説明

保温マット

【課題】保管場所等に関わらず重合性モノマーを適正な温度に制御、保持する。
【解決手段】重合性モノマーを収容するドラム缶を保温マット1で囲って内部の温度をコントロールする。保温マット1は、ドラム缶を取り外し可能に囲うシート部3と、シート部3の内面に支持部で取付けて温水を流動させるチューブ7と、ドラム缶を囲った状態でシート部3を係止させる係止ベルト9やベルト止めとを備えた。重合性モノマーを収容するドラム缶を保温マット1で囲い、チューブ7に温水を流すことで外気温に関わらずドラム缶内の温度の変動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内に収容されたアクリル酸モノマーやスチレンモノマー等の熱重合性モノマーを含む重合性モノマーを所定温度に保温制御するための保温マットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱重合性モノマーは合成樹脂を製造するための添加剤として用いられている。熱重合性モノマーは融点が12℃で、低温状態では粘性が高く、高温になりすぎると熱重合で固まってしまうという特性がある。そのため、熱重合性モノマーは、使用し易いように流動性の高い、例えば40℃前後の温度状態で貯蔵施設等で保管する必要がある。
このような熱重合性モノマーの温度をコントロールして貯蔵中に品質劣化するのを抑制する装置として、例えば特許文献1に記載された貯蔵装置が提案されている。この装置は、ポリマー生成材料である熱重合性モノマー液体を貯蔵するタンク内において、天蓋や側壁上部に電気ヒータを設けたり、温水等の熱媒体液循環構造からなる加温手段を設けている。これによって、タンク内で揮発した熱重合性モノマーが天蓋付近で凝集して自然重合することがなく、貯槽の汚れが少ない。
【0003】
他の貯蔵手段として、ドラム缶等に熱重合性モノマーを密封して保管と移送を容易にしたものがある。この場合、ドラム缶を処理施設等で処理待ちの状態で保管すると、外気に触れるために外気温の低い地域や場所では低温状態となり、ドラム缶から取り出す場合に流動性が小さくなって取り出しにくい。そのため、熱重合性モノマーをドラム缶から取り出す際に加温が必要になるが、熱重合性モノマーの温度が高すぎると熱重合で固まってしまうという不具合が生じる。
そこで、熱重合性モノマーをドラム缶等に密封して保管する場合、温水をはった温水槽内に保管して適正な温度範囲に保持することで粘性が低く流動性の高い液体状態に保持していた。
【特許文献1】特開昭60−48938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者である特許文献1では、加温手段を天蓋や側壁上部に設ける貯蔵装置は据え置きタイプの施設であるため、熱重合性モノマー溶液を処理施設に搬送する場合、別の容器に入れ替えて処理施設近傍に搬送して処理開始まで一時的に保管する必要があるが、実質的に外気に近い状態であるために特に冬場等では低温によって粘性が上がって取り出しにくいという不具合が生じていた。
また後者の場合でも、同様に熱重合性モノマーのドラム缶を温水槽から取り出して処理準備のために処理施設の片隅等に一時的に保管しておくと、同様に周囲環境が低温のために熱重合性モノマーが温度低下して粘性が上がってしまい、処理時にドラム缶から取り出し難いという不具合があった。
本発明は、このような実情に鑑みて、搬送や保管場所等に関わらず重合性モノマーを適正な温度に制御、保持できるようにした保温マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による保温マットは、重合性モノマーを収容する容器を囲って容器内の温度をコントロールする保温マットであって、容器を取り外し可能に囲うシート部と、該シート部に取付けられていて流動性のある温度制御媒体を内部に流動させるチューブと、容器を囲った状態で保温用シートを係止させる係止部材とを備えてなることを特徴とする。
本発明によれば、重合性モノマーを収容する容器を保温マットで囲い、チューブに温度制御流体を流すことで外気温に関わらず容器内の温度の変動を抑制することができて、容器内部の重合性モノマーを所要の温度に維持できる。これによって重合性モノマーの固化や粘性の変化等の特性変化を抑制でき、その後の処理がスムーズである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、容器を保温マットで被覆容易であると共に、簡便且つ軽量で保温性に富み、容器内に収容した重合性モノマーの温度を適切な範囲内に保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
また、本発明による保温マットは温度制御媒体が温水であることが好ましく、温水によって重合性モノマーを適正な温度と状態に維持できる。
また、チューブは支持部によってシート部に取付けられていてもよい。
シート部に支持部で支持されたチューブ内を温度制御媒体が流動することで容器内の温度をコントロールできる。
【実施例】
【0008】
以下、本発明の実施例による保温マットを添付図面により説明する。
図1乃至図4は本発明の実施例を示すものであり、図1はドラム缶に保温マットを巻いた状態を示す斜視図、図2は図1の上面図、図3は保温マットの平面図を示すもので(a)は内面図、(b)は外面図、(c)は同図(a)の中央断面図、図4はドラム缶の斜視図である。
図1乃至図3に示す保温マット1は図4に示すドラム缶2の外周面に筒状に巻いて係止されている。ドラム缶2内には熱重合性モノマーの液体が密封状態で収容されている。保温マット1は図3に示すように例えばポリエステル製で長方形状の2枚の軟質プラスチックシートを重ねて貼り合わせてなるシート部3を備えている。このシート部3の一方の面、例えばドラム缶2に巻いた際に内側に位置する内面3aには、図3(a)に示すようにその長手方向に沿ってチューブ挿入空間を形成する帯状シート部をなす複数(図3では6枚)の支持部4が所定間隔で互いに略平行に縫いつけられ ている。各支持部4は軟質プラスチックシートと同一材料からなり、両端が外部に開放された開口4a、4bを有している。
【0009】
そして、隣り合う二つの支持部4、4の一端側の各開口4a、4a間には係止部5aの両端が縫いつけられて配設されている。また各支持部4、…の他端の隣り合う二つの開口4b、4b間には上記係止部5aとずれた位置に同様に係止部5bの両端が縫いつけられて配設されている。また、両端の支持部4、4の開口4b、4b近傍には挿入孔6aと挿出孔6bとが穿孔されている。挿入孔6a,挿出孔6bの間に2つの係止部5b、5bが位置している。
しかも、このシート部3の内面3aには、内部に適宜温度、例えば40℃に加温された温水が流れるチューブ7が各支持部4、…と係止部5a、5bとに挿入されて配設されている。即ち、図示しない温水供給手段から温水が供給されるチューブ7は、シート部3の挿入孔6aを通して内面3a上に引き出され、一端開口4aから他端開口4bまで支持部4内に挿入されて係止部5aで略U字状に湾曲されて反転して隣の支持部4内に挿入され、一端開口4aから取り出して係止部5bを通して湾曲して反転して更に支持部4内に挿入される。このようにして,各支持部4を通して係止部5a、5bで順次逆方向に略U字状に湾曲させられ、最後に挿出孔6bを通すことで温水供給手段に戻し、チューブ7の循環路を構成する。
【0010】
また図3(b)において、シート部3の内面3aと反対側の外面3bには、挿入孔6a、挿出孔6bの間に適宜数(図3では3本)の係止ベルト9、…の一端が支持部4と略平行に縫いつけられており、各係止ベルト9の他端はシート部3の外側に突出している。そして、各係止ベルト9の内面9aと外面9bにはそれぞれ係合部材として例えば互いに係合離脱可能な面ファスナ10a、10bが設けられている。また、シート部3の外面3bにおいて各係止ベルト9と反対側端部にベルト止め11が設けられている。
そのため、図1に示すように保温マット1についてチューブ7を内側にしてドラム缶2に筒状に巻きつけた際、ドラム缶2の外径寸法が比較的小さい場合には、各係止ベルト9の内面9aに設けた面ファスナ10aが外面9bに設けた面ファスナ10bに面接触して係合させられる。また、ドラム缶2の外径寸法が比較的大きい場合には、ドラム缶2に筒状に巻きつけたシート部3の各係止ベルト9はベルト止め11で折り返されて面ファスナ10b、10b同士を係合させる(図2参照)。
そして、保温マット1のシート部3において複数の支持部4、…等で保持するチューブ7は内面3a側に突出して配設されることになる(図3(c)参照)。
【0011】
本実施の形態による保温マット1は上述の構成を備えており、次にドラム缶2の保温方法について説明する。
先ず、熱重合性モノマーを密封したドラム缶2は保温槽内に複数収容されて粘性の低い適宜温度に保持されており、その一部のドラム缶2を処理のために外部に取り出す。そして、熱重合性モノマー処理施設の片隅に処理待ちのためにドラム缶2を搬送、載置する際に、ドラム缶2の外周面に保温マット1を巻きつける。そして、保温マット1をドラム缶2に巻回した後、シート部3の一端部列されているために、ドラム缶2を通して内部の熱重合性モノマーが加温され、外気による温度低下を抑制して粘性が増大するのを防止すると共に、高温になりすぎて固化することも防止する。
このような保温マット1で巻かれたドラム缶2を、熱重合性モノマー処理施設の片隅に処理待ちのために待機させておくことで、固化や粘性増加を防いだ好適な粘性状態で熱重合性モノマーをドラム缶2から適宜取り出すことができる。
【0012】
上述のように本実施例によれば、外気温が低くても、保温マット1によってドラム缶2内に収容された熱重合性モノマーを次の処理に好適な粘性状態で保持・保管できる。しかも、この保温マット1によれば、据え置きの貯蔵施設等と相違して、ドラム缶2等の持ち運び可能な容器に保管した場合でも適切な温度に維持できる。
また、不使用時にはチューブ7をシート部3から取り外して保管すれば、保管スペースを小さくできる。
【0013】
次に本実施例について行なった試験例について図5に基づいて説明する。
容積2Lのドラム缶2内に融点12℃の98%アクリル酸モノマー溶液を40℃程度に保温する。
そのため、ドラム缶2の外周面に巻きつける保温マット1はフッ素樹脂コートされたポリエステルシート(商品名「帝人ハリケーンシルバー」)を2枚縫い合わせてシート部3を形成し、保温マット1の内面3aに取り付けるチューブ7に流す保温用温水の設定温度を41℃、温水通水量は4.5L/分とした。シート部3のポリエステルシートは表面がシルバーですべすべしていて熱が逃げにくい。
試験に際して、開始時点のドラム缶2の周辺の外気温21℃、チューブ7内の保温用温水温度41℃、ドラム缶2内の上部温度は40℃であった。約3日にわたって保温試験を行ない、その結果は表1に示す通りであった。表1の結果をグラフで示すと図5のようになった。測定時間をスタート時から経過時間にして0hr(時間)、26.5hr、51.5hrとして測定した。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、試験開始時から51.5時間経過時に、外気温22.5℃程度でドラム缶2内の上段の温度は40℃から29.5℃まで10.5℃低下した状態に留まった。
【0016】
なお、上述の実施例では、シート部3内は単に2枚のポリエステルシートを縫い合わせただけであるが、内部に空気等の断熱材を気密に密封してもよい。或いは外面3bに断熱材を取付けてもよい。これによって、ドラム缶2内の熱重合性モノマーとチューブ7内の温水の保温性が一層高まる。或いはシート部3は1枚のポリエステルシートまたはその他の材質のシートで構成してもよい。
また実施例ではチューブ7内に温度制御媒体として温水を流すようにしたが、温水に代えて他の流体やガス等の気体を流してもよい。
また実施例では温水マット1はドラム缶2の外周面のみに巻きつけるようにしたが、天面と下面も覆うようにしてもよい。保温マット1を巻きつける対象はドラム缶2に限らずポリ容器等でもよく、各種の容器を覆って保温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ドラム缶を保温マットで巻いた状態の斜視図である。
【図2】ドラム缶を保温マットで巻いた状態の平面図である。
【図3】保温マットの平面図を示すもので、(a)は内面、(b)は外面、(c)は(a)の中央断面図である。
【図4】ドラム缶の斜視図である。
【図5】試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0018】
1 保温マット
2 ドラム缶(容器)
3 シート部
4 支持部
7 チューブ
9 係止ベルト(係止部材)
11 ベルト止め(係止部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを収容する容器を囲って容器内の温度をコントロールする保温マットであって、
前記容器を取り外し可能に囲うシート部と、
該シート部に取付けられていて流動性のある温度制御媒体を内部に流動させるチューブと、
前記容器を囲った状態で前記保温用シートを係止させる係止部材とを備えてなることを特徴とする保温マット。
【請求項2】
前記温度制御媒体は温水である請求項1に記載の保温マット。
【請求項3】
前記チューブは支持部によって前記シート部に取付けられてなる請求項1または2に記載の保温マット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−9936(P2007−9936A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187894(P2005−187894)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】