説明

保持治具及び薄板状物の剥離方法

【課題】簡単な構成で、又は複雑な装置を必要とせず、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる保持治具及び薄板状物の剥離方法を提供する。
【解決手段】保持治具1は薄板状物5を粘着保持することのできる粘着部14を頂面に有する突出部材12と、非粘着部32を表面に有する板状部材30とを備え、板状部材30は、突出部材12に対して相対的に前後進可能に配置される。この保持治具1に粘着保持された薄板状物5を剥離させるには、板状部材30を、突出部材12に対して相対的にその軸線方向に前進させて、薄板状物5を突出部材12の粘着部14から引き離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持治具及び薄板状物の剥離方法に関し、さらに詳しくは、簡単な構成で、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる保持治具、及び、複雑な装置を必要とせず、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる薄板状物の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板、フィルム等の薄板状物等は、一般に、その形状を保持しにくく、又は、破損等しやすいので、保持治具等に固定されて、例えば、研磨工程、パターン形成工程、ダイシング工程等の製造工程、製造工程間の搬送、及び/又は、保存等が行われている。
【0003】
そして、これらの薄板状物等は、製造工程中、製造工程間の搬送中、及び/又は、保存中等には保持治具に保持される一方で、製造工程終了後、搬送後、及び/又は、保存後等には保持治具から取り外される。したがって、保持治具には、薄板状物等を所望のように粘着保持する特性と、必要時には、薄板状物を容易に取り外すことができる特性とが要求される。
【0004】
このような保持治具として、例えば、「基板を真空吸着して保持する基板保持チャックにおいて、前記基板を真空吸引する際の負圧を形成する壁体と、前記真空吸引の際の基板の変形を抑制する複数の補助支持体とを備え、前記壁体と前記補助支持体の内少なくとも補助支持体を、ガラス基板表面に突出形成したことを特徴とする基板保持チャック」が挙げられる(特許文献1参照。)。
【0005】
また、別の保持治具として、例えば、「複数の孔が形成されている粘着シートに貼着されたフレキシブル基板を前記粘着シートから剥離する装置であって、前記孔に圧空を吹き出す吹き出し手段を備えることを特徴とするフレキシブル基板の剥離装置」が挙げられる(特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の基板保持チャックは、前記補助支持体によって基板が損傷又は破損して変形することがある。また、この基板保持チャックは、基板を真空吸引によって固定するものであるから、製造工程中、製造工程間の搬送中、及び/又は、保存中等には、常に真空吸引する必要があり、特に基板の質量が大きい場合には真空度を高める必要がある。それ故、この基板保持チャックは、高電圧を必要とし、保持装置から取り外した薄板状物等に電荷が残存することがあるうえ、保持具自体の構造、製造方法が複雑で高価なものである。さらに、この基板保持チャックは、基板を真空吸引によって固定するものであるから、減圧環境又は真空環境では、使用することができず、その用途が限定されることがある。例えば、基板上に液晶組成物等の各種組成物を塗布する方法として、塗布された各種組成物の内部又は表面に気泡等が混入することを防止するため、減圧環境又は真空環境で、基板上に各種組成物を塗布する方法が採用されることがある。この方法を採用すると、基板を保持する治具として、特許文献1に記載の基板保持チャックを使用することはできない。
【0007】
また、特許文献2に記載の剥離装置は、粘着シートにフレキシブル基板を貼着するから、フレキシブル基板が損傷又は破損することをある程度防止することができても、フレキシブル基板の代わりにフィルム等の可撓性が高い薄板状物を用いると、吹き出す圧空により、粘着シート上で薄板状物の波打ち現象が起こって、薄板状物が変形することがある。また、この剥離装置は、粘着シートに加えて吹き出し手段を必要とし、剥離装置自体の構造が複雑で高価なものである。また、この剥離装置は、圧空を吹き出すことによってフレキシブル基板を剥離するものであるから、その用途が限定されることがあるという欠点をも有している。
【0008】
【特許文献1】特開2000−286329号公報
【特許文献2】特開2006−156793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、簡単な構成で、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる保持治具を提供することを、目的とする。
【0010】
また、この発明は、複雑な装置を必要とせず、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる薄板状物の剥離方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、薄板状物を粘着保持することのできる粘着部を頂面に有する突出部材と、非粘着部を表面に有する板状部材とを備え、前記板状部材は、前記突出部材に対して相対的に前後進可能に配置されて成ることを特徴とする保持治具であり、
請求項2は、前記板状部材は、前記突出部材が貫通する貫通孔が穿設されて成ることを特徴とする請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、請求項1又は2に記載の保持治具における前記突出部材に粘着保持された薄板状物を剥離させる方法であって、前記板状部材を、前記突出部材に対して相対的に、その軸線方向に前進させて、前記薄板状物を前記突出部材から引き離すことを特徴とする薄板状物の剥離方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る保持治具は、突出部材と板状部材とを備えて成るから、その構成が単純であるにもかかわらず、この板状部材の表面に非粘着部を有しているから、突出部材の粘着部に粘着保持されている薄板状物を、平滑な非粘着部によって、突出部材の粘着部から均一に剥離することができる。その結果、薄板状物を、保持治具から剥離する際に、薄板状物の折れ、破損又は損傷等による変形を効果的に防止することができる。したがって、この発明によれば、簡単な構成で、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる保持治具、及び、複雑な装置を必要とせず、粘着保持した薄板状物を変形させることなく剥離することのできる薄板状物の剥離方法を提供することが、できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明に係る保持治具は、突出部材と板状部材とを備えて成り、例えば、粘着部に薄板状物を粘着保持して、薄板状物を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に使用される。この発明に係る保持治具に保持される薄板状物は、この発明に係る保持治具に保持される必要性のある薄板状物であって、破損又は損傷しやすい薄板状物、又は、折れ等により変形しやすい薄板状物等であるのが有利である。薄板状物としては、例えば、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板、フィルム、ガラスエポキシ基板、樹脂基板等が挙げられる。この発明の目的をよく達成することができる点で、薄板状物は特に可撓性の高いフィルムであるのがよい。このような可撓性の高いフィルムとして、例えば、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のフィルム等に用いられる、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。この発明において、薄板状物は、保持治具に単独で粘着保持されてもよく、複数の薄板状物が同時に粘着保持されてもよい。
【0014】
この発明に係る保持治具の一実施例である保持治具1を、図を参照して、説明する。図3(a)に示されるように、この保持治具1は、薄板状物を粘着保持することのできる粘着部14を頂面に有する複数の突出部材12が配置された基板10と、非粘着部32を表面に有する板状部材30と、補強部材20とを備えて成る。
【0015】
基板10は、図1に示されるように、方形を成す盤状体に成形されている。なお、基板10は、薄板状物の形状、その製造工程及び取り扱い性等に応じて、任意の形状に形成することができ、例えば、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等に形成される。
【0016】
図1に示されるように、この基板10は、その一方の表面に、この表面から突出する複数の突出部材12が、ほぼ等間隔で縦方向及び横方向それぞれに配置されている。この例では、図1(b)に示されるように、縦方向及び横方向それぞれに11個の突出部材12が配置されている。この突出部材12それぞれは、薄板状物を所望のように粘着保持することができる点で、それらの軸線が互いに平行であるのが好ましく、また、後述する板状部材30の非粘着部32に対して平行に薄板状物を粘着保持することができる点で、その軸線方向長さが同じ長さであるのが好ましい。突出部材12の軸線方向長さは、後述する板状部材30が突出部材12に対して相対的に前後進可能となる程度の長さに調整されていればよく、通常、板状部材30の厚さ以上の長さに調整される。
【0017】
突出部材12は、基板10の表面から突出した状態に形成されていればよく、その軸線方向に垂直な平面で切断したときの断面形状は特に限定されず、例えば、図1(a)に示されるように、方形であってもよく、三角形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた断面形状であってもよい。突出部材12における前記断面の断面積は、例えば、突出部材12の頂面に粘着部14が形成されたときに、薄板状物を所望のように粘着保持することができる程度の断面積に調整される。
【0018】
突出部材12は少なくとも頂面に粘着部14を有している。突出部材12の少なくとも頂面に粘着部14を有していると、平坦な複数の頂面によって薄板状物を均一に粘着保持することができる。粘着部14は、薄板状物を粘着保持することができるように、突出部材12の少なくとも頂面(先端面)に形成されていればよく、突出部材12における頂面の一部又は全面に形成されてもよく、また、突出部材12の全体(頂面及び側面)に粘着部14が形成されてもよい。製造が容易で、薄板状物を所望のように粘着保持することができると共に、容易かつ確実に薄板状物を剥離することができる点で、粘着部14は、突出部材12における頂面の全面に形成されるのが好ましい。粘着部14は、薄板状物を粘着保持することができる寸法に形成されていればよく、粘着部14を形成する粘着性材料の粘着力、突出部材12の配置数、突出部材12における軸線方向の断面積等に応じて、例えば、薄板状物と接触する接触面積が適宜調整される。
【0019】
粘着部14は、薄板状物を保持するのに十分な粘着力を有していればよく、例えば、粘着部14に薄板状物を粘着保持した状態で保持治具1を少なくとも90度傾斜させたときに、薄板状物が保持されるのに十分な粘着力を有しているのが好ましい。特に、粘着部14が下向きになるように、保持治具1を180度回転させたときに、薄板状物が保持されるのに十分な粘着力、すなわち、薄板状物の単位面積あたりの自重(g/mm)よりも大きな粘着力(g/mm)を有しているのが好ましい。粘着部14がこのような粘着力を有すると、保持治具1に薄板状物を確実に保持することができる。粘着部14の具体的な粘着力は、薄板状物の自重、大きさ等に応じて決定されるが、例えば、1〜60(g/mm)であるのが好ましく、2〜40(g/mm)であるのがさらに好ましく、4〜20(g/mm)であるのが特に好ましい。
【0020】
ここで、粘着部14の粘着力は次のようにして求める。まず、粘着部14を形成する粘着性材料で同様にして平滑な粘着性シートを作製する。この粘着性シートを水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱をなしたステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。この試験台上に粘着性シートを固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で粘着性シートの被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部位に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を25g/mmに設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を粘着部14の粘着力とする。なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAl MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
【0021】
粘着部14は、薄板状物を粘着保持すると共に、ある程度の弾性を有しているのがよく、例えば、5〜60の硬度(JIS K6253[デュロメータE])を有しているのが好ましく、15〜45の硬度を有しているのが特に好ましい。
【0022】
粘着部14を形成する粘着性材料は、例えば、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマーが挙げられるが、強度、耐候性に優れたシリコーンゴム、フッ素系ゴム等がよい。前記シリコーンゴムとしては、例えば、オルガノポリシロキサン、シリカ系充填剤及びパーオキサイド等の硬化剤等を含有するシリコーンゴム組成物が挙げられる。このようなシリコーンゴム組成物としては、例えば、信越化学工業株式会社から商品名「KE−520U」、「KE−530U」等が入手可能である。また、前記フッ素系ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン共重合体、カーボン等の充填剤、トリアルイソシアネート等の架橋助剤及びパーオキサイド等の硬化剤等を含有するフッ素系ゴム組成物が挙げられる。このようなフッ素系ゴム組成物としては、例えば、ダイキン工業株式会社から商品名「DC−2050」、「DC−2260」等が入手可能である。
【0023】
図1に示されるように、基板10、突出部材12及び粘着部14は、前記粘着性材料によって、一体に形成されている。すなわち、基板10、突出部材12及び粘着部14はいずれも前記粘着力を有している。このように、基板10、突出部材12及び粘着部14が一体に形成されていると、基板10の表面も粘着部となり、後述する板状部材30を、基板10の表面上に粘着保持して、板状部材30の不必要な移動を抑えることができる。基板10、突出部材12及び粘着部14は、前記材料を公知の成形方法等によって成形し、硬化して、作製される。
【0024】
前記補強部材20は、基板10を平坦に支持する。補強部材20は、図1(b)に示されるように、基板10と同様に、方形を成す盤状体とされているが、基板10を平坦に支持することができれば、基板10と異なる形状に形成されていてもよい。この補強部材20は、基板10を平坦に支持することのできる強度を有する材料で形成され、このような材料として、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の金属、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の樹脂等が挙げられる。補強部材20は、例えば、真空成形、射出成形及び金型成形等の各種成形方法、圧延、切削、研削、溶接等の各種金属加工方法等によって、製造される。
【0025】
前記板状部材30は、図2に示されるように、基板10と同様に、方形を成す盤状体とされている。板状部材30は、保持治具1としたときに、前記基板10の突出部材12を貫通させる貫通孔34が、突出部材12の配置と同様の配置となるように、略等間隔で縦方向及び横方向に配列された状態に、穿設されている。これらの貫通孔34は、突出部材12における前記断面の断面積と同じ又はそれよりも大きな開口面積となるように、形成されている。
【0026】
そして、板状部材30の表面(貫通孔34の開口部以外の表面、すなわち、板状部材30においては、複数の貫通孔34の集合体を囲繞する周縁部及び複数の貫通孔34の間に存在する格子状表面)は、非粘着部32とされている。非粘着部32は、粘着力を有していない場合、及び、それ単独では薄板状物を粘着保持することができない程度の粘着力を有している場合が含まれる。例えば、それ単独では薄板状物を粘着保持することができない程度の粘着力は、前記測定方法における粘着力が1(g/mm)未満である。
【0027】
このように、板状部材30の表面が非粘着部32とされていると、板状部材30を突出部材12の軸線方向に相対的に移動しても複数の非粘着部32はそれぞれ同一平面内にあるから、突出部材12の粘着部14に粘着されている薄板状物が薄板状物であっても、薄板状物を粘着部14から同一平面内で均一に剥離することができ、薄板状物を変形させることがない。
【0028】
板状部材30の厚さは、保持治具1としたときに、前記突出部材12の軸線方向に前後進することができる程度の厚さを有していればよく、例えば、前記突出部材12の軸線方向長さよりも小さい厚さに調整されている。この板状部材30は、薄板状物を剥離する際に、平滑性を維持することができる程度の強度を有する材料で、前記各種成形方法又は前記各種金属加工方法等によって、製造される。このような材料として、例えば、補強部材20で挙げた各種の材料が挙げられる。
【0029】
保持治具1は、図3(a)に示されるように、基板10における突出部材12が配置されていない側の表面に補強部材20が基板10の粘着力及び/又は接着剤等によって固定され、基板10における突出部材12が配置されている側の表面に、突出部材12それぞれが貫通孔34それぞれを貫通する状態に、板状部材30が配置されて成る。このように、基板10及び板状部材30が配置されていると、板状部材30が突出部材12に対して相対的に前後進可能になり、粘着部14に粘着保持されている薄板状物を所望のように剥離することができる。
【0030】
次に、保持治具1を用いた、薄板状物としてのシリコンウェハ5の取り扱い方法を説明する。シリコンウェハ5を取り扱う前に、基板10、補強部材20及び板状部材30が図3(a)に示される初期状態に配置される。保持治具1にシリコンウェハ5を粘着保持するには、保持治具1における複数の突出部材12の粘着部14上にシリコンウェハ5を載置し、必要により、載置したシリコンウェハ5を粘着部14に押圧する。そうすると、粘着部14は前記粘着力を有しているから、図3(b)に示されるように、シリコンウェハ5は粘着部14上に均一かつ平坦に粘着保持される。
【0031】
このようにして保持治具1に粘着保持されたシリコンウェハ5を所望の製造工程に供した後又は搬送後等に、シリコンウェハ5を保持治具1から剥離するには、基板10の表面上に粘着されている板状部材30を基板10の表面から引き離して、突出部材12に対してその軸線方向に相対的に前進する方向に、すなわち、図3(b)に示される矢印Aの方向に、前進させる。換言すると、基板10及び補強部材20を板状部材30に対して突出部材12の軸線方向に相対的に後進する方向に、すなわち、図3(b)に示される矢印Aと逆方向に、後進させる。そうすると、板状部材30は、突出部材12に対してその軸線方向に相対的に前進し、図3(c)に示される状態になる。板状部材30を引き続き突出部材12の軸線方向に沿って前進させると、突出部材12の粘着部14に粘着保持されたシリコンウェハ5の底面に板状部材30における非粘着部32が当接し、板状部材30をさらに前進させると、図3(d)に示されるように、シリコンウェハ5は、その底面に当接した非粘着部32によって、突出部材12の粘着部14から剥離される。図3(d)に示される状態においては、シリコンウェハ5は非粘着部32の表面上に位置しているにすぎないから、保持治具1を傾斜又は反転させれば、シリコンウェハ5は保持治具1から脱離する。このようにして、シリコンウェハ5を保持治具1から剥離することができる。
【0032】
このように、保持治具1は、シリコンウェハ5を剥離させるのに、真空吸着機構も圧空を吹き出す吹き出し手段も必要としないので、その構成が単純である。それにもかかわらず、保持治具1は、板状部材30の非粘着部32によって、突出部材12の粘着部14に粘着保持されているシリコンウェハ5を粘着部14から同一平面内で均一に剥離することができるから、可撓性の高い薄板状物であっても、保持治具1から剥離する際に、薄板状物の折れ、破損又は損傷等による変形を効果的に防止することができる。また、シリコンウェハ5を粘着保持及び剥離する際に、粘着部14の粘着力を強制的にかつ非可逆的に増大又は低減させる必要はないから、薄板状物を繰り返して粘着保持することができる。さらに、保持治具1は、特別な装置を必要とせず、単に、板状部材30を突出部材12に対して相対的に移動させるだけで、シリコンウェハ5の粘着保持及び剥離を可能にするから、保持治具1の使用環境は特に制限されず、常圧環境だけでなく、減圧環境でも加圧環境でも使用されることができる。したがって、保持治具1によれば、シリコンウェハ5を所望のように粘着保持することができると共に、剥離時の折れ、破損又は損傷等に起因する変形を薄板状物に生じさせることなく薄板状物を容易に剥離することができる。
【0033】
この発明に係る保持治具の別の一実施例である保持治具2は、図4に示されるように、薄板状物を粘着保持することのできる粘着部15を頂面に有する複数の突出部材13が配置された基板(図4において図示しない。)と、非粘着部33を表面に有する板状部材31と、補強部材(図4において図示しない。)とを備えて成る。
【0034】
この基板は、図4に示されるように、その一方の表面に、この表面から突出すると共に基板の一方向に延在する壁状の突出部材13が、ほぼ等間隔で配置されている以外は、前記基板10と基本的に同様に構成されている。
【0035】
また、この基板における突出部材13が形成されていない側に配置される補強部材は、前記補強部材20と基本的に同様に構成されている。
【0036】
板状部材31は、図4に示されるように、保持治具2としたときに、前記基板の突出部材13を貫通させる貫通孔35が、板状部材31の一方向に延在する溝状に穿設されている以外は、板状部材30と基本的に同様に構成されている。
【0037】
そして、この保持治具2は、前記保持治具1と同様にして、薄板状物を粘着保持し、剥離することができる。したがって、保持治具2によれば、シリコンウェハ5を所望のように粘着保持することができると共に、剥離時の折れ、破損又は損傷等に起因する変形を薄板状物に生じさせることなく薄板状物を容易に剥離することができる。
【0038】
この発明に係る保持治具に用いられる基板の別の一実施例である基板11は、薄板状物を粘着保持することのできる粘着部16を頂面に有する複数の突出部材13が配置されて成る。この基板11は、前記補強部材20を形成する前記金属又は前記樹脂等で形成され、突出部材13それぞれの頂面に、前記粘着部14を形成する粘着性材料を硬化して成る粘着部16が形成されている以外は、前記基板10と基本的に同様に構成されている。
【0039】
したがって、この基板11は、それ自身で突出部材13を平坦かつ平行に支持することができるから、この基板11を保持治具の基板として採用する場合には、補強部材は特に必要はない。
【0040】
粘着部16は、基板11と異なる前記材料で別体に形成されている以外は、前記粘着部14と基本的に同様に形成されている。したがって、粘着部16は、突出部材13の少なくとも頂面に形成されていればよく、突出部材13における頂面の一部又は全面に形成されてもよい。この粘着部16は、その表面が平坦であるのが好ましく、その厚さは0.05〜2mm程度であるのが好ましい。粘着部16の厚さが、0.05mm未満であると粘着部16の機械的強度が低下し、粘着部16の耐久性が十分でないことがあり、一方、2mmを越えると、複数の粘着部16における厚さを均一に調整して、複数の粘着部16における頂面を平坦にすることができないことがある。
【0041】
粘着部16は、例えば、前記粘着性材料を突出部材13の頂面に塗布し、硬化して、突出部材13の頂面に形成させることができ、また、前記粘着性材料を所望の寸法及び形状に硬化して成る硬化体を、その粘着力及び/又は接着剤等で突出部材13の頂面に密着させて、突出部材13の頂面に形成することができる。
【0042】
この基板11を採用すると、万が一、粘着部16が劣化又は損傷等しても、劣化又は損傷等した粘着部16のみを交換することにより、基板11を再生することができる。
【0043】
この発明における保持治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、保持治具1及び2は、例えば、図3に示されるように、1枚のシリコンウェハ5を粘着保持するが、この発明においては、1枚の薄板状物を複数の保持治具で粘着保持してもよく、また、1つの保持治具で複数の薄板状物を粘着保持してもよい。
【0044】
また、前記基板10及び11は、複数の突出部材12がほぼ等間隔で縦方向及び横方向それぞれに11個ずつ配置され、また、保持治具2の基板は、複数の突出部材13がほぼ等間隔で図4における横方向に11個ずつ配置されているが、この発明において、基板に配置される突出部材の配置パターン及び数は特に限定されず、粘着保持する薄板状物の寸法、数等に応じて、適宜調整される。例えば、突出部材の配置パターンは、同心円状、放射状等のパターン等が挙げられる。
【0045】
さらに、前記板状部材30及び31は、非粘着性の材料で形成され、その表面自体が非粘着部32及び33とされているが、この発明において、板状部材の非粘着部は、例えば、板状部材の表面に各種樹脂若しくは各種ゴム等の非粘着性材料等を架橋又は硬化して、又は、離型剤等を塗布して、形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、この発明に係る保持治具の一実施例である保持治具における基板及び補強部材を示す概略図であり、図1(a)はこの発明に係る保持治具の一実施例である保持治具における基板及び補強部材を示す概略上面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線における断面の一部を示す概略部分断面図である。
【図2】図2は、この発明に係る保持治具の一実施例である保持治具における板状部材を示す概略図であり、図2(a)はこの発明に係る保持治具の一実施例である保持治具における板状部材を示す概略上面図であり、図2(b)は図2(a)のB−B線における断面の一部を示す概略部分断面図である。
【図3】図3は、この発明に係る保持治具の一実施例である保持治具の使用方法を説明する部分説明図であり、図3(a)はこの発明に係る保持治具の一実施例である保持治具の初期状態を説明する説明図であり、図3(b)はこの発明に係る保持治具の一実施例である保持治具にシリコンウェハを粘着保持した状態を説明する説明図であり、図3(c)はこの発明に係る保持治具の一実施例である保持治具における板状部材を突出部材に対して相対的に移動した状態を説明する説明図であり、図3(d)はこの発明に係る保持治具の一実施例である保持治具に粘着保持されたシリコンウェハを剥離した状態を説明する説明図である。
【図4】図4は、この発明に係る保持治具の別の一実施例である保持治具を示す概略上面図である。
【図5】図5は、この発明に係る保持治具における基板の変形例を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1、2 保持治具
5 シリコンウェハ
10、11 基板
12、13 突出部材
14、15、16 粘着部
20 補強部材
30、31 板状部材
32、33 非粘着部
34、35 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状物を粘着保持することのできる粘着部を頂面に有する突出部材と、非粘着部を表面に有する板状部材とを備え、前記板状部材は、前記突出部材に対して相対的に前後進可能に配置されて成ることを特徴とする保持治具。
【請求項2】
前記板状部材は、前記突出部材が貫通する貫通孔が穿設されて成ることを特徴とする請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の保持治具における前記突出部材に粘着保持された薄板状物を剥離させる方法であって、前記板状部材を、前記突出部材に対して相対的に、その軸線方向に前進させて、前記薄板状物を前記突出部材から引き離すことを特徴とする薄板状物の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−16430(P2009−16430A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173994(P2007−173994)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【復代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
【Fターム(参考)】