説明

保持治具、一組の保持治具及び被粘着物保持装置

【課題】被粘着物を数百個〜数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させることのできる保持治具、並びに、多数の被粘着物を一方の保持治具から他方の保持治具へと起立状態を維持したままに移し替えることのできる一組の保持治具及び被粘着物保持装置の提供。
【解決手段】粘着特性を有する弾性部材3を備えて成る保持治具1であって、前記粘着特性は、前記弾性部材3の被押し込み量X(μm)と粘着力Y(g)とが以下の関係式(1)を満たすことを特徴とする保持治具1、並びに、粘着特性を有する弾性部材を備えて成る第1保持治具と第2保持治具とを備え、第1保持治具及び第2保持治具の少なくとも一方は保持治具1であり、かつ、第2保持治具は第1保持治具よりも大きな粘着力を有することを特徴とする一組の保持治具及びこの一組の保持治具を備えた被粘着物保持装置。
(1)Y=aX+b(Xは20〜150、aは7〜20、bは25〜700である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持治具、一組の保持治具及び被粘着物保持装置に関し、さらに詳しくは、小型部品用部材等の被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させることのできる保持治具、並びに、小型部品用部材等の被粘着物を数百個から数千個の単位で一方の保持治具における弾性部材から他方の保持治具における弾性部材へと、起立状態を維持したままに、移し替えることのできる一組の保持治具及び被粘着物保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、チップコンデンサ等の小型部品等を製造する際等に、この小型部品を製造可能な小型部品用部材等をその表面に粘着保持可能な保持治具が用いられている。例えば、特許文献1に記載の保持治具は、「少なくとも表面部が粘着性を有するゴム弾性材で形成され、その粘着力により小型部品をその弾性材表面において密着保持可能であることを特徴とする」(特許文献1の請求項1参照)。
【0003】
ところで、例えばチップコンデンサを製造するには、チップコンデンサは角柱体又は円柱体等における軸線方向の両端部に電極を形成して成るから、チップコンデンサを製造する際に使用される保持治具には、その表面に粘着保持した、角柱体又は円柱体等を成した小型部品用部材の下端面に一方の電極を形成した後に、その小型部品用部材を前記保持治具から離脱し、次いで、電極を形成して成る端面を再び保持治具の表面に密着保持させる必要がある。
【0004】
この必要に応える発明として、例えば、特許文献2に記載された電子部品チップ用ホルダがある。この特許文献2に記載された電子部品チップ用ホルダは、「互いに対向する第1及び第2の端面を有する電子部品チップを保持するための電子部品チップ用ホルダにおいて、前記電子部品チップ用ホルダは、第1部材と第2部材とを含み、前記第1部材は、前記電子部品チップを保持するための第1の粘着面を備え、前記第2部材は、前記電子部品チップの前記第2の端面に粘着して前記電子部品チップを保持するための、前記第1の粘着面が与える粘着力よりも強い粘着力を与える第2の粘着面を備えることを特徴とする」(特許文献2の請求項1参照。)。この特許文献2には、一方の電子部品チップ用ホルダにおける第2の粘着面の粘着力を、他方の電子部品チップ用ホルダにおける第1の粘着面の粘着力よりも、大きく設定する必要のあることが、記載されている(特許文献2の[0026]及び[0028]欄参照。)。
【0005】
しかし、例えば、第1の粘着面に粘着保持させた多数の被粘着物を第2の粘着面に移し替えて第2の粘着面に粘着保持させ、しかも第1の粘着面に粘着保持された多数の被粘着物の全てを第2の粘着面に移し替えるには、単に第1の粘着面の粘着力と第2の粘着面の粘着力とを相違させるだけでは不十分である。例えば、特許文献2に記載の電子部品チップ用ホルダにおける第1部材に多数の電子部品チップを一挙に粘着させる際に、複数の電子部品チップが第1部材に粘着されず、転倒すること等があり、また、この電子部品チップ用ホルダを用いて多数の電子部品チップを第1部材から第2部材の部材に移転する際に、複数の電子部品チップが取り残され、又は、転倒することがある。
【0006】
【特許文献1】特公平07−93247号公報
【特許文献2】特許第2682250号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、例えば軸長が0.4mm以上1.6mm以下であるような小型部品用部材等の被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させることのできる保持治具を提供することにある。
【0008】
また、この発明の課題は、前記被粘着物を数百個から数千個の単位で一方の保持治具における弾性部材から他方の保持治具における弾性部材へと、起立状態を維持したままに、移し替えることのできる一組の保持治具、及び、この一組の保持治具を備えた被粘着物保持装置を提供すること、にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、粘着特性を有する弾性部材を備えて成る保持治具であって、前記粘着特性は、前記弾性部材の被押し込み量X(単位:μm)と粘着力Y(単位:g)とが以下の関係式(1)を満たす粘着特性であることを特徴とする保持治具であり、
Y=aX+b (1)
ただし、前記関係式(1)において、Xは20以上150以下、aは7以上20以下、bは25以上700以下である。
請求項2は、前記弾性部材は、その表面の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が5μm以下であり、その表面の硬度(JIS K 6253[デュロメータA])が10以上40以下であることを特徴とする請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、粘着特性を有する第1の弾性部材を備えて成る第1の保持治具と、粘着特性を有する第2の弾性部材を備えて成る第2の保持治具とを備え、前記第1の保持治具及び前記第2の保持治具の少なくとも一方は請求項1又は2に記載の保持治具であり、かつ、前記第2の弾性部材は前記第1の弾性部材の粘着力よりも大きな粘着力を有することを特徴とする一組の保持治具であり、
請求項4は、請求項3に記載の一組の保持治具を備えた被粘着物保持装置である。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る保持治具における弾性部材は、被押し込み量Xと粘着力Yとが前記関係式(1)を満たす粘着特性を有しているから、弾性部材の被押し込み量(被粘着物の弾性部材への押し込み量)が調整されることにより、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させるのに十分な粘着力を発揮することができる。それ故、この発明に係る保持治具は、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させる際に、弾性部材の被押し込み量が調整されることにより、被粘着物が所望の粘着力で粘着保持され、多数の被粘着物が転倒することを効果的に防止することができる。したがって、この発明によれば、例えば軸長が0.4mm以上1.6mm以下であるような小型部品用部材等の被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させることのできる保持治具を提供することができる。
【0011】
また、この発明に係る一組の保持治具及び被粘着物保持装置は、この発明に係る保持治具を備えているから、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で一方の保持治具に所望のように粘着保持することができると共に、被粘着物を一方の保持治具から他方の保持治具に移し替える際に、各保持治具における各弾性部材の被押し込み量を調整することにより、被粘着物が一方の保持治具に取り残され、転倒することを効果的に防止して、数百個から数千個の単位で被粘着物を一方の保持治具から他方の保持治具に起立状態を維持したままに移し替えることができる。したがって、この発明によれば、被粘着物を数百個から数千個の単位で一方の保持治具における弾性部材から他方の保持治具における弾性部材へと、起立状態を維持したままに、移し替えることのできる一組の保持治具及び被粘着物保持装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明に係る一実施例である保持治具を、図を参照して、説明する。図1に示されるように、この保持治具1は、治具本体2と、治具本体2の表面に形成されて成る弾性部材3とを有し、その弾性部材3の表面に弾性部材3の粘着力で被粘着物を保持することができる。
【0013】
この発明における被粘着物は、この発明に係る保持治具に粘着保持される必要性のある小型部品を製造可能な小型部品用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等が挙げられる。また、小型部品の製造には小型部品の搬送工程等も含まれるから、被粘着物は、小型部品そのもの、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等も含まれる。したがって、この発明においては、小型部品と小型部品用部材とは明確に区別される必要はない。これら被粘着物の中でも、この発明に係る保持治具が粘着保持するのに好適な被粘着物として、小型電子部品及び/又は小型電子部品用部材等が挙げられる。小型電子部品及び小型電子部品用部材としては、例えば、コンデンサチップ(チップコンデンサとも称されることがある。)、インダクタチップ、抵抗体チップ、FPC、ウエハー等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な例えば、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等が挙げられる。例えば、被粘着物として、その軸長が0.4mm以上1.6mm以下の角柱体又は円柱体等の小型部品用部材等が挙げられる。
【0014】
この発明に係る保持治具は、例えば、このような小型電子部品及び/又は小型電子部品用部材の粘着保持用として好適である。特に、この発明に係る保持治具は、少なくとも二箇所に導電性ペーストを塗布する必要のある小型電子部品用部材の粘着保持用として、さらに好適である。小型電子部品用部材の少なくとも二箇所に導電性ペーストを塗着させる場合に、保持治具に粘着保持された小型電子部品用部材の一部を導電性ペーストに浸漬した後に、その小型電子部品用部材を他の保持治具で粘着保持し直すときに、従来の保持治具では小型電子部品用部材を他の保持治具に所望のように保持することができないことがあったところ、この発明の保持治具では、小型電子部品用部材を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で保持治具に所望のように粘着保持することができると共に、多数の小型電子部品用部材を最初に粘着保持させた保持治具に小型電子部品用部材のほとんどを残存させることも転倒させることもなく、所望のように多数の小型電子部品用部材を他の保持治具に粘着保持させることができる。
【0015】
前記保持治具1における前記治具本体2は、後述する弾性部材3を保持又は支持する。治具本体2は、弾性部材3を保持又は支持することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができる。例えば、保持治具1における治具本体2は、図1に示されるように、方形を成す盤状体に形成されている。治具本体2における寸法の一例として、例えば、120mm×120mm×0.5mm(厚さ)の寸法を挙げることができる。
【0016】
治具本体2は、弾性部材3を保持又は支持可能な厚さを有していればよいが、治具本体2は平滑な表面を有しているのがよく、さらに、治具本体2は均一な厚さを有しているのがよい。治具本体2は、弾性部材3を形成する面に、弾性部材3との密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理及び/又はプラズマ処理等が施されるのが好ましい。
【0017】
前記弾性部材3は、多数の被粘着物を粘着により保持することができるように設計され、例えば、図1に示されるように、前記治具本体2の表面に方形を成す盤状体に成形されている。弾性部材3における寸法の一例として、例えば、110mm×110mm×1.5mm(厚さ)の寸法を挙げることができる。
【0018】
弾性部材3は、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力を有している。具体的には、弾性部材3は、通常、被押し込み量が150μmのときに、1,075g以上3,700g以下の粘着力を有しているのがよく、1,100g以上3,550g以下の粘着力を有しているのがよい。
【0019】
ここで、弾性部材3の粘着力は、以下のようにして求める。以下の粘着力の測定方法は、出願人により案出されたので、信越ポリマー法と称する。この信越ポリマー法においては、まず、弾性部材3を水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱を成したステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。次いで、この荷重測定装置における吸着固定装置又は真空吸引チャックプレート上に弾性部材3を固定し、測定環境を温度23±3℃、湿度50±5%に設定する。次いで、5mm/minの降下速度で弾性部材3の被測定部位に接触するまで、前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子(接触面積25πmm)を下降させ、次いで、被測定部位の被押し込み量を20〜150μmの範囲内における所定の押し込み量、通常150μmになるように、前記接触子を被測定部位に垂直に押し込み、その状態を3秒間保持する。ここで、前記接触子にかける荷重は被押し込み量に応じて所望の値に調整される。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を弾性部材3の粘着力とする。なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAL MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
【0020】
この弾性部材3は、前記粘着力を有し、しかも、被押し込み量X(単位:μm)と粘着力Y(単位:g)とが以下の関係式(1)を満たす粘着特性を有している。
【0021】
Y=aX+b (1)
この関係式(1)において、Xは20以上150以下、aは7以上20以下、bは25以上700以下である。
【0022】
図2に示されるように、前記関係式(1)を満たす領域は、Xが20以上150以下の領域であって、Y≦20X+700で示される領域であり、かつ、Y≧7X+25で示される領域である。すなわち、前記関係式(1)を満たす領域は、X=20、X=150、Y=20X+700及びY=7X+25で示される各直線上、及び、これら直線で囲まれた領域である。
【0023】
前記のように、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力を有する弾性部材を備えた従来の保持治具を用いても、多数の被粘着物を粘着保持させる際に、そのうち複数の被粘着物が弾性部材に粘着保持されず、転倒することがあり、また、多数の被粘着物を粘着保持させることができても、他の保持治具に移し変える際に、そのうちの複数の被粘着物が取り残され、又は、転倒して、最初に粘着保持された多数の被粘着物を他の保持治具に移し変えることができないことがあった。
【0024】
このような状況の下、本出願人によって、弾性部材に被粘着物を粘着保持させるときに、弾性部材に被粘着物を押し込む量(弾性部材の被押し込み量)によって、弾性部材が発現する粘着力を調整することができ、かつ、被粘着物による弾性部材の被押し込み量と弾性部材の粘着力とが所定の関係を有することが見出され、さらに、この知見に基づいて、被粘着物による弾性部材の被押し込み量を調整することによって、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させるのに十分な粘着力を弾性部材に発揮させることをできることが見出された。弾性部材がこのような関係を満たす粘着特性を有する理由は、明らかではないが、その一つとして、弾性部材に被粘着物をほぼ垂直な起立状態に粘着保持することができる程度の、弾性部材への被粘着物の被押し込み量の範囲において、被粘着物を弾性部材に押し込むと、例えば、被粘着物における底面近傍の側面が新たに弾性部材に接触して、弾性部材と被粘着物との接触面積が増加し、その結果、被粘着物のほぼ垂直な起立状態を維持しつつ、弾性部材と被粘着物との粘着力が増加することによると、考えられる。
【0025】
したがって、弾性部材3が、被押し込み量Xと粘着力Yとが前記関係式(1)を満たす粘着特性を有していると、弾性部材3の被押し込み量が調整されることにより、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させるのに十分な粘着力を発揮することができる。その結果、弾性部材3、すなわち、この発明に係る保持治具1は、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で粘着保持させる際に、被粘着物が所望の粘着力で粘着保持され、多数の被粘着物が転倒することを効果的に防止することができる。
【0026】
前記領域について詳細に説明すると、前記領域における弾性部材の被押し込み量(X)は20以上150以下である。前記領域における弾性部材の粘着力(Y)は、Y=20X+700以下の領域であり、かつY=7X+25以上の領域である。前記領域における弾性部材の粘着力(Y)は、好ましくは、Y=20X+550以下の領域であり、かつY=7X+50以上の領域である。また、前記領域は、弾性部材が本来有する絶対的な粘着力に応じて、例えば、Y=20X+700以下かつY=18X+350以上の比較的強い粘着力を有する領域と、Y=9X+500以下かつY=7X+25以上の比較的弱い粘着力を有する領域とに、分割されることもできる。特に、後述する一組の保持治具及び被粘着物保持装置に用いられる第1の治具本体と第2の治具本体とを、弾性部材が本来有する絶対的な粘着力に応じて、一方の保持治具を強粘着性保持治具とし、他方の保持治具を弱粘着性保持治具とする場合には、強粘着性保持治具は、前記比較的強い粘着力を有する領域に含まれる粘着特性を有する弾性部材を備え、弱粘着性保持治具は前記比較的弱い粘着力を有する領域に含まれる粘着特性を有する弾性部材を備えているのが、被粘着物を弱粘着性保持治具から強粘着性保持治具に移し替える際に、被粘着物が弱粘着性保持治具に取り残され、転倒することを効果的に防止して、多数の被粘着物を弱粘着性保持治具から強粘着性保持治具に起立状態を維持したままに移し替えることができる点で、好ましい。前記比較的強い粘着力を有する領域は、好ましくは、例えば、Y=19.8X+700以下かつY=19X+390以上の領域であり、前記比較的弱い粘着力を有する領域は、好ましくは、例えば、Y=9X+470以下かつY=7.4X+29以上の領域である。
【0027】
弾性部材の粘着力(Y)は、前記信越ポリマー法により測定することができる。弾性部材の被押し込み量(X)は、前記信越ポリマー法における荷重測定装置に、デジタルフォースゲージの降下量を測定可能なZ軸線目盛りを取り付け、この目盛りから前記接触子を弾性部材に押し込んだ量を計測することができる。前記被押し込み量(X)及び前記粘着力(Y)は、弾性部材の複数箇所を測定し、測定値を算術平均した値とするのがよい。弾性部材の粘着力を調整するには、ゴム組成物に含有されるゴム又は各種添加剤等の種類または含有量等を調整すればよい。
【0028】
弾性部材3は、被粘着物を粘着保持する表面の硬度(JIS K6253[デュロメータA])が、10以上40以下であるのが好ましく、20以上35以下であるのがより好ましい。被粘着物を粘着保持する弾性部材3の表面が前記硬度の範囲内にあると、多数の被粘着物を実質的に垂直な起立状態で弾性部材3に粘着保持することができると共に、弾性部材3が前記関係式(1)を満足しやすくなる傾向がある。
【0029】
弾性部材3は、被粘着物を粘着保持する表面が平滑であるのが好ましく、具体的には、例えば、被粘着物を粘着保持する表面の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が5μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがさらに好ましく、0.5μm以下であるのが特に好ましい。弾性部材3の被粘着物を粘着保持する表面の十点平均粗さRzが前記範囲内であると、弾性部材3の表面に粘着保持する被粘着物を実質的に垂直な起立状態で粘着保持することができると共に、保持治具の振動及びその他の原因により被粘着物が倒れることも粘着保持位置のずれも防止することができる。十点平均粗さRzは、カットオフ0.8mm、測定長さ2.4mm等の条件で測定する。弾性部材における表面の十点平均粗さRzは、例えば、弾性部材を形成する際に用いる金型における製品部形成面のブラスト処理等により調整することができる。
【0030】
弾性部材3は、所望の厚さを有していればよいが、均一な厚さを有しているのがよく、例えば、300μm以上2,000μm以下の厚さに調整される。
【0031】
保持治具は、前記治具本体の表面に弾性部材が形成されており、弾性部材は、図1に示されるように、治具本体における表面の一部に形成されても、また、その表面全体に形成されてもよい。
【0032】
前記治具本体2は、弾性部材3を保持又は支持可能な材料で形成されればよく、例えば、ステンレス鋼及びアルミニウム等の金属製プレート、アルミニウム箔及び銅箔等の金属箔、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム又は樹脂板、和紙、合成紙及びポリエチレンラミネート紙等の紙、並びに、布、ガラス繊維及びガラス板等のセラミックス、並びに、ガラスエポキシ樹脂板等の複合材料等を挙げることができる。さらに、治具本体2として、シート状物を複数積層して成る積層体とすることもできる。治具本体2は、金属、樹脂又はセラミックスからなる硬質材料で形成されるのが好適である。
【0033】
弾性部材3は、弾性部材に前記粘着力を付与することのできる粘着性材料、又は、この粘着性材料の硬化物で形成されていればよく、粘着材料として、例えば、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴム、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴムを含有するフッ素系組成物、シリコーン樹脂又はシリコーンゴム、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含有するシリコーン組成物、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等が挙げられる。この中でも、シリコーンゴム、及び/又は、シリコーンゴムを含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物が好ましい。
【0034】
前記付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物としては、シリコーン生ゴム(a)と、架橋成分(b)と、粘着力向上剤(c)と、触媒(d)と、シリカ系充填材(e)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
【0035】
前記シリコーン生ゴム(a)としては、(RSiO2/2)単位(Rは、炭化水素基を表す。)を含み、置換基を有していてもよいポリジメチルシロキサンの長鎖重合体等であればよく、例えば、付加反応により架橋可能なポリオルガノシロキサンを用いることができ、より具体的には、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを用いることができ、特に、下記(1)式で示されるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを好適に用いることができる。
【0036】
(3−a)SiO−(RXSiO)−(RSiO)−SiR(3−b) (1)式
ただし、(1)式中、Rは脂肪族不飽和結合を有することのない1価の炭化水素基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Xはアルケニル含有有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数、mは0以上の整数、nは100以上の整数であり、a、b及びmは同時に0とはならない。
【0037】
前記式(1)において、Rとしては、炭素数1〜10の前記炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖又は分岐アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等が挙げられ、特にメチル基、フェニル基が好ましい。また、Xで示されるアルケニル基含有有機基としては、炭素数2〜10のアルケニル基含有有機基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等の炭素二重結合含有炭化水素基、アクリロイルプロピル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基、メタクリロイルメチル基等の(メタ)アクリロイルアルキル基、シクロヘキセニルメチル基、シクロヘキセニルエチル基、シクロヘキセニルプロピル基等のシクロアルケニルアルキル基、ビニルオキシプロピル基等を挙げることができる。
【0038】
シリコーン生ゴム(a)は、オイル状、粘土状の性状を有していてもよく、その粘度は25℃において50mPa・s以上であるのが好ましく、特に100mPa・s以上であるのが好ましい。
【0039】
シリコーン生ゴム(a)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
前記架橋成分(b)は、前記シリコーン生ゴム(a)と架橋反応可能な成分であり、例えば、1分子中にSi原子に結合したH原子を少なくとも2個以上、好ましくは3個以上有するSiH結合含有ポリオルガノシロキサン(以下、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと称することもある。)を用いることができる。
【0041】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、直鎖状、分枝状、環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの中から適宜に選択して使用することができ、例えば、下記(2)式又は(3)式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを好適例として挙げることができる。
【0042】
HcR(3−c)SiO−(HRSiO)−(RSiO)−SiR(3−d) (2)式
【0043】
【化1】

【0044】
前記(2)式及び(3)式において、Rは前記と同様の1価の炭化水素基であり、同一であっても異なっていてもよい。また、c及びdは0〜3の整数、x、y及びsは0以上の整数、rは1以上の整数であり、c、d及びxは同時に0とはならず、さらに、x+y≧0である。また、r+s≧3、好ましくは8≧r+s≧3である。
【0045】
これらのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの中でも、オイル状の性状を有し、粘度が25℃において1〜5000mPa・sであるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
【0046】
架橋成分(b)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
架橋成分(b)の配合割合は、適宜に選択可能であるが、前記シリコーン生ゴム(a)がアルケニル基を含有すると共に、前記架橋成分(b)がSiH結合を含有する場合には、シリコーン生ゴム(a)中のアルケニル基に対する架橋成分(b)中のSiH結合のモル比が0.5〜20であるのが好ましく、特に1〜15の範囲であるのが好ましい。このモル比が0.5未満では、後述する硬化後の架橋密度が低くなり、弾性部材の形状を保持しにくくなることがある。一方、前記モル比が20を超えると、得られる弾性部材の粘着力が低下することがある。
【0048】
前記粘着力向上剤(c)は、粘着力を向上するために配合される成分であり、例えば、ポリオルガノシロキサンを用いることができ、特に、RSiO1/2単位及びSiO単位(ただし、Rは脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基である。)を含有するものを好適に用いることができる。ここで、Rとしては、炭素数1〜10の置換基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖又は分岐アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等を例示でき、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0049】
粘着力向上剤(c)は、一般的に粘着性をより高度に確保するために、シリコーン生ゴム(a)及び架橋成分(b)とともに架橋反応を生じない、又は、生じ難い構造を有するものが好ましい。
【0050】
粘着力向上剤(c)としてポリオルガノシロキサンを用いる場合は、RSiO1/2単位/SiO単位のモル比が0.6〜1.7となるものが好ましい。このモル比が0.6未満では、弾性部材の粘着性が高くなり過ぎ、又はシリコーン生ゴム(a)と相溶し難くなって、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とが分離して粘着性を発現しなくなることがある。一方、前記モル比が1.7を超えると弾性部材の粘着力が低下することがある。
【0051】
なお、このポリオルガノシロキサンは、Si原子に結合するOH基を含有していてもよく、その場合、OH基含有量が0〜4.0モル%であるのが好ましい。
【0052】
Si原子に結合するOH基を含有するものを用いる場合、前記シリコーン生ゴム(a)として、下記(4)式に示されるポリオルガノシロキサンを含有するときには、前記シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とが一部縮合反応物を形成していてもよい。
【0053】
(OH)RYSiO−(RXSiO)−(RSiO)−SiR(OH) (4)式
ただし、(4)式中、Rは脂肪族不飽和結合を有することのない1価の前記炭化水素基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、YはR又はアルケニル基含有有機基である。Xはアルケニル含有有機基である。また、pは1以上の整数、qは100以上の整数である。1価の炭化水素基及びアルケニル基含有有機基は前記したのと同様である。
【0054】
前記シリコーン生ゴム(a)と前記粘着力向上剤(c)との縮合反応物を形成するには、トルエン等の溶剤に溶解したシリコーン生ゴム(a)及び粘着力向上剤(c)の混合物を、アルカリ性触媒の存在下で、室温乃至還流下で反応させればよい。
【0055】
粘着力向上剤(c)は、一種単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
粘着力向上剤(c)は、シリコーン生ゴム(a)/粘着力向上剤(c)の質量比として20/80〜80/20の範囲で用いるのが好ましく、特に、30/70〜70/30とするのが好適である。この範囲を超えて粘着力向上剤(c)が少ないと粘着性が不足しやすくなり、一方、多いと弾性部材が硬くなるとともに弾性力が強く、弾性部材が変形し難くなり、何れにおいても、小型電子部品を粘着保持しにくくなることがある。
【0057】
前記触媒(d)は、主として、前記シリコーン生ゴム(a)と前記架橋成分(b)との架橋反応を促進する触媒であり、通常、ハイドロサイレーションの触媒として使用されるものであればよく、例えば、白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物等が挙げられる。
【0058】
触媒(d)の配合割合は、前記シリコーン生ゴム(a)と前記架橋成分(b)との合計質量に対し、白金成分として1〜5,000ppmとするのが好ましく、特に5〜2,000ppmとすることが好適である。配合割合が1ppm未満では硬化性が低下して架橋密度が低くなって弾性部材の粘着力が低下することがあり、一方、5,000ppmを超えると処理浴の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0059】
前記シリカ系充填材(e)は、前記各成分とともに添加され、弾性部材の機械的強度を補強するとともに、弾性部材を構成する成分、特に、粘着性を付与する粘着力向上剤(c)を粘着層に分散させて、小型電子部品の確実な粘着保持に寄与する成分である。
【0060】
シリカ系充填材(e)としては、シリカ、石英紛、珪藻土等が挙げられるが、好ましくはシリカである。好適なシリカとしては、BET法により測定されるその比表面積が50m/g以上、好ましくは100〜400m/gのシリカを挙げることができる。このような比表面積を有するシリカが付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物に含まれていると、弾性部材の引っ張り強度等の機械的強度を向上させることができるとともに粘着性を付与する成分が脱離し難くなり、微細な削りカスやのり残りが生じ難くなる。なお、比表面積が400m/gを超えると、付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物の流動特性が低下することがあり、弾性部材の製造に時間がかかるとともにコストが増大することがある。
【0061】
シリカ系充填材(e)としては、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ等の乾式法により合成されたシリカ、沈降シリカ、シリカゲル等の湿式法により合成されたシリカを挙げることができる。これらの中でも、前記比表面積を有するシリカを得やすい点で、ヒュームドシリカ、沈降シリカが好ましい。
【0062】
シリカ系充填材(e)は、一種単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。また、必要に応じて、シリカ系充填材(e)の表面を、例えば、オルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等の表面処理剤で処理したものを用いてもよい。
【0063】
シリカ系充填材(e)の配合割合は、前記シリコーン生ゴム(a)と前記粘着力向上剤(c)との合計100質量部に対して、1〜30質量部とするのが好ましく、5〜20質量部とするのがより好ましい。配合割合が1質量部未満であると、弾性部材の強度が低下して、十分な効果が得られ難くなり、また、使用時に微細な削りカスやのり残りが発生しやすくなることがある。一方、配合割合が30質量部を超えると、弾性部材の粘着力が低下することがある。
【0064】
さらに、この発明では、前記シリコーン生ゴム(a)から前記シリカ系充填材(e)の他に、適宜、任意成分を添加することが可能である。
【0065】
例えば、前記成分を混合する時の架橋反応を抑制するための反応制御剤を添加することができる。この反応制御剤としては、例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
【0066】
この反応制御剤を添加する場合、その配合割合は、前記シリコーン生ゴム(a)と前記粘着力向上剤(c)との合計100質量部に対して、0〜5.0質量部とすることができ、特に0.05〜2.0質量部とするのが好ましい。この反応制御剤の配合割合が5.0質量部を超えると粘着性組成物の硬化時に硬化し難くなることがある。
【0067】
また、この反応制御剤の他にも、適宜、任意成分を添加することが可能であり、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン等の非反応性のポリオルガノシロキサン、塗工の際の粘度を下げるための溶剤として、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィン等の脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤、染料、顔料等を使用することができる。
【0068】
前記シリコーン生ゴム(a)、架橋成分(b)、粘着力向上剤(c)、触媒(d)及びシリカ系充填材(e)を含有する組成物としては、適宜製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、前記シリカ系充填材(e)を含有しない組成物である信越化学工業株式会社製の商品名「KE1214」、「X−40−3098」等の「X−40系」及び「X−34−632A/B」等の「X−34系」組成物等が入手可能である。
【0069】
前記過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物は、シリコーン生ゴム(a)と、粘着力向上剤(c)と、シリカ系充填材(e)と、有機過酸化物(f)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
【0070】
前記ゴムシリコーン生ゴム(a)としては、(RSiO2/2)単位(Rは、炭化水素基を表す。)を含み、置換基を有していてもよいポリシロキサンの長鎖重合体等であればよく、例えば、ポリジメチルシロキサン、その置換体等が挙げられる。このシリコーン生ゴム(a)の性状、粘度等は、前記付加反応硬化型粘着性組成物に含有されるシリコーン生ゴム(a)と基本的に同様である。シリコーン生ゴム(a)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物に含有される粘着力向上剤(c)及びシリカ系充填材(e)は、それぞれ、前記付加反応硬化型粘着性組成物に含有される粘着力向上剤(c)及びシリカ系充填材(e)と基本的に同様である。
【0072】
過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物に含有される有機過酸化物(f)は、主として、シリコーン生ゴム(a)同士を、又は、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とを架橋させる硬化剤であり、例えば、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等が挙げられる。有機過酸化物(f)としては、ジアシルパーオキサイド類が好ましく、ベンゾイルパーオキサイドが特に好ましい。
【0073】
有機過酸化物(f)の配合割合は、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)との合計質量に対し、0.2〜5.0質量部とするのが好ましく、特に0.5〜2.5質量部とすることが好適である。配合割合が、0.2質量部未満では硬化性が低下して架橋密度が低くなって粘着層の粘着力が低下することがあり、一方、5.0質量部を超えると、粘着性組成物によって形成されるゴム弾性部材の硬度が高くなり、粘着力が低下するという欠点が生じる場合がある。
【0074】
過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物には、さらに、シリコーン生ゴム(a)、粘着力向上剤(c)、シリカ系充填材(e)及び前記有機過酸化物(f)の他に、適宜、任意成分を添加することが可能である。任意成分としては、前記付加反応硬化型粘着性組成物で例示した成分が挙げられる。
【0075】
このような過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物としては、適宜製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、前記有機過酸化物(f)を含有しない組成物である、信越化学工業株式会社製の商品名「KR−101−10」、「KR−120」、「KR−130」及び「KR−140」等が入手可能である。
【0076】
保持治具1は、治具本体2の表面に弾性部材3が前記粘着性材料で形成されて、製造されればよく、例えば、治具本体2の表面に前記粘着性材料を塗工し、治具本体2と弾性部材3とを一体成形して、製造されてもよく、また、前記粘着性材料を成形してシート状成形体を作製し、このシート状成形体を治具本体2の表面に貼り付けて、製造されてもよい。例えば、弾性部材3が前記付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物で形成される場合には、通常、80〜130℃で3〜40分加熱することにより、硬化される。また、弾性部材3が前記過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物で形成される場合には、通常、100〜150℃で5〜20分加熱することにより、硬化される。なお、このようにして硬化された付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物は、さらに、170〜220℃、2〜10時間の条件で二次加熱されてもよい。
【0077】
この発明に係る一実施例である一組の保持治具を、図を参照して、説明する。図3に示されるように、一組の保持治具5は、被粘着物を粘着保持可能な第1の弾性部材3Aを第1の治具本体2Aの表面に設けて成る第1の保持治具1Aと、被粘着物を粘着保持可能な第2の弾性部材3Bを第2の治具本体2Bの表面に設けて成る第2の保持治具1Bとを備えている。第1の保持治具1A及び第2の保持治具1Bは、前記保持治具1と基本的に同様に構成され、それぞれ、治具本体2A又は2Bと、治具本体2A又は2Bの表面に形成された弾性部材3A又は3Bとを有し、その弾性部材3A又は3Bの表面に弾性部材3A又は3Bの粘着力で被粘着物を粘着保持することができる。
【0078】
第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとは、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力、通常、78g以上4,000g以下の粘着力を有しているのがよく、550g以上3920g以下の粘着力を有しているのがよい。
【0079】
そして、第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bは、第1の弾性部材3Aの粘着力よりも大きな粘着力を有する。第1の弾性部材3A及び第2の弾性部材3Bがこのような粘着力の関係を有することにより、第1の保持治具1Aにおける第1の弾性部材3Aから第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bに被粘着物を移し替えることができる。第1の弾性部材3Aから第2の弾性部材3Bに被粘着物を脱落することなくスムーズに移し替えることができる点で、第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとの粘着力の差は1,170g以上3,370g以下であるのが好ましく、1,400g以上2,750g以下であるのがより好ましく、1,570g以上2,350g以下であるのが特に好ましい。
【0080】
一組の保持治具5において、第1の保持治具1A及び第2の保持治具1Bのいずれか一方は前記保持治具1とされ、換言すると、第1の保持治具1Aにおける第1の弾性部材3A及び第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bのいずれか一方は前記関係式(1)を満たす粘着特性を有している。第1の保持治具1A及び第2の保持治具1Bのいずれか一方が前記保持治具1であると、前記被粘着物を数百個から数千個の単位で第1の保持治具1Aにおける第1の弾性部材3Aから第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bへと、起立状態を維持したままに、移し替えることができる。第1の保持治具1Aにおける第1の弾性部材3Aから第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bへと、数百個から数千個の被粘着物を所望のように、移し替えることができる点で、第1の保持治具1A及び第2の保持治具1Bがいずれも前記保持治具1とされるのが好ましく、さらに、一方の保持治具が前記比較的弱い粘着力を有する領域に含まれる前記粘着特性を有する弾性部材を備えた前記保持治具であり、かつ、他方の保持治具が前記比較的強い粘着力を有する領域に含まれる前記粘着特性を有する弾性部材を備えた前記保持治具であるのが特に好ましい。
【0081】
この発明に係る一実施例である被粘着物保持装置を、図を参照して、説明する。図4に示されるように、被粘着物保持装置10は、第1の保持治具1A及び第2の保持治具1Bを含む一組の保持治具を備え、被粘着物を粘着保持すると共に、第1の保持治具1Aから第2の保持治具1Bに被粘着物を移し替えることのできる装置である。被粘着物保持装置10が備える一組の保持治具は、前記一組の保持治具5と同様に構成されている。
【0082】
図4に示されるように、被粘着物保持装置10は、第1の保持治具1Aと第2の保持治具1Bとが、第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとが相対向するように配置可能に成っている。これにより、第1の保持治具1Aに粘着保持された被粘着物を、例えば、起立状態を維持したままに、第2の保持治具1Bに移し替えることができる。このような第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとの配置は、機械的構成からなる変位手段により実現されてもよく、手動により実現されてもよい。
【0083】
図4に示されるように、第1の保持治具1Aは、治具本体2Aにおける弾性部材3Aが形成されていない表面側が、保持治具変位手段12から下方に延在する支持アーム13の先端に設けられた支持部材14に固定され、保持治具変位手段12に支持されている。
【0084】
この保持治具変位手段12は、軌条11に取り付けられ、この軌条11に沿って水平方向に運動可能に構成されると共に、支持アーム13を上下方向に運動可能に構成されている。したがって、この保持治具変位手段12に支持された第1の保持治具1Aは、保持治具変位手段12によって、水平方向及び上下方向に自在に移動可能と成っている。すなわち、被粘着物を懸垂保持する第1の弾性部材3Aを有する第1の保持治具1Aは、例えば、導電ペースト浴の上方に、又はその位置から導電ペースト浴の上方以外の適宜の位置、例えば、第2の保持治具1Bの上方の位置に移送されることができると共に、第1の保持治具1Aは、第2の保持治具1Bに向けて下降させられ、また第2の保持治具1Bの弾性部材3Bに被粘着物を保持させ替えた後、第1の保持治具1Aを第2の保持治具1Bから上昇させることができる。
【0085】
さらに、この保持治具変位手段12は、軌条11を中心軸にして軸回りに回転運動可能に構成されている。保持治具変位手段12がこのように回転運動可能であると、第1の保持治具1Aの状態を、被粘着物を弾性部材3Aにより懸垂保持する状態、及び、被粘着物を第1の弾性部材3Aにより立設保持する状態に所望のように変えることができるようになる。
【0086】
また、図4に示されるように、第2の保持治具1Bは、第2の治具本体2Bにおける第2の弾性部材3Bが形成されていない表面側が、保持治具変位手段16から上方に延在する支持アーム17の先端に設けられた支持部材18に固定され、保持治具変位手段16に支持されている。
【0087】
この保持治具変位手段16は、軌条11とほぼ直交する軌条15に取り付けられ、この軌条15に沿って水平方向に運動可能に構成されると共に、支持アーム17を上下方向に運動可能に構成されている。したがって、この保持治具変位手段16に支持された第2の保持治具1Bは、保持治具変位手段16によって、水平方向及び上下方向に自在に移動可能とされている。すなわち、第2の保持治具1Bは、適宜の位置、例えば、第1の保持治具1Aの下方の位置に移送されることができると共に、第2の保持治具1Bは、第1の保持治具1Aに向けて上昇させられ、また記第1の保持治具1Aの第1の弾性部材3Aに粘着保持された被粘着物を保持させ替えた後、第2の保持治具1Bを第1の保持治具1Aから下降させることができる。
【0088】
さらに、この保持治具変位手段16は、軌条15を中心軸にして軸回りに回転運動可能に構成されている。保持治具変位手段16がこのように回転運動可能であると、第2の保持治具1Bの状態を、被粘着物を弾性部材3Bにより立設保持する状態、及び、被粘着物を第2の弾性部材3Bにより懸垂保持する状態に所望のように変えることができるようになる。
【0089】
前記保持治具変位手段12及び前記保持治具変位手段16における運動機構は、特に限定されず、例えば、駆動力を発生する駆動手段、例えば、モータと、このモータの出力を軌条11又は15、及び、支持アーム13又は17に伝達する伝達手段、例えば、歯車、ワイヤ等とを備えた運動機構が挙げられる。この運動機構は、通常のパソコン等によって、制御しても、手動で制御してもよい。
【0090】
図4に示されるように、この被粘着物保持装置10は、軌条11と軌条15が交差する位置近傍で、第1の保持治具1Aと第2の保持治具1Bとが、第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとが相対向するように配置可能に成っている。これにより、第1の保持治具1Aに粘着保持された被粘着物を第2の保持治具1Bに移し替えることができる。
【0091】
次に、この発明に係る被粘着物保持装置10を用いて小型電子部品用部材の一つであるチップコンデンサ本体に電極を形成して、小型電子部品であるチップコンデンサを製造する方法について説明し、併せてこの被粘着物保持装置10の作用について説明する。図5に示されるように、このチップコンデンサ本体6は四角柱体を成し、図9に示されるように、チップコンデンサ8はこのチップコンデンサ本体6の両端部それぞれに電極が形成されて成る。
【0092】
この発明の一例である被粘着物保持装置10を用いて、チップコンデンサ本体6に電極7を、例えば、次のようにして形成する。先ず、図4に示された保持治具変位手段12を軌条11を中心軸にして軸回りに回転運動させ、図5に示されるように、第1の弾性部材3Aを上にした第1の保持治具1A上に立設配置板20を重ねる。この立設配置板20には、上部開口部に環状のテーパ面21が形成されて成る貫通孔である複数の配設孔22が形成されている。この立設配置板20の上面に多数のチップコンデンサ本体6を乱雑状態に頒布する。この立設配置板20に振動を加えると、チップコンデンサ本体6がテーパ面21に案内されるようにして配設孔22に収まる。この立設配置板20の厚みは、チップコンデンサ本体6の軸線方向長さよりも小さく設計されているので、配設孔22に収まったチップコンデンサ本体6は、その下端面が第1の弾性部材3Aに接触し、その上端面が立設配置板20の上端面から突出した状態になっている。
【0093】
次いで、図5に示されるように、平坦なプレス板23で、多数のチップコンデンサ本体6全ての突出頭部を、押圧する。このとき、プレス板23でチップコンデンサ本体6を第1の弾性部材3Aに押圧するときの第1の弾性部材3Aの被押し込み量(X)は、第1の弾性部材3Aの粘着特性を考慮して、第1の弾性部材3Aが多数のチップコンデンサ本体6を所望のように粘着保持することのできる粘着力を発揮するように、調整される。例えば、第1の弾性部材3Aの被押し込み量(X)は、50μm以上250μm以下に調整され、好ましくは150μm以上250μm以下に調整される。このように、被押し込み量(X)が調整されてチップコンデンサ本体6を押圧すると、配設孔22に収容されているチップコンデンサ本体6の下端面が第1の弾性部材3Aにめり込むと共に第1の弾性部材3Aの粘着力によりチップコンデンサ本体6の下端部が第1の弾性部材3Aに粘着する。その後、立設配置板20を除去すると、多数のチップコンデンサ本体6を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で第1の弾性部材3Aに粘着保持させることができる。次いで、保持治具変位手段12(図示せず。)を軌条11を中心軸にして軸回りに回転運動させ、図6に示されるように、第1の保持治具1Aを回転させて第1の弾性部材3Aを下側に向けると、第1の弾性部材3Aの下側面に多数のチップコンデンサ本体6が懸垂保持された状態になる。
【0094】
次いで、保持治具変位手段12(図示せず。)を軌条11(図示せず。)に沿って水平方向に運動させて、多数のチップコンデンサ本体6を第1の弾性部材3Aに懸垂保持された状態のまま第1の保持治具1Aを導電ペースト浴(図示せず。)の上方に水平移動させる。その後、保持治具変位手段12により支持アーム13(図示せず。)を下方向に運動させて、導電ペースト浴に向かって第1の保持治具1Aを下降させる。第1の保持治具1Aを下降させて導電ペースト浴にチップコンデンサ本体6の下端部を、浸漬させる。浸漬後に、保持治具変位手段12により支持アーム13を上方向に運動させて、第1の保持治具1Aを上昇させ、チップコンデンサ本体6に塗布された導電ペーストを乾燥する。そうすると、図7に示されるように、第1の弾性部材3Aに懸垂保持された各チップコンデンサ本体6の下端部にほぼ均等な大きさの電極7が形成される。このとき、被粘着物は、第1の弾性部材3Aに所望のように粘着保持されているから、導電性ペーストに浸漬中及び導電性ペーストから引上げるときに、第1の弾性部材3Aから脱落することも、傾斜することもない。
【0095】
次いで、保持治具変位手段12を軌条11に沿って水平方向に運動させて、第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bの上方に、下端部に電極7を塗設した多数のチップコンデンサ本体6を第1の弾性部材3Aに懸垂保持した第1の保持治具1Aを水平移動させる。
【0096】
図8に示されるように、保持治具変位手段12(図示せず。)により支持アーム13(図示せず。)を下方向に運動させて、第1の保持治具1Aを下降させ、第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bに、第1の保持治具1Aにおける第1の弾性部材3Aに懸垂保持された多数のチップコンデンサ本体6の、電極7が形成された下端部を、粘着させる。このとき、第1の保持治具1Aが降下される降下距離は、第1の弾性部材3A及び第2の弾性部材3Bの粘着特性を考慮して、第2の弾性部材3Bに多数のチップコンデンサ本体6を所望のように粘着保持することのできる粘着力を第2の弾性部材3Bが発現することができると共に、第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとの粘着力の差が前記範囲となるように、調整される。なお、チップコンデンサ本体6は第2の弾性部材3Bと共に第1の弾性部材3Aにも押し込まれるから、第1の保持治具1Aが降下される降下距離は、第1の弾性部材3Aにおける被押し込み量(X)と第2の弾性部材3Bにおける被押し込み量(X)との合計被押し込み量に調整する必要がある。このように、第2の弾性部材3Bの被押し込み量(X)が調整されると、第2の弾性部材3Bは所望の粘着力を発現する。次いで、保持治具変位手段12(図示せず。)により支持アーム13(図示せず。)を上方向に運動させて、第1の保持治具1Aを上昇させると、第2の弾性部材3Bは所望の粘着力を発現していると共に、第2の弾性部材3Bは第1の弾性部材3Aの粘着力よりも大きな粘着力を有しているから、チップコンデンサ本体6は電極7を介して第2の弾性部材3Bに強固に粘着されており、第1の保持治具1Aにおける第1の弾性部材3Aにチップコンデンサ本体6がほとんど残存することなく離脱する。このようにして、第1の保持治具1Aから第2の保持治具1Bに多数のチップコンデンサ本体6を脱落することも転倒することもなく所望のように移し替えることができる。
【0097】
次いで、保持治具変位手段16(図示せず。)を軌条15(図示せず。)を中心軸にして軸回りに回転運動させ、図8に示されるように、第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bに電極7を介してチップコンデンサ本体6を立設した状態で粘着保持している第2の保持治具1Bが、回転されてチップコンデンサ本体6が懸垂保持された状態にされる。
【0098】
次いで、保持治具変位手段16(図示せず。)を軌条15(図示せず。)に沿って水平方向に運動させて、多数のチップコンデンサ本体6を第2の弾性部材3Bに懸垂保持された状態のまま第2の保持治具1Bを導電ペースト浴(図示せず。)の上方に水平移動させる。その後、保持治具変位手段16(図示せず。)により支持アーム17(図示せず。)を下方向に運動させて、導電ペースト浴に向かってこの第2の保持治具1Bを下降させる。第2の保持治具1Bを下降させて導電ペースト浴にチップコンデンサ本体6の下端部を、浸漬させる。浸漬後に、保持治具変位手段16(図示せず。)により支持アーム17(図示せず。)を上方向に運動させて、第2の保持治具1Bを上昇させ、チップコンデンサ本体6に塗布された導電ペーストを乾燥する。そうすると、図9に示されるように、第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bに懸垂保持された各チップコンデンサ本体6の下端部にほぼ均等な大きさの電極7が形成される。このとき、被粘着物は、第2の弾性部材3Bに所望のように粘着保持されているから、導電性ペーストに浸漬中及び導電性ペーストから引上げるときに、第2の弾性部材3Bから脱落することも、傾斜することもない。
【0099】
第2の保持治具1Bにおける第2の弾性部材3Bには、図9に示されるように、チップコンデンサ本体6それぞれの両端部にほぼ均等な大きさの電極7が形成されて成るチップコンデンサ8が、懸垂された状態で粘着保持されている。この第2の保持治具1Bに粘着保持されたチップコンデンサ8は、例えば、第2の弾性部材3Bの下側面にストリッパ(図示せず。)を摺接することにより、第2の弾性部材3Bに懸垂保持されていたチップコンデンサ8が離脱し、落下する。
【0100】
このように、この発明に係る保持治具1又は一組の保持治具5を用いることにより、被粘着物を数百個から数千個の単位で一挙に起立状態で一方の保持治具に所望のように粘着保持することができると共に、被粘着物を一方の保持治具から他方の保持治具に移し替える際に、被粘着物が一方の保持治具に取り残され、転倒することを効果的に防止して、多数の被粘着物を一方の保持治具から他方の保持治具に起立状態を維持したままに移し替えることができる。すなわち、この発明に係る保持治具1又は一組の保持治具5を用いれば、被粘着物を生産性よく製造することができる。
【0101】
この発明に係る保持治具1、一組の保持治具5及び被粘着物保持装置10はそれぞれ、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0102】
例えば、前記保持治具1においては、治具本体2及び弾性部材3はいずれも矩形に形成されているが、治具本体及び弾性部材は、小型部品の製造に適した形状であればよく、被粘着物の形状、被粘着物保持装置の形状、製造工程、作業性等に応じて、任意の形状とされる。例えば、保持治具は、正方形、長方形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等の板状体が挙げられる。また、治具本体2における弾性部材3が形成されない一方の面側は、平面形状であっても、半円筒体等の立体形状であってもよい。
【0103】
前記一組の保持治具5においては、第1の保持治具1Aと第2の保持治具1Bとを備えているが、これらの保持治具に加えて、第3の保持治具等を備えていてもよい。
【0104】
被粘着物保持装置10においては、第1の保持治具1Aと第2の保持治具1Bとを備えているが、3種類以上の保持治具を備えていてもよい。
【0105】
また、被粘着物保持装置10においては、第1の弾性部材3Aと第2の弾性部材3Bとは、同一の粘着性材料によって形成されていても、異なる粘着性材料によって形成されてもよい。
【0106】
さらに、被粘着物保持装置10においては、軌条11と軌条15とがほぼ直角に交差するように配設されているが、軌条と軌条とは略平行に配設されていてもよい。
【0107】
また、被粘着物保持装置10においては、保持治具変位手段12及び16は軌条11及び15を中心軸にして軸回りに回転運動可能に構成されているが、これらの保持治具変位手段は回転運動不能に構成されてもよい。この場合には、第1の弾性部材にチップコンデンサ本体を粘着保持させた第1の保持治具を保持治具変位手段に支持させればよく、第2の弾性部材にチップコンデンサを粘着保持した第2の保持治具を保持治具変位手段から取り外して、チップコンデンサを第2の弾性部材から取り外せばよい。
【実施例】
【0108】
(実施例1)
ステンレス鋼板(SUS304製、厚さ0.5mm)から、一辺の長さが120mmである正方形の盤状体を切り出した。この盤状体における一方の表面をアセトン等の有機溶媒で脱脂処理した後、シリコーンゴム接着用プライマー(商品名「X−33−156−20」、信越化学工業株式会社製)を適量塗布して、治具本体を作製した。この治具本体上に、シリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)99質量%及び(e)成分としてシリカ系充填材(株式会社龍森製、商品名「クリスタライト」)1質量%を含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物と、粘着力調整組成物として液状シリコーンゴム組成物(商品名「KE−1950/30 A/B」、信越化学工業株式会社製)とを配合した粘着性シリコーン組成物(付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物:液状シリコーンゴム組成物=95:5)を布置し、硬化させて、保持治具Aを製造した。
【0109】
(実施例2)
前記粘着性シリコーン組成物における付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物と液状シリコーンゴム組成物との配合量を60:40に変更した以外は、実施例1と同様にして、保持治具Bを製造した。
【0110】
(実施例3)
シリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)99質量%及び(e)成分としてシリカ系充填材(株式会社龍森製、商品名「クリスタライト」)1質量%を含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物と、粘着力調整組成物として液状シリコーンゴム組成物(商品名「KE−1950/40 A/B」、信越化学工業株式会社製)とを配合した粘着性シリコーン組成物(付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物:液状シリコーンゴム組成物=60:40)を布置し、硬化させて、保持治具Cを製造した。
【0111】
(比較例1)
シリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)99質量%及び(e)成分としてシリカ系充填材(株式会社龍森製、商品名「クリスタライト」)1質量%を含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物と、粘着力調整組成物として液状シリコーンゴム組成物(商品名「KE−1950/50 A/B」、信越化学工業株式会社製)とを配合した粘着性シリコーン組成物(付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物:液状シリコーンゴム組成物=60:40)を布置し、硬化させて、保持治具Dを製造した。
【0112】
保持治具A〜Dにおける弾性部材の被押し込み量(X)を、20μm、50μm、100μm、150μm及び200μmに設定して、各被押し込み量(X)における粘着量(Y)を測定した。被押し込み量(X)と測定された粘着力(Y)とから、被押し込み量(X)が20μm以上150μm以下の範囲における被押し込み量(X)と粘着力(Y)の関係との関係を求めた。その結果、保持治具Aにおける弾性部材はY=19X+545の関係を満たす粘着特性を有し、保持治具Bにおける弾性部材はY=8X+320の関係を満たす粘着特性を有し、保持治具Cにおける弾性部材はY=8X+50の関係を満たす粘着特性を有していた。一方、保持治具Dにおける弾性部材はY=6X+20の関係を満たす粘着特性を有していた。保持治具A〜Dにおける弾性部材の粘着特性を示す前記関係式をそれぞれ、直線A、直線B、直線C及び直線Dとして、図2に示した。
【0113】
また、保持治具A〜Dにおける弾性部材の硬度及び十点平均粗さRzを前記方法により測定し、その結果を表1に示した。
【0114】
【表1】

【0115】
次に、表2に示す保持治具の組み合わせに従って、一組の保持治具を選択し、図3に示される被粘着物保持装置を組み立てた。被粘着物は、直径0.3mm、軸線方向長さ約0.6mmの四角柱体を成すチップコンデンサ本体を用いた。このチップコンデンサ本体4,000個を表2に示す第1の保持治具における第1の弾性部材上にほぼ等間隔で起立状態に配置し、第2の保持治具における弾性部材の粘着特性を示す関係式から、チップコンデンサ本体を粘着保持可能な粘着力を発現する、表2の「被押し込み量X」欄に記載された被押し込み量(μm)に調整して、プレス板で4,000個のチップコンデンサ本体を第2の保持治具における弾性部材に押圧した。プレス板を上昇させて、第1の保持治具から引き離した。第1の保持治具における第1の弾性部材に粘着保持されなかったチップコンデン本体の数を確認した。この操作を10回行い、その算術平均値を求め、チップコンデンサ本体の総数に対する、粘着保持されなかったチップコンデンサ本体数の割合(粘着不能割合と称する。)を求めた。その結果を表2に示した。
【0116】
次いで、粘着保持されたチップコンデンサ本体が第1の弾性部材に懸垂保持されるように第1の保持治具を回転させた(すなわち、図4に示される第1の保持治具1Aと同じ状態である。)。次いで、第2の保持治具における第2の弾性部材に、表2の「被押し込み量X」欄に記載された被押し込み量(μm)となるように、第1の保持治具及び第2の保持治具の被押し込み量を考慮して、第1の保持治具の下降距離を算出し、第1の保持治具を第2の保持治具に向かって降下させ、第1の保持治具に粘着保持されたチップコンデンサ本体を第2の弾性部材に押圧した。押圧後3秒が経過してから、第1の保持治具を3mm/secの速度で上方に上昇させて、第2の保持治具から引き離した。引き離された第1の保持治具における第1の弾性部材に粘着保持されたまま、第2の保持治具に移し替えられなかったチップコンデン本体の数、及び、第1の弾性部材から脱落又は転倒し、第2の弾性部材に粘着保持されなかったチップコンデン本体の数を確認した。この操作を10回行い、その算術平均値を求め、チップコンデンサ本体の総数に対する、移し替えられなかったチップコンデンサ本体数及び脱落したチップコンデンサ本体数の合計数の割合(転写不能割合と称する。)を求めた。その結果を表2に示した。
【0117】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】図1は、この発明の一実施例である保持治具を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、被押し込み量X(単位:μm)と粘着力Y(単位:g)との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、この発明の一実施例である一組の保持治具を示す概略斜視図である。
【図4】図4は、この発明の一実施例である被粘着物保持装置を示す概略説明図である。
【図5】図5は、この発明の一実施例である被粘着物保持装置における第1の弾性部材にチップコンデンサ本体を立設状態で粘着させる手順を説明するための概略断面説明図である。
【図6】図6は、この発明の一実施例である被粘着物保持装置における第1の保持治具によりチップコンデンサ本体を懸垂保持する状態を示す概略説明図である。
【図7】図7は、この発明の一実施例である被粘着物保持装置における第1の保持治具に、電極が形成されたチップコンデンサ本体を、懸垂保持した状態を示す概略説明図である。
【図8】図8は、この発明の一実施例である被粘着物保持装置における第1の保持治具に懸垂保持されたチップコンデンサ本体を、第2の保持治具に押圧した状態を示す概略説明図である。
【図9】図9は、この発明の一実施例である被粘着物保持装置における第2の保持治具に、両端部に電極を塗設して成るチップコンデンサを懸垂保持する状態を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0119】
1、1A、1B 保持治具
2、2A、2B 治具本体
3、3A、3B 弾性部材
5 一組の保持治具
6 チップコンデンサ本体
7 電極
8 チップコンデンサ
10 被粘着物保持装置
11、15 軌条
12、16 保持治具変位手段
13、17 支持アーム
14、18 支持部材
20 立設配置板
21 テーパ面
22 貫通孔
23 プレス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着特性を有する弾性部材を備えて成る保持治具であって、前記粘着特性は、前記弾性部材の被押し込み量X(単位:μm)と粘着力Y(単位:g)とが以下の関係式(1)を満たす粘着特性であることを特徴とする保持治具。
Y=aX+b (1)
ただし、前記関係式(1)において、Xは20以上150以下、aは7以上20以下、bは25以上700以下である。
【請求項2】
前記弾性部材は、その表面の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が5μm以下であり、その表面の硬度(JIS K 6253[デュロメータA])が10以上40以下であることを特徴とする請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
粘着特性を有する第1の弾性部材を備えて成る第1の保持治具と、粘着特性を有する第2の弾性部材を備えて成る第2の保持治具とを備え、
前記第1の保持治具及び前記第2の保持治具の少なくとも一方は、請求項1又は2に記載の保持治具であり、かつ、
前記第2の弾性部材は、前記第1の弾性部材の粘着力よりも大きな粘着力を有することを特徴とする一組の保持治具。
【請求項4】
請求項3に記載の一組の保持治具を備えた被粘着物保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−166493(P2008−166493A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354374(P2006−354374)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【復代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
【Fターム(参考)】