説明

保水性団粒体

【課題】本発明により、天然土壌に比較して非常に軽量であり、水遣りや移動の際に粉砕されたり、最密充填化したりするため、締め固めが生じて通気性が低下することなく、保水性および通気性に優れた植物育成体を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての多孔質微細粉粒体100mL当たりの体積含水率が20〜50mL/100mLである連続気泡構造を有する多孔質微細粉粒体、および(b)有機または無機バインダーを含有する団粒体から形成され、粒径0.25〜5mmを有し、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mLを有し、かつpF1.5の時の気相率40〜80%を有することを特徴とする植物育成体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続気泡構造を有する多孔質微細粉粒体および上記多孔質微細粉粒体を用いて形成された保水性団粒体、および上記保水性団粒体を含む植物育成体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルの屋上やマンションのベランダ、テラス等の建物の一部に庭園等の緑化が施されることが多く、そのような緑化における人工地盤上には培土が搬入され、その培土が植物栽培のベースにされる。通常、そのような培土には、排水性、保水性、透水性、通気性、保肥性などに優れた良質な土壌が要求されるが、環境破壊への配慮などから天然の良質な土壌の入手が困難なものとなっており、また、そのような土壌からなる培土の総重量が大きくなって建物に悪影響を与えるなどの問題があった。
【0003】
そのような天然の土壌に代わる人工的土壌資材の1つとしては、多孔質セル状のため軽量であり、通気性や保水性に優れるとともに、陽イオン交換容量が大きく保肥性に優れ、かつ安価であるなどの点からピートモスが好適に用いられてきた。しかしながら、ピートモスは上記のように多孔質セル状のため保水性に優れるが、一度完全に乾燥状態になると撥水性が強くなり、再び水分を加えても保水しにくくなるという問題があり、また、乾燥を防止するために水分を多量に供給すると水分を保持し過ぎて、通気性が悪くなり、根腐れや病害の原因となるという問題があった。
【0004】
そのような問題を解決するため、多孔性の合成無機材料、天然材料およびそれらを組み合わせることによって、多くの天然の土壌の代替品が提案されてきた(特許文献1〜4)。
【0005】
特許文献1には、粒子間の平均孔隙径が12〜132μmの範囲となる、粒径が75〜850μmの範囲の単一径の石炭灰を主成分とすることを特徴とする植物育成用人工土壌が開示されている。しかしながら、特許文献1の粒径が75〜850μmの範囲の単一径の石炭灰では、50%以上の気相率を有して優れた通気性を保持しながら、植物が容易に吸収できる毛管力範囲における保水量を十分に保持することは困難であった。
【0006】
特許文献2には、シリカ及びアルミナの少なくとも1種を主要成分とする多孔質の焼成体と、上記焼成体に担持された骨材成分またはリン酸カルシウムと、前記焼成体に担持された硝酸成分とを備えていることを特徴とする植物栽培用人工資材が開示されている。しかしながら、造粒した粒体中の有機物を焼成により、焼失させて細孔を形成させるため、細孔の分布の制御が難しく、また、広い範囲の分布になってしまうため、毛管力範囲を植物が吸収し易い最適の範囲に制御することが困難であった。また、原料として使用する鋳物ダスト廃棄物や汚泥廃棄物には有害物質が含有されており、植物、特に人が食する野菜類などを栽培する培地としては適さないものであった。
【0007】
特許文献3には、陽イオン交換容量が50〜400(cmol/kg)、かつ、細孔分布のメディアン径が0.01〜15.00(μm)であり、外周部にゼオライトが形成されていることを特徴とする無機多孔質体が開示されており、粒径が0.5mm〜100mmであることが開示されている。しかしながら、廃鋳物砂を造粒したものを焼成し、細孔を形成するため、一般的に細孔が非常に小さく、その細孔に保持された水分は高い毛管力を示すため、植物が吸収しにくく、特に多量の水分を必要とする野菜類の培地にしようするのは困難であった。また、原料として使用する廃鋳物砂には有害物質が含有されており、植物、特に人が食する野菜類などを栽培する培地としては適さないものであった。
【0008】
特許文献4には、真珠岩、頁岩、膨脹頁岩、黒曜岩若しくは松脂岩を加熱発泡させ、その孔径が10乃至100μmの膨大数の連続気泡構造の微細孔隙を有し、且その見掛比重が0.1乃至0.2で而もその粒径が1乃至10mmのパーライトと、その分子量換算で略4000程度に多分子量化された錯化合物状で、且シロキサン及びシラノール塩とからなる固形分が45乃至60重量%と、水分が40乃至55重量%の組成割合のシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液からなる接着剤とを混練工程においてパーライトの容量に対して接着剤を5乃至15容量%割合で分散滴下させ混練しパーライトの外表面に混練塗着させたうえ、予備成形工程において所望の寸法形状で且通気性を有する成形具内に積合填入させて予備成形のうえ、乾燥工程において120乃至180℃の加熱空気を通風せしめ、パーライト相互の接着及び全体を一体的に接着固定させることを特徴とする無機多孔性成形材の製造方法が開示されている。しかしながら、基材が脆く、使用中や水遣り時に細かく粉砕されて粒径が小さくなり、通気性が低下してしまうという問題があった。
【0009】
上記のように合成無機材料や天然材料の中には、保水性と通気性を両立させることが難しかったり、水遣りや移動の際に粉砕したり、最密充填化したりするため、締め固めが生じて通気性が低下するという問題を有するものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7‐327481号公報
【特許文献2】特開2001‐128543号公報
【特許文献3】特開2002‐80284号公報
【特許文献4】特開2009‐40670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来の天然土壌の代替品の有する問題点を解決し、天然土壌に比較して非常に軽量であり、水遣りや移動の際に粉砕されたり、最密充填化したりするため、締め固めが生じて通気性が低下することなく、保水性および通気性に優れた植物育成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、多孔質体の孔隙径や孔隙率を特定範囲に限定するだけでは植物育成体の保水性や通気性を向上させることができないことを見出し、更に他の要因について鋭意研究を行うことによって、上記植物が根から吸収できる水分の内、植物が容易に水分を吸収することができ、生育が良好となる易効水の範囲内であるpF1.7〜pF2.3の範囲における保水量を特定範囲内に規定し、加えて、通気性として、重力による排水がほぼ終了した状態であるpF1.5の時の気相率を特定範囲内に規定することによって、天然土壌に比べて、非常に軽量であり、水遣りや移動の際に締め固めが生じて通気性が低下することなく、保水性および通気性に優れた植物育成体を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、
(a)pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての多孔質微細粉粒体100mL当たりの体積含水率が20〜50mL/100mLである連続気泡構造を有する多孔質微細粉粒体、および
(b)有機または無機バインダー
を含有する団粒体から形成され、
粒径0.25〜5mmを有し、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mLを有し、かつpF1.5の時の気相率40〜80%を有することを特徴とする植物育成体に関するものである。
【0014】
本発明を好適に実施するためには、
前記多孔質微細粉粒体が、粒径分布22〜150μmを有し、かつガラス、金属およびセラミック、またはそれらの粉砕物から成る群から選択され;
前記多孔質微細粉粒体が、平均孔径5〜100μmを有し;
乾燥状態になっても吸水が可能であり、繰り返し圧縮荷重0.05MPa付加後の容積変化率が0〜20%である;
ことが望ましい。
【0015】
本発明の他の態様として、
(a)アルカリ中和剤によって中性化した連続気泡構造を有する発泡ガラス微細粉粒体、および
(b)有機または無機バインダー
を含有する団粒体から形成され、
粒径分布0.25〜5mmを有し、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mLを有し、かつpF1.5の時の気相率40〜80%を有することを特徴とする植物育成体がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保水性として、pF1.7〜pF2.3の範囲における保水量を特定範囲内に規定し、通気性として、pF1.5の時の気相率を特定範囲内に規定することによって、天然土壌に比べて、非常に軽量であり、水遣りや移動の際に締め固めが生じて通気性が低下することなく、保水性および通気性に優れた植物育成体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
土壌水は、土壌粒子の表面を取り巻いて存在し、土壌粒子の最も内側に存在する吸湿水から最も外側に存在する重力水に至るまで連続的に存在し、これら土壌水の状態の差異は本質的には吸着力の差異によるものであり、吸着力の大きいものから、吸湿水、毛管水、重力水の順となる。pF値とは、土壌に吸着されている水分を分離する力(吸引圧)を水柱の高さで表示したものであり、具体的には、以下の式:
pF=log h
で示されるように、水柱の高さで表した土壌水分の吸引圧h(cm)の常用対数値である。水柱の高さhが1cmの場合、98.07Paに相当する。例えば、pF2.0は、100(10)cmの高さの水柱の圧力に相当する力で吸着されている水分状態を表すものである。また、土壌中の孔隙に空気がまったくなく水で満たされている状態がpF0であり、100℃の熱乾状態で土壌と化合した水しか存在しない場合がpF7である。
【0018】
植物が根から吸収できる水分は、降雨もしくは灌水し、重力による水の下降運動が、非常に小さくなった時、通常24時間後に残った水分(通常、pF1.7)から、植物がしおれ始めるしおれ点(pF3.8)までの水分である。従って、上記pF1.7から値が小さくなっていくと土壌中の空気が不足して湿害を受け、上記pF3.8から値が大きくなっていくと水分を吸収することができず枯死する。
【0019】
更に、上記植物が根から吸収できる水分の内、pF1.7〜pF2.7の水分を易効水と呼び、植物が容易に水分を吸収することができ、生育が良好となり、それ以外のpF値の水分を難効水と呼び、植物が水分を吸収しにくくなり、枯死はしないが生育が衰える。上記のように、一般的には、植物が容易に水分を吸収することができるのはpF1.7〜pF2.7と言われているが、本発明者らが実際に植物を育成すると、pF2.3を超えると植物の生育が悪くなることがわかった。そこで、本発明においては、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率を12〜25mL/100mLに規定した。
【0020】
上記保水性について、単に植物育成体の孔隙径や孔隙率などを規定するのではなく、植物が根から容易に吸収することができる水分の保持量を特定範囲に規定したものである。例えば、十分な保水性を想定して植物育成体の孔隙径や孔隙率などを規定しても、重力によって排水される水分、植物が吸収しにくい難効水、更には土壌と化合した水分を含んでいる場合には、植物が利用可能な水分としては不足していることになり、植物育成体の保水性としては不十分となる。従って、本発明では、実際に植物が利用可能な水分の保持量であるpF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率を12〜25mL/100mLに規定したものである。
【0021】
本発明においては、前述のように、植物育成体の通気性として、pF1.5の時の気相率を40〜80%に規定している。土壌水分pF1.5の状態とは、普通の土壌水分含量のときに、1日30〜50mm程度以上の多量の降雨後または灌水後、重力による排水がほぼ終了した状態である(通常、24時間後)。本発明においては、このような状態において、土壌の三相、即ち、気相、液層および固相に対する気相の体積比率を40〜80%に規定したものである。
【0022】
上記通気性においても、単に植物育成体の孔隙径や孔隙率などを規定するのではなく、植物が根から容易に吸収することができる水分の上限である状態において、土壌の三相、即ち、気相、液層および固相に対する気相の体積比率を特定範囲に規定したものである。例えば孔隙率が高いものであっても、上記孔隙内に植物が根から容易に吸収することができる水分が多量に存在すれば、通気性は低いものとなる。従って、上記のように、保水性を満足し、実際に植物育成体として使用できる状態で、通気性として、pF1.5の時の気相率を40〜80%に規定しているのである。
【0023】
前述のように、本発明は、
(a)pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての多孔質微細粉粒体100mL当たりの体積含水率が20〜50mL/100mLである連続気泡構造を有する多孔質微細粉粒体、および
(b)有機または無機バインダー
を含有する団粒体から形成され、
粒径0.25〜5mmを有し、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mLを有し、かつpF1.5の時の気相率40〜80%を有することを特徴とする植物育成体である。
【0024】
上記のように、本発明の植物育成体は、(a)連続気泡構造を有する多孔質微細粉粒体、および(b)有機または無機バインダーを含有する団粒体から形成される。上記(a)成分としての上記多孔質微細粉粒体は、砂、粘土鉱物、発泡ガラスなどのガラス、金属、セラミックなどの無機材料;高分子樹脂;およびそれらの粉砕物から成る群から選択され、粒径分布22〜150μm、好ましくは25〜106μm、より好ましくは53〜106μmを有する。上記多孔質微細粉粒体の粒径分布が150μmを超えると、団粒化した際の微細粉粒体同士の孔隙が大きくなってしまい、植物が吸収し易い、pF1.7〜2.3の範囲の毛管水量が低下してしまい、長期間流下せずに植物が利用できる水分が少なくなってしまう。また、上記多孔質微細粉粒体の粒径分布が22μmよりも小さくなると、団粒化した際の微細粉粒体同士の孔隙が小さくなってしまい、孔隙内に保水された水分が毛管力により、強く保持されるため、植物が孔隙内の水分を吸収しにくくなってしまう。
【0025】
上記多孔質微細粉粒体は、平均孔径5〜100μm、好ましくは10〜75μm、より好ましくは15〜60μmを有する。上記多孔質微細粉粒体の平均孔径が5μmより小さいと孔隙内に保持された水分が毛管力により強く保持されるため、植物が孔隙内の水分を吸収しにくくなってしまい、100μmを超えるとpF1.7〜2.3の範囲の毛管水量が低下してしまい、長期間流下せずに植物が利用できる水分が少なくなってしまう。平均孔径の測定方法としては、一般的に使用されている水銀圧入法を用いることができる。
【0026】
上記多孔質微細粉粒体は、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての多孔質微細粉粒体100mL当たりの体積含水率20〜50mL/100mL、好ましくは25〜50mL/100mL、より好ましくは30〜50mL/100mLを有する。上記多孔質微細粉粒体100mL当たりの体積含水率が20mL/100mLより低いと長期間にわたって、植物が吸収し易い水分を保持することが難しく、50mL/100mLより高いと保水状態での通気性が悪くなり、植物が生育しにくくなる。
【0027】
また、上記多孔質微細粉粒体として発泡ガラスを用いる場合、アルカリ性となるため植物育成体として使用できないため、アルカリ中和剤によって中性化した発泡ガラスを用いる。上記発泡ガラスのアルカリ中和剤としては、例えば東邦レオ株式会社から商品名「アルカリメイト」で市販されているアルカリ土壌中和剤などの市販の土壌中和剤を用いることができ、配合量は発泡ガラス100mLに対して、0.05〜4gである。
【0028】
上記(b)成分としての上記有機または無機バインダーとしては、ポリビニルアルコール系、ウレタン系、酢酸ビニル系などの合成樹脂系有機バインダー;澱粉、膠などの天然物系有機バインダー;水ガラスなどの無機バインダーが挙げられ、撥水性がなく耐水性を有するものが好ましい。
【0029】
上記団粒体の作製方法としては、
(a)上記多孔質微細粉粒体を、乳鉢と乳棒、ハンマーミル、ロールクラッシャーなどで粉砕し、篩を用いて、580メッシュ(呼び寸法22μm)オンおよび100メッシュ(呼び寸法150μm)パスに分級し、
(b)水溶性のバインダーを混合して団粒化させる場合は、バインダーの水溶液を体積含水率で5〜60%となるように均一に撹拌しながら混合し、
(c)乾燥機で乾燥させて水分を除去し、乾燥ブロックを作製し、
(d)上記乾燥ブロックを、乳鉢と乳棒、ハンマーミル、ロールクラッシャーなどで粉砕し、篩を用いて、60メッシュ(呼び寸法250μm)オンおよび3.85メッシュ(呼び寸法5mm)パスに分級して団粒体を得る。
【0030】
上記(a)工程で得られる上記多孔質微細粉粒体の粒径は、篩を選択することによって制御可能である。
【0031】
上記(b)工程において、上記多孔質微細粉粒体にバインダーの水溶液を体積含水率で5〜60%となるように混合するが、上記体積含水率は、好ましくは10〜50%、より好ましくは10〜40%である。上記体積含水率が5%未満では上記微細粉粒体同士が十分に接着できず団粒構造が形成できず、60%を超えるとバインダーが多孔体の孔隙を埋めてしまい、保水性が低下してしまう。
【0032】
上記(c)工程における乾燥条件は、バインダーが固化すればどのような条件を用いてもよいが、好ましくは乾燥温度が80〜120℃であり、乾燥時間が24〜48時間である。
【0033】
上記(d)工程で得られる上記団粒体の粒径は、篩を選択することによって制御可能であるが、0.25〜5mm、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは1〜4mmを有する。上記粒径が、0.25mmより小さいと団粒同士の孔隙が小さくなってしまい、通気性が低下してしまい、5mmより大きいと団粒同士の孔隙が大きくなってしまい、水の浸潤性(拡散性)が低下してしまう。
【0034】
上記のようにして得られた上記団粒体から形成された本発明の植物育成体は、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mL、好ましくは14〜25mL/100mL、より好ましくは16〜25mL/100mLを有する。上記植物育成体100mL当たりの体積含水率が12mL/100mLより低いと長期間にわたって、植物が吸収し易い水分を保持することが難しく、25mL/100mLより高いと保水状態での通気性が悪くなり、植物が生育しにくくなる。尚、本発明者らは、数種の一般的な市販の培養土について実際に本発明と同様の方法でpF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率を測定したところ、12mL/100mL未満の数値を有することを確認している。
【0035】
上記植物育成体は、pF1.5の時の気相率40〜80%、好ましくは45〜80%、より好ましくは50〜80%を有する。上記pF1.5の時の気相率が40%より低いと植物の根圏への空気の供給が不足がちになり、80%より高いと保水量を十分に確保できなくなってしまう。
【0036】
また、本発明の植物育成体は、前述のようなピートモスを使用しておらず、乾燥状態になっても吸水が可能である。更に、本発明の植物育成体は、水遣りや移動の際の粉砕や最密充填化のため、締め固めが生じて通気性が低下することがないように、上記の状態での荷重に耐えるだけの強度を有していることや、可撓性を有していることが望ましい。具体的には、本発明の植物育成体は、繰り返し圧縮荷重0.05MPa付加後の容積変化率20%以下、好ましくは0〜15%を有することが望ましい。上記容積変化率が20%を超えると、鉢などに培地を充填する際や苗を移植する際などに粒子が粉砕され、微細化してしまうために、締め固めが起こり易くなってしまう。上記繰り返し圧縮荷重0.05MPa付加後の容積変化率とは、以下のような方法で測定することができる。土壌評価用の100mL試料円筒(内径約5cm、高さ約5cm)に、サンプル100mLを充填し、上記試料円筒よりも少し外径が小さい重さ10kgの円筒状の重りをゆっくりとサンプルの上に載せる。その状態で60秒間放置した後、上記重りを取り除く。この操作を10回繰り返し、60秒間放置した後、メスシリンダーなどでサンプルの容積Vを測定し、容積変化率ΔVを以下の式から計算により決定する。
【数1】

【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
(i)多孔質微細粉粒体として、株式会社トリムから商品名「スーパーソル」で市販されている発泡ガラス(平均孔径60μm)を、陶器製の乳鉢と乳棒を用いて、粒状に粉砕し、篩を用いて、200メッシュ(呼び寸法75μm)オンおよび140メッシュ(呼び寸法106μm)パスして分級した。
(ii)トンボ工業株式会社製のポット型ミキサーに、上記粒状発泡ガラス10Lおよび東邦レオ株式会社から商品名「アルカリメイト」で市販されているアルカリ土壌中和剤を、50g加え、均一になるように十分撹拌し、pH7に調整した。
(iii)吉野石膏株式会社から商品名「吉野サクビボンド」で市販されている酢酸ビニル系接着剤の水溶液を30mL加え(体積含水率30%)、均一に撹拌しながら混合した。
(iv)上記混合物を、110℃の乾燥器内で24時間乾燥させて、乾燥ブロックを作製した。
(v)上記乾燥ブロックを、陶器製の乳鉢と乳棒を用いて、粒状に粉砕し、篩を用いて、16メッシュ(呼び寸法1mm)オンおよび8.6メッシュ(呼び寸法2mm)パスして分級し、植物育成体の試料を得た。
【0039】
(実施例2)
粒状に粉砕した上記発泡ガラスを、篩を用いて、580メッシュ(呼び寸法22μm)オンおよび200メッシュ(呼び寸法75μm)パスして分級し、植物育成体の粒径を、篩を用いて、30メッシュ(呼び寸法0.5mm)オンおよび16メッシュ(呼び寸法1mm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0040】
(実施例3)
粒状に粉砕した上記発泡ガラスを、篩を用いて、281メッシュ(呼び寸法53μm)オンおよび100メッシュ(呼び寸法150μm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0041】
(実施例4)
植物育成体の粒径を、篩を用いて、16メッシュ(呼び寸法1mm)オンおよび4.7メッシュ(呼び寸法4mm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0042】
(実施例5)
植物育成体の粒径を、篩を用いて、60メッシュ(呼び寸法0.25mm)オンおよび30メッシュ(呼び寸法0.5mm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0043】
(比較例1)
植物育成体の粒径を、篩を用いて、140メッシュ(呼び寸法106μm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0044】
(比較例2)
植物育成体の粒径を、篩を用いて、呼び寸法6mmオンおよび呼び寸法12mmパスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0045】
(比較例3)
粒状に粉砕した上記発泡ガラスを、篩を用いて、8.6メッシュ(呼び寸法2mm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0046】
(比較例4)
粒状に粉砕した上記発泡ガラスを、篩を用いて、580メッシュ(呼び寸法22μm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0047】
(比較例5)
粒状に粉砕した上記発泡ガラスを、篩を用いて、74メッシュ(呼び寸法200μm)オンおよび30メッシュ(呼び寸法500μm)パスして分級した以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0048】
(比較例6)
アルカリ土壌中和剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、植物育成体の試料を得た。
【0049】
実施例1〜5および比較例1〜6の植物育成体の配合を、多孔質微細粉粒体の平均孔径、粒径分布およびpF1.7〜2.3での保水量と共に、以下の表1および表2にそれぞれまとめて示す。
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(注1):株式会社トリムから商品名「スーパーソル」で市販されている発泡ガラス(平均孔径60μm)
(注2):吉野石膏株式会社から商品名「吉野サクビボンド」で市販されている酢酸ビニル系接着剤の水溶液
(注3):東邦レオ株式会社から商品名「アルカリメイト」で市販されているアルカリ土壌中和剤
【0052】
実施例1〜5および比較例1〜6の植物育成体について、多孔質粉粒体の平均孔径、植物育成体のpF1.7〜2.3での保水量、pF1.5での気相率およびラディッシュ生育性を測定または評価し、その結果をそれぞれ以下の表3および表4に示す。試験方法および評価方法は以下の通りである。
【0053】
(試験方法および評価方法)
(1)平均孔径
株式会社島津製作所製の水銀圧入式細孔分布測定装置「オートポアIV」を用いて、平均孔径を測定した。
【0054】
(2)pF1.7〜2.3での保水量
容量500mLのポリエチレン製カップの底面に排水用の穴を開け、更に底に砂(粒径2〜5mm)を敷き詰め、底面に水が溜まらないようにした容器を作製した。用いた多孔質微細粉粒体または得られた植物育成体500mLに十分に水を吸収させ、毛管飽和状態にしたものを試料とし、上記容器の中に形状が崩れないように充填した。充填した多孔質微細粉粒体または植物育成体にpFメーターを差し込み固定し、24時間毎の試料のpF値および体積含水率を測定し、保水力としての毛管力と体積含水率をプロットして水分保持曲線を作成し、pF1.7〜2.3に相当する毛管力範囲における体積含水率から保水量を求めた。上記pF値および体積含水率の測定方法は以下の通りである。
(a)pF値
大起理化工業製のpFメーター(テンシオメーター)「DIK−8343」を用いて、pF値を測定した。
(b)体積含水率
用いた多孔質微細粉粒体または得られた植物育成体の乾燥状態の質量Wd、pF値を測定した際の質量をWpとして、体積含水率VWCを以下の式から計算により決定した。
【数2】

【0055】
(3)pF1.5での気相率
上記(2)で作成した水分保持曲線からpF1.5の時の毛管力3kPaにおける体積含水率(液相)を求め、試料の水分率をそれに合わせてデジタル実容積測定器で実容積(固相+液相)を計測して、全体積から気相率を計算により求めた。上記実容積の測定装置として、大起理化工業株式会社製のデジタル実容積測定装置「DIK−1150」を用いた。
【0056】
(4)ラディッシュ生育性
容量300mLのポリエチレン製カップの底面に排水用の穴を開け、更に底に砂(粒径2〜5mm)を敷き詰め、上記カップの底面に水が溜まらないようにし、その上に植物育成用培地200mLを入れ、ラディッシュの種1個を播種し、十分な水分を与え発芽させた後、3日間に1回の頻度で協和株式会社製の「ハイポニカ液肥(2液タイプ)」を500倍に希釈したもの30mLを養分として供給し、以下に示す評価基準によりラディッシュの生育性をN=3で評価した。
(評価基準)
○:露地栽培と同様に生育し、生育良好
△:本葉が大きくならず、生育遅い
×:枯れてしまい生育不良
【0057】
(試験結果)
【表3】

【0058】
【表4】



【0059】
上記表2の結果から明らかなように、実施例1〜5の本発明の植物育成体は、比較例1〜6の従来の植物育成体に比較して、実際に植物としてのラディッシュの生育性が非常に優れた。
【0060】
これに対して、比較例1の植物育成体では、植物育成体の粒径が小さいため、pF1.5の時の気相率が非常に小さく通気性が悪いため、根が呼吸できず、ラディッシュは生育不良となり、ラディッシュ生育性は悪いものとなった。
【0061】
比較例2〜5の植物育成体では、植物育成体の粒径が大きいため、pF1.7〜2.3の範囲における保水量が非常に小さく、根から十分な水分や栄養分を吸収できず、ラディッシュは生育不良となったり、枯れてしまったりして、ラディッシュ生育性は悪いものとなった。
【0062】
比較例6の植物育成体では、アルカリ性である発泡ガラスにアルカリ土壌中和剤を使用しなかったため、ラディッシュは生育不良となり、ラディッシュ生育性は悪いものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての多孔質微細粉粒体100mL当たりの体積含水率が20〜50mL/100mLである連続気泡構造を有する多孔質微細粉粒体、および
(b)有機または無機バインダー
を含有する団粒体から形成され、
粒径0.25〜5mmを有し、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mLを有し、かつpF1.5の時の気相率40〜80%を有することを特徴とする植物育成体。
【請求項2】
前記多孔質微細粉粒体が、粒径分布22〜150μmを有し、かつガラス、金属およびセラミック、またはそれらの粉砕物から成る群から選択される請求項1記載の植物育成体。
【請求項3】
前記多孔質微細粉粒体が、平均孔径5〜100μmを有する請求項1記載の植物育成体。
【請求項4】
(a)アルカリ中和剤によって中性化した連続気泡構造を有する発泡ガラス微細粉粒体、および
(b)有機または無機バインダー
を含有する団粒体から形成され、
粒径分布0.25〜5mmを有し、pF1.7〜2.3の範囲における保水量としての植物育成体100mL当たりの体積含水率12〜25mL/100mLを有し、かつpF1.5の時の気相率40〜80%を有することを特徴とする植物育成体。
【請求項5】
乾燥状態になっても吸水が可能であり、繰り返し圧縮荷重0.05MPa付加後の容積変化率が0〜20%である請求項1記載の植物育成体。

【公開番号】特開2013−78293(P2013−78293A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220656(P2011−220656)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】