説明

保湿性重合体、保湿性重合体の製造方法、保湿剤組成物及び保湿剤組成物の製造方法

【課題】従来の保湿剤に比べて高い保湿性能を有すると共に皮膚への使用感にも優れ、かつ容易に製造もできる保湿性重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の保湿性重合体は、中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むアミノ酸単量体が多官能性重合体にグラフト重合した構造を有する。また、本発明の保湿性重合体の製造方法は、中性アミノ酸及び親水性アミノ酸を含むアミノ酸単量体と、多官能性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを準備する。そして、前記有機酸アンモニウム塩の存在下、この有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度で前記アミノ酸単量体を前記多官能性重合体にグラフト重合する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿性重合体、保湿性重合体の製造方法、保湿剤組成物及び保湿剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、乾燥から身を守るバリアとしての重要な役割を果たすものであるが、皮脂、細胞間脂質や天然保湿因子が減少すると、角質層の水分量が10%以下に低下し、いわゆるドライスキンとなる。このドライスキンは、皮膚がざらざらして見た目が悪くなるという問題だけでなく、皮膚疾患を引き起こす前段階であるという点で重要な病的意義も有する。このようなドライスキンの予防策の一つとして、保湿剤を使用することが有効であると知られている。保湿剤は、皮膚を構成する表皮や角質層に水分を保留させ、皮膚の保湿性、柔軟性を保つ作用をもたらすものである。
【0003】
代表的な保湿剤としては、アミノ酸、ピロリドンカルボン酸、ヒアルロン酸、乳酸、又はこれらの塩等の天然保湿因子からなるもの、あるいは、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコールからなるもの等が知られている。これらの他にも、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンやカルボキシビニルポリマー等の重合体で形成されるような合成高分子等が用いられることも知られている。
【0004】
また、最近では保湿剤として、酸性アミノ酸と中性アミノ酸との共重合体のポリマー側鎖に、金属塩やモノエタノールアミン塩を導入したポリアミノ酸を使用することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。あるいは、ポリアクリル酸等の合成高分子に生体適合性のあるポリアミノ酸をグラフト化させたような重合体を保湿剤として使用することも提案されている(例えば、特許文献2を参照)。このようなポリアミノ酸がグラフト化された重合体は、重合性不飽和基を有するカルボン酸を開始点としてアミノ酸N−カルボン酸無水物をあらかじめ合成してマクロモノマーを製造し、次いで、このマクロモノマーを重合することで得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2890834号公報
【特許文献2】特開2002−146010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来から知られている保湿剤や、特許文献1のようなアミノ酸の共重合体の場合、その保湿性能の効果はそれほど高いものではなかったため、保湿剤としての性能は充分ではなく、改善の余地が残されていた。
【0007】
一方、特許文献2のようにポリアクリル酸にポリアミノ酸をグラフト化した重合体の場合、その重合体を得るためにマクロモノマーを別途合成してから重合反応を行う必要があり、製造に時間がかかってしまうことがあった。さらに、重合体の製造に使用する溶媒、原料、脱水縮合剤等の添加物は、毒性や皮膚刺激性を有するものであり、決して皮膚の保湿剤として安全に使用され得るものとは言えないものであった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、従来の保湿剤に比べて高い保湿性能を
有すると共に皮膚への使用感にも優れ、かつ容易に製造もできる保湿性重合体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、上記保湿性重合体を含む保湿剤組成物及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る保湿性重合体は、中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むアミノ酸単量体が多官能性重合体にグラフト重合した構造を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、前記中性アミノ酸は、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びフェニルアラニンの群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明では、前記親水性アミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンの群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明では、前記多官能性重合体は、ポリアクリル酸であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る保湿剤組成物は、上記保湿性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、前記有機酸アンモニウム塩は、ヒドロキシ酸アンモニウム塩を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明では、前記ヒドロキシ酸アンモニウム塩は、乳酸アンモニウムを含むことが好ましい。
【0016】
本発明に係る保湿性重合体の製造方法は、中性アミノ酸及び親水性アミノ酸を含むアミノ酸単量体と、多官能性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを準備し、前記有機酸アンモニウム塩の存在下、この有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度で前記アミノ酸単量体を前記多官能性重合体にグラフト重合する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
また、前記有機酸アンモニウム塩の融解温度は、75〜150℃であることが好ましい。
【0018】
また、前記有機酸アンモニウム塩は、ヒドロキシ酸アンモニウム塩を含むことが好ましい。
【0019】
また、前記ヒドロキシ酸アンモニウム塩は、乳酸アンモニウムを含むことが好ましい。
【0020】
本発明に係る保湿剤組成物の製造方法は、上記保湿剤組成物を製造する方法であって、中性アミノ酸及び親水性アミノ酸を含むアミノ酸単量体と、多官能性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを準備し、前記有機酸アンモニウム塩の存在下、この有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度で前記アミノ酸単量体を前記多官能性重合体にグラフト重合する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の保湿性重合体は、中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むアミノ酸単量体を多官能性重合体にグラフト重合して得られるものであるので、高い保湿性能を有すると共に皮膚への使用感にも優れ、かつ容易に製造もできる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
本発明の保湿性重合体は、中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むアミノ酸単量体が多官能性重合体にグラフト重合した構造を有するものである。ここでいうグラフト重合とは、多官能性重合体の側鎖の官能基を開始点として、アミノ酸単量体が重縮合することを意味する。
【0024】
グラフト重合で使用されるアミノ酸単量体は、中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むものである。アミノ酸は、光学活性の炭素原子に水素原子、カルボキシル基、アミノ基並びに置換基Rが結合した有機化合物であり、RCH(NH)COOHという構造で表される。
【0025】
上記中性アミノ酸は、水に溶解した場合に中性を示すアミノ酸、すなわち、上記置換基Rが酸性を示す官能基及び塩基性を示す官能基のいずれでもないアミノ酸である。このような中性アミノ酸の具体例としては、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、セリン、グルタミン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニン、プロリン等が挙げられる。これらの中性アミノ酸は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。また、中性アミノ酸としては、通常L体のものを使用するが、D体を使用してもよいし、D、Lの混合体(ラセミ体も含む)であってもよい。本発明では、上記中性アミノ酸の中でも、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びフェニルアラニンのいずれか1種または2種以上であることが好ましく、この場合、併用する親水性アミノ酸との相乗効果により、保湿性重合体の保湿性がより高いものとなる。
【0026】
例えば、上記中性アミノ酸のうち、アラニンは、上記置換基Rがメチル基のものであるので、中性を示すアミノ酸(中性アミノ酸)であるが、メチル基が疎水性であるので、疎水性アミノ酸でもある。
【0027】
一方、親水性アミノ酸は、上記置換基Rが極性を示す置換基であるものをいい、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、アスパラギン、セリン、グルタミン、トレオニン、ヒスチジン、チロシン、システイン、あるいはこれらの塩が挙げられる。これらの親水性アミノ酸の中でも、特に、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニンが保湿性能に優れるものとなる。上記親水性アミノ酸は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。上記親水性アミノ酸もアラニン等の中性アミノ酸同様、通常L体を使用するが、D体を使用しても良く、D、Lの混合体(ラセミ体も含む)であっても良い。
【0028】
上記親水性アミノ酸の中でも、特に、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸、あるいは、塩基性アミノ酸であるリジン、アルギニンであることが好ましく、これらのアミノ酸を使用することで、保湿性重合体の保湿性がより高いものとなる。
【0029】
ここで、アミノ酸単量体に含まれる中性アミノ酸の割合は、アミノ酸単量体全量に対して、通常は中性アミノ酸が10〜90質量%であることが好ましく、この範囲であれば保湿性や使用感が損なわれるおそれは小さくなる。さらに好ましい中性アミノ酸の割合は、20〜80質量%、特に好ましくは25〜75質量%である。
【0030】
本発明では、アミノ酸単量体は中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むものであるが、本発明の効果を阻害しなければ、それ以外のアミノ酸が含まれていても良い。具体的には、化粧品原料と使用され得るものを用いることができ、例えば、アミノカプロン酸、アミ
ノ酪酸、オルニチン、カルノシン、クレアチン、シスチン、システイン酸、シトルリン、シルクアミノ酸、テアニン、乳アミノ酸、ヒドロキシプロリン、ホホバアミノ酸等のアミノ酸、あるいはこれらの塩が挙げられる。
【0031】
本発明で使用する多官能性重合体は、その重合体分子の側鎖に官能基を有するものである。この官能基は、上記アミノ酸単量体と重縮合反応できるものであれば特に限定されず、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基等を挙げることができる。この中でもアミノ酸単量体と重縮合反応が起こりやすいという点でカルボキシル基が好ましい。
【0032】
上記官能基は、多官能性重合体を構成するすべての単量体ユニットに存在していることが好ましいが、いくつかの単量体ユニットにのみに官能基が存在するものであっても良い。この場合、例えば、多官能性重合体の単量体100個あたり、少なくとも1個以上の単量体が官能基を有していることが好ましい。また、一つの単量体ユニットには、官能基数が一つであっても良いし、二つ以上存在するものであっても良い。
【0033】
また、多官能性重合体の分子量の下限値は、より高い保湿効果が得られるという理由により、1000であることが好ましく、5000であることがさらに好ましい。また、多官能性重合体の分子量の上限値は、アミノ酸のグラフト化が妨げられるおそれが小さくなるという理由により、50000000であることが好ましく、5000000であることがさらに好ましい。尚、ここでいう分子量はゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された重量平均分子量のことを指す。
【0034】
本発明で使用する多官能性重合体は、上記のようなものであれば特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸塩等のアクリル系重合体、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリリシン、ポリリシンの塩等のポリアミノ酸系重合体、ポリビニルアミン等のポリアミン系重合体、ポリアクリルアミド等のアクリルアミド系重合体等体等が挙げられる。これらの重合体はホモポリマーであっても良いし、複数の単量体が共重合されたコポリマーであっても良い。特に好ましい多官能性重合体は、反応性や安全性の点からポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、またはそれらの塩であることが好ましい。多官能性重合体が塩である場合、例えば、ナトリウム塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
上記多官能性重合体にアミノ酸単量体をグラフト重合させる場合、多官能性重合体とアミノ酸単量体との混合比は、例えば、多官能性重合体の上記官能基1モルに対してアミノ酸単量体が2〜100モルであることが好ましい。この範囲であれば、未反応のアミノ酸単量体が残存しにくくなり、得られる保湿性重合体の保湿性能が低下しすぎるおそれもない。さらに好ましい多官能性重合体とアミノ酸単量体との混合比は、多官能性重合体の上記官能基1モルに対してアミノ酸単量体が2〜20モルである。
【0036】
多官能性重合体の一つの官能基からアミノ酸単量体をグラフト重合して形成されるポリアミノ酸の数平均重合度は、2〜100であることが好ましい。この範囲であれば、得られる保湿性重合体の保湿性能が低下しすぎるおそれもないし、皮膚への使用感が悪化してしまうおそれもない。さらに好ましいポリアミノ酸の数平均重合度は2〜20であり、特に好ましくは2〜10である。尚、ポリアミノ酸の数平均重合度は、多官能性重合体とアミノ酸とが理論量どおりに反応したとして、それぞれの反応時の仕込み量から概算することが可能である。
【0037】
本発明の保湿性重合体は、多官能性重合体の官能基を開始点として、中性アミノ酸と親
水性アミノ酸とを含むアミノ酸単量体をグラフト重合するものである。つまり、多官能性重合体の官能基に、アミノ酸単量体のカルボキシル基もしくはアミノ基のいずれかが反応し、さらにこのアミノ酸末端から、別のアミノ酸単量体が順次反応していくことで、ポリアミノ酸がグラフト化された重合体が製造され、保湿性重合体が得られる。
【0038】
本発明の保湿性重合体の製造方法では、有機酸アンモニウム塩を反応触媒且つ反応溶媒として使用するものである。有機酸アンモニウム塩を使用することで、アミノ酸単量体のグラフト重合の反応性を高めることができ、安定して保湿性重合体を製造することができる。
【0039】
本発明の保湿性重合体の製造方法では、有機酸アンモニウム塩の存在下、この有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度で前記アミノ酸単量体を前記多官能性重合体にグラフト重合する工程を含むものである。
【0040】
上記有機酸アンモニウム塩は、その融解温度が75〜150℃であることが好ましく、この範囲であれば、有機酸アンモニウム塩が融解しやすくなり、また、反応温度を適切な範囲に調整しやすくなる。より好ましい有機酸アンモニウム塩の融解温度は、75〜100℃である。
【0041】
また、上記有機酸アンモニウム塩としては、皮膚に対する安全性等の観点から、ヒドロキシ酸アンモニウム塩であることがより好ましい。ヒドロキシ酸アンモニウム塩の具体例としては、乳酸アンモニウム、グリコール酸アンモニウム等の脂肪族ヒドロキシ酸アンモニウム塩の他、芳香族ヒドロキシ酸アンモニウム塩等も使用可能である。これらの中でも、特に皮膚に対する安全性が高く、且つ多官能性重合体とアミノ酸単量体との反応を促進させやすいという点で、乳酸アンモニウムを使用することが特に好ましい。
【0042】
上記有機酸アンモニウム塩は、多官能性重合体100質量部に対して、100〜1000質量部使用することが好ましい。有機酸アンモニウム塩がこの範囲であれば、有機酸アンモニウム塩の反応溶媒としての役割が充分に果たされて原料であるアミノ酸単量体が粉体として析出することを防止できる。その上、有機酸アンモニウム塩が上記範囲であれば、反応溶液全体に対するグラフト重合体の濃度が低くなりすぎることがないので、重合体由来の高い保湿効果が損なわれない。
【0043】
本発明の保湿性重合体の製造方法では、例えば、中性アミノ酸、親水性アミノ酸、多官能性重合体及び有機酸アンモニウム塩の各原料を反応容器に一括若しくは順次投入してから加熱し、有機酸アンモニウム塩を融解させることができる。この場合、有機酸アンモニウム塩が融解した後、その他の原料が有機酸アンモニウム塩に溶解し、多官能性重合体にアミノ酸がグラフト重合されることになる。
【0044】
あるいは、まず、有機酸アンモニウム塩を反応容器に投入して加熱し、有機酸アンモニウム塩が融解してから、その他の原料を投入して有機酸アンモニウム塩に溶解させ、上記同様グラフト重合を行っても良い。
【0045】
尚、いずれの手順においても、各原料は、水に溶解させて水溶液の状態で投入しても良いし、あるいは各原料をそのまま投入しても良い。水溶液にした場合は、反応前に加熱により水分を蒸発させることが好ましい。
【0046】
上記反応における加熱温度は、有機酸アンモニウム塩の融解温度(融点)以上の温度であることが好ましい。具体的な加熱温度は、75〜150℃であることが好ましく、この温度範囲であれば、有機酸アンモニウム塩を溶解するのに充分であり、反応が進行しやす
くなる。さらに好ましい加熱温度は、100〜145℃である。特に、有機酸アンモニウム塩として乳酸アンモニウムを使用した場合、加熱温度は、120〜145℃であることが好ましい。
【0047】
上記反応における加熱時間は、特に制限されるものではないが、例えば、2〜20時間とすることができ、この範囲であれば未反応のアミノ酸単量体が残存してしまうおそれは小さくなる。
【0048】
尚、反応後は、有機酸アンモニウム塩を精製により除去しても良いし、精製せずに、有機酸アンモニウム塩が含まれた状態であっても良い。
【0049】
グラフト重合において、多官能性重合体へポリアミノ酸がグラフト化されたかどうかについては、例えば、赤外分光法による赤外吸収スペクトルから判断することができる。すなわち、多官能性重合体の側鎖の官能基由来の吸収ピークの消失と、ポリアミノ酸由来のアミド結合による吸収ピークの出現から判断することができる。
【0050】
上記のように保湿性重合体を製造することにより、有機酸アンモニウム塩が、グラフト重合における触媒として機能すると共に反応溶媒としての役割も果たすことができ、アミノ酸単量体の重縮合反応の進行をより促進させることが可能となる。その上、皮膚への刺激性や毒性の強い有機溶剤等を反応溶媒として使用しなくとも反応が行えるという利点もある。また、出発原料として市販のものをそのまま使用することができ、先行技術として先述したマクロモノマーのような重合性単量体を別途製造する必要もないので、製造プロセスが簡略化され、容易に保湿性重合体を製造できるものとなる。
【0051】
本発明の保湿性重合体は、ポリアミノ酸が多官能性重合体にグラフト重合された構造を有するものであり、ポリアミノ酸単独の場合に比べて、より高い保湿性能を有し、また、皮膚への被膜性も良好である。且つポリアミノ酸が、中性アミノ酸と親水性アミノ酸とからなるものであるので、更に高い保湿性能を有する。その上、生体適合性の高いポリアミノ酸がグラフト化された構造を有しているので、ポリアミノ酸単独の保湿剤よりも皮膚に塗布したときのなじみ感が良好でベタ付き感も抑制できるという効果や、塗布後に乾燥させた状態であっても、皮膚の滑らかさを維持できるという効果も有するものとなる。
【0052】
本発明の保湿剤組成物は、上記保湿性重合体を含んでなるものであり、上記のように皮膚等に対して高い保湿効果を付与することができる。保湿剤組成物は、水溶液であってよく、水溶液である場合には、任意の塩基を適宜添加することで保湿性重合体を水に溶解させることが可能である。また、この場合の水溶液のpHは4〜10であることが好ましい。
【0053】
さらに、本発明の保湿剤組成物には、上記保湿性重合体に加えて、有機酸アンモニウム塩が含まれてなるものであっても良い。この場合、有機酸アンモニウム塩自体にも保湿性の効果があるため、保湿剤組成物の保湿性の効果をさらに高めることが可能となる。
【0054】
有機酸アンモニウム塩としては、既述したようにヒドロキシ酸アンモニウム塩が好ましく、ヒドロキシ酸アンモニウム塩の中でも、皮膚に対する安全性が高いという点で乳酸アンモニウムが特に好ましい。
【0055】
上記有機酸アンモニウム塩は、上述のように保湿性重合体製造時に触媒且つ反応溶媒として使用されるものである。そのため、保湿性重合体の製造時において、反応後に精製等をせずに(あるいは、精製回数を減らす等して)有機酸アンモニウム塩が残存した状態にしておけば、保湿性重合体と有機酸アンモニウム塩とを含む保湿剤組成物を得ることがで
きる。従って、有機酸アンモニウム塩を含む保湿剤組成物を製造するにあたって、有機酸アンモニウム塩は、別途準備して配合する必要がなく、保湿性重合体の製造に使用した有機酸アンモニウム塩をそのまま利用することができる。すなわち、保湿剤組成物は、上述した保湿性重合体を製造する工程(有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度でアミノ酸単量体を多官能性重合体にグラフト重合する工程)を含む製造方法により、得ることができる。
【0056】
保湿剤組成物中の上記保湿性重合体の含有量は、保湿剤組成物全量に対して0.000003〜3質量%であることが好ましく、この範囲であれば保湿性重合体の保湿効果を充分発揮させることができる。特に好ましい上記保湿性重合体の含有量は、保湿剤組成物全量に対して0.00003〜0.3質量%である。また、保湿剤組成物に有機酸アンモニウム塩が含まれる場合、その含有量は、保湿剤組成物全量に対して0.000007〜7質量%であることが好ましい。特に好ましい有機酸アンモニウム塩の含有量は、保湿剤組成物全量に対して0.00007〜0.7質量%である。
【0057】
また、保湿剤組成物には、保湿性重合体の他、本発明の効果を阻害しない程度であれば、例えば、グリセリン、ポリアミノ酸等が添加されていても良い。さらに必要に応じて各種界面活性剤、可溶化剤、油剤等を併用することもできる。
【0058】
本発明の保湿性重合体を含む保湿剤組成物は、高い保湿性能を有すると共に皮膚に塗布した場合でも使用感に優れるものであるため、化粧剤としても好適に使用することができ、例えば、美容液、化粧水、乳液、保湿クリーム、洗顔料(クリーム、フォーム、ローション、乳液)、ボディーシャンプー、クレンジング料(クリーム、フォーム、ローション、乳液)、マッサージクリーム、コールドクリーム、パック、ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップジェル剤、メークアップ剤、アフターシェービングクリーム、日焼け止めクリーム、ネイル剤(マニキュア、ペディキュア)、ハンドクリーム、ボディーローション(又はクリームやフォーム)、入浴剤、ふき取りシート、制汗剤、ヘアシャンプー、リンス、ヘアトリートメント、ヘアクリーム等に利用することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、以下に記載される%は、特に示さない限り全て質量基準である。
【0060】
(実施例1:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−アラニン)グラフト共重合体)
300mL容量のセパラブルフラスコに、L−アスパラギン酸4.7gと、L−アラニン3.1g、30%ポリアクリル酸(重量平均分子量:約250万)水溶液3.3g、66%乳酸アンモニウム(融解温度:91〜94℃)水溶液22.7gを入れ、フラスコ内を窒素置換した。次いで、フラスコ内を撹拌しながら110℃まで加熱し、ポリアクリル酸水溶液と乳酸アンモニウム水溶液の水分を蒸発させた後、140℃まで昇温した。反応中に生成する水をフラスコ外に除去しながら4時間加熱して反応をすることで、反応物を得た。
【0061】
このように得られた反応物の赤外吸収スペクトルを確認したところ、1660cm−1にアミド結合のC=O結合由来の強い吸収が観察された。また、3278cm−1には水素結合由来の吸収がみられたがポリアクリル酸に比べてピークが狭くなったことから、ポリアクリル酸のCOOHの減少とアミド結合の増加が認められた。従って、この反応物は、ポリアクリル酸のCOOH基を開始点としたアミノ酸重縮合によるグラフト構造を有していることがわかり、目的とする保湿性重合体であることがわかった。また、乳酸由来の1123cm−1、1040cm−1の吸収は、乳酸が塩として存在していることを示していた。
【0062】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0063】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0064】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0065】
尚、上記ポリアクリル酸の重量平均分子量は、水系のゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、プルラン換算することで算出した。
【0066】
(実施例2:ポリアクリル酸−(グルタミン酸−アラニン)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gをL−グルタミン酸5.2gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0067】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0068】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0069】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0070】
(実施例3:ポリアクリル酸−(リジン−アラニン)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gをL−リジン塩酸塩6.4gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0071】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0072】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0073】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0074】
(実施例4:ポリアクリル酸−(アルギニン−アラニン)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gをL−アルギニン6.1gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保
湿性重合体であることがわかった。
【0075】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0076】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0077】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0078】
(実施例5:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−アラニン)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gを7.0gに、L−アラニン3.1gを1.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0079】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0080】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0081】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0082】
(実施例6:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−アラニン)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gを2.3gに、L−アラニン3.1gを4.7gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0083】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0084】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0085】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0086】
(実施例7:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−アラニン)グラフト共重合体)
30%ポリアクリル酸水溶液3.3gを0.85gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0087】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度
は、20であるものと推測される。
【0088】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0089】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0090】
(実施例8:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−アラニン)グラフト共重合体)
30%ポリアクリル酸水溶液3.3gを8.4gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0091】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、2であるものと推測される。
【0092】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0093】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0094】
(実施例9:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−アラニン)グラフト共重合体)
66%乳酸アンモニウム水溶液22.7gを酢酸アンモニウム10.8gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0095】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0096】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0097】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0098】
(実施例10:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−フェニルアラニン)グラフト共重合体)
L−アラニン3.1gをL−フェニルアラニン5.8gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0099】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0100】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0101】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0102】
(実施例11:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−イソロイシン)グラフト共重合体)
L−アラニン3.1gをL−イソロイシン4.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0103】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0104】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0105】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0106】
(実施例12:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−ロイシン)グラフト共重合体)
L−アラニン3.1gをL−ロイシン4.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0107】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0108】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0109】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0110】
(実施例13:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−バリン)グラフト共重合体)
L−アラニン3.1gをL−バリン4.1gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0111】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0112】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0113】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0114】
(実施例14:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸−グリシン)グラフト共重合体)
L−アラニン3.1gをグリシン2.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応物を得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトルから目的とする保湿性重合体であることがわかった。
【0115】
また、反応が理想的に進んだと仮定すると、グラフト化されたアミノ酸の数平均重合度は、5であるものと推測される。
【0116】
このようにして得られた保湿性重合体は固体状であり、収量は約10gであった。得られた保湿性重合体は水に不溶であったが、重合体5gに対して20%水酸化ナトリウム水溶液2.5gと水42.5gを添加することで溶解させることができ、10質量%保湿性重合体水溶液を得た。
【0117】
得られた保湿性重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0118】
(比較例1:ポリアクリル酸−(アスパラギン酸)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gを9.3gに変更し、L−アラニン3.1gを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。得られたグラフト共重合体は、固体状であり、収量は約10gであった。得られたグラフト共重合体は実施例1と同様の操作によって溶解させることができ、10質量%重合体水溶液を得た。
【0119】
得られたグラフト共重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0120】
(比較例2:ポリアクリル酸−(リジン)グラフト共重合体)
L−アスパラギン酸9.3gをL−リジン塩酸塩12.8gに変更したこと以外は、比較例1と同様にして反応を行った。得られたグラフト共重合体は、固体状であり、収量は約10gであった。得られたグラフト共重合体は実施例1と同様の操作によって溶解させることができ、10質量%重合体水溶液を得た。
【0121】
得られたグラフト共重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0122】
(比較例3:アスパラギン酸―アラニン共重合体)
30%ポリアクリル酸水溶液を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。得られたアミノ酸共重合体は、固体状であり、収量は約9gであった。得られたアミノ酸共重合体は実施例1と同様の操作によって溶解させることができ、10質量%重合体水溶液を得た。
【0123】
得られたアミノ酸共重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0124】
(比較例4:リジン―アラニン共重合体)
L−アスパラギン酸4.7gをL−リジン塩酸塩6.4gとし、30%ポリアクリル酸水溶液を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。得られたアミノ酸共重合体は、固体状であり、収量は約9gであった。得られたアミノ酸共重合体は実施例1と同様の操作によって溶解させることができ、10質量%重合体水溶液を得た。
【0125】
得られたアミノ酸共重合体の水分保持性評価の結果を表1に、皮膚に塗布した際の使用感評価の結果を表2に示す。
【0126】
(比較例5〜7)
参考として、グリセリン(比較例5)、ヒアルロン酸ナトリウム(比較例6)、乳酸アンモニウム(比較例7)の10質量%水溶液(20%水酸化ナトリウム水溶液で調製)を作製し、それぞれについて同様に水分保持性評価並びに皮膚に塗布した際の使用感評価の結果をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0127】
尚、本実施例、比較例及び参考例における各評価は以下の方法で行った。
【0128】
(赤外吸収スペクトル)
反応生成物の水溶液をPETフィルム上に広げ、55℃で乾燥させることによって得られた皮膜の赤外吸収スペクトルを、パーキンエルマー株式会社製Spectrum One FT−IR Spectrometerを用いて測定した。
【0129】
(水分保持性評価)
各実施例と比較例で得た10質量%水溶液から、1質量%水溶液を調製し、それぞれ容量40mLの広口ガラス瓶に4g入れ、25℃、相対湿度35%の恒温恒湿槽内で4時間静置した際の重量変化(水分蒸発量)を、水分保持性の指標とした。尚、水分蒸発量は下記式から算出した。ここで、下記式における純水の初期重量は4gとした。
水分蒸発量=(試料溶液の初期重量−試料溶液の4時間後の重量)
/(純水の初期重量−純水の4時間後の重量)
結果を表1に示す。
【0130】
(皮膚に塗布した際の使用感評価)
各試料の1質量%水溶液を5人の被験者の前腕屈側部に塗布し、水溶液由来の水分が乾くまでの使用感を、各被験者が以下に示す評価基準に従って行った。
[評価基準]
2 :非常に良い
1 :良い
0 :普通
−1:やや悪い
−2:悪い
この評価基準による各被験者の評価の平均値を算出し、平均値が1以上〜2以下の場合を非常に良い(◎)、0以上〜1未満の場合を良い(○)、−1以上〜0未満の場合をやや悪い(△)、−2以上〜−1未満の場合を悪い(×)と判定し、その結果を次の表2に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
表1から明らかなように、実施例1〜14の水溶液はグリセリン水溶液等(比較例5〜7)の保湿剤に比べて、乾燥状態下における水の蒸発量が少なく、また、アミノ酸のみからなる共重合体である比較例3、4に比べても水の蒸発量は少なかった。よって、本発明に係る保湿性重合体(ポリアクリル酸−アミノ酸共重合体)は、従来から使用されている保湿剤であるグリセリン(比較例5)やヒアルロン酸ナトリウム(比較例6)に比べて高い水分保持性を有していることが示された。一方、中性アミノ酸を含まないグラフト共重合体である比較例1、2では中性アミノ酸を含む実施例1〜14に比べて水分蒸発量が多く、このことから構成アミノ酸として中性アミノ酸が必須であることが示された。また、比較例7から、乳酸アンモニウムを保湿性重合体の製造時の触媒として用いた場合の方(すなわち、本発明の保湿性重合体と乳酸アンモニウムを含む保湿剤組成物)が、乳酸アンモニウム単独の保湿効果よりも増加していることもわかる。
【0134】
また、表2から明らかなように、本発明に係る保湿性重合体(ポリアクリル酸−アミノ酸共重合体)は、特に乾燥後の皮膚への使用感に優れ、ポリアミノ酸単独(比較例3、4)のものに比べて、乾燥後の滑らかさが優れるものであった。また、ヒアルロン酸ナトリウム(比較例6)に匹敵する使用後の肌の滑らかさを皮膚に与え、使用感に優れるものであることも示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性アミノ酸と親水性アミノ酸とを含むアミノ酸単量体が多官能性重合体にグラフト重合した構造を有することを特徴とする保湿性重合体。
【請求項2】
前記中性アミノ酸がアラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びフェニルアラニンの群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の保湿性重合体。
【請求項3】
前記親水性アミノ酸がアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンの群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の保湿性重合体。
【請求項4】
前記多官能性重合体がポリアクリル酸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の保湿性重合体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の保湿性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを含むことを特徴とする保湿剤組成物。
【請求項6】
前記有機酸アンモニウム塩がヒドロキシ酸アンモニウム塩を含むことを特徴とする請求項5に記載の保湿剤組成物。
【請求項7】
前記ヒドロキシ酸アンモニウム塩が乳酸アンモニウムを含むことを特徴とする請求項6に記載の保湿剤組成物。
【請求項8】
中性アミノ酸及び親水性アミノ酸を含むアミノ酸単量体と、多官能性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを準備し、
前記有機酸アンモニウム塩の存在下、この有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度で前記アミノ酸単量体を前記多官能性重合体にグラフト重合する工程を含むことを特徴とする保湿性重合体の製造方法。
【請求項9】
前記有機酸アンモニウム塩の融解温度が75〜150℃であることを特徴とする請求項8に記載の保湿性重合体の製造方法。
【請求項10】
前記有機酸アンモニウム塩がヒドロキシ酸アンモニウム塩を含むことを特徴とする請求項9に記載の保湿性重合体の製造方法。
【請求項11】
前記ヒドロキシ酸アンモニウム塩が乳酸アンモニウムを含むことを特徴とする請求項10に記載の保湿性重合体の製造方法。
【請求項12】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の保湿剤組成物を製造する方法であって、
中性アミノ酸及び親水性アミノ酸を含むアミノ酸単量体と、多官能性重合体と、有機酸アンモニウム塩とを準備し、
前記有機酸アンモニウム塩の存在下、この有機酸アンモニウム塩の融解温度以上の温度で前記アミノ酸単量体を前記多官能性重合体にグラフト重合する工程を含むことを特徴とする保湿剤組成物の製造方法。


【公開番号】特開2012−251126(P2012−251126A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257404(P2011−257404)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】