説明

保持パッド

【課題】定盤に容易に装着可能で装着の作業性を向上させることができる保持パッドを提供する。
【解決手段】バックパッド1は、ポリウレタン樹脂で形成された2枚の同質のポリウレタンシート2を有している。2枚のポリウレタンシート2は、それぞれ、スキン層2aと、スキン層2aの内側にナップ層2bとを有している。2枚のポリウレタンシート2は、スキン層2aの反対側の背面同士が、PET製フィルムの基材4の両面に粘着剤5が塗着された両面テープ3を介して貼り合わされている。バックパッド1は、両面にスキン層2aが位置しており、一方が被研磨物に当接する保持面P、他方が研磨機の加圧定盤に装着される装着面Qとなる。スキン層2aにそれぞれ水を含ませることで装着面Qが定盤に装着され、保持面Pが被研磨物に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保持パッドに係り、特に、一面側が定盤に装着され、他面側が被研磨物に当接する保持パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板、カラーフィルタ、インジウム錫酸化物(ITO)成膜済基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨布を使用した研磨加工が行われている。通常、これらの被研磨物の研磨加工には、被研磨物を片面ずつ研磨加工する片面研磨機が使用されている。この片面研磨機では、表面が平坦な保持定盤に被研磨物の一面側を保持させ、表面が平坦な研磨定盤に貼付した研磨布により、研磨液を供給しながら被研磨物の他面側(加工表面)に研磨加工が行われている。
【0003】
一般に、片面研磨機を使用した研磨加工では、被研磨物が金属製の保持定盤と直接接触して生じる被研磨物表面のスクラッチ(キズ)等を回避するため、保持定盤に軟質クロス等の保持パッドが装着されている。被研磨物及び保持定盤間に保持パッドを介在させることで、スクラッチ等を回避することはできるが、保持パッドの被研磨物保持性が不十分なときは、研磨加工中に被研磨物の横ずれが生じて被研磨物を平坦に保持することができなくなる。被研磨物の横ずれを防止するために、保持パッドの表面には被研磨物を挿入可能な開口を形成したキャリア(型枠)等が貼付されており、キャリアの開口に被研磨物を挿入して研磨加工が行われている。キャリアを使用した場合には、研磨加工後に被研磨物がキャリアから取り外されるが、被研磨物、特にガラス基板が大型化しており、キャリアからの取り外し作業が難しくなっている。このため、保持パッドには、キャリアを使用しないキャリアレスタイプが求められており、被研磨物の横ずれや脱落を防止するために、被研磨物保持性の向上が望まれている。
【0004】
通常、保持パッドには、微多孔が形成された表面層と、表面層に形成された微多孔の孔径より大きな発泡が連続して形成された発泡層とを有する軟質プラスチックシートが使用される。この軟質プラスチックシートは、軟質プラスチック(樹脂)を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させること(湿式成膜法)で製造される。凝固再生に伴い、軟質プラスチックシートの表面には表面層を構成する微多孔が厚さ数μm程度に亘り緻密に形成され、表面層の内側には発泡層を構成する発泡が形成される。微多孔が緻密に形成された表面層は、表面が平坦で被研磨物との接触性に優れるため、被研磨物の保持が可能となる。被研磨物の研磨加工時には、保持パッドの表面層と反対側の面が保持定盤に装着され、表面層に水等の液体を含ませ被研磨物を押し付けることで表面層の微多孔に浸入した液体の表面張力の作用により被研磨物が保持される。
【0005】
ところが、被研磨物を保持するときに被研磨物及び保持パッド間にエアの咬み込みを生じることがある。表面層に形成された微多孔に浸入した液体が、咬み込まれたエアの軟質プラスチックシート側(発泡層側)への移動を阻害するため、エアが被研磨物及び保持パッド間に貯留する。エアが貯留したまま研磨加工を行うと、エアの貯留部分で被研磨物にかかる圧力が大きくなるため、当該部分の加工表面が大きく研磨され(エア貯留部分が被研磨物に転写され)て平坦性を損なうこととなる。被研磨物及び保持パッド間のエアの咬み込みを低減させるため、軟質プラスチックシートの表面に粘着性樹脂層を積層し該粘着性樹脂層の表面に凹凸を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、湿式成膜された軟質プラスチックシートが柔軟性を有するため、保持定盤への装着時や運搬時に扱い難いことから、保持パッドには、ポリエステルフィルム等の基材が貼り合わされている。通常、保持定盤への装着に両面テープが使用されることから、保持パッドには、軟質プラスチックシート、基材、両面テープが積層されている。このような保持パッドとしては、例えば、ポリエステルフィルム等の基材の両面に接着剤が塗布された両面テープを使用する技術が開示されている(特許文献2参照)。この技術では、両面テープの片面側が軟質プラスチックシートと貼り合わされ、もう一方の面側が保持定盤に装着される。
【0007】
【特許文献1】特開2002−355755号公報
【特許文献2】特開平8−267668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の技術では、両面テープで保持定盤に保持パッドを装着することから、保持パッド及び保持定盤間にエアの咬み込みが生じることがある。保持パッド及び保持定盤間にエアの咬み込みが生じると、上述した被研磨物及び保持パッド間にエアの咬み込みが生じたときと同様に研磨加工で被研磨物の平坦性を損なうため、保持パッドの貼り直しが必要となる。ところが、両面テープで一度貼付した保持パッドを剥離すると、却ってしわ等が発生する。特に、大型の保持パッドではエアの咬み込みが生じやすいため、保持定盤への装着には熟練を要する。また、貼り直しや寿命等で保持パッドを剥離すると接着剤が保持定盤に残留し平坦性を損なうため、新しい保持パッドを装着するには残留した接着剤を保持定盤から除去する清掃作業が必要となり保持パッドの装着の作業性が低下する。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、定盤に容易に装着可能で装着の作業性を向上させることができる保持パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、一面側が定盤に装着され、他面側が被研磨物に当接する保持パッドにおいて、前記保持パッドは2枚の軟質プラスチックシートの背面同士が貼り合わされており、該2枚の軟質プラスチックシートの少なくとも一方は微多孔が形成された表面層を有しており、該表面層側が前記定盤に装着されることを特徴とする。
【0011】
本発明の保持パッドでは、貼り合わされた2枚の軟質プラスチックシートの少なくとも一方が表面層を有するため、該表面層に水等の液体を含ませることで表面層の微多孔に浸入した液体の表面張力が作用するので、水等の液体のみで容易に定盤に装着することができ、定盤への装着の作業性を向上させることができる。また、保持パッドを交換するときには、従来の両面テープを使用する場合と比較して、定盤に接着剤が残留しないので、再装着に手間がかからない。
【0012】
この場合において、2枚の軟質プラスチックシートが、微多孔が形成された表面層をそれぞれ有していれば、保持パッドの両面側に表面層が位置するため、一方の表面層側を定盤に装着し、他方の表面層側を被研磨物に当接するときに、それぞれの表面層に水等の液体を含ませることで微多孔に浸入した液体の表面張力が作用するので、定盤への装着及び被研磨物の当接を容易に行うことができる。また、軟質プラスチックシートの背面同士が、基材と該基材の両面に配された粘着剤とを有する接着部材で貼り合わされていることが好ましい。更に、軟質プラスチックシート同士が同質であれば、部品管理が容易となりコスト低減を図ることができる。また、軟質プラスチックシートの背面側がそれぞれの軟質プラスチックシートの厚さが一様となるようにバフ処理されていれば、表面層を損なうことなく軟質プラスチックシートの厚さ延いては保持パッド全体の厚さを略均一とすることができ、被研磨物を平坦に保持することができる。更に、軟質プラスチックシートが、表面層の内側に表面層に形成された微多孔より孔径の大きい発泡が形成された発泡層を有していれば、発泡層が弾性を有するので、被研磨物を弾性状態で保持することができる。また、軟質プラスチックシートの表面層の表面に、表面層に形成された微多孔より孔径が大きく発泡層に形成された発泡より孔径が小さい多孔が更に形成されており、該多孔が発泡層に形成された発泡と連通していれば、定盤への装着時や被研磨物への当接時にエアの咬み込みが生じても多孔を通じて発泡層の発泡にエアが吸い込まれるので、エアの咬み込みが解消され被研磨物を平坦に保持することができる。このような保持パッドに研磨加工時の被研磨物の横ずれを防止するキャリアを更に有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、貼り合わされた2枚の軟質プラスチックシートの少なくとも一方が表面層を有するため、該表面層に水等の液体を含ませることで表面層の微多孔に浸入した液体の表面張力が作用するので、水等の液体のみで容易に定盤に装着することができ、定盤への装着の作業性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用したキャリアレスタイプの保持パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(バックパッド)
図1に示すように、保持パッド(一般にバックパッドと称されるため、以下、バックパッドという。)1は、ポリウレタン樹脂で形成された2枚の同質のポリウレタンシート(軟質プラスチックシート)2を有している。2枚のポリウレタンシート2は、それぞれ、スキン層(表面層)2aと、スキン層2aの内側(各ポリウレタンシート2の内部)にナップ層(発泡層)2bとを有している。2枚のポリウレタンシート2は、スキン層2aの反対側の背面同士が、両面テープ3(接着部材)を介して貼り合わされている。両面テープ3は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルムの基材4の両面に粘着剤5が塗着されている。バックパッド1は、両面にスキン層2aが位置しており、一方が被研磨物に当接する保持面P、他方が研磨機の加圧(保持)定盤に装着される装着面Qとなる。保持面Pの背面側及び装着面Qの背面側は、各ポリウレタンシート2の厚さ(図1の縦方向の長さ)が一様となるようにバフ処理されている(詳細後述)。このため、保持パッド1の両面、すなわち保持面P及び装着面Qが略平坦となる。
【0016】
ポリウレタンシート2のスキン層2aには、図示を省略した緻密な微多孔が形成されている。ナップ層2bには、ポリウレタンシート2の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面略三角状の発泡7が形成されている。発泡7の孔径は、保持面P、装着面Q側の大きさが、それぞれ保持面P、装着面Qの背面側より小さく形成されている。発泡7同士の間のポリウレタン樹脂中には、スキン層2aに形成された微多孔より孔径が大きくナップ層2bに形成された発泡7より孔径が小さな図示しない発泡が形成されている。発泡7及び図示しない発泡は、不図示の連通孔で立体網目状につながっている。
【0017】
ポリウレタンシート2の保持面P、装着面Q(スキン層2aの表面)には、ナップ層2bに形成された発泡7と連通する多孔8が更に形成されている。多孔8の孔径は、スキン層2aに形成された微多孔より大きく、ナップ層2bに形成された発泡7より小さく形成されている。多孔8及び発泡7を連通する連通孔の孔径は、スキン層2aの微多孔の孔径より大きく形成されている。この多孔8は、後述するポリウレタンシート2の成膜時にポリウレタン樹脂溶液に添加された孔形成剤で形成される。
【0018】
(バックパッドの製造)
バックパッド1は、図2に示す各工程を経て製造される。まず、準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)、添加剤及び孔形成剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、100%モジュラス(2倍長に引っ張る時の張力)が20MPa以下のポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、発泡7の大きさや量(個数)を制御するカーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。
【0019】
また、孔形成剤としては、ポリウレタン樹脂溶解用のDMFに可溶性であり、水に難溶性又は不溶性のセルロース誘導体を所定量添加する。セルロース誘導体には、少なくともエステル系誘導体、エーテル系誘導体、エーテルエステル系誘導体及び芳香族含有誘導体から選択される1種を使用することができる。エステル系誘導体には、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースバレレート、セルロースアセテートブチレート等を挙げることができる。エーテル系誘導体には、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。エーテルエステル系誘導体には、アセチルエチルセルロース、アセトキシプロピルセルロース等を挙げることができる。このセルロース誘導体の添加量は、スキン層2aの表面での多孔8の孔径に合わせて設定する。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0020】
塗布工程、凝固再生工程及び洗浄・乾燥工程では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂を凝固再生させ、洗浄後乾燥させてポリウレタンシートを得る。塗布工程、凝固再生工程及び洗浄・乾燥工程は、図3に示す成膜装置で連続して実行される。
【0021】
図3に示すように、成膜装置60は、成膜基材の不織布や織布を前処理するための水又はDMF水溶液(DMFと水との混合液)等の前処理液15が満たされた前処理槽10、ポリウレタン樹脂を凝固再生させるための、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液25が満たされた凝固槽20、凝固再生後のポリウレタン樹脂を洗浄するための水等の洗浄液35が満たされた洗浄槽30及びポリウレタン樹脂を乾燥させるためのシリンダ乾燥機50を連続して備えている。
【0022】
前処理槽10の上流側には、成膜基材43を供給する基材供給ローラ41が配置されている。前処理槽10には、成膜基材43の搬送方向と同じ長手方向の略中央部の内側下部に一対のガイドローラ対13が配置されている。前処理槽10の上方で、基材供給ローラ41側にはガイドローラ11、12が配設されており、凝固槽20側には前処理した成膜基材43に含まれる過剰な前処理液15を除去するマングルローラ18が配置されている。マングルローラ18の下流側には、成膜基材43にポリウレタン樹脂溶液45を略均一に塗布するナイフコータ46が配置されている。ナイフコータ46の下流側で凝固槽20の上方にはガイドローラ21が配置されている。
【0023】
凝固槽20には、洗浄槽30側の内側下部にガイドローラ23が配置されている。凝固槽20の上方で洗浄槽30側には凝固再生後のポリウレタン樹脂を脱水処理するマングルローラ28が配置されている。マングルローラ28の下流側で洗浄槽30の上方にはガイドローラ31が配置されている。洗浄槽30には、成膜基材43の搬送方向と同じ長手方向で上部に4本、下部に5本のガイドローラ33が上下交互となるように配設されている。洗浄槽30の上方でシリンダ乾燥機50側には、洗浄後のポリウレタン樹脂を脱水処理するマングルローラ38が配置されている。シリンダ乾燥機50には、内部に熱源を有する4本のシリンダが上下4段に配設されている。シリンダ乾燥機50の下流側には、乾燥後のポリウレタン樹脂を(成膜基材43と共に)巻き取る巻取ローラ42が配置されている。なお、マングルローラ18、28、38、シリンダ乾燥機50及び巻取ローラ42は、図示を省略した回転駆動モータに接続されており、これらの回転駆動力により成膜基材43が基材供給ローラ41から巻取ローラ42まで搬送される。
【0024】
成膜基材43に不織布又は織布を用いる場合は、成膜基材43が基材供給ローラ41から引き出され、ガイドローラ11、12を介して前処理液15中に連続的に導入される。前処理液15中で一対のガイドローラ13間に成膜基材43を通過させて前処理(目止め)を行うことにより、ポリウレタン樹脂溶液45を塗布するときに、成膜基材43内部へのポリウレタン樹脂溶液45の浸透が抑制される。成膜基材43は、前処理液15から引き上げられた後、マングルローラ18で加圧されて余分な前処理液15が絞り落とされる。前処理後の成膜基材43は、凝固槽20方向に搬送される。なお、成膜基材43としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、前処理が不要のため、ガイドローラ12から直接マングルローラ18に送り込むようにするか、又は、前処理槽10に前処理液15を入れないようにしてもよい。以下、本例では、成膜基材43をPET製フィルムとして説明する。
【0025】
図2に示すように、塗布工程では、準備工程で調製したポリウレタン樹脂溶液45が常温下でナイフコータ46により成膜基材43に略均一に塗布される。このとき、ナイフコータ46と成膜基材43の上面との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液45の塗布厚さ(塗布量)を調整する。
【0026】
凝固再生工程では、ナイフコータ46でポリウレタン樹脂溶液45が塗布された成膜基材43が、ガイドローラ21からガイドローラ23へ向けて凝固液25中に導入される。凝固液25中では、まず、塗布されたポリウレタン樹脂溶液45の表面でポリウレタン樹脂溶液45のDMFと凝固液25との置換が進行して緻密な微多孔が形成される。この微多孔は厚さ数μm程度に形成されスキン層2aを構成する。その後、スキン層2a及び成膜基材43間のポリウレタン樹脂溶液45中のDMFと凝固液25との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材43の片面に凝固再生される。DMFの脱溶媒による凝固液25との置換に伴い、スキン層2aの内側には発泡7、及び、発泡7を立体網目状に連通する連通孔が形成されてナップ層2bを構成する。スキン層2aの厚さが数μm程度であることから、ポリウレタン樹脂溶液45の塗布厚さの大部分でナップ層2bが形成されるため、ナップ層2bの厚さはスキン層2aの厚さより大きくなる。また、脱溶媒時に、ポリウレタン樹脂溶液45に添加されているセルロース誘導体で多孔8が形成され、多孔8及び発泡7を連通する連通孔が形成される。発泡7は、PET製フィルムの成膜基材43が水を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液45の表面側(スキン層2a側)で脱溶媒が生じて成膜基材43側が表面側より大きく形成される。
【0027】
ここで、多孔8の形成について説明すると、ポリウレタン樹脂溶液45中では、セルロース誘導体及びポリウレタン樹脂の相溶性が乏しいため、2相分離していると考えられる。その上、ポリウレタン樹脂の凝固再生時には、セルロース誘導体及びポリウレタン樹脂の凝固液25中での凝固特性が異なるため、収縮量に差が生じ、また、相溶性が乏しいことから、セルロース誘導体及びポリウレタン樹脂間の界面接合力が小さくなり脱離的現象も生じるので、多孔8が形成されると考えられる。このため、多孔8はスキン層2aの微多孔より大きくナップ層2bの発泡7より小さくなり、多孔8及び発泡7を連通する連通孔の孔径は微多孔の孔径より大きくなる。
【0028】
ポリウレタン樹脂の凝固再生は、ポリウレタン樹脂溶液45が塗布された成膜基材43が凝固液25中に進入してからガイドローラ23に到る間に完了する。凝固再生したポリウレタン樹脂は、凝固液25から引き上げられ、マングルローラ28で余分な凝固液25が絞り落とされた後、ガイドローラ31を介して洗浄槽30に搬送され洗浄液35中に導入される。
【0029】
洗浄・乾燥工程では、洗浄液35中に導入されたポリウレタン樹脂をガイドローラ33に上下交互に通過させることによりポリウレタン樹脂が洗浄される。洗浄後、ポリウレタン樹脂は洗浄液35から引き上げられ、マングルローラ38で余分な洗浄液35が絞り落とされる。その後、ポリウレタン樹脂を、シリンダ乾燥機50の4本のシリンダ間を交互(図3の矢印方向)に、シリンダの周面に沿って通過させることで乾燥させる。乾燥後のポリウレタン樹脂は、成膜基材43と共に巻取ローラ42に巻き取られる。
【0030】
裏面バフ処理工程では、乾燥後のポリウレタンシートの保持面P(装着面Q)の背面(裏面)側にバフ処理が施される。図4(A)に示すように、巻取ローラ42に巻き取られたポリウレタンシート2は成膜基材43のPET製フィルム上に形成されている。成膜時にはポリウレタンシート2の厚さにバラツキが生じるため、保持面Pには凹凸が形成されている。成膜基材43を剥離した後、図4(B)に示すように、保持面Pの表面に、表面が平坦な圧接ローラ65の表面を圧接することで、保持面Pが平坦となり、保持面Pの背面N側に凹凸が出現する。背面N側に出現した凹凸がバフ処理で除去される。本例では、連続的に製造されたポリウレタンシート2が帯状のため、保持面Pに圧接ローラ65を圧接しながら、背面N側を連続的にバフ処理する。これにより、図4(C)に示すように、背面N側がバフ処理されて平坦な背面N’が形成されたポリウレタンシート2は、厚さのバラツキが解消される。なお、図4(C)では説明をわかりやすくするために保持面P及び背面N’を平坦に示しているが、ポリウレタンシート2の単体では両面共にポリウレタンシート2の厚さが一様となる凹凸を呈しており、2枚のポリウレタンシート2の背面N’同士を両面テープ3を介して貼り合わせることで保持面P、装着面Qが平坦となる。
【0031】
図2に示すように、貼り合わせ工程では、バフ処理された2枚のポリウレタンシート2の保持面Pの背面と装着面Qの背面とを貼り合わせる。ポリウレタンシート2の貼り合わせには、基材4の両面に粘着剤5が塗着された両面テープ3を使用する。このとき、1枚のポリウレタンシート2を両面テープ3の片面に貼り合わせた後、もう1枚のポリウレタンシート2を両面テープ3のもう片面に貼り合わせる。基材4には、PET等の可撓性フィルムを使用することができ、使用可能な粘着剤5としては、例えば、アクリル系粘着剤等を挙げることができる。裁断工程で円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行いバックパッド1を完成させる。
【0032】
被研磨物の研磨加工を行うときは、片面研磨機の加圧定盤にバックパッド1を装着面Q側で装着し、保持面Pに被研磨物を当接させて保持させる。図5に示すように、片面研磨機70は、下側に回転可能な研磨定盤71、上側に被研磨物78を押圧する加圧定盤72を備えている。研磨定盤71の上面及び加圧定盤72の下面は、いずれも平坦に形成されている。研磨定盤71の上面には被研磨物78を研磨するための研磨布75が貼付されており、加圧定盤72の下面にはバックパッド1が装着されている。加圧定盤72にバックパッド1を装着するときは、バックパッド1の装着面Qに適量の水を含ませて加圧定盤72に押し付ける。装着面Q側のスキン層2aの微多孔に浸入した水の表面張力がバックパッド1及び加圧定盤72間に作用すると共に、ポリウレタンシート2のポリウレタン樹脂の粘着性でバックパッド1が加圧定盤72に装着される。また、被研磨物78を保持するときは、バックパッド1の保持面Pに適量の水を含ませて被研磨物78を押し付ける。保持面P側のスキン層2aの微多孔に浸入した水の表面張力がバックパッド1及び被研磨物78間に作用するため、被研磨物78が保持される。研磨加工時には、被研磨物78及び研磨布75間に研磨粒子を含む研磨液を供給すると共に、加圧定盤72で被研磨物78に圧力をかけながら研磨定盤71を回転させることで、被研磨物78の下面(加工表面)が研磨加工される。
【0033】
(作用等)
次に、本実施形態のバックパッド1の作用等について説明する。
【0034】
本実施形態のバックパッド1では、2枚のポリウレタンシート2のスキン層2aと反対の背面同士が貼り合わされている。このため、微多孔が形成されたスキン層2aが両面側に位置するので、一方のスキン層2aの表面、すなわち保持面Pが被研磨物78に当接し、他方のスキン層2aの表面、すなわち装着面Q側が加圧定盤72に装着される。被研磨物78の保持、加圧定盤72への装着では、スキン層2aに少量の水を含ませることで微多孔に浸入した水の表面張力が作用するので、水のみで当接、装着を容易に行うことができる。従って、加圧定盤72への装着時にエアの咬み込み、位置ずれ等が生じても容易に貼り直すことができるため、装着作業に熟練を要することなく平坦かつ容易に装着することができる。また、被研磨物78が水の表面張力の作用及びポリウレタンシート2の粘着力で保持されるので、研磨加工時にキャリア(型枠)を使用しなくても被研磨物78の横ずれを抑制することができる。
【0035】
また、従来のバックパッドでは、加圧定盤への装着に両面テープが使用されるため、一度貼付したバックパッドを加圧定盤から剥離するためには両面テープの接着力以上の力で剥離し、剥離時に加圧定盤に接着剤が残留(糊残り)することがある。接着剤が残留していると、新たなバックパッドを貼付したときに糊残り部分が盛り上がるため、バックパッドの表面(保持面)の平坦性が損なわれる。これを避けるため、寿命等でバックパッドを交換するときや貼り直しをするときには、加圧定盤に残留している接着剤を完全に剥がし取る清掃作業が必要となるので、清掃作業に手間がかかり装着の作業性を低下させる。これに対して本実施形態のバックパッド1では、水のみで加圧定盤に装着することができるため、容易に剥離することができ、更に接着剤の残留が発生しない。このため、簡単に剥離でき、剥離したときの加圧定盤72の清掃を簡略化することができるので、手間をかけることなくバックパッド1の脱・装着の作業性を向上させることができる。
【0036】
更に、本実施形態のバックパッド1では、2枚のポリウレタンシート2の貼り合わせに、基材4の両面に粘着剤5を塗着した両面テープ3が使用されており、この基材4にはPET製フィルムが用いられている。このため、ポリウレタンシート2を1枚ずつ両面テープと貼り合わせることができ、貼り合わせ作業を容易に行うことができる。また、加圧定盤72の表面が若干の歪みを有していても発泡7が形成されたナップ層2bが弾性を有することから、基材4を介して加圧定盤72側のポリウレタンシート2が加圧定盤72側へ押し付けられることでナップ層2bが変形し加圧定盤72の歪みを緩和することができる。更に、ナップ層2bが弾性を有するため、被研磨物78に衝撃を与えることなく弾性状態で保持することができる。
【0037】
また更に、本実施形態のバックパッド1では、ポリウレタンシート2の保持面Pの背面、及び、装着面Qの背面がそれぞれのポリウレタンシート2の厚さが一様となるようにバフ処理されている。このため、各ポリウレタンシート2の厚さが略均一となるので、バックパッド1全体の厚さが略均一となる。これにより、平坦な加圧定盤72に装着することで保持面Pが略平坦となるので、被研磨物78を平坦に保持することができる。従って、研磨加工で被研磨物78の平坦性を向上させることができる。
【0038】
更にまた、本実施形態のバックパッド1では、ポリウレタンシート2に100%モジュラスが20MPa以下のポリウレタン樹脂が使用されている。このため、ポリウレタンシート2の表面が被研磨物の形状に合うように密着して粘着性を発揮するので、被研磨物78の保持、加圧定盤72への装着を確実にすることができる。また、本実施形態のバックパッド1では、2枚の同質のポリウレタンシート2が使用されている。このため、同一条件で成膜されたポリウレタンシート2を使用することができ、部品管理を容易にすることができる。これにより、バックパッド1の製造コスト低減を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態のバックパッド1では、保持面P、装着面Qにそれぞれナップ層2bの発泡7と連通する多孔8が形成されている。このため、スキン層2aに水を含ませて片面研磨機70に装着したとき、被研磨物78を当接したときに、弾性を有するポリウレタンシート2が変形しナップ層2bの発泡7が変形する。これにより、加圧定盤72及び保持パッド1間、保持パッド1及び被研磨物78間にエアの咬み込みが生じても、発泡7と連通した多孔8を通じて発泡7にエアが収容される(吸い込まれる)ので、加圧定盤72及び保持パッド1間、保持パッド1及び被研磨物78間でのエアの貯留を防止することができる。このとき、スキン層2aには水を含ませているため、スキン層2aの微多孔にはエアが入り込むことができないが、多孔8では孔径が微多孔より大きいため、エアが入り込むことができる。従って、エアが貯留することなく被研磨物78を略平坦に保持することができるため、研磨加工時に被研磨物78を略均等に押圧することができ、被研磨物78の加工表面が研磨布75で略均等に研磨されるので、加工表面の平坦性を向上させることができる。
【0040】
更に、本実施形態のバックパッド1では、ナップ層2bに形成された発泡7の孔径が多孔8より大きいため、スキン層2a及び被研磨物78間に咬み込まれたエアを確実に収容することができる。また、多孔8及び発泡7を連通する連通孔の孔径が、スキン層2aの微多孔の孔径より大きいため、咬み込まれたエアを円滑に収容することができる。更に、発泡7は連通孔で立体網目状に連通しているため、エアの咬み込み量が大きくてもナップ層2bに形成された発泡7の全体でエアを収容することができる。
【0041】
従来バックパッドでは、スキン層を有する1枚のポリウレタンシートの背面側を加圧定盤に装着するときに両面テープが使用されるため、装着に失敗して貼り直しをすると加圧定盤に接着剤が残留し、また、却って保持パッドにしわが生じて使用できなくなる。このため、バックパッドの装着は難しく、特に、大型のバックパッドの場合はかなりの熟練を要する。更に、寿命等で交換する場合にも加圧定盤への接着剤の残留が生じるため、残留した接着剤を剥がし取る清掃作業が必要となる。このため、清掃作業に手間がかかるので、バックパッドの加圧定盤への装着の作業性がかなり低下する。本実施形態は、これらの問題を解決することができるバックパッドである。
【0042】
なお、本実施形態のバックパッド1では、2枚のポリウレタンシート2に、ポリウレタン樹脂の100%モジュラスを20MPa以下とした同質のものを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、バックパッド1を装着する加圧定盤72や保持させる被研磨物78の特性に合わせて異なる2枚の樹脂シートを貼り合わせてもよく、厚さが異なるようにしてもよい。使用可能な樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂等を挙げることができ、100%モジュラスを20MPa以下とすれば、湿式成膜した樹脂シートが被研磨物の形状に合うように密着するので、被研磨物の保持性の向上を図ることができる。また、ポリウレタン樹脂を用いれば、湿式成膜法で容易にスキン層2aを形成することができる。更に、本実施形態のバックパッド1では、保持面P側、装着面Q側にそれぞれスキン層2aを有する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも装着面Q側にスキン層2aを有していればよい。この場合、保持面P側は、例えば、平坦性を高めるためにバフ処理等をしてもよい。また、本実施形態のバックパッド1では、研磨加工時に被研磨物の横ずれを防止するキャリアを使用しない例を示したが、キャリアを使用することで被研磨物の横ずれ防止を強化することができる。
【0043】
また、本実施形態のバックパッド1では、2枚のポリウレタンシート2の貼り合わせに、基材4の両面に粘着剤5を塗着した両面テープ3を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、基材4、粘着剤5をそれぞれ別に準備して貼り合わせるようにしてもよい。作業の簡便性を考慮すれば、両面テープ3を使用することが好ましい。また、基材4を使用せず粘着剤5のみで貼り合わせることも可能であり、更には、ポリウレタンシート2の貼り合わせる面を加熱しながら貼り合わせることで粘着剤5を使用することなく樹脂自体の粘着性で貼り合わせてもよい。加熱時の温度管理で平坦性を確保しつつ貼り合わせることが可能である。このようにすれば、基材4や粘着剤5のコスト分を削減することができる。また、本実施形態では、基材4にPET製フィルムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、不織布や織布等を使用してもよい。
【0044】
更に、本実施形態のバックパッド1では、裏面バフ処理工程で保持面P、装着面Qに圧接ローラ65を圧接させながら背面N側を連続的にバフ処理する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、バフ処理前のポリウレタンシートを所望の大きさに裁断した後、保持面P、装着面Qに、平坦な表面を有する平板を圧接して背面N側をバフ処理してもよい。
【0045】
また更に、本実施形態のバックパッド1では、多孔8を形成させる孔形成剤としてセルロース誘導体を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポリウレタン樹脂の溶解に使用する有機溶媒に可溶性であり、凝固液に用いられる水に難溶性又は不溶性のものであればよい。このような孔形成剤としてはセルロース誘導体以外に、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の高分子化合物を挙げることができる。また、これらの高分子化合物や上述したセルロース誘導体の2種以上を混合して使用してもよい。また、ポリウレタン樹脂溶液45に添加するセルロース誘導体の添加量を変えることで、多孔8の孔径を調整することができる。
【0046】
更にまた、本実施形態では、成膜基材43にPET製フィルムを使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、不織布や織布を使用してもよい。この場合には、ポリウレタン樹脂の凝固再生後に成膜基材43を剥離することが難しいため、成膜基材43のポリウレタン樹脂が再生された面の反対面側をバフ処理し、バフ処理した面同士を貼り合わせればよい。
【0047】
また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂溶液45の塗布にナイフコータ46を例示したが、例えば、リバースコータ、ロールコータ等を用いてもよく、基材43に略均一な厚さに塗布可能であれば特に制限されるものではない。また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂の乾燥にシリンダ乾燥機50を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、熱風乾燥機等を用いてもよい。
【0048】
更に、本実施形態では、湿式成膜したポリウレタンシート2は、バフ機等で保持面P、装着面Qの背面がバフ処理されるが、バフ処理量はポリウレタンシート2の厚さの範囲Rの2倍以上の厚みをバフ処理することが望ましい。バフ処理ではサンドペーパーやダイヤモンドバフロール等の種々のものが使用されるが、均一な処理(研削除去)ができるものであればいずれも使用することができる。このとき、バフ番手(砥粒の粗さを示す番号)を高くする程、細かな砥粒で研削でき均一なバフ処理ができる。更に、バフ処理を、1回目で低いバフ番手(粗い砥粒)で研削をし、2回目で1回目より高いバフ番手のもので研削量を小さくしてバフ仕上げ処理することで、厚み精度を更に上げることもできる。また、例えば、成膜時にポリウレタン樹脂溶液45の塗布厚さの調整精度を高めることで、ポリウレタンシート2の厚み精度を向上させれば、2枚のポリウレタンシート2をバフ処理せずにそのまま貼り合わせることも可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本実施形態に従い製造したバックパッド1の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例のバックパッドについても併記する。
【0050】
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタン樹脂として、100%モジュラスが10MPaのポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。セルロース誘導体としてセルロースアセテートブチレートを、ポリウレタン樹脂を30%含むDMF溶液100部に対して0.2部添加した。更に、粘度調整用のDMFの50部、顔料のカーボンブラックを30%含むDMF分散液の20部を混合してポリウレタン樹脂溶液45を調製した。このとき、セルロースアセテートブチレートは固形物(固体)であるので、均一に混合させるために予め少量の粘度調整用のDMFで溶解して添加した。ポリウレタン樹脂溶液45を塗布する際に塗布装置のクリアランスを1mmに設定した。洗浄工程での洗浄効果を高めるために凝固再生後の洗浄を温水で行った。得られたポリウレタンシート2の厚さバラツキは、標準偏差σが0.013mmであった。裏面バフ処理工程では、バフ番手♯180のサンドペーパーを用い、バフ処理量を0.25mmとした。2枚のポリウレタンシート2を両面テープ3で貼り合わせることで実施例1のバックパッド1を製造した。このバックパッド1では、同一条件で成膜した2枚のポリウレタンシート2を貼り合わせているが、厳密にいえば、スキン層2aの微多孔やナップ層2bの発泡7等の形成位置や大きさ等が微妙に異なるため、同一のものとはいえず、同質のものを貼り合わせたものである。
【0051】
(実施例2)
実施例2では、両面テープ3に代えて粘着剤5のみで2枚のポリウレタンシート2を貼り合わせること以外は実施例1と同様にした。
【0052】
(比較例1)
比較例1では、セルロースアセテートブチレートを添加せず、裏面バフ処理を行わない以外は実施例1と同様にしてポリウレタンシート2を作製しスキン層と反対の面に両面テープの片面を貼り合わせることで比較例1のバックパッドを製造した。従って、比較例1のバックパッドは、定盤への装着に両面テープを使用する従来のバックパッドである。
【0053】
(評価)
次に、実施例及び比較例のバックパッドについて、厚さ、エアの貯留状況及び被研磨物保持性を測定した。厚さは、ダイヤルゲージ(最小目盛り0.01mm)を使用し加重100g/cmをかけて測定した。縦1m×横1mのバックパッド1を縦横10cmピッチで最小目盛りの10分の1(0.001mm)まで読み取り、厚さの平均値、標準偏差σ、及び、最大厚さと最小厚さとの差を範囲Rとして求めた。被研磨物保持性は、以下の方法で測定した。図6(A)、(B)に示すように、バックパッド1の装着面Qに水をスプレで吹き付けた後、表面の水をワイパで軽く除き、表面が略平坦な定盤81に装着した。バックパッド1の保持面Pに水をスプレで吹き付けた後、表面の水をワイパで軽く除く。次に、ポリウレタンシート2上に縦10cm×横10cmのガラス板82を置き、ガラス板82に80g/cmの荷重がかかるようにおもり83を載せる。1分後、おもり83を外し、エアの貯留状況を目視にて判定した後、ガラス板82を横(水平)方向(矢印A方向)に引っ張り、ガラス板82がずれるときの引張力のピーク値(最大値)を測定した。測定は5回行い、平均値を算出して被研磨物保持性を評価した。厚さ、エアの貯留及び被研磨物保持性の測定結果を下表1に示した。なお、表1において、保持性は被研磨物保持性を示している。また、表1には、湿式成膜後バフ処理前のポリウレタンシートについての厚さの測定結果を併記する。比較例1のバックパッドの厚さについては、両面テープの剥離紙を含めて測定し、剥離紙の厚さを減算して求めた数値を示している。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、バフ処理していない比較例1のバックパッドでは、厚さの範囲Rが0.049mm、標準偏差σが0.012mmを示しており、エアの貯留も認められた。このため、比較例1のバックパッドではガラス基板等を平坦に保持することができず、厚さバラツキが大きいため、厚いところでは研磨が進み被研磨物にバックパッドの厚さバラツキが転写されるので、研磨加工後の被研磨物の高度な平坦性を期待することはできない。これに対して、保持面P、装着面Qの背面N側をバフ処理した実施例1及び実施例2のバックパッド1では、厚さの範囲Rがいずれも比較例1のポリウレタンシートより小さい数値を示し、標準偏差σがそれぞれ0.003mm、0.006mmを示しており、エアの貯留も認められなかった。また、保持性がそれぞれ714N、729Nを示しており、比較例1のバックパッドと同程度の数値を示した。このことから、スキン層2aに多孔8を形成させても被研磨物保持性には影響することなく、エアの貯留を防止することができることが判った。背面N側をバフ処理することで、ポリウレタンシート2の厚さ精度を向上させることができ、バックパッド1全体の厚さを均一化することができることが判明した。更に、実施例1、実施例2のバックパッド1では、定盤81に装着する際に、それぞれのバックパッド1と定盤81との間でもエアの貯留を解消することができた。両面テープ(基材に塗着された接着剤は一般的には感圧型である。)で定盤81に装着する比較例1のバックパッドでは、エアの咬み込みが生じると解消することができないため、部分的な盛り上がり(凸部)が生じた。このまま研磨加工を行うと被研磨物の平坦性を損なうため、針などで孔を空けて貯留したエアを抜くか、バックパッドの貼り直し(剥がしたバックパッドを廃棄して新しいバックパッドに交換する。)が必要となった。
【0056】
また、実施例1、実施例2のバックパッド1では、貼り合わせた2枚のポリウレタンシート2に同質のものを使用している。このため、バックパッド1の装着面Qと定盤81との接着力(吸着力)についても、被研磨物保持性と同等であると考えられる。実施例1、実施例2のバックパッド1を用い、オスカー研磨機でガラス基板の研磨加工を行った結果、加圧定盤からのバックパッド1の剥離及びバックパッド1からのガラス基板の剥離がいずれも認められず、保持性についての問題は生じなかった。また、バックパッド1の装着、取り外しも容易に行うことができた。
【0057】
更に、比較例1のバックパッドでは、定盤81への装着に両面テープを用いるため、貼り直すとしわが生じてしまい、平坦に装着するのに手間がかかった。被研磨物保持性の測定後、比較例1のバックパッドを交換するときに、定盤81に接着剤の残留が認められ、この残留した接着剤を剥がし取る作業にも手間を要した。これに対して、実施例1、実施例2のバックパッド1では、装着に水のみを用いるため、貼り直しをしても容易に平坦に装着することができた。実施例1、実施例2のバックパッド1を交換するときでも残った水分を拭き取るだけで、ほとんど手間がかからなかった。従って、2枚のポリウレタンシート2を貼り合わせたバックパッド1では、スキン層2aに含ませた水の作用で、定盤81に容易かつ確実に装着することができ、ガラス板82等を略平坦に保持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は定盤に容易に装着可能で装着の作業性を向上させることができる保持パッドを提供するため、保持パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る実施形態のバックパッドを示す断面図である。
【図2】バックパッドの製造工程を示す工程図である。
【図3】バックパッドのポリウレタンシートの製造に用いる成膜装置の概略構成を示す正面図である。
【図4】裏面バフ処理工程でのポリウレタンシートの変化を示す断面図であり、(A)は成膜基材に形成されたポリウレタンシート、(B)は圧接ローラに保持面、装着面を圧接したときのポリウレタンシート、(C)は裏面バフ処理後のポリウレタンシートをそれぞれ示す。
【図5】バックパッドを装着した片面研磨機の被研磨物を保持させた部分を示す断面図である。
【図6】バックパッドの被研磨物保持性を評価するときのバックパッド、定盤及び被研磨物の位置関係を模式的に示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【符号の説明】
【0060】
P 保持面
Q 装着面
1 バックパッド(保持パッド)
2 ポリウレタンシート(軟質プラスチックシート)
2a スキン層(表面層)
2b ナップ層
4 PET製フィルム
5 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面側が定盤に装着され、他面側が被研磨物に当接する保持パッドにおいて、前記保持パッドは2枚の軟質プラスチックシートの背面同士が貼り合わされており、該2枚の軟質プラスチックシートの少なくとも一方は微多孔が形成された表面層を有しており、該表面層側が前記定盤に装着されることを特徴とする保持パッド。
【請求項2】
前記2枚の軟質プラスチックシートは、前記微多孔が形成された表面層をそれぞれ有しており、一方の表面層側が前記定盤に装着され、他方の表面層側が前記被研磨物に当接することを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項3】
前記軟質プラスチックシートの背面同士は、基材と該基材の両面に配された粘着剤とを有する接着部材で貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項4】
前記軟質プラスチックシート同士は同質であることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項5】
前記軟質プラスチックシートの背面側は、それぞれの軟質プラスチックシートの厚さが一様となるようにバフ処理されていることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項6】
前記軟質プラスチックシートは、前記表面層の内側に、前記表面層に形成された微多孔より孔径の大きい発泡が形成された発泡層を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の保持パッド。
【請求項7】
前記軟質プラスチックシートは、前記表面層の表面に、前記表面層に形成された微多孔より孔径が大きく前記発泡層に形成された発泡より孔径が小さい多孔が更に形成されており、該多孔が前記発泡層に形成された発泡と連通していることを特徴とする請求項6に記載の保持パッド。
【請求項8】
研磨加工時に被研磨物の横ずれを防止するキャリアを更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の保持パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−326714(P2006−326714A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150575(P2005−150575)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】