説明

保水材組成物、保水性注入材、保水性舗装体および保水性舗装の施工方法

【課題】 本発明は、下水汚泥焼却灰を用いた場合でも十分な保水性を有し、保水性舗装体に使用することができ、重金属の流出について環境上問題ない保水材組成物、保水性注入材を提供することを目的とする。またその保水性注入材を使用した保水性舗装体および保水性舗装の施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 下水汚泥焼却灰の整粒化粉末20〜40質量%、セメント40〜60質量%および高炉スラグ微粉末20〜30質量%を含有することを特徴とする保水材組成物、および、当該保水性組成物100質量部に対し、水70〜100質量部配合されてなることを特徴とする保水性注入材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路舗装工事において開粒度アスファルト混合物に充填することにより、特に夏季のアスファルト舗装路面温度の上昇を抑制する保水材組成物、保水性注入材に関するものである。また保水性注入材を使用した保水性舗装体および保水性舗装の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
夏季の道路の舗装体、特にアスファルト舗装体は路面温度が非常に高くなり、都市部では周辺部より気温が高くなるヒートアイランド現象の問題が生じている。
このような問題に対し、保水性舗装を利用した技術が提案されている。保水性舗装体とは、開粒度アスファルト混合物の混合物層の空隙に吸水・保水性能のある保水性注入材を充填し、その保水性注入材中の水分が蒸発し、水の気化熱により路面温度の上昇を抑制する性能を有する舗装体である。保水性舗装は、路盤に形成された通常のアスファルト混合物からなる基層上に、開粒度タイプのアスファルト混合物を設置し、その空隙に、吸水・保水性能を有する保水性注入材を充填して、施工される。
【0003】
一方、近年、下水汚泥や都市ごみなどの一般廃棄物や産業廃棄物が著しく増加し、それらの廃棄物の有効利用や再資源化が試みられているが、廃棄物の有効活用は十分に図られているとはいえない。このような観点から焼却灰を使用した保水材が提案されている(特許文献1参照)。しかし一般に焼却灰には、有害となる重金属等が含まれていることがあるといわれている。そこで焼却灰を含有する保水性注入材を使用した場合でも、環境上問題なく使用できることが必要とされている。
【0004】
また特許文献1に記載された焼却灰は、バーナー式焼却炉で焼成し、溶融パウダーにしたものをそのまま用いた保水材が記載されているにすぎない。そのほかにも粒径が1〜5μmの多孔質フィラーを含有した保水材が提案されている(特許文献2参照)。
しかしこれらの粒径の小さな材料を使用して保水性注入材とした場合には、少ない配合量で急激な粘度上昇を招く。そこで施工可能なように流動性を有するようにするためには、多量の水を配合する必要があり、その結果、保水性舗装体の強度低下を招く可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−124504号
【特許文献2】特開2001−303504号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、下水汚泥焼却灰を用いた場合でも十分な保水性を有し、保水性舗装に使用することができ、重金属の流出について環境上問題ない保水材組成物、保水性注入材を提供することを目的とする。またその保水性注入材を使用した保水性舗装体および保水性舗装の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、これらの課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下水汚泥焼却灰の整粒化粉末20〜40質量%、セメント40〜60質量%および高炉スラグ微粉末20〜30質量%を含有することを特徴とする保水材組成物を用いた保水性注入材が、充填に際して十分な流動性が確保され、強度を損なうことなく、十分な保水性効果を有し、有害となる重金属等の流出について問題がないことを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
すなわち本発明は、
(1)下水汚泥焼却灰の整粒化粉末20〜40質量%、セメント40〜60質量%および高炉スラグ微粉末20〜30質量%を含有することを特徴とする保水材組成物、
(2)前記下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の飽和吸水能が0.8〜1.2g/gであることを特徴とする(1)記載の保水材組成物、
(3)前記下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の平均粒径が10〜30μmであることを特徴とする(1)または(2)記載の保水材組成物、
(4)前記セメントが超速硬セメントであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項記載の保水材組成物、
(5)前記保水材組成物100質量部に対し、水70〜100質量部が配合されてなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の保水性注入材、
(6)前記水100質量部に対し、さらに界面活性剤0.05〜0.15質量部が配合されてなることを特徴とする(5)記載の保水性注入材、
(7)開粒度アスファルト混合物からなる舗装体の表層に、(5)または(6)記載の保水性注入材を充填したことを特徴とする保水性舗装体、および
(8)開粒度アスファルト混合物からなる舗装体の表層に、(5)または(6)記載の保水性注入材を充填することを特徴とする保水性舗装の施工方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の保水材組成物を用いた保水性注入材は、充填に必要な流動性を確保するとともに、曲げ強度や圧縮強度等の舗装体として要求される特性を損なうことなく、十分な保水性能を有し、夏季の路面上昇を抑制することができる保水性舗装体および保水性舗装の施工方法を提供することができる。また有害となる重金属等の溶出などについて環境上問題ない保水性舗装体および保水性舗装の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1の保水性舗装試験体と密粒度標準舗装試験体の路面温度低減試験(A)の結果を比較して示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1の保水性舗装試験体と標準舗装試験体の路面温度低減試験(B)の結果を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の保水材組成物、保水性注入材、保水性舗装体および保水性舗装の施工方法について好ましい実施の態様を、以下に詳細に説明する。
まず保水材組成物について、成分ごとに説明する。
(A)下水汚泥焼却灰の整粒化粉末
本発明で用いられる下水汚泥焼却灰の整粒化粉末は下水汚泥を焼却して得られた焼却灰を粉砕又は分級により、整粒化したものである。下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の飽和吸水能については特に制限はないが、飽和吸水能は0.8〜1.2g/gのものが好ましい。本発明において、飽和吸水能は日本ベントナイト工業会標準試験法(JABAS)「ベントナイト(粉状)の膨潤度試験方法」に準じて測定された値である。
この範囲内の飽和吸水能の下水汚泥焼却灰の整粒化粉末を用いることにより、安定して良好な保水性能を確保することができる。
また本発明で用いられる下水汚泥焼却灰の整粒化粉末は、平均粒径10〜30μmとすることが好ましい。粒径はこの範囲内の粒度分布を有する下水汚泥焼却灰の整粒化粉末を用いて保水性注入材とすると、水の量を増やしすぎることなく粘度調整することができる。その結果、曲げ強度や圧縮強度等の舗装として要求される特性の良好な保水性舗装を提供することができる。また下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の粒度は、0.5〜200μmとすることが好ましい。
【0011】
(B)セメント
本発明の保水材組成物に用いられるセメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩などのポルトランドセメントや、超速硬セメントを挙げることができる。その中でも数時間で実用強度が発現するという点で、超速硬セメントを使用するのが好ましい。
【0012】
(C)高炉スラグ微粉末
本発明において用いられる高炉スラグ微粉末としては、溶鉱炉で銑鉄と同時に生成する高炉スラグ微粉末を用いることができる。高炉スラグ微粉末のうち、水砕スラグ微粉末も徐冷スラグ微粉末も好適に使用することができる。JIS A 6206の「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定された高炉スラグ微粉末は粉末度によって4000、6000、8000cm/gの3種が規定されているが、粉末度が高いものが好ましい。さらに粉末度の高い10000〜14000cm/g程度のものを好ましく使用することができる。一例として、粉末度が12000cm/gのファインセラメント5A(株式会社デイ・シイ、商品名)を挙げることができる。
そのほか、JIS A 5011の「高炉スラグ骨材」に規定された高炉スラグ粗骨材又は高炉スラグ細骨材を粉砕したものも好適に使用することができる。
【0013】
本発明の保水材組成物は、下水汚泥焼却灰の粒化物を用いているので、安定して良好な保水性能を確保することができる。また本発明の保水材について、環境庁告示第46号(平成3年8月23日)による土壌溶出試験を行ってもカドミウム、六価クロム、総水銀、セレン、鉛、砒素、ふっ素およびほう素は環境基準内であり、問題ないレベルを確保することができる。
本発明の保水材組成物は20〜40質量%の下水汚泥焼却灰の整粒化粉末を含有する。下水汚泥焼却灰の整粒化粉末が40質量%を越える場合は、保水材組成物を用いて保水性注入材にした場合に、流動性を確保するために配合する水の量を多くしなければならなくなり、保水材の強度が低下する。また下水汚泥焼却灰の粒化物が20質量%未満の場合には、保水性の効果を十分に発揮することができない。下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の保水材組成物中の割合は、好ましくは25〜35質量%である。
【0014】
本発明の保水材組成物はセメント40〜60質量%を含有する。セメントが60質量%を越える場合は、結果的に下水汚泥焼却灰の粒化物の割合が低くなり、保水性を確保しにくくなる。セメントが40質量%未満の場合には、下水汚泥焼却灰の粒化物の割合が高くなり、保水材の強度が不足する。セメントの保水材組成物中の割合は、好ましくは45〜55質量%、さらに好ましくは45〜50質量%である。
【0015】
本発明の保水材組成物は高炉スラグ微粉末20〜30質量%を含有する。高炉スラグ微粉末が30質量%を越える場合は、結果的に下水汚泥焼却灰の整粒化粉末及びセメントの割合が低くなり、保水性を確保しにくくなるとともに保水材の強度が不足する。高炉スラグ微粉末が20質量%未満の場合には、保水材について、環境庁告示第46号(平成3年8月23日)による土壌溶出試験を行った場合に、六価クロムは環境基準を越えるため好ましくない。
【0016】
本発明の保水性注入材は、保水材組成物100質量部に対し、水70〜100質量部配合することで、充填に際して十分な流動性が確保され、機械強度を損なうことなく保水性を確保することができ、しかも環境庁告示第46号(平成3年8月23日)による土壌溶出試験で、六価クロム環境基準内とすることができる。
水が保水材組成物100質量部に対し、70質量部未満の場合には、保水性注入材の流動性が不十分で、開粒度アスファルト混合物に十分充填することができず、良好な保水性舗装を得ることができない。水が100質量部を超える場合には、セメントの割合が低下し、十分な強度を確保することができない。水の配合量は好ましくは、保水材組成物100質量部に対し、75〜85質量部とすることができる。
【0017】
本発明の保水性注入材には、水100質量部に対し、0.05〜0.15質量部の界面活性剤を配合することができる。界面活性剤を配合することにより保水材の吸水量を向上させることができる。使用される界面活性剤は特に制限されず、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のほか、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型のような各種の非イオン界面活性剤を使用することができる。
一例として、パストール(宝通商株式会社、商品名)を挙げることができる。
【0018】
本発明においては、開粒度アスファルト混合物からなる舗装体の表層に、本発明の保水性注入材を充填して、保水性舗装を施工することができる。開粒度アスファルト混合物は保水性舗装に通常、使用されるものであればよく、空隙率が20〜30%の範囲のものを好適に使用することができる。
本発明の保水性注入材は適切な粘度に調整することができ、開粒度アスファルト混合物の間隙に保水性注入材を充填することができる。その後、本発明の保水性注入材は常温で3〜4時間程度で硬化して、保水性舗装体を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、上述した説明と下記の開示から容易に想到する様々な態様は、本発明の特許請求の範囲に包含されるべきものである。
【0020】
(保水性注入材の作製)
表1に記載の実施例1、比較例1〜4の組成の保水性注入材をセメントミキサーで混練して作製した。なお表1に使用した材料は以下の通りである。
・下水汚泥焼却灰の整粒化粉末
飽和吸水能0.91g/g、最大粒径62.2μm、最小粒径1.8μm、平均粒径20.7μmの下水汚泥焼却灰の整粒化粉末を用いた。
・セメント
セメント(超速硬セメント)としては、カラースタッフ(秩父コンクリート工業株式会社、商品名)を用いた。
・高炉スラグ微粉末
ファインセラメント5A(株式会社デイ・シイ、商品名)を用いた。
・界面活性剤
パストール(宝通商株式会社、商品名)を用いた。
【0021】
(特性評価)
(1)流下時間
1725mlの保水性注入材を秤量し、Pロートからの流下時間を測定した。施工性を考慮して、9〜10秒となるものを合格とした。
(2)曲げ強度および圧縮強度
4cm×4cm×16cmの試験体を作製し、7日間養生した。その後JIS R 5201に準拠して曲げ強度および圧縮強度を測定した。曲げ強度の場合は0.3MPa以上を合格とし、圧縮強度の場合は0.5MPa以上の場合を合格とした。
(3)最大吸水率
直径10cm、長さ20cmの円筒状モールドの中に保水性注入材を注入し、7日間養生した。その後、円筒状ケースをはずし、60℃の乾燥炉内で24時間以上乾燥させ、試験体を得た。その試験体を水槽に24時間以上吸水させ、その後取り出し、表乾状態となったときの重量と、さらに60℃の乾燥炉で24時間以上乾燥させ、絶乾状態としたときの重量を測定した。これらの結果から、次式により、最大吸水率(%)を求めた。最大吸水率40%以上を合格とした。
最大吸水率=((表乾重量−絶乾重量)/絶乾重量)×100
(4)六価クロム溶出量
7日間養生した保水材を2mm以下に破砕した後、環境庁告示第46号(平成3年8月23日)による土壌溶出試験を行った。環境基準に従い、0.05mg/l以下を合格とした。
【0022】
【表1】

【0023】
(5)路面温度低減試験(A)
「保水性舗装技術資料(平成19年5月)」(保水性舗装技術研究会編集)に従い、室内照射試験を行った。試験は、実施例1の保水性注入材により作製した保水性アスファルト舗装試験体(30×30×5cm)と、比較として、密粒度標準舗装試験体(最大粒径13mm、(30×30×5cm)について行った。その結果を図1に示す。
【0024】
(6)路面温度低減試験(B)
野外に3m×3mの実験ヤードに、路盤に次いで、基層を形成した。その後、開粒度アスファルト(空隙率21%)を形成した。その後、実施例1の保水性注入材を充填し、4時間硬化させて、保水性舗装を完成した。その後夏季における路面温度低減試験を行った。また比較として標準舗装のものも同時に試験した。路面温度の測定は前日に降雨がなく、最高気温が30℃を超えると予想される日に散水してから行った。散水は測定を行う日の朝に、60分間散水を行った。その結果を図2に示す。
【0025】
表1からわかるように、本発明の実施例1の場合はいずれの特性も合格となり、良好な保水性舗装体を提供することができる。
それに対して、比較例1〜4では、高炉スラグ微粉末の配合量が少ないため、六価クロム溶出量が不合格となっている。
【0026】
またセメントの配合量が少ない比較例2〜4では、下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の割合が多くなることから、施工可能となる流動性を保つために加える水の量が増加し、その結果、曲げ強度および圧縮強度が不合格となっている。
【0027】
また図1、2からわかるように、本発明の保水性注入材を充填した保水性舗装体は、標準舗装体と比較して、最大10℃以上の路面温度低減効果を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥焼却灰の整粒化粉末20〜40質量%、セメント40〜60質量%および高炉スラグ微粉末20〜30質量%を含有することを特徴とする保水材組成物。
【請求項2】
前記下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の飽和吸水能が0.8〜1.2g/gであることを特徴とする請求項1記載の保水材組成物。
【請求項3】
前記下水汚泥焼却灰の整粒化粉末の平均粒径が10〜30μmであることを特徴とする請求項1または2記載の保水材組成物。
【請求項4】
前記セメントが超速硬セメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の保水材組成物。
【請求項5】
前記保水材組成物100質量部に対し、水70〜100質量部が配合されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の保水性注入材。
【請求項6】
前記水100質量部に対し、さらに界面活性剤0.05〜0.15質量部が配合されてなることを特徴とする請求項5記載の保水性注入材。
【請求項7】
開粒度アスファルト混合物からなる舗装体の表層に、請求項5または6記載の保水性注入材を充填したことを特徴とする保水性舗装体。
【請求項8】
開粒度アスファルト混合物からなる舗装体の表層に、請求項5または6記載の保水性注入材を充填することを特徴とする保水性舗装の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−1782(P2011−1782A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147018(P2009−147018)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000220675)東京都下水道サービス株式会社 (98)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【出願人】(000104814)クニミネ工業株式会社 (30)
【出願人】(592182698)株式会社竹中道路 (14)
【Fターム(参考)】