説明

保温繊維布帛

【課題】獣毛繊維が有する風合い、嵩高性および吸湿性を維持し、保温性に優れる保温繊維布帛を提供する。
【解決手段】本発明の保温繊維布帛は、酸化処理された獣毛繊維を含み、含金属染料で染色され、かつ赤外線吸収剤を含有しており、波長700nm以上900nm未満における反射率が30%以下でかつ波長900nm以上1100nm以下における反射率が40%以下であり、L*値が15以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維を含み、近赤外線領域の吸収の大きい保温繊維布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、冬用の繊維製品には、保温性を有するものが強く要望されており、該要望を満足させるために種々の天然繊維や合成繊維が使用されている。特に、天然繊維である獣毛繊維は独特の繊維構造によるクリンプ(捲縮)を有しているため、断熱による保温性と、嵩高性、吸湿性を併有し、風合いも良好であるため有用である。従って、獣毛繊維は快適性に優れた繊維であり、冬用の衣料素材に欠かせない存在である。
【0003】
こうした現状の中で、獣毛繊維に代わる保温繊維として、以前から保温性を有する天然繊維や合成繊維が多数検討されている。例えば、特許文献1には、ポリアミドやポリエステル等の熱可塑性合成繊維に遷移金属の炭化物粉末を練り込んだ太陽熱選択吸収性を有する保温繊維が開示されている。しかしながら、該保温繊維は、獣毛繊維の有する吸湿性を全く有しておらず、快適性に劣る傾向にあった。
【0004】
また、特許文献2および特許文献3には、獣毛繊維が優れた吸湿性を有することに着目した吸湿発熱性繊維が開示されている。該吸湿発熱繊維は、肌着等の汗などを吸湿しやすい衣料分野においては良好な保温性を有するが、スーツやユニフォーム等のアウター衣料分野では、保温性が不十分である場合があった。
【0005】
さらに、特許文献4および特許文献5には、防縮加工された獣毛繊維から布帛を形成し、該布帛を酸性媒染染料や含金属染料(金属錯化合物を有する染料)などで染色した獣毛繊維布帛が開示されている。しかしながら、これらは、獣毛繊維布帛の染色性や堅牢度の向上を目的としており、該目的は達成されているが、優れた保温性や吸湿性などの作用効果については不十分な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−132816号公報
【特許文献2】特開2003−293235号公報
【特許文献3】特開2005−256193号公報
【特許文献4】特開平3−287874号公報
【特許文献5】特公平1−29917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような従来技術の問題点を解消しようとするものであり、獣毛繊維の持つ風合い、優れた吸湿性、嵩高性および保温性を有する保温繊維布帛を提供することを目的とする。該保温繊維布帛を用いることにより、快適性に優れたスポーツ衣料、フォーマル衣料、ユニフォーム衣料などを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来公知の保温性を向上させる手段を獣毛繊維布帛に適用しても吸湿性、保温性とを両立させることが困難である原因を検討した。そして、該検討により、染料の種類および使用量が不適切であるという観点に基づいて、特定の染料を使用し、さらに赤外線吸収剤を使用したところ、吸湿性と保温性を高いレベルで両立することを見出した。
【0009】
さらに、本発明者らは、太陽光のうちの波長700〜1100nmの近赤外線領域においては熱エネルギー量が多く、この範囲の赤外線を効率よく吸収すれば、獣毛繊維分子の熱運動が顕著になることに着目し検討した。そして、含金属染料と赤外線吸収剤を含有させることによって、当該領域の近赤外線を効率よく吸収する獣毛繊維布帛が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、近赤外線を多く吸収するように獣毛繊維を仕上げるという技術思想を採用することにより、獣毛繊維の持つ風合いと高い吸湿性、嵩高性を維持しつつ、優れた保温性を発現しうる布帛が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)酸化処理された獣毛繊維を含み、含金属染料で染色され、かつ赤外線吸収剤を含有しており、波長700nm以上900nm未満における反射率が30%以下でかつ波長900nm以上1100nm以下における反射率が40%以下であり、L*値が15以下であることを特徴とする保温繊維布帛。
(2)赤外線吸収剤が含有された合成繊維が獣毛繊維と混紡されていることにより、布帛に赤外線吸収剤が含有されていることを特徴とする(1)の保温繊維布帛。
(3)赤外線吸収剤がバインダー樹脂によって獣毛繊維に付着されていることを特徴とする(1)の保温繊維布帛。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、近赤外線の吸収が高い優れた保温性を有し、同時に獣毛繊維の有する風合いと高い吸湿性、嵩高性を有する保温繊維布帛を提供することができる。該保温性布帛は、スポーツ衣料、フォーマル衣料、ユニフォーム衣料などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた保温性布帛と比較例1で得られた布帛を用いて縫製されたスーツを屋外(気温18℃)で着用したときのスーツ裏面温度測定結果である。
【図2】実施例1で得られた保温性布帛と比較例1で得られた布帛を用いて縫製されたスーツを屋外(気温18℃)で着用したときのカッターシャツ表面温度測定結果である。
【図3】実施例2で得られた保温性布帛と比較例1で得られた布帛を用いて縫製されたスーツを屋外(気温18℃)で着用したときのスーツ裏面温度測定結果である。
【図4】実施例2で得られた保温性布帛と比較例1で得られた布帛を用いて縫製されたスーツを屋外(気温18℃)で着用したときのカッターシャツ表面温度測定結果である。
【図5】実施例3で得られた保温性布帛と比較例2で得られた布帛を用いて縫製されたスーツを屋外(気温18℃)で着用したときのスーツ裏面温度測定結果である。
【図6】実施例3で得られた保温性布帛と比較例2で得られた布帛を用いて縫製されたスーツを屋外(気温18℃)で着用したときのカッターシャツ表面温度測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の保温繊維布帛は、酸化処理された獣毛繊維を含み、含金属染料で染色され、かつ赤外線吸収剤を含有したものである。
【0015】
本発明において、酸化処理された獣毛繊維とは、羊、らくだ、山羊、ラマ、アルパカ、うさぎなどの動物から採取される天然ケラチン質繊維から、繊維表面に存在する鱗片層であるスケールを一部あるいは全部を除去した繊維を意味する。
【0016】
通常、獣毛繊維はポリペプチド鎖状分子からなるため親水性を示す。しかしながら、獣毛繊維の表面は固い鱗片状組織をもつ毛小皮で覆われており、その最外層として疎水性のエピクチクル(上小皮)と呼ばれる層が形成されている。該エピクチクルにより染色性が阻害されるため、獣毛繊維表面はぬれ性が悪いという傾向にあるが、酸化処理すればぬれ性が向上し染色性が改善することが知られている。しかしながら、酸化処理を施す場合において、酸化が進みすぎれば強力が弱くなり、さらには、染料の吸着速度が大きくなり均染性が低下する場合がある。
【0017】
本発明においては、獣毛繊維の酸化状態を確認することが重要である。酸化処理を施すことにより、獣毛繊維が酸化されシスチン結合(−S−S−結合)が切断され、スルホン酸基(−SOH基)を生成するため、獣毛繊維表面がアニオン性となる。したがって、塩基性染料での染色が可能になる。
【0018】
酸化状態の確認は、例えば、以下のようにして行われる。まず、酸化処理した獣毛繊維をC.I.Basic Blue 129などの塩基性染料の1g/L水溶液に、浴比1:100、温度20℃で5分間浸漬処理する。該酸化処理された獣毛繊維について、後述のJIS Z 8722に準拠した刺激値直読法により、L*値を測定する。該L*値が18〜30であれば、含金属染料の染着が良好であり、強度、伸度、風合いの良好な獣毛繊維であるため、好ましい酸化状態であると判断される。なお、ここで、塩基性染料であるC.I.Basic Blue 129とは、具体的には、保土谷化学工業社製 商品名「Aizen Cathilon Blue CD−F2RLH」などが挙げられる。
【0019】
獣毛繊維を酸化処理する方法としては、バッチ式あるいは連続式が挙げられる。酸化処理する際の獣毛繊維の形態は特に限定されず、トップ、糸、織物、編物等の形態で行うことができる。ここで用いられる酸化剤としては、特に限定されず、次亜塩素酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸等の塩素系酸化剤;オゾン、過酸化水素、過硫酸水素カリウム、過硫酸カリウム、過酢酸、過蟻酸等の酸素系酸化剤などが挙げられる。なかでも、コストの観点から、塩素系酸化剤が好ましい。なお、酸化処理条件は特に限定されず、公知慣用の方法で行うことができる。
【0020】
本発明における保温繊維布帛とは、主たる構成繊維として獣毛繊維が用いられた織物又は編物を指す。保温繊維布帛中における獣毛繊維の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。ここで、獣毛繊維の含有量が50質量%未満であると、布帛の嵩高性が低減し、風合いや吸湿性が損なわれるため好ましくない。
【0021】
本発明の保温繊維布帛中に含まれる獣毛繊維以外の繊維としては、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリ乳酸系繊維、アクリル系繊維、ナイロン系繊維、ポリウレタンなどの合成繊維;絹、綿、麻、竹などの天然繊維;ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、銅アンモニアレーヨンなどの再生繊維;アセテートなどの半合成繊維などが挙げられる。
【0022】
本発明の保温繊維布帛は、含金属染料によって染色されていることが必須である。含金属染料を用いることにより、近赤外線吸収による保温性という効果が得られる。
含金属染料には、スルホン酸基を有する染料1分子に対して、クロム原子やコバルト原子1個で錯塩となっている(すなわち、金属と染料が1:1の比率で錯塩を形している)1:1型金属錯塩酸性染料がある。1:1型金属錯塩酸性染料としては、例えば、クラリアントジャパン社製 商品名「NEOLAN Yellow GR 175%」「NEOLAN Yellow RE 250%」、「NEOLAN Red GRE 200%」、「NEOLAN Bordeaux RM 200%」、「NEOLAN Blue 3R 200%」、「NEOLAN Blue 2G 250%」、「NEOLAN Black WA 200%」、DYSTAR Japan社製 商品名「PALATIN Yellow GR」、「PALATIN Red GRE」、「PALATIN Blue GG」、「PALATIN Navy Blue 2RLB」、「PALATIN Navy Blue RN」、「PALATIN Black WAN 01」等を挙げることができる。なかでも、近赤外線吸収による保温性の観点から、「NEOLAN Black WA 200%」、「PALATIN Black WAN 01」の黒色染料が好ましい。
【0023】
また、含金属染料は、スルホン酸基を有する染料2分子に対して、クロム原子やコバルト原子1個で錯塩となっている(すなわち、金属と染料が2:1の比率で錯塩を形している)1:2型金属錯塩酸性染料であってもよい。1:2型金属錯塩酸性染料としては、例えば、クラリアントジャパン社製 商品名「IRGALAN Yellow GL 220%」、「IRGALAN Yellow GRL 220%」、「IRGALAN Bordeaux EL 200%」、「IRGALAN Blue 3GL 200%」、「IRGALAN Navy B−01 50%」、「IRGALAN Black BGL 200%」、「IRGALAN Black RBIN」、DYSTAR Japan社製 商品名「Isolan Yellow GRL」、「Isolan Yellow K−PRL 200%」、「Isolan Bordeaux R 200% 02」、「Isolan Brown K−3GLS、Isolan Blue 3GL」、「Isolan Black 3RL」、「Isolan Black S−BGL」、日本化薬社製 商品名「Kayakalan Yellow GL 143」、「Kayakalan Red BL」、「Kayakalan Bordeaux BL」、「Kayakalan Grey BL 167」、「Kayakalan Black 2RL」、「Kayakalan Black BGL」等を挙げることができる。なかでも、近赤外線吸収による保温性の観点から、「IRGALAN Black BGL 200%」、「IRGALAN Black RBIN」、「Isolan Black 3RL」、「Isolan Black S−BGL」、「Kayakalan Black 2RL」、「Kayakalan Black BGL」の黒色染料が好ましい。
【0024】
さらにまた、含金属染料は、酸性媒染染料であってもよい。酸性媒染染料とは、クロム、コバルト、アルミニウム等の金属塩を用いて、獣毛繊維と染料を金属で配位結合させるものである。酸性媒染染料は、例えば、山田化学工業社製 商品名「Chrome Yellow 3R」、「Chrome Red 5G」、「Chrome Bordeaux FB」、「Chrome Navy 3RM」、「Chrome Navy PL conc」、「Chrome Black 5G」、「Chrome Black WEF」、「Chrome Black ETS」、田岡化学工業社製 商品名「Sunchromine Yellow MD 120%」、「Sunchromine Red G conc」、「Sunchromine Fast Blue AB」、「Sunchromine Black PR」、「Sunchromine Black ET(A) conc」、「Sunchromine Black P2B」等が挙げられる。なかでも、近赤外線吸収による保温性の観点から、「Chrome Black 5G」「Chrome Black WEF」、「Chrome Black ETS」、「Sunchromine Black PR」、「Sunchromine Black ET(A) conc」、「Sunchromine Black P2B」の黒色染料が好ましい。
なお、上記の含金属染料は、後述のようにL*値が15以下となるように、適宜組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明の保温繊維布帛は含金属染料で染色されたものであるが、その含金属染料の含有割合は、獣毛繊維に対して5.0〜12.0質量%であることが好ましい。含金属染料の含有割合が5.0質量%未満であると、近赤外線反射率を所定の範囲に制御できず、また、12.0質量%を超えると、染色堅牢度が低下し、さらにコストが高くなるため好ましくない。
【0026】
本発明に用いられる赤外線吸収剤は、波長が700nm以上の長波長領域の赤外線を吸収するものである。特に、700〜2000nmの近赤外線を吸収するものが好ましい。例えば、カーボンブラック、炭化ジルコニウム等の炭化物;フタロシアニン、アンスラキノン等の有機色素を挙げることができる。なかでも、合成繊維への練り込みが容易である観点から、カーボンブラック、炭化ジルコニウムが好ましい。
【0027】
本発明の保温繊維布帛は、波長700nm以上900nm未満における反射率が30%以下であり、かつ波長900nm以上1100nm以下における反射率が40%以下であることが必要である。ここで、波長700nm以上900nm未満における反射率が30%を超え、かつ波長900nm以上1100nm以下における反射率が40%を超えると、保温性に劣るものとなる。本発明において、反射率とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色法で測定したものをいい、その数値が小さいほど、光の吸収が大きいことを示す。
【0028】
赤外線吸収剤の含有割合は、保温繊維布帛に対して0.1〜0.5質量%であることが好ましい。赤外線吸収剤の含有割合が0.1質量%未満であると、近赤外線反射率を所定の範囲に制御できず、また、0.5質量%を超えると、染色堅牢度が低下し、さらにコストが高くなるため好ましくない。
【0029】
本発明の保温繊維布帛の色相は、L*値が15以下の、黒色系、紺色系などの暗い色相であることが必要である。L*値は色濃度を表す指標であり、数値が小さいほど色が濃いことを意味する。L*値が15以下であることで近赤外線領域における本発明の反射率を達成することができる。L*値が15を超えると、近赤外線反射率が所定の範囲にならないため、保温性効果を達成することができない。
【0030】
本発明において、L*値は、JIS Z 8722に準拠した刺激値直読法で測定する。すなわち、光電色彩計や刺激値直読型色彩計などを使用して、人間の目に対応する分光感度とほぼ同一の感度を有する3つのセンサーで、いわゆる三刺激値と称されるX、Y、Zを測定し、換算するものである。具体的には、倉敷紡績社製 商品名「COLOR−7S」を使用して三刺激値を測定し、換算して求めることができる。
【0031】
本発明の保温繊維布帛の用途としては、スポーツ衣料、フォーマル衣料、ユニフォーム衣料のアウター衣料が好適であり、当該布帛の色彩が黒色や紺色などを基調とし濃く深みのあるものであることから、特に冬用フォーマル衣料が好適である。本発明において、フォーマル衣料とは、改まった装いのものを言い、具体的には、スーツ、礼服、喪服、ドレス、ジャケット、パンツ、スカート、ワンピース、学生服などが挙げられる。
【0032】
以下に、本発明の保温繊維布帛を得るための方法について説明する。
本発明の保温繊維布帛を得るための第一の方法として、前記含金属染料で染色された獣毛繊維と赤外線吸収剤を含有した合成繊維とを混紡し紡績糸としてから製織編する方法が挙げられる。また、本発明の保温繊維布帛を得るための第二の方法として、獣毛紡績糸を用いて製織編した後に、前記の含金属染料で染色し、赤外線吸収剤を付与する方法が挙げられる。なお、本発明においては、酸化処理を染色の前に実施することが好ましい。
【0033】
保温繊維布帛を得るための第一の方法を以下に詳述する。まず、獣毛繊維を洗毛した後、洗毛された獣毛繊維を開毛、カード、コーマの工程に付して、直径が約25mmのスライバー状のトップを作成する。次いで、トップ染色機にて該トップに酸化処理を施す。その後、同一のトップ染色機内で、前記含金属染料の含有割合が獣毛繊維に対して、例えば5.0〜12.0質量%となるように染色条件を適宜選定し染色を行う。
【0034】
次に、染色された獣毛繊維トップと、赤外線吸収剤を含有させた繊維スライバーを、ミキシングギル(調合機)で、赤外線吸収剤の含有割合が例えば、繊維布帛に対し0.1〜0.5質量%となるように混合する。ここで、赤外線吸収剤を含有させた繊維とは、ポリエステル系繊維、ナイロン系繊維等の合成繊維に、カーボンブラックや炭化ジルコニウム等の赤外線吸収剤が練り込まれた繊維を言う。
【0035】
そして、上記獣毛繊維トップと上記繊維スライバーの混合物を、公知の方法で紡績糸としてから製織編し、整理仕上げ工程を経て表面の油剤などを落とすことで、本発明の保温繊維布帛を得ることができる。
【0036】
第二の方法は、公知の紡績法などにより得られた獣毛紡績糸を製織編した後に、前記含金属染料を用いて染色する方法である。この際に、酸化処理は紡績糸とする前のトップ状態で、トップ染色機にて行うことができる。または、酸化処理は、製織編の後、かつ公知の染色機を使用して染色を施す前に、獣毛繊維に施してもよい。
【0037】
その後、獣毛繊維を製織編して布帛を形成し、染色機を用いて、前記含金属染料で布帛を染色する。染色機は、特に限定されず、ウインス染色機、パドル染色機、液流染色機、ジッガー染色機、ロータリー染色機などが挙げられる。
【0038】
次いで、染色された布帛を仕上げ整理工程に付した後、赤外線吸収剤とバインダー樹脂を配合した樹脂液を調整し、該樹脂液を染色された布帛にパディング法により付与する。その後、得られた布帛を温度80〜130℃で乾燥させ、次いで、温度110〜180℃にて0.5〜5分間熱処理を行い、本発明の保温繊維布帛を得る。
【0039】
なお、バインダー樹脂は、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の、皮膜を形成し得る樹脂である。バインダー樹脂の含有量は、赤外線吸収剤質量に対して1〜5倍の範囲が好ましい。
【0040】
上記第一の方法および第二の方法において、染色温度は80〜100℃、染色時間は60〜120分、染浴のpHは4〜7、浴比は1:5〜1:50であることが好ましい。なお、使用染料に応じて、緩衝剤、均染剤などの助剤を使用してもよい。
【0041】
本発明においては、より濃く深みのある色彩を保温繊維布帛に発現させるために、シリコン系樹脂又はフッ素系樹脂などを付与してもよい。シリコン系樹脂としては、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、エポキシ変性ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0042】
シリコン系樹脂は、市販品も用いることができ、例えば、山宗実業社製 商品名「ファンダーオイルWW」、コタニ化学工業社製 商品名「ラスターCT−125」などが挙げられる。
【0043】
フッ素系樹脂は、市販品を用いることができ、例えば、日成化成社製 商品名「ニチテックスF−400」、日華化学社製 商品名「NKガードFG−270」、明成化学社製 商品名「アサヒガードAG−310」などが挙げられる。フッ素系樹脂は、保温繊維布帛に撥水性を付与する作用も有する。
【0044】
シリコン系樹脂やフッ素系樹脂を付与する方法は、特に限定されないが、パディング法で付与し、その後、乾燥、熱処理工程に付することが好ましい。なお、第二の方法においては、赤外線吸収剤とバインダー樹脂を配合した樹脂液を染色された布帛に付与する際に、該樹脂液にシリコン系樹脂やフッ素系樹脂を混合し、同時に付与してもよい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例および比較例における評価は、以下の方法によるものとする。
1、L*値
倉敷紡績社製、商品名「COLOR−7S」を使用し、JIS Z 8722による刺激値直読法に準拠して、X、Y、Zの三刺激値を測定し換算した。
【0046】
2、反射率
JIS Z 8722による分光測色法に準拠し、反射率の測定を行った。
3、保温性評価
測定環境は、時・気象要素(以下、時・気象要素に関する用語は、気象庁が発表している2006年8月現在の予報用語に準拠する)が、冬(12月〜2月までの期間)、試験時刻が昼ごろ(正午の前後それぞれ1時間をあわせた2時間)、風の強さが静穏(風速0.3m/秒未満)、天気が晴れで照度100,000ルクス、気温が18℃の屋外とした。
比較例で得られた布帛を左半分に、本発明の保温繊維布帛を右半分に用いて縫製されたスーツの上着を用意した。次にパネラーにカッターシャツを着用させ、温度センサーをカッターシャツの背中の左右肩甲骨下部にそれぞれ取り付けた。続いて、上記スーツ上着の裏において、左右肩甲骨下部に温度センサーをそれぞれ取り付けた後、パネラーにスーツ上着を着用させ、上記測定環境条件の屋外において、パネラーが10分間椅子に腰掛けた安静状態で各温度を測定した。カッターシャツの温度とスーツ上着の裏側の温度を経時的に測定し、左半分部分と右半分部分との温度の相対比較により保温性を評価した。
【0047】
(実施例1)
羊毛を梳毛工程に付して羊毛トップを得た。次いで、次亜塩素酸ソーダと硫酸とを反応させて有効塩素量が羊毛質量に対して2.5質量%となるように次亜塩素酸を生成させた。該次亜塩素酸を用いて、前記羊毛トップに連続式により酸化処理を施した。続いて、トップ染色機(日阪製作所社製)を使用して、後述の処方1に示す組成の染浴にて、浴比を1:15に設定して、温度100℃にて30分間染色した。そして、染浴を70℃まで冷却させ、羊毛トップの質量に対して蟻酸(濃度85%)を3.0質量%添加した後、再び100℃に昇温し、さらに30分間染色した。さらに、染浴を90℃に冷却して、トップ質量に対して重クロム酸カリウムを2.0質量%添加した後、再び100℃にて昇温して30分間染色し、その後、冷却、排水、水洗して染色を完了させた。
【0048】
次いで、染色された羊毛トップと、カーボンブラックが2質量%練り込まれたポリエステル繊維スライバー(ユニチカ社製、商品名「ユニチカエステル」)(2.2デシテックス、繊維長:80mm)を調合機ミキシングギル(OMM社製)で混合して、ポリエステル繊維が10質量%混合された羊毛を含む混紡繊維を得た。
【0049】
羊毛を含む混紡繊維を紡績に付し、60番手(メートル番手)の羊毛紡績糸とした後、平組織に製織した。その後、表面を整理仕上げし、目付250g/mの保温繊維布帛を得た。
【0050】
<処方1>
クロム染料[田岡化学工業社製、商品名「Sunchromine Black P2B」] 6.0質量%
pH調整剤 蟻酸(濃度85%) 1.5質量%
均染剤 [ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、商品名「Albegal SET」] 0.8質量%
なお、処方1においては、pHを4.5〜5に調整した。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様に酸化処理を施された羊毛トップを、トップ染色機を用いて、下記処方2に示す組成の染浴にて、浴比を1:15に設定して、100℃で60分間染色した。次いで、染色された羊毛トップと、炭化ジルコニウムが2質量%練り込まれたポリエステル繊維スライバー(ユニチカ社製、商品名「サーモトロン」、2.2デシテックス、繊維長:80mm)を調合機ミキシングギルで混合して、ポリエステル繊維が10質量%混合された羊毛繊維とし、実施例1と同様に紡績工程に付し、紡績を行い、太さ60番手の羊毛紡績糸とした後、平組織に製織した。その後、表面を整理仕上げし、目付250g/mの保温繊維布帛を得た。
【0052】
<処方2>
1:2型金属錯塩酸性染料[DYATAR Japan社製、商品名「Isolan Black S−BGL」] 5.0質量%
pH調整剤 無水硫酸ナトリウム 2g/l
均染剤 [ランクセス社製、商品名「Avolan UL−75」] 1.0質量%
なお、処方2においては、酢酸を用いて、pHを4.5〜5に調整した。
【0053】
(実施例3)
太さ60番手の羊毛紡績糸(ユニチカテキスタイル社製、商品名「ユニチカウール」)を平織することにより布帛を作製した。該布帛をジクロロイソシアヌル酸2.0質量%含有する酸化剤水溶液にて、浴比を1:15に設定して20℃で10分間酸化処理した後、酢酸(濃度80%)を布帛に対して2.0質量%添加し、さらに20℃で30分間酸化処理した。さらに硫酸(濃度98%)を布帛に対して1.6質量%添加し、30℃に昇温してさらに10分間酸化処理し、その後水洗した。そして、亜硫酸ナトリウムを3.0質量%含有する中和剤水溶液にて、浴比を1:15に設定して20℃で10分間中和処理した後、35℃に昇温してさらに20分間中和処理し、水洗し、酸化処理を完了した。
【0054】
続いて、液流染色機(日阪製作所社製、商品名「サーキュラー」)を使用して、下記処方3に示す組成の染浴にて、浴比を1:15に設定して100℃で60分間染色し、水洗し、乾燥して、染色された布帛を得た。
【0055】
最後に下記処方4の混合水溶液に、上記染色された布帛を絞り率80%で含浸し、110℃で3分間乾燥し、160℃で1分間熱処理した。その後、表面を整理仕上げし、目付250g/mの保温繊維布帛を得た。
【0056】
<処方3>
1:2型金属錯塩酸性染料[日本化薬社製、商品名「Kayakalan Black 2RL」] 5.0質量%
pH調整剤 硫酸アンモニウム 5.0質量%
なお、処方3においては、pHを6〜7に調整した。
【0057】
<処方4>
アントラキノン系赤外線吸収剤[日本化薬社製、商品名「KP DEEPER NR」 5g/L
アクリル系バインダー[北広ケミカル社製、商品名「ライトエポックAX−30」] 20g/L
【0058】
(比較例1)
実施例1において、羊毛トップに酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で染色された布帛を得た。
【0059】
(比較例2)
紡績糸を平織して布帛を得、該布帛に酸化処理を施すまでの工程を実施例3と同一の方法で行った。その後、液流染色機を使用して、下記処方5に示す組成の染浴にて、浴比を1:15に設定して100℃で60分間染色した。そして、水洗後、pH8.5に調整したアンモニア水溶液を用いて、浴比1:15にて80℃で20分間中和処理を行い、水洗、アンモニア除去、水洗、乾燥、整理仕上げをこの順序で行い、染色された布帛を得た。
【0060】
<処方5>
酸性染料[DYSTAR Japan社製、商品名「Telon Black M−VLG」] 6.0質量%
pH調整剤 硫酸アンモニウム 4.0質量%
【0061】
実施例および比較例で得られた布帛について、それぞれL*値と反射率を測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
また、実施例1と比較例1、実施例2と比較例1、実施例3と比較例2の組み合わせで、着用試験による保温性評価用のスーツを縫製し、保温性を測定し、その結果を図1〜6に示す。
【0063】
【表1】

図1〜図6、表1から明らかなように、本発明の保温繊維布帛(実施例1〜3)は、酸化処理が施された獣毛繊維を含み、含金属染料で染色され、かつ赤外線吸収剤を含有しており、波長700nm以上900nm未満における反射率が30%以下でかつ波長900nm以上1100nm以下における反射率が40%以下であり、L*値が15以下であるため、優れた保温性を有するものである。また、本発明の何れの保温性布帛も羊毛繊維を含むため、ソフトな風合いと嵩高性、吸湿性に優れるものである。
【0064】
これに対して、比較例1では、羊毛トップに酸化処理を行わなかったため、温度上昇が小さく、保温性に劣るものであった。
比較例2は、含金属染料ではない染料で染色し、赤外線吸収剤を全く含有していないものであったため、温度上昇が小さく、保温性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理された獣毛繊維を含み、含金属染料で染色され、かつ赤外線吸収剤を含有しており、波長700nm以上900nm未満における反射率が30%以下でかつ波長900
nm以上1100nm以下における反射率が40%以下であり、L*値が15以下であることを特徴とする保温繊維布帛。
【請求項2】
赤外線吸収剤が含有された合成繊維が獣毛繊維と混紡されていることにより、布帛に赤外線吸収剤が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の保温繊維布帛。
【請求項3】
赤外線吸収剤がバインダー樹脂によって獣毛繊維に付着されていることを特徴とする請求項1に記載の保温繊維布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−63912(P2011−63912A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216305(P2009−216305)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】