、発振回路14bが交番を発生しないと、正電圧整流回路14cが正の直流電圧を生成できず、電源23が供給されない。
【0020】
さらに、正電圧整流回路14cにおいて、コンデンサC4が絶縁破壊などにより短絡故障すると、コンデンサC4に電圧がチャージされず、このため、コンデンサC5にも電圧がチャージされず、電源23が供給されない。
ダイオードD4が短絡故障を発生すると、コンデンサC4にチャージされた電荷が抜けて、出力側の電位差が消失するため、電源23が供給されない。
ダイオードD5が短絡故障すると、コンデンサC5に負の電圧がチャージされ、電源23に正電圧が供給されない。
また、コンデンサC5が短絡故障すると、コンデンサC5に電圧がチャージされず、出力側の電位差が消失するため、電源23が供給されない。
このように電源回路14自体が故障しても、電源23の供給を停止できる。
【0021】
各回路は基準電位を共通としているため、トランスなどの絶縁素子なしに構成することができ、回路を小型化できる。さらに、電源回路14は、負電圧整流回路14a、発振回路14b、正電圧整流回路14cは、コンデンサ、ダイオード、トランジスタ、抵抗等で構成されており、電源リレー等を必要としていないため、ワンチップ化することも可能である。
なお、この実施例では、出力素子13として、汎用品を使用できるよう、発振回路14bの前後に負電圧整流回路14a、正電圧整流回路14cを配置しているが、発振回路の構成は、図3に示したものだけでなく、他の方式でもよい。要は、異常検知手段11が、演算器の異常を検知し、交番信号21が停止するのに伴い、電源回路14が出力素子13への電源供給を確実に停止するようにすればよい。
【0022】
図4は図3の電源回路の具体例における各部電圧の動作を示した図である。
電源回路14への入力である交番信号21の電圧をVin、負電圧整流回路14aの出力電圧をV1、発振回路14bの出力電圧をV2、正電圧整流回路14cの出力電圧をVoutとする。
負電圧整流回路14aは、交番信号を入力として負の直流電圧を出力する整流回路であるため、Vinが発振状態を継続する間は、負電圧整流回路14aにより、V1は負の直流電圧を出力する。もし異常検知手段11が演算器の異常を検知しVinが発振状態を停止すると、コンデンサC1からC2への電圧のチャージがされず、ダイオードD1およびD2を介してV1は基準電位と繋がるため、停止したときの出力電圧が低電位側であろうと高電位側であろうと、V1は基準電位のままとなる。
【0023】
発振回路14bは、負の直流電圧を入力として負電圧側に発振する交番信号を出力する回路であるため、V1が負の直流電圧である間は、発振回路14bによりV2は負電圧側に発振する交番信号となり、一方、V1が基準電位である場合は、V2も発振を停止し、基準電位のままとなる。
正電圧整流回路14cは、交番信号を入力として正の直流電圧を出力する整流回路である。V2が負電圧側に発振する交番信号である間は、正電圧整流回路14cにより、V2が負電圧であるときにダイオードD4を通してコンデンサC4が充電され、V2が基準電圧となったときにコンデンサC4の電荷がダイオードD5を通して移動してコンデンサC5が充電され、Voutは正の直流電圧となり、V2が発振を停止すると、コンデンサC4からC5への電圧のチャージがされないため、Voutは基準電位のままとなる。
【0024】
このような動作により、異常検知手段11が、演算器の異常を検知し、交番信号21が停止して、Vinが発信状態を停止すると、負電圧整流回路14aの出力電圧V1が基準電位となり、発振回路14bの発振が停止して出力電圧V2も基準電位となり、最終的に、正電圧整流回路14cの出力Voutも基準電位となり、出力素子13への電源23の供給が停止されることなる。
なお、この実施例では、異常検知手段11を演算器12と個別に設けたが、図5に示されるように、演算器12の内部に組み込むようにしてもよい。
【0025】
[実施例2]
図6は本発明の実施例2における電源回路の構成を示す図である。
実施例1では、交番信号の電圧Vinに基づいて、出力素子13への電源を供給するようにしたが、Vinは異常検知手段11が出力する信号であるため、出力素子13を駆動するための電力が不足する可能性がある。
このような場合には、入力に正電圧の直流電源VCCに接続した電力増幅用トランジスタT0を追加した負電圧整流回路14a’としてもよい。トランジスタT0は、異常検知手段11が出力するVinをスイッチングのトリガとして、VCCをON/OFFして電力を増幅された交番信号を出力する。
このように構成すれば、電力が増幅された交番信号が負電圧整流回路14a’に入力され、出力素子13を駆動するための電力が確保できる。仮にT0が短絡し、VCCが負電圧整流回路14a’へ流れ込んだとしても、VCCが正の直流電圧であることから、負電圧整流回路14a’が負電圧を生成できず、後段の発振回路14bを駆動できないため、最終的な出力Voutを生成することができない。
その他の構成は実施例1と同様である。
【0026】
[実施例3]
図7は本発明の実施例3における電源回路の構成を示す図である。
本実施例では、正電圧整流回路14c’の入力側にトランジスタT3を設けて、そのベース側に、発振回路14bの出力電圧V2を供給し、エミッタ側を接地、コレクタ側をコンデンサC4に接続し、コレクタ−コンデンサC4間に接続された抵抗R2、及びダイオードD4、コンデンサC5を、出力素子13の動作電圧より低い基準電位Vccに接続する。
このような回路構成により、負電圧整流回路14a、発振回路14bを経由した負電圧側に発振する交番信号を正電圧整流回路14c’で整流することにより得られる正の直流電圧を基準電位に加えて出力素子13の動作電圧とし、負電圧整流回路14a、発振回路14bの出力電圧は基準電位と出力素子13の動作電圧の差で良いため小さくすることができ、電源回路14の同一ボードへの搭載を一層容易にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、正常時には交番信号を出力し、異常時には交番信号の出力を停止する異常検知手段からの出力を変換して、信号出力を生成する出力素子の電源とすることにより、電源リレーを使用することなく、演算装置と同一のボードにてフェールセーフな信号出力を実現できるので、低コストでしかも高い信頼性を確保した保安用通信装置として広く採用されることが期待される。
【符号の説明】
【0028】
10 通信装置
11 異常検知手段
12 演算器
13 出力素子
14 電源回路
21 交番信号
22 信号出力
22’信号出力
23 電源
14a 負電圧整流回路
14b 発振回路
14c 正電圧整流回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常時には交番信号を出力し、異常時には交番信号の出力を停止する異常検知手段と、演算器と、該演算器からの出力を入力として信号出力を生成する出力素子と、該出力素子に電源を供給する電源回路、とを有する通信装置において、
前記電源回路を、前記異常検知手段が出力する交番信号を変換して前記出力素子の電源を出力するものとすることにより、異常時には、前記出力素子への電源供給が停止されるようにしたことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電源回路が基準電位を共通とする負電圧整流回路、発振回路、正電圧整流回路を直列に接続したものであり、前記負電圧整流回路に入力される前記交番信号に基づいて、前記正電圧整流回路が前記出力素子への電源供給を行うようにしたことを特徴とする通信装置。
【請求項3】
請求項2において、前記負電圧整流回路の入力側に、正電圧の直流電源に接続した電力増幅用トランジスタを設けたことを特徴とする通信装置。
【請求項4】
請求項2において、前記正電圧整流回路の入力側に電力増幅用トランジスタを設け、前記正電圧整流回路の基準電位を前記出力素子の動作電圧より低い電位に接続したことを特徴とする通信装置。
【請求項5】
請求項2ないし4において、前記電源回路自体が故障したときにも、前記正電圧整流回路が前記出力素子への電源供給が停止するようにしたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115463(P2013−115463A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257235(P2011−257235)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】