説明

保水資材および緑化用構造体

【課題】従来の屋上緑化の問題点であるたいへん重い重量を軽減し、多くの建造物の屋上緑化を可能にする木質系材料を原料とした軽量な保水資材と薄層基盤植物からなる緑化用構造体を提供する。
【解決手段】木材繊維を主原料とし界面活性剤を含む木質繊維板からなる保水資材2の上に植生用マットを裁置したことを特徴とする緑化構造体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上緑化用および壁面緑化用の植物の生長に必要な水を保水する保水資材および緑化構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の屋上緑化は主に軽量土壌を使用して行われていたが、軽量化には限界があった。屋上緑化の普及のためには、屋根の荷重が制限されるためさらなる軽量化が必要である。
【0003】
一方、薄層基盤化植物を用いて土壌をあまり使用しない植物の栽培方法が確立された。薄層基盤化植物の使用により屋上緑化の軽量化が可能となった。
【0004】
しかし、薄層基盤化植物は土壌の使用量が少ないため軽量であるが保水量が少ないという問題もある。そこで軽量な保水資材を開発し、雨水などを効率的に保水することが重要である。
【0005】
従来の保水資材として、不織布やウレタンフォーム等が使用されてきた。また薄層基盤化植物の下に水を貯める発泡スチロール製のトレーを設置し、これらに水を蓄えて、そこから水を供給してきた。しかしながら、これらの材料費が高く、より安価な保水資材が必要とされてきた。さらにこれらの材料は石油由来であり、都市環境の改善を目指す屋上緑化の保水資材としては、非石油由来の材料を使うことがたいへん重要である。
【0006】
また、壁面緑化の場合、つる性植物の根が壁面に進入することがつる性植物の脱落防止で重要であったが、既存の壁面緑化資材ではこの性能を有するものがなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来の屋上緑化がたいへん重く、既存建造物の耐荷重制限を大きく超えてしまうため、軽量な屋上緑化法を開発し、多くの建造物の屋上緑化を可能にする木質系材料を原料とした軽量な保水資材および緑化用構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、保水資材として木質繊維板を用いることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の要点は、以下の通りである。
(1) 木材繊維を主原料とする木質繊維板に界面活性剤を添加し、保水性を向上した植物栽培用の保水資材。
(2) 根をマット状に成形し、土壌の使用量を減らした薄層基盤化植物を(1)の保水資材上に設置した軽量な緑化用構造体。
(3) (1)の保水資材に吸水性ポリマーを含有させ、保水性をより向上したことを特徴とする(2)に記載の緑化用構造体。
(4) (1)の保水資材に肥料を含有させ、植物の栽培を促進させたことを特徴とする(2)に記載の緑化用構造体。
(5) 保水資材は木材繊維をフェノール樹脂と熱圧成型し、耐久性の向上を特徴とする(2)に記載の緑化用構造体。
(6) 木材繊維を主原料とする木質繊維板を緑化用保水資材として使用することを特徴とする緑化用構造体の保水方法。
(7) (1)の保水資材にはつる性植物の根が容易に進入し、つる性植物の脱落を抑える壁面緑化用構造体。
【発明の効果】
【0009】
本緑化用構造体により屋上緑化が簡便に実施されるようになり、都市緑化が推進される。特に本緑化用構造体はたいへん軽量であるため、既存建築の屋上緑化が広く普及する。
【0010】
また、本発明により都市緑化が推進されるが、その結果、ヒートアイランド現象の緩和にも役立つ。さららに工場などの屋上緑化推進することにより、夏期の工場内部の温度を低減させることができる。
【0011】
保水資材として用いられる木質繊維板は木質系の原料を木材繊維まで解繊し、それらの木材繊維から製造されるため、木質系の廃棄物でも原料にできる。そのために木材のリサイクル利用にも有効である。
【0012】
保水資材を屋上緑化に用いることにより、雨水を効率的に貯水し、都市緑化に利用できるため、雨水の有効利用につながる。さらに最近都市でよく起こる局所的な洪水は、雨水の逃げ場が無いためであり、屋上緑化が推進されれば、これらの雨水を一時的に蓄えられるため、このような洪水を低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に示すように、本発明の緑化用構造体1は、界面活性剤を含む木質繊維板からなる保水資材2の上に薄層基盤化植物3を裁置したことを特徴とするものである。薄層基盤化植物3は、根と土壌からなる部分3−1と草からなる部分3−2から構成されている。
【0014】
本発明で保水資材として用いる木質繊維板とは木材を繊維状に分解して低密度(JISによると密度0.35g/cm3未満)に成形したボードである。製造法としては湿式および乾式の両方がある。原料の選択性はたいへん広く、ほとんどの木材が木質繊維板の原料になる。また、木質系の建築解体材も原料として利用できる。
【0015】
本発明の緑化用構造体に用いられる薄層基盤化植物とは、専用の栽培トレーで土壌量を制限し、あまり使用せずに栽培された植物であり、地下部の根同士が絡み合いマット状になった植物の総称である。土壌をあまり用いないため、軽量化が可能であり、設置も用意である。そのために屋上緑化用の植物として最適である。
【0016】
本発明の緑化用構造体を構成する保水資材である木質繊維板の製造時または製造後に界面活性剤を混入することにより、吸水速度および保水量を高めることができる。界面活性剤を用いても、植物の生長の阻害要因にはならない。
【0017】
本発明の界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよく、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の緑化用構造体を構成する保水資材である木質繊維板の保水性を高めるために、吸水性ポリマーを木質繊維板に複合化してもよい。吸水性ポリマーを複合化するには、湿式の場合、木材繊維を懸濁させた液と吸水ポリマー分散させ、それを抄き上げ、マットを製造する。そのマット乾燥させ、木質繊維板を得る。乾式の場合は、吸水性ポリマーを木材繊維に混合してマット製造し、そのマットをホットプレスで成形し、木質繊維板を得る。
【0019】
本発明で用いた吸水性ポリマーは、ポリアクリル酸ソーダ系の高分子を使用している。本吸水性ポリマーの使用により、雨水などの吸水量が増加し、かつ、排水も適切に行われる。
【0020】
本発明の緑化用構造体における薄層基盤化植物の生長を促進するために、肥料を木質繊維板に複合化してもよい。肥料を複合化するには、吸水性ポリマーと同等の方法で複合化すればよい。
【0021】
本発明で使用した肥料は、窒素、リン酸、カリウム、マグネシウムを6:40:6:15の割合(重量比)で配合した肥料である。
【0022】
本発明の緑化構造体を構成する保水資材である木質繊維板の強度を強化するためには、接着剤と粉末フェノール樹脂を用いて木質繊維板を製造すればよい。その製造方法としては、湿式の場合、木材繊維を水に懸濁させた液に、フェノールを投入し、良く攪拌させる。その懸濁液を抄き、フェノールが分散したマットが製造される。そのマットを乾燥して木質繊維板を製造する。乾式の場合、繊維に液体のフェノール樹脂をスプレー塗布し、繊維をマットに成形する。そしてホットプレスもしくは乾燥機でフェノール樹脂を硬化させて、木質繊維板を製造する。
【実施例1】
【0023】
木材繊維を水に投入し、さらに、フェノール樹脂(群栄化学製のPGA-2165)および吸水性ポリマー(株式会社興人製のサーモゲル)も投入し、湿式抄造装置で抄造してマット成型した。このマットの上面に界面活性剤溶液(10%水溶液)(花王株式会社製のマイドール)をスプレーで塗布した。このマットの下面は吸引されており、界面活性剤が下面まで浸透する仕組みになっている。それを150 ℃で約1時間乾燥して保水資材用の木質繊維板を製造した。
【0024】
製造した木質繊維板を保水資材として薄層基盤化植物を設置して、軽量な緑化用構造体を製造した。薄層基盤化植物の生長とともに根が木質繊維板内に進入し、軽量で安定した緑化用構造体として使用できる。
【0025】
界面活性剤および吸水性ポリマーを複合化した木質繊維板の吸水量を表1に示す。木質繊維板サイズは5cm×5cm×1cm、密度0.33g/cm3であった。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように界面活性剤および吸水性ポリマーを複合化することにより、水分を多く吸収することがわかる。
【0028】
また図2に1年間、保水資材を使用して栽培した薄層基盤化植物(ハイネズ)の生長の様子(図2の右側の植物)と保水資材を使用しないで薄層基盤化植物を栽培したときの生長の様子(図2の左側の植物)を示す。図2より、木質繊維板を使用した薄層基盤化植物の生長が使用しないものよりも旺盛であることが一見してわかる。これは他の薄層基盤化植物でも同様な結果が得られた。
【0029】
図3は本発明の保水資材を壁面緑化資材として使用して1年間つる性植物を栽培したときの根の進入の様子を示す写真である。つる性植物から根が生え、それが木質繊維板内部に進入していることがわかる。根の進入によりつる性植物の脱落を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により軽量な屋上緑化が可能となる。よって都市のヒートアイランド現象の緩和に貢献できる。さらに木質系廃棄物を原料とするため、ゴミ問題の解決になるので、本発明は有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】緑化用構造体の概略を示す模式断面図。
【図2】保水資材を使用して1年間栽培した薄層基盤化植物の生長の様子と保水資材を使用しないで薄層基盤化植物を栽培したときの生長の様子を示す写真。右側が保水資材を使用した場合。
【図3】保水資材を壁面緑化資材として使用して1年間つる性植物を栽培したときの根の進入の様子を示す写真。
【符号の説明】
【0032】
1 緑化用構造体
2 保水資材
3 薄層基盤化植物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材繊維を主原料とする木質繊維板に界面活性剤を添加し、保水性を向上した植物栽培用の保水資材。
【請求項2】
根をマット状に成形し、土壌の使用量を減らした薄層基盤化植物を請求項1の保水資材上に設置した軽量な緑化用構造体。
【請求項3】
請求項1の保水資材に吸水性ポリマーを含有させ、保水性をより向上したことを特徴とする請求項2に記載の緑化用構造体。
【請求項4】
請求項1の保水資材に肥料を含有させ、植物の栽培を促進させたことを特徴とする請求項2に記載の緑化用構造体。
【請求項5】
保水資材は木材繊維をフェノール樹脂で熱成型し、耐久性の向上を特徴とする請求項2に記載の緑化用構造体。
【請求項6】
保水資材を主原料とする木質繊維板を緑化用保水資材として使用することを特徴とする緑化構造体の保水方法。
【請求項7】
請求項1の保水資材にはつる性植物の根が容易に進入し、つる性植物の脱落を抑える壁面緑化構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−183177(P2009−183177A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24820(P2008−24820)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成18年度農林水産省「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】