説明

保水材

【課題】植物の根の成長が妨げられることなく根を深く広く張ることができ植生効果に優れ、さらに吸水性樹脂がシート部から脱落し難く、長期間、シート部の形状が維持されて吸水性が維持され、また凍結による土壌の膨張を抑制するので耐久性に優れ、且つ水平的な利用に加えて法面若しくは壁面などの傾斜地及び立面への応用を可能にする保水材を提供すること。
【解決手段】(a)繊維状の吸水性樹脂と、基材繊維と、が一体化されたシート部と、(b)シート部に植物の根が通過する少なくとも1以上形成された連通部と、を備え、連通部が連続した空隙及び/又はシート部の厚さ方向に貫通した貫通孔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌に埋設される保水材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物は、乾燥期間が続くと乾燥枯死してしまう。そこで、土壌に埋設され、降雨時や潅水時には降雨等を吸収し、土壌が乾燥状態になると吸収した水分を土壌に供給することにより、植物が乾燥枯死するのを防止する保水材が知られている。
この従来の技術としては、(特許文献1)に「乾燥状態で織目に空間を設けた状態で織物組織に高吸水樹脂を設け、該高吸水樹脂が膨潤した分を該空間内に吸収させる構成とした高吸水性織物」が開示されている。
(特許文献2)には、「ポリアルキレングリコールを共重合した熱可塑吸水性樹脂を用いて得られる吸水性繊維から構成される吸水性不織布層と、熱可塑性繊維からなる不織布層から形成される積層体であり、該吸水性繊維が積層体の全重量に対して1〜99重量%含まれる吸水性不織布積層体」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3488538号公報
【特許文献2】特開2006−299425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示された高吸水性織物や(特許文献2)に開示された吸水性不織布積層体を土壌中に埋設し、その上に植物の苗を植え込んだり播種を行なったりすることにより、高吸水性織物の高吸水樹脂や吸水性不織布積層体の吸水性不織布層(以下、これらを吸水性樹脂という。)で土壌中に保水層を形成し、植物が乾燥枯死するのを防止することができる。高吸水性織物等における吸水性樹脂の密度が高いほど、保水性能を高めることができる。しかし、吸水性樹脂の密度が高いと、植物の根は高吸水性織物や吸水性不織布積層体を突き破ってその下方に伸びていくことが困難なため、植物が根を深く広く張ることが難しいという課題を有していた。根の成長が妨げられると、地上の茎葉の成長も妨げられるため、緑化が困難であった。
(2)吸水性樹脂は、太陽光や紫外線が照射されると早期に吸水性が低下してしまうという問題があった。これまで、紫外線は土壌中を透過しないと考えられていたため、土壌に埋設して用いられる保水材は、紫外線や太陽光の影響を考慮しなくて良いと考えられていた。しかし、保水材を土壌の比較的浅い位置に埋設する場合は、地表から照射される紫外線等の影響を受け易いことがわかった。このため、土壌に埋設された後、紫外線や太陽光の影響によって早期に吸水性樹脂の吸水性が低下し、長寿命性に欠けるという課題を有していた。
(3)(特許文献1)に開示された高吸水性織物や(特許文献2)に開示された吸水性不織布積層体が汚濁水と接触すると、汚濁物が高吸水性織物や吸水性不織布積層体の内部の空間内に吸収される。高吸水性織物や吸水性不織布積層体の内部の空間は、吸水性樹脂が膨潤して増加した体積を吸収させるために設けられているが、汚濁物が内部の空間内に吸収され空間内に汚濁物が詰まってしまうと、膨潤して体積が増加した吸水性樹脂が高吸水性織物や吸水性不織布積層体の繊維の隙間から外部にはみ出し、乾燥による収縮と吸水による膨潤を繰り返すことで吸水性樹脂が脱落し易く、高吸水性織物や吸水性不織布積層体の吸水性が早期に低下するという課題を有していた。
(4)(特許文献1)に開示された高吸水性織物や(特許文献2)に開示された吸水性不織布積層体は、吸水性樹脂が膨潤した際の定型性が悪く、垂直面・法面・斜面に使用する事が困難であるという課題を有していた。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、植物の根の成長が妨げられることなく根を深く広く張ることができ植生効果に優れ、さらに吸水性樹脂がシート部から脱落し難く、長期間、シート部の形状が維持されて吸水性が維持され、また凍結による土壌の膨張を抑制するので耐久性に優れ、且つ水平的な利用に加えて法面若しくは壁面などの傾斜地及び立面への応用を可能にする保水材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来の課題を解決するために本発明の保水材は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の保水材は、(a)繊維状の吸水性樹脂と、基材繊維と、が一体化されたシート部と、(b)前記シート部に植物の根が通過する少なくとも1以上形成された連通部と、を備え、前記連通部が連続した空隙及び/又は前記シート部の厚さ方向に貫通した貫通孔である構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)植物は、シート部から水分を補給され、さらにシート部に形成された連通部を通して根を深く広く張ることができるので、根の成長が妨げられることなく、ひいては地上の茎葉の成長も妨げられることなく、植生効果を高めることができる。
(2)繊維状の吸水性樹脂が基材繊維と一体化されてシート部を形成しているので、吸水性樹脂がシート部から脱落し難いため、長期間、シート部の形状が維持され吸水性が維持される。さらに、吸水性樹脂は吸水しても約−20度まで凍結しないので、寒冷地においてもシート部はクッション性が保たれるため、凍結による土壌の膨張を抑制し、植物の株が持ち上げられて根が傷付けられたり水切れが生じたりするのを防止する。
(3)繊維間密度を調整することで連通部として連続した空隙を形成することができ、植物の根がこの連続した空隙内を伸長してやがてシート部を通過して土壌中に直接根を張ることができ、植生効果に優れる。また、空気の層が形成されるので優れた根腐れ防止効果を有する。
(4)連通部をシートの厚さ方向に貫通した貫通孔に形成できるので、植物の根が貫通孔を通ってやがてシート部を通過し、土壌中に直接根を張ることができるので、植生効果に優れる。
(5)基材繊維が吸水性樹脂の周囲を囲繞することができ、吸水性樹脂の吸水時における体積膨張を、吸水性樹脂と基材繊維との間の空間にのみ発生させて、保水材全体としての体積膨張を抑制することができ、定型性に優れる。
【0007】
ここで、吸水性樹脂としては、繊維状に形成できるものであれば、特に制限なく用いることができるが、例えば、セルロース・アクリルニトリル重合体、アクリル酸・ビニルアルコール共重合体、アクリル酸ナトリウム重合体、アクリル酸・アクリルアミド共重合体、ポリエチレンオキサイド変性物、ポリアルキレングリコール共重合体、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体等を用いることができる。
【0008】
基材繊維としては、綿,レーヨン等の天然繊維や再生繊維、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,生分解性ポリエステル等のポリエステル系ポリマー;ナイロン等のポリアミド系ポリマー;ポリプロピレン,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系ポリマー等の合成繊維を用いることができる。さらには、これらを主体とする共重合体やこれらの混合物を用いることもできる。
【0009】
繊維状の吸水性樹脂や基材繊維は、短繊維あるいは長繊維のいずれも用いることができる。短繊維や長繊維から、スパンボンド法やメルトブロー法等の紡糸直結法、カーディングやエアレイ等の乾式法、抄紙法等の湿式法等、公知の方法を用いてウェブを作成し、不織布からなるシート部を得ることができる。
基材繊維のウェブと繊維状の吸水性樹脂とを一体化させて不織布のシート部を得る方法としては、カレンダー法,スルーエアヒーティング法等の熱的接着法、接着剤による化学的接着法、ニードルパンチ法,水流交絡法,ステッチボンド法等の機械的接着法等の公知の方法を採ることができる。
【0010】
シート部は織物とすることもできる。この場合、繊維状の吸水性樹脂は、基材繊維を製織した織物組織に織り込むことができる。また、基材繊維に未架橋の吸水性樹脂を付着させた後、架橋反応させることによって基材繊維と吸水性樹脂が一体化した原糸を製造し、これを製織してシート部を得ることができる。また、基材繊維を製織した織物組織を得た後、この基材繊維に未架橋の吸水性樹脂を付着させ、これを架橋反応させることによって基材繊維と吸水性樹脂が一体化したシート部を得ることができる。
【0011】
なかでもシート部は、スパンボンド法やメルトブロー法等の紡糸直結法によって基材繊維ウェブを形成し、これに繊維状の吸水性樹脂を、ニードルパンチ法,水流交絡法,ステッチボンド法等の機械的接着法によって交絡させて不織布とするものが好適に用いられる。繊維状の吸水性樹脂や基材繊維の脱落がなく、生産性に優れるからである。
シート部の構造としては、基材繊維ウェブと、繊維状の吸水性樹脂による吸水性樹脂層とを任意に交絡させ、任意の層数で積層させたものとすることができる。特に、吸水性樹脂層の両面を、基材繊維ウェブで挟み込んで交絡させたものが好適に用いられる。繊維状の吸水性樹脂の脱落を防止するとともに、吸水性樹脂が膨潤した場合でもシート部の強度が低下するのを防止できるからである。
【0012】
吸水性樹脂と基材繊維を交絡させて不織布とすると、基材樹脂により吸水性樹脂が吸水時の体積膨張を抑制されて、吸水性樹脂が膨潤してもシート部が型崩れせず、優れた定型性をもった保水材とすることができる。
【0013】
土壌内に保水材の体積膨張差による空隙が形成されると、夏季に土壌内の水分の蒸発を加速させて土壌の温度を上昇させ、冬季には空隙に溜まった水分が凍結すると体積が膨張し植物の根が切れる等の問題が生じる。
しかし、シート部の目付や吸水性樹脂の混合割合を調整することにより、乾燥時にシート部の繊維間に適度な空間を設け、更に吸水性樹脂を基材繊維によって周囲を囲繞するので、吸水性樹脂が膨潤して増加した体積が繊維間の空間内に吸収され、吸水性樹脂が膨潤した場合でもシート部の全体が膨張して保水材が不定形となるのを防止することができる。これにより、土壌に埋設した場合に、膨潤や乾燥によって保水材の体積が変化しないため、基盤が崩壊するのを防止し、また土壌内に保水材の体積膨張差による空隙が形成されるのを防止することができる。更に空気の層ができるので根腐れを防止することができる。
【0014】
シート部の全重量に対する吸水性樹脂の混合割合としては、5〜70重量%好ましくは15〜30重量%が好適である。吸水性樹脂が15重量%より少なくなるにつれ、吸水量が少なくなり植物への水分の供給能力が低くなるとともに、土壌の凍害を抑制し難くなる傾向がみられ、30重量%より多くなるにつれ、吸水性樹脂の湿潤時にシート部の強度が低下するとともに、吸水性樹脂の湿潤時の膨張分をシート部が吸収できず、保水材が膨張し、基盤が崩壊したり植物の根が切れたりする傾向がみられる。特に、5重量%より少なくなるか、70重量%より多くなると、これらの傾向が著しくなるため、いずれも好ましくない。
【0015】
シート部に形成された連通孔は、連続した空隙及び/又はシート部の厚さ方向に貫通した貫通孔から成る。
ここで、連続した空隙はシート部を形成する繊維間に形成され、目付けを調整して繊維間密度を粗く調整することで得られる。この連続した空隙は伸長中の根が侵入可能な程度の空隙であって、植生する植物によって大きく異なるが、各空隙の平均空隙直径を5μm〜数mm程度に形成することで植生効果を向上させることができる。このような連続した空隙を形成することで、例えば芝生のような毛細根を多数持つ植物については貫通孔を形成した場合に比べて、根が保水材を通過して土壌への根付きが良い。
【0016】
貫通孔の形状としては、特に制限がなく、例えば、円形状、楕円形状、三角形,矩形状,六角形等の多角形状や、直線状,曲線状,スリット状,十字状等の切り込みを、適宜選択して用いることができる。貫通孔の大きさとしては、特に制限がなく、例えば長径を3〜20cm程度にすることができる。
【0017】
なお、シート部の平面形状は特に制限がなく、例えば、円形状、楕円形状、三角形,矩形状,六角形等の多角形状等に切断したものや、帯状等を適宜選択して用いることができる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の保水材であって、前記シート部の少なくとも片面を支持する保持部を備え、前記保持部に植物の根が通過する少なくとも1以上形成された連通部を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)保持部が保水材の吸水時の定型性を著しく向上させるので、水平的な利用に加えて法面若しくは壁面などの傾斜地及び立面への応用が可能で、汎用性に優れる。
(2)連通部を通して根が保持部を通過し、土壌中へ直接根を深く広く張ることができるので、根の成長が妨げられることなく、ひいては地上の茎葉の成長も妨げられることなく、植生効果に優れている。
(3)連通部を連続した空隙に形成することで、この空隙内を根が伸長して成長し、保持部を通過して土壌内へ直接根を深く張ることができるので、植生効果に優れ、更に保持部内部に空気の層が形成されて根腐れを防止する
(4)連通部をシートの厚さ方向に貫通した貫通孔に形成できるので、植物の根が貫通孔を通ってやがて保持部を通過し、土壌中に直接根を張ることができるので、植生効果に優れる。
【0019】
シート部の少なくとも片面に保持部を設けて定型性を向上させることで、保水材を水平的な使用に加えて、法面若しくは壁面などの傾斜地及び立面へ応用することができる。
保持部として、シート部の少なくとも片面を熱処理して、植物の根が通過可能な連通部を有するように、略スキン層を形成し、定型性を向上させることができる。更に、シート部の少なくとも片面に保持部として基布を接合し、定型性を向上させることもできる。
【0020】
保持部は、基材繊維と同様の繊維を用いて前述の方法で不織布及び織物に形成することができる。また、保持部の平面形状もシート部の平面形状と同様のものを適宜選択して用いることができる。連通孔や連続した空隙や貫通孔についてもシート部のものと同様のものなので説明を省略する。
【0021】
基布をシート部に一体化する方法としては、接着や溶着或いは縫設したり、不織布もしくは織物に形成された基布を基材繊維と吸水性樹脂を交絡させる際にともに交絡させてシート部と一体化することができる。
【0022】
法面等の傾斜地へ使用する場合は、竹杭や木杭等によって地面に固定したり、メタルラスやワイヤーラス等のラス張りによって保水材を地面へ抑えて使用することができる。また、ラス以外にポリエチレン,ポリアミド,ポリエステル等の合成樹脂や生分解性の樹脂からなる植生ネット等の網状のもので地面へ抑えつける等して固定する等、従来公知の技術を用いることができる。
また、フレーム等の枠に保水材を固定したり、枠に固定後更にラス若しくは植生ネット等の網状のもので抑えることで立面へ応用することができる。
【0023】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1及び2に記載の保水材であって、前記貫通孔が、切り込みで形成された構成を有している。
この構成により、請求項1及び2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)円形状,楕円形状,三角形,矩形状等の貫通孔を穿孔する場合は、穿孔部分を除去して貫通孔が形成されるため、穿孔部分が廃棄されてしまう無駄が生じるが、請求項1及び2で得られる保水材はそのままでも利用可能なうえに、貫通孔が切り込みで形成されているので、吸水性樹脂が一体化されたシート部を無駄なく利用することができ、省資源性に優れる。
(2)切り込みを入れることで、切り込み部の空間が保水材と土壌との密着性を高め、土との馴染みが良く地滑り防止に役立つ。
【0024】
ここで、切り込みとしては、直線状,曲線状,スリット状,十字状等が用いられる。特に、複数の切り込みを一定方向に位置をずらして網目状やクロス状に形成したものが好適に用いられる。保管時や運搬時等には切り込みを閉じた状態にしておき、土壌に埋設する際に、切り込みと直交方向に保水材の両端を引っ張り、切り込みを開口させて保水材を大きく伸長させることができるため、保管時や運搬時等の保水材の小型化が可能となり、施工時には小さな保水材を伸長させて広い耕地や砂漠等に埋設することができ、施工性に優れ、且つ切り込みを入れることで得られる空間は土壌との密着性を高め、土との馴染みが良く地滑り防止に役立つからである。
【0025】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3に記載の保水材であって、前記基材繊維が、前記貫通孔の壁部乃至は周部で溶着された構成を有している。
この構成により、請求項1乃至3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)基材繊維が貫通孔の壁部乃至は周部で溶着されると、基材繊維の溶着部に遮られて吸水性樹脂が解れ難くなるため、繊維状の吸水性樹脂が貫通孔から脱落するのを防止し、貫通孔の吸水性を確保するとともに、貫通孔の壁部乃至は周部の強度を向上させ、湿潤時の貫通孔周辺におけるシート部の強度低下を防止することができる。
【0026】
ここで、基材繊維を溶着させるには、基材繊維は、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,生分解性ポリエステル等のポリエステル系ポリマー;ナイロン等のポリアミド系ポリマー;ポリプロピレン,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系ポリマー等の熱可塑性樹脂製が用いられる。
【0027】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の内いずれか1に記載の保水材であって、前記吸水性樹脂が、前記貫通孔の壁部乃至は周部で溶着された構成を有している。
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)吸水性樹脂が貫通孔の壁部乃至は周部で溶着されると、吸水性樹脂の溶着部が基材繊維に絡まり解れ難くなるため、繊維状の吸水性樹脂が貫通孔から脱落するのを防止し、貫通孔の吸水性を確保することができる。
【0028】
請求項3又は4において、貫通孔を穿孔する金型や刃等を加熱したり、レーザーを用いて貫通孔を穿孔したりすることにより、シート部に貫通孔を形成すると同時に、基材繊維や吸水性樹脂を貫通孔の壁部で溶着することができる。また、貫通孔を穿孔した後、熱プレス機等を用いて、貫通孔の周部をシート部の厚さ方向に加熱圧着することにより、貫通孔の周部で基材繊維や吸水性樹脂を溶着させることができる。
【0029】
本発明の請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の内いずれか1に記載の保水材であって、前記シート部の表面に形成された紫外線遮蔽層を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1乃至5の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)シート部の表面に紫外線遮蔽層が形成されているので、土壌に埋設された後、吸水性樹脂が紫外線や太陽光の影響を受け難く、吸水性樹脂の吸水性が低下し難いため、長寿命性に優れる。
【0030】
ここで、紫外線遮蔽層は、紫外線遮蔽剤(紫外線吸収剤又は紫外線反射剤)の溶液や分散液を、シート部の表面へ塗布,噴霧等することによって形成することができる。紫外線遮蔽剤の溶液や分散液は、フェノール樹脂,アルキド樹脂,アミノ樹脂,アクリル樹脂エマルジョン,高分子エマルション等の塗膜形成要素を希釈した溶液に、紫外線吸収剤や紫外線反射剤を溶解又は分散させて得ることができる。
また、紫外線遮蔽剤が固体の無機系粒子等を用いることもできる。
紫外線遮蔽層は、紫外線遮蔽剤の種類等にもよるが、1〜100μmの厚さに形成することができる。紫外線遮蔽層の厚さが1μmより薄くなると紫外線遮蔽効果が得られ難く、100μmより厚くしても紫外線遮蔽効果は変わらず、かえって紫外線遮蔽層が脱落し易くなるため好ましくない。
【0031】
紫外線遮蔽剤としては、サリチル酸メチル、p−t−ブチルフェニル−サリシレート、p−オクチルフェニル−サリシレート等のサリチル酸誘導体;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;クマリン系化合物、2'−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を混合して使用することができる。
また、紫外線遮蔽剤として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化プラセオジウム、酸化セリウム、粘土、赤玉土の粉砕粉、活性炭、シラス、珪藻土等の鉱物粉、砥粉等の無機系粒子を挙げることもできる。
【0032】
本発明の請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の保水材であって、前記紫外線遮蔽層が、無機系粒子を含有した構成を有している。
この構成により、請求項6で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)紫外線遮蔽層に含まれる無機系粒子間に形成された隙間が、汚濁水に含まれる汚濁物のフィルターとして機能し、シート部の内部の空間に汚濁物が吸収されるのを防止する。これにより、膨潤した吸水性樹脂がシート部の繊維の隙間から外部にはみ出して、乾燥による収縮と吸水による膨潤を繰り返すことで吸水性樹脂が脱落するのを防ぎ、吸水性を長期間維持することができる。シート部の内部の空間は、吸水性樹脂が膨潤して増加した体積を吸収させるために設けられているが、汚濁物が内部の空間内に吸収され空間内に汚濁物が詰まってしまうと、膨潤して体積が増加した吸水性樹脂がシート部の繊維の隙間から外部にはみ出し、乾燥による収縮と吸水による膨潤を繰り返すことで吸水性樹脂が脱落し易く、早期に吸水性が低下するからである。
【0033】
ここで、無機系粒子をシート部の表面に散布し、その上に天然繊維や合成繊維等のウェブを配置して、ニードルパンチ等の機械的接着法によって全体を交絡することにより、シート部の表面に無機系粒子を固定化して紫外線遮蔽層を形成することもできる。
無機系粒子としては、平均粒径が1〜50μmの酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化プラセオジウム、酸化セリウム、粘土、赤玉土の粉砕粉、活性炭、シラス、珪藻土等の鉱物粉、砥粉等を用いることができる。
平均粒径が50μmより大きくなるにつれ、無機系粒子間に形成される隙間が大きくなり汚濁物のフィルターとして機能し難くなる傾向がみられ、1μmより小さくなるにつれ、微生物コロニーが発生し易くなり表面が閉塞されて水が吸収され難くなる傾向がみられる。
【0034】
本発明の請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の保水材であって、前記無機系粒子が、粘土及び/又は砥粉である構成を有している。
この構成により、請求項7で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)粘土や砥粉は凝集性が大きいため、強固な紫外線遮蔽層を形成することができ、紫外線遮蔽効果が大きく、さらに汚濁物の濾過性能が高く汚濁物のシート部内への侵入を妨げる効果が大きい。
【0035】
ここで、粘土としては、岩石中の鉱物が分解・破壊されてできた微細粒子の集合体であり、主に粘土鉱物の微細粒子からなるものが用いられる。
粘土鉱物としては、カオリナイト,デッカイト等のカオリナイト系、メタハロイサイト,ハロイサイト等のハロイサイト系、クリソタイル,アンチゴライト等の蛇紋石系、セリサイト,海緑石等の加水雲母系、モンモリロナイト,バイデライト等のモンモリロナイト系、緑泥石,マグネシウム緑泥石等の緑泥石系、パイロフィライト、タルク、バーミキュライト等のアルミノケイ酸塩鉱物が用いられる。また、粘土として、木節粘土,蛙目粘土等の可塑性粘土、カオリン、セリサイト、陶石、ろう石クレー、ベントナイト等も用いることができる。
【0036】
砥粉としては、粘板岩や頁岩の風化作用により生成された粉末、砥石を切り出す際に生じた砥石の粉末、黄土を焼いて粉にした粉末等を用いることができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明の保水材によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)植物は、シート部から水分を補給され、さらにシート部に形成された貫通孔を通して根を深く広く張ることができるので、根の成長が妨げられることなく、ひいては地上の茎葉の成長も妨げられることなく、植生効果に優れた保水材を提供できる。
(2)繊維状の吸水性樹脂が基材繊維と一体化されてシート部を形成しているので、吸水性樹脂がシート部から脱落し難いため、長期間、シート部の形状が維持され吸水性が維持され、さらに凍結による土壌の膨張を抑制し、植物の株が持ち上げられて根が傷付けられたり水切れが生じたりするのを防止する耐久性に優れた保水材を提供できる。
(3)繊維間密度を調整することで連通部を連続した空隙に形成することができ、植物の根がこの連続した空隙内を伸長してやがてシート部を通過して土壌中に直接根を張ることができ、植生効果に優れる。また、空気の層が形成されるので優れた根腐れ防止効果を有する保水材を提供できる。
(4)連通部をシートの厚さ方向に貫通した貫通孔に形成できるので、植物の根が貫通孔を通ってやがてシート部を通過し、土壌中に直接根を張ることができるので、植生効果に優れる保水材を提供できる。
(5)吸水性樹脂が基材繊維により周囲を包囲することができ、吸水性樹脂の吸水時における体積膨張を、吸水性樹脂と基材繊維との間の空間にのみ発生させて、保水材全体としての体積膨張を抑制することができ、定型性に優れる保水材を提供できる。
【0038】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)保持部が保水材の吸水時の定型性を著しく向上させるので、水平的な利用に加えて法面若しくは壁面などの傾斜地及び立面への応用が可能で、汎用性に優れる保水材を提供できる。
(2)連通部を通して根が保持部を通過し、土壌中へ直接根を深く広く張ることができるので、根の成長が妨げられることなく、ひいては地上の茎葉の成長も妨げられることなく、優れた植生効果が得られる保水材を提供できる。
(3)連通部を連続した空隙に形成することで、この空隙内を根が伸長して成長し、保持部を通過して土壌内へ直接根を深く張ることができるので、植生効果に優れ、更に保持部内部に空気の層が形成されて根腐れを防止する保水材を提供できる。
(4)連通部をシートの厚さ方向に貫通した貫通孔に形成できるので、植物の根が貫通孔を通ってやがて保持部を通過し、土壌中に直接根を張ることができるので、植生効果に優れる保水材を提供できる。
【0039】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1及び2の効果に加え、
(1)吸水性樹脂が一体化されたシート部を無駄なく利用することができ、省資源性に優れた保水材を提供できる。
(2)切り込み部の空間が保水材と土壌との密着性を高め、地滑り防止効果のある保水材を提供できる。
【0040】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の効果に加え、
(1)繊維状の吸水性樹脂が貫通孔から脱落するのを防止し、貫通孔の吸水性を確保するとともに、貫通孔の壁部や周部の強度を向上させ、湿潤時の貫通孔周辺におけるシート部の強度低下を防止する保水材を提供できる。
【0041】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1の効果に加え、
(1)繊維状の吸水性樹脂が貫通孔から脱落するのを防止し、貫通孔の吸水性を確保できる保水材を提供できる。
【0042】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の内いずれか1の効果に加え、
(1)土壌に埋設された後、吸水性樹脂が紫外線や太陽光の影響を受け難く、吸水性樹脂の吸水性が低下し難いため長寿命性に優れた保水材を提供できる。
【0043】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6の効果に加え、
(1)紫外線遮蔽層に含まれる無機系粒子間に形成された隙間が、汚濁水に含まれる汚濁物のフィルターとして機能し、シート部の内部の空間に汚濁物が吸収されるのを防止するため、吸水性樹脂が脱落するのを防ぎ、吸水性を長期間維持することができ長寿命性に優れた保水材を提供できる。
【0044】
請求項8に記載の発明によれば、請求項7の効果に加え、
(1)粘土や砥粉は凝集性が大きいため、強固な紫外線遮蔽層を形成することができ、紫外線遮蔽効果が大きく、さらに汚濁物の濾過性能が高く汚濁物のシート部内への侵入を妨げる効果が大きいため、吸水性を長期間維持することができ長寿命性に優れた保水材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態1における保水材の斜視図
【図2】実施の形態1における保水材を伸長させた状態を示す要部斜視図
【図3】実施の形態1における保水材の交絡前のシート部の要部断面図
【図4】実施の形態1における保水材の要部断面図
【図5】実施の形態2における保水材の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における保水材の斜視図であり、図2は実施の形態1における保水材を伸長させた状態を示す要部斜視図であり、図3は実施の形態1における保水材の交絡前のシート部の要部断面図であり、図4は実施の形態1における保水材の要部断面図である。
図中、1は本発明の実施の形態1における保水材、2は後述する繊維状の吸水性樹脂6とその両面にある基材繊維ウェブ5とがニードルパンチ法,水流交絡法,ステッチボンド法等の機械的接着法によって交絡され一体化されて矩形状に形成され、内部に連続した空隙を有する不織布からなるシート部、3は後述する基材繊維と同様の繊維で形成され内部に連続した空隙を有するメッシュ地や不織布、織物からなる保持部、4はシート部2の厚さ方向に貫通して保水材1に形成された直線状の切り込みからなる貫通孔であり、複数の切り込みからなる貫通孔4が一定方向に位置をずらしてシート部2と基布3に網目状に形成されている。5はスパンボンド法やメルトブロー法等の紡糸直結法等によってポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂製の基材繊維で形成された基材繊維ウェブ、6はアクリル酸ナトリウム重合体等の繊維状の吸水性樹脂で形成され基材繊維ウェブ5に両面から挟まれ基材繊維ウェブ5と一体化される吸水性樹脂層、7aは保水材1に形成された貫通孔4のシート部側壁部であり、7bは保水材1に形成された貫通孔4の保持部側壁部であり、シート部側壁部7aと保持部側壁部7bで基材繊維同士が溶着されている。
【0047】
以上のように構成された本発明の実施の形態1における保水材について、以下その製造方法の一例を説明する。
スパンボンド法やメルトブロー法等の紡糸直結法等によって基材繊維ウェブ5を形成し、これに繊維状の吸水性樹脂が中間層となるように、吸水性樹脂層6を基材繊維ウェブ5で挟むようにして、ニードルパンチ法,水流交絡法,ステッチボンド法等の機械的接着法によって交絡させ、基材繊維と繊維状の吸水性樹脂とを一体化させてシート部2を得る。ここで、基材繊維にて不織布若しくは織物に形成された保持部3を、基材繊維ウェブ5に配設してシート部2と共に交絡させて接合したり、シート部2を形成した後に接着或いは溶着等によって接合する。この後、基材繊維の融点以上の温度に加熱された金型や刃,レーザー等を用いて貫通孔4を形成すると同時に、貫通孔4のシート部側壁部7a及び保持部側壁部7bで基材繊維を溶着させる。
このとき、シート部2及び保持部3の目付けや吸水性樹脂の混合割合を調整することにより、連続した空隙を形成する。
【0048】
以上のように、本発明の実施の形態1における保水材は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)シート部2が厚さ方向に貫通した複数の貫通孔4と連続した空隙を備えているので、保水材1の上に播種された植物は、根を貫通孔4及び連続した空隙から土壌の深部へと広げることができ、根の成長が妨げられることなく、ひいては地上の茎葉の成長も妨げられることなく、植生効果を高めることができる。また、貫通孔4が形成されていると、土との馴染みが良く、層間滑りを防止することができるため土砂の流出を防止できる。そして連続した空隙により、毛細管を多数もつ植物の根付きが向上する。
(2)繊維状の吸水性樹脂が基材繊維と一体化されてシート部2を形成しているので、吸水性樹脂がシート部2から脱落し難いため、長期間、シート部2の形状が維持され吸水性が維持される。また、吸水性樹脂は吸水しても基材繊維によって周囲が囲繞されて体積膨張や位置等の変位を抑制されているうえに約−20度まで凍結を防止できる、寒冷地においてもシート部はクッション性が保たれるため、凍結による土壌の膨張を抑制しするとともに、植物の株が持ち上げられて根が傷付けられたり水切れが生じたりするのを防止する。
(3)繊維状の吸水性樹脂層6の両面を、基材繊維ウェブ5で挟み込んで交絡させてシート部2が形成されているので、繊維状の吸水性樹脂の脱落を防止するとともに、吸水性樹脂が膨潤した場合でもシート部2の強度が低下するのを防止できる。
(4)複数の切り込みからなる貫通孔4が一定方向に位置をずらして網目状に形成されているので、保管時や運搬時等には切り込みを閉じた状態にしておき、土壌に埋設する際に、図2に示すように、切り込みと直交方向に保水材1の両端を引っ張り、切り込みを開口させて保水材1を大きく伸長させることができるため、保管時や運搬時等の保水材1の小型化を図ることができる。また、施工時には小さな保水材1を伸長させて広い耕地や砂漠等に埋設することができ、施工性に優れるとともに省資源性に優れる。
(5)貫通孔4のシート部側壁部7aの基材繊維が溶着されているので、基材繊維の溶着部に遮られて吸水性樹脂が解れ難くなるため、繊維状の吸水性樹脂が貫通孔4のシート部側壁部7aから脱落するのを防止し貫通孔4における吸水性を確保するとともに、貫通孔4のシート部側壁部7aと保持部側壁部7bの強度を向上させ、湿潤時の貫通孔4周辺における保水材1の強度低下を防止することができる。
(6)シート部2が保持部3によって支持されているので、保水材1は優れた定型性を有しており、水平面への使用だけではなく、垂直面や法面、斜面等にも使用することができ、使用時において不定型化することがなく、保水材1の形状が著しく安定している。
(7)貫通孔4が形成されているので、貫通孔4によって得られる空間が保水剤1と土壌との密着性を高めるので、地滑り防止の効果がある。
【0049】
ここで、本実施の形態1においては、貫通孔4が直線状の切り込みからなる場合について説明したが、切り込みを曲線状,スリット状とする場合もある。また、切り込みを網目状に形成した場合について説明したが、クロス状に設ける場合もある。これらの場合も同様の作用が得られる。また、切り込みではなく、パンチや打ち抜き等により、円形状、楕円形状、三角形,矩形状,六角形等の貫通孔を形成する場合もある。
また、基材繊維の融点以上の温度に加熱された金型や刃,レーザー等を用いて貫通孔4を形成すると同時に、貫通孔4のシート部側壁部7aと保持部側壁部7bで基材繊維を溶着させる場合について説明したが、常温の金型や刃等を用いて貫通孔4を形成した後、熱プレス機等を用いて、貫通孔4の周部をシート部2の厚さ方向に加熱圧着することにより、貫通孔4の周部で基材繊維を溶着させる場合もある。この場合も同様の作用が得られる。吸水性樹脂を貫通孔4のシート部側壁部7aと保持部側壁部7bや周部で溶着させることによっても、同様の作用が得られる。
また、シート部2が矩形状に形成された場合について説明したが、矩形状に分割することなく、長尺の帯状とする場合もある。これにより、広い耕地や砂漠等に埋設する場合の施工性に優れる。
【0050】
(実施の形態2)
図5は実施の形態2における保水材の要部断面図である。なお、実施の形態1と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、1aは実施の形態2における保水材、8は保水材1の表面に形成され粘土や砥粉等の無機系粒子,サリチル酸誘導体等の紫外線遮蔽剤を含有する紫外線遮蔽層である。
保水材1aは、基材繊維ウェブ5がスパンボンド法やメルトブロー法等の紡糸直結法等によって綿,レーヨン等の天然繊維や再生繊維、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂製の合成繊維で形成されている。
【0051】
以上のように構成された本発明の実施の形態2における保水材について、以下その製造方法の一例を説明する。
スパンボンド法やメルトブロー法等の紡糸直結法等によって基材繊維ウェブ5を形成し、これに繊維状の吸水性樹脂の吸水性樹脂層6を中間層として、基材繊維ウェブ5で吸水性樹脂層6を挟みこんで、ニードルパンチ法,水流交絡法,ステッチボンド法等の機械的接着法によって交絡させ、基材繊維と繊維状の吸水性樹脂とを一体化させてシート部2を得る。ここで、基材繊維にて不織布若しくは織物に形成された保持部3を、基材繊維ウェブ5に配設してシート部2と共に交絡させて接合したり、シート部2を形成した後に接着或いは溶着等によって接合する。シート部2に貫通孔4を形成した後、紫外線遮蔽剤(紫外線吸収剤又は紫外線反射剤)の溶液や分散液を、シート部2の表面へ塗布,噴霧等することによって、シート部2の表面に紫外線遮蔽層8を形成する。こうして、実施の形態2における保水材1aを得る。
【0052】
以上のように、本発明の実施の形態2における保水材は構成されているので、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)シート部2の表面に紫外線遮蔽層8が形成されているので、土壌に埋設された後、吸水性樹脂が紫外線や太陽光の影響を受け難く、吸水性樹脂の吸水性が低下し難いため、長寿命性に優れる。
(2)紫外線遮蔽層8に無機系粒子が含まれている場合は、無機系粒子間に形成された隙間が、汚濁水に含まれる汚濁物のフィルターとして機能し、シート部2の内部の空間に汚濁物が吸収されるのを防止する。これにより、膨潤した吸水性樹脂がシート部2の繊維の隙間から外部にはみ出して、乾燥による収縮と吸水による膨潤を繰り返すことで吸水性樹脂が脱落するのを防ぎ、吸水性を長期間維持することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(保水材の製造)
保水材を以下に示す製造方法にて20サンプル製造した。
まず、ポリエチレンテレフタレート樹脂を常用のスパンボンド溶融紡糸装置に供給し、均一に溶融混合して引取り、ポリエチレンテレフタレート繊維を得た。得られたポリエチレンテレフタレート繊維を開繊分散して基材繊維ウェブを形成した。
次いで、保持部として前述のポリエチレンテレフタレート繊維にて目付け68〜69.5g/m2の不織布を形成した。
次に、繊維状のアクリル酸ナトリウム重合体(吸水性樹脂)を基材繊維ウェブで挟み、更に一方の基材繊維ウェブに保持部を配設して、ニードルパンチ処理を行い吸水性樹脂とポリエチレンテレフタレート繊維を交絡させてシート部を形成しながら保持部を接合させて、目付が970〜980g/m2の不織布からなる厚さ5mmの保水材を得た。シート部の全重量に対する吸水性樹脂の混合割合は30〜31重量%であった。保水材を幅250mm、長さ600mmの矩形状に切断した。
【0054】
(実施例1)
平均粒径3μmの砥粉(紫外線遮蔽剤)6重量部を、アクリル樹脂エマルジョンに分散させ、紫外線遮蔽剤の分散液を得た。これを、上記の保水材の表面に塗布し乾燥させて、厚さが数μm程度の紫外線遮蔽層が形成された実施例1の保水材を得た。
(実施例2)
2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール(紫外線遮蔽剤)100重量部を、キシレンとメチルイソブチルケトンの混合溶剤100重量部に添加し撹拌した後、ポリメタクリル酸メチル(塗膜形成要素)を混合して、紫外線遮蔽剤の溶液を得た。これを、上記の保水材の表面に塗布し、乾燥させて紫外線遮蔽層が形成された実施例2の保水材を得た。
(比較例1)
紫外線遮蔽層が形成されていない上記の保水材を比較例1の保水材とした。
【0055】
(土壌に埋設した保水材の吸水性能の評価)
実施例1,2、比較例1の保水材を、ほぼ水平に畑の地表から深さ5cmの土壌に互いに30cmの間隔をあけて埋設した。なお、保水材を埋設した畑は、晴天時には日光が照射し、雨天時には雨が降り注ぐ屋外に設けられている。
保水材を埋設後、保水材を埋設した土壌の地表が完全に湿潤するまで、地表から静かに潅水した。
この状態で1月〜8月まで8ヶ月間放置した。なお、潅水は天候にかかわらず1週間に1回の頻度で行なった。土壌に埋設した保水材の吸水性能は、土中の乾湿状態を測定することによって評価した。
土中の乾湿状態は、約2週間に1回の頻度で、地表が乾いていると視認されたときに土壌酸湿度計(株式会社竹村電機製作所製、DM−15型)を用いて測定した。土壌酸湿度計(DM−15型)の電極を土中の保水材の上面まで差し込み、土中の乾湿を示す数値(乾湿に応じ1〜8の数値を示す)を読み取り、この数値を比較することにより、保水材の吸水性能を評価した。
この結果、比較例1の保水材を埋設した土壌は、保水材を埋設後3ヶ月程度まで(3〜4月まで)は、地表が乾いていると視認されたときでも、保水材の上面の土壌湿度は、植物(例えば、きゅうり,スイカ,イチゴ等)の生育に適した湿度(土壌酸湿度計の数値は4〜6)であった。しかし、その後は次第に数値が低下し、7〜8月になると、潅水若しくは降雨の直後以外は、数値は1〜2であった。
これに対し、実施例1の保水材を埋設した土壌(保水材の上面の土壌)の土壌湿度は、7〜8月になっても数値は4〜6であった。また、実施例2の保水材を埋設した土壌(保水材の上面の土壌)の土壌湿度は、7〜8月になると数値は3〜4と低下したが、1〜6月は4〜6の数値を示していた。
【0056】
以上の実施例によれば、実施例1の保水材は、砥粉による強固な紫外線遮蔽層を有しているため、紫外線遮蔽効果が大きく、さらに汚濁物の濾過性能が高く汚濁物のシート部内への侵入を妨げる効果が大きいことから、吸水性が長期間維持されているものと推察される。
また、実施例2の保水材は、紫外線遮蔽層が形成されているので、吸水性樹脂が紫外線や太陽光の影響を受け難く、吸水性樹脂の吸水性が低下し難いため、長寿命性に優れるものと推察される。
これに対し、比較例1の保水材は、紫外線遮蔽層を有していないため、紫外線や太陽光の影響によって早期に吸水性樹脂の吸水性が低下し、長寿命性に欠けるものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は土壌に埋設される保水材に関し、植物の根の成長が妨げられることなく根を深く広く張ることができ植生効果に優れ、さらに吸水性樹脂がシート部から脱落し難く、長期間、シート部の形状が維持されて吸水性が維持され、凍結による土壌の膨張を抑制し、更に定型性に優れているので水平面での使用に加え垂直面・法面・斜面でも使用でき、耐久性と汎用性に優れた保水材を提供できる。
【符号の説明】
【0058】
1,1a 保水材
2 シート部
3 保持部
4 貫通孔
5 基材繊維ウェブ
6 吸水性樹脂層
7a シート部側壁部
7b 保持部側壁部
8 紫外線遮蔽層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)繊維状の吸水性樹脂と、基材繊維と、が一体化されたシート部と、
(b)前記シート部に植物の根が通過する少なくとも1以上形成された連通部と、を備え、
前記連通部が連続した空隙及び/又は前記シート部の厚さ方向に貫通した貫通孔であることを特徴とする保水材。
【請求項2】
前記シート部の少なくとも片面を支持する保持部を備え、前記保持部に植物の根が通過する少なくとも1以上形成された連通部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の保水材。
【請求項3】
前記貫通孔が、切り込みで形成されていることを特徴とする請求項1及び2に記載の保水材。
【請求項4】
前記基材繊維が、前記貫通孔の壁部乃至は周部で溶着されていることを特徴とする請求項1乃至3に記載の保水材。
【請求項5】
前記吸水性樹脂が、前記貫通孔の壁部乃至は周部で溶着されていることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1に記載の保水材。
【請求項6】
前記シート部の表面に形成された紫外線遮蔽層を備えていることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1に記載の保水材。
【請求項7】
前記紫外線遮蔽層が、無機系粒子を含有していることを特徴とする請求項6に記載の保水材。
【請求項8】
前記無機系粒子が、粘土及び/又は砥粉であることを特徴とする請求項7に記載の保水材。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−94126(P2010−94126A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216252(P2009−216252)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(592217576)中村建設株式会社 (19)
【出願人】(593069897)モリリン株式会社 (29)
【Fターム(参考)】