説明

保水用粒状体及び保水構造体

【課題】保水性が高く、また包蔵した水の蒸発性が良好であり、水の蒸発潜熱による冷却効果が高い保水用粒状体と、この保水用粒状体を用いた保水構造体とを提供する。
【解決手段】焼結されたセラミックス以外の材料よりなり、保水用粒状体の全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなる保水用粒状体。孔径10〜50μmの気孔が1〜100μmの気孔の体積の60%以上を占めることを特徴とする保水用粒状体。この保水用粒状体は、好ましくは樹脂又はセメント硬化体よりなる。この保水用粒状体が建造物又は地表に敷き詰められてなる保水構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水性に優れ、また保水した水が蒸発し易い保水用粒状体と、この保水用粒状体を用いた保水構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックスよりなるブロックの壁体に水を掛け、蒸発潜熱によって打ち水の如き冷却効果を得るようにした冷却壁体が特開2003−184199に記載されている。同号公報の0026〜0027段落には、焼成時におけるバーミキュライトの発泡作用を利用して製造した多孔質セラミックスが記載されている。しかしながら、このような発泡セラミックス焼結体は、気孔が粗大であり、保水性が高くない。
【0003】
特開2003−146729には、高炉スラグ微粉末、非晶質シリカ微粉末及び消石灰を配合したスラリーを開粒度アスファルトに浸透させて固化させた保水性固化体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−184199
【特許文献2】特開2003−146729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保水性が高く、また包蔵した水の蒸発性が良好であり、水の蒸発潜熱による冷却効果が高い保水用粒状体と、この保水用粒状体を用いた保水構造体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の保水用粒状体は、焼結されたセラミックス以外の材料よりなり、該保水用粒状体の全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の保水用粒状体は、請求項1において、孔径10〜50μmの気孔が1〜100μmの気孔の体積の60%以上を占めることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の保水用粒状体は、請求項1又は2において、樹脂又はセメント硬化体よりなることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の保水構造体は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の保水用粒状体が建造物又は地表に厚さ2〜20cmに敷き詰められてなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の保水用粒状体は、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなる。このように比較的微細な気孔を多量に有するため、本発明の保水用粒状体は保水性が高いと共に、表面の比表面積も大きく、水の蒸発性がよい。従って、降雨や散水によって素早く多量の水を吸水し、都市型洪水を防止することができる。また、この孔径の気孔は、超微細というものではなく、凍結するときには、気孔内の水が凍結時の水の体積膨張に伴って保水用粒状体外に速やかに押し出されるので、凍結融解が繰り返されても、割れるおそれが殆どない。
【0011】
保水した本発明の保水用粒状体からは、水の蒸発により大きな潜熱が奪われる。そのため、この保水用粒状体を建物の屋上や庭などに敷き詰めた本発明の保水構造体は、建物や庭などの冷却効果に優れる。
本発明の保水用粒状体は、焼結されたセラミックス以外の材料よりなるため、焼結されたセラミックスと比較して製造時に高温で焼結することが無く、製造時のエネルギー使用量が少なく、製造コストも安く、一度に大量生産が容易となる。
請求項3の保水用粒状体は、樹脂又はセメント硬化体よりなるため、焼結されたセラミックスと比較して製造時に高温で焼結することが無く、製造時のエネルギー使用量が少なく、製造コストも安く、一度に大量生産が容易となる。
なお、樹脂よりなる保水用粒状体は、軽量であるため、ビル屋上等へ大量に敷設する場合であっても、ビル等の建築物への負荷を軽減できる。また、運搬作業の負荷も軽減される。また、樹脂よりなる保水用粒状体は、弾性があるため、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用粒状体が割れることがほとんど無い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0013】
[保水用粒状体]
本発明の保水用粒状体は、焼結されたセラミックス以外の材料よりなり、その保水用粒状体の全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなる。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用粒状体の保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0014】
好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。
【0015】
本発明の保水用粒状体の全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用粒状体の全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用粒状体の実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0016】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0017】
この保水用粒状体は、1〜1200cm特に1〜200cmとりわけ20〜100cm程度の大きさであることが好ましい。この大きさのものは、屋上や庭などに敷き詰め易い。保水用粒状体の形状は球形、楕円球状(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0018】
この保水用粒状体を好ましくは厚さ2〜20cm特に8〜15cm程度に厚く敷き詰めることにより、保水用粒状体層全体の保水容量が増大し、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときでも、水を十分に保水することができる。従って、本発明の保水用粒状体を都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、都市型洪水を防止することも可能となる。
【0019】
また、この保水用粒状体から、水が蒸発するときの蒸発潜熱により冷却が行われるので、本発明の保水用粒状体を都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、ヒートアイランド現象を防止することが可能となる。
【0020】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用粒状体外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用粒状体が割れることは殆どない。
【0021】
この保水用粒状体を構成する材料は、樹脂又はセメント硬化体が好ましいが、金属、ガラスなどであってもよい。
【0022】
なお、湿潤状態にある保水用粒状体に藻が発生することを防止するために、CuOを保水用粒状体中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0023】
本発明の保水用粒状体には、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用粒状体の耐汚染性を高めることができる。
【0024】
[保水用粒状体の製造方法]
次に本発明の保水用粒状体の好適な製造方法について説明する。
【0025】
樹脂を用いてこの保水用粒状体を製造するには、水とエマルジョン樹脂の混合溶液にビーズ樹脂を分散させる。そこに樹脂硬化剤を添加して、エマルジョン樹脂を固形化させ、ビーズ樹脂を接着する。水の存在した部分が、気孔となり、保水用多孔体を形成する。水の配合量によって気孔量が、水の配合量とビーズ樹脂の粒径によって気孔径がそれぞれ制御できる。
【0026】
セメント硬化体よりなる保水用粒状体を製造する場合には、セメント、界面活性剤、水を混練し、強制的にせん断応力を加えて撹拌することで、泡(気泡)を形成させる。界面活性剤の種類、添加量及び強制撹拌時間により、気孔量、気孔径を制御する。
【0027】
[保水用粒状体の応用例及びその効果]
本発明の保水用粒状体は、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質体であり、雨水を吸水することにより雨水流出を抑制し、また、吸水した水を日射によって蒸発させる性能を有する。従って、本発明の保水用粒状体を、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0028】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO削減:
本発明の保水用粒状体をビル屋上に敷設することにより、保水用粒状体による雨水の保水・蒸発で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
【0029】
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
【0030】
この結果、COの排出量の削減も可能となる。
【0031】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
本発明の保水用粒状体は、芝生等の植物と同様の保水、冷却性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
【0032】
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、本発明の保水用粒状体によれば、この問題を解決できる。
【0033】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
本発明の保水用粒状体は、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
【0034】
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、本発明の保水用粒状体を適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0035】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
本発明の保水用粒状体は、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用粒状体を各所に敷設することにより、都市の蒸発面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
【0036】
また、本発明の保水用粒状体は、芝生と比較して高い蒸発能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0037】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
本発明の保水用粒状体は、芝生と比較して高い保水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨による雨水を一時的に貯留し、局地的な大雨がいっきに下水道や河川に流出することを抑制する効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結されたセラミックス以外の材料よりなり、保水用粒状体の全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることを特徴とする保水用粒状体。
【請求項2】
請求項1において、孔径10〜50μmの気孔が1〜100μmの気孔の体積の60%以上を占めることを特徴とする保水用粒状体。
【請求項3】
請求項1又は2において、樹脂又はセメント硬化体よりなることを特徴とする保水用粒状体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の保水用粒状体が建造物又は地表に厚さ2〜20cmに敷き詰められてなる保水構造体。

【公開番号】特開2011−217644(P2011−217644A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88691(P2010−88691)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】