説明

保持脱離治具及び取扱治具

【課題】被粘着物を所望のように粘着保持することができるにもかかわらず、弾性部材を損傷させることなく被粘着物のほとんどすべてを取り外すことのできる保持脱離治具及び取扱治具を提供すること。
【解決手段】被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面10bを有する弾性部材10と、被粘着物が粘着性表面10bに粘着保持される粘着領域10aよりも開口面積が大きな貫通部62、及び、貫通部62の開口部の少なくとも一部を包囲する非粘着性表面61を有する非粘着性シート50とを備え、非粘着性シート50は、被粘着物を脱離させるときに被粘着物を押圧する押圧方向側に非粘着性表面61が配置されるように、弾性部材10上に積層される保持脱離治具1A、並びに、この保持脱離治具1Aと、その表面に沿って相対的に移動して粘着保持された被粘着物を脱離させる脱離具とを備えて成る取扱治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持脱離治具及び取扱治具に関し、さらに詳しくは、被粘着物を所望のように粘着保持することができるにもかかわらず、弾性部材を損傷させることなく被粘着物のほとんどすべてを取り外すことのできる保持脱離治具及び取扱治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、チップコンデンサ等の小型電子部品等を製造する際等に、これらの小型電子部品等を製造可能な小型電子部品用部材等をその表面に粘着保持可能な弾性部材を備えた保持治具が用いられている。例えば、特許文献1に記載の保持治具は、「少なくとも表面部が粘着性を有するゴム弾性材で形成され、その粘着力により小型部品をその弾性材表面において密着保持可能であることを特徴とする」(特許文献1の請求項1参照)。このような保持治具を用いて製造された小型電子部品等は保持治具から取り外される。
【0003】
保持治具から小型電子部品等を取り外す方法として、例えば、スクレイパー等の脱離具を弾性部材の表面上に摺動させて粘着保持された小型電子部品等を取り外す方法がある。
【0004】
このような方法の1つとして、例えば、特許文献2には、「粘着材層と、非粘着部分又は粘着材層よりも粘着力の小さい低粘着部分とを備える保持手段を準備するステップと、前記保持手段の粘着材層に電子部品の一端面を粘着させて該電子部品を保持するステップと、掻取り手段を前記粘着材層の表面に沿って、かつ、前記非粘着部分又は前記低粘着部分が移動方向終端にくるような方向に移動させ、電子部品を粘着材層から掻き取るステップと、を備えたことを特徴とする電子部品の取扱い方法」が記載されている(請求項8等参照。)。
【0005】
別の方法として、例えば、特許文献3には、「支持体と支持体の一面に形成された粘着層とを有する電子部品保持具の該粘着層に複数の電子部品を粘着により保持する工程と、前記粘着層に保持されている電子部品に所定の処理を施す工程と、前記ブレードの先端により粘着層を凹ませ、その状態でブレードを粘着層表面方向に相対的に移動させることにより電子部品を粘着層から離脱させる工程とを備える、電子部品の取扱い方法」が記載されている(請求項4等参照。)。
【0006】
これらの方法においては、通常、小型電子部品等を取り外すには脱離具を弾性部材に押し当てた状態で摺動させる。例えば、特許文献3に記載の方法は、「ブレードの先端により粘着層を凹ませ、その状態でブレードを粘着層表面方向に相対的に移動させる」ことによって、特許文献3の図3に示されるように、電子部品2を傾斜させて離脱させる。
【0007】
このとき、小型電子部品等の寸法、弾性部材の凹ませ状態、弾性部材の粘着力、脱離具の移動速度等を適切に設定しないと、小型電子部品等が転倒して弾性部材の表面に再粘着し、小型電子部品等を弾性部材から所望のように取り外せないことがある。特に小型電子部品等は、年々小型化されているので、小型電子部品等の寸法が小さくなるほど、前記したような小型電子部品等が再粘着してしまうという問題が生じやすくなっている。
【0008】
また、脱離具を弾性部材の表面上に摺動させると、特に、小型電子部品等を確実に取り外す目的で、脱離具を弾性部材の表面上に強く押し当てて摺動させ、又は、脱離具を勢いよく弾性部材の表面上に摺動させると、脱離具によって弾性部材の表面に傷が付き、損傷することがある。弾性部材が損傷すると、弾性部材の表面平滑性が損なわれるから、小型電子部品等を所望のように、例えば、複数の小型電子部品をほぼ均一な起立状態で、粘着保持することができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平07−93247号公報
【特許文献2】特開2004−193366号公報
【特許文献3】特開2003−77772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、被粘着物を所望のように粘着保持することができるにもかかわらず、弾性部材を損傷させることなく被粘着物のほとんどすべてを取り外すことのできる保持脱離治具及び取扱治具を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面を有する弾性部材と、前記被粘着物が前記粘着性表面に粘着保持される粘着領域よりも開口面積が大きな貫通部、及び、前記貫通部の開口部の少なくとも一部を包囲する非粘着性表面を有する非粘着性シートとを備え、前記非粘着性シートは、前記被粘着物を脱離させるときに前記被粘着物を押圧する押圧方向側に前記非粘着性表面が配置されるように、前記弾性部材上に積層されることを特徴とする保持脱離治具であり、
請求項2は、前記貫通部は、前記粘着性表面に粘着保持されたときの前記被粘着物の高さ以上の間隔をあけて前記押圧方向に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の保持脱離治具であり、
請求項3は、請求項1又は2に記載の保持脱離治具と、前記保持脱離治具の表面に沿って相対的に移動して粘着保持された被粘着物を脱離させる脱離具とを備えて成ることを特徴とする取扱治具であり、
請求項4は、被粘着物を粘着保持する弾性部材を有して成る保持治具を備え、前記弾性部材は、前記保持脱離治具の前記粘着性表面よりも小さな粘着力を有していることを特徴とする請求項3に記載の取扱治具であり、
請求項5は、被粘着物を粘着保持する弾性部材を有して成る第1保持治具及び第2保持治具を備え、
前記保持脱離治具の前記粘着性表面、前記第2保持治具及び前記第1保持治具は、条件:前記粘着性表面 > 第2保持治具 > 第1保持治具 を満たす粘着力を有していることを特徴とする請求項3に記載の取扱治具であり、
請求項6は、前記脱離具は、前記保持脱離治具の両端縁近傍それぞれを載置して摺動させる一対の摺動部と、前記摺動部よりも下方で前記一対の摺動部に挟まれるように前記一対の摺動部の間に形成され、前記保持脱離治具に粘着保持された前記被粘着物が衝突する被衝突面とを有して成ることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の取扱治具である。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る保持脱離治具は、弾性部材と、この弾性部材上に積層される前記非粘着性シートとを備えて成るから、弾性部材の粘着性表面で被粘着物を粘着保持することができ、一方、損傷の原因となりうる衝撃、応力等の作用を弾性部材に与えることなく、例えば、被粘着物を摺動、押進若しくは押動又は転倒等させて前記非粘着性シートの非粘着性表面に接触させるだけで、保持脱離治具から脱離させることができる。
【0013】
また、この発明に係る取扱治具は、この発明に係る保持脱離治具と前記保持脱離治具の表面に沿って相対的に移動する脱離具とを備えて成るから、前記脱離具が弾性部材の表面に接触も圧接もせずに前記のように移動することによって、前記作用を弾性部材に与えることなく前記保持脱離治具に粘着保持された被粘着物を前記非粘着性シートの非粘着性表面に接触させることができる。
【0014】
したがって、この発明によれば、被粘着物を所望のように粘着保持することができるにもかかわらず、弾性部材を損傷させることなく被粘着物のほとんどすべてを取り外すことのできる保持脱離治具及び取扱治具を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明に係る保持脱離治具の一実施例である保持脱離治具を示す概略図であり、図1(a)はこの発明に係る保持脱離治具の一実施例である保持脱離治具を示す概略上面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA−A線における断面の一部を示す概略断面図である。
【図2】図2は、この発明に係る保持脱離治具の別の一実施例である保持脱離治具を示す概略上面図である。
【図3】図3は、この発明に係る取扱治具の一実施例である取扱治具、及び、この発明に係る保持脱離治具の一実施例である保持脱離治具から被粘着物を脱離させる方法を説明する説明図であり、図3(a)はこの発明に係る保持脱離治具の一実施例である保持脱離治具に被粘着物を粘着保持させた状態を説明する説明図であり、図3(b)は脱離具によって被粘着物が転倒して非粘着性表面に接触する様子を説明する説明図であり、図3(c)は脱離具によって被粘着物が摺動して非粘着性表面に到達する様子を説明する説明図である。
【図4】図4は、この発明に係る取扱治具を構成する脱離具の一実施例である脱離具を示す概略図であり、図4(a)はこの発明に係る取扱治具を構成する脱離具の一実施例である脱離具を示す概略上面図であり、図4(b)は図4(a)におけるA−A線における概略断面図であり、図4(c)は図4(a)におけるB−B線における概略断面図である。
【図5】図5は、この発明に係る取扱治具の別の一実施例である取扱治具、及び、この発明に係る取扱治具の別の一実施例である取扱治具を用いた被粘着物の脱離方法を説明する概略図であり、図5(a)はこの発明に係る取扱治具の別の一実施例である取扱治具を用いた被粘着物の脱離方法を説明する概略上面図であり、図5(b)は図5(a)におけるA−A線における概略断面図であり、図5(c)は図5(a)におけるB−B線における概略断面図である。
【図6】図6は、この発明に係る取扱治具が備える保持治具の一例を示す概略斜視図である。
【図7】図7は、この発明に係る取扱治具のまた別の一実施例である取扱治具、及び、この取扱治具において保持治具から保持脱離治具に被粘着物を転写させる状態を示す概略図である。
【図8】図8は、この発明に係る取扱治具のさらにまた別の一実施例である取扱治具を示す概略図である。
【図9】図9は、この発明に係る取扱治具のまた別の一実施例である取扱治具、及び、この取扱治具において第1保持治具から第2保持治具に被粘着物を転写させる状態を示す概略図である。
【図10】図10は、この発明に係る取扱治具のさらにまた別の一実施例である取扱治具を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明における被粘着物は、この発明に係る保持脱離治具又はこの発明に係る取扱治具に粘着保持される必要性のある被粘着物を製造可能な被粘着物用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等が挙げられる。また、被粘着物の製造には被粘着物の搬送工程等も含まれるから、被粘着物は、被粘着物そのもの、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等も含まれる。したがって、この発明においては、被粘着物と被粘着物用部材とは明確に区別される必要はない。これら被粘着物の中でも、この発明に係る保持脱離治具及びこの発明に係る取扱治具が粘着保持するのに好適な被粘着物として、小型電子部品及び/又は小型電子部品用部材等が挙げられる。小型電子部品及び小型電子部品用部材としては、例えば、コンデンサチップ(チップコンデンサとも称されることがある。)、インダクタチップ、抵抗体チップ、FPC、ウエハー等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な例えば、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等が挙げられる。
【0017】
この発明に係る保持脱離治具は、後述する弾性部材と、この弾性部材上に積層される後述する非粘着性シートとを備えて成り、前記弾性部材の粘着性表面で被粘着物を粘着保持できる一方、前記弾性部材上に積層された非粘着性シートの非粘着性表面に接触させて被粘着物を粘着性表面から取り外すことができる。この発明に係る保持脱離治具において、被粘着物を粘着保持するには前記弾性部材の粘着性表面に被粘着物を接触、好ましくは押圧する。一方、この発明に係る保持脱離治具において、粘着保持された被粘着物を取り外すには被粘着物を非粘着性表面側に押圧する。このように、粘着保持された被粘着物を非粘着性表面側に押圧すると、この被粘着物は粘着性表面による粘着力に抗して、非粘着性表面に向かって摺動、押進若しくは押動して非粘着性表面に到達し、又は、非粘着性表面側に転倒して非粘着性表面に接触し、前記粘着性表面すなわち保持脱離具から脱離する。なお、この発明に係る保持脱離治具の使用方法等の詳細は後述する。
【0018】
この発明に係る保持脱離治具の一実施例である保持脱離治具を、図面を参照して、説明する。この保持脱離治具1Aは、図1に示されるように、支持部材11と、支持部材11の表面に設けられた、被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面10bを有する弾性部材10と、この弾性部材10の粘着性表面10bに積層された非粘着性シート50とを備えてなる。この図1は保持脱離治具1Aを理解しやすくするための概略図である。
【0019】
前記支持部材11は、図1に示されるように、後述する弾性部材10を支持する。この支持部材11は、平滑な表面を有していればよく、弾性部材11を支持することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができる。例えば、この支持部材11は、図1に示されるように、その端縁近傍が弾性部材10の端縁から突出するように、弾性部材10よりも大きな寸法を有する盤状薄葉体に形成されている。特に、後述する脱離具30を用いる場合には、このように支持部材11は弾性部材10よりも大きな寸法を有しているのが好ましい。この支持部材11は、前記弾性部材10とほぼ同じ寸法の方形を成す盤状薄葉体に形成されていてもよい。
【0020】
支持部材11は、弾性部材10を支持可能な材料で形成されていればよく、例えば、ステンレス鋼及びアルミニウム等の金属製プレート、アルミニウム箔及び銅箔等の金属箔、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム又は樹脂板等を挙げることができる。さらに、支持部材11はシート状物を複数積層して成る積層体とすることもできる。
【0021】
前記弾性部材10は、被粘着物の一平面に接して、多数の被粘着物を粘着により保持することができるように設計され、例えば、図1に示されるように、支持部材11の表面に支持部材11よりも一回り小さな方形を成す盤状体に成形されている。この弾性部材10は、例えば、後述する粘着力を有する粘着性材料又はこの粘着性材料の硬化物で形成されており、自身の表面全体が被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面10bになっている。
【0022】
弾性部材10の粘着性表面10bは、前記被粘着物の表面に接触して被粘着物を粘着保持するから、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力を有している。具体的には、弾性部材10は、通常、1〜50g/mmの粘着力を有しているのがよく、7〜50g/mmの粘着力を有しているのがよい。ここで、弾性部材10の粘着力は下記「信越ポリマー法」によって測定された値である。この方法においては、弾性部材10を水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱を成したステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意し、この荷重測定装置における吸着固定装置又は真空吸引チャックプレート上に弾性部材10を固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で弾性部材10の被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を25g/mmに設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる算術平均値を弾性部材10の粘着力とする。
【0023】
前記弾性部材10は、その粘着性表面10bの硬度(JIS K6253[デュロメータE])が5〜60程度であるのが好ましい。前記粘着性表面10bが前記硬度の範囲内にあると、被粘着物を粘着保持させるときに前記粘着性表面10bに載置された被粘着物を粘着性表面10bに押圧しても被粘着物を損傷及び破損等させることを防止できる。
【0024】
弾性部材10は、その粘着性表面10b、すなわち、非粘着性シート50が載置される表面が平滑であるのが好ましく、具体的には、例えば、前記粘着性表面10bの十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が5μm以下であるのが好ましい。十点平均粗さRzは、カットオフ0.8mm、測定長さ2.4mm等の条件で測定する。粘着性表面10bの十点平均粗さRzは、例えば、弾性部材10を形成する際に用いる金型における製品部形成面のブラスト処理等により調整することができる。
【0025】
前記弾性部材10は自身の表面全体が粘着性表面10bになっており、そのうちの一部が被粘着物を粘着保持する粘着領域となる。この粘着領域は、前記粘着性表面10bのうち被粘着物を粘着保持するときに被粘着物の表面に接触する領域であって、例えば図1に示されるように、前記粘着性表面10b上に後述する非粘着性シート50を配置したときにこの非粘着性シート50の貫通部62内に露出する粘着領域10aである。粘着領域10aは、粘着予定領域、仮想粘着領域等と称することもできる。この発明において、前記被粘着物が粘着保持されるときに粘着性表面10bに接する被粘着物の表面は、前記粘着性表面10bに臨む前記被粘着物の外面であればよく、例えば、平面、曲面又はそれらの一部等が挙げられる。
【0026】
前記粘着領域10aは、粘着保持される被粘着物の配列のうち少なくとも前記押圧方向における配列と同様の配列となるように仮想され、この例においては、粘着保持される被粘着物の配列と同様の配列となるように仮想されている。前記粘着領域10aは、通常、前記被粘着物の前記外面の表面積とほぼ同じ又は前記表面積よりもわずかに大きな表面積を有している。なお、図1に示される粘着領域10aは円筒状の被粘着物の底面が粘着される領域を示している。
【0027】
弾性部材10は、0.05〜2mm程度の厚さを有するのが好ましい。この弾性部材10の厚さが0.05mm未満であると、弾性部材10の機械的強度が低下し、弾性部材10の耐久性が十分でないことがあり、一方、2mmを越えると、弾性部材10が弾性変形しにくくなり、被粘着物を弾性部材10から容易に取り外すことができなくなることがある。
【0028】
弾性部材10は、接着剤層若しくはプライマー層によって、弾性部材10の粘着力によって、又は、固定具等によって、支持部材11の表面に固定されていればよく、被粘着物取扱治具1Aにおいて、弾性部材10は、接着剤層若しくはプライマー層を介して、支持部材11の表面に固定されている。
【0029】
弾性部材10は、前記粘着力を発揮することのできる粘着性材料又はこの粘着性材料の硬化物で形成されていればよく、粘着材料として、例えば、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴム、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴムを含有するフッ素系組成物、シリコーン樹脂又はシリコーンゴム、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含有するシリコーン組成物、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等が挙げられる。この中でも、シリコーンゴム、及び/又は、シリコーンゴムを含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物が好ましい。前記付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物としては、例えば、特開2008−091659号公報に記載の、シリコーン生ゴム(a)と架橋成分(b)と粘着力向上剤(c)と触媒(d)とシリカ系充填材(e)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。前記過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物としては、例えば、特開2008−091659号公報に記載の、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とシリカ系充填材(e)と有機過酸化物(f)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
【0030】
前記非粘着性シート50は、図1に示されるように、前記被粘着物が前記粘着性表面10bに粘着保持される粘着領域10aよりも開口面積が大きな貫通部62、及び、前記貫通部62の開口部の少なくとも一部を包囲する非粘着性表面61を有している。換言すると、非粘着性シート50は、非粘着性表面61を有するシート体に前記粘着領域10aよりも開口面積が大きな貫通部62が形成されて成る。
【0031】
より具体的には、前記非粘着性シート50は、前記被粘着物1個が前記粘着性表面10bに粘着保持される粘着領域10aの表面積よりも開口面積が大きく、前記粘着領域10aと同じ配列で同数形成された複数の貫通部62と、貫通部62それぞれの開口部全部を包囲する非粘着性表面61とを有している。換言すると、非粘着性シート50は、全面が非粘着性表面61であるシート体に前記粘着領域10aよりも開口面積の大きな貫通部62が前記粘着領域と同じ配列で同数形成されている。
【0032】
この非粘着性シート50は、図1に示されるように、弾性部材10の粘着性表面10b上に配置され、特に被粘着物の脱離に寄与する。この非粘着性シート50は、被粘着物の脱離に特に寄与することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができる。例えば、この非粘着性シート50は、図1に示されるように、前記弾性部材10よりもわずかに大きな方形を成す盤状体に形成されている。
【0033】
前記非粘着性シート50は、少なくとも弾性部材10の粘着性表面10bに対向する表面の反対側の表面全体、通常両表面の全体が非粘着性表面61とされている。すなわち、前記貫通孔62が穿孔される前記シート体は、少なくとも弾性部材10の粘着性表面10bに対向する表面の反対側の表面全体、通常両表面の全体が非粘着性表面61とされている。換言すると、前記貫通孔62それぞれは、その開口部の全部が前記非粘着性表面61で包囲されている。非粘着性シート50の表面全体が非粘着性表面61とされていると、この非粘着性表面61に接触した被粘着物を非粘着性シート50に再付着させることなく、保持脱離治具1から容易かつ所望のように取り外すことができる。また、貫通孔62それぞれの開口部の全部が非粘着性表面61で包囲されていると、貫通孔62の内部に粘着保持された被粘着物がいかなる方向に押圧されても被粘着物は非粘着性表面61に接触して保持脱離治具1から脱離する。
【0034】
前記非粘着性表面61は非粘着性又は弱粘着性を有しており、前記非粘着性とは粘着力を有していないことを意味し、前記弱粘着性とは単独では被粘着物を粘着保持することができない程度の小さな粘着力、例えば、1g/mm未満(前記「信越ポリマー法」による)の粘着力を有していることを意味する。
【0035】
前記非粘着性シート50において、前記貫通部62それぞれは、図1に示されるように、前記粘着領域10aと略同じ形状であって前記粘着領域10aよりも大きな開口面積の開口を有する貫通孔とされている。貫通孔62は、前記粘着領域10aの配列及び数、すなわち、粘着保持する被粘着物の配列及び粘着保持数と同じ配列で同数が形成されている。貫通孔62がこのように形成されていると、後述する、この発明に係る被粘着物の取扱方法における保持工程と配置工程との実施順を適宜に変更して、被粘着物、実施工程、生産性等を考慮して、被粘着物の粘着保持及び脱離を実施することができる。例えば、被粘着物を粘着保持した後に非粘着性シート50を弾性部材10に積層することができ、また、非粘着性シート50を弾性部材10に積層した後に、前記貫通孔62それぞれから出現する、換言すると、のぞく粘着性表面10bすなわち粘着領域10aで被粘着物を粘着保持することができる。この例において、図1に示されるように、前記配列は略垂直に交差する縦横の2方向を配列方向とする碁盤目状の配列となっている。
【0036】
前記貫通孔62それぞれの開口部の形状は、特に限定されず、図1(a)によく示されるように、前記粘着領域10aと同様の形状であるのが好ましく、例えば、円形、楕円形、多角形、不定形等が挙げられる。前記貫通孔62それぞれの開口部はその開口面積が前記粘着領域10aよりも大きければよいが、前記粘着領域10aとほぼ同じであると、粘領域10a内に被粘着物を配置して粘着保持しにくく、場合によっては被粘着物が傾斜した状態で粘着保持されることがあり、一方、あまりにも大きすぎると取り外した被粘着物が保持孔62からのぞく粘着性表面10bに再度粘着することがある。したがって、この発明において、前記貫通部62の開口面積は、前記粘着領域10aの表面積に対して100%超250%以下であるのが好ましく、150%以下であるのが特に好ましい。
【0037】
前記粘着領域10aと同様に穿孔された複数の貫通孔62において、前記押圧方向に沿って隣接する貫通孔62における軸線同士の最短距離すなわち配列間隔は、生産性等を考慮して、前記粘着領域10aの配列間隔と略同一の距離に設定されるが、前記最短距離は前記粘着性表面10bに粘着保持されたときの前記被粘着物の高さ以上の距離を有しているのが好ましい。隣接する貫通孔62の最短距離がこのように設定されていると、被粘着物が転倒した場合においてもその表面のほぼ全面が非粘着性表面61に接触するから、粘着性表面10bに再度粘着することなく被粘着物を取り外すことができる。前記最短距離の上限値は特に限定されないが、あまりにも大きくすると被粘着物の粘着保持数が減少するから生産性等を考慮して適宜に決定される。例えば、前記上限値は前記被粘着物の高さの100%程度に設定される。前記貫通孔62は両配列方向に均一な配列間隔で配列されている。
【0038】
ここで、前記押圧方向は、被粘着物を脱離させるときに被粘着物を押圧、押進又は押動する方向であり、後述する脱離具に着目すると前記保持脱離具1Aに対する「脱離具の相対的な移動方向」、例えば、図3(b)及び図3(c)に示される矢印Aの方向、ということができる。また、前記押圧方向は、図1(a)に示されるように被粘着物を縦横に配列する場合には、配列方向の1つ、又は、配列方向に交わる方向ということもできる。
【0039】
非粘着性シート50は、前記粘着性表面10bに粘着保持されたときの前記被粘着物の高さ未満の厚さを有していればよく、非粘着性シート50の強度等を考慮して、その厚さが決定される。例えば、非粘着性シート50の厚さは、粘着保持された被粘着物を容易に脱離させることができる点で前記被粘着物の高さの50%未満の厚さを有しているのが好ましく、具体的には、50μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのがさらに好ましく、15μm以下であるのが特に好ましい。前記厚さの下限値は、特に限定されないが、非粘着性シート50を形成する材料等の強度を考慮して適宜に調整され、例えば、10μm程度に調整される。このように非粘着性シート50は薄葉状に形成されている。
【0040】
前記保持脱離治具1において、前記非粘着性シート50は、図1に示されるように、前記被粘着物を脱離させるときに前記被粘着物を押圧する押圧方向側に前記非粘着性表面61が配置されるように、前記弾性部材10上に積層されている。保持脱離治具1において、弾性部材10はその全面が粘着性表面10bとされ、非粘着性シート50はその全面が非粘着性表面61とされているから、弾性部材10上に非粘着性シート50を積層すると、貫通孔62の前記押圧方向側に前記非粘着性表面61が配置される。この保持脱離治具1においては、弾性部材10の粘着性表面10b上に配置された非粘着性シート50は前記粘着性表面10bに粘着されている。このように非粘着性シート61が積層された保持脱離治具1においては、図1(a)に明確に示されるように、貫通孔62それぞれが前記粘着領域10aを内包し、貫通孔62それぞれから粘着性表面10bが臨んで出現し、貫通孔62それぞれの開口部内で被粘着物を粘着保持することができる。
【0041】
前記保持脱離治具1Aは、全面が粘着性表面10bである弾性部材10と全面が非粘着性表面61である非粘着性シート50とを備えて成るから、例えば、弾性部材10の表面に粘着性表面10bと非粘着性表面とを形成する必要はなく、複雑でコストを要する弾性部材10の非粘着化処理を省くことができる。
【0042】
この発明に係る保持脱離治具の別の一実施例である保持脱離治具を、図面を参照して、説明する。この保持脱離治具1Bは、図2に示されるように、支持部材(図2において図示しない。)と、支持部材の表面に設けられた、被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面を有する弾性部材(図2において図示しない。)と、この弾性部材の粘着性表面に積層された非粘着性シート51とを備えてなる。保持脱離治具1Bの支持部材及び弾性部材は、非粘着性シート51と同寸法に形成されていること以外は、保持脱離治具1Aの支持部材11及び弾性部材10と基本的に同様である。
【0043】
前記非粘着性シート51は、貫通孔62に代えてスリット状の貫通部63が形成されていること以外は、保持脱離治具1Aの非粘着性シート50と基本的に同様である。前記貫通部63は、図2に示されるように、被粘着物を脱離させるときに被粘着物を押圧する押圧方向に対して略垂直に一列に整列された複数の被粘着物すべてが前記粘着性表面10bに粘着保持される粘着領域10cよりも開口面積が大きな貫通溝63である。この貫通溝63それぞれは、図2に示されるように、前記押圧方向に対して略垂直に一列に整列されたすべての被粘着物をその内部に粘着保持可能に前記略垂直な方向に延在している。したがって、前記一列に整列された被粘着物はそのすべてが前記貫通溝63の内部から臨む粘着性表面10bに粘着保持される。そして、前記押圧方向に隣接する2つの貫通溝63は好ましくは前記最短距離で配列されている。前記粘着領域10cは、図2に示されるように、前記一列に整列された複数の被粘着物それぞれが粘着性表面10bに粘着保持される粘着領域10aのすべてを含む帯状の領域である。貫通溝63それぞれは、前記貫通孔62と同様に、前記粘着領域10cよりも大きな開口面積を有している。なお、図2において、前記粘着領域10a及び10cは図中左側の貫通溝63に図示し、これ以外の貫通溝63には図示していない。
【0044】
非粘着性シート50及び51は、ある程度の強度を有し、容易に変形又は延伸しない材料で形成されればよく、このような材料として、例えば、ポリエステル、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン等の樹脂、ステンレス、アルミニウム等の金属が挙げられる。これらの材料の中でもポリエステルが好ましい。
【0045】
非粘着性シート50及び51は、前記材料を用いて、通常の方法、例えば、各種成形方法、二軸延伸等によりシート体を成形し、このシート体に複数の貫通部62又は63を通常の方法で穿孔して製造することができる。また、非粘着性シート50及び51は、複数の貫通部62又は63を形成可能な成形ピン等を備えた成形金型に前記材料を注入し、注入された前記材料を硬化することにより、製造することができる。
【0046】
このように、前記構成を有する保持脱離治具1及び2によれば、弾性部材10の粘着性表面10bで被粘着物を粘着保持することができ、一方、損傷の原因となりうる衝撃、応力等の作用を弾性部材に与えることなく、例えば、脱離具等を弾性部材10に接触も圧接もさせずに移動させて被粘着物を所定の押圧方向に押圧すると、被粘着物を摺動、押進若しくは押動又は転倒等させて前記非粘着性シート50及び51の非粘着性表面61に接触させることができ、弾性部材10を損傷させることなく、ほとんどすべての被粘着物を弾性部材10から脱離させることができる。
【0047】
また、保持脱離治具1及び2によれば、被粘着物の脱離時に、被粘着物を所定の押圧方向に押圧するための脱離具等を弾性部材10すなわち非粘着性シート50又は51の表面に沿って未接触状態で相対的に移動させるだけで、弾性部材10の表面に接触又は押圧させる必要はないから、脱離具等によって被粘着物及び弾性部材10が損傷することがなく、歩留り良く被粘着物を製造することができるうえ、保持脱離治具1及び2を長期間にわたって使用することができる。それ故、保持脱離治具1及び2は、弾性部材10の表面平坦性が長期間にわたって損なわれないから、長期間にわたって被粘着物を所望のように、例えば、複数の被粘着物をほぼ均一な起立状態で、粘着保持することができる。
【0048】
したがって、この発明にかかる保持脱離治具によれば、被粘着物を所望のように粘着保持することができるにもかかわらず、弾性部材を損傷させることなく被粘着物のほとんどすべてを取り外すことができる。
【0049】
この発明に係る保持脱離治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記保持脱離治具1A及び1Bにおいて、弾性部材10は、その表面全体が粘着性表面10bとなっているが、この発明において、弾性部材は、自身の表面の少なくとも一部、具体的には、前記粘着領域となる表面領域が粘着性表面になっていればよい。
【0050】
前記保持脱離治具1A及び1Bにおいて、非粘着性シート50及び51はその表面全体が非粘着性又は弱粘着性とされているが、この発明において、非粘着性シートはその表面の一部、具体的には、前記被粘着物を押圧する押圧方向側に配置される表面が非粘着性又は弱粘着性とされていればよい。
【0051】
また、前記保持脱離治具1A及び1Bにおいて、貫通孔62及び貫通溝63それぞれはその開口部の全部が前記非粘着性表面61で包囲されているが、この発明において、貫通部それぞれはその開口部の、前記押圧方向側に配置される少なくとも一部が前記非粘着性表面で包囲されていればよい。
【0052】
前記保持脱離治具1Aの非粘着性シート50は、粘着領域の数に対応する貫通孔62を有しているが、この発明において、非粘着性シートは、前記押圧方向又はこの押圧方向に対して略垂直な方向に一列に整列された一部又は全部の被粘着物をその内部に粘着保持可能に前記押圧方向又は前記略垂直な方向に延在して成り、前記垂直な方向及び前記押圧方向に配列された複数の貫通孔又は貫通溝を有していてもよい。
【0053】
前記保持脱離治具1Bの非粘着性シート51において、貫通溝63は、前記押圧方向に対して略垂直に一列に整列されたすべての被粘着物をその内部に粘着保持可能に前記略垂直な方向に延在する1本の貫通溝63として形成されているが、この発明において、非粘着性シートにおいて、貫通溝は、前記押圧方向に対して略垂直に一列に整列された一部の被粘着物をその内部に粘着保持可能に前記略垂直な方向に延在する貫通小溝が前記略垂直な方向に沿って所定の間隔で一列に配列されていてもよい。
【0054】
前記保持脱離治具1A及び1Bはいずれも方形を成す盤状体の支持部材11を備えているが、この発明において、保持脱離治具は、弾性部材の一部に支持部材が形成されてもよく、支持部材が形成されず弾性部材及び非粘着性シートのみから構成されてもよい。また、この支持部材は弾性部材と共に屈曲性を有する材料で形成されていてもよい。
【0055】
前記保持脱離治具1A及び1Bはいずれも方形の盤状体を成しているが、この発明において、保持脱離治具は、用途等に応じて、無端ベルト状、肉厚の板状体、シート体、長尺体等の形態に適宜に形成されることができる。例えば、無端ベルト状に形成された保持脱離治具は、その全体が無端ベルト状に形成されていること以外は前記保持脱離治具1A及び1Bと基本的に同様に形成されている。したがって、この保持脱離治具は、無端ベルト状に形成された支持部材と、無端ベルト状になるように支持部材の表面に積層された弾性部材と、この弾性部材の表面に積層され、無端ベルトに形成された非粘着性シートとから成る。
【0056】
次に、この発明に係る取扱治具について説明する。この発明に係る取扱治具は、この発明に係る保持脱離治具と、この保持脱離治具の表面に沿って相対的に移動して粘着保持された被粘着物を脱離させる脱離具とを備えている。この発明に係る取扱治具は、例えば、複数の被粘着物を製造、搬送、収納又は検査等するために一旦粘着保持し、その後、粘着保持された被粘着物を取り外すときに、好適に使用される。この発明に係る取扱治具における保持脱離治具は前記した通りであり、例えば、前記保持脱離治具1A及び1B等が挙げられる。
【0057】
この発明に係る取扱治具における前記脱離具は、前記保持脱離治具の表面に沿って保持脱離治具に対して相対的に移動して粘着保持された被粘着物を脱離させることができる形態を有していればよく、例えば、前記保持脱離治具1に粘着保持された被粘着物に衝突してこの被粘着物を押圧することができる被衝突部を有する脱離具が好適に挙げられる。このような脱離具として、例えば、その先端が前記被衝突部として機能する、図3等に示される転倒配置された三角柱状のブレード6であってもよく、また、自身が前記被衝突部として機能するワイヤー等であってもよく、さらに、被衝突面が前記被衝突部として機能する、例えば図4に示されるような脱離具30等であってもよい。この発明に係る取扱治具における脱離具は、後述するように、前記保持脱離治具の表面に非接触状態で相対的に移動する。
【0058】
前記脱離具6は、例えば、図3に示されるように、転倒配置された三角柱状を成している。この脱離具6は、その延在方向の長さ、すなわち、三角柱の高さが、保持脱離治具の弾性部材に一列に粘着保持された複数の被粘着物を一挙に脱離させることができる点で、前記弾性部材の長さよりも長くなっているのがよい。なお、脱離具6の先端は、例えば図3(b)及び図3(c)に示されるように被粘着物9に衝突する被衝突部として機能するから、被粘着物への傷付き防止等を目的として弾性部材で形成又は被覆されてもよい。
【0059】
前記脱離具6の他に、被粘着物に衝突する被衝突面が前記被衝突部として機能する脱離具としては、例えば、図4に示される脱離具30が挙げられる。この脱離具30は、この発明に係る保持脱離治具の両端縁近傍それぞれを載置して摺動させる一対の摺動部32a及び32bと、前記摺動部32a及び32bよりも下方で前記摺動部32a及び32bに挟まれるようにそれら摺動部32a及び32bの間に形成され、前記保持脱離治具に粘着保持された被粘着物が衝突する被衝突面35とを有している。この脱離具30は、所望により、前記保持脱離治具から取り外した被粘着物を収納する収納部材37を前記被衝突面35の下方に備えていてもよい。
【0060】
前記脱離具30は、より具体的には、図4に示されるように、基体31を備えて成り、この基体31は、保持脱離治具の両端縁近傍それぞれを載置して摺動させる一対の摺動面41a及び41b、及び、前記摺動面41a及び41bの端部それぞれに形成され保持脱離治具の摺動を案内する案内面42a及び42bを有する一対の摺動部32a及び32bと、前記摺動面41a及び41bよりも下方で前記一対の摺動部32a及び32bに挟まれるように前記一対の摺動部32a及び32bの間に形成され、保持脱離治具に粘着保持された被粘着物が衝突する被衝突面35を有する被衝突部34と、前記被衝突面35を共有するように前記被衝突部34に連続して形成された、前記被衝突部34よりも深い空間部36とを有する基体31を備えている。
【0061】
前記一対の摺動面41a及び41bは、図4に示されるように、第1摺動面41aと第2摺動面41bとからなっている。一対の摺動面41a及び41bそれぞれは、図4に示されるように、摺動面41a及び41bに載置した前記保持脱離治具が略水平となるように互いにほぼ同じ高さで基体31の長手方向に沿って略並行に延在する平滑な平面とされている。この摺動面41a及び41bそれぞれは、保持脱離治具例えば支持部材の両端縁近傍それぞれを載置して摺動させることのできる寸法を有していればよく、この例においては、幅の狭い平面になっている。
【0062】
前記案内面42a及び42bは、図4に示されるように、第1案内面42aと第2案内面42bとからなり、これらは前記摺動面41a及び41bそれぞれの端面から略垂直に立ち上がる側面として形成されている。案内面42a及び42bそれぞれは、例えば図5に示されるように、前記摺動面41a及び41bに前記保持脱離治具が載置されたときにその両端面に接触して、保持脱離治具の摺動を案内する。したがって、これらの案内面42a及び42bの距離は保持脱離治具例えば支持部材の幅と略同一に調整されている。
【0063】
このように前記摺動面41a及び41b並びに前記案内面42a及び42bを有して成る前記一対の摺動部32a及び32bそれぞれは、図4(c)によく示されるように、略垂直に張り出したフランジ状の堰堤を有する第1摺動部32a及び第2摺動部32bで形成される一対の軌条になっている。
【0064】
前記被衝突部34は、図4に示されるように、前記摺動部32a及び32bよりも下方で摺動部32a及び32bに挟まれるように前記一対の摺動部32a及び32bの間に形成された被衝突面35を有している。この被衝突部34は、図4(b)及び図4(c)に示されるように、その最上部すなわちその上面45が、前記摺動部32a及び32b、具体的には、前記摺動面41a及び41bよりも一段低い位置になるように、第1摺動部32aと第2摺動部32bとに連設され、これらを結合している。具体的には、前記被衝突部34の最上部すなわち前記上面45が、前記摺動部31a及び32bを摺動してくる保持脱離治具特にその弾性部材及び非粘着性シートに衝突することなく、保持脱離治具に粘着保持された被粘着物に衝突するように、前記摺動面41a及び41bよりも低い位置に調整されている。すなわち、前記被衝突部34の上面45が前記弾性部材及び前記非粘着性シートの合計厚さを超え、この合計厚さと被粘着物の保持長さとの合計長さ以下の深さとなるように、前記被衝突部34の形成位置が設定されている。
【0065】
この例において、前記被衝突部34は、平坦な上面45を有する平面状に形成され、その上面45と、前記一対の摺動部32a及び32bにおける保持脱離治具の摺動方向の最上流側に位置する一端面とを有している。そして、前記一端面が前記被衝突面35として機能する。前記被衝突面35は、図4(a)及び図4(b)に示されるように、被衝突部35の上面45から下面46まで延在する平面を有し、その平面が前記摺動部32a及び32bの延在方向すなわち前記摺動方向に対して交差している。このとき、被衝突面35における上面45上の稜線と前記摺動部32aの延在方向すなわち保持脱離治具の移動方向との交差角度θ1(図4(a)参照。)は、特に限定されず、例えば、0°を超え90°以下の範囲内から適宜に選択され、被粘着物の脱離容易性、保持脱離治具の摺動性及び脱離具30の小型化等を考慮して45〜85°の範囲内から選択されるのが好ましい。また、前記被衝突面35は、図4(b)に示されるように、前記上面45からその最下部すなわち下面46にわたって、後述する空間部36の水平面積がその深さ方向にそって徐々に拡大するように、基体31の垂直面に対して傾斜している。前記被衝突面35がこのように傾斜していると、被衝突部34の上部が被粘着物に衝突し、被粘着物を効果的に転倒させることができる。前記垂直面に対する前記被衝突面35の傾斜角θ2(図4(b)参照。)は、特に限定されず、例えば、0°を超え90°未満の範囲内から適宜に選択され、被粘着物の取り外し容易性等を考慮すると5〜45°の範囲内から選択されるのが好ましい。なお、前記被衝突面35は被粘着物への傷付き防止等を目的として弾性部材で形成又は被覆されてもよい。
【0066】
前記空間部36は、図4に示されるように、保持脱離治具1の摺動方向の上流側に前記被衝突部34に隣接して形成され、側壁として前記被衝突面35を前記被衝突部34と共有している。この空間部36は、前記被衝突部34よりも深く形成され、この例においては貫通形成されている。この空間部36は、保持脱離治具が前記摺動面41a及び41bに反転状態に載置されたときに、粘着保持された被粘着物が一時的に配置される空間である。したがって、空間部36の開口部47は前記保持脱離治具の弾性部材に被粘着物が粘着保持される粘着領域よりも大きな開口面積を有している。空間部36の前記被衝突部34の反対側には前記被衝突部34に向い合うように断面矩形の連結部が前記摺動部32a及び32bに連設されている。
【0067】
前記脱離具30は、図4(b)及び図4(c)に示されるように、前記基体31の下部に配置される収納部材37を備えている。この収納部材37は、前記基体31の下方に配置されたときに、前記空間部36の下方に位置する収納凹部48が凹設されている。この収納凹部48は、前記空間部36よりも大きな寸法を有し、前記被衝突部34で取り外された被粘着物を一時的に収納する。前記収納部材37は前記基体31よりも厚いこと以外は前記基体31とほぼ同様の寸法を有している。
【0068】
この発明に係る取扱治具の一実施例としての取扱治具2は、図3に示されるように、前記保持脱離治具1Aとこの発明に係る取扱治具における脱離具の一実施例である前記脱離具6とを有している。保持脱離治具1Aにおいて、非粘着性シート50は、被粘着物9の粘着保持しようとする配列と一致するように複数の貫通孔62が穿孔されている。この保持脱離治具1A及び脱離具6は前記した通りである。
【0069】
この発明に係る取扱治具を用いて被粘着物を取扱う取扱方法として、被粘着物を前記弾性部材の前記粘着性表面に押圧して粘着保持させる保持工程と、前記保持工程の前又は後に、前記非粘着性シートを前記被粘着物を脱離させるときの押圧方向側に前記非粘着性表面が配置されるように前記弾性部材上に配置する配置工程と、脱離具を前記保持脱離治具の表面に沿って相対的に移動させて前記被粘着物を前記非粘着性表面に接触させる脱離工程とを有する方法を、好適に挙げることができる。
【0070】
取扱治具2を用いて被粘着物を取扱う方法(以下、この発明に係る一取扱方法と称することがある。)を説明する。この発明に係る一取扱方法は、被粘着物9を弾性部材10の粘着性表面10bに押圧して粘着保持させる保持工程と、保持工程の後に非粘着性シート50を、被粘着物9を脱離させるときの押圧方向側に非粘着性表面61が配置されるように、弾性部材10上に配置する配置工程と、脱離具6を保持脱離治具1Aの表面に沿って相対的に移動させて被粘着物9を非粘着性表面61に接触させる脱離工程とを有することを特徴とする。すなわち、この発明に係る一取扱方法は、被粘着物9を粘着保持し、粘着保持した被粘着物9を取り外す方法である。
【0071】
前記粘着工程は、被粘着物9を弾性部材10の粘着性表面10bに押圧して粘着保持させる工程である。取扱治具2の保持脱離治具1Aに被粘着物9を起立状態に保持するには、弾性部材10上に複数の被粘着物9を起立状態で所定のパターンに配列し、その底面を保持脱離治具1Aにおける弾性部材10の前記粘着性表面10bに押圧する。そうすると、図3(a)に示されるように、被粘着物9の底面が粘着性表面10bに圧接して粘着性表面10bの粘着力で、複数の被粘着物9が弾性部材10に所定のパターンに粘着保持される。このとき、前記粘着領域10aと被粘着物9の底面とは一致している。被粘着物9を前記状態に粘着保持する方法として、例えば特開2008−091659号公報に記載された方法等が挙げられる。具体的には、被粘着物9の軸線長さよりも薄い厚さを有し、被粘着物9が通過可能な複数の配設孔が形成された立設配置板を弾性部材10に載置した状態で、前記配設孔に被粘着物9を挿入し、次いで、例えば平坦な板状部材等を用いて、この被粘着物9の自由端を弾性部材10に向けて押圧すると、被粘着物9が弾性部材10に粘着保持される。
【0072】
この発明に係る一取扱方法において、保持脱離治具1に粘着保持された被粘着物9を取り外すには、まず、前記保持工程の後に、被粘着物9を脱離させるときの押圧方向側に非粘着性表面61が配置されるように、非粘着性シート50を弾性部材10上に配置する配置工程を行う。保持脱離治具1Aにおいて、非粘着性シート50の貫通孔62は非粘着性表面61が貫通孔62の開口部の全部を包囲しているから、弾性部材10の粘着領域10aが貫通孔62に臨むように非粘着性シート50を弾性部材10上に配置すると、前記のように非粘着性表面61を配置することができる。非粘着性シート50を弾性部材10上に配置する方法は、例えば、粘着保持された被粘着物9の軸線と非粘着シート50の貫通孔62の軸線とが略一致するように、弾性部材10の上方に非粘着性シート50を配置し、この状態で非粘着性シート50を弾性部材10に向けて略平行移動させて載置する方法、湾曲した非粘着性シート50を延ばしつつ貫通孔62を粘着保持された被粘着物9の一列ごとに通過させて、弾性部材10上に載置する方法等が挙げられる。
【0073】
この発明に係る一取扱方法において、次いで、脱離具6を保持脱離治具1Aの表面に沿って相対的に移動させて、被粘着物9を非粘着性表面61に接触させる脱離工程を行う。具体的には、図3(b)及び図3(c)に示されるように、脱離具6を前記保持脱離治具1Aの表面近傍、すなわち、非粘着性シート50の表面近傍に、この非粘着性表面61に非接触となるように、配置する。このとき、脱離具6は保持脱離治具1Aの表面に接触させなくても、この発明に係る保持脱離治具であれば被粘着物9を所望のように脱離させることができる。前記脱離具6を前記表面に沿って相対的に前進移動すなわち被粘着物9側(図3(b)及び図3(c)における矢印Aの方向)に移動させる。そうすると、図3(b)に破線で示されるように、脱離具6は、前記矢印Aの方向に前進する脱離具6の先端が被粘着物9の側面に当接して、被粘着物9を前記方向すなわち非粘着性表面61側に押圧して転倒させ、被粘着物9の側面が非粘着性表面61に接触して保持脱離治具1から脱離する。または、図3(c)に破線で示されるように、脱離具6は、前記矢印Aの方向に前進する脱離具6の先端が被粘着物9の側面に当接して、被粘着物9を前記方向に押圧して摺動させ、非粘着性表面61に到達させる。このようして、被粘着物9が非粘着性表面61に接触又は到達すると被粘着物9は保持脱離治具1から脱離する。このとき、被粘着物9がたとえ粘着性表面10bに再粘着しても、被粘着物9は脱離具6によって前記矢印Aの方向に押圧されて非粘着性シート50の表面上を摺動し、最終的に非粘着性表面61に到達する。このようにして、取扱治具2によれば、粘着保持した被粘着物9のほとんどすべてを脱離させることができる。
【0074】
この発明に係る取扱治具の別の一実施例としての取扱治具2’は、図5に示されるように、前記保持脱離治具1Aとこの発明に係る取扱治具における脱離具の一実施例の前記脱離具30とを有している。この保持脱離治具1A及び脱離具30は前記した通りである。
【0075】
前記取扱治具2’において前記保持脱離治具1Aから被粘着物を取り外す方法は、脱離具30に関する操作以外は、前記した、この発明に係る一取扱方法と基本的に同様である。すなわち、前記取扱治具2と基本的に同様にして、図3(a)に示されるように、保持脱離治具1Aの粘着領域10aに被粘着物9を粘着保持させる。この保持脱離治具1Aを、図5に示されるように、180°反転させて、被粘着物9を粘着保持した弾性部材10の表面が下方となるように、一対の摺動部32a及び32b上に、保持脱離治具1Aの両端縁近傍それぞれを載置する。なお、この保持脱離治具1Aは、弾性部材10よりも支持部材11の方がその幅が大きくなっているので、支持部材11の両端縁近傍が前記摺動部32a及び32b上に載置される。
【0076】
次いで、図5(a)に示されるように、前記保持脱離治具1Aを前記一対の摺動部32a及び32bに沿ってその上を被粘着物9が前記被衝突部34に向かう方向(図5(a)において矢印Dの方向。)に摺動させる。そうすると、図5(b)に示されるように、保持脱離治具1Aの摺動によって移動してきた被粘着物9は、前記被衝突部34すなわち被衝突面35に衝突して、その移動方向と逆方向に押圧され、非粘着性表面61に到達する。このようして、被粘着物9が非粘着性表面61に到達すると被粘着物9は保持脱離治具1Aから脱離する。一方、被粘着物9が転倒すると、被粘着物9の側面が非粘着性表面61に接触して保持脱離治具1から脱離する。このとき、被衝突面35は、前記のように、前記摺動方向に対して交差する角度を有して延在すると共に前記垂直面に対して傾斜しているから、複数の被粘着物9が順次被衝突面35に衝突する。したがって、保持脱離治具1Aの摺動安定性、被粘着物9の脱離性に優れ、粘着保持した被粘着物9のほとんどすべてを脱離させることができる。また、保持脱離治具1Aを前記のように摺動させても、被衝突部34は前記のように保持脱離治具1Aの弾性部材10及び非粘着性シート50に衝突することがないから、弾性部材10及び非粘着性シート50を損傷させることはない。
【0077】
この発明に係る保持脱離治具及び脱離具を備えて成るこの発明に係る取扱治具は、前記保持脱離治具に粘着保持した被粘着物のほとんどすべてを脱離させることができる。したがって、この発明に係る取扱治具は、例えば、散在した被粘着物の回収等に好適に用いられる。
【0078】
この発明に係る取扱治具は、この発明に係る保持脱離治具例えば前記保持脱離治具1A又は1Bと脱離具例えば前記脱離具6又は前記脱離具30とに加えて、保持治具を備えることができる。前記取扱治具における前記保持脱離治具及び脱離具は前記した通りである。前記保持治具は、被粘着物を粘着保持することのできる弾性部材を備えていればよく、その一例を挙げると、保持治具としての第1保持治具7は、図6に示されるように、第1弾性部材21と第1補強部材22とを備え、第1弾性部材21は前記保持脱離治具の前記粘着性表面よりも小さな粘着力を有している。すなわち、前記第1補強部材22は、前記保持脱離治具1の支持部材11と基本的に同様であり、前記第1弾性部材21は、粘着力以外は前記保持脱離治具1の弾性部材10と基本的に同様である。この第1弾性部材21の粘着力は、前記弾性部材10よりも小さな粘着力を有していればよく、前記弾性部材10の前記粘着力が50〜70g/mmである場合には、例えば、10〜45g/mm(前記「信越ポリマー法」による)の粘着力を有しているのがよい。
【0079】
この発明に係る取扱治具の一実施例として、例えば、前記保持脱離治具1Aと前記脱離具6と保持治具例えば前記第1保持治具7とを備えて成る図7に示される取扱治具3が挙げられる。また、図7に示される取扱治具3は脱離具として前記脱離具6を備えているが、この発明においては、図8に示されるように、この脱離具6に代えて前記脱離具30を用いることもできる。すなわち、この発明に係る取扱治具の一実施例として、前記保持脱離治具1Aと前記脱離具30と保持治具例えば前記第1保持治具7とを備えて成る取扱治具3’が挙げられる。これらの取扱治具3及び3’における被粘着物9の脱離方法は前記取扱治具2又は2’の脱離方法と基本的に同様である。なお、図7及び図8においては、予め非粘着性シート50が弾性部材10上に配置されている。
【0080】
第1保持治具7を備えて成る取扱治具3及び3’によれば、第1保持治具7に粘着保持され所定の処理等を施された被粘着物9を、この第1保持治具7から保持脱離治具1に転写して、ほとんどすべての被粘着物9を第1保持治具7及び保持脱離治具1から脱離させることができる。例えば、図7及び図8に示されるように、前記した、この発明に係る一取扱方法と基本的に同様して第1保持治具7の第1弾性部材21に被粘着物9を粘着保持した後に、この被粘着物9の端部に電極(図7及び図8において図示しない。)を形成し、電極が形成された被粘着物9の前記端部を保持脱離治具1の弾性部材10に圧接すると、前記第1弾性部材21と粘着保持部12との粘着力差によって、ほとんどのすべての被粘着物9を粘着保持部12に転写することができる。次いで、非粘着性シート50を弾性部材10上に配置して、前記のようにして脱離具6又は30を保持脱離治具1に対して相対的に移動させると、粘着保持部12に粘着保持された被粘着物9のほとんどすべてを脱離させることができる。なお、図7及び図8に示されるように、被粘着物9を保持脱離治具1に転写する前に、非粘着性シート50を弾性部材10上に配置することもできる。
【0081】
第1保持治具7を備えて成る取扱治具3及び3’は、例えば、一方の端面に電極を有するチップコンデンサを製造する場合等に好適に用いられる。
【0082】
また、この発明に係る取扱治具は、この発明に係る保持脱離治具例えば前記保持脱離治具1A又は1Bと前記脱離具例えば前記脱離具6又は前記脱離具30とに加えて、2種の保持治具すなわち第1保持治具及び第2保持治具を備えることができる。前記取扱治具における前記保持脱離治具及び脱離具は前記した通りである。これら2種の保持治具7及び8は、被粘着物を粘着保持することのできる第1弾性部材21及び第2弾性部材23を備えていればよく、前記第1保持治具7と基本的に同様である。これら2種の保持治具である第1保持治具7及び第2保持治具8と前記保持脱離治具1A及び1Bにおける弾性部材10の粘着性表面10bとは下記条件を満たす粘着力を有している。
条件:弾性部材10の粘着性表面10b>第2保持治具8の第2弾性部材23>第1保持治具7の第1弾性部材21
【0083】
第1保持治具7及び第2保持治具8の粘着力と粘着性表面10bとの粘着力が前記条件を満たしていると、第1保持治具7に粘着保持した被粘着物を第2保持治具8に転写し、次いで、第2保持治具8から保持脱離治具1A又は1Bに転写して、被粘着物9を保持脱離治具1A又は1Bから脱離させることができる。第1保持治具7の粘着力は、例えば、10〜25g/mm(前記「信越ポリマー法」による)であり、第2保持治具8の粘着力は、例えば、30〜45g/mm(前記「信越ポリマー法」による)であり、粘着性表面10bの粘着力は、例えば、50〜70g/mm(前記「信越ポリマー法」による)であるのがよい。
【0084】
この発明に係る、2種の保持治具を備えて成る取扱治具の一実施例として、例えば、図9に示されるように、前記保持脱離治具1Aと前記脱離具6と前記第1保持治具7と前記第2保持治具8とを備えて成る取扱治具4が挙げられる。また、図9に示される取扱治具4は脱離具として前記脱離具6を備えているが、この発明においては、図10に示されるように、この脱離具6に代えて前記脱離具30を用いることもできる。すなわち、この発明に係る取扱治具の一実施例として、前記保持脱離治具1Aと前記脱離具30と前記第1保持治具7と前記第2保持治具8とを備えて成る取扱治具4’が挙げられる。これらの取扱治具4及び4’における被粘着物9の脱離方法は前記取扱治具2又は2’の脱離方法と基本的に同様である。
【0085】
第1保持治具7及び第2保持治具8を備えて成る取扱治具4及び4’によれば、これら2種の保持治具7及び8に粘着保持され所定の処理等を施された被粘着物9を、これらの2種の保持治具7及び8から前記保持脱離治具1に転写して、ほとんどすべての被粘着物9を保持治具7及び8並びに保持脱離治具1から脱離させることができる。例えば、図9及び図10に示されるように、前記した、この発明に係る一取扱方法と基本的に同様して第1保持治具7の第1弾性部材21に被粘着物9を粘着保持した後に、この被粘着物9の端部に電極(図9及び図10において図示しない。)を形成し、電極が形成された被粘着物9の前記端部を第2保持治具8の第2弾性部材23に圧接すると、第1弾性部材21と第2弾性部材23との粘着力差によって被粘着物9が第2弾性部材23に転写される。次いで、第2保持治具8に粘着保持された被粘着物9の他端面に電極(図9及び図10において図示しない。)を形成した被粘着物9のほとんどすべてを、前記のようにして、保持脱離治具1Aに転写後、保持脱離治具1Aから脱離させることができる。
【0086】
なお、第1保持治具7と第2保持治具8とを用いて被粘着物9の両端面に電極を形成する方法等として特開2008−091659号公報に記載された方法等が挙げられる。例えば、前記のようにして第1保持治具7に粘着保持された被粘着物9に導電ペーストを塗布硬化して、被粘着物9の自由端に電極を形成する。次いで、対向配置させた第1保持治具7と第2保持治具8とを互いに近接するように相対的に移動させて、電極が形成された被粘着物9の自由端を第2弾性部材23に押圧する。その後、第1保持治具7と第2保持治具8とを互いに離間させると、被粘着物9は第2保持治具8に粘着保持される。次いで、この被粘着物9の自由端に同様にして電極を形成して被粘着物9の両端面に電極を形成することができる。
【0087】
第1保持治具7及び第2保持治具8を備えて成る取扱治具4及び4’は、例えば、両端面に電極を有するチップコンデンサを製造する場合等に好適に用いられる。
【0088】
このように、前記構成を有するこの発明に係る取扱治具によれば、この発明に係る保持脱離治具及び脱離具を備えているから、弾性部材の表面に接触も圧接もせずに未接触状態で前記脱離具が前記のように移動することによって、前記作用を弾性部材に与えることなく、すなわち、弾性部材を損傷させることなく、所望により保持治具から転写され保持脱離治具の粘着保持部に粘着保持されたほとんどすべての被粘着物を非粘着性表面に接触させて脱離させることができる。また、この発明に係る取扱治具によれば、脱離具を弾性部材の表面に接触又は押圧させる必要はないから、歩留り良く被粘着物を製造することができるうえ、取扱治具を長期間にわたって使用することができる。
【0089】
また、この発明に係る保持脱離治具を用いる被粘着物の取扱方法は、保持工程と配置工程と脱離工程とを有しているから、ほとんどすべての被粘着物を、粘着保持し、前記作用を弾性部材に与えることなく、すなわち、弾性部材を損傷させることなく取り外すことができる。したがって、この発明によれば、ほとんどすべての被粘着物を、所望のように粘着保持することができ、かつ、必要時に弾性部材を損傷させることなく取り外すことができる被粘着物の取扱方法を提供するという目的を達成することができる。
【0090】
この発明に係る取扱治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記取扱治具2〜4及び2’〜4’はいずれも図3〜図10に示されるように、前記保持脱離治具1Aと前記脱離具6又は前記脱離具30と所望により保持治具とを備えているが、この発明において、取扱治具は、所望により保持治具と、脱離具と、前記保持脱離治具1Aに代えて前記保持脱離治具1B、前記無端ベルト状の保持脱離治具等とを備えていてもよく、これらの保持脱離治具と前記脱離具と所望により保持治具とを任意の組み合わせで用いることができる。
【0091】
また、前記取扱治具2〜4は、保持脱離治具、脱離具、所望により保持治具を備えて成るが、この発明において、取扱治具は、これら以外の部材又は要素、例えば、被粘着物の収納部材、脱離具の駆動手段、また、特開2008−091659号公報に記載された立設配置板例えば前記立設配置板、及び、立設配置板の配設孔に挿入された被粘着物を第1保持治具に向けて押圧するプレス板等を備えていてもよい。
【0092】
前記取扱治具2〜4及び2’〜4’は、例えば、特開2008−091659号公報に記載された被粘着物保持装置における支持部材に装着されて使用されてもよい。この被粘着物保持装置は、略平行な2つの平面内に設けられ、その延在方向がほぼ直交する2本の軌条と、軌条それぞれに軌条に沿って水平方向及び垂直方向に運動自在に設けられ、保持治具を装着する保持治具変位手段とを備え、前記2本の軌条がほぼ直交する空間で被粘着物を転写可能になっている。
【0093】
前記脱離具30は、貫通した空間部36を有する基体31を備えているが、この発明において、前記基体は有底穴の空間部を有していてもよい。この場合には、前記収納部材37は不要であり、脱離具30は基体31から構成される。また、前記脱離具30は、平面状の被衝突部34を有する基体31を備えているが、この発明において、前記基体は、断面が多角形の棒状若しくは柱状の被衝突部、又は、被衝突面が曲面である断面が略円形、略楕円形等の棒状若しくは柱状の被衝突部を有していてもよい。これらの棒状又は柱状の被衝突部は複数形成されることもできる。
【0094】
また、前記した、この発明に係る一取扱方法において、前記配置工程は粘着工程の後に実施されているが、この発明において、非粘着性シートの貫通孔は被粘着物が弾性部材に粘着保持される所定のパターンと同様のパターンに穿孔されているから、非粘着性シートを弾性部材上に配置する配置工程は粘着工程の前に行うこともできる。すなわち、この取扱方法は、前記非粘着性シートを前記被粘着物を脱離させるときの押圧方向側に前記非粘着性表面が配置されるように前記弾性部材上に配置する配置工程と、前記配置工程の後に、前記非粘着性シートの貫通部から臨む前記弾性部材の前記粘着性表面に被粘着物を押圧して粘着保持させる保持工程と、脱離具を前記保持脱離治具の表面に沿って相対的に移動させて前記被粘着物を前記非粘着性表面に接触させる脱離工程とを有する方法である。
【符号の説明】
【0095】
1A、1B 保持脱離治具
2、2’、3、3’、4、4’ 取扱治具
6 脱離具(ブレード)
7 第1保持治具
8 第2保持治具
9 被粘着物
10 弾性部材
10a、10c 粘着領域
10b 粘着性表面
11 支持部材
21 第1弾性部材
22 第1補強部材
23 第2弾性部材
24 第2補強部材
30 脱離具
31 基体
32a 第1摺動部
32b 第2摺動部
34 被衝突部
35 被衝突面
36 空間部
37 収納部材
41a 第1摺動面
41b 第2摺動面
42a 第1案内面
42b 第2案内面
45 上面
46 下面
47 開口部
48 収納凹部
50、51 非粘着性シート
61 非粘着性表面
62 貫通部(貫通孔)
63 貫通部(貫通溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面を有する弾性部材と、
前記被粘着物が前記粘着性表面に粘着保持される粘着領域よりも開口面積が大きな貫通部、及び、前記貫通部の開口部の少なくとも一部を包囲する非粘着性表面を有する非粘着性シートとを備え、
前記非粘着性シートは、前記被粘着物を脱離させるときに前記被粘着物を押圧する押圧方向側に前記非粘着性表面が配置されるように、前記弾性部材上に積層されることを特徴とする保持脱離治具。
【請求項2】
前記貫通部は、前記粘着性表面に粘着保持されたときの前記被粘着物の高さ以上の間隔をあけて前記押圧方向に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の保持脱離治具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の保持脱離治具と、
前記保持脱離治具の表面に沿って相対的に移動して粘着保持された被粘着物を脱離させる脱離具とを備えて成ることを特徴とする取扱治具。
【請求項4】
被粘着物を粘着保持する弾性部材を有して成る保持治具を備え、
前記弾性部材は、前記保持脱離治具の前記粘着性表面よりも小さな粘着力を有していることを特徴とする請求項3に記載の取扱治具。
【請求項5】
被粘着物を粘着保持する弾性部材を有して成る第1保持治具及び第2保持治具を備え、
前記保持脱離治具の前記粘着性表面、前記第2保持治具及び前記第1保持治具は、下記条件を満たす粘着力を有していることを特徴とする請求項3に記載の取扱治具。
前記粘着性表面 > 第2保持治具 > 第1保持治具
【請求項6】
前記脱離具は、前記保持脱離治具の両端縁近傍それぞれを載置して摺動させる一対の摺動部と、前記摺動部よりも下方で前記一対の摺動部に挟まれるように前記一対の摺動部の間に形成され、前記保持脱離治具に粘着保持された前記被粘着物が衝突する被衝突面とを有して成ることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の取扱治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−142273(P2011−142273A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3226(P2010−3226)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】