説明

保持シール材の巻き付け方法、及び、排ガス浄化装置の製造方法

【課題】 保持シール材の破損が少ない排ガス浄化装置を低い製造コストで製造するための保持シール材の巻き付け方法を提供すること。
【解決手段】 多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体の外周部に、無機繊維を含むマット状の保持シール材を多層に巻き付ける保持シール材の巻き付け方法であって、
最内層から最外層の保持シール材に向かうにつれて、各層の保持シール材が上記排ガス処理体の一方の端面側に近づいていくように、かつ、内層保持シール材と上記内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材との間の変位量が、上記保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、各層の保持シール材を順次変位させて上記排ガス処理体に巻き付けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持シール材の巻き付け方法、及び、排ガス浄化装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、CO、HC又はNOx等の有害なガス成分が含まれており、この有害なガス成分が環境や人体に害を及ぼすことについても問題となっている。
【0003】
そこで、内燃機関と連結されることにより排ガス中のPMを捕集したり、排ガスに含まれるCO、HC又はNOx等の排ガス中の有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、コージェライトや炭化ケイ素などの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を内部に収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設され、無機繊維を含むマット状の保持シール材とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。
この排ガス浄化装置では、無機繊維の有する弾性によって保持シール材が排ガス処理体を保持している。また、排ガス処理体とケーシングとの隙間を保持シール材が埋めることにより、排ガス処理体とケーシングとの隙間からの排ガスの漏出を防止している。
【0004】
排ガス浄化装置を製造する従来の方法としては、排ガス処理体の外周部に保持シール材を巻き付けた後に、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する方法が知られている。以下、これについて図面を用いて詳しく説明する。
【0005】
図10(a)は、従来の保持シール材の巻き付け方法を模式的に示す斜視図であり、図10(b)は、図10(a)に示した保持シール材の巻き付け方法を用いた従来の排ガス浄化装置の製造方法を模式的に示す斜視図であり、図10(c)は、図10(b)に示した従来の排ガス浄化装置の製造方法により製造された排ガス浄化装置を模式的に示す斜視図である。
【0006】
まず、保持シール材として、平面視略矩形のマット状の保持シール材210を用意する。そして、図10(a)に示すように、保持シール材210の短辺を含む側面211a、211b(以下、単に短側面ともいう)同士が互いに当接するようにして、円柱状の排ガス処理体230の外周部に保持シール材210を巻き付ける。以下の説明では、保持シール材210が巻き付けられた排ガス処理体230を巻付体240ともいうこととする。
【0007】
次に、図10(b)に示すように、巻付体240の外径(排ガス処理体230の直径と保持シール材210の厚さとを合わせた長さ)より内径が若干短くなったケーシング250の内部に巻付体240を圧入することによって、図10(c)に示した排ガス浄化装置220を製造する。
このようにして製造される排ガス浄化装置220では、保持シール材210がケーシング250内で圧縮された状態となる。そのため、保持シール材210が無機繊維の有する弾性により元の形状に戻ろうとする復元力(即ち、排ガス処理体を保持する保持力)を発揮し、保持シール材210で排ガス処理体230が保持される。
【0008】
しかしながら、従来の方法で製造される排ガス浄化装置220では、排ガス浄化装置220の両端部に位置する長辺を含む側面212a、212b(以下、単に長側面ともいう)が変形し、排ガスを流入させた場合に保持シール材210の破損が発生するという問題がある。
これについて、図面を用いて以下に詳しく説明する。
図11は、図10(c)に示す従来の排ガス浄化装置のE−E線断面図である。
図11には、巻付体の圧入方向を矢印Yで示す。
【0009】
図11に示したように、排ガス浄化装置220の端部220a、220bのうち、排ガス処理体230を圧入した側の端部220aでは、保持シール材210のケーシング250と接触している主面213b(以下、単に第二主面ともいう)近傍が圧入方向と反対の方向に変形して、長側面212aが排ガス処理体230の端面230aより突出してしまう。また、それとは反対側の端部220bでは、長側面212bが排ガス処理体230の端面230bより陥入してしまう。
この理由については、巻付体240をケーシング250の内部に圧入する際に、保持シール材210の排ガス処理体230と接触している主面213a(以下、単に第一主面ともいう)と、第二主面213bとの間でせん断力が負荷され、第一主面213a及び第二主面213bの互いの位置がずれて保持シール材が変形するためであると考えられる。
このように、排ガス浄化装置220の端部220a、220bでは、保持シール材210の長側面212a、212bが、排ガス処理体230の端面230a、230bと略平行にならず、長側面212a、212bが傾いた状態となる。
ここでいう略平行とは、排ガス処理体の端面と保持シール材の長側面とが平行であるか、又は、長側面が端面から傾いていても実質的にその傾きを無視し得る程度に傾いていることをいう。
【0010】
そして、巻付体240の端面が傾いた状態では、排ガスを流入させた場合に長側面212a、212bと排ガスとが接触する面積が大きくなるので、排ガスの流動に伴って長側面212a、212bが風蝕されやすくなる。そして、長側面212a、212bに発生した風蝕が進展し、保持シール材210が破損することがある。
そのため、保持シール材210の破損が発生した場合には、排ガス処理体230を充分に保持することができなくなり、風蝕により発生した隙間から排ガスが漏れたり、場合によっては、排ガス処理体230が脱落したりするという問題がある。
【0011】
このような問題に対して、例えば、長側面が傾斜面となった保持シール材を用いた保持シール材の巻き付け方法及び排ガス浄化装置の製造方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−092553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の保持シール材の巻き付け方法では、まず、カッター等の切断治具で保持シール材の長側面を切断して第一主面側から第二主面側に向かって傾斜した傾斜面とする。次に、この保持シール材の長側面(傾斜面)がケーシングに巻付体を圧入する際の圧入方向に突出するようにして、保持シール材を排ガス処理体の外周部に単層に巻き付けて巻付体を作製する。
このようにして作製した巻付体をケーシングに圧入すると、第二主面近傍が圧入方向と反対の方向に変形していくにつれ傾斜面が徐々に排ガス処理体の端面と平行になっていくとされている。そして、巻付体が所定の位置に配設された状態においては、傾斜面がちょうど排ガス処理体の端面と平行になるとされている。
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の保持シール材の巻き付け方法では、カッター等の切断治具で保持シール材の長側面を斜めに切断することにより傾斜面が形成される。そのため、傾斜面では機械的に破断された無機繊維の切断面の面積が大きくなってしまい、他の部分に比べて耐風蝕性が低下することになる。
そのため、製造された排ガス浄化装置においては、排ガスの接触による長側面の風蝕を充分に防止することができるとはいえず、保持シール材が破損してしまうことがある。
【0015】
また、特許文献1に記載の保持シール材の巻き付け方法においては、排ガス処理体や、単層に巻き付けた保持シール材の大きさに応じて排ガス処理体の端面と保持シール材の長側面とが略平行になるように、都度、傾斜面の角度や、形状等を調整してから保持シール材を巻き付ける必要がある。また、傾斜面の角度、形状等を調整するために、長側面を切断するカッター等の切断治具が必要となる。
そのため、生産効率の低下や、ひいては製造コストの高騰を招くこととなる。
従って、保持シール材の破損が少ない排ガス浄化装置を低コストで製造するための保持シール材の巻き付け方法及び排ガス浄化装置の製造方法が求められていた。
【0016】
本発明は、保持シール材の破損が少ない排ガス浄化装置を低コストで効率良く製造するための保持シール材の巻き付け方法及び該保持シール材の巻き付け方法を用いた排ガス浄化装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、本発明を完成した。
即ち、上記課題を解決するための請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体の外周部に、無機繊維を含むマット状の保持シール材を多層に巻き付ける保持シール材の巻き付け方法であって、最内層から最外層の保持シール材に向かうにつれて、各層の保持シール材が上記排ガス処理体の一方の端面側に近づいていくように、かつ、内層保持シール材と上記内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材との間の変位量が、上記保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、各層の保持シール材を順次変位させて上記排ガス処理体に巻き付けることを特徴とする。
【0018】
請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造すると、製造された排ガス浄化装置では、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面とが略平行となり、上記保持シール材の長側面と排ガスとが接触する面積が小さくなるので、長側面が風蝕されにくい。
【0019】
また、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法では、上記保持シール材の長側面をカッター等の切断治具で傾斜面となるように切断する操作を行うことがない。そのため、製造された排ガス浄化装置では、保持シール材の長側面で無機繊維の切断面の面積が小さくなっており、これによっても長側面が風蝕されにくい。
このように、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造すると、長側面が風蝕されにくく、保持シール材の破損が少ない排ガス浄化装置を製造することができる。
【0020】
また、排ガス処理体や、保持シール材の大きさに応じて、都度、傾斜面の角度、形状等を切断して調整する必要がなく、カッター等の切断治具が不要である。
従って、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造すると、生産効率を高くすることができる。また、低コストで排ガス浄化装置を製造することができる。
【0021】
請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法の具体例としては、例えば、下記する請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法のように、排ガス処理体の外周の長さよりも充分に長い長尺の保持シール材を上記排ガス処理体にらせん状に巻き付ける方法や、下記する請求項8に記載の保持シール材の巻き付け方法のように、相互に分離した複数枚の小保持シール材を準備し、各々の小保持シール材を上記排ガス処理体に順次巻き付けていく方法等が挙げられる。
【0022】
請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記保持シール材を上記排ガス処理体にらせん状に巻き付ける。
【0023】
請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法について、図面を用いて以下に説明する。
ここでは、保持シール材として、平面視矩形のマット状の保持シール材を使用し、排ガス処理体として円柱状の排ガス処理体を使用し、保持シール材を排ガス処理体にらせん状に巻き付ける場合を例に、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法について説明する。なお、排ガス処理体の詳細については、後述する第一実施形態の説明で詳述することとする。
図1(a)は、巻き付け前の保持シール材と排ガス処理体とを模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、保持シール材を排ガス処理体の外周部に一周巻き付けた状態を模式的に示す斜視図である。
【0024】
まず、無機繊維を含む平面視矩形のマット状の保持シール材を準備する。
そして、図1(a)に示すように、保持シール材10の第一主面13aを内側(排ガス処理体30側)に、第二主面13bを外側(ケーシング側)にして、排ガス処理体30の外周部に保持シール材10の短側面11a側の端部を当接させる。
【0025】
次に、図1(b)に示すように、排ガス処理体30に当接させた短側面11a側の端部を固定し、保持シール材10の短側面11b側の端部を排ガス処理体30の外周部に沿って移動させていくことにより、保持シール材10を排ガス処理体30の外周部に一周巻き付ける。図1(b)では、保持シール材10を時計回りに巻き付けている。
【0026】
この際、図2に示すように、内層に位置する保持シール材10の長側面12a´(12b´)と外層に位置する保持シール材10の長側面12a´´(12b´´)との間の最短距離、即ち、変位量(以下、単にらせんピッチともいう)(図2中、両矢印A又はBで示す)が、保持シール材10の幅方向(図2中、両矢印Zで示す)の長さの0.15〜15%となるように、保持シール材10を排ガス処理体30の長手方向(図2中、排ガス処理体の長手方向を両矢印Xで示す)であって、排ガス処理体30の端面30a、30bのうちで、内層の保持シール材10の一部が露出している内層露出側端面30aの反対側の端面30bに向かって徐々に変位させることにより、らせん状に巻き付ける。
ここでいう保持シール材の幅方向とは、保持シール材の平面視の形状が略矩形(矩形又はこれと実質的に同視しうる形状、以下同じ)である場合には、保持シール材の短手方向のことをいい、保持シール材の平面視の形状が略正方形(正方形又はこれと実質的に同視しうる形状、以下同じ)である場合には、いずれかの辺に平行な方向のことをいい、保持シール材の平面視の形状が略平行四辺形(平行四辺形又はこれと実質的に同視しうる形状、以下同じ)である場合には、保持シール材の長辺(平面視の形状がひし形ならば、いずれかの辺)を底辺とした場合の高さ方向のことをいう。
また、後述する保持シール材の長さ方向とは、上記保持シール材の幅方向に垂直な方向のことをいう。
図2は、図1(b)に示す保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から観察した状態を模式的に示す一部透視平面図である。
【0027】
上述した巻き付け手順を繰り返すことにより、内層保持シール材と当該内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材とで、長側面12a(12a´(12b´)、12a´´(12b´´)・・・)間のらせんピッチが、保持シール材10の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、保持シール材10を排ガス処理体30の外周部にらせん状に巻き付けることができる。
なお、本明細書では、排ガス処理体の外周部に(あるいは既に巻き付けられた保持シール材の上から)巻き付けた保持シール材のうちで、一周巻き付けた分を一つの層ということとする。例えば、下記図3(a)では、保持シール材10を三回巻き付けており、保持シール材が三層に巻き付けられているということになる。
【0028】
このような請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造する場合について、図面を用いて以下に説明する。
図3(a)は、本発明に係る保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する圧入工程を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示す圧入工程を経て製造される排ガス浄化装置を模式的に示す斜視図である。
【0029】
請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造する場合には、図3(a)に示すように、排ガス処理体30の端面30a、30bのうち、内層露出側端面30aの反対側の端面30bから、保持シール材10が巻き付けられた排ガス処理体30をケーシング50の内部に圧入すればよい。これにより、図3(b)に示す排ガス浄化装置20を製造することができる。
【0030】
図3(b)に示す排ガス浄化装置20について、図面を用いて以下に説明する。
図4は、図3(b)に示した本発明に係る排ガス浄化装置のC−C線断面図である。
【0031】
図4に示したように、製造された排ガス浄化装置20において、保持シール材10及び排ガス処理体30がケーシング50の内部の所定の位置に配設された状態では、排ガス浄化装置20の圧入側端部20a及び圧入側端部20aの反対側の端部20bで、ともに保持シール材10の各層の長側面12a(12b)と排ガス処理体30の端面30a(30b)とが略平行になっている。
これは、次のような理由によると考えられる。
【0032】
保持シール材10が巻き付けられた排ガス処理体30をケーシング50の内部に圧入していくと、せん断力によりらせん状に巻き付けられた保持シール材10の各層がそれぞれ圧入方向と反対の方向に移動することになる。特に、最外層側に位置する保持シール材10ほど大きなせん断力が負荷され、大きく移動することになると考えられる。
【0033】
ここで、排ガス処理体30には、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%のらせんピッチで保持シール材10が巻き付けられている。これをケーシングに圧入すると、保持シール材10の各層が圧入方向と反対の方向に移動し、保持シール材10の各層の移動量とらせんピッチ(第n層(nは、2以上)にあっては、第n層までのらせんピッチの合計量)とが相殺されることで、製造された排ガス浄化装置20では、保持シール材10の各層の長側面12a(12b)と排ガス処理体30の端面30a(30b)とが略平行になると考えられる。
これに対して、上記らせんピッチが、保持シール材の幅方向の長さの15%を超える場合には、上記らせんピッチが大きすぎるので、圧入方向と反対の方向への上記保持シール材の各層の移動が不充分となり、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面とが略平行にならない。
一方、上記らせんピッチが、保持シール材の幅方向の長さの0.15%未満である場合には、圧入方向と反対の方向に上記保持シール材の各層が移動しすぎて、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面とが略平行にならない。
【0034】
上述したように、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造すると、製造された排ガス浄化装置では、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面とが略平行となり、上記保持シール材の長側面と排ガスとが接触する面積が小さくなるので、長側面が風蝕されにくい。
【0035】
また、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法と同様に、上記保持シール材の長側面をカッター等の切断治具で傾斜面となるように切断する操作を行うことがなく、長側面が風蝕されにくい。また、カッター等の切断治具が不要であるので、生産効率を高くすることができるし、低コストで排ガス浄化装置を製造することもできる。
さらには、長尺の保持シール材を排ガス処理体にらせん状に巻き付ける操作を一度行うだけで、保持シール材を排ガス処理体に多層に巻き付けることができるので、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体(巻付体)を作製する効率を向上させることができる。
【0036】
請求項3に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項1又は2に記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記保持シール材の平面視の形状は、鋭角αが70°≦α<90°の平行四辺形であり、上記保持シール材の一の側面が上記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行になるように上記保持シール材を上記排ガス処理体に巻き付ける。
また、請求項4に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項3に記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記鋭角αが85°≦α<90°である。
【0037】
請求項3に記載の保持シール材の巻き付け方法では、上記保持シール材の一の側面を上記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行にして巻き付けた場合に、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%に相当するらせんピッチで巻き付け可能な、鋭角αが70°≦α<90°の平面視平行四辺形となった保持シール材を用いる。
そのため、保持シール材の位置を上下左右に調整してから巻き付けなくとも、上記保持シール材の短側面を上記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行にして上記保持シール材を巻き付けるだけで、簡便、かつ、効率的に、所定のらせんピッチで上記排ガス処理体に上記保持シール材をらせん状に巻き付けることができる。
【0038】
また、上記鋭角αが、85°≦α<90°であると、鋭角αが70°≦α<90°の平面視平行四辺形となった保持シール材を用いる場合と同様、簡便、かつ、効率的に、所定のらせんピッチで排ガス処理体に保持シール材をらせん状に巻き付けることができるのに加えて、保持シール材を排ガス処理体に多層に巻き付ける際に、保持シール材がよれにくく、保持シール材と排ガス処理体との間に隙間が生じにくくなる。
そのため、上記保持シール材を用いて製造された排ガス浄化装置では、排ガス処理体とケーシングとの間が保持シール材で隙間なく充填され、排ガスの漏れが発生しない。
これに対して、上記鋭角αが85°未満であると、保持シール材のよれを防ぐために、保持シール材を排ガス処理体に慎重に巻き付ける必要があり、巻付体を作製する効率が悪化するおそれがある。
【0039】
請求項5に記載の保持シール材の巻き付け方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記排ガス処理体と上記保持シール材とを上記排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から投影した投影図で、上記排ガス処理体の一方の端面側に位置する上記保持シール材の側面がなす曲線と、上記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線との交点における上記曲線の接線を求めた際に、上記直線と上記接線とのなす鋭角βが70°≦β<90°となるように、上記保持シール材を上記排ガス処理体に巻き付ける。
【0040】
請求項5に記載の保持シール材の巻き付け方法について、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法で使用したのと同様(無機繊維を含む平面視矩形のマット状)の保持シール材を用いる場合を例に、図面を用いて説明する。
図5は、排ガス処理体と該排ガス処理体の外周部に一方の端部を当接させた保持シール材とを排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から投影した投影図である。
なお、図5では、排ガス処理体の長手方向を両矢印Xで示す。
【0041】
まず、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法と同様に、保持シール材の第一主面を内側に、第二主面を外側にして、排ガス処理体の外周部に保持シール材の短側面側の端部を当接させる。
この際、図5に示した投影図において、排ガス処理体330に保持シール材310を巻き付けた場合に、排ガス処理体330の一方の端面330a側に位置する保持シール材310の側面がなす曲線312aと、排ガス処理体330の長手方向に沿って引いた直線300との交点313aにおける曲線312aの接線314aを求めた際に、直線300と接線314aとのなす鋭角βが70°≦β<90°となるように、上記保持シール材の端部を当接させる。
その後、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける。
【0042】
なお、図5に示した例では、排ガス処理体330の中心部付近を通るようにして直線330を引いて交点313aを求め、得られた交点313aにおける曲線312aの接線314aから鋭角βを求めているが、直線330は必ずしも排ガス処理体330の中心部付近を通るようにして引かずともよく、曲線312a上の任意の位置で交点313aを求め、得られた交点313aにおける曲線312a上の接線314aから鋭角βを求めてもよい。いずれの交点313aにおいても、上記鋭角βは、70°≦β<90°となる。
【0043】
請求項5に記載の保持シール材の巻き付け方法を使用すると、上記変位量が、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けることができるので、請求項1に記載の作用効果を好適に享受できる。
なお、保持シール材の短側面側の端部を排ガス処理体の外周部に当接させてから、排ガス処理体に保持シール材を巻き付けるだけでなく、保持シール材の中央部付近を排ガス処理体の外周部に当接させてから、排ガス処理体の外周部に保持シール材を巻き付けてもよい。
【0044】
請求項6に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項1〜5のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法で用いる保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域が、ニードリング処理が施されたニードルマットから構成されている。
ニードルマットから構成された上記保持シール材は、上記保持シール材を構成する無機繊維同士が複雑に絡み合うことにより、風蝕されにくくなっている。
従って、請求項6に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造すると、保持シール材の破損がより少ない排ガス浄化装置とすることができる。
【0045】
また、請求項7に記載の保持シール材の巻き付け方法のように、請求項1〜5のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域が、無機繊維を含む混合物を抄造してなる抄造マットから構成されていてもよい。
【0046】
請求項8に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記保持シール材が相互に分離した複数枚の小保持シール材から構成されている。
【0047】
請求項8に記載の保持シール材の巻き付け方法のように、上記保持シール材が相互に分離した複数枚の小保持シール材から構成されていると、小保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際に、各々の小保持シール材の位置を独立して調整することができる。
そのため、相互に分離した複数枚の小保持シール材からなる保持シール材を用いた場合には、一枚ものの保持シール材を用いる場合に比べて、上記変位量が請求項1に記載の所定の値となるように保持シール材の位置を調整しやすくなる。
【0048】
請求項9に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項8に記載の保持シール材の巻き付け方法において、少なくとも最内層及び最外層の小保持シール材が、ニードリング処理が施されることにより形成された複数のニードル痕を有している。
また、請求項10に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項9に記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記複数のニードル痕が、上記小保持シール材の長さ方向に沿って形成されている。
【0049】
請求項9又は10に記載の保持シール材の巻き付け方法を使用した場合には、排ガス浄化装置を製造する労力を低減させたり、製造した排ガス浄化装置からの小保持シール材や排ガス処理体の脱落を防止することができる。その理由については、後述する第三実施形態で説明することとする。
【0050】
また、請求項11に記載の保持シール材の巻き付け方法のように、請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記保持シール材が、互いに結合された複数の小保持シール材から構成されていてもよい。
【0051】
請求項12に記載の保持シール材の巻き付け方法では、請求項1〜11のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法において、上記変位量が0.1〜10mmである。
【0052】
請求項12に記載の保持シール材の巻き付け方法のように、上記変位量が0.1〜10mmであると、保持シール材の巻き付け終了後には、巻付体における保持シール材の変位量が0.1〜10mmとなる。
このような巻付体を内層露出側端面の反対側の端面からケーシングに圧入すると、保持シール材の各層が圧入方向と反対の方向に移動し、保持シール材の各層の移動量と変位量(第n層(nは、2以上)にあっては、第n層までの変位量の合計量)とがよく一致するため、製造された排ガス浄化装置では、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面との間の位置ずれ量が極めて小さくなる。
これに対して、上記変位量が10mmを超える場合には、上記変位量がやや大きく、排ガス処理体の大きさによっては、圧入方向と反対の方向への上記保持シール材の各層の移動量が若干不足するため、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面との間の位置ずれ量がやや大きくなる場合がある。
一方、上記変位量が0.1mm未満である場合には、排ガス処理体の大きさによっては、圧入方向と反対の方向に上記保持シール材の各層が移動しすぎて、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面とが略平行にならないことがある。
【0053】
請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体の外周部に、無機繊維を含むマット状の保持シール材を多層に巻き付ける巻き付け工程と、
上記保持シール材が巻き付けられた上記排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する圧入工程とを含む排ガス浄化装置の製造方法であって、
上記巻き付け工程では、請求項1〜12のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法によって上記保持シール材を上記排ガス処理体に巻き付けるとともに、上記圧入工程では、上記排ガス処理体の端面のうちで、内層保持シール材の一部が露出している内層露出側端面の反対側の端面から、上記保持シール材が巻き付けられた上記排ガス処理体を上記ケーシングの内部に圧入することを特徴とする。
【0054】
請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法では、請求項1〜12のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法によって上記保持シール材を上記排ガス処理体に巻き付けるとともに、上記排ガス処理体の端面のうちで、内層保持シール材の一部が露出している内層露出側端面の反対側の端面から上記保持シール材が巻き付けられた上記排ガス処理体を上記ケーシングの内部に圧入する。
そのため、圧入工程では、上記保持シール材の各層が圧入方向と反対の方向に移動する。これにより、製造された排ガス浄化装置では、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面とが略平行となる。従って、上記保持シール材の長側面と排ガスとが接触する面積が小さくなり、長側面が風蝕されにくくなる。
また、保持シール材の長側面をカッター等の切断治具で切断する工程を行わないので、製造された排ガス浄化装置では、保持シール材の長側面で無機繊維の切断面の面積が小さくなっており、これによっても長側面が風蝕されにくくなる。
従って、請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法では、上記保持シール材の破損が少ない排ガス浄化装置を製造することができる。
【0055】
また、請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法では、排ガス処理体や、保持シール材の大きさに応じて、都度、傾斜面の角度、形状等を切断して調整する必要がなく、カッター等の切断治具を必要としない請求項1〜12に記載の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造する。
従って、請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法では、保持シール材の破損の少ない排ガス浄化装置を高い生産効率で製造することができる。また、低コストで排ガス浄化装置を製造することができる。
【0056】
請求項14に記載の排ガス浄化装置の製造方法では、請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法において、バインダを含み、上記バインダの含有量が15重量%以下である保持シール材を用いて排ガス浄化装置を製造する。
上記保持シール材には、バインダが含まれているので、上記保持シール材の嵩をバインダが含まれていない保持シール材に比べて低減させることができる。従って、上記保持シール材が巻き付けられた上記排ガス処理体を上記ケーシングの内部に容易に圧入することができる。
また、上記保持シール材を構成する無機繊維同士を強固に接着することができるので、製造工程における無機繊維の飛散を防止することができる。同様に、製造された排ガス浄化装置においても無機繊維の飛散を防止することができる。
さらに、上記バインダの含有量が15重量%以下となっているため、製造された排ガス浄化装置を使用した場合には、排出される排ガス中の有機成分の量を最小限に抑えることができる。そのため、環境への負荷を低減させることができる。
一方、上記バインダの量が15重量%を超えると、排ガス浄化装置として用いた場合に、排出される排ガス中の有機成分の量が増加することになるので、環境に負荷がかかる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1(a)は、巻き付け前の保持シール材と排ガス処理体とを模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、保持シール材を排ガス処理体の外周部に一周巻き付けた状態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1(b)に示す保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から観察した状態を模式的に示す一部透視平面図である。
【図3】図3(a)は、本発明に係る保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する圧入工程を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示す圧入工程を経て製造される排ガス浄化装置を模式的に示す斜視図である。
【図4】図3(b)に示した本発明に係る排ガス浄化装置のC−C線断面図である。
【図5】排ガス処理体と該排ガス処理体の外周部に一方の端部を当接させた保持シール材とを排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から投影した投影図である。
【図6】第一実施形態に係る保持シール材を模式的に示す斜視図である。
【図7】図7(a)は、第一実施形態の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体を模式的に示す斜視図であり、図7(b)は、図7(a)に示す排ガス処理体のD−D線断面図である。
【図8】第一実施形態の排ガス浄化装置を構成するケーシングを模式的に示す斜視図である。
【図9】図9(a)は、第一の小保持シール材を排ガス処理体の外周部に巻き付ける工程を模式的に示す斜視図であり、図9(b)は、第一の小保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体の外周部に第二の小保持シール材を巻き付ける工程を模式的に示す斜視図であり、図9(c)は、第一〜第三の小保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する圧入工程を模式的に示す斜視図である。
【図10】図10(a)は、従来の保持シール材の巻き付け方法を模式的に示す斜視図であり、図10(b)は、図10(a)に示した保持シール材の巻き付け方法を用いた従来の排ガス浄化装置の製造方法を模式的に示す斜視図であり、図10(c)は、図10(b)に示した従来の排ガス浄化装置の製造方法により製造された排ガス浄化装置を模式的に示す斜視図である。
【図11】図10(c)に示す従来の排ガス浄化装置のE−E線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
(第一実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0059】
まず、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法に用いる保持シール材の構成について説明する。
図6は、第一実施形態に係る保持シール材を模式的に示す斜視図である。
【0060】
図6に示すように、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法に用いる保持シール材110は、無機繊維を含み、マット状である。より詳細には、短側面111a(111b)と長側面112a(112b)とを有し、平面視の形状が平行四辺形である。また、短側面111a(111b)と長側面112a(112b)とのなす鋭角αが70°≦α<90°となっている。この保持シール材110の厚さ(図6中、両矢印Tで示す)は、1.5〜12mmであってもよい。
なお、保持シール材110を構成する無機繊維としては、特に限定されず、アルミナ−シリカ繊維であってもよく、アルミナ繊維、シリカ繊維等であってもよい。耐熱性や耐風蝕性等、保持シール材に要求される特性等に応じて変更すればよい。アルミナ−シリカ繊維を無機繊維として用いる場合には、例えば、アルミナとシリカとの組成比が、60:40〜80:20の無機繊維を用いることができる。
【0061】
本実施形態の保持シール材には、保持シール材をケーシングに圧入する際の保持シール材の嵩を低減させたり、無機繊維の飛散を防止したりするために、さらにアクリル系樹脂等のバインダが15重量%以下含まれている。
なお、バインダを含有させることで、保持シール材をケーシング内へ圧入する際の摩擦力を抑えたり、排ガス処理装置の組み立て前の作業性を高めたりすることも可能となる。
【0062】
また、保持シール材は、無機繊維から構成された素地マット全体に対してニードリング処理を施して得られるニードルマットである。ニードリング処理とは、ニードル等の繊維交絡手段を素地マットに対して抜き差しする処理のことをいう。ニードリング処理が施された保持シール材では、比較的平均繊維長の長い無機繊維が3次元的に交絡する。
なお、交絡構造を呈するために、無機繊維はある程度の平均繊維長を有しており、例えば、無機繊維の平均繊維長は、50μm〜100mm程度であればよい。
また、ニードリング処理は、保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域に対して施されていてもよい。
【0063】
ここで、上記一層分に相当する領域について、説明する。
例えば、保持シール材の長手方向の長さが850mmであり、排ガス処理体の外周の長さが251mmである場合には、保持シール材の一方の端部から他方の端部に向かって251mmにわたる領域(排ガス処理体の外周の長さに相当する領域)が、排ガス処理体に保持シール材が一周巻き付けられた場合の第一層分に相当する領域である。そして、保持シール材が一周巻き付けられた排ガス処理体(巻付体)の外周に、さらに一周巻き付けられた領域が第二層分に相当する領域である。以降、同様にして、第三層分、第四層分・・・第n層分に相当する領域が求められる。
【0064】
保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域に対してニードリング処理が施された態様としては、例えば、上述の態様の他、排ガス処理体の外周に保持シール材を三周巻き付けて巻付体を作製する場合において、上記第一層分と第三層分に相当する領域にニードリング処理が施され、上記第二層分に相当する領域にニードリング処理が施されていない態様や、上記第一層分と第三層分に相当する領域にニードリング処理が施されておらず、上記第二層分に相当する領域にのみニードリング処理が施されている態様等が挙げられる。
また、一層分に相当する領域の全部にわたってニードリング処理が施されていてもよいし、一層分に相当する領域の一部にニードリング処理が施されてもよい。
【0065】
次に、本実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体について図7(a)、図7(b)を用いて説明する。
図7(a)は、第一実施形態の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体を模式的に示す斜視図であり、図7(b)は、図7(a)に示す排ガス処理体のD−D線断面図である。
【0066】
図7(a)に示すように、排ガス処理体130は、主に多孔質セラミックからなり、その形状は円柱状である。また、排ガス処理体130の外周には、排ガス処理体130の外周部を補強したり、形状を整えたり、排ガス処理体130の断熱性を向上させたりする目的で、シール材層134が設けられている。
さらに、排ガス処理体130は、図7(b)に示すように、その長手方向(図7(a)中、両矢印aで示した方向)に多数のセル131が並設されている。そして、各々のセル131におけるいずれか一方は、封止材133によって目封じされており、排ガスに含まれるPMを浄化するフィルタ(ハニカムフィルタ)として機能するようになっている。
即ち、排ガス処理体130では、排ガスの出口側の端部が封止されたセル131に流入した排ガス(図7(b)中、排ガスの流れを矢印Gで示す)は、必ずセル131を隔てるセル壁132を通過した後、排ガスの入口側の端部が封止されたセル131から流出するようになっており、排ガスがこのセル壁132を通過する際、PMがセル壁132で捕捉され、排ガスが浄化される。
なお、排ガス処理体130としては、コージェライト等からなり、図7(a)に示したように一体的に形成されたものであってもよいし、炭化ケイ素等からなり、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム焼成体を主にセラミックを含む接着材層を介して複数個結束してなるものであってもよい。
また、排ガス中に含まれるCO、HC又はNOx等の有害なガス成分を浄化する目的で用いる場合には、封止材133を設けずに、セル131を封止しない触媒担体とすればよい。触媒担体に白金等の触媒を担持させることで、有害なガス成分を浄化することができる。
【0067】
排ガス浄化装置を構成するケーシングについて図8を用いて説明する。
図8は、第一実施形態の排ガス浄化装置を構成するケーシングを模式的に示す斜視図である。
図8に示すケーシング150は、主にステンレス等の金属からなり、その形状は、円筒状である。また、その内径は、図7(a)、図7(b)に示す排ガス処理体130の端面の直径と排ガス処理体130に巻き付けられた状態の保持シール材110の厚さとを合わせた長さより若干短くなっており、その長さは、排ガス処理体130の長手方向における長さより若干長くなっている。
なお、ケーシング150の端部には、排ガス処理体及び保持シール材が内部に配設された後、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることになる。
【0068】
本実施形態の保持シール材の巻き付け方法を用いた排ガス浄化装置の製造方法によって製造される排ガス浄化装置の構成については、既に、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法の説明で述べたとおりであるので省略する(図3(b)、図4参照)。
即ち、本実施形態の排ガス浄化装置は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設され、排ガス処理体を保持する保持シール材とから構成されている。また、保持シール材の各層の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行になっている。
このような排ガス浄化装置では、排ガス処理体で排ガス中のPMが捕集され、排ガスが浄化されることとなる。
【0069】
以下、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造する方法について説明する。
まず、保持シール材を作製する方法について説明する。
【0070】
保持シール材の作製
以下の手順により保持シール材を作製する。
(1)まず、保持シール材を構成するマットとしてニードルマットを用意する。ニードルマットは、上述したニードリング処理を素地マットの全体に施すことで作製することができる。
素地マットは、紡糸法により作製された所定の平均繊維長を有する無機繊維が緩く絡み合って構成されている。この素地マットの緩く絡み合った無機繊維に対してニードリング処理を施すことで、複雑に無機繊維が絡み合い、バインダが存在しなくてもある程度の形状維持が可能な交絡構造を有するニードルマットを作製することができる。
【0071】
なお、ニードリング処理は、例えば、ニードリング装置を用いて行うことができる。ニードリング装置は、素地マットを支持する支持板と、この支持板の上方に設けられ、突き刺し方向(素地マットの厚さ方向)に往復移動可能なニードルボードとで構成されている。ニードルボードには、多数のニードルが取り付けられている。このニードルボードを支持板に載せた素地マットに対して移動させ、多数のニードルを素地マットに対して抜き差しすることで、素地マットを構成する無機繊維を複雑に交絡させることができる。
ニードリング処理の回数やニードル数は、目的とする嵩密度や目付量等に応じて変更すればよい。
【0072】
(2)次に、平面視で所定の鋭角を有する平行四辺形となるようにニードルマットを裁断し、得られた裁断マットにバインダ液を所定量吹きかけてバインダを付着させる。
なお、バインダ液としては、アクリル系樹脂等のバインダを水に分散させて調製したエマルジョンを用いることができる。このバインダ液をスプレー等を用いて裁断マット全体に均一に吹きかけて、バインダを付着させる。
【0073】
(3)その後、バインダ液に含まれる水分を除去するために裁断マットを乾燥させる。このとき、必要に応じてバインダを付着させた裁断マットを圧縮させながら乾燥させてもよい。乾燥条件としては、例えば、95〜150℃で1〜30分間乾燥させればよい。
上述した工程を経ることで、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法に用いる保持シール材を作製する。
作製された保持シール材は、厚さが1.5〜12mmであって、平面視で鋭角αが70°≦α<90°の平行四辺形状となる。また、保持シール材に含まれるバインダ量が15重量%以下となる。
【0074】
上述した工程を経て作製される保持シール材を用いた保持シール材の巻き付け方法及び該巻き付け方法を用いた排ガス浄化装置の製造方法について説明する。
まず、保持シール材の第一主面を排ガス処理体側に、第二主面を外側にして、従来公知の方法により作製した円柱状の排ガス処理体の外周部に保持シール材の一方の端部を当接させる。この際、排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線と短側面とが平行になるようにして、排ガス処理体の外周部に保持シール材の一方の端部を当接させる。
このようにすることで、排ガス処理体と保持シール材とを排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から投影した投影図で、上記排ガス処理体の一方の端面側に位置する上記保持シール材の側面がなす曲線と、上記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線との交点における上記曲線の接線を求めた際に、上記直線と上記接線とのなす鋭角βが70°≦β<90°となりやすくなる。
【0075】
この状態から、排ガス処理体の外周部に沿って保持シール材をらせん状に巻き付ける。
すると、最内層から最外層の保持シール材に向かうにつれて、各層の保持シール材が排ガス処理体の一方の端面側に近づいていくように、かつ、内層保持シール材と内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材との間の変位量(らせんピッチ)が、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、各層の保持シール材を順次変位させて排ガス処理体に巻き付けることができる。即ち、所定の変位量が得られるように上下左右に位置を調整してから保持シール材を巻き付けなくても、より簡便、かつ、より効率的に、所定のらせんピッチで排ガス処理体の外周部に保持シール材をらせん状に巻き付けることができる。
【0076】
次に、ケーシングを準備し、ケーシングの内部に保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を圧入する。この際、排ガス処理体の端面のうちで、内層保持シール材の一部が露出している内層露出側端面の反対側の端面から、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシング内の所定の位置まで圧入する。
以上の工程を経ることにより排ガス浄化装置を製造することができるが、さらに、プレス機等を使用することにより、ケーシングの内径を縮めるように外周側から圧縮して、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を保持してもよい。
【0077】
本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法で製造された排ガス浄化装置では、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法の説明で既に述べたように、保持シール材の各層の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行となる。
また、排ガス処理体や、保持シール材の大きさに応じて、都度、保持シール材の長側面をカッター等の切断治具で切断する操作を行わずとも、保持シール材の各層の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行となった排ガス浄化装置を製造することができる。
また、保持シール材に所定量のバインダが含まれた排ガス浄化装置とすることができる。
【0078】
以下に、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法及び該保持シール材の巻き付け方法を用いた本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法の作用効果について列挙する。
【0079】
(1)本実施形態の保持シール材の巻き付け方法では、変位量(らせんピッチ)が、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、保持シール材を排ガス処理体の外周部にらせん状に巻き付ける。
このような本実施形態の保持シール材の巻き付け方法を用いた本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法では、排ガス処理体の端面のうちで、内層保持シール材の一部が露出している内層露出側端面の反対側の端面から、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に圧入することで、保持シール材の各層の長側面と排ガス処理体の端面とを略平行にすることができる。
従って、本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法で製造された排ガス浄化装置では、保持シール材の長側面と排ガスが接触する面積が小さくなり、長側面が風蝕されにくくなる。
さらに、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法では、保持シール材の長側面をカッター等の切断治具で傾斜面となるように切断する操作を行うことがない。そのため、本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法で製造された排ガス浄化装置では、保持シール材の長側面で無機繊維の切断面の面積が小さくなり、これによっても長側面が風蝕されにくくなる。
従って、本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法では、保持シール材が風蝕されにくく、保持シール材の破損の少ない排ガス浄化装置を製造することができる。
【0080】
(2)本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法では、長側面を切断しなくとも、排ガス処理体の端面と保持シール材の長側面とが略平行になった排ガス浄化装置を製造することができる。
そのため、排ガス浄化装置の製造にカッター等の切断治具を必要としない。また、排ガス処理体や、保持シール材の大きさに応じて、都度、傾斜面の角度を切断により調整して保持シール材を作製する手間が省ける。
従って、本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法では、保持シール材の破損の少ない排ガス浄化装置を高い生産効率で製造することができる。また、低コストで排ガス浄化装置を製造することができる。
【0081】
(3)また、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法では、保持シール材の短側面を排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行にして巻き付けることで、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%に相当するらせんピッチで巻き付けることができるように、鋭角αが70°≦α<90°の平面視平行四辺形の保持シール材を用いる。
この保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける場合には、保持シール材の短側面を排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行にして巻き付けることで、所定のらせんピッチで排ガス処理体の外周部に保持シール材をらせん状に巻き付けることができる。
即ち、保持シール材の位置を上下左右に調整してから巻き付けなくとも、保持シール材の短側面を排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行にして保持シール材を巻き付けるだけで、より簡便、かつ、より効率的に、所定のらせんピッチで排ガス処理体の外周部に保持シール材をらせん状に巻き付けることができる。
なお、このようにして保持シール材を巻き付ける場合には、排ガス処理体と保持シール材とを排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から投影した投影図で、排ガス処理体の一方の端面側に位置する保持シール材の側面がなす曲線と、排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線との交点における曲線の接線を求めた際に、上記直線と上記接線とのなす鋭角βが70°≦β<90°となるように、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けやすくなる。
【0082】
(4)本実施形態の保持シール材の巻き付け方法に用いる保持シール材は、少なくとも一層分に相当する領域が、ニードリング処理が施されたニードルマットから構成されている。
そのため、排ガス処理体に巻き付けられた保持シール材においては、保持シール材を構成する無機繊維同士が複雑に絡み合うことにより風蝕されにくくなっている。
従って、本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法では、保持シール材の破損のより少ない排ガス浄化装置を製造することができる。
【0083】
(5)本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法では、バインダが15重量%以下含まれた保持シール材を用いて排ガス浄化装置を製造する。
上記保持シール材には、バインダが含まれているので、上記保持シール材の嵩をバインダが含まれていない保持シール材に比べて低減させることができる。従って、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に容易に圧入することができる。
また、保持シール材を構成する無機繊維同士を充分に接着することができるので、製造工程においても、製造された排ガス浄化装置においても無機繊維が飛散しにくくなる。
さらに、上記バインダの含有量が15重量%以下となっているため、製造された排ガス浄化装置を使用した場合には、排出される排ガス中の有機成分の量を最小限に抑えることができる。そのため、環境への負荷を低減させることができる。
【0084】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示すが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
1.保持シール材の作製
以下の手順により保持シール材を製造した。
アルミナ−シリカ組成を有するアルミナ繊維(平均繊維長:50mm、平均繊維径:5.5μm)からなる素地マットとして、組成比がAl:SiO=72:28である素地マットを用意した。この素地マットに対して全体にニードリング処理を施すことで、ニードルマットを作製した。
【0086】
次に、ニードルマットを裁断して、所定の大きさを有する平面視平行四辺形の裁断マットを得た。得られた裁断マットのアルミナ繊維量に対し1.0重量%となるように、バインダ液に含浸させることにより裁断マットにバインダを均一に付着させた。
なお、バインダ液としては、アクリル系樹脂を水に充分に分散させることで、アクリル系樹脂エマルジョンを調製したものを用いた。
【0087】
その後、バインダを付着させた裁断マットを140℃で5分間、乾燥させることにより、平面視寸法で、短手方向の長さ(幅)75mm×長手方向の長さ(長さ)850mm×厚さ5.3mm、長側面と短側面とのなす鋭角αが89°の平面視平行四辺形であり、嵩密度が0.15g/cm、目付量が600g/m、バインダを1.0重量%含む保持シール材を作製した。
【0088】
2.排ガス浄化装置の製造
以下の手順により排ガス浄化装置を製造した。
直径80mm×長さ85mmの円柱状であって、従来公知の方法で作製された排ガス処理体(ハニカムフィルタ)を準備した。
次に、作製した保持シール材の第一主面を排ガス処理体側に、第二主面を外側にして、排ガス処理体の外周部に保持シール材の一方の端部を当接させた。この際、保持シール材の短側面が排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行になるようにして、排ガス処理体の外周部に保持シール材の一方の短側面を重ねた。
この状態から、排ガス処理体の外周部に沿って保持シール材をらせん状に三周巻き付け、粘着テープで保持シール材の端部を固定した。
ここで、変位量(らせんピッチ)について確認したところ、各らせんピッチは、保持シール材の幅方向の長さの1.3%(1mm)となっていた。
【0089】
続けて、内径110mmの金属ケーシングを準備し、テーパー状の冶具を用いてケーシングの内部に保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を圧入した。この際、排ガス処理体の端面のうちで、内層保持シール材の一部が露出している内層露出側端面の反対側の端面から、上記排ガス処理体をケーシング内の所定の位置まで圧入した。
【0090】
プレス機を使用し、ケーシングの外周側から内側に向かって略均一に圧力を負荷することにより、ケーシングを圧縮して排ガス浄化装置を製造した。
ケーシングを圧縮した後の保持シール材の嵩密度は、0.18g/cmであった。
【0091】
(実施例2)
変位量(らせんピッチ)を、保持シール材の幅方向の長さの2.7%(2mm)としたこと以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化装置を製造した。
【0092】
(比較例1)
平面視矩形の保持シール材として、幅75mm×長さ850mm×厚さ5.3mmの保持シール材を準備し、保持シール材の各層の長側面と排ガス処理体の端面とが平行になるように、即ち、変位量が0mmとなるように排ガス処理体の外周部に保持シール材を多層に巻き付ける工程を経て排ガス浄化装置を製造すること以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化装置を製造した。
【0093】
(比較例2)
変位量(らせんピッチ)を、保持シール材の幅方向の長さ(75mm)の16%(12mm)としたこと以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化装置を製造した。
【0094】
実施例1、2及び比較例1、2で製造した排ガス浄化装置について、保持シール材の長側面の位置ずれ及び耐風蝕性を評価した。
【0095】
(位置ずれの評価)
位置ずれの評価は、次のようにして行った。
製造した排ガス浄化装置について、各層の保持シール材に互いに位置ずれが発生しているか否かを目視で観察し、位置ずれが生じている場合には、一の層の保持シール材の長側面と、当該一の層の保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材の長側面との間の最短距離を測定し、位置ずれ量とした。また各層間の位置ずれ量を全て足し合わせたものを総位置ずれ量とした。
具体的には、実施例1、2及び比較例1、2で製造した排ガス浄化装置について、最内層の保持シール材と中間層の保持シール材との間の第一の位置ずれ量、及び、中間層の保持シール材と最外層の保持シール材との間の第二の位置ずれ量を測定した。また、第一の位置ずれ量と第二の位置ずれ量とを合計して総位置ずれ量を算出した。
上記第一の位置ずれ量、第二の位置ずれ量及び総位置ずれ量については、排ガス浄化装置の両端部のどちらで測定しても略同様の値となると考えられたため、排ガス浄化装置の圧入側端部でのみ測定した。
また、位置ずれ量に関し、内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材の位置が、内層保持シール材の位置に比べて、排ガス浄化装置の圧入側端部方向(図4で左側)にずれていた場合の位置ずれ量を+で表示することとし、それとは反対に、内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材の位置が、内層保持シール材の位置に比べて、排ガス浄化装置の圧入側端部の反対側の端部方向(図4で右側)にずれていた場合の位置ずれ量を−で表示することとした。
【0096】
(耐風蝕性の評価)
下記方法により、排ガス浄化装置の耐風蝕性の評価を行った。
実施例1で製造したものと同様の保持シール材を別途製造し、これを幅25mm×長さ40mmに切断した試験片を3個用意した。
これらの試験片を主面が互いに接するように上下方向に積み重ね、嵩密度が0.3g/cmとなるように、冶具にて上下方向から挟み込んだ。この際、上記位置ずれの評価における実施例1、2又は比較例1の位置ずれ量及び総位置ずれ量と同じ値となるように、三枚の試験片の位置を左右方向にずらした。
これを700℃に加熱し、一の側面に風量300m/min、風圧0.2MPa、Pulse Frequency:7000times(on/off=0.5/1.0sec)の風圧にてエアーを吹きつけ、風圧による側面の風蝕性の指標として、側面表面からの風蝕深さ(風蝕距離(mm))を測定した。
この測定を5回行い、5回の測定値の平均値を求めた。
【0097】
実施例1、2及び比較例1、2の位置ずれの評価結果、及び、実施例1、2及び比較例1の耐風蝕性の評価結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1に示したように、実施例1、2で製造した排ガス浄化装置では、第一の位置ずれ量、第二の位置ずれ量及び総位置ずれ量が、ともに3mm以下となっており、保持シール材の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行になっていた。
また、実施例1、2で製造した排ガス浄化装置を模して行った耐風蝕性の評価試験では、保持シール材の位置ずれ量が小さく、エアーが吹きつけられる保持シール材(試験片)の側面の暴露面積が小さくなっていたためか、実施例1では、風蝕距離が5.5mmと小さくなっており、実施例2では、風蝕距離が3.0mmと小さくなっており、ともに優れた耐風蝕性を示した。
これらのことから、実施例1及び2で製造した排ガス浄化装置を排ガスの浄化に用いる場合には、長側面を含めた保持シール材全体の耐風蝕性が高く、保持シール材の破損の少ない排ガス浄化装置とすることができると考えられる。
【0100】
加えて、実施例1及び2では、保持シール材の長側面を切断する操作を行う必要がなく、カッター等の切断治具を必要としなかった。また、排ガス処理体や、保持シール材の大きさに応じて、都度、傾斜面の角度を切断により調整した保持シール材を用意する必要もなかった。そのため、量産時には、生産効率の低下や、製造コストの高騰を招かずとも、両端部でともに保持シール材の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行となった排ガス浄化装置を製造することができると考えられる。
【0101】
一方、比較例1で製造した排ガス浄化装置では、第一の位置ずれ量が+3mm、第二の位置ずれ量が+2mm、及び、総位置ずれ量が+5mmとなっており、保持シール材の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行になっていなかった。また、比較例1で製造した排ガス浄化装置を模して行った耐風蝕性の評価試験では、保持シール材の位置ずれ量が大きく、エアーが吹きつけられる保持シール材(試験片)の側面の暴露面積が実施例1、2に比べて大きくなっていたためか、風蝕距離が7.0mmであり、実施例1及び2の保持シール材に比べて風蝕距離が大きくなっていた。
また、比較例2で製造した排ガス浄化装置では、第一の位置ずれ量が−9mm、第二の位置ずれ量が−5mm、及び、総位置ずれ量が−14mmとなっており、保持シール材の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行になっていなかった。
このように、比較例2では、第一の位置ずれ量、第二の位置ずれ量、及び、総位置ずれ量がいずれも実施例1、2、及び、比較例1の値よりも大きく、耐風蝕性が悪化すると考えられたため、耐風蝕性の評価を行わなかった。
【0102】
これらの結果より、比較例1、2で製造した排ガス浄化装置を排ガスの浄化に用いた場合には、保持シール材の使用の経過とともに破損が発生するおそれがあると考えられる。
【0103】
(第二実施形態)
本実施形態では、第一実施形態の保持シール材の巻き付け方法に用いる保持シール材が平面視矩形であり、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法と同様にして、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けること以外は、第一実施形態の保持シール材の巻き付け方法と同様である。また、排ガス浄化装置の製造方法についても、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法を用いて排ガス浄化装置を製造すること以外は、第一実施形態の排ガス浄化装置の製造方法と同様である。
【0104】
また、本実施形態の保持シール材の巻き付け方法では、平面視矩形の保持シール材の長側面を排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行になるように当接させ、そこから所定のらせんピッチが得られるように保持シール材をらせんの進展方向に引っ張りながら巻き付けてもよい。保持シール材は、無機繊維と必要に応じてバインダを含んでいることから柔軟性があるので、保持シール材を引っ張ることであたかも平面視が平行四辺形の保持シール材であるかのように巻き付けることができる。もちろん、このような巻き付け方でも本願発明の効果を得ることができる。
【0105】
本実施形態においても、第一実施形態において説明した効果(1)、(2)、(4)及び(5)を発揮することができる。
【0106】
(第三実施形態)
本実施形態では、平面視矩形の三枚の小保持シール材(第一、第二及び第三の小保持シール材)から構成された保持シール材と、第一実施形態と同様の構成を有する排ガス処理体とを使用する。
上記小保持シール材は、一部の構成が異なること以外は、第一実施形態で用いた保持シール材と略同じ構成を有している。
即ち、上記保持シール材は、第一実施形態で用いた保持シール材と比べて、短手方向の長さ(幅)が同じであり、長手方向の長さ(長さ)が短い。また、一方の短側面に凸部が形成されており、他方の短端面に、保持シール材を丸めて両短端面同士を当接させた際に上記凸部と嵌合する形状の凹部が形成されている。
なお、小保持シール材の数は、三枚に限定されず、排ガス処理体や、ケーシング等の大きさに応じて適宜変更することもできる。また、上記凸部及び凹部は、形成されていなくともよい。
【0107】
以下、本実施形態について、図面を用いて説明する。
図9(a)は、第一の小保持シール材を排ガス処理体の外周部に巻き付ける工程を模式的に示す斜視図であり、図9(b)は、第一の小保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体の外周部に第二の小保持シール材を巻き付ける工程を模式的に示す斜視図であり、図9(c)は、第一〜第三の小保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する圧入工程を模式的に示す斜視図である。
【0108】
まず、排ガス処理体の外周の長さと略同じ長さを有する第一の小保持シール材を準備する(図9(a)参照)。
第一の小保持シール材(最内層の小保持シール材)410は、ニードリング処理が施されることにより形成された複数のニードル痕413を有しており、複数のニードル痕413が第一の小保持シール材410の長さ方向に沿って形成されている。
なお、上記複数のニードル痕は、第一の小保持シール材の幅方向に沿って形成されていてもよい。
【0109】
次に、図9(a)に示すように、排ガス処理体430の外周部に第一の小保持シール材410を一周巻き付ける。
この際、第一の小保持シール材410の短側面411a、411b同士を当接させ、凹部と凸部とを嵌合させることにより、第一の小保持シール材410を巻き付けて第一の巻付体440を作製する。第一の巻付体440では、上記凹部と凸部とが嵌合することにより、第一の小保持シール材410が隙間なく巻き付けられることになる。
【0110】
続いて、第一の巻付体440の外周の長さと略同じ長さを有すること以外は、第一の小保持シール材410と同様の構成を有する第二の小保持シール材410´を準備する(図9(b)参照)。
図9(b)では、第二の小保持シール材410´にニードル痕413が形成されていない。
なお、第二の小保持シール材には、複数のニードル痕が形成されていてもよいし、ニードル痕が形成されていなくてもよい。また、ニードル痕が形成されている場合には、第二の小保持シール材の幅方向に沿ってニードル痕が形成されていてもよいし、第二の小保持シール材の長さ方向に沿って複数のニードル痕が形成されていてもよい。
【0111】
この第二の小保持シール材410´を第一の小保持シール材410の外周面に沿って、図9(b)に示すように、第二の小保持シール材410´の短側面411a´、411b´同士が互いに当接するようにして、一周巻き付ける。
この際、第一の小保持シール材410の長側面412a(412b)と第二の小保持シール材410´の長側面412a´(412b´)との間の変位量が、第一の小保持シール材410の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、第二の小保持シール材410´を排ガス処理体430の一方の端面430b側に変位させて巻き付ける。
【0112】
同様の工程を繰り返して、三枚の小保持シール材410、410´及び410´´を排ガス処理体430の外周部に巻き付けることにより、第三の巻付体440´´を作製する。
第三の小保持シール材(最外層の小保持シール材)410´´は、ニードリング処理が施されることにより形成された複数のニードル痕413´´を有しており、複数のニードル痕413´´が、第三の小保持シール材410´´の長さ方向に沿って形成されている。
なお、上記複数のニードル痕は、第三の小保持シール材の幅方向に沿って形成されていてもよい。
【0113】
また、本実施形態では、三枚の小保持シール材410、410´及び410´´を排ガス処理体430の外周部に順次巻き付けることによって第三の巻付体440´´を作製する方法について説明したが、三枚の小保持シール材410、410´及び410´´を予め所定の変位量となるように互いに結合しておき、結合された三枚の小保持シール材410、410´及び410´´を一回又は複数回の操作で排ガス処理体430に巻き付けてもよい。
上記小保持シール材同士を結合する方法としては、後の圧入工程で保持シール材の各層が圧入方向と反対の方向に移動することを妨げないのであれば、特に限定されず、例えば、粘着テープ等を用いて小保持シール材同士を結合する方法等が挙げられる。
【0114】
次に、第一実施形態と同様の構成を有するケーシング450を準備し、第三の巻付体440´´をケーシング450の内部に圧入して排ガス浄化装置を製造する。
この際、図9(c)に示したように、第三の巻付体440´´の端面440a´´、440b´´のうち、内層露出側端面440a´´の反対側の端面440b´´から、ケーシング450内の所定の位置まで第三の巻付体440´´を圧入する。
製造された排ガス浄化装置は、請求項2に記載の保持シール材の巻き付け方法で製造された排ガス浄化装置と同様に(図4参照)、小保持シール材410、410´及び410´´の長側面412a、412a´及び412a´´(412b、412b´及び412b´´)と排ガス処理体430の端面とが略平行になる。
【0115】
本実施形態の保持シール材の巻き付け方法を用いて製造された排ガス浄化装置では、保持シール材の長側面と排ガス処理体の端面とが略平行になるので、第一実施形態において説明した効果(1)、(2)、(4)及び(5)を発揮することができる。
また、以下の効果(6)、(7)を発揮することができる。
【0116】
(6)小保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際に、各々の小保持シール材410、410´及び410´´の位置を独立して調整することができる。
そのため、一枚ものの保持シール材を排ガス処理体にらせん状に巻き付ける場合に比べて、上記変位量が保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるようにして、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けやすくなる。
【0117】
(7)少なくとも最内層及び最外層の小保持シール材には、小保持シール材の長さ方向に沿って複数のニードル痕が形成されている。そのため、小保持シール材及び排ガス処理体がケーシングから脱落しにくくなる。
この理由については定かでないが、以下のような理由が推測される。
【0118】
保持シール材に対してニードリング処理を施すと、ニードルが抜き差しされた箇所にはニードル痕が形成される。ニードル痕近傍では、無機繊維の交絡により、その他の部分に比べて嵩が減ることとなる。
そのため、特定の方向に沿ってニードル痕が形成されている(これをニードル痕形成方向という)と、ニードル痕形成方向に沿って一種の溝が形成されているのと同様の状態となる。
従って、ニードル痕形成方向に沿って保持シール材を移動させる場合には、保持シール材と保持シール材に接触している物体との間に発生する摩擦抵抗が少なくなり、保持シール材が移動しやすいと考えられる。
これとは反対に、ニードル痕形成方向に対して垂直な方向に沿って保持シール材を移動させる場合には、保持シール材と保持シール材に接触している物体との間に発生する摩擦抵抗が大きくなり、保持シール材が移動しにくいと考えられる。
【0119】
製造された排ガス浄化装置に排ガスの圧力が加わると、ニードル痕413´´の形成方向に垂直な方向から圧力が加わり、当該方向に最外層の小保持シール材410´´が移動してケーシング450から脱落してしまうようにも思われる(図9参照)。
しかしながら、最外層の小保持シール材410´´には、最外層の小保持シール材410´´の長さ方向に沿って複数のニードル痕413´´が形成されているので、最外層の小保持シール材410´´と、最外層の小保持シール材410´´に接触しているケーシング450との間で発生する摩擦抵抗が大きい。
そのため、最外層の小保持シール材410´´は、ケーシング450から脱落しにくい。
【0120】
また、最内層の小保持シール材410には、最内層の小保持シール材410の長さ方向に沿って複数のニードル痕413が形成されている。
そのため、製造した排ガス浄化装置では、最内層の小保持シール材410と排ガス処理体430との間で発生する摩擦抵抗が大きい。
従って、排ガス処理体430は、保持シール材で確実に保持されることになり、ケーシング450から脱落しにくい。
【0121】
なお、ニードル痕の形成方向については、最内層の小保持シール材に、最内層の小保持シール材の幅方向に沿って複数のニードル痕が形成されており、最外層の小保持シール材に、最外層の小保持シール材の長さ方向に沿って複数のニードル痕が形成されていてもよい。また、最内層及び最外層の小保持シール材に、各々の小保持シール材の幅方向に沿って複数のニードル痕が形成されていてもよい。
【0122】
最外層の小保持シール材に、最外層の小保持シール材の幅方向に沿って複数のニードル痕が形成されている場合には、巻付体をケーシングに圧入する際の、最外層の小保持シール材とケーシングとの間の摩擦抵抗が小さくなる。そのため、排ガス浄化装置を容易に製造することができる。
また、最内層の小保持シール材に、最内層の小保持シール材の幅方向に沿って複数のニードル痕が形成されている場合には、最内層の小保持シール材と排ガス処理体との間の摩擦抵抗が小さくなり、圧入した排ガス処理体の位置ずれを適宜修正することができる。
【0123】
ニードル痕の形成方向については、排ガス処理体等の脱落を防止することを目的とするのか、あるいは、排ガス浄化装置を容易に製造することを目的とするのか等、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0124】
(その他の実施形態)
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、内層保持シール材と上記内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材との間の変位量は、保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%の範囲であれば、各層間で一様に同じであってもよいし、異なっていてもよい。このような態様でも、本発明の作用効果を好適に享受することができる。
内層露出側端面と内層露出側端面の反対側の端面とで、保持シール材の各層間の変位量が異なるようにするには、例えば、図6に示した第一実施形態に係る保持シール材において、一方の鋭角αの角度が他方の鋭角αの角度と異なった保持シール材を用いること等が挙げられる。
そのような保持シール材を作製する方法としては、例えば、ニードルマットを所望の形状に切断する方法等が挙げられる。
【0125】
また、上記変位量は、0.1〜10mmであることが好ましい。
上記変位量が0.1〜10mmであると、保持シール材の巻き付け終了後には、巻付体における保持シール材の変位量が0.1〜10mmとなる。
このような巻付体を内層露出側端面の反対側の端面からケーシングに圧入すると、保持シール材の各層が圧入方向と反対の方向に移動し、保持シール材の各層の移動量と変位量(第n層(nは、2以上)にあっては、第n層までの変位量の合計量)とがよく一致するため、製造された排ガス浄化装置では、上記保持シール材の各層の長側面と上記排ガス処理体の端面との間の位置ずれ量が極めて小さくなる。
また、上記変位量は、0.5〜3mm(保持シール材の幅方向の長さが75mmであると、保持シール材の幅方向の長さの0.7〜4%)であるとさらに好ましく、1〜2mm(保持シール材の幅方向の長さが75mmであると、保持シール材の幅方向の長さの1.3〜2.7%)であると極めて好ましい。
【0126】
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、上記保持シール材の平面視の形状は、上述したように、鋭角αが70°≦α<90°の平行四辺形であることが好ましく、鋭角αが、85°≦α<90°であるとより好ましい。
上記鋭角αが、85°≦α<90°であると、鋭角αが70°≦α<90°の平面視平行四辺形となった保持シール材を用いる場合と同様、簡便、かつ、効率的に、所定のらせんピッチで排ガス処理体に保持シール材をらせん状に巻き付けることができるのに加えて、保持シール材を排ガス処理体に多層に巻き付けた場合に、保持シール材がよれにくく、保持シール材と排ガス処理体との間に隙間が生じにくくなる。
そのため、上記保持シール材を用いて製造された排ガス浄化装置では、排ガス処理体とケーシングとの間が保持シール材で隙間なく充填され、排ガスの漏れが発生しない。
【0127】
本発明の保持シール材の使用方法において、保持シール材には、上述したように、少なくとも一層分に相当する領域にニードリング処理が施されていることが好ましいが、ニードリング処理が施されていなくても本発明の作用効果を享受することができる。
【0128】
本発明の保持シール材の使用方法においては、保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域が、無機繊維を含む混合物を抄造してなる抄造マットから構成されていてもよい。
上記抄造マットを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程(1−1)〜工程(1−4)を経ることにより抄造マットを製造することができる。
【0129】
(1−1)混合物調製工程
無機繊維と、有機バインダと、無機バインダと、水とを攪拌機で攪拌することで混合物を調製する。
具体的には、例えば、無機繊維を594gと、有機バインダを36gと、無機バインダを4.8gと、水とを混合物中の無機繊維の含有量が0.5wt%となるように混合し、攪拌機で60秒間攪拌することで混合物を調製することができる。
【0130】
(1−2)抄造工程
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形槽に混合物を流し込んだ後に、混合物中の水をメッシュを介して脱水することにより抄造マット前駆体を作製する。
【0131】
(1−3)加熱圧縮工程
抄造マット前駆体を所定の条件で加熱圧縮して所定の嵩密度を有する抄造マット体を作製する。この工程を経ることにより、無機繊維が、有機バインダ及び無機バインダを介して互いに固着され、抄造マット体の形状が保持されることになる。
上記加熱圧縮の条件としては、例えば、120℃、30分間加熱圧縮することが挙げられる。
【0132】
(1−4)切断工程
抄造マット体を切断して所定の大きさを有する抄造マットからなる保持シール材を製造する。
なお、第一実施形態で説明したニードルマットと上記抄造マットとを結合することで、ニードルマットと抄造マットとからなる保持シール材を作製することもできる。
【0133】
上記無機繊維としては、上述した第一実施形態の保持シール材を構成する無機繊維と同様の組成の無機繊維を用いることができる。
上記無機繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、30μm〜120mmであることが望ましく、50μm〜100mmであることがより望ましい。
また、上記無機繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、2〜12μmであることが望ましく、3μm〜10μmであることがより望ましい。
【0134】
上記有機バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂、アクリルゴム等のゴム、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
これらの中では、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが特に好ましい。
また、有機バインダの配合量は、無機繊維と有機バインダと無機バインダとの合計に対して15重量%以下であることが望ましい。
【0135】
上記無機バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
また、無機バインダの配合量は、無機繊維同士を結合することができるのであれば、特に限定されない。また、上記無機バインダは、混合物中に含まれていなくてもよい。
【0136】
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、保持シール材を巻き付ける場合、保持シール材は、上述したような一枚ものの保持シール材であってもよいし、互いに結合された複数枚の小保持シール材からなる保持シール材であってもよい。
上記複数枚の小保持シール材から構成された保持シール材としては、例えば、第三実施形態で説明した小保持シール材410の短側面411bと、別の小保持シール材410´の短側面411a´とが結合し、上記小保持シール材410´の短側面411b´とさらに別の小保持シール材410´´の短側面411a´´とが結合した長尺(三層分)の保持シール材が挙げられる(図9参照)。
上記短側面同士を結合する方法としては、特に限定されず、例えば、ミシン縫いで上記短側面近傍を縫合したり、粘着テープや、接着材等で短側面同士を接着する方法等が挙げられる。
なお、上記複数枚の小保持シール材から構成された保持シール材としては、例えば、第三実施形態で説明した小保持シール材410の長側面412bと、別の小保持シール材410´の長側面412a´とが結合し、上記小保持シール材410´の長側面412b´とさらに別の小保持シール材410´´の長側面412a´´とが結合した長尺の保持シール材であってもよい(図9参照)。
【0137】
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける回数については、特に限定されず、例えば、円柱状の排ガス処理体の直径が80mmであり、保持シール材の厚さが3.5mmである場合には、三〜五回巻き付けてもよい。
【0138】
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、保持シール材をらせん状に巻き付ける場合には、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける巻き付け方向については、特に限定されず、上述したように、時計回りに巻き付けてもよいし、反時計周りに巻き付けてもよい。
【0139】
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、保持シール材をらせん状に巻き付ける場合には、巻き付け終了後に最外層の保持シール材とその内層に位置する保持シール材とを固定部材で固定してもよい。また、相互に分離した複数枚の小保持シール材を巻き付ける場合には、小保持シール材の短側面を含む部分同士を固定部材で固定してもよい。
固定部材を用いて固定することで、排ガス処理体に保持シール材が巻き付いた状態を維持しやすくなり、ケーシングへの圧入工程での取り扱い性が向上することとなる。
また、上記固定部材としては、特に限定されず、例えば、粘着テープ等が挙げられる。
【0140】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材において、無機繊維の平均繊維長は、30μm〜120mmであることが望ましく、50μm〜100mmであることがより望ましい。
【0141】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材において、無機繊維の平均繊維径は、2μm〜12μmであることが望ましく、3μm〜10μmであることがより望ましい。
【0142】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材に含まれるバインダの量は、15重量%以下であることが望ましく、0.5〜15重量%であることがより望ましく、1〜10重量%であることがさらに望ましい。
バインダの量が0.2重量%未満であると、保持シール材の嵩密度が低くなりすぎることがあり、保持シール材のケーシングへの圧入性が低下する場合がある。また、バインダ量が少なすぎるため、無機繊維を充分に接着することができなくなることがあり、無機繊維が飛散することがある。一方、バインダの量が15重量%を超えると排ガス浄化装置として用いた場合に、排出される排ガス中の有機成分の量が増加することになるので、環境に負荷がかかることになる。
【0143】
本発明の保持シール材の巻き付け方法において、保持シール材をらせん状に巻き付ける場合、保持シール材の長さは、排ガス処理体の外周部に多層に巻き付けられように排ガス処理体の外周の長さに比べて充分な長さを有するのであれば特に限定されないが、巻き付け終了後において、巻き付けを開始した短側面に対応する位置に、巻き付けを終了した短側面がちょうど重なる長さであることが好ましい。このようにすることで、多層に巻き付けられた保持シール材の厚さが均一になり、ケーシングに圧入しやすくなる。また、排ガス浄化装置において、保持シール材の保持力にばらつきが生じにくく、排ガス処理体をより確実に保持することができる。
【0144】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材の厚さは、1.5〜15mmであることが好ましく、2.0〜12mmであることがより好ましい。
保持シール材の厚さが15mmを超えると厚くなりすぎて、保持シール材を巻き付ける際の取り扱い性が低下することがある。
一方、保持シール材の厚さが1.5mm未満であると薄くなりすぎて、保持シール材自体の強度が低くなることがある。
【0145】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材の目付量は、特に限定されないが、200〜3000g/mであることが望ましく、400〜1900g/mであることがより望ましい。
また、嵩密度についても、特に限定されないが、0.10〜0.30g/cmであることが望ましい。
【0146】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材の作製に用いられるバインダとしては、上述したアクリル系樹脂に限られず、例えば、アクリルゴム等のゴム、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等であってもよい。これらの中では、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが特に好ましい。
【0147】
本発明の保持シール材の巻き付け方法に係る保持シール材の作製に用いられるバインダ液には、上述したバインダが複数種類含まれていてもよい。
また、上記バインダ液としては、上述したバインダを水に分散させて得られるエマルジョンに限られず、上述したバインダを水又は有機溶媒に溶解させた溶液等であってもよい。
【0148】
また、上記バインダ液には、さらに無機バインダが含まれていてもよい。無機バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。無機バインダも有機バインダと同様に、無機繊維同士を接着することができるので、保持シール材の形状が保持されることになる。
【0149】
本発明の排ガス浄化装置の製造方法に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の形状は、柱状であれば特に限定されず、上述した円柱状の他に、例えば、楕円柱状や角柱状等任意の形状、大きさのものであってもよい。
【0150】
本発明の排ガス浄化装置の製造方法に係る排ガス浄化装置を構成するケーシングの材質は、耐熱性を有する金属であれば特に限定されず、具体的には、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属類が挙げられる。
【0151】
本発明の排ガス浄化装置の製造方法に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体にはPMの燃焼温度を低下させたり、排ガス中に含まれる有害なガス成分を浄化するために触媒を担持させてもよい。このような触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属、又は、金属酸化物等が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0152】
また、上記金属酸化物としては、PMの燃焼温度を低下させたり、排ガス中に含まれる有害なガス成分を浄化することができるものであれば特に限定されず、例えば、CeO、ZrO、FeO、Fe、CuO、CuO、Mn、MnO、組成式A1−nCO(式中、AはLa、Nd、Sm、Eu、Gd又はYであり、Bはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、CはMn、Co、Fe又はNiであり、0≦n≦1である)で表される複合酸化物等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよいが、少なくともCeOを含むものであることが望ましい。
このような金属酸化物を担持させることにより、PMの燃焼温度を低下させたり、排ガス中に含まれる有害なガス成分を浄化することができる。
【0153】
上記排ガス処理体に触媒を担持させる方法としては、例えば、触媒が含まれた溶液を排ガス処理体に含浸させた後に加熱する方法や、排ガス処理体の表面にアルミナ膜からなる触媒担持層を形成し、このアルミナ膜に触媒を担持させる方法等が挙げられる。
アルミナ膜を形成する方法としては、例えば、Al(NO等のアルミニウムを含有する金属化合物溶液を排ガス処理体に含浸させて加熱する方法、アルミナ粉末を含有する溶液を排ガス処理体に含浸させて加熱する方法等が挙げられる。
また、アルミナ膜に触媒を担持させる方法としては、例えば、貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は、金属酸化物を含む溶液等をアルミナ膜が形成された排ガス処理体に含浸させて加熱する方法等が挙げられる。
【符号の説明】
【0154】
10、110、410、410´、410´´ 保持シール材
30、130、430 排ガス処理体
131 セル
132 セル壁
A、B 変位量
Z 保持シール材の幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体の外周部に、無機繊維を含むマット状の保持シール材を多層に巻き付ける保持シール材の巻き付け方法であって、
最内層から最外層の保持シール材に向かうにつれて、各層の保持シール材が前記排ガス処理体の一方の端面側に近づいていくように、かつ、内層保持シール材と前記内層保持シール材の外側に隣接する外層保持シール材との間の変位量が、前記保持シール材の幅方向の長さの0.15〜15%となるように、各層の保持シール材を順次変位させて前記排ガス処理体に巻き付けることを特徴とする保持シール材の巻き付け方法。
【請求項2】
前記保持シール材を前記排ガス処理体にらせん状に巻き付ける請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項3】
前記保持シール材の平面視の形状は、鋭角αが70°≦α<90°の平行四辺形であり、
前記保持シール材の一の側面が前記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線に平行になるように前記保持シール材を前記排ガス処理体に巻き付ける請求項1又は2に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項4】
前記鋭角αが、85°≦α<90°である請求項3に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項5】
前記排ガス処理体と前記保持シール材とを前記排ガス処理体の長手方向に垂直な方向から投影した投影図で、前記排ガス処理体の一方の端面側に位置する前記保持シール材の側面がなす曲線と、前記排ガス処理体の長手方向に沿って引いた直線との交点における前記曲線の接線を求めた際に、前記直線と前記接線とのなす鋭角βが70°≦β<90°となるように、前記保持シール材を前記排ガス処理体に巻き付ける請求項1〜4のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項6】
前記保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域は、ニードリング処理が施されたニードルマットから構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項7】
前記保持シール材のうち、少なくとも一層分に相当する領域は、無機繊維を含む混合物を抄造してなる抄造マットから構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項8】
前記保持シール材は、相互に分離した複数枚の小保持シール材から構成されている請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項9】
少なくとも最内層及び最外層の小保持シール材は、ニードリング処理が施されることにより形成された複数のニードル痕を有している請求項8に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項10】
前記複数のニードル痕は、前記小保持シール材の長さ方向に沿って形成されている請求項9に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項11】
前記保持シール材は、互いに結合された複数の小保持シール材からなる請求項1に記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項12】
前記変位量が、0.1〜10mmである請求項1〜11のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法。
【請求項13】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体の外周部に、無機繊維を含むマット状の保持シール材を多層に巻き付ける巻き付け工程と、
前記保持シール材が巻き付けられた前記排ガス処理体をケーシングの内部に圧入する圧入工程とを含む排ガス浄化装置の製造方法であって、
前記巻き付け工程では、請求項1〜12のいずれかに記載の保持シール材の巻き付け方法によって前記保持シール材を前記排ガス処理体に巻き付けるとともに、前記圧入工程では、前記排ガス処理体の端面のうちで、内層保持シール材の一部が露出している内層露出側端面の反対側の端面から前記保持シール材が巻き付けられた前記排ガス処理体を前記ケーシングの内部に圧入することを特徴とする排ガス浄化装置の製造方法。
【請求項14】
前記保持シール材は、バインダを含み、前記バインダの含有量は、15重量%以下である請求項13に記載の排ガス浄化装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−223082(P2010−223082A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70767(P2009−70767)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】