説明

保持具

【課題】板状試料の大きさ、形状に関わらず、試料底面を試料台に接触させずに簡便に安定した状態で保持できる保持具を提供する。
【解決手段】板状上部保持部材2と板状下部保持部材3と両保持部材の間に試料を挟んだ状態で両保持部材を固定する固定手段(4、5、5a、5b)とを備え、前記固定手段を、前記両保持部材の板中心から離れる位置に設ける構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状試料の表面状態を分析するために、板状試料を保持する保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
板状試料の表面状態を分析するために、オージェ電子分光分析方法や走査型電子顕微鏡方法やX線光電子分光分析方法などが使われている。
オージェ電子分光分析方法は、試料に電子線を照射して試料の内殻電子を励起させ、放出されるオージェ電子を検出し、エネルギー分光をする方法である。このオージェ電子分光分析方法は、オージェ電子の脱出可能深さが数nmと非常に浅い為、他の表面分析手法と比較して、極表面の含有元素の情報が得られる。また、オージェ電子分光分析方法は、電子線を絞ることにより微小領域の表面分析が可能である、等の特長を持っており、半導体デバイスや情報記録媒体の微小部の分析等に多く活用されている。
【0003】
また、走査型電子顕微鏡は、試料に電子線を照射して試料から発生する二次電子や反射電子を検出して形状観察をする方法で、オージェ電子分光分析装置にも多く組み込まれている。さらに、エネルギー分散型X線分光器を備えたものでは、二次電子等と共に発生する特性X線を検出して元素分析を行うことが可能でさまざまな分野で活用されている。
X線光電子分光分析方法は、試料にX線を照射し、励起された光電子のエネルギー分析を行う方法であり、光電子の脱出可能深さが数nmと非常に浅い為、オージェ電子分光分析方法と同様に極表面の含有元素の情報が得られる。さらに、X線光電子分光分析方法は、結合エネルギーのシフト値から化学結合状態を知ることが出来るため、金属、半導体、有機物等の表面状態調査に多用されている。
【0004】
これらの分析方法では、試料は装置毎に設計された試料台に保持されることが多く、測定上必要に応じて傾斜や回転などの動作が生じるので、ずれや脱落を防ぐためネジや接着剤などで試料台に固定される。
その際に板状試料の上面を分析面として、下面を底面として試料台に接触した状態で固定されるのが通常である。
しかし、前述のような方法で分析試料を固定すると、底面は試料台からの汚染や接触したことによる状態変化などが生じている恐れが高く、それ以降、分析面として使用することが出来ない。したがって、両面の測定が必要な試料の場合においても片面しか測定を行うことが出来ず、面毎に試料を用意する必要があり、試料が少ない場合は対応が困難であった。
【0005】
この問題を回避するため、特定の試料では形状に合わせて底面を開口した試料台を作成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。図6は、特許文献1に記載されている保持具の構成図である。図6に示されるように、上部保持板10、下部保持板11それぞれに開口部を設けてフィルム試料を挟む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−209372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された従来の保持具は、板状試料の大きさや形状に合わせて底面を開口しているため、板状試料の大きさや形状に合わせて開口の異なる保持具を用意しなければならないという問題があった。
以上の問題に鑑み、本発明は、板状試料の大きさ、形状に関わらず、試料底面を試料台に接触させずに簡便に安定した状態で保持できる保持具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、本発明によれば、次のような構成によって解決される。
本発明による保持具は、板状上部保持部材と、板状下部保持部材と両保持部材の間に試料を挟んだ状態で両保持部材を固定する固定手段とを備え、前記固定手段は、前記両保持部材を部材中心から離れる位置で締め付け固定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本発明による保持具を複数用い、試料の複数個所を保持具で挟んだ状態で分析装置の試料台に載置することにより、試料の大きさ、形状に関わらず、試料の底面と試料台を接触しない状態で、試料を保持することができる。また、両板状保持部材の中心から離れる位置に固定手段を備えることにより、大きい試料に対して保持具端部とネジ穴との間の距離の長い側で保持し、小さい試料に対して、保持具端部とネジ穴との間の距離の短い側で保持することで、保持具を交換せず、異なるサイズの試料を同時に保持することも可能であるため、試料の交換回数の低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による保持具の構成図である。
【図2】本発明による保持具が試料を挟んだ状態のイメージ図である。
【図3】本発明による保持具が試料を挟む工程図である。
【図4】本発明による保持具に取り付けた試料の設置例を示す図である。
【図5】本発明による保持具に取付けた試料の他の設置例を示す図である。
【図6】従来の保持具の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明による保持具の実施形態を説明する。
図1は、本発明による保持具の構成図である。図1において、(a)は各部構成断面図、(b)は組立状態の断面図、(c)は組立状態の平面図を示している。
図1において、1は保持具、2は上部保持部材、3は下部保持部材、4はナット、5はスタッドボルト、5aは上部保持部材の貫通穴、5bは下部保持部材の穴、を示している。
図1に示すように、本発明による保持具1は、上部保持部材2と下部保持部材3とネジ部(ナット4とスタッドボルト5)を備えている。この上部保持部材2には貫通穴5aを形成してスタッドボルト5を挿通させ、このスタッドボルト5は下部保持部材3のネジ穴5bに螺着している。また、この上部保持部材2の貫通穴5aと下部保持部材3の螺着穴5bとを両保持部材の中心部位から離れる部位に設けている。
【0012】
図2は、本発明による試料を挟んだ状態のイメージ図である。図2において、(a)は試料を挟んだ状態の平面図、(b)は試料を挟んだ状態の断面図を示している。図2において、7は試料を示しており、図1と同じ構成要素は同じ符号で示されている。
図2に示すように、本発明による保持具1は、上部保持部材2と下部保持部材3とにより試料7を挟むように保持する。そして、保持具1は、試料7の対辺に設置される。
このような機構において、保持具1による試料を保持する(挟む)過程を図3に基づいて説明する。
【0013】
図3(a)に示すように、ナット4を緩めて上部保持部材2を押し上げ、下部保持部材3との間に試料7を差し込み、次に図3(b)に示すように、ナット4で軽く締め、試料7が保持具1に保持される。その後、図3(c)に示すように、同様に試料7の対辺付近にも保持具1を取り付ける。本実施例では試料の対面2ヶ所に保持具1を取付けたが、保持具1の取付け位置、個数は試料の大きさや形状に応じて決められる。
図4は、本発明による保持具に試料を取り付け設置した例を示す図である。
図4において、(a)は保持具の一端に試料を取り付けた状態の断面図、(b)は保持具の両端に試料を取り付けた状態の断面図を示している。図において、6は網状の溝、8は他の試料を示しており、図1〜図3と同じ構成要素は同じ符号で示されている。
【0014】
図4においては、大きい試料7と小さい試料8のそれぞれの一端部が1つの保持具1の上部保持部材2と下部保持部材3の両側でそれぞれ保持されている。この時、大きい試料7は、スタッドボルト5と端部間の距離が長い方に保持し、小さい試料8はスタッドボルト5と端部間の距離が短い方に保持することが好適である。なお、試料7、8の他端部は、図示されていないが他の保持具により保持される。
図5は、本発明による保持具に試料を取付けた他の設置例を示す図である。図5において、(a)は分析装置の試料台に保持具を設置した状態の断面図、(b)は分析装置の試料台に保持具を設置した状態の平面図を示している。図において、
9は設置台を示しており、7、8は図4と同様に大きさの異なる試料である。
【0015】
図5に示すように、大きい試料7の両端は、保持具1のスタッドボルト5と端部間の距離が長い方で保持され、小さい試料8の両端は、保持具1のスタッドボルト5と端部間の距離が短い方で保持される。
このように、上部保持部材2の貫通穴5aと下部保持部材3の螺着穴5bとを両保持部材の中心部位から離れる部位に設けることにより、小さい試料に対しては保持具1による保持部分の長さを短くすることができ、試料の分析面を広げることができる。
【0016】
このように構成することにより、板状試料の大きさ、形状に関わらず、板状試料の底面と試料台を接触しない状態で、板状試料を保持することができる。また、上部と下部の両板状保持部材の中心から離れる位置にネジ穴を設けることにより、大きい試料7に対して保持具端部とネジ穴との間の距離の長い側で保持し、小さい試料8に対して、保持具端部とネジ穴との間の距離の短い側で保持することで、試料の大きさや形状に合わせて開口の異なる保持具を用意しなくても良くなる。また、保持具1の両端部で試料を保持することもできるため、保持具を交換せず、異なるサイズの試料を同時に保持することも可能であるため、試料の交換回数の低減に寄与することができる。
【0017】
本発明においては、操作性向上のために、次の構成とすることが好適である。
1)上部保持部材2と下部保持部材3との向かい合う面に、網状の溝6を設ける。このように構成することにより、平坦な試料の滑り止めができる。また、この網目状溝6は、網目状溝である必要は無い。網状の溝6の代わりにすべり留めシートを設置しても同様な効果が得られる。
2)上部保持部材2と下部保持部材3とに、金属或は表面処理部材(めっき、蒸着など)を使用する。このように構成することにより、分析時に、試料(7、8)の帯電の影響を解消できる。
3)上部保持部材2と下部保持部材3を耐熱性の良い材料にする。例えば、SUSやINCONEL等の材料にする。このように構成することにより、保持具1は温度により生じたひずみ変形が発生せず、高温(200度程度)でも使用できる。
4)下部保持部材3の厚さを1mm以上にする。このように構成することにより、スタッドボルト5を下部保持部に螺着することが容易となる。
5)両保持部材の外周の一端とスタッドボルト5の螺着用ネジ穴部との間の距離を、他端とネジ穴部との距離より短くして、全体としてほぼ1対2に分ける位置にネジ穴を形成する。このような構成することにより、各種大小異なる試料7、8を同時保持することができる。この端部とネジ穴との間の距離は、1対2に分ける必要はない。1対3にも同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0018】
1 ……保持具
2、10 ……上部保持部材
3、11 ……下部保持部材
4 ……ナット
5 ……スタッドボルト
5a ……上部保持部貫通穴
5b ……下部保持部螺着穴
6 ……網状の溝
7、8 ……試料
9 ……試料台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状上部保持部材と、板状下部保持部材と、両保持部材の間に試料を挟んだ状態で両保持部材を固定する固定手段とを備え、
前記固定手段は、前記両保持部材を部材中心から離れた位置で締め付け固定することを特徴とする保持具。
【請求項2】
前記固定手段は、ネジ部材と、該ネジ部材を挿通するために前記板状上部保持部材の板中心から所定距離だけ離れた位置に設けられた貫通穴と、前記ネジ部材を螺着するために前記板状下部保持部材の板中心から前記所定距離だけ離れた位置に設けられたネジ穴とから構成され、前記ネジ部材にて前記両保持部材を締め付け固定することを特徴とする請求項1に記載の保持具。
【請求項3】
前記板状下部保持部材の板厚は、前記試料を分析する分析装置の試料台に、当接しない高さに前記試料底面を保つ厚さであることを特徴とする請求項1または2に記載の保持具。
【請求項4】
前記板状上部保持部材と、前記板状下部保持部材と、前記ネジ部材は、導電性を有することを特徴とする請求項2または3に記載の保持具。
【請求項5】
前記板状上部保持部材と前記板状下部保持部材は、耐熱性の良い材料であることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の保持具。
【請求項6】
前記板状上部保持部材と前記板状下部保持部材は、前記試料と接する当接面に、少なくとも網状の溝が設けられることを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の保持具。
【請求項7】
前記所定距離は、前記両板状保持部材外周の一端と前記貫通穴または前記ネジ穴との間の距離を、他端と前記貫通穴または前記ネジ穴との距離より短くして、全体としてほぼ1対2に分ける距離であることを特徴とする請求項2ないし6の何れか1項に記載の保持具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−63215(P2012−63215A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206877(P2010−206877)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】