説明

保温剤とその利用

【課題】ハイドロタルサイトの粒子の表面に緻密なシリカからなる被覆を有し、保温性と透明性と分散性と耐酸性にすぐれる保温剤の製造方法提供する。
【解決手段】本発明によれば、60〜100℃の範囲の温度にてハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、ハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被覆を形成させ、次いで、このスラリーを60〜100℃の範囲の温度で熟成し、得られたケーキを130〜300℃の範囲の温度で加熱して、表面にシリカからなる被覆を1〜50重量%の範囲で有するハイドロタルサイトの粒子を得る保温剤の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温剤とその利用に関し、詳しくは、ハイドロタルサイトの粒子の表面に緻密なシリカからなる被覆を有し、保温性と透明性と分散性と耐酸性にすぐれる保温剤とその製造とその利用に関する。更に、本発明は、そのような保温剤を含み、保温性と透明性と耐酸性にすぐれ、しかも、延伸時に白化が起こり難い農業フィルムに関する。また、本発明は、上記保温剤を含む農業フィルム製造用マスターバッチペレットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業用ハウスやトンネルハウス等を用いる温室栽培においては、主として、保温を目的として、合成樹脂からなる農業フィルムが広く用いられている。即ち、この農業フィルムには、昼間に太陽光線をハウスやトンネル内に高い透過率で透過させる一方、夜間には地面や植物から放出される赤外線を吸収や反射等によって、ハウスやトンネル外に放出させない特性、即ち、保温性が要求されている。
【0003】
これまで、この農業フィルムとしては、主として塩化ビニル樹脂フィルムが用いられている。塩化ビニル樹脂フィルムは、透明性や保温性にすぐれるのみならず、強靱でもあるが、他方において、可塑剤を含んでおり、この可塑剤がフィルムの表面にブリードして、表面が汚れやすく、経時的に透明性が低下し、また、低温での衝撃性に劣るところから、寒冷地では用い難いという問題があるほか、使用後の廃棄処理において焼却すれば、有害なハロゲン含有ガスを生成する。そこで、近年は、農業フィルムの分野においても、塩化ビニル樹脂フィルムからポリオレフィン樹脂フィルムへの代替が進められている。
【0004】
しかしながら、ポリオレフィン樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂フィルムに比較して、保温性が十分でないので、従来、ハイドロタルサイトのような無機粒子ほか、種々の保温剤をポリオレフィン樹脂フィルムに配合することが提案されているが、十分な保温性をもたせるには至っていない(例えば、特許文献1及び2参照)。また、ハイドロタルサイトは、本来、複合金属酸化物であるので、酸と反応しやすく、従って、ハイドロタルサイトを保温剤として含む農業フィルムは、例えば、酸性雨等によって濁りを生じるというように、耐酸性に劣る問題もある。
【0005】
更に、ポリオレフィン樹脂フィルムを農業フィルムとして用いる場合、そのための無機粒子からなる保温剤としては、ポリオレフィン樹脂への分散性にすぐれることは勿論、特に、ポリオレフィン樹脂フィルムの太陽光線の透過性を高めるため、ポリオレフィン樹脂の屈折率に近いことが好ましく、特に、1.49〜1.51の範囲にあることが好ましく、更に、地面や植物から放射される赤外線のエネルギー分布は、波長5〜30μmの範囲内にあるので、この範囲における赤外線吸収能力が高いことが求められる。
【0006】
そこで、従来、ハイドロタルサイトの結晶の層間に赤外線吸収能力のあるアニオンを導入して、保温性を高めることや(例えば、特許文献3参照)、また、ハイドロタルサイト粒子の表面にシリカからなる被覆を形成して、その保温性を高める試みもなされている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかし、従来より知られているこのようなハイドロタルサイトをポリオレフィン樹脂に配合しても、得られるフィルムは、依然として、保温性が十分でなく、その一層の改善が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−104141号公報
【特許文献2】特開2004−024185号公報
【特許文献3】特開2001−002408号公報
【特許文献4】特開2003−231778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の保温剤における上述した問題を解決するためになされたものであって、保温性と透明性と耐酸性にすぐれる保温剤、特に、農業フィルム用に好適な保温剤と、そのような保温剤の製造方法を提供することを目的とする。従って、本発明は更に延伸時に白化が起こり難い農業フィルム、特に、ポリオレフィン樹脂からなる農業フィルムを与える表面処理ハイドロタルサイトからなる農業フィルム用保温剤を提供することを目的とする。また、本発明は、上述したような農業フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、60〜100℃の範囲の温度にてハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、ハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被覆を形成させ、この後、このハイドロタルサイトのスラリーを100℃を越え、300℃以下の範囲の温度で水熱処理して得られる、表面にシリカからなる被覆を1〜50重量%の範囲で有するハイドロタルサイトからなる保温剤が提供される。以下、この保温剤を本発明による第1の保温剤という。
【0011】
また、本発明によれば、60〜100℃の範囲の温度にてハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、ハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被覆を形成させ、次いで、このスラリーを60〜100℃の範囲の温度で熟成し、得られたケーキを130〜300℃の範囲の温度で加熱して得られる、表面にシリカからなる被覆を1〜50重量%の範囲で有するハイドロタルサイトからなる保温剤が提供される。以下、この保温剤を本発明による第2の保温剤という。
【0012】
このような本発明による第1及び第2の保温剤は、いずれも農業フィルム用保温剤として好適である。そこで、本発明によれば、このような農業フィルム用保温剤を5〜80重量%の範囲で樹脂に含有させてなる農業フィルム製造用マスターバッチペレットが提供され、更に、本発明によれば、上記農業フィルム用保温剤を1〜30重量%の範囲で含有させてなる樹脂からなる農業フィルムが提供される。
【0013】
特に、本発明によれば、好ましい態様として、上記樹脂がポリオレフィン樹脂である農業フィルム製造用マスターバッチペレットと農業フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明による保温剤は、上述したように、スラリー中にてハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被覆を形成した後、このスラリーを100℃を越え、300℃以下の範囲の温度で水熱処理し、又はスラリー中にてハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被覆を形成した後、そのようなハイドロタルサイトを130〜300℃の範囲の温度で加熱することによって、ハイドロタルサイトの粒子の表面に緻密なシリカからなる被覆を形成してなるものであるので、保温性と透明性と分散性と耐酸性にすぐれ、従って、このような保温剤は、特に、農業フィルム用保温剤として好適に用いることができる。即ち、このような保温剤を含む農業フィルム、特に、ポリオレフィン樹脂フィルムからなる農業フィルムは、保温性と透明性と耐酸性にすぐれ、しかも、延伸時に白化が起こり難い。
【0015】
また、本発明による保温剤は、分散性にすぐれるので、樹脂中に保温剤が均一に分散されたマスターバッチペレットを得ることができ、従って、このようなマスターバッチペレットを用いることによって、保温剤が均一に分散された農業フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による保温剤は、表面に緻密なシリカからなる被覆を有するハイドロタルサイトの粒子からなる。既に知られているように、ハイドロタルサイトは不定比化合物であって、本発明においては、好ましくは、次の組成式
【0017】
2+1-x3+x(OH)2n-x/n・mH2O … (I)
【0018】
(式中、M2+はMg2+、Zn2+、Ca2+、Fe2+、Mn2+、Co2+、Ni2+及びCu2+から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンを示し、M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+及びCo3+から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンを示し、An-はSO42-、Cl-、CO32-、OH- 及びケイ素系酸素酸イオンから選ばれる少なくとも1種のn価のアニオンを示し、xは0<x<0.5を満足する数であり、mは0≦m<2を満足する数である。)
で表される。
【0019】
上記ケイ素系酸素酸イオンとしては、例えば、SiO32-、SiO44-、Si252-、Si276-、Si354-、Si4116- 等を挙げることができるが、これよに限定されるものではない。
【0020】
このようなハイドロタルサイトは、例えば、2価金属イオンがMg2+であり、3価金属イオンがAl3+であり、n価のアニオンがCO32- であるハイドロタルサイトは、水溶性マグネシウム塩と水溶性アルミニウム塩の混合水溶液と水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合水溶液とを水に同時に加えた後、200℃で水熱反応させることによって得ることができる。
【0021】
本発明による第1の保温剤は、60〜100℃の範囲の温度にて、このようなハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、好ましくは、pHを6〜9の範囲とし、次いで、このスラリーを100℃を越え、300℃以下の範囲の温度、好ましくは、105〜250℃の範囲の温度で水熱処理し、この後、常法に従って、冷却し、濾過し、水洗、乾燥し、粉砕することによって得ることができる。この保温剤は、その製造工程において、100℃を越え、300℃以下の範囲の温度での水熱処理を含む点が特徴である。
【0022】
また、本発明による第2の保温剤は、60〜100℃の範囲の温度にて、上述したようなハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、好ましくは、pHを6〜9の範囲とし、次いで、このスラリーを60〜100℃の範囲の温度で熟成した後、得られたケーキを130〜300℃の範囲の温度、好ましくは、135〜250℃の範囲の温度で加熱し、この後、常法に従って、冷却し、粉砕することによって得ることができる。この保温剤は、その製造工程において、表面に含水シリカからなる被覆を有するハイドロタルサイトを130〜300℃の温度での加熱(以下、この加熱を乾式加熱ということがある。)を含む点に特徴を有する。
【0023】
本発明によるこのような第1及び第2の保温剤の製造において、水溶性ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウムが好ましく用いられ、また、上記酸としては、例えば、硫酸が好ましく用いられる。このように、60〜100℃の範囲の温度において、ハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、pHを調節することによって、ハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカの被膜を均一に形成することができる。
【0024】
本発明によれば、第1の保温剤は、このように、表面に含水シリカからなる被膜を形成したハイドロタルサイトのスラリーを100℃を越え、300℃以下の範囲の温度で水熱処理することによって、ハイドロタルサイトの粒子の表面にいわば緻密なシリカからなる被覆を形成することができる。この水熱処理の後、常法に従って、スラリーを冷却し、濾過、水洗、乾燥し、粉砕することによって、本発明による第1の保温剤を得ることができる。
【0025】
本発明によれば、第2の保温剤は、このように、表面に含水シリカからなる被膜を形成したハイドロタルサイトのスラリーを60〜100℃の範囲の温度で熟成した後、濾過、水洗し、得られたケーキを130〜300℃の範囲の温度で乾式加熱することによって、ハイドロタルサイトの粒子の表面にいわば緻密なシリカからなる被覆を形成することができる。この後、常法に従って、冷却し、粉砕することによって、本発明による第2の保温剤を得ることができる。
【0026】
本発明によれば、ハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被膜を形成させるに際して、水溶性ケイ酸塩は、シリカ(SiO2)換算にて、ハイドロタルサイト100重量部に対して、通常、1〜50重量部の範囲で用いられ、かくして、第1の保温剤の場合には、前述した水熱処理によって、また、第2の保温剤の場合には、前述した乾式加熱によって、それぞれハイドロタルサイトの粒子の表面に緻密なシリカからなる被覆を1〜50重量%の範囲で有する本発明による保温剤を得ることができる。
【0027】
このように、本発明による保温剤は、第1及び第2のいずれの保温剤も、ハイドロタルサイトの粒子の表面に緻密なシリカからなる被覆を1〜50重量%、好ましくは、3〜30重量%の範囲で有することが必要である。表面に緻密なシリカからなる被覆を有するハイドロタルサイトからなる保温剤において、上記被覆が1重量%よりも少ないときは、緻密なシリカからなる被覆によっても、ハイドロタルサイトの保温性を十分に高めることができず、他方、上記被覆が50重量%を越えるときは、ハイドロタルサイトの粒子の保温性は、十分に高めることができるものの、例えば、このような保温剤を配合した樹脂からなる農業フィルムの透明性が低下するので好ましくない。
【0028】
本発明によれば、このように、表面にシリカ被覆を有するハイドロタルサイトからなる保温剤は、比表面積が5〜60m2/gの範囲にあり、好ましくは、10〜50m2/gの範囲にあり、走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察による平均一次粒子径が0.05〜0.5μmの範囲にあるのが好ましく、このような比表面積と平均一次粒子径を有するとき、ポリオレフィン樹脂への分散性にすぐれ、更に、液浸法による屈折率が1.50〜1.51の範囲にあるとき、このような保温剤を樹脂中に分散させることによって、ポリオレフィン樹脂からなる透明なフィルムを与える。
【0029】
従って、本発明による保温剤は、保温性と透明性と耐酸性にすぐれる農業フィルムを得るための保温剤として好適に用いることができる。即ち、本発明による保温剤は、前述したように、ハイドロタルサイトの粒子の表面に緻密なシリカからなる被覆を有し、保温性と透明性と分散性と耐酸性にすぐれるので、特に限定されることなく、種々の樹脂、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、生分解性ポリマー等を基材とする農業フィルム用保温剤として好適である。
【0030】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィンの単独重合体、これらα−オレフィン相互や他の単量体との共重合体、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の共重合体を挙げることができる。
【0031】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体のほか、塩化ビニルを主成分とし、これと共重合し得る単量体との共重合体、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル等のメタクル酸エステル類、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の1種又は2種以上との共重合体を挙げることができる。
【0032】
また、生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルや、これらの混合物を好ましい例として挙げることができる。生分解性ポリマーの例としては、上記以外にも、例えば、ポリビニルアルコール、ナイロン4、ナイロン2/ナイロン6共重合体等のポリアミド等を挙げることができる。従って、本発明によれば、上記脂肪族ポリエステルを含め、これらの種々の生分解性ポリマーの2種以上の混合物も用いられる。しかし、本発明において、生分解性ポリマーは上記例示に限定されるものではない。
【0033】
しかし、これらのなかでも、本発明による保温剤は、ポリオレフィン樹脂からなる農業フィルム用保温剤として好適である。このように、本発明による保温剤を含む樹脂、特に、ポリオレフィン樹脂からなる農業フィルムは、保温性と透明性と耐酸性にすぐれるのみならず、延伸時に白化が起こり難い。
【0034】
また、本発明による保温剤は、前述したように、樹脂への分散性にすぐれるので、樹脂中に保温剤が均一に分散されたマスターバッチペレットを容易に得ることができ、従って、このようなマスターバッチペレットを用いることによって、保温剤が均一に分散された農業フィルムを容易に製造することができる。
【0035】
本発明によれば、このようにして得られる保温剤は、ポリオレフィン樹脂を含む種々の樹脂への分散性を高めるために、必要に応じて、更に、表面処理剤にて表面処理されていてもよい。この表面処理剤は、好ましくは、高級脂肪酸、その金属塩、有機リン酸エステル、ワックス類、ロジン類、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、有機シラン化合物及びロジン類から選ばれる少なくとも1種である。即ち、これらの表面処理剤は、単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0036】
このような表面処理を行うには、上述した保温剤をスラリーとし、これに表面処理剤を加えて、湿式法にて処理してもよく、また、上述した保温剤をヘンシェルミキサー等、適宜の混合手段を用いて、乾式にて処理してもよい。このように表面処理した保温剤は、好ましくは、この表面処理の後、粉砕することが好ましい。
【0037】
上記表面処理剤のうち、例えば、高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸等を挙げることができ、また、その金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等を挙げることができる。ロジン類としては、天然ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等を挙げることができる。また、有機シラン化合物としては、例えば、デシルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。本発明において、このような表面処理剤による表面被覆量は、表面処理剤にもよるが、通常、保温剤において、0.1〜10重量%の範囲である。
【0038】
本発明による保温剤は、前述したように、限定されることなく、種々の樹脂からなる農業フィルム用保温剤として好適に用いることができ、特に、ポリオレフィン樹脂からなる農業フィルム用保温剤として好適に用いることができる。
【0039】
ここに、本発明による保温剤は、これを農業フィルム用として用いるとき、通常、保温剤を含む農業フィルム用マスターバッチペレットを製造し、このマスターバッチペレットを用いて、農業フィルムを製造することが好ましい。農業フィルム用マスターバッチペレットは、適宜の樹脂、例えば、ポリオレフィン樹脂と保温剤とをリボンブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機で混合した後、よく知られている単軸混練押出機や二軸混練押出機等を用いて、混練、成形した後、切断するか、又は、上記混合物をバンバリーミキサー、加圧ニーダー等で混練して得られた混練物を粉砕又は成形、切断することによって得ることができる。
【0040】
このような農業フィルム用マスターバッチペレットは、平均長径1〜6mm、平均短径は2〜5mmの範囲がその製造時の作業性や、さらには、これを用いる農業フィルムの製造時の効率等の観点から適当である。但し、その形状は特に限定されるものではなく、例えば、不定形又は球形等の粒状、円柱形、フレーク状等、いずれでもよい。
【0041】
本発明において、マスターバッチペレットを製造するために用いるバインダー樹脂とこのマスターバッチペレットの希釈に用いる希釈用樹脂を用いて好ましくは、ポリオレフィン樹脂からなる農業フィルムを製造するに際して、上記バインダー樹脂と上記希釈用樹脂は同じでもよく、異なっていてもよい。
【0042】
マスターバッチペレット中の保温剤の含有量は、通常、5〜80重量%の範囲であり、好ましくは、30〜70重量%の範囲である。マスターバッチペレット中の保温剤の含有量が5重量%よりも少ない場合には、混練時の溶融粘度が不足するので、樹脂中に保温剤を均一に分散させることが困難であり、他方、80重量%よりも多いときは、相対的に樹脂量が不十分であって、同様に、樹脂中に保温剤を均一に分散させることが困難である。
【0043】
本発明によれば、このようなマスターバッチペレットに前記希釈用樹脂を、例えば、リボンブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等で混合し、溶融混練し、次いで、インフレーション法、Tダイ法等の従来より知られている適宜の方法によって、厚み5〜300μm程度のフィルムに製膜して、本発明による農業フィルムを得ることができる。
【0044】
本発明において、上記バインダー樹脂及び希釈用樹脂として、前述したように、種々の樹脂が用いられ、特に、前述したようなポリオレフィン樹脂が好ましく用いられる。なかでも、得られる農業フィルムの透明性や耐候性、更には、実用性の点から価格を考慮すれば、通常、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体等が好ましく用いられる。
【0045】
本発明において、このような農業フィルムの製造に際しては、必要に応じて、従来より知られている滑剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防霧剤、熱安定剤、耐候剤等の種々の添加剤を適宜配合してもよく、また、種々の充填材を用いてもよい。更に、必要に応じて、従来より知られている他の保温剤、例えば、炭酸マグネシウム、マグネシウムケイ酸塩、シリカ、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、種々のリン酸塩やケイ酸塩等を併用してもよい。
【0046】
更に、本発明による農業フィルムは、構造的に単層フィルムでもよいが、必要に応じて、積層フィルムでもよい。一例として、例えば、保温剤を含有した酢酸ビニル樹脂フィルムを中間層とし、この中間層の両面にポリエチレン樹脂フィルムを積層した3層構造を有するフィルムを挙げることができる。
【0047】
本発明によれば、農業フィルム中の保温剤の含有量は、通常、1〜30重量%の範囲であり、好ましくは、1〜20重量%の範囲である。農業フィルム中の保温剤の含有量が1重量%よりも少ないときは、十分な保温性をもたず、他方、30重量%を越えるときは、農業フィルムの透明性が低下するので好ましくない。
【0048】
本発明による農業フィルムの厚みは、加工性を考慮すれば、5μm以上が好ましく、その上限は300μmであり、300μmを越える場合には、農業フィルムの透明性が低下することとなる。農業フィルムの加工性及び透明性を考慮すれば、好ましくは、10〜100μmの範囲である。更に、本発明による農業フィルムの透明性は、ヘイズ値にて10%以下が好ましく、特に、5%以下であることが好ましい。また、本発明による農業フィルムの保温性は、後述する評価方法に従って測定した保温性指数が、通常、50%以上であり、好ましい態様によれば、60%以上である。
【実施例】
【0049】
以下に参考例と共に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
参考例1
(ハイドロタルサイトのスラリーの調製)
水4Lを張った30L容量の反応器に攪拌下、水溶性マグネシウム塩と水溶性アルミニウム塩の混合水溶液(Mg2+=33.0g/L、Al3+=17.0g/L)8Lと水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液(水酸化ナトリウム=166.2g/L、炭酸ナトリウム=170g/L)8Lとを同時に加えた後、200℃で4時間水熱反応を行った。このようにして、Mg2+0.48Al3+0.32(OH)2(CO32-)0.16・0.54H2Oなる組成式を有するハイドロタルサイトのスラリーを得た。
【0051】
参考例2
(ハイドロタルサイトのスラリーの調製)
水4Lを張った30L容量の反応器に攪拌下、水溶性マグネシウム塩と水溶性アルミニウム塩の混合水溶液(Mg2+=33.0g/L、Al3+=17.0g/L)8Lと水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液(水酸化ナトリウム=166.2g/L、炭酸ナトリウム=170g/L)8Lとを同時に加えた後、120℃で4時間水熱反応を行った。このようにして、参考例1と同じ組成式を有するハイドロタルサイトのスラリーを得た。
【0052】
実施例1
(保温剤aの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを200℃で4時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤aを得た。
【0053】
実施例2
(保温剤bの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを120℃で4時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤bを得た。
【0054】
実施例3
(保温剤cの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを105℃で4時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤cを得た。
【0055】
実施例4
(保温剤dの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で200g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを180℃で2時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、ステアリン酸ナトリウム55gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤dを得た。
【0056】
実施例5
(保温剤eの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で50g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを180℃で4時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、ステアリン酸ナトリウム48gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤dを得た。
【0057】
実施例6
(保温剤fの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、攪拌下、温度を95℃に保ちながら、2時間熟成した。この後、スラリーを50℃まで冷却し、濾過、水洗し、得られたケーキを150℃で10時間加熱し、これを粉砕した後、ステアリン酸ナトリウム50gと共にヘンシェルミキサーに入れ、10分間粉砕混合して、保温剤fを得た。
【0058】
実施例7
(保温剤gの調製)
参考例2で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを200℃で4時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤gを得た。
【0059】
実施例8
(保温剤hの調製)
参考例2で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、このスラリーを105℃で4時間水熱処理した。この後、このスラリーを95℃まで冷却した後、このスラリーにステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を加え、95℃で1時間攪拌した。この後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤hを得た。
【0060】
比較例1
(保温剤iの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを95℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、攪拌下、温度を95℃に保ちながら、4時間熟成した(以下、この熟成を湿式加熱ということがある。)この後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤iを得た。
【0061】
比較例2
(保温剤jの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを85℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、攪拌下、温度を85℃に保ちながら、2時間熟成(湿式加熱)した。この後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、85℃で1時間攪拌した後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤jを得た。
【0062】
比較例3
(保温剤kの調製)
参考例2で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを85℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、攪拌下、温度を85℃に保ちながら、2時間熟成(湿式加熱)した。この後、ステアリン酸ナトリウム50gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、85℃で1時間攪拌した後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤kを得た。
【0063】
比較例4
(保温剤lの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを85℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、攪拌下、温度を95℃に保ちながら、2時間熟成(湿式加熱)した。この後、このスラリーを50℃まで冷却した後、濾過、水洗し、得られたケーキを120℃で12時間加熱し、これを粉砕した後、ステアリン酸ナトリウム50gと共にヘンシェルミキサーに入れ、10分間粉砕混合して、保温剤lを得た。
【0064】
比較例5
(保温剤mの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを濾過、水洗し、得られたケーキを再び水に懸濁して、濃度100g/Lのハイドロタルサイトのスラリーを得た。このスラリー10Lを85℃に加温し、攪拌下、これにケイ酸ナトリウムをSiO2 換算で100g加えた後、硫酸を2時間かけて加えて、スラリーのpHを8.5とした。更に、攪拌下、温度を85℃に保ちながら、2時間熟成(湿式加熱)した。この後、このスラリーを50℃まで冷却した後、濾過、水洗し、得られたケーキを100℃で24時間加熱し、これを粉砕した後、ステアリン酸ナトリウム50gと共にヘンシェルミキサーに入れ、10分間粉砕混合して、保温剤mを得た。
【0065】
比較例6
(保温剤nの調製)
参考例1で得たハイドロタルサイトのスラリーを95℃に加温し、攪拌下、ステアリン酸ナトリウム45.5gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤nを得た。
【0066】
比較例7
(保温剤oの調製)
参考例2で得たハイドロタルサイトのスラリーを95℃に加温し、攪拌下、ステアリン酸ナトリウム45.5gを95℃の熱水1Lに溶解させてなる熱水溶液を上記スラリーに加え、95℃で1時間攪拌した後、50℃まで冷却し、濾過、水洗し、100℃で24時間乾燥した後、粉砕して、保温剤oを得た。
【0067】
上記実施例1〜8及び比較例1〜5で得た緻密なシリカからなる被覆を表面に有するハイドロタルサイトからなる農業フィルム用保温剤のシリカ含有量、比表面積、走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察による平均一次粒子径及び液浸法による屈折率を表1示す。また、比較例6及び7で得た農業フィルム用保温剤の比表面積、走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察による平均一次粒子径及び液浸法による屈折率を併せて表1示す。
【0068】
ここで、ハイドロタルサイトの粒子の有するシリカ被覆の量は、蛍光X線分析装置を用いて測定し、比表面積はBET法により測定した。SEM観察による平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡写真撮影装置にて20000倍の倍率で5視野撮影し、それぞれの写真から粒子の平均一次粒子径を求め、これを平均して、SEM観察による平均一次粒子径とした。更に、屈折率は、屈折液の液浸法によって測定した。
【0069】
【表1】

【0070】
本発明による保温剤は、液浸法による屈折率が1.50〜1.51の範囲にあって、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン樹脂とほぼ同じである。即ち、本発明によれば、ハイドロタルサイトの粒子の表面上に緻密なシリカからなる被覆を形成することによって、屈折率をポリエチレンやポリプロピレン樹脂とほぼ同じ程度まで低減することができたものである。従って、このような保温剤をポリオレフィン樹脂に分散させることによって、後述するように、透明性の高い農業フィルムを得ることができる。
【0071】
これに対して、スラリー中、85℃又は95℃で表面に含水シリカからなる被膜を形成させ、この後、85℃又は95℃で熟成(湿式加熱)を行って得たハイドロタルサイト粒子からなる保温剤(保温剤i、j及びk)やスラリー中、85℃又は95℃で表面に含水シリカからなる被膜を形成させ、85℃又は95℃で熟成を行っ後、120℃又は100℃で乾式加熱してハイドロタルサイト粒子からなる保温剤(保温剤l及びm)は、液浸法による屈折率が1.52である。
【0072】
実施例9
(マスターバッチペレットの製造)
上記実施例1〜8及び比較例1〜7の保温剤を用いてマスターバッチペレットを製造した。ポリエチレン樹脂(MFR=24g/10分、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgfの条件下で求めた。以下、同じ。)35.9重量%、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート〕メタン、堺化学工業(株)製スタビエースPH−1010)0.05重量%、酸化防止剤トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(堺化学工業(株)製スタビエースPH−2400)0.05重量%及び保温剤65重量%を混合し、設定温度95℃のニーダー混練機で10分間溶融混練した後、得られた樹脂組成物をペレットに成形した。
【0073】
このペレットの一部を用いて、二軸ロールにて130℃でシート化し、ホットプレスにて130℃で2分間、50kgf/cm2 で加圧し、厚み約2.0mmのシートに成形した。このシートを用いて透明性の評価を行った。
【0074】
透明性は、ヘーズメーターNDH2000(日本電色工業(株)製)を用い、ヘーズ値を測定して、評価を行った。ヘーズ値は低い方が透明性がすぐれることを示す。また、上記シートを短冊状に裁断し、これに試験液として30重量%濃度の硫酸を用いて、JIS K 7114に準拠して耐酸性試験を行った。重量減少率にて耐酸性を示す。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
本発明による保温剤は、透明性が高いうえに、耐酸性にもすぐれることが示される。即ち、本発明によれば、ハイドロタルサイトの粒子の表面上に緻密なシリカからなる被覆を形成することによって、透明性を高めると共に、耐酸性をも改善したものである。
【0077】
これに対して、スラリー中、85℃又は95℃で表面に含水シリカからなる被膜を形成させ、この後、85℃又は95℃で熟成(湿式加熱)を行って得たハイドロタルサイト粒子からなる保温剤(保温剤i、j及びk)やスラリー中、85℃又は95℃で表面に含水シリカからなる被膜を形成させ、85℃又は95℃で熟成を行っ後、120℃又は100℃で乾式加熱して得たハイドロタルサイト粒子からなる保温剤(保温剤l及びm)は、透明性が低く、また、重量減少率からみた耐酸性も10重量%を越えている。特に、シリカ被覆を有しないハイドロタルサイトからなる保温剤は、耐酸性に著しく劣っている。
【0078】
実施例10
(フィルムの製造)
実施例9で製造したそれぞれのマスターバッチペレットを用いて、厚み50μmのフィルムを製造した。即ち、ポリエチレン樹脂(MFR=5g/10分)90重量%と上記実施例1〜8及び比較例1〜7の保温剤を用いたマスターバッチペレットそれぞれ10重量%を混合し、設定温度185℃の単軸Tダイ押出機により厚み50μmのフィルムを製造した。このとき、比較対照として、保温剤を含まないフィルムを製造した。これらのフィルムを用いて透明性の評価を行った。透明性は、ヘーズメーターNDH2000(日本電色工業(株)製)を用い、ヘーズ値を測定して、評価を行った。ヘーズ値は低い方が透明性がすぐれることを示す。
【0079】
また、上記フィルムを縦10cm、横3cmの短冊状に裁断し、オートグラフAG−500A((株)島津製作所製)を用いて引張り試験を行い、ヘーズ値を測定して、フィルムの延伸時の白化度を評価した。短冊状のフィルムは、フィルムの巻取方向(フィルムの流れ方向) を長辺として10cm、フィルムの巻取方向(フィルムの流れ方向) に対して垂直方向を短辺として3cmとした。このフィルムを上記オートグラフを用いて、チャック間距離3.0cm、引張り速度20cm/分、引張り距離4.5cm、保持時間1分の条件で長辺方向に2.5倍延伸した後、フィルムのヘーズ値を測定し、フィルムの引張り前後のヘーズ値の変化から延伸時の白化度を評価した。
【0080】
また、このフィルムを用いて赤外線吸収性能を評価した。フーリエ変換赤外分光光度計FTIR−4200((株)島津製作所製)を用いて、フィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、各フィルムのこの赤外吸収スペクトルに基づいて、特開2004−043692号公報に記載の方法に従って保温指数を求めた。即ち、得られたフィルムの赤外線吸収を2000〜400cm-1の範囲で20cm-1ごとに測定して、吸光率を求め、この吸光率に各波数に対応する15℃の黒体相対輻射エネルギーを乗じて黒体相対輻射エネルギー吸収率を計算した。各波数の黒体相対輻射エネルギー吸収率を積算し、その値を2000〜400cm-1の総黒体相対輻射エネルギーで除して保温指数とした。フィルムの保温効果は、この保温指数が高いほど高い。以上の結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
本発明による保温剤を含有するフィルムは引張り後も、ヘーズ値が15%よりも小さく、延伸によって白化し難いと共に、保温指数もほぼ50%以上であり、好ましい態様によれは、60%以上であって、保温性にすぐれることが示される。
【0083】
他方、スラリー中、85℃又は95℃で表面に含水シリカからなる被膜を形成させ、この後、85℃又は95℃で熟成(湿式加熱)を行って得たハイドロタルサイト粒子を保温剤(保温剤i、j及びk)として含むフィルムは、延伸によって容易に白化するうえに、保温指数も低い。また、スラリー中、85℃又は95℃で表面に含水シリカからなる被膜を形成させ、85℃又は95℃で熟成を行っ後、120℃又は100℃で乾式加熱して得たハイドロタルサイト粒子を保温剤(保温剤l及びm)として含むフィルムは、延伸によって容易に白化するうえに、保温指数も低い。ハイドロタルサイトの粒子にシリカ被覆を形成せず、ステアリン酸ナトリウムで表面処理のみして得た保温剤(n及びo)は、一層、保温性に劣る。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
60〜100℃の範囲の温度にてハイドロタルサイトの粒子のスラリーに水溶性ケイ酸塩を加えた後、酸を加えて、ハイドロタルサイトの粒子の表面に含水シリカからなる被覆を形成させ、次いで、このスラリーを60〜100℃の範囲の温度で熟成し、得られたケーキを130〜300℃の範囲の温度で加熱して、表面にシリカからなる被覆を1〜50重量%の範囲で有するハイドロタルサイトの粒子を得る保温剤の製造方法。
【請求項2】
表面を更に表面処理剤にて表面処理する請求項1記載の保温剤の製造方法。
【請求項3】
表面処理剤が高級脂肪酸、その金属塩、有機リン酸エステル、ロジン類、ワックス類、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤及び有機シラン化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の保温剤の製造方法。



【公開番号】特開2011−132123(P2011−132123A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291629(P2010−291629)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【分割の表示】特願2004−314183(P2004−314183)の分割
【原出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】