説明

保持治具及び保持治具の製造方法

【課題】平面度が高く寸法精度に優れた多数の小型部品を生産性よく製造できる保持治具、及び、この保持治具を製造することのできる保持治具の製造方法を提供すること。
【解決手段】支持孔11が千鳥状に配列形成された平坦部12を有する補強部材5と保持孔15を有する弾性部材6とを備え、保持孔15が支持孔11の内部を通るように平坦部12が弾性部材6に埋設された保持治具1であって、平坦部12は支持孔11の合計開口面積Sと支持孔形成領域の表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70である保持治具1、並びに、前記支持孔11を有し面積比(S/S)が0.40〜0.70である平坦部12を有する補強部材5を成形ピンが支持孔11を貫通するように成形金型に収納する工程と、成形金型及び補強部材5で形成されたキャビティに弾性材料を注入して成形する工程とを有する保持治具1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持治具及び保持治具の製造方法に関し、さらに詳しくは、平面度が高く寸法精度に優れた多数の小型部品を生産性よく製造できる保持治具及びこの保持治具を製造することのできる保持治具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、電話機、ゲーム機、自動車電装機器等の電子機器に用いられる集積回路等には、例えば、積層セラミックチップコンデンサ(単に、チップコンデンサと称することがある。)等の小型部品が搭載されている。このような小型部品を製造する際等には、通常、小型部品を製造可能な小型部品用部材等を保持する保持孔が形成された保持治具が用いられる。このような保持治具として、例えば、特許文献1には、「(a)多数の並列状貫通通路を有するプレート体を備えること。(b)前記通路は弾性壁を有して電気用小型パーツが該通路内に位置可能となっており、かつ該通路の寸法は対応するパーツの寸法よりも小さく、パーツが前記通路内位置で弾発的に把持されること。以上(a)および(b)の構成から成るを特徴とする多数の電気用小型パーツ端部のコーティング用装置」が記載されている。
【0003】
近年、小型部品の需要が増大していること等から、小型部品の製造における生産性を向上させることが望まれている。このような要望を実現する方法として、従来の保持治具例えば特許文献1に記載の「コーティング用装置」よりも高密度で保持孔が形成された保持治具が提案されている。例えば、特許文献2の請求項2には、「金属製のプレート本体の厚さ方向に貫通する多数の孔を、当該プレート本体の平面に縦横に規則的に並列させて貫通形成し、これらの各孔の内壁面にシリコーンゴムからなる弾性部材で弾性壁を形成することにより貫通孔を形成しているキャリアプレートにおいて、前記貫通孔は貫通孔を結ぶ縦横の配列線の交点の縦横の一つおきの交点にそれぞれ配設されていることを特徴とするキャリアプレート」が記載されている。
【0004】
このような保持治具は保持孔に対応するピンが立設された成形金型を用いて製造される。例えば、図5に示されるように、多数の成形ピン41が立設された第1凹部42を有する第1金型31と第2凹部43を有する第2金型32とを備えた成形金型30を用いて、前記第1凹部42と前記第2凹部43とで形成される収納凹部33に、多数の支持孔を有する補強部材を、前記成形ピン41が前記支持孔を貫通するように、収納した後に、弾性材料を充填して成形することによって、製造される(例えば、特許文献2の0004欄参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−20685号公報
【特許文献2】特開2007−180356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成形ピンを備えた成形金型を用いて保持治具を製造する場合においては、補強部材と弾性材料とが一体成形された保持治具を成形金型から離型する際に、弾性部材と成形ピンとの密着力、摩擦力等による成形ピンの抜脱力によって、補強部材、特にその中央部近傍が変形し、場合によってはその変形が復元しないことがある。
【0007】
特に、特許文献2のキャリアプレートのように、高い生産性を実現するために保持治具に多数の保持孔を好ましくは高密度で形成すると、補強部材と弾性材料とが一体成形された保持治具を成形金型から離型する際に、保持治具が顕著に変形し、その変形が復元しないことがある。
【0008】
この発明は、平面度が高く寸法精度に優れた多数の小型部品を生産性よく製造できる保持治具、及び、この保持治具を製造することのできる保持治具の製造方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための第1の手段として、
請求項1は、厚さ方向に貫通すると共に千鳥状に配列された多数の支持孔を有する平坦部及びこの平坦部の周囲に形成された鍔部を有してなる補強部材と、小型部品を弾発的に保持する多数の保持孔を有する弾性部材とを備え、前記保持孔が前記支持孔の内部を通るように前記平坦部が前記弾性部材に埋設されて成る保持治具であって、前記平坦部は、前記支持孔の合計開口面積Sと前記支持孔が形成された支持孔形成領域の表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70であることを特徴とする保持治具であり、
請求項2は、前記支持孔それぞれは開口径が1.3〜2.6mmであることを特徴とする請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、前記支持孔は少なくとも4000個以上であることを特徴とする請求項1又は2に保持治具であり、
請求項4は、前記保持孔は前記支持孔の軸線と共通する軸線を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の保持治具である。
【0010】
前記課題を解決するための第2の手段として、
請求項5は、厚さ方向に貫通すると共に千鳥状に配列された多数の支持孔を有し、前記支持孔の合計開口面積Sと前記支持孔が形成された支持孔形成領域の表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70である平坦部及びこの平坦部の周囲に形成された鍔部を有してなる補強部材を、収納凹部に立設された成形ピンを有する成形金型の前記収納凹部に、前記成形ピンが前記支持孔を貫通するように、収納する工程と、前記成形金型及び補強部材で形成されたキャビティに弾性材料を注入して成形する工程とを有することを特徴とする保持治具の製造方法であり、
請求項6は、前記成形金型は第1金型と第2金型とから成り、前記成形ピンは前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方に立設されていることを特徴とする請求項5に記載の保持治具の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、補強部材の平坦部が0.40〜0.70の前記面積比(S/S)を有しているから、また、保持治具の製造方法において前記面積比(S/S)が0.40〜0.70の平坦部を有する補強部材を用いるから、たとえ生産性を向上させるために平坦部に支持孔を千鳥状配列に多数の穿孔しても、成形された保持治具を成形金型から脱型するときに、補強部材特に平坦部がほとんど変形することがなく、その結果、補強部材特に平坦部の平面度を高度に維持することができる。したがって、この発明によれば、平面度が高く寸法精度に優れた多数の小型部品を生産性よく製造できる保持治具を提供すること、及び、多数の保持孔を有しているにもかかわらず平坦な保持治具を製造することのできる保持治具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明に係る保持治具の一実施例である保持治具を示す概略上面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線で切断した保持治具における断面の一部を示す概略断面図である。
【図3】図3は、この発明に係る保持治具を構成する補強部材の一実施例である補強部材を示す概略図であり、図3(a)はこの発明に係る保持治具を構成する補強部材の一実施例である補強部材を示す概略上面図であり、図3(b)は支持孔の配列を説明する説明する一部拡大図である。
【図4】図4は、この発明に係る保持治具の別の一実施例である保持治具を示す概略上面図である。
【図5】図5は、この発明に係る保持治具の製造方法に用いられる成形金型の一例を示す概略側面図である。
【図6】図6は、この発明に係る保持治具の製造方法に用いられる成形金型の一例に補強部材を収納した状態を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明に係る保持治具は、厚さ方向に貫通すると共に千鳥状に配列された多数の支持孔を有する平坦部及びこの平坦部の周囲に形成された鍔部を有してなる補強部材と、小型部品を弾発的に保持する多数の保持孔を有する弾性部材とを備え、前記保持孔が前記支持孔の内部を通るように前記平坦部が前記弾性部材に埋設されて成る。そして、この発明に係る保持治具は弾性部材の弾性力で保持孔に挿入された小型部品を弾発的に保持することができる。
【0014】
この発明に係る保持治具に保持される小型部品は、小型部品の製造工程、搬送工程等において保持される必要性のある、小型部品を製造可能な小型部品用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等が挙げられる。また、小型部品の製造には小型部品の搬送工程等も含まれるから、小型部品は、小型部品そのもの、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等も含まれる。したがって、この発明においては、小型部品と小型部品用部材とは明確に区別される必要はない。小型電子部品及び小型電子部品用部材としては、例えば、チップコンデンサ、インダクタチップ、抵抗体チップ等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な例えば、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等が挙げられる。このような小型部品は、例えば、その軸線長さが1.0〜3.2mmで、軸線に垂直な平面における直径又は軸線に垂直な断面形状に外接する仮想外接円の直径が0.7〜2.3mmの寸法を有している。この発明に係る保持治具は後述するようにその全体的な平面度が非常に高いから、前記寸法を有する小型部品の中でもより小さな小型部品を用いることができる。
【0015】
この発明に係る保持治具は、前記小型部品の保持用として好適であり、例えば、少なくとも二箇所に電極形成用の導電性ペーストを塗布する必要のある小型部品の保持用としてさらに好適である。
【0016】
この発明に係る保持治具の一実施例である保持治具1を、図面を参照して、説明する。この保持治具1は、図1及び図2等に示されるように、支持孔11を有する平坦部12(図1に図示しない。)及びこの平坦部12の周囲に形成された鍔部13を有してなる補強部材5と保持孔15を有する弾性部材6とを備え、前記保持孔15それぞれが前記支持孔11それぞれの内部を通るように前記平坦部12が弾性部材6に埋設されて成る。
【0017】
前記補強部材5は、図2によく示されるように、支持孔11が形成された平坦部12が少なくとも後述する弾性部材6に埋設され、弾性部材6が平坦になるように、弾性部材6を補強支持する。この補強部材5は、図2及び図3に示されるように、多数の支持孔11が穿設された矩形の平坦部12と、平坦部12の周囲に、平坦部12の厚さ方向すなわち上面方向及び下面方向に突出した鍔部13とを備えている。この鍔部13はフランジ部と称することもできる。
【0018】
前記鍔部13は、保持治具1及び補強部材5の強度を補強するものの、前記平坦部12、特にその中央部近傍の強度には大きく影響しない。したがって、補強部材5に鍔部13が形成されていても、平坦部12が後述する面積比(S/S)を満足していないと、この発明の前記目的は十分に達成できない。その理由は、保持治具1を成形金型から脱型する際には、鍔部13近傍の平坦部12は鍔部13でその変形が規制されるものの、平坦部12の中央部ほどその変形を規制する部材がなく鍔部13の補強効果も届きにくいから、前記中央部分は変形しやすくなる。ただし、鍔部13があまりにも大きすぎると、保持治具1の生産性及び取扱性が大きく低下するから、その幅は通常8〜12mm程度に設定されるのがよい。
【0019】
前記鍔部13は、平坦部12を囲繞するように形成され、図2に示されるように、平坦部12の上面方向及び下面方向における突出量が一定になるように調整されている。換言すると、鍔部13は、図3に明確に示されるように、平坦部12を囲繞する長方形の枠を成し、その厚さ方向の略中央部で鍔部13よりも薄い平坦部12に連結している。この鍔部13は高い平面度すなわち均一な厚さを有している。具体的には、鍔部13の厚さは適宜に調整され、例えば、8.9〜10.0mmの範囲内に設定される。鍔部13は、以下のようにして算出された平面度が、例えば、0.15mm以下である。鍔部12の平面度の下限は理想的には0であるが、例えば0.03mmとすることができる。鍔部13の平面度は以下のようにして決定される。まず、例えばステージに固定された補強部材5の鍔部13における表面の任意の20点を測定点として、CNC画像測定システム「NEXIVシリーズ、株式会社ニコン製」等を用いて、各測定点の前記ステージ表面からの高さ値を測定する。測定された20点の高さ値から最小値と最大値とを選出し、この最大値と最小値との差分を求める。この差分を鍔部13の平面度とする。
【0020】
前記平坦部12は、図2及び図3に示されるように、厚さ方向に貫通する多数の支持孔11が形成される領域であり、その厚さが一定で高い平面度を有している。平坦部12の厚さは、例えば、5.9〜7mmの範囲内にあるのが好ましい。平坦部12は、以下のようにして算出された平面度が、例えば、0.15mm以下である。平坦部12の平面度の下限は理想的には0であるが、例えば0.03mmとすることができる。平坦部12の平面度は以下のようにして決定される。まず、例えばステージに固定された補強部材5の平坦部12における表面の任意の30点を測定点として、CNC画像測定システム「NEXIVシリーズ、株式会社ニコン製」等を用いて、各測定点の前記ステージ表面からの高さ値を測定する。測定された30点の高さ値から最小値と最大値とを選出し、この最大値と最小値との差分を求める。この差分を平坦部12の平面度とする。
【0021】
前記平坦部12は、図3によく示されるように、その全領域にわたって多数の支持孔11が形成されている。このように、平坦部12の内部に自身の強度を補強する支持孔11が形成されない領域を設けなくても、平坦部12が後述する面積比(S/S)を満足していると、この発明の目的をよく達成できる。
【0022】
前記補強部材5に形成される支持孔11は、前記平坦部12内に、その厚さ方向に貫通する支持孔11を多数、例えば、4000個以上、好ましくは少なくとも6000個、より好ましくは少なくとも7000個、特に好ましくは少なくとも7500個有している(図3において、支持孔11の一部を図示していない。)。補強部材5に多数の支持孔11が形成されると、保持治具1を用いた小型部品の製造方法における生産性が向上する。
【0023】
前記支持孔11は、図3に示されるように、所謂「千鳥状」に配列されている。具体的には、支持孔11は、この例において、図3に図示した補強部材5の短辺方向である第1配列方向に沿って、奇数行に配列された第1支持孔11Aと、偶数行に配列された第2支持孔11Bとからなる。さらに具体的には、図3(b)に示されるように、支持孔11は、前記第1配列方向及びこの第1配列方向に交差する第2配列方向、この例において図3に図示した補強部材5の長辺方向に沿って配列された第1支持孔11Aと、前記第1配列方向に沿って隣接する2つの第1支持孔11Aの軸線11a及び11b、並びに、前記第2配列方向の同じ側に前記2つの支持孔に隣接する2つの第1支持孔11Aの軸線11c及び11dを、前記第1配列方向及び第2配列方向に沿って結んでなる矩形領域に、好ましくはその中心に軸線11eが一致するように、配列された第2支持孔11Bとからなる。そして、前記第1配列方向の最外列すなわち第2配列方向に延在する両鍔部13に最も接近する第1行及び最終行に前記第1支持孔11Aが配列され、前記第2配列方向の最外列すなわち第1配列方向に延在する両鍔部13に最も接近する第1列及び最終列に前記第2支持孔11Bが配列されている。このような所謂「千鳥状」の配列においては、対角に位置する軸線11b及び11cとこれらの間に配列された第2支持孔11Bの軸線11eとは同一直線L1上にあってこの直線L1と第1配列方向及び第2配列方向それぞれとの角度は一方が約60°で他方が約30°であり、対角に位置する軸線11a及び11dとこれらの間に配列された第2支持孔11Bの軸線11eとは同一直線L2上にあってこの直線L2と第1配列方向及び第2配列方向それぞれとの角度は一方が約30°で他方が約60°である。すなわち、軸線11a、11b及び11cを結んで成る直角三角形及び軸線11d、11c及び11bを結んで成る直角三角形において、その内角は、90°、30°及び60°になっている。
【0024】
このように多数の支持孔11が所謂「千鳥状」に配列されていると、前記のような所謂「千鳥状」の配列は、同じ領域であれば、例えば碁盤目状の配列等に対してより多数の、すなわち、高密度で支持孔11を形成することができるので、保持治具1の生産性を大きく向上させることができる。この保持治具1は、それにもかかわらず、補強部材5の平坦部12が後述する面積比(S/S)を満足しているから、成形された保持治具1を成形金型から脱型するときに補強部材5特に平坦部12が実質的に変形することなく、平坦部12の平面度を維持できる。
【0025】
前記支持孔11は、第1配列方向及び第2配列方向ともに一定の間隔をおいて配列されている。第1支持孔11A及び第2支持孔11Bそれぞれにおいて互いに隣接する支持孔11同士の軸線距離である間隔それぞれは、後述する面積比(S/S)が0.40〜0.70の範囲内となるように、支持孔11の開口径等を考慮のうえ調整される。例えば、前記間隔それぞれは、前記面積比(S/S)が前記範囲内となるように、1.8〜5.5mmの範囲内に設定される。
【0026】
平坦部12の表面に開口する支持孔11の開口部の形状、及び、支持孔11を平坦部12に平行な水平面で切断したときの断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形等の形状を任意に選択することができる。前記開口部の形状及び前記断面形状は同じ形状であるのがよい。この例において、支持孔11は、開口部の形状及び前記断面形状が同一の円形であり、略同一の直径を有している。支持孔11の開口径すなわち直径は、後述する面積比(S/S)が0.4〜0.7の範囲内となるように、前記間隔等を考慮のうえ調整される。例えば、支持孔11の直径は、前記面積比(S/S)が前記範囲内となるように、1.3〜2.6mmの範囲内に設定される。
【0027】
補強部材5の平坦部12は、支持孔11の合計開口面積Sと、多数の支持孔11が形成された支持孔形成領域14Aの表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70になっている。前記面積比(S/S)が0.40未満であると、支持孔11の直径が一定の場合に、形成される支持孔11の数が少なくなるから、保持治具1が保持可能な小型部品数が少なくなって保持治具1の生産性を十分に向上させることができない場合がある。一方、前記面積比(S/S)が0.70を超えると、この保持治具1を例えば成形金型で製造する場合において、成形された保持治具1を成形金型から脱型するときに、形成された保持孔15と成形ピンとの密着力、摩擦力等によって、補強部材5特に前記平坦部12の中央近傍が変形し、復元しない場合がある。その結果、保持治具1は、平坦部12の平面度を維持することができず寸法精度に優れた小型部品を製造できなくなる。
【0028】
前記面積比(S/S)は、好ましくは0.41〜0.68であり、特に好ましくは0.45〜0.66である。前記面積比(S/S)がこれらの範囲内にあると、この保持治具1を例えば成形ピンを備えた成形金型で製造する場合において、成形された保持治具1を成形金型から脱型するときの保持孔15と成形ピンとの密着力等と補強部材5の強度とをバランスよく両立することができ、補強部材5をほとんど変形させることなく、保持治具1を成形金型から脱型することができる。また、前記面積比(S/S)が前記範囲内にあると、小型部品の保持孔15への挿入時及び抜取り時に平坦部12に負荷がかかっても変形しにくく使用後においても保持治具1は初期の高い平面度を維持できる。
【0029】
前記合計開口面積Sは前記支持孔11の開口面積の総和である。前記支持孔形成領域14Aは、図3に示されるように、前記第1配列方向又は前記第2配列方向に平行で、最外列に配列された支持孔11に接する外側の接線T1〜T4で囲繞された領域であり、前記表面積Sは、前記支持孔形成領域14Aに支持孔11が形成されていないと仮定したときの表面積である。したがって、前記平坦部12は、前記支持孔形成領域14Aと、この支持孔形成領域14Aを囲繞すると共に鍔部13との間に存在する支持孔非形成領域14Bとからなる。この支持孔非形成領域14Bは補強部材5の強度を補強するものの前記支持孔形成領域14A、特に、その中央部近傍の強度には大きく影響しない。したがって、補強部材5に前記支持孔非形成領域14Bが形成されていても、前記面積比(S/S)を満足していないと、この発明の前記目的は十分に達成できない。その理由は、保持治具1を成形金型から脱型する際には、前記支持孔非形成領域14B近傍の支持孔形成領域14Aは前記支持孔非形成領域14Bでその変形が規制されるものの、前記支持孔形成領域14Aの中央部分はその変形を規制する部材がなく前記支持孔非形成領域14Bの補強効果も届きにくいから、前記中央部分は変形しやすくなる。
【0030】
この発明においては、前記面積比(S/S)に代えて又はと共に、前記支持孔11の合計開口面積Sと平坦部12の表面積Sとの面積比(S/S)が0.41〜0.68であるのが好ましい。前記面積比(S/S)がこの範囲内にあると、平坦部12の強度を低下させることなく、より一層多数の支持孔11を千鳥状に配列形成できる。ここで、前記平坦部12の表面積Sは前記支持孔形成領域14Aの表面積Sと前記支持孔非形成領域14Bの表面積との合計表面積である。
【0031】
平坦部12及び鍔部13を備えて成る補強部材5は、小型部品の生産性、支持孔11の形成数、小型部品の寸法及び保持治具1の強度等を考慮して、鍔部13及び平坦部12の寸法が調整される。
【0032】
補強部材5は、弾性部材6を平坦な形状に維持することのできる材料で形成されていればよく、このような材料として、金属及び樹脂等が挙げられる。具体的には、金属として、ステンレス鋼、炭素鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金及びニッケル合金等が挙げられ、樹脂として、例えば、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ塩化ビニル等が挙げられる。この発明の目的をよく達成できる点で、補強部材5はステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金及びポリフェニレンスルフィド樹脂等で形成されるのが好ましく、特にアルミニウム又はアルミニウム合金で形成されるのが好ましい。
【0033】
前記弾性部材6は、図1及び図2に示されるように、多数の保持孔15が穿孔され、前記平坦部12を内部に収容可能な空隙を有している。そして、図2に示されるように、弾性部材6は、補強部材5の平坦部12を埋設し、換言すると、平坦部12の両面を被覆すると共に補強部材5の支持孔11に貫入し、補強部材5の鍔部13と面一になるように、形成されている。すなわち、弾性部材6は、平坦部12の表面に配置され、補強部材5の鍔部13によって囲繞されている。このように、弾性部材6は、その一部が補強部材5の支持孔11に貫入してなる柱状体を介して、補強部材5の両面に配設された2つの板状成形体が一体に成っている。さらにいうと、弾性部材6は、平坦部12の一方の表面を覆う第1の板状成形体と、平坦部12の他方の表面を覆う第2の板状成形体と、第1の板状成形体及び第2の板状成形体を連結する柱状体とを備え、前記柱状体は前記支持孔11の寸法と同じ寸法を有している。ここで、前記弾性部材6は、その保持孔15が支持孔11の内部を通るように平坦部12を埋設している。好ましくは、弾性部材6は、図2に示されるように、保持孔15が支持孔11の軸線Cと共通する軸線Cを有するように、前記平坦部12を埋設している。このように弾性部材6が形成されると、弾性部材6と補強部材5との密着性に優れるうえ小型部品の挿入及び抜取りが容易になる。
【0034】
図1及び図2に示されるように、弾性部材6は、その厚さ方向に貫通し、自身に挿入又は貫入された小型部品をその弾性力で弾発的に保持する多数の保持孔15を有している。弾性部材6は、保持孔15を多数、例えば、4000個以上、好ましくは少なくとも6000個、より好ましくは少なくとも7000個、特に好ましくは少なくとも7500個有している(図1において、保持孔15の一部を図示していない。)。弾性部材6に多数の保持孔15が形成されると、保持治具1を用いた小型部品の製造方法における生産性が向上する。
【0035】
複数の保持孔15は、前記支持孔11と基本的に同様に、前記第1配列方向及び前記第2配列方向に沿って所謂「千鳥状」に配列されている。具体的には、保持孔11は、前記第1配列方向に沿って、奇数行に配列された第1保持孔15Aと、偶数行に配列された第2保持孔15Bとからなる。そして、前記第1配列方向の最外列すなわち第2配列方向に延在する両鍔部13に最も接近する第1行及び最終行に前記第1保持孔15Aが配列され、前記第2配列方向の最外列すなわち第1配列方向に延在する両鍔部13に最も接近する第1列及び最終列に前記第2保持孔15Bが配列されている。このように多数の保持孔15が所謂「千鳥状」に配列されていると、前記したように、保持治具1の生産性を大きく向上させることができるにもかかわらず、平面度の高い保持治具1となる。
【0036】
前記保持孔15は、第1配列方向及び第2配列方向ともに一定の間隔をおいて配列されている。第1保持孔15A及び第2保持孔15Bそれぞれにおいて互いに隣接する保持孔15同士の軸線距離である間隔それぞれは前記支持孔11の前記間隔と基本的に同値に設定される。
【0037】
弾性部材6の表面に開口する保持孔15の開口部の形状、及び、保持孔15を弾性部材6に平行な水平面で切断したときの断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形等の形状を任意に選択することができる。前記開口部の形状及び前記断面形状は同じ形状であるのがよい。この例においては、開口部の形状及び前記断面形状が同一の円形であり、略同一の直径を有している。保持孔15の開口径は、保持する小型部品の寸法等を考慮のうえ、前記支持孔11よりも小さな開口径となるように、調整される。例えば、保持孔15の開口径すなわち直径は、小型部品の前記直径又は前記仮想外接円の直径に対して80〜90%の範囲内に設定され、例えば、0.4〜2.1mmの範囲内に設定される。
【0038】
弾性部材6は、小型部品の生産性、小型部品の寸法及び発揮される弾性力等を考慮して、前記鍔部13と面一になるように、その寸法及び厚さが調整される。すなわち、弾性部材6の厚さ(両外表面間の距離)は、保持治具1の厚さと同じ厚さに調整され、通常、8.9〜10.0mmに調整される。
【0039】
弾性部材6は、小型部品を挿入及び/又は抜き取る際に弾性変形し、かつ、破損しないように、所定の伸び、引張強さ及び硬度を有しているのが好ましい。例えば、JIS K6249に規定の切断時伸び(引張速度500mm/min)は、200〜1000%であるのが好ましく、400〜900%であるのが特に好ましく、JIS K6249に規定の引張強さ(引張速度500mm/min)は、5〜15MPaであるのが好ましく、7〜14MPaであるのが特に好ましく、JIS K6253に規定の硬度(JIS A)は、20〜80であるのが好ましく、40〜60であるのが特に好ましい。前記JIS K6249に規定の切断時伸び及び引張強さは、23℃、湿度50%の環境下で、3号ダンベル形状の試験片を作製して、切断時伸びはつかみ具間隔を標線距離で20mmに設定して、実施する。
【0040】
弾性部材6の表面は、保持治具1が小型部品の製造方法、例えば、小型部品用部材の電極形成工程に使用されるから、製品の均質性を実現し、また、弾性部材6の表面に導電性ペースト等が付着しないように、平滑であるのが好ましい。弾性部材6の表面を鏡面にするには、内面が鏡面とされた金型を用いて弾性部材6を成形する方法、成形後の表面を常法に従って研磨処理又は研削処理する方法等を選択すればよい。
【0041】
弾性部材6は、弾性変形し、小型部品を挿入保持することのできる材料で形成される。このような材料として、例えば、ゴム及びエラストマー等が挙げられ、より具体的には、シリコーンゴムが挙げられる。シリコーンゴムの中でも、高重合度の線状ポリジメチルシロキサン若しくはその共重合体を架橋してゴム弾性を付与したシリコーンゴム、又は、耐酸性のシリコーンゴムが好ましい。高重合度の線状ポリジメチルシロキサンを架橋したシリコーンゴムとしては、例えば、商品名「KE−1950−50」(信越化学工業株式会社製)等を入手することができる。
【0042】
この保持治具1は、高い平面度、具体的には0.15mm以下の平面度を有している。ここで、保持治具1の平面度は以下のようにして決定される。まず、例えばステージに固定された保持治具1の鍔部13における表面の任意の20点と弾性部材6における表面の任意の30点とを測定点として、CNC画像測定システム「NEXIVシリーズ、株式会社ニコン製」等を用いて、各測定点の前記ステージ表面からの高さ値を測定する。得られた弾性部材6の高さ値30点と鍔部13の高さ値20点との合計50点の高さ値から最小値と最大値とを選出し、この最大値と最小値との差分を求める。この差分を保持治具1の平面度とする。保持治具1が前記範囲の平面度を有していると、多数の小型部品を同一状態に保持することができ、特に、弾性部材6の表面から突出する小型部品の突出量及び突出方向がほとんどすべての小型部品で均一になる。その結果、例えば、弾性部材6の表面から突出するほとんどすべての小型部品の突出端にほぼ同一寸法及びほぼ同一形状の電極を形成することができ、均一な品質を有する小型部品を製造することができる。保持治具1の平面度の下限は、理想的には0であるが、現実的には、例えば、0.05mmである。保持治具1の平面度は、前記平坦部12の平面度を調整することによって、及び/又は、弾性部材6の表面の平滑化することによって調整できるが、前記範囲の小さな値に調整するには前記面積比(S/S)を0.40〜0.70にするのが特に有効である。
【0043】
この発明に係る保持治具の別の一実施例である保持治具2を、図面を参照して、説明する。この保持治具2は、図4に示されるように、保持孔15すなわち支持孔11の配列が異なること以外は前記保持治具1と基本的に同様である。前記保持孔15は、図4に示されるように、前記第1配列方向及び前記第2配列方向に沿って所謂「千鳥状」に配列されており、前記第1配列方向に沿って、奇数行に配列された第1保持孔15Aと偶数行に配列された第2保持孔15Bとからなる。そして、前記第1配列方向の最外列及び前記第2配列方向の最外列のいずれにも前記第1保持孔15Aが配列されている。
【0044】
保持治具1及び2は、例えば、小型部品の軸線が保持孔15の軸線と略平行となる状態、好ましくは一致する状態に小型部品を保持孔15に挿入して、その弾性力で弾発的に保持する。そして、小型部品を保持した保持治具1及び2は、小型部品の製造工程、搬送工程等に供される。保持治具1及び2に小型部品を保持するには、例えば、保持孔15と同数の貫通孔が保持孔15と同じ間隔で同様に整列された整列板を準備し、貫通孔と保持孔15とが一致するように、整列板を保持治具1の上に重ね合わせる。次いで、整列板の貫通孔それぞれに小型部品を挿入し、小型部品を平坦な板状部材で均一に保持治具側に押圧する。そうすると、小型部品は保持孔15に前記状態となるように挿入され、弾発的に保持される。このような方法の例として、例えば特許第4337498号明細書には、従来の各種方法(例えば0004欄〜0009欄及び図9〜14参照。)と、これらの各種方法を改良した方法(特許請求の範囲及び図1及び図2等参照。)とが記載されている。
【0045】
ところで、このような方法で多数の小型部品を一挙に実質的に同様の状態となるように保持孔15に保持させるには、平坦な表面を有する板状部材上に保持治具1及び2を載置して行うことから、保持治具1及び2における弾性部材6の平面度はもちろん鍔部13をも含む保持治具全体としての平面度も重要になる。すなわち、弾性部材6の平面度が高くても保持治具全体としての平面度が低いと、板状部材に保持治具1及び2を載置したときに保持治具1及び2の平面度が低下してしまう。ところが、前記保持治具1及び2は、後述するように補強部材5の高い平面度を維持することができ、全体としての平面度が高いから前記の方法に利用されても多数の小型部品を一挙に実質的に同様の状態となるように保持孔15に保持することができる。
【0046】
すなわち、保持治具1及び2は、補強部材5の前記平坦部12が前記範囲の面積比(S/S)を有しているから、たとえ生産性を向上させるために補強部材5の平坦部12に支持孔11を千鳥状配列に多数の穿孔しても、補強部材5の平坦部12特にその中央部近傍の強度が大きく低下することなく、成形された保持治具1及び2を成形金型から脱型するときに、補強部材5特にその平坦部12が変形することを実質的に防止することができる。その結果、保持治具1及び2は、弾性部材6の成形前における補強部材5特に平坦部12の平面度を弾性部材6の成形後及び製品としても高度に維持することができる。さらに、保持治具1及び2は、その高い平面度を実現するために、前記平坦部12の面積比(S/S)が前記範囲内にあれば平坦部12に穿孔する支持孔11の数を大きく減少させなくてもよいから、保持治具1及び2の生産性を大きく犠牲にすることもない。したがって、保持治具1及び2は、多数の保持孔15を有しているにもかかわらず、平面度が高く寸法精度に優れた多数の小型部品を生産性よく製造できる。
【0047】
特に、保持治具1及び2は前記のように支持孔11が高密度で穿孔された補強部材5を備えていても、この補強部材5特に平坦部12は成形金型から脱型するときにほとんど変形することがなく、たとえ変形してもその程度は僅かであるから元の状態に容易に復元する。したがって、この発明によれば、高密度で穿孔された多数の保持孔を有しているにもかかわらず、成形ピンを有する成形金型を用いた製造時の変形が抑制された平面度の高い保持治具を提供するという目的を達成することができる。
【0048】
この保持治具1及び2は平坦であるから多数の小型部品を均一な状態で保持することができる。したがって、この発明によれば、高い寸法精度を有する多数の小型部品を高い生産性で製造することのできる保持治具を提供するという目的を達成することができる。
【0049】
この発明に係る保持治具は、保持孔を形成することのできる成形ピンを有する成形金型を用いて製造することができる。例えば保持治具1及び2の製造方法の一例を挙げると、厚さ方向に貫通すると共に千鳥状に配列された多数の支持孔11を有し、支持孔11の合計開口面積Sと多数の支持孔11が形成された支持孔形成領域14Aの表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70である平坦部12及びこの平坦部12の周囲に形成された鍔部13を有してなる補強部材5を、収納凹部に立設された成形ピンを有する成形金型の前記収納凹部に、前記成形ピンが前記支持孔11を貫通するように、収納する工程と、前記成形金型及び補強部材5で形成されたキャビティに弾性材料を注入して成形する工程とを有することを特徴とする保持治具の製造方法が挙げられる。以下に、前記保持治具1を例に挙げて、この製造方法の一例(以下、この発明に係る一製造方法と称することがある。)を説明する。
【0050】
この発明に係る一製造方法においては、補強部材5を準備する。例えば、鍔部13の厚さと同じ又はそれよりも厚い前記金属又は樹脂製等の板体から支持孔11が形成されていない平坦部とその周囲に鍔部13とを有する板状体を所望寸法に切り出す。又は、支持孔11が形成されていない平坦部と鍔部13とを別個に作製し、溶接又は接着等の接合手段によって平坦部と鍔部13とを所望の位置に接合して、前記板状体を作製する。このようにして作製された板状体の平坦部に、所定形状及び直径を有する多数の支持孔11を、研削、切削、やすり仕上げ等によって、前記第1配列方向及び前記第2配列方向に沿って所定の間隔で千鳥状に配列されるように、穿設して、補強部材5を作製する。又は、支持孔11が形成された平坦部12と鍔部13とを別個に作製し、溶接又は接着等の接合手段によって平坦部又は平坦部12と鍔部13とを所望の位置に接合して、補強部材5を作製する。なお、平坦部12の表面に、弾性部材6との密着を高めるために、接着剤又はプライマー等を塗布してもよい。
【0051】
この発明に係る一製造方法においては、成形金型を準備する。成形金型30は、図5に示されるように、第1金型31と第2金型32とから成り、第1金型31及び第2金型32それぞれは第1凹部42及び第2凹部43を有している。前記第1凹部42には成形ピン41が立設されている。そして、第1金型31と第2金型32とを重ね合せると、第1凹部42及び第2凹部43で収納凹部33が形成される。この収納凹部33は、補強部材5を収納する凹部であって、補強部材5と共に弾性部材6を形成する弾性材料が注入されるキャビティ34を画成する。前記第1凹部42及び前記第2凹部43の内表面は鏡面加工されていてもよい。
【0052】
前記第1金型31に立設された成形ピン41は、前記第1配列方向及び前記第2配列方向に、すなわち、保持孔15と同様に、配列されている。前記第1配列方向及び前記第2配列方向はそれぞれ保持治具1における前記第1配列方向及び前記第2配列方向と同方向である。成形ピン41は、例えば図6に示されるように、成形金型30に補強部材5を収納したときに平坦部12に形成された支持孔11の軸線と一致する軸線を有するように千鳥状に配列されている。成形ピン41は収納凹部33の深さに一致する軸線長さと、保持する小型部品における前記直径又は前記仮想外接円の直径よりも小さな直径、具体的には、保持孔15の直径と略同一の直径とを有している。
【0053】
この発明に係る一製造方法においては、このようにして補強部材5及び成形金型30を準備した後に、図6に示されるように、成形金型30の収納凹部33に、成形ピン41それぞれが支持孔11それぞれを貫通するように、補強部材5を収納する。収納凹部33に補強部材5を収納すると、弾性部材6が形成される部分に成形金型30及び補強部材5で画成されたキャビティ34が形成される。
【0054】
この発明に係る一製造方法においては、次いで、前記キャビティ34に弾性部材6を形成可能な液状の弾性材料を注入して弾性部材6を成形する。弾性材料の成形方法は、特に限定されず、例えば、圧縮成形、射出成形、トランスファー成形等の成形方法を採用することができる。成形温度及び成形時間等は、使用する弾性材料が硬化する温度及び時間であればよく、弾性材料に応じて任意に調整される。
【0055】
成形された弾性部材6には、その表面に成形バリが生じていた場合、成形バリを取り除くため、研削等の表面処理が行われてもよい。例えば、表面処理として、平面研削、フライス研削、ラッピング等が挙げられる。また、保持治具1における弾性部材6の表面を鏡面加工することもできる。なお、弾性部材6の成形後に、弾性部材6の硬化を確実にするため、二次加熱又は熱処理等を行ってもよい。
【0056】
このようにして、保持治具1が製造される。なお、前記保持治具2もこの発明に係る一製造方法と同様にして製造できる。
【0057】
この発明に係る一製造方法は、前記条件を満足する補強部材5を用いることを特徴とするから、補強部材5に穿孔する支持孔11の数を大きく減少させなくても、成形された保持治具1及び2を成形金型30から脱型するときに、形成された保持孔15と成形ピン41との密着力、摩擦力等によって、保持治具1及び2特に平坦部12の変形を実質的に防止することができる。特に、前記平坦部12が前記条件を満たしていれば、成形ピン41が第1凹部42のみに立設された成形金型30を用いても、また、成形ピン41が第2凹部43のみに立設された成形金型を用いても、保持治具1及び2を成形金型30から脱型するときに、保持治具1及び2がほとんど変形することがない。その結果、この発明に係る一製造方法によれば、多数の保持孔を有しているにもかかわらず、全体としての平面度が高く寸法精度に優れた多数の小型部品を生産性よく製造可能な保持治具1及び2を製造することができる。
【0058】
この発明における保持治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0059】
前記保持治具1において、図1に示されるように、第1保持孔15Aは前記第1配列方向の最外列になるように配列され、第2保持孔15Bは前記第2配列方向の最外列になるように配列され、前記保持治具2において、図4に示されるように、第1保持孔15Aは前記第1配列方向の最外列及び前記第2配列方向の最外列になるように配列されているが、この発明において、第1保持孔又は第2保持孔が前記第1配列方向及び第2配列方向の少なくとも1つの最外列又はすべての最外列になるように配列されてもよい。具体的には、特許文献2の図6に示される非対称型千鳥状であってもよく、特許文献2の図7に示される最外列対称型千鳥状であってもよく、特許文献2の図8に示される逆抜千鳥状であってもよい。この発明においては支持孔の配列も保持孔と同様である。
【0060】
前記保持治具1及び2において、支持孔11及び保持孔15はいずれも図1〜図4に示されるように、対角に位置する軸線11b又は11a及び11c又は11dとこれらの間に配列された第2支持孔11Bの軸線11eとを結ぶ直線が第1配列方向及び第2配列方向それぞれと約30°及び約60°で交差する所謂「千鳥状」に配列されているが、この発明において、支持孔及び保持孔の配列は、対角に位置する軸線とこれらの間に配列された第2支持孔の軸線とを結ぶ直線が第1配列方向及び第2配列方向それぞれと交差する角度は特に限定されず、任意の角度例えば15〜75°に設定することができる。
【0061】
前記保持治具1及び2は、前記第1配列方向及び前記第2配列方向に沿う支持孔11の間隔が異なる間隔に設定され、かつ、前記第1配列方向及び前記第2配列方向に沿う保持孔15の間隔が異なる間隔に設定されているが、この発明において、第1配列方向及び第2配列方向に沿う支持孔の間隔は同一の間隔に設定されていてもよく、また、第1配列方向及び第2配列方向に沿う保持孔の間隔同一の間隔に設定されていてもよい。
【0062】
保持治具1及び2において、図3に示されるように、補強部材5は平坦部12の周囲に鍔部13が形成されているが、この発明においては、鍔部は、平担部の周囲に形成されている必要はなく、平坦部の少なくとも1端縁に形成されてもよい。
【0063】
保持治具1及び2において、図1〜図4に示されるように、支持孔11は、保持孔15の開口部と同様の開口部形状に穿孔されているが、この発明においては、支持孔は、保持孔の開口部と異なる開口部形状に穿孔されてもよい。支持孔11は円形の開口部を有する必要はなく、開口部の形状として前記した種々の形状の中から任意に選択することができる。
【0064】
この発明に係る保持治具の製造方法は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0065】
前記成形金型30において、成形ピン41は、第1金型31の第1凹部42に立設されているが、この発明において、成形ピンは、第2金型の第2凹部に立設されていてもよく、第1金型の第1凹部及び第2金型の第2凹部に立設されていてもよい。成形ピンが前記第1凹部及び前記第2凹部の両方に立設されている場合には、保持治具を成形金型から脱型するときに補強部材の変形をより一層効果的に防止することができる。前記第1凹部及び前記第2凹部に立設される成形ピンの数は任意に設定されることができる。前記第1凹部及び前記第2凹部の両方に成形ピンが立設されている場合には、例えば、第1凹部に立設された成形ピン数と第2凹部に立設された成形ピン数との比が10:90〜90:10の範囲内で設定されることができ、50:50に設定されることもできる。また、成形ピンが前記第1凹部及び前記第2凹部の両方に立設されている場合には、第1配列方向及び第2配列方向に沿って隣接する成形ピンは第1金型の第1凹部と第2金型の第2凹部とに任意又は交互に立設されていてもよい。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
厚さ8.9mmのアルミニウム板を縦(短辺方向とも称する。)180mm×横(長辺方向とも称する。)270mmに切り出し、その縦160mm×横257mmの長方形の領域を、両表面から深さ1.5mmまでの部分を切削して、厚さが5.9mmの平坦部とその周囲に鍔部13を有する板状体を作製した。この平担部に、1.30mmの直径を有する円形の支持孔11を、第1支持孔11A及び第2支持孔11B共に縦方向に3.25mm、横方向に1.87mmの間隔となるように、第1支持孔11Aを縦48行及び横133列に配列し、第2支持孔11Bを縦47行及び横134列に配列した図3に示される千鳥状の配列となるように、合計12682個穿孔した。このようにして、図3に示される補強部材5を作製した。前記第2支持孔11Bの中心はその周囲の第1支持孔11Aの中心とほぼ一致していた。
【0067】
次いで、炭素鋼S−50Cで同一寸法の第1金型31及び第2金型32を有する成形金型30を作製した。第1凹部42及び第2凹部43は、図5に示されるように、収納凹部33が補強部材5の寸法と同一となるように、形成されている。第1凹部42には、前記支持孔11と同様の所謂「千鳥状」に配列された成形ピン41が立設されていた。この成形ピン41は、収納凹部33の深さに一致する8.9mmの軸線長さと、保持する小型部品の保持孔15に挿入される部分の直径又は幅よりも小さな0.4mmの直径とを有していた。このようにして成形金型30を作製した。
【0068】
次いで、図6に示されるように、この成形金型30の収納凹部33に、成形ピン41が支持孔11を貫通するように、補強部材5を収納した。成形金型30及び補強部材5で形成されたキャビティ34にシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、商品名「KE−1950−50」)を注入して、120℃で10分間加熱し、補強部材5とシリコーンゴムとを一体成形した。
【0069】
次いで、成形金型30の第1金型31を第2金型32からほぼ垂直に離間させて成形金型30を開き、保持治具1を脱型した。このようにして、保持孔15と支持孔11とが軸線を共有する保持治具を製造した。
【0070】
なお、弾性部材6の切断時伸び、引張強さ及びJIS A硬度として、前記弾性部材6を形成する前記シリコーンゴムを同様に成形してJIS K6249及びJIS K6253に記載のゴム試験片をそれぞれ作製し、前記測定方法に準拠して、ゴム試験片の切断時伸び、引張強さ及びJIS A硬度をそれぞれ測定した。その結果、切断時伸び、引張強さ及びJIS A硬度はそれぞれ、600%、8.8MPa及び49であった。
【0071】
(実施例2)
前記板状体の平担部に、2.00mmの直径を有する円形の支持孔11を、第1支持孔11A及び第2支持孔11B共に縦方向に3.95mm、横方向に2.29mmの間隔となるように、第1支持孔11Aを縦40行及び横109列に配列し、第2支持孔11Bを縦39行及び横110列に配列した図3に示される所謂「千鳥状」の配列となるように、8650個穿孔したこと以外は、実施例1と基本的に同様にして図3に示される補強部材5を作製した。この補強部材5を用いて実施例1と基本的に同様にして保持治具を製造した。
【0072】
(実施例3)
前記板状体の平担部に、2.60mmの直径を有する円形の支持孔11を、第1支持孔11A及び第2支持孔11B共に縦方向に5.28mm、横方向に3.05mmの間隔となるように、第1支持孔11Aを縦30行及び横81列に配列し、第2支持孔11Bを縦29行及び横82列に配列した図3に示される所謂「千鳥状」の配列となるように、4808個穿孔したこと以外は、実施例1と基本的に同様にして図3に示される補強部材5を作製した。この補強部材5を用いて実施例1と基本的に同様にして保持治具を製造した。
【0073】
(実施例4)
前記板状体の平担部に、2.20mmの直径を有する円形の支持孔11を、第1支持孔11A及び第2支持孔11B共に縦方向に2.71mm、横方向に4.70mmの間隔となるように、第1支持孔11Aを縦57行及び横53列に配列し、第2支持孔11Bを縦56行及び横54列に配列した図3に示される所謂「千鳥状」の配列となるように、6045個穿孔したこと以外は、実施例1と基本的に同様にして図3に示される補強部材5を作製した。この補強部材5を用いて実施例1と基本的に同様にして保持治具を製造した。
【0074】
(実施例5)
前記板状体の平担部に、2.20mmの直径を有する円形の支持孔11を、第1支持孔11A及び第2支持孔11B共に縦方向に2.71mm、横方向に4.70mmの間隔となるように、第1支持孔11Aを縦57行及び横53列に配列し、第2支持孔11Bを縦56行及び横52列に配列した図4に示される所謂「千鳥状」の配列となるように、5933個穿孔したこと以外は、実施例1と基本的に同様にして図4に示される補強部材5を作製した。この補強部材5を用いて実施例1と基本的に同様にして保持治具を製造した。
【0075】
(比較例1)
前記板状体の平担部に、2.60mmの直径を有する円形の支持孔11を、第1支持孔11A及び第2支持孔11B共に縦方向を5.00mm、横方向に2.91mmの間隔となるように、第1支持孔11Aを縦31行及び横84列に配列し、第2支持孔11Bを縦30行及び横85列に配列した図3に示される所謂「千鳥状」の配列となるように5154個穿孔したこと以外は、実施例1と基本的に同様にして図3に示される補強部材5を作製した。この補強部材5を用いて実施例1と基本的に同様にして保持治具を製造した。
【0076】
(合計開口面積S等の測定)
実施例1〜5及び比較例1で製造した保持治具の各補強部材5において、支持孔11の合計開口面積S、平坦部12の表面積S、支持孔形成領域14Aの表面積S、面積比(S/S)及び面積比(S/S)を算出した結果、並びに、平坦部12及び鍔部13の平面度を前記方法に従って測定した結果を第1表に示す。
【0077】
(保持治具の平面度の測定)
実施例1〜5及び比較例1で製造した保持治具における平面度を前記方法に従って測定した結果を第1表に示す。なお、各保持治具における弾性部材の平面度を測定したところ、いずれも、0.08mm以下であった。
【0078】
【表1】

【0079】
第1表に示されるように、実施例1〜5の保持治具はいずれも前記面積比(S/S)を満たす補強部材を備えており、いずれも高い平面度を有していることがわかった。
【符号の説明】
【0080】
1、2 保持治具
5 補強部材
6 弾性部材
11 支持孔
11A 第1支持孔
11B 第2支持孔
11a、11b、11c、11d、11e 軸線
12 平坦部
13 鍔部
14A 支持孔形成領域
14B 支持孔非形成領域
15 保持孔
15A 第1保持孔
15B 第2保持孔
30 成形金型
31 第1金型
32 第2金型
33 収納凹部
34 キャビティ
41 成形ピン
42 第1凹部
43 第2凹部
L1、L2 直線
T1、T2、T3、T4 接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に貫通すると共に千鳥状に配列された多数の支持孔を有する平坦部及びこの平坦部の周囲に形成された鍔部を有してなる補強部材と、小型部品を弾発的に保持する多数の保持孔を有する弾性部材とを備え、前記保持孔が前記支持孔の内部を通るように前記平坦部が前記弾性部材に埋設されて成る保持治具であって、
前記平坦部は、前記支持孔の合計開口面積Sと前記支持孔が形成された支持孔形成領域の表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70であることを特徴とする保持治具。
【請求項2】
前記支持孔それぞれは、開口径が1.3〜2.6mmであることを特徴とする請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記支持孔は、少なくとも4000個以上であることを特徴とする請求項1又は2に保持治具。
【請求項4】
前記保持孔は、前記支持孔の軸線と共通する軸線を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の保持治具。
【請求項5】
厚さ方向に貫通すると共に千鳥状に配列された多数の支持孔を有し、前記支持孔の合計開口面積Sと前記支持孔が形成された支持孔形成領域の表面積Sとの面積比(S/S)が0.40〜0.70である平坦部及びこの平坦部の周囲に形成された鍔部を有してなる補強部材を、収納凹部に立設された成形ピンを有する成形金型の前記収納凹部に、前記成形ピンが前記支持孔を貫通するように、収納する工程と、
前記成形金型及び補強部材で形成されたキャビティに弾性材料を注入して成形する工程とを有することを特徴とする保持治具の製造方法。
【請求項6】
前記成形金型は、第1金型と第2金型とから成り、
前記成形ピンは、前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方に立設されていることを特徴とする請求項5に記載の保持治具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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