説明

保湿不織布とその製造方法

【課題】従来のティシュペーパー、タオルペーパー、保湿ティシュあるいはウェットティシュが有する問題点を解消し、肌触りや拭き取り性などの使用感に優れた保湿性不織布を提供する。
【解決手段】繊維長20〜100mmの繊維を10%以上含む不織布と、前記不織布に担持された保湿成分とを備える保湿不織布である。繊維長20〜100mmの繊維からなる繊維ウェブと、繊維長20mm未満のパルプから湿式法で得られたパルプシートとを重ねる工程(a)と、前工程(a)で重ねた繊維ウェブとパルプシートとを、水流交絡処理によって複合一体化して不織布を得る工程(b)と、前工程(b)で得られた不織布に保湿成分を含む保湿液を塗工して、不織布に保湿成分を担持させる工程(c)とを含む方法で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿不織布に関し、詳しくは、介護用途、化粧用途などに利用され、保湿成分を担持させることで保湿性を付与した不織布と、このような保湿不織布を製造する方法とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
介護用の清拭や、鼻かみ、化粧料の拭き取り用途などに、ティシュペーパーやタオルペーパーなどがある。また、ティシュペーパーに、グリセリンなどの保湿成分を担持させたものが知られている。一般に保湿ティシュと呼ばれており、水分が紙に柔軟性を与えて使用感を向上させる。
保湿ティシュとは別に、不織布に水などを染み込ませた濡れティシュあるいはウェットティシュと呼ばれる製品も知られている。通常、保湿ティシュよりも大量の水分を含んでいる。
例えば、特許文献1には、パルプ紙や不織布からなる繊維ウェブに、糖アルコールや保湿成分を含有させて、肌触り性や保湿効果を向上させる技術が示されている。ドライタイプおよび保湿タイプのティシュペーパー、ウェットティシュなどに有用であるとされている。
【特許文献1】特開2003−20593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のティシュペーパー、タオルペーパー、保湿ティシュあるいはウェットティシュには、いくつかの問題がある。
ウェットティシュの場合、密封包装した状態で保管しておかないと、保持した水分が直ぐに蒸発し、乾燥して硬くゴワゴワした感触になってしまう。大量の水分を保持させておくので、肌に触れたときに過度に冷たい感触を与えたり、不快な濡れ感を与えたりする。大量の水に加えて防腐剤を配合しておかないと長期間の保存ができない。防腐剤を含むことで、肌に薬品かぶれを生じる心配がある。
保湿ティシュの場合は、保湿成分が水分を吸収保持しているので、密封しておかなくても水分蒸発で乾燥することはない。防腐剤がなくてもよい。肌に過剰な冷たさや濡れ感を与えることもない。しかし、従来の保湿ティシュは、保水量が少ないとともに、保湿ティシュで肌を拭いても肌への保湿成分の供給があまり行なわれず、肌の保湿感が十分に改善されない。また、強度的に弱いので、拭き取り作業などに使用すると破れたり裂けたりし易く、使用し難い。
【0004】
また、従来のティシュペーパーやタオルペーパーは、肌触りが硬く、拭き取り性や使用感が劣っていた。
本発明の課題は、従来の保湿ティシュやウェットティシュが有する問題点を解消し、肌触りや拭き取り性などの使用感に優れた保湿不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる保湿不織布は、繊維長20〜100mmの繊維を10%以上含む不織布と、前記不織布に担持された保湿成分とを備える。
具体的な構成について説明する。
〔繊維〕
不織布を製造するのに利用されている各種の繊維材料を単独あるいは組み合わせて使用できる。
繊維材料として、セルロース繊維、レーヨン繊維、合成繊維、半合成繊維などが挙げられる。
【0006】
<セルロース繊維>
繊維として、親水性のセルロース繊維を使用すれば、触感や保水性を良好にできる。
セルロース繊維として、天然セルロース繊維が使用できる。天然セルロース繊維を用いることで、不織布の吸水性・保水性を高めることができる。天然セルロースとしては、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、コットンリンター、靭皮繊維などが挙げられる。木材パルプとしては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプが挙げられ、非木材パルプとしては、竹、わら、バガスなどのパルプが挙げられる。靭皮繊維としては楮、三椏、大麻、ジュート、ガンピなどが挙げられる。
【0007】
中でも針葉樹パルプは、価格が安価で、広葉樹パルプと比べると繊維長が長く、水流交絡処理で脱落したり、使用時に脱落繊維になったりしにくいため最も好ましい。
不織布を構成する繊維材料に、パルプを含めることで、保湿加工したときの柔らかさ、しっとり感が得られる。吸水速度が速くなり、吸水量も多くなる。拭いたときに、対象物に残る水の量が少なくなる。パルプの配合量を、不織布を構成する繊維全体の5〜90%に設定できる。好ましくは20〜80%、最も好ましくは40〜70%である。パルプの配合量が多すぎると不織布の強度が低下する。
天然セルロース繊維を配合しないでおくこともできる。天然セルロース繊維の配合量が5%以下であると、保湿液の肌への転移性を向上させ易い。
【0008】
<レーヨン繊維>
再生セルロース繊維であるレーヨン繊維が使用できる。レーヨン繊維として、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨンなどが挙げられる。
不織布の繊維材料にレーヨン繊維を配合すると、水流交絡させることで強度が高まる。吸水性がよくなる。柔らかい感触が得られる。レーヨン繊維の配合量は、10〜100%に設定できる。好ましくは20〜80%、最も好ましくは25〜75%である。
針葉樹パルプとレーヨン繊維を組み合わせることができる。両方の繊維が入ることで、触感、強度、吸水性などにおいてバランスのよい不織布が得られる。
【0009】
<合成繊維>
各種合成樹脂材料からなる合成繊維が使用できる。
合成繊維として、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリアクリロニトリル類、ポリオレフィン類、ポリビニルアルコール類などの単独重合体あるいは共重合体が挙げられる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリテトラメチレンテレフタレート(PTT)、ポリプロピレン、熱融着繊維などが挙げられる。例えば、PETやPTT、ポリプロピレンを配合すると、厚み感、ふんわり感が増す。
合成繊維の配合量としては0〜50%に設定できる。好ましくは5〜45%、更に好ましくは5〜30%である。配合量が50%を超えると吸水性が低下し易い。ただし、吸水性は劣っていても保湿成分を人の肌などに転移させ易くするためには、合成繊維の配合量を100%までにすることもできる。
【0010】
繊維の脱落を防ぐため、熱融着繊維を配合し、サーマルボンドすることもできる。熱融着繊維の配合量は、30%以下が好ましい。それ以上配合すると、シートが硬くなり、吸水性も悪くなる。
含浸させた液体を転移させる機能を高めるには、親油性の合成繊維を使用することが望ましい。保湿液の肌への転移性を高めて、肌の保湿性を高めることができる。前記した天然セルロース繊維などの親水性繊維と、親油性繊維とを組み合わせれば、両者の持つ機能をバランス良く発揮させることができる。
<天然繊維>
前記天然セルロース繊維以外の天然繊維として、羊毛、シルクなどが挙げられる。半合成繊維として、酢酸セルロース繊維などがある。複数の繊維材料が 複合化された複合繊維も用いられる。一つの繊維層を、複数の繊維材料を組み合わせて構成することもできる。
【0011】
<その他の繊維>
ランプ繊維(クラレ社製)のような易分割の分割繊維を配合することもできる。分割繊維を入れることで強度が増す、地合いがきれいになる。柔らかいシートを作るため水流交絡処理における水流の圧力は上げられないので、5MPa程度で分割する易分割の分割繊維が好ましい。
<繊度>
繊維長20〜100mmの繊維材料の繊度を、0.5〜10.0dtexに設定できる。好ましくは0.7〜5.0dtex、最も好ましくは0.8〜2.5dtexである。
【0012】
繊度が小さい繊維を使用して作製した不織布は柔らかく、滑らかな触感を与えるので好ましい。しかし短繊維で0.7dtex以下の繊維はカード機にかからないため繊維ウェブの作製が困難であり使用し難い。分割繊維の場合、分割前の状態で前記繊度条件を満足していれば、分割後に繊度が小さくなることは問題ない。
繊度の大きい繊維を使用すると、弾力感、厚み感に優れた不織布が得られる。しかし、繊度が大き過ぎる繊維は、肌にチクチクする感触を与えたり、物理的刺激により炎症を引き起こしたりする問題が生じ易い。
繊度0.5〜10.0dtexの繊維を、不織布を構成する繊維材料全体の20〜80重量%含有することが望ましい。
【0013】
<繊維の長さ>
不織布を構成する繊維材料全体において、繊維長20〜100mmの繊維を10%以上含むようにする。好ましくは、繊維長20〜100mmの繊維を20%以上含むようにする。このような繊維長の条件を満足することで、ドレープ性(肌沿い性)に優れる不織布が得られる。
不織布の製造において、乾式法でウェブを作製する場合には、繊維材料の長さを20〜100mmに設定しておくことが好ましい。より好ましくは35〜60mmである。これより長かったり短かったりするとカード機にかかり難い。湿式法で繊維層を作製する場合には、繊維長20mm未満の短繊維を使用することが好ましい。
【0014】
繊維長20〜100mmで繊度0.5〜10.0dtexの繊維を20〜80重量%、繊維長20mm未満の天然セルロース繊維を20〜80重量%含有させることができる。好ましくは、繊維長20〜100mmで繊度0.5〜10.0dtexの繊維が20〜50重量%、繊維長20mm未満の天然セルロース繊維が50〜80重量%である。
〔パルプシート〕
前記したセルロース繊維など、カード機で繊維ウェブを作製してから不織布を製造する方法が適用し難い繊維材料を用いる場合は、パルプシートを作製しておくことができる。
パルプシートは、天然セルロース繊維などを水に分散させ、定法によりシート化したものである。エアーレイド法によりシート化したパルプシートも使用できる。
【0015】
パルプシート中に熱融着繊維や合成パルプなど別の繊維材料を配合しておくこともできる。繊維ウェブと複合した後にサーマルボンドすることにより、不織布の強度向上、脱落繊維の防止に役立つ。
〔不織布の製造〕
保湿成分を担持させる前の不織布、すなわち、不織布原紙の製造は、通常の不織布製造技術を適宜に組み合わせて採用することができる。
具体的には、スパンボンド法、スパンレース法、湿式法、エアーレイド法、ケミカルボンド法、メルトブロー法などが挙げられる。水流で繊維を交絡して、繊維がルーズに結合しているスパンレース法が好ましい製造技術となる。
【0016】
不織布を構成する繊維にパルプを配合する場合は、繊維長20mm以上の繊維を用いて、カード機により繊維ウェブを作製する。次に、別途作製したパルプシートを重ねて、水流交絡法により複合化して不織布とする方法が採用できる。
湿式法やエアーレイド法も採用できるが、これらの方法では、繊維長20mm以上の繊維は使用し難く、強度を出すために、熱融着やケミカルボンドが必要になる。そのために、製造された不織布が硬くなり、ドレープ性が悪くなって、ごわごわしたり、シートの伸びが足りずに使用中に裂けてしまったりする問題が生じ易い。
スパンボンド法やメルトブロー法も採用できる。但し、これらの方法で製造した不織布は強度には優れるが、一般的に触感が硬く、ドレープ性が乏しいことが多い。
【0017】
繊維ウェブとパルプシートを複合化させて不織布を製造する場合、通常はウェブ/パルプシート/ウェブの3層構成に重ねて複合することができる。これによって、水流交絡処理時にパルプシートが搬送ベルトに貼りついて取れなくなったり、水流交絡の水流でパルプがはじかれて地合いが悪くなったりすることを防ぐことができる。
ウェブ/パルプシートの2層構成にすることもできる。パルプの配合量の多いシートを作る際は有利である。
ウェブ/パルプシート/パルプシート/ウェブの4層構成やそれ以上の構成にすることもできる。
【0018】
繊維長20mm以上の繊維を用いて、カード機により繊維ウェブを作製し、その後、水流交絡法により、不織布を製造すれば、パルプを複合化しなくても不織布が製造できる。
〔水流交絡処理〕
スパンレース不織布の製造技術として、乾式あるいは湿式の不織布の製造や積層に利用されている水流交絡処理が適用できる。
水流交絡処理は、通水可能なメッシュ状の支持網に支持された繊維ウェブに、細孔から柱状の高圧水流を噴射して、繊維ウェブを貫通する水流によって、ウェブを構成する繊維同士を交絡させたり、交絡をより緻密にしたりする処理である。
【0019】
支持網として、通常は、無端回転するメッシュ状の搬送ベルトが使用され、搬送ベルトの走行とともにウェブを搬送しながら水流による交絡一体化処理を行なう。
重ねられた繊維ウェブおよびパルプシートを貫通して、水流交絡処理を施せば、繊維ウェブとパルプシートとを交絡一体化させることができる。水流交絡処理によって、ウェブを構成する繊維とパルプシートを構成する繊維とが、相手側の層へも侵入した状態で交絡し、実質的に全体が一体となった不織布を構成することができる。
水流交絡処理の処理条件は、繊維ウェブおよびパルプシートの材質や構造、目付、厚みによっても異なる。
【0020】
<搬送ベルト>
水流交絡処理を行なう搬送ベルトとして、8〜125メッシュナンバー(mesh)のメッシュ状をなす搬送ベルトが使用できる。メッシュ状搬送ベルトには、金属や合成繊維などのメッシュ材料が使用できる。
メッシュ状搬送ベルトの有する通水空間の大きさによって、繊維ウェブとパルプシートとの繊維同士の交絡状態が変わる。また、通水空間を通過する水流の形状が、処理後の不織布の構造に影響を与える。
前記したメッシュナンバー範囲のメッシュ状搬送ベルトであれば、効率的に繊維ウェブとパルプシートとを交絡一体化できる。メッシュナンバーが大き過ぎる(メッシュの目が細かくなる)と、繊維ウェブとパルプシートとの交絡一体化が十分に果たせないため、得られる不織布の強力が低下する。メッシュナンバーが小さ過ぎる(メッシュの目が粗くなる)と、パルプシートの繊維の脱落が多くなり、好ましくない。またワイパー(清拭シート)として使用したとき、汚れがメッシュの間を通過して出やすくなる。好ましいメッシュナンバーは20〜100である。20メッシュに近ければ不織布表面に適度なガーゼ調の凹凸ができ、ワイパーにしたとき汚れが引っかかりやすくなる。100メッシュに近ければ滑らかな触感の不織布が得られる。目的に応じて作り分けることができる。
【0021】
<水流交絡ノズル>
水流を噴射するオリフィスあるいはノズルの細孔の口径を、0.05〜0.30mmに設定できる。好ましくは0.07〜0.16mmである。口径が小さいほうが地合いのよい不織布が得られる。しかし口径が小さ過ぎると、繊維の交絡が十分に行なえなかったりする。口径が大き過ぎると、不織布に孔が形成されたり、地合いが悪くなったりする。
細孔の間隔を、0.5〜2mmに設定できる。間隔が狭いほど水流による繊維の交絡が緊密に行なえるが、細孔の形成配置が難しい。間隔が広過ぎると、細孔の中間で十分な交絡処理ができない個所が生じ易い。細孔は、上記間隔で1列に配置しているだけでもよいし、複数列に配置しておくこともできる。
【0022】
ワイパーにしたときに汚れに引っかかりやすくするために、2〜20mmの間欠タイプのノズルを使用することもできる。
<水流>
水流の材料は、通常は水が使用されるが、熱水やスチームも使用できる。
水流の圧力を、0.5〜10MPaに設定できる。圧力が高いほど、繊維を交絡させる機能は強くなるが、圧力が高過ぎると、不織布に孔があいたり、パルプが流失したりし易い。
水流交絡処理は、1回行なうだけで不織布を製造することもできるし、同じ処理条件あるいは処理条件、処理装置を変えた複数回の水流交絡処理を繰り返すこともできる。脱落繊維や毛羽立ちを防ぐ意味で、最低でも両側から1度ずつは水流交絡処理をすることが望ましい。
【0023】
<乾燥>
水流交絡処理のあとは、常法にしたがって、脱水工程や乾燥工程を行なうことができる。乾燥温度は40〜200℃が好ましい。温度が低すぎると経済的な速度で生産できない。温度が高すぎるとレーヨンやパルプが焦げたりする。
熱融着繊維を配合したときには熱融着繊維を溶解させ、サーマルボンドすることができる。エアスルードライヤー、ヤンキードライヤー、熱プレスロールのいずれの方法でもよい。熱融着繊維が入っていなくても熱プレスロールの間を通して、熱プレスし、表面を平滑にし、毛羽立ちを抑える処理をすることもできる。
【0024】
〔不織布原紙の特性〕
保湿処理を施す前の不織布原紙として、目付を20〜100g/mに設定できる。好ましくは目付35〜80g/mである。
顔周りなどデリケートな部分に使う用途向けには、目付40g/m程度の比較的目付の小さい不織布が好ましい。吸水量が多いことが求められる用途には目付の大きな不織布が好ましい。
〔保湿処理〕
不織布に保湿成分を担持させる処理である。
【0025】
通常、不織布に保湿液を塗工する。塗工方法はグラビア塗工、スプレー塗工、ダイ塗工、ディッピング法など通常の塗工方法から選ぶことができる。片面塗工だけでもよいが、不織布の表裏の肌触りを揃えるためには両面塗工が好ましい。
保湿液中にあらかじめ平衡水分率になるように調整された水分量を加えた状態で塗工すると、塗工後の乾燥や調湿工程を省略することができ、経済的である。
保湿液の塗工時は保湿液の温度コントロールをすることが好ましい。保湿液は温度により粘度が変化することがあるので、温度コントロールをしないと均一な塗工量の製品を作ることが困難になる。温度条件は、保湿液の配合処方によっても異なるが、通常、10〜60℃の範囲に設定できる。好ましくは、30〜50℃である。
【0026】
保湿液の塗工量は、不織布原紙目付に対する割合を1〜250%に設定できる。好ましくは5〜150%、更に好ましくは10〜100%である。この場合の保湿液の塗工量は保湿成分によって吸湿された平衡水分を含んだものをいう。塗工量が少なすぎると保湿加工の効果が得られず、不織布が硬く感じられる。塗工量が多すぎるとべたつき感があり、また製造コストが高くなる。不織布の柔らかさ、肌触りの良さを求める場合は10〜50%が好ましい。不織布のしっとり感や、使用時に保湿液が対象物に転写することを求める場合には50〜100%が好ましい。
保湿液の塗工量は、後述する保湿不織布の保湿加工率に対応する。但し、塗工された保湿液の一部は蒸発揮散することがあるので、製造後の保湿不織布の保湿加工率とは厳密には一致しない場合がある。
【0027】
<保湿液>
保湿液は、保湿成分である保湿剤と水とを含む。必要に応じて、その他の添加成分も含む。
保湿剤の具体例として、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、果糖、ブドウ糖、オリゴ糖、トレハロース、グリシンペタイン、ピロリドンカルボン酸、ピロリドンカルボン酸塩、乳酸、乳酸塩、尿素などが挙げられる。
【0028】
グリセリンは、吸湿力、コスト、安全性の面で好適である。ソルビトールはグリセリンより吸湿力は低いが一旦取り込んだ水分を保湿する効果に優れている。また、NMF(天然保湿因子)であるピロリドンカルボン酸ソーダ、乳酸塩、尿素は、皮膚を保湿保護する効果が高い。
保湿液の添加成分として、油類が使用できる。油類の具体例として、流動パラフィン、スクワランなどの炭化水素類、オリーブ油、ツバキ油、ヒマシ油、大豆油などの油脂類、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、トリカプリル酸グリセリンなどの中鎖脂肪酸トリグリセライド類、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチルなどのエステル油が挙げられる。油類は35℃において液状であることが望ましい。
【0029】
油類の配合は、触感の向上、肌をシールすることによる保湿効果、水分変化の緩衝効果、水分の変化にともなう触感の変化の緩衝効果に優れる。
保湿液の添加成分として、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン類、ロウ類も使用できる。これらの成分は、保湿成分によるべたつきを改善し、滑らかさを向上できる。
脂肪酸類として、脂肪酸、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリル酸などが挙げられる。脂肪酸塩としては、上記脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、モノエタノールアミン塩などが挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、前記脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0030】
高級アルコール類としては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ベヘニルアルコールなどが挙げられる。
シリコーン類としては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、ポリエーテル変性、ポリグリセリン変性などの変性シリコーンオイル、ジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。
ロウ類としては、ミツロウ、カルナバロウ、ラノリンなどが挙げられる。
〔保湿不織布〕
不織布原紙に保湿処理を施して、保湿不織布が得られる。
【0031】
保湿不織布に含まれる水分は、その不織布が置かれている環境中の水分(大気中の湿度)が不織布に含まれている保湿性物質および不織布繊維の吸湿力によって取り込まれている水分であり、環境の水分と保湿性物質および不織布繊維の吸湿力と平衡状態にある水分である。この水分は環境から供給される水分であるため、ウェットティシュのような乾燥防止のための包装容器を必要としない。
〔保湿不織布の特性〕
保湿不織布として、以下の特性を備えたものが好ましい。なお、各特性値は、実施例の欄に記載された測定方法で測定された値を基準とする。
【0032】
<保湿加工率>
保湿加工率は、保湿加工で不織布に供給された保湿液の配合成分や水分による目付の増加割合で示す。具体的には、後述する実施例の欄に記載された測定方法で測定される値で定義される。
保湿加工率が大きいほど、保湿成分や水の保持量が多いことを意味する。保湿液の塗工量が多いほど保湿加工率も大きくなるが、保湿加工後に蒸発揮散する成分や、逆に大気中から保湿成分に取り込まれる水分もあるので、保湿液の塗工量と保湿加工率とは厳密には一致しない場合がある。
【0033】
保湿不織布の保湿加工率を1〜250%に設定しておくことが望ましい。保湿不織布の肌触りを良好にするためなどには10〜50%が好ましく、保湿成分の転写機能を高めるためなどには50〜100%が好ましい。
<水分活性値Aw>
不織布の水分活性値Awは標準状態(温度23℃、湿度50%RH)で0.7以下が好ましい。0.7以下であるとカビや微生物の成長が抑制され、防腐剤や防カビ剤を使用する必要がない。このためには保湿成分としてグリセリンを配合することが好ましい。
<強伸度>
破断強度は、縦方向および横方向のどちらか強いほうの破断強度を3〜50Nに設定しておくことが好ましい。破断強度は弱すぎると使用時に破れてしまう。強すぎると触感が硬くなる。破断伸度は、縦・横の両方向とも10〜150%が好ましい。破断伸度が小さいと使用時に破れたり、拭きたい対象物の形に変形しなかったりするので使い難くなる。
【0034】
<接触温冷感Qmax>
接触温冷感Qmax(初期熱流束最大値)は触れたときに瞬間的に流れる熱量を計測している。Qmaxが大きいと触れたとき冷たく感じ、小さいと暖かく感じる。0.25J/cm/sec以下であることが好ましい。Qmaxが0.25J/cm/secより大きくなると触れたときにヒヤッとする感触になり好ましくない。
<ドレープ係数>
ドレープ係数が小さいほうがワイパーとして使用するときに手や対象物の形にフィットして使用感がよくなる。ドレープ係数が大きいとゴワゴワして使いにくくなる。ドレープ係数は25〜70%であることが好ましい。
【0035】
<KES−FB2のB値>
川端式風合い計測値KES−FB2のB値は曲げかたさ(曲げ試験を行なったときの曲率1cm−1間における傾斜)を表し、B値が大きいほど曲げかたく、小さいほど曲げ柔らかい。縦・横の両方向とも0.15gf・cm/cm以下が好ましい。B値がこれ以上大きいとシートが硬く、ゴワゴワした感触になる。
<吸水能力>
吸水能力はラローズ法による飽和吸水量測定で0.1ml以上であることが好ましい。吸水能力が小さいとワイパーとして使用したときに水分の拭き残しが多くなり好ましくない。
【0036】
〔エンボス加工〕
保湿不織布として、エンボス加工を施したものが使用できる。
エンボス加工技術は、通常の不織布などに対するエンボス加工技術が適用できる。
〔保湿不織布の使用〕
保湿不織布は、従来のティシュペーパーやタオルペーパー、保湿ティシュ、ウェットティシュと同様の用途に利用することができる。
具体的には、赤ちゃんのおしり拭き、赤ちゃんの手・口の拭き取りシート、高齢者介護の清拭シート、高齢者の口拭きシート、化粧用の油取り紙の代替、女性用のフェイシャルケアシートなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明にかかる保湿不織布は、通常の保湿ティシュでは使用されていない、比較的に繊維長の長い繊維を十分な量で含んでいる不織布に、保湿成分を担持させておくことによって、従来の保湿ティシュやウェットティシュが有する問題点を解消することができる。
具体的には、柔軟で肌触りが良好でありながら、十分な強度を備えている。適切な量の水分を保持して、肌に不快な冷たさを与えたり刺激したりすることなく、化粧料などを効果的に拭き取ることができる。開放状態で放置しても乾燥してしまうことがなく、長期間にわたって持続的に保湿性を維持することができる。
その結果、従来の保湿ティシュやウェットティシュでは使用できなかった各種の用途、例えば、介護用拭取り布、化粧用ウェブ、保湿シート、物品の清拭用など広い範囲の何れにも好適に使用できることになり、実用的価値の高い保湿不織布を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明の保湿不織布を具体的に製造し、その性能を評価した結果を示す。
【実施例】
【0039】
〔不織布の製造〕
<実施例1>
針葉樹クラフトパルプ(キャンフォー社製ハウサンド400)をカナディアンフリーネス680mlまで叩解処理し、丸網式抄紙機により坪量32g/mのパルプシートを製造した。
レーヨン繊維(繊度1.7dtex×繊維長40mm)50wt%、PET繊維(繊度0.9dtex×繊維長44mm)50wt%になるように配合した繊維をカード機で解繊して、繊維ウェブを製造した。1枚の繊維ウェブの目付は14g/mとした。
【0040】
前記パルプシートの上に繊維ウェブを積層し、搬送ベルト上に供給した。搬送ベルトは、50メッシュのプラスチックネットからなり、約7m/minで走行する。
搬送ベルトの走行経路に配置されたウォータージェット処理装置で、高圧液体柱状流による交絡処理を行なった。交絡処理に使用した高圧柱状流は、流体として水を用いた。孔径が0.08mmの細孔を間隔1mmで横1列に配設した水流噴射器を、搬送ベルトの走行方向と垂直に3列で設置した。水流噴射器の細孔面と積層シートの表面との距離を2cmに設定した。3列の水流噴射器から、水圧2MPa、4MPa、4MPaで水流を噴射させた。引き続き、積層シートの裏面にも同条件で水流交絡処理を行なった。ウォータージェット処理を終えた積層シートは、引き続いて脱水工程および乾燥工程を行なった。得られた不織布の目付は45g/mであった。
【0041】
こうして得られた不織布に保湿加工を施した。不織布にグラビア塗工法により保湿液を塗布した。風乾、調湿後、保湿不織布の目付を測定すると58.5g/mであった。すなわち保湿加工率は30%である。
保湿液は、グリセリン60重量%、ソルビトール10重量%、デカグリセリンモノステアリン酸エステル1重量%、流動パラフィン5重量%、ポリオキシエチレン(20EO)ソルビタンモノステアレート1重量%、ソルビタンモノステアレート0.4重量%、水22.6重量%の配合処方であった。
<実施例2>
針葉樹クラフトパルプ(キャンフォー社製ハウサンド400)をカナディアンフリーネス680mlまで叩解処理し、丸網式抄紙機により坪量20g/mのパルプシートを製造した。
【0042】
レーヨン繊維(繊度1.7dtex×繊維長40mm)80wt%、PET繊維(繊度0.9dtex×繊維長44mm)20wt%になるように配合した繊維を2台のカード機で解繊して、一対のウェブを製造した。1枚の繊維ウェブの目付は10g/mとした。
2枚のウェブの間に、前記パルプシートを積層し、搬送ベルト上に供給した。搬送ベルトは、20メッシュのプラスチックネットからなり、約7m/minで走行する。
搬送ベルトの走行経路に配置されたウォータージェット処理装置で、高圧液体柱状流による交絡処理を行なった。交絡処理に使用した高圧柱状流は、流体として水を用いた。孔径が0.08mmの細孔を間隔1mmで横1列に配設した水流噴射器を、搬送ベルトの走行方向と垂直に3列で設置した。水流噴射器の細孔面と積層シートの表面との距離を2cmに設定した。3列の水流噴射器から、水圧2MPa、4MPa、4MPaで水流を噴射させた。引き続き、積層シートの裏面にも同条件で水流交絡処理を行なった。ウォータージェット処理を終えた積層シートは、引き続いて脱水工程および乾燥工程を行なった。得られた不織布の目付は40g/mであった。
【0043】
こうして得られた不織布に保湿加工を施した。不織布にグラビア塗工法により、実施例1と同じ保湿液を塗布した。風乾、調湿後、保湿不織布の目付を測定すると72g/mであった。すなわち保湿加工率は80%である。
<実施例3>
針葉樹クラフトパルプ(キャンフォー社製ハウサンド400)をパルパーで離解し、定法により丸網式抄紙機により坪量25g/mのパルプシートを製造した。このときは叩解処理を行なわなかった。
レーヨン繊維(繊度1.7dtex×繊維長40mm)を2台のカード機で解繊して、一対のウェブを製造した。繊維ウェブの1枚当たりの目付は13g/mとした。
【0044】
2枚の繊維ウェブの間に前記パルプシートを挟み、搬送ベルト上に供給した。搬送ベルトは、50メッシュのプラスチックネットからなり、約7m/minで走行する。
搬送ベルトの走行経路に配置されたウォータージェット処理装置で、高圧液体柱状流による交絡処理を行なった。交絡処理に使用した高圧柱状流は、流体として水を用いた。孔径が0.08mmの細孔を間隔1mmで横1列に配設した水流噴射器を、搬送ベルトの走行方向と垂直に3列で設置した。水流噴射器の細孔面と積層シートの表面との距離を2cmに設定した。3列の水流噴射器から、水圧3MPa、6MPa、6MPaで水流を噴射させた。引き続き、積層シートの裏面にも同条件で水流交絡処理を行なった。ウォータージェット処理を終えた積層シートは、引き続いて脱水工程および乾燥工程を行なった。得られた不織布の目付は50g/mであった。
【0045】
こうして得られた不織布に保湿加工を施した。不織布にグラビア塗工法により実施例1と同じ保湿液を塗布した。風乾、調湿後、保湿不織布の目付を測定すると60g/mであった。すなわち保湿加工率は20%である。
<比較例1〜3>
それぞれ、実施例1〜3において、保湿加工を行なわなかった場合である。不織布原紙そのものの特性を示す。
〔性能評価試験〕
<目付、密度>
JIS−L1913(一般短繊維不織布試験方法)単位面積当たりの質量を目付とした。同じJIS−L1913に従って測定した厚みを使って、次式より密度を計算した。但し、測定環境を、JIS−P8127で規定される標準状態(温度23℃、湿度50%RH)に調湿しておいた。
【0046】
密度(g/cm)=目付(g/m)÷厚み(μm)
<保湿加工率>
JIS−L1913に従って測定した保湿加工前の不織布の目付をA、その不織布に保湿加工をした後、再度JIS−L1913に従って測定した保湿不織布の目付をBとしたとき、保湿加工率は次式により計算した。なお、測定環境は、前記同様にJIS−P8127の標準状態(温度23℃、湿度50%RH)であった。
保湿加工率(%)=(B−A)÷A×100
<水分活性値>
水分活性計(電気抵抗式湿度計)によって測定した。
【0047】
<ドレープ係数>
ドレープ試験機〔大栄科学精機製作所社製、形式YD−100〕を用いて測定し、下式で算出した。
ドレープ係数(%)=〔(Ad−S1)/(S2−S1)〕×100
Ad:試料片の垂直投影面積(ドレープ形状面積)
S1:試料台の面積(直径12.7cm)
S2:試料の面積(直径25.4cm)
<Qmax>
測定装置「KES F7 THERMO LABO II」(カトーテック株式会社製)を用いて、Qmax(初期熱流束最大値)を測定した。サンプル温度は20℃、銅板初期温度は30℃、接触圧は10gf/cmで測定した。
【0048】
<強伸度測定>
JIS−L1913に従って測定した。ただし、つかみ間隔を100mm、引張速度300mm/minで試験を行なった。MD/CDは、縦方向/横方向のそれぞれで測定された測定値を意味する。
<KES B>
カトーテック株式会社製「KES FB2純曲げ試験機」により測定した。試料幅200mm、標準高感度条件で測定した。MD/CDは強伸度測定と同様である。
<吸水能力>
公知のラローズ法による飽和吸水量を測定した。
【0049】
<官能試験>
パネラー10名が、各試料を手で触り、以下の項目を評価した。
(柔らかさ)
大変に柔らかい:4点、柔らかい:3点、やや柔らかい:2点、柔らかくない:1点で評価した。
パネラー10名の評価点を集計した合計点について、以下の表記を行なった。
36〜40点:◎、26〜35点:○、16〜25点:△、10〜15点:×。
以下の評価項目についても、同様にして合計点を求め、同様の表記を行なった。
【0050】
(滑らかさ)
大変に滑らか:4点、滑らか:3点、やや滑らか:2点、滑らかでない:1点。
(しっとり感)
大変にしっとり:4点、しっとり:3点、ややしっとり:2点、しっとりしていない:1点。
(肌の保湿性)
肌に潤いを強く感じる:4点、肌に潤いを感じる:3点、肌に潤いをやや感じる:2点、肌に潤いを感じない:1点。
【0051】
〔試験結果〕
【0052】
【表1】

【0053】
<評価>
(1) 保湿加工を施した実施例1〜3は、保湿加工を行なっていない比較例1〜3に比べて、官能評価において、柔らかさ、滑らかさ、しっとり感、肌の保湿感が格段に優れている。
このことは、各特性値の対比からも判る。各実施例はドレープ率が小さく、手や対象物にフィットし易い。Qmaxは比較例とあまり違いがなく、皮膚に触れても不快な冷たさを感じない。KESのB値が小さく、柔らかく曲がる。比較例よりも破断強度は小さくなるが、実用的には十分な強度を有している。破断伸度は、不織布原紙の構成が共通する同番号の実施例と比較例とを比べると、何れの場合も、実施例のほうが比較例よりも良く伸びる。吸水能力は、比較例よりも小さくなっているが、これは、既に水分を保持しているからである。
【0054】
(2) 実施例1〜3を対比すると、繊維の組み合わせ、水流交絡処理の処理条件などによって、保湿不織布の特性や性能に違いが生じることも判る。
〔保湿加工率と性能〕
保湿加工率と性能との関係をみた。
<実施例4〜6>
実施例1と同じ不織布に実施例1と同様の保湿加工を施したが、塗布量を変えることで、それぞれの保湿加工率を変更した。
<試験結果>
【0055】
【表2】

【0056】
<評価>
(1) 実施例6から実施例4へと、保湿加工率すなわち担持している保湿成分の量が多くなるほど、ドレープ率は小さくなり、柔らかくなる。Qmaxは大きくなるので、冷たさを感じるようになるが、不快感を与えるほどではない。KESのB値は小さくなり、柔らかく曲がるようになる。
(2) 実施例6の保湿加工率10%よりも、実施例5の保湿加工率80%のほうが、総合的な性能は高くなることが判る。
〔保湿液の配合処方〕
保湿液の配合処方を変えて物性値、官能試験への影響をみた。
【0057】
<実施例7〜11>
実施例3と同じ不織布に実施例3と同様の保湿加工を施したが、保湿液の配合処方を変更した。
<試験結果>
【0058】
【表3】

【0059】
<評価>
(1) 実施例7〜11で用いられた何れの保湿液も有効であるが、保湿液の組成によって、各特性値および官能試験の評価が変わることが判る。
(2) 保湿剤として、グリセリンに加えてソルビトールを配合すると、柔らかさが向上する(実施例8〜11)。グリセリン脂肪酸エステルを配合すると、滑らかさが向上する(実施例9〜11)。油類を配合すると、柔らかさとしっとり感が向上する(実施例10,11)。シリコーン類を配合すると、さらに滑らかさが向上する(実施例11)。
〔市販品との対比:ウェットティシュ〕
市販のウェットティシュ製品と性能を対比した。
【0060】
<比較例4>
市販のウェットティシュ(三昭紙業社製)を用いた。
<評価試験>
乾燥性:各サンプルを恒温恒湿(温度23℃、湿度50%RH)の環境に24時間放置し重量変化を見た。ウェットティシュは容器より取り出し、直ちに初期重量を測定した。
刺激性:前記官能試験と同様に、モニターが肌に触れて、刺激性の有無を評価した。
上記以外の試験は前記と同様である。
<試験結果>
【0061】
【表4】

【0062】
<評価>
(1) 比較例4の市販ウェットティシュは、乾燥性が非常に強く、密封状態でなければ保管することはできない。実施例1の保湿不織布は、乾燥性がないため、開放状態で保管しておいても全く問題はない。
(2) 実施例1は比較例4に比べて、肌への刺激性がなく、不快な冷たさも与えず(Qmaxが小さい)、保湿感が優れ、防腐剤などを用いる必要もない(水分活性値が小さい)ことが裏付けられた。
〔市販品との対比:保湿ティシュ〕
市販の保湿ティシュ製品と性能を対比した。
【0063】
<比較例5>
市販の保湿ティシュ(商品名「うるおい保湿」河野製紙社製)を用いた。2枚の薄いパルプ紙を重ねた2プライ紙である。パルプ紙に使用されているパルプは、繊維長20mmを超えるものは含まれていない。
<評価試験>
保水量: 試料を水に浸漬し、45度に傾けた金網上に放置して保持されている水の重量を測定した。放置時間は5分に設定した。
拭取り性: 汚れを手の甲に塗り、試料で拭ったときの残存量を目視で比較した。汚れとして、食卓用のケチャップを用いた。良好に拭き取れたものを○、十分に拭き取れなかったものを×で評価した。
【0064】
坪量、引張強さ、吸水度:JIS−S3104に準拠した。但し、実施例1については50mm幅の試験片を用いたが、比較例5は25mm幅の試料を2本合わせて測定した。
上記以外の試験項目は前記と同様であるか、常法にしたがった。
<試験結果>
【0065】
【表5】

【0066】
<評価>
(1) 実施例1の保湿不織布は、比較例5の市販保湿ティシュに比べて、強度的に優れているとともに、保水量が多く、肌触りが良好であり、拭き取り性能にも優れている。
本願発明において、繊維長20mm以上の繊維を用いた不織布を採用することの技術的意義が裏付けられている。
〔市販品との対比:既製の不織布使用〕
実施例1の保湿不織布と、市販の不織布製品に、実施例1と同様の保湿処理を施したものとで、性能を対比した。
【0067】
<比較例6>
エアーレイド法で製造された市販のパルプ不織布(商品名「ネオラーヌ」呉羽化学工業社製)を用いた。長さ20mm以上の繊維は含まれていない。
<比較例7>
市販の湿式レーヨン短繊維スパンボンド不織布(商品名「太閤TCF#503」フタムラ化学社製、 繊維長10mm )を用いた。長さ20mm以上の繊維は含まれていない。
<試験結果>
【0068】
【表6】

【0069】
<評価>
(1) 市販の不織布を用いた比較例6、7は、保湿処理を施しても、保湿機能はそれほど高まらない。本発明において、特定の不織布を用いることも技術的意義が裏付けられた。
(2) 実施例1の保湿不織布は、肌触りなどの使用感においても、比較例6、7に比べて格段に優れた性能を発揮することが確認できた。
(3) 比較例6(ケミカルボンドによって繊維を固定しているエアーレイドパルプ不織布を使用)は、ドレープ性に劣っている。実際に、ワイパーとして使用したところ、ゴワゴワ感があり、拭くものの形に応じて変形することが難しいので、使用感が悪かった。
【0070】
(4) 比較例7(湿式レーヨン短繊維スパンボンド不織布を使用)は、保湿加工前の薄くて硬い感触が、保湿加工を行ったあとでも変化せず、使用感が良くなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の保湿不織布は、例えば、介護用の清拭シートや、化粧の際に肌を拭く化粧紙などに有用である。適度な水分を保持して、拭き取り性や肌触りを良好にできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長20〜100mmの繊維を10%以上含む不織布と、
前記不織布に担持された保湿成分と、
を備える保湿不織布。
【請求項2】
前記不織布が、スパンレース不織布である
請求項1に記載の保湿不織布。
【請求項3】
前記不織布を構成する繊維が、木材パルプを包含する天然セルロース繊維、レーヨン繊維を包含する再生繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維を包含する合成繊維からなる群から選ばれる繊維を含む
請求項1または2に記載の保湿不織布。
【請求項4】
前記不織布を構成する繊維が、繊維長20〜100mmで繊度0.5〜10.0dtexの繊維を20〜80重量%、繊維長20mm未満の天然セルロース繊維を20〜80重量%含有する
請求項1〜3の何れかに記載の保湿不織布。
【請求項5】
前記不織布が、繊維長20〜100mmの繊維からなる繊維ウェブと、繊維長20mm未満の天然セルロース繊維から湿式法で得られたパルプシートとを、水流交絡処理によって複合一体化させてなる不織布である、
請求項1〜4の何れかに記載の保湿不織布。
【請求項6】
前記保湿成分に加えて、さらに水分を保持する、
請求項1〜5の何れかに記載の保湿不織布。
【請求項7】
前記水分が、前記保湿成分に保持された水、または、保湿成分によって大気中から取り込まれた水分である、
請求項1〜6の何れかに記載の保湿不織布。
【請求項8】
前記保湿成分が、グリセリンを含む、
請求項1〜7の何れかに記載の保湿不織布。
【請求項9】
油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン類、ロウ類からなる群から選ばれる添加成分をさらに含む、
請求項1〜8の何れかに記載の保湿不織布。
【請求項10】
保湿加工率が1〜250%である
請求項1〜9の何れかに記載の保湿不織布。

【公開番号】特開2007−270364(P2007−270364A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94451(P2006−94451)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業、産業再生法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(592002776)河野製紙株式会社 (10)
【出願人】(599051007)三昭紙業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】