説明

保持治具

【課題】所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持できる保持治具を提供すること。
【解決手段】支持孔11を有する補強部材5と、小型部品を保持する保持孔15を有し、シリコーンゴム粉末を含有する弾性部材6とを備え、前記保持孔15が前記支持孔11の内部を通るように前記補強部材5が前記弾性部材6に埋設されて成る保持治具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持治具に関し、さらに詳しくは、所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持できる保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、電話機、ゲーム機、自動車電装機器等の電子機器に用いられる集積回路等には、例えば、積層セラミックチップコンデンサ(単に、チップコンデンサと称することがある。)等の小型部品が搭載されている。このような小型部品を製造する際等には、通常、小型部品を製造可能な小型部品用部材等を保持する保持孔が形成された保持治具が用いられる。
【0003】
小型部品用部材等を保持する保持治具として、例えば、特許文献1の請求項4には「(a)多数の並列状貫通通路を有するプレート体を備えること。(b)前記通路は弾性壁を有して電気用小型パーツが該通路内に位置可能となっており、かつ該通路の寸法は対応するパーツの寸法よりも小さく、パーツが前記通路内位置で弾発的に把持されること。以上(a)および(b)の構成から成るを特徴とする多数の電気用小型パーツ端部のコーティング用装置」が記載されている。
【0004】
このような保持治具は、通常、通路の寸法は対応するパーツの寸法よりも小さくなっており、この通路に電気用小型パーツを押し込んで弾性的に把持させることができ(特許文献1、特に請求項1及び4等参照。)、このように把持した状態で電気用小型パーツに所望の処理を行う(特許文献1、特に請求項2等参照。)。
【0005】
ところで、このような保持治具においては、前記したように通路の寸法は対応するパーツの寸法よりも小さくなっているから、電気用小型パーツの製造に際してパーツの押し込み及び取り出しを繰り返し実施すると通路によるパーツの把持力が低下してパーツを所定の姿勢で把持できなくなる。
【0006】
特に、特許文献1の請求項5に記載されているように「通路の断面が円形でパーツの断面が四角形」であると、また、例えば把持したパーツの端部に電極等を形成する電極形成処理等の熱処理をすると、通路の把持力は早急かつ著しく低下してパーツを所定の姿勢で把持できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭62−020685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持できる保持治具を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、持孔を有する補強部材と、小型部品を保持する保持孔を有し、シリコーンゴム粉末を含有する弾性部材とを備え、前記保持孔が前記支持孔の内部を通るように前記補強部材が前記弾性部材に埋設されて成る保持治具であり、
請求項2は、前記弾性部材は、ゴム及びシリコーンゴム粉末を含有するゴム組成物で形成されている請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、前記シリコーンゴム粉末は、前記ゴムを100質量部としたときに130〜150質量部の割合で含有されている請求項2に記載の保持治具である。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る保持治具は、支持孔を有する補強部材と小型部品を保持する保持孔を有し、シリコーンゴム粉末を含有する弾性部材とを備えているから、保持孔が発揮する初期の保持力を大きく低下させることなく小型部品を所望のように保持するのに必要な保持力を長期間発揮させることができる。したがって、この発明によれば、所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持できる保持治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明に係る保持治具の一例を示す概略上面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線で切断した一例の保持治具における断面の一部を示す概略断面図である。
【図3】図3は、この発明に係る保持治具の一例を構成する補強部材の一例を示す概略上面図である。
【図4】図4は、この発明に係る保持治具の別の一例を示す概略上面図である。
【図5】図5は、図4のA−A線で切断した一例の保持治具における断面の一部を示す概略断面図である。
【図6】図6は、この発明に係る保持治具のまた別の一例を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明に係る保持治具は、支持孔を有する補強部材と保持孔を有する弾性部材とを備え、保持孔が支持孔の内部を通るように補強部材の少なくとも一部が弾性部材に埋設されている。そして、この発明に係る保持治具は弾性部材がシリコーンゴム粉末を含有しており、弾性部材の弾性力で保持孔に挿入された小型部品を弾発的に保持することができる。
【0013】
ここで、この発明に係る保持治具に保持される小型部品は、小型部品の製造工程、搬送工程等において保持される必要性のある、小型部品を製造可能な小型部品用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等が挙げられる。また、小型部品の製造には小型部品の搬送工程等も含まれるから、小型部品は、小型部品そのもの、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等も含まれる。したがって、この発明においては、小型部品と小型部品用部材とは明確に区別される必要はない。小型電子部品及び小型電子部品用部材としては、例えば、チップコンデンサ、インダクタチップ、抵抗体チップ等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な例えば、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等が挙げられる。このような小型部品の寸法の一例を挙げると、例えば、その軸線長さが1.0〜3.2mmで、保持孔に挿入される部分の、軸線に垂直な断面形状に外接する仮想外接円の直径が0.7〜2.3mmである。
【0014】
この発明に係る保持治具は、後述するように、小型部品を保持した状態で小型部品の製造工程に供されても所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持できるから、小型部品を製造する際の保持用として好適であり、少なくとも二箇所に電極を形成する必要のある小型部品の保持用として特に好適である。
【0015】
この発明に係る保持治具の一例である保持治具を、図面を参照して、説明する。この保持治具1は、図1及び図2等に示されるように、支持孔11を有する補強部材5と保持孔15を有する弾性部材6とを備え、保持孔15それぞれが支持孔11それぞれの内部を通るように補強部材5の一部が弾性部材6に埋設されている。
【0016】
補強部材5は、図2及び図3に示されるように、支持孔11が形成された平坦部12が少なくとも後述する弾性部材6に埋設され、弾性部材6が平坦になるように弾性部材6を補強支持する。この補強部材5は、多数の支持孔11が穿設された矩形の平坦部12と、平坦部12の周囲に平坦部12の厚さ方向すなわち上面方向及び下面方向に突出した鍔部13とを備えている。この鍔部13はフランジ部と称することもできる。
【0017】
鍔部13は、平坦部12を囲繞するように形成され、平坦部12の上面方向及び下面方向における突出量が一定になるように調整されている。換言すると、鍔部13は平坦部12を囲繞する長方形の枠を成し、その厚さ方向の略中央部で鍔部13よりも薄い平坦部12に連結している。この鍔部13は、平坦部12の強度を補強し、また保持治具1としたときの優れた取扱性を確保する。鍔部13の厚さは適宜に調整され、例えば、8〜10.0mmの範囲内に設定される。平坦部12は、厚さ方向に貫通する支持孔11が形成される領域であり、その厚さが一定になっている。平坦部12の厚さは、例えば、5.5〜7mmの範囲内に設定される。
【0018】
平坦部12の厚さ方向に貫通する支持孔11は、平坦部12内に、多数、例えば、5000個以上、好ましくは少なくとも6000個、より好ましくは少なくとも7000個、特に好ましくは少なくとも7500個有している(図3において、支持孔11の一部を図示していない。)。補強部材5に多数の支持孔11が形成されると保持治具1を用いた小型部品の製造方法における生産性が向上する。
【0019】
複数の支持孔11は、補強部材5の短辺方向に並行な第1配列方向及びこの第1配列方向に垂直に交差する第2配列方向に沿って、すなわち縦横方向に沿って、所定の間隔をおいて碁盤目状に穿孔されている。この例においては、第1配列方向及び第2配列方向に沿って隣接する支持孔11の間隔(隣接する2つの支持孔11の軸線距離をいう。以下同じ。)は同じ間隔に調整されている。この間隔は、例えば、1.8〜2.5mmであるのが小型部品の生産性と平坦部12の強度とを両立できる点で特に好ましい。
【0020】
平坦部12の表面に開口する支持孔11における開口部の形状、及び、支持孔11を平坦部12に平行な水平面で切断したときの断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形等の形状を任意に選択することができる。前記開口部の形状及び前記断面形状は同じ形状であるのがよい。この例においては、開口部の形状及び前記断面形状が同一の円形であり、同一の直径を有している。この直径は、例えば1.4〜2.5mmの範囲内に設定される。
【0021】
平坦部12及び鍔部13を備えて成る補強部材5は、小型部品の生産性、支持孔11の形成数、小型部品の寸法及び保持治具1の強度等を考慮して、鍔部13及び平坦部12の寸法が調整される。
【0022】
補強部材5は、弾性部材6を平坦な形状に維持することのできる材料で形成されていればよく、このような材料として金属及び樹脂等が挙げられる。具体的には、金属として、ステンレス鋼、炭素鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金及びニッケル合金等が挙げられ、樹脂として、例えば、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ塩化ビニル等が挙げられる。補強部材5は、加工性、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金及びポリフェニレンスルフィド樹脂等で形成されるのが好ましく、特にアルミニウム又はアルミニウム合金で形成されるのが好ましい。
【0023】
弾性部材6は、図1及び図2に示されるように、多数の保持孔15が穿孔され、平坦部12を内部に収容可能な空隙を有している。そして、弾性部材6は、補強部材5の平坦部12を埋設しており、換言すると、平坦部12の両面を被覆すると共に補強部材5の支持孔11に貫入し、補強部材5の鍔部13と面一になるように形成されている。すなわち、弾性部材6は平坦部12の表面に配置され、補強部材5の鍔部13によって囲繞されている。このように、弾性部材6は、その一部が補強部材5の支持孔11に貫入してなる柱状体を介して補強部材5の両面に配設された2つの板状成形体が一体に成っている。ここで、弾性部材6は、その保持孔15が支持孔11の内部を通るように弾性部材10を埋設している。好ましくは、弾性部材6は保持孔15が支持孔11の軸線Cと共通する軸線Cを有するように補強部材5特に平坦部12を埋設している。このように弾性部材6が形成されると弾性部材6と補強部材5との密着性に優れるうえ小型部品の挿入及び抜取りが容易になる。
【0024】
弾性部材6は、その厚さ方向に貫通し、自身に挿入又は貫入された小型部品をその弾性力で弾発的に保持する多数の保持孔15を有している。弾性部材6は、保持孔15を多数、例えば、5000個以上、好ましくは少なくとも6000個、より好ましくは少なくとも7000個、特に好ましくは少なくとも7500個有している(図1において、保持孔15の一部を図示していない。)。弾性部材6に多数の保持孔15が形成されると保持治具1を用いた小型部品の製造方法における生産性が向上する。
【0025】
複数の保持孔15は、支持孔11と基本的に同様に、第1配列方向及び第2配列方向に沿って所定の間隔をおいて碁盤目状に整列されている。この例においては、第1配列方向及び第2配列方向に沿って隣接する保持孔15の間隔(隣接する2つの保持孔15の軸線距離をいう。以下同じ。)は同じ間隔に調整されている。この間隔は支持孔11の間隔と基本的に同じ間隔になっている。
【0026】
弾性部材6の表面に開口する保持孔15における開口部の形状、及び、保持孔15を弾性部材6に平行な水平面で切断したときの断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形等の形状を任意に選択することができる。前記開口部の形状及び前記断面形状は同じ形状であるのがよい。この例においては、開口部の形状及び前記断面形状が同一の円形であり、同一の直径を有している。保持孔15の直径は、保持する小型部品の寸法及び前記間隔等を考慮のうえ調整される。例えば、保持孔15の直径は、小型部品の、軸線に垂直な断面形状に外接する仮想外接円の直径に対して80〜90%の範囲内、具体的には、0.56〜2.07mmの範囲内に設定される。
【0027】
弾性部材6は、小型部品の生産性、小型部品の寸法及び発揮される弾性力等を考慮して、鍔部13と面一になるように、その寸法及び厚さが調整される。すなわち、弾性部材6の厚さ(両外表面間の距離)は保持治具1の厚さと同じ厚さに調整され、通常、8〜10.0mmに調整される。
【0028】
弾性部材6は、小型部品を挿入及び/又は抜き取る際に弾性変形し、かつ、破損しないように、所定の伸び、引張強さ及び硬度を有しているのが好ましい。例えば、JIS K6249に規定の切断時伸び(引張速度500mm/min)は、200〜1000%であるのが好ましく、400〜900%であるのが特に好ましく、JIS K6249に規定の引張強さ(引張速度500mm/min)は、5〜15MPaであるのが好ましく、7〜14MPaであるのが特に好ましく、JIS K6253に規定の硬度(JIS A)は、20〜80であるのが好ましく、40〜60であるのが特に好ましい。前記JIS K6249に規定の切断時伸び及び引張強さは、23℃、湿度50%の環境下で、3号ダンベル形状の試験片を作製して、切断時伸びはつかみ具間隔を標線距離で20mmに設定して、実施する。
【0029】
弾性部材6の表面は、保持治具1が小型部品の製造方法、例えば、小型部品用部材の電極形成工程に使用されるから、製品の均質性を実現し、また、弾性部材6の表面に導電性ペースト等が付着しないように平坦であるのが好ましい。
【0030】
弾性部材6は後述するゴム及びシリコーンゴム粉末を含有する含有ゴム組成物で形成され、弾性部材6の表面及び保持孔15の周面に後述するシリコーンゴム粉末が露出して、その表面及び周面に凹凸が形成されていることも想定される。この発明の発明者は、このように保持孔15の周面にシリコーンゴム粉末が露出していると、保持孔15に小型部品を挿入するときは弾性部材6が小型部品の挿入方向に変形して保持孔15の周面と小型部品との接触面積がシリコーンゴム粉末の分だけ減少することによって耐摩耗性に優れる一方、保持孔15に小型部品を挿入保持したときは弾性部材6の表面の凹凸が平滑になるように変形して保持孔15の周面と小型部品との接触面積が増大することによって保持力を大きく低減させることなく維持でき、その結果、「保持孔が発揮する初期の保持力を大きく低下させることなく小型部品を所望のように保持するのに必要な保持力を長期間発揮させることができる」のではないかと推測している。
【0031】
この弾性部材6は、ゴム等の弾性変形可能な材料で形成され、シリコーンゴム粉末を含有している。換言すると、弾性部材6は、ゴム又はその前駆体とシリコーンゴム粉末と所望により各種添加剤とを含有するシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物で形成され、このシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物の硬化体で形成されている。
【0032】
マトリックスとしてのゴムとしては、各種のゴムが挙げられるが、耐熱性等を考慮するとシリコーンゴムであるのが好ましい。なお、この発明においてゴムはエラストマーをも包含する概念である。このように弾性部材6はシリコーンゴム粉末を含有するマトリックスとしてのシリコーンゴムで形成されており、少なくともシリコーンゴムとシリコーンゴム粉末とで形成されている。ここで、シリコーンゴムとしては、特に限定されず、例えば、高重合度の線状ポリジメチルシロキサン若しくはその共重合体を架橋してゴム弾性を付与したシリコーンゴム、又は、耐酸性のシリコーンゴム等が挙げられる。
【0033】
シリコーンゴム粉末としては、シリコーンゴムの粉末であれば中実体であっても中空体であってもよく、各種シリコーンゴムの粉末、粉砕物、造粒物等が挙げられる。シリコーンゴム粉末は、例えば、ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンゴムの粉末であればよく、例えば、直鎖状のジメチルポリシロキサンを架橋した構造を持つシリコーンゴムの粉末、及び、前記シリコーンゴムの表面をシリコーンレジン等で被覆した被覆シリコーンゴムの粉末等が挙げられる。
【0034】
シリコーンゴム粉末は、粉末であればその形状は通常球状であるが、球状に限定されず、球状であっても真球である必要はなくほぼ球状であればよく、また、楕円形、燐片状、針状、不定形等であってもよい。シリコーンゴム粉末の平均粒径は5〜20μmであるのが好ましく、5〜15μmであるのが特に好ましい。シリコーンゴム粉末が前記範囲の平均粒径を有しているとこの発明の目的をよく達成できる。シリコーンゴム粉末の平均粒径はレーザー回折−散乱法(島津製作所製 レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−300V」)により測定された値である。
【0035】
このようなシリコーンゴム粉末は適宜製造してもよく市販品を使用してもよい。シリコーンゴムの粉末として、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名「KMP−594」、「KMP−597」、「KMP−598」、「X−52−875」等のシリコーンゴムパウダー等が入手可能であり、シリコーンレジンの粉末として、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名「KMP−590」、「KMP−701」、「X−52−1621」等のシリコーンレジンパウダー等が入手可能であり、被覆シリコーンゴムの粉末として、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名「KMP−600」、「KMP−601」、「KMP−602」、「KMP−605」、「KSP−100」、「KSP−101」、「KSP−102」、「KSP−105」、「KSP−300」等のシリコーン複合パウダー等が入手可能である。
【0036】
弾性部材6におけるシリコーンゴム粉末の含有量は、例えば、弾性部材6を形成するマトリックスとしてのゴム又はゴムとなるゴム前駆体例えば生ゴムを100質量部としたときに130〜150質量部、特に130〜145質量部であるのが好ましい。シリコーンゴム粉末の含有量が前記範囲内にあるとこの発明の目的をよく達成できる。シリコーンゴム粉末は一種単独で又は二種以上が含有されていてもよい。
【0037】
弾性部材6はゴムとシリコーンゴム粉末の他にゴム組成物に通常添加される各種添加剤等を含有していてもよい。このような各種添加剤として、例えば、充填剤、カーボンブラック、耐熱性向上剤、着色剤、難燃性向上剤、離型剤、分散剤等が挙げられる。特に、添加剤として湿式シリカが弾性部材6に含有されているとシリコーンゴム粉末による効果が著しく保持孔15は所望の姿勢でチップを保持できる保持力をより一層長期間にわたって維持できる。したがって、弾性部材6はゴムと湿式シリカとシリコーンゴム粉末とを含有しているのがこの発明の効果をよく達成できる点で好ましい。弾性部材6の含有される各種添加剤は所望の含有量で含有される。
【0038】
この弾性部材6は、ゴム又はその前駆体とシリコーンゴム粉末とを少なくとも含有するシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物で形成される。このようなシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物は、前記ゴム又はその前駆体と前記シリコーンゴム粉末とを含有していればよく、所望により各種の添加剤を含有していてもよい。例えば、ゴムとして高重合度の線状ポリジメチルシロキサンを架橋したシリコーンゴム又はその前駆体と充填剤として乾式シリカとを含有するシリコーンゴム組成物として商品名「KE−1950−50」(信越化学工業株式会社製)等が挙げられ、ゴムとして高重合度の線状ポリジメチルシロキサンを架橋したシリコーンゴム又はその前駆体と充填剤としての湿式シリカを含有するシリコーンゴム組成物として商品名「KE−1990−50」(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0039】
シリコーンゴム粉末含有ゴム組成物は、ゴム又はその前駆体とシリコーンゴム粉末と所望により各種の添加剤とを二本ロール、三本ロール、ロールミル、バンバリーミキサ、ドウミキサ(ニーダー)等のゴム混練り機等を用いて均一に混合されるまで、例えば、数分から数時間、好ましくは5分以上1時間以下にわたって常温又は加熱下で混練して、得られる。
【0040】
保持治具1は、所望の姿勢、例えば、小型部品の軸線が保持孔15の軸線Cと略平行となる状態、特に好ましくは両軸線が一致する状態に、小型部品をその弾性力で弾発的に保持する。そして、小型部品を保持した保持治具1は小型部品の製造工程、搬送工程等に供される。
【0041】
保持治具1に小型部品を保持する方法として、保持治具1の一方の表面が板状部材の平坦な表面に当接するように保持治具1と板状部材とを積層した状態に配置して、前記板状部材に対して反対側の他方の表面から小型部品を保持孔15に圧入する方法が一般的に採用される。このような方法の例として、例えば特許第4337498号明細書には、従来の各種方法(例えば、0004欄〜0009欄及び図9〜14参照。)と、これらの各種方法を改良した方法(特許請求の範囲及び図1及び図2等参照。)とが記載されている。具体的には、平坦な表面を有する板状部材と、保持孔15と同数の貫通孔が保持孔15と同じ間隔で同様に整列された整列板とをそれぞれ準備し、板状部材に重ね合わせた保持治具1に、その保持孔15と整列板の貫通孔との軸線が一致するように整列板をさらに重ね合わせる。次いで、整列板の貫通孔それぞれに小型部品を挿入し、小型部品を平坦な押圧部材で前記板状部材に向かって均一に保持治具1側に押圧する。そうすると、小型部品は保持孔15に前記状態となるように挿入され、弾発的に保持される。
【0042】
このとき、小型部品を所望の姿勢で保持するのに必要な保持力は、保持孔15及び小型部品の寸法及び形状等によって変化するが、通常、10gf以上である。この保持力は次のようにして測定される。まず、保持孔15の直径に対して前記仮想外接円の直径が約80〜95%となるサイズ、例えば、保持孔15の直径が1.19〜1.41mmである場合には縦0.8mm×横0.8mm(前記下層外接円の直径1.13mm)×軸線長さ1.6mmの直方体状チップ(ダミーチップ含む。)を保持孔15に平板を用いてプレート面と同じ高さになるまで表面から水平に押し込む。次に、そのチップを保持孔15の裏面からチップより小さな面を持つ押しピンで排出する。このチップ排出時に押しピンが接続された荷重測定器(商品名:デジタルフォースアナライザーFA PLUS、株式会社イマダ製)で押しピンにかかる最大の荷重を測定し、測定された最大荷重を保持力と定義する。なお、測定は複数回、例えば5回実施し、最大荷重は算術平均値とする。
【0043】
保持治具1は、例えば、前記材料で作製した補強部材5とシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物とを、保持孔15を形成することのできる成形ピンを有する成形金型内に収納して、一体成形することで、製造できる。
【0044】
この保持治具1は補強部材5とシリコーンゴム粉末を含有する弾性部材6とを備えているから、弾性部材6の保持孔15に挿入された小型部品を所望の姿勢で保持することができる。そして、この保持治具1は、保持孔15に小型部品を多数回にわたって繰り返し挿脱すなわち保持し取り外しても、また小型部品を保持した状態で小型部品の製造工程、例えば加熱処理する電極形成工程等に供されても、保持孔15が発揮する初期の保持力を大きく低下することがなく小型部品を所望のように保持するのに必要な保持力を長期間にわたって発揮するから、小型部品を所望の姿勢で保持することができる。その理由の1つとして前記のようにシリコーンゴム粉末が保持孔15の周面に露出していることが想定される。したがって、このように保持治具1は高い耐久性を発揮する。
【0045】
この発明に係る保持治具の別の一例である保持治具2は、図4及び図5に示されるように、支持孔11を有する補強部材5と保持孔15を有する弾性部材6とを備え、支持孔11及び保持孔15の配列が異なること以外は前記保持治具1と基本的に同様である。したがって、保持治具2は保持治具1と同様に所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持でき、高い耐久性を発揮する。
【0046】
支持孔11は、明確に図示されていないが、例えば図4に示される保持孔15と同様に、図4に図示した補強部材5の短辺方向に並行な第1配列方向に沿って、奇数行に配列された第1支持孔11Aと偶数行に配列された第2支持孔11B(図示しない。)とからなる所謂「千鳥状」に配列されている。その配列については保持孔15で説明する。このような所謂「千鳥状」に配列は、同じ領域であれば、保持治具1のような碁盤目状の配列等に対してより多数の、すなわち高密度で支持孔11を形成することができるので保持治具2の生産性を大きく向上させることができる。多数の支持孔11は第1配列方向及び第2配列方向共に一定の間隔、例えば、1.8〜2.5mmの間隔をおいて配列されている。
【0047】
保持孔15は、図4及び図5に示されるように、図4に図示した補強部材5の短辺方向に並行な第1配列方向に沿って、奇数行に配列された第1保持孔15Aと偶数行に配列された第2保持孔15Bとからなる。さらに具体的には、保持孔15は、第1配列方向及びこの第1配列方向に交差する第2配列方向、この例において図4に図示した補強部材5の長辺方向に沿って配列された第1保持孔15Aと、第1配列方向に沿って隣接する2つの第1保持孔15A並びに第2配列方向の同じ側に2つの前記第1保持孔15Aに隣接する2つの第1保持孔15Aで囲まれる矩形領域に配列された第2保持孔15Bとからなる。そして、第1配列方向の最外列に第1保持孔15Aが配列され、第2配列方向の最外列に第2保持孔15Bが配列されている。この所謂「千鳥状」の配列においては、第2保持孔15Bの軸線は包囲される4つの第1保持孔15Aで囲まれる領域の略中心に存在している。第1保持孔15A及び第2保持孔15Bの第1配列方向及び第2配列方向の間隔はいずれも第1配列方向の間隔が第2配列方向の間隔よりも約1.7倍大きくなっている。
【0048】
この発明に係る保持治具の別の一例である保持治具3は、図6に示されるように、支持孔を有する補強部材5と保持孔15を有する弾性部材6とを備え、支持孔及び保持孔15の配列が異なること以外は保持治具1及び保持治具2と基本的に同様である。したがって、保持治具2は保持治具1と同様に所望の姿勢でチップを保持できる保持力を長期間維持でき、高い耐久性を発揮する。保持治具3における保持孔15の配列は、具体的には、図6に示されるように、第1配列方向及び第2配列方向に沿って所謂「千鳥状」に配列されており、第1配列方向に沿って、奇数行に配列された第1保持孔15Aと偶数行に配列された第2保持孔15Bとからなる。そして、第1配列方向の最外列及び第2配列方向の最外列のいずれにも第1保持孔15Aが配列されている。なお、支持孔は図示されないが保持孔15と同様に配列されている。
【0049】
この発明に係る保持治具は、前記した一例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、保持治具1は支持孔11及び保持孔15が碁盤目状に配列され、保持治具2及び3は支持孔11及び保持孔15が千鳥状に配列されているが、この発明において、支持孔及び保持孔の配列はこれらに限定されず、例えば、前記碁盤目状配列を45度回転した配列であってもよい。
【0051】
保持治具1〜3はいずれも支持孔11及び保持孔15が同様の開口部形状に穿孔されているが、この発明において、支持孔及び保持孔は互いに異なる開口部形状に穿孔されてもよい。また保持治具1〜3はいずれも鍔部13を有しているが、この発明において、鍔部を有していなくてもよく、また平坦部の少なくとも一端縁に有していてもよい。
【0052】
保持治具1は、第1配列方向及び第2配列方向に沿う支持孔11及び保持孔15の間隔が同一間隔に設定されているが、この発明において、第1配列方向及び第2配列方向に沿う支持孔及び保持孔の間隔は異なる間隔に設定されていてもよい。また、保持治具2及び保持治具3は第1配列方向及び第2配列方向に沿う支持孔11及び保持孔15の間隔が異なる間隔に設定されているが、この発明において、第1配列方向及び第2配列方向に沿う支持孔及び保持孔の間隔は同一間隔に設定されていてもよい。
【0053】
保持治具2は第1保持孔15Aが第1配列方向の最外列になるように配列され、第2保持孔15Bが第2配列方向の最外列になるように配列されており、一方、保持治具3は第1保持孔15Aが第1配列方向の最外列及び第2配列方向の最外列になるように配列されているが、この発明において、第1保持孔又は第2保持孔が第1配列方向及び第2配列方向の少なくとも1つの最外列又はすべての最外列になるように配列されてもよい。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
厚さ8.9mmのアルミニウム板を縦180mm×横270mmに切り出し、その縦150mm×横225mmの長方形の領域における両表面から深さ1.5mmまでの部分を切削して、厚さが5.9mmの平坦部とその周囲に厚さ8.9mmの鍔部13とを有する板状体を作製した。この平担部に2.0mmの直径を有する円形の支持孔11を、縦方向及び横方向に2.3mmの間隔で縦110列及び横67行に整列した状態に、穿孔した。このようにして図3に示される補強部材5を作製した。
【0055】
次いで、高重合度の線状ポリジメチルシロキサンを架橋したシリコーンゴム又はその前駆体100質量部と湿式シリカ33.3質量部とを含有するシリコーンゴム組成物(商品名「KE−1990−50」、信越化学工業株式会社製)に、シリコーンゴム粉末(商品名「シリコーンゴムパウダー KMP−594」、球状、平均粒径5μm)133.3質量部を添加して均一になるまで混合して、シリコーンゴム粉末含有ゴム組成物を得た。このシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物において、高重合度の線状ポリジメチルシロキサンを架橋したシリコーンゴム又はその前駆体100質量部に対するシリコーンゴム粉末の含有量は133.3質量部であった。
【0056】
作製した補強部材5と調製したシリコーンゴム粉末含有ゴム組成物とを所定の成形金型に収納した後に、130℃で5分間加熱して一体成形し、図1及び図2に示される保持治具1を製造した。この保持治具1は、直径1.0mmの保持孔15が2.3mmの間隔で縦110列、横67列に配列されていた。
【0057】
(実施例2及び3)
シリコーンゴム粉末の混合量をそれぞれ130質量部(前記シリコーンゴム又はその前駆体100質量部に対する含有量は130質量部)及び150質量部(前記シリコーンゴム又はその前駆体100質量部に対する含有量は150質量部)に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具をそれぞれ製造した。
【0058】
(比較例1)
シリコーンゴム粉末を添加せずに前記シリコーンゴム組成物のみを用いたこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具を製造した。
【0059】
(初期保持力の測定)
実施例及び比較例で製造した保持治具の初期保持力を次のようにして測定した。すなわち、保持孔15の直径に対する所定割合(縦0.8mm×横0.8mm×軸線長さ1.6mm)の直方体状チップ(ダミーチップ含む。)を保持孔15に平板を用いて弾性部材6の表面と同じ高さになるまで表面から水平に押し込んだ。次いで、この直方体状チップを保持孔15の裏面から直方体状チップよりも小さな先端面を持つ押しピンで保持孔15から排出した。直方体状チップを保持孔15から完全に排出するまでに押しピンに作用する荷重を連続して測定し、最大荷重を初期保持力とした。その結果、初期保持力は、実施例1が18.6gf、実施例2が21.0gf、実施例3が21.1gfで比較例1が26.1gfであった。
【0060】
(400サイクル加熱挿脱後の保持力の測定)
「初期保持力の測定」に使用した直方体状チップと同寸の直方体状の小型部品を準備した。この小型部品を各保持治具の保持孔15に挿入保持して保持治具ごと150℃に約8時間加熱した後に20℃に放冷後に小型部品を取り外す加熱挿脱工程を繰り返し400サイクル実施した。このようにして400サイクル加熱挿脱後の保持孔15の保持力を前記初期保持力と基本的に同様にして測定した。その結果、400サイクル加熱挿脱後の保持力は、実施例1が17.1gf、実施例2が18.3gf、実施例3が19.4gfで比較例1が21.4gfであった。
【0061】
(保持力の保持割合算出)
このようにして測定された400サイクル加熱挿脱後の保持力を初期保持力で除して保持力の保持割合(百分率%)を算出した。その結果、保持力の保持割合は、実施例1が91%、実施例2が87%、実施例3が92%で比較例1が82%であった。
【0062】
このように、実施例1〜3の保持治具は保持力の保持割合が極めて大きく、すなわち初期保持力に対する保持力の低下割合が小さく、小型部品を所望の姿勢で保持するのに必要な保持力である10gf以上の初期保持力を維持していた。これに対して比較例1の保持治具は保持力の保持割合が実施例と比較すると小さくなっており、初期保持力を長期間維持しにくいことが分かった。
【0063】
実施例1〜3のように400サイクル加熱挿脱後の保持力が90%前後の保持割合で保持されていると、実使用を考慮して実施例1〜3の保持治具を用いて前記小型部品を2000サイクル加熱挿脱しても初期保持力が長期にわたって十分に維持されることが容易に推測される。これに対して、比較例1の保持治具は保持力の絶対値は大きいものの、初期保持力に対する保持力の保持割合が小さいから、前記小型部品を2000サイクル加熱挿脱すると小型部品を所望の姿勢で保持するのに必要な保持力である10gf以上を下回って初期保持力を十分に維持できないであろうことが予想される。
【0064】
なお、保持孔11を碁盤目状に配列した保持治具1に代えて図4及び図5に示される千鳥配列並びに図6に示される千鳥配列に配列した保持治具(保持孔の直径は0.64mm)を製造したところ、保持力等の試験結果に保持治具1と基本的に同様の傾向が確認できた。
【符号の説明】
【0065】
1、2、3 保持治具
5 補強部材
6 弾性部材
11 支持孔
11A 第1支持孔
12 平坦部
13 鍔部
15 保持孔
15A 第1保持孔
15B 第2保持孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持孔を有する補強部材と、小型部品を保持する保持孔を有し、シリコーンゴム粉末を含有する弾性部材とを備え、前記保持孔が前記支持孔の内部を通るように前記補強部材が前記弾性部材に埋設されて成る保持治具。
【請求項2】
前記弾性部材は、ゴム及びシリコーンゴム粉末を含有するゴム組成物で形成されている請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記シリコーンゴム粉末は、前記ゴムを100質量部としたときに130〜150質量部の割合で含有されている請求項2に記載の保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−84769(P2013−84769A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223712(P2011−223712)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】