説明

保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物及びその製造方法

【解決手段】下記式(1)


(Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、それぞれ異なる。R1〜R6は1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは−O−、−S−、−COO−又は2価有機基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。Bは2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
【効果】本発明の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物は、精製、保存中も安定に存在し、加水分解時は脱保護されることで加水分解も容易に行われる。また、これを用いて無機材料等の表面処理を行うことで、親水性を付与したり、表面の撥水性、撥油性、転落角や転落速度等、表面滑り性の制御をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、繊維処理剤、塗料添加剤、高分子変性剤等に有用な、保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物及びその製造方法に関するものである。また、本発明は、該有機ケイ素化合物を用いた無機材料等の表面改質方法及びこれによって得られた無機材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキルオルガノキシシラン化合物やパーフルオロアルキルオルガノキシシラン化合物といった有機ケイ素化合物は、表面処理剤、繊維処理剤、塗料添加剤等に有用であることが知られている。特に、表面の撥水性や撥油性を制御する目的で無機材料(例えばガラス、金属、酸化物)の表面を処理する場合、上記オルガノキシシラン化合物を用いることで、無機材料の表面水酸基と共有結合することで強固に結合することができ、改質された表面特性の耐候性や持続性が改良されることが知られている(非特許文献1:「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社、伊藤邦雄著、p.79,9行目〜p.80,5行目)。
【0003】
しかしながら、アルキルオルガノキシシラン化合物を用いた場合、撥水性は向上するものの撥油性が充分ではなかった。また、パーフルオロアルキルオルガノキシシラン化合物に関しては、撥水性、撥油性は改良されているものの、転落角等の表面滑り性が充分ではなかった。
【0004】
また、アルキルオルガノキシシラン化合物やフルオロアルキルオルガノキシシラン化合物を用いて表面処理する場合、通常加水分解を行い、無機表面の水酸基と反応しやすくする方法が用いられるが、親水性が非常に低いために水との反応性に乏しく、加水分解処理に長時間を要することがあった。これを改善するために分子内に水酸基を含有することが有効であるが、水酸基とオルガノキシ基の両方を有する場合、分子間の水酸基とオルガノキシ基との間で反応を起こし、高分子化してしまうために、安定な状態で存在することができない(非特許文献2:「ORGANOHALOSILANES Precursors to Silicone」、(オランダ)、ELSEVIER PUBLISHING COMPANY、p.350,7〜15行目)という問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社、伊藤邦雄著、p.79,9行目〜p.80,5行目
【非特許文献2】「ORGANOHALOSILANES Precursors to Silicone」、(オランダ)、ELSEVIER PUBLISHING COMPANY、p.350,7〜15行目
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、安定に精製、保存が可能で、撥水性、撥油性、表面滑り性といった表面の制御を可能にし、加水分解による表面処理を容易にする、トリオルガノシリル基で保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この有機ケイ素化合物を用いた無機材料等の表面改質方法及びこれによって得られる表面改質された無機材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、Raが−AR1のときは、Rbが−OSiR234であり、Raが−OSiR234のときは、Rbが−AR1である。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基である。R2、R3、R4、R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、エーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、スルフィド基(−S−)又はジスルフィド基(−S−S−)を含んでもよい。Bは炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。nは0〜2の整数である。)で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物が、トリオルガノシリル基により水酸基を保護しているため、蒸留や保存中も高分子化せず安定であり、使用時には脱シリル化することにより任意に水酸基を発生することができ、これを用いて無機材料等を表面処理することで、表面の撥水性、撥油性、表面滑り性の制御が可能であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供する。また、本発明は、下記の表面改質方法及びそれによって得られる無機材料を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)
【化2】

(式中、Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、Raが−AR1のときは、Rbが−OSiR234であり、Raが−OSiR234のときは、Rbが−AR1である。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基である。R2、R3、R4、R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。Bは炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
請求項2:
上記一般式(1)において、Aが−O−である請求項1記載の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
請求項3:
上記一般式(1)において、Aが−COO−である請求項1記載の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
請求項4:
下記一般式(2)
【化3】

(式中、Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、Raが−AR1のときは、Rbが−OSiR234であり、Raが−OSiR234のときは、Rbが−AR1である。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基である。R2、R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。B’は炭素数1〜8の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。)
で示される化合物と、下記一般式(3)
HSiR5n(OR63-n (3)
(式中、R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(4)
【化4】

(式中、Ra、Rb、R5、R6及びnは上記の通りであり、B”は炭素数3〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
請求項5:
請求項1〜3のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物を用いることを特徴とする無機材料の表面改質方法。
請求項6:
請求項5記載の表面改質方法により表面改質された無機材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物は、精製、保存中も安定に存在し、加水分解時は脱保護されることで加水分解も容易に行われる。また、これを用いて無機材料等の表面処理を行うことで、親水性を付与したり、表面の撥水性、撥油性、転落角や転落速度等、表面滑り性の制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】合成例1で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図2】合成例1で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図3】実施例1で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例1で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図5】合成例2で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図6】合成例2で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図7】実施例2で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図8】実施例2で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図9】合成例3で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図10】合成例3で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図11】実施例3で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図12】実施例3で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図13】合成例4で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図14】合成例4で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図15】実施例4で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図16】実施例4で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図17】合成例5で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図18】合成例5で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図19】実施例5で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図20】実施例5で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【図21】実施例6で得られた有機ケイ素化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図22】実施例6で得られた有機ケイ素化合物のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)
【化5】

(式中、Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、Raが−AR1のときは、Rbが−OSiR234であり、Raが−OSiR234のときは、Rbが−AR1である。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基である。R2、R3、R4、R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。Bは炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物である。
【0012】
上記一般式(1)中、R1は炭素数1〜18、好ましくは1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ウンデシル基、イソウンデシル基、n−ドデシル基、イソドデシル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基又はシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。また、これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部が置換基で置換されていてもよく、該置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基、シアノ基、アミノ基、芳香族炭化水素基、エステル基、エーテル基、アシル基、スルフィド基等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの置換基の置換位置は特に限定されず、置換基数も限定されない。特に、撥水性、撥油性、表面滑り性を要する場合は、炭化水素基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換される方が好ましい。
【0013】
2、R3、R4、R5及びR6は炭素数1〜10、好ましくは1〜6の1価炭化水素基であり、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基、フェニル基等が例示され、特に、メチル基、エチル基、イソプロピル基等が好ましい。
【0014】
Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10、特に1〜6の置換又は非置換の2価有機基、好ましくは2価の炭化水素基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。例えば、エーテル基、チオエーテル基、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられ、具体的には、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示され、これらの基がエーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)等を含んでもよい。特に、−O−、−COO−が好ましい。
【0015】
Bは炭素数1〜10、特に3〜10の直鎖状又は分岐状の2価有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられ、具体的には、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示され、これらの基がエーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)等を含んでもよい。より具体的には、−(CH24−、−(CH26−、−(CH28−、−CH2−O−(CH23−等が挙げられ、特に、−CH2−O−(CH23−が好ましい。
【0016】
本発明の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物を具体的に例示すると、下記化合物αや化合物βが例示されるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【0017】
【化6】

【0018】
但し、化合物α及び化合物β中のRa、Rb及びRcとしては、下記表1〜3の基が例示されるが、Raが表1記載の基から選ばれる置換基であるときRbは表2記載の基から選ばれる置換基であり、Raが表2記載の基から選ばれる置換基であるときRbは表1記載の基から選ばれる置換基である。なお、下記表中、iPrはイソプロピル基、tBuはtert−ブチル基である。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
一般式(1)で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物の製造方法は、例えば、下記一般式(2)
【化7】

(式中、Ra、Rbは上述した通りである。B’は炭素数1〜8の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。)
で示される化合物と、下記一般式(3)
HSiR5n(OR63-n (3)
(式中、R5、R6及びnは上述した通りである。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物を反応させる。上記反応により、例えば、下記一般式(4)
【化8】

(式中、Ra、Rb、R5、R6及びnは上記の通りであり、B”は炭素数3〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物を得ることができる。反応は、遷移金属触媒の存在下で行うのが好ましく、遷移金属触媒としては白金触媒が好ましい。
【0023】
B’は炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状の2価有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられ、具体的には、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示され、エーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)等を含んでもよい。具体的には、−(CH22−、−(CH24−、−(CH26−、−CH2−O−CH2−等が挙げられ、特に、−CH2−O−CH2−が好ましい。
【0024】
B”は炭素数3〜10の直鎖状又は分岐状の2価有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられ、具体的には、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示され、これらの基がエーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)等を含んでもよい。より具体的には、−(CH24−、−(CH26−、−(CH28−、−CH2−O−(CH23−等が挙げられ、特に、−CH2−O−(CH23−が好ましい。
【0025】
上記一般式(2)で示される化合物としては、具体的には、下記化合物γ、化合物δが例示されるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【化9】

【0026】
但し、化合物γ及び化合物δ中のRa及びRbは、化合物α,β中のRa及びRbと同様の組み合わせが例示される。
【0027】
上記反応で用いられる一般式(3)で示されるハイドロジェンシラン化合物としては、具体的には、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン等が例示される。
【0028】
上記一般式(4)で示される化合物の具体例は、化合物α,βと同様のものが挙げられる。
【0029】
一般式(2)で示される化合物と、一般式(3)で示されるハイドロジェンシラン化合物の配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、一般式(2)で示される化合物1モルに対し、一般式(3)で表されるハイドロジェンシラン化合物0.5〜2モル、特に0.7〜1.2モルの範囲が好ましい。
【0030】
上記反応で用いられる白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン又はキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金等が例示される。
【0031】
白金触媒の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から一般式(2)で示される化合物1モルに対し、0.000001〜0.01モル、特に0.00001〜0.001モルの範囲が好ましい。
【0032】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、0〜120℃、特に20〜100℃が好ましく、反応時間は1〜20時間、特に1〜10時間が好ましい。
【0033】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用いられる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示される。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
また、本発明における上記一般式(1)で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物の製造法として、下記一般式(5)
【化10】

(式中、Ra'及びRb'は−AR1又は−OHであり、それぞれ異なる。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基であり、Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Bは炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示される化合物を、下記トリオルガノシリル基
−SiR234
(R2、R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。)
を有するシリル化剤によってシリル化する方法も例示される。
この場合、A、B及びR1〜R6の具体例は上述した通りである。
【0035】
上記一般式(5)で示される化合物としては、具体的には、下記化合物ε、化合物ζが例示されるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【化11】

【0036】
但し、化合物ε及び化合物ζ中、Ra'及びRb'は−AR1又は−OHであり、A、R1及びRcとしては、上述した通りであり、−AR1及びRcの具体例としてはそれぞれ表1,3に記載の基が例示される。
【0037】
上記反応で用いられるシリル化剤としては、トリメチルクロロシラン、トリメチルブロモシラン、トリメチルヨードシラン、トリエチルクロロシラン、t−ブチルジメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン等のR234SiX(R2、R3、R4は上記の通りであり、Xは塩素原子等のハロゲン原子である。)で表されるトリオルガノハロシラン化合物;ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン等の(R234Si)2NH(R2、R3、R4は上記の通りである。)で表されるジシラザン、その他のシラザン化合物;ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリエチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド等のCR3C(−OSiR234)=NSiR234(Rは水素原子又はフッ素原子、R2、R3、R4は上記の通りである。)等で示されるシリルアミド化合物等が例示される。
【0038】
一般式(5)で示される化合物と、シリル化剤との配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、一般式(5)で示される化合物1モルに対し、シリル化剤を、シリル基のモル数で1〜4モル、特に1〜2モルの範囲が好ましい。
【0039】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、0〜150℃、特に20〜130℃が好ましく、反応時間は1〜20時間、特に1〜10時間が好ましい。
【0040】
上記反応は、無触媒でも進行するが、触媒を用いることもできる。用いられる触媒としては、4級アンモニウム塩や、硫酸、スルホン酸といった酸及びその誘導体やその無機塩が例示される。
【0041】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用いられる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示される。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
本発明の製造方法による有機ケイ素化合物は、その目的品質に応じて、蒸留、ろ過、洗浄、カラム分離、固体吸着剤等の各種の精製法によって更に精製して使用することもできる。触媒等微量不純物を取り除き、高純度にするためには、蒸留による精製が好ましい。
【0043】
得られた有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤、ガラス、シリコンウェハ、金属等の無機材料等の表面処理剤、高分子変性剤等として有用である。この場合、かかる用途に使用する前又は使用した後において、トリオルガノシリル基(−SiR234基)を加水分解又は加アルコール分解等の常法によって、脱離させ、それまで該トリオルガノシリル基によって保護していた水酸基を脱保護して水酸基を顕出させることができる。
【0044】
本発明の有機ケイ素化合物は、そのまま使用しても問題ないが、溶媒に希釈して用いた方が簡便で好ましい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示され、特に水、アルコール系溶媒が好ましい。用いる濃度としては、有機ケイ素化合物が、0.001〜50質量%となるように希釈して用いるとよい。
【0045】
本発明の有機ケイ素化合物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、界面活性剤、染料等から選択される他の添加剤の1種又は2種以上を添加してもよい。
【0046】
本発明の有機ケイ素化合物の用途は特に限定されるものではないが、例えば、無機材料等の表面処理剤、液状封止剤、鋳物用鋳型、樹脂の表面改質剤、高分子変性剤及び水系塗料の添加剤等を挙げることができる。
【0047】
本発明の有機ケイ素化合物を用いることで、無機材料の表面処理(表面改質)をすることが可能である。無機材料としては、金属板、ガラス板、金属繊維、ガラス繊維、粉末シリカ、粉末アルミナ、粉末タルク、粉末炭酸カルシウム等が挙げられる。また、該ガラス繊維の材料としては、Eガラス、Cガラス等の一般的に用いられる種類のガラスを用いることができる。該ガラス繊維は、その製品形態に限定されない。ガラス繊維製品は多岐にわたるが、例えば、繊維径が3〜30μmのガラス糸(フィラメント)の繊維束、撚糸、織物を挙げることができる。
【0048】
無機材料を本発明の有機ケイ素化合物を用いて処理する方法としては、一般的に用いられる方法が採用できる。即ち、本発明の有機ケイ素化合物をそのままもしくは希釈して用い、これに前記無機材料を浸漬させた後、無機材料を引き上げて乾燥する方法や、本発明の有機ケイ素化合物をそのままもしくは希釈したものを無機材料表面にスプレーした後、無機材料を乾燥する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、合成例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
【0050】
[合成例1]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、プロピオン酸30g(0.40mol)、トリエチルアミン2.0g(0.02mol)を仕込み、アリルグリシジルエーテル46g(0.40mol)を内温90〜95℃で6時間かけて滴下し、その温度で3時間撹拌した。室温まで冷却後、塩化アンモニウム0.44g(0.0083mol)を加え、ヘキサメチルジシラザン39g(0.24mol)を内温60〜70℃で2時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。得られた反応液を蒸留することで、沸点75〜76℃/0.3kPaの無色透明の留分72gを得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図1には1H−NMRスペクトルのチャート、図2にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 245,203,187,145,131,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(6)、(7)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(6):式(7)=66:34であった。
【化12】

【0051】
[実施例1]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、合成例1の留分52g(0.20mol)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含量3質量%)0.13gを仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、トリメトキシシラン20g(0.16mol)を70〜80℃で4時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点127〜128℃/0.3kPaの無色透明留分を41g得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図3には1H−NMRスペクトルのチャート、図4にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 367,293,247,203,163,121
以上の結果より、得られた化合物は下記式(8)、(9)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(8):式(9)=66:34であった。
【化13】

【0052】
[合成例2]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、ペンタン酸32g(0.31mol)、トリエチルアミン1.2g(0.012mol)を仕込み、アリルグリシジルエーテル36g(0.31mol)を内温90〜95℃で6時間かけて滴下し、その温度で3時間撹拌した。室温まで冷却後、塩化アンモニウム0.34g(0.0064mol)を加え、ヘキサメチルジシラザン31g(0.19mol)を内温60〜70℃で2時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。得られた反応液を蒸留することで、沸点101〜102℃/0.3kPaの無色透明の留分71gを得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図5には1H−NMRスペクトルのチャート、図6にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 273,231,215,199,159,131
以上の結果より、得られた化合物は下記式(10)、(11)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(10):式(11)=68:32であった。
【化14】

【0053】
[実施例2]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、合成例2の留分19g(0.071mol)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含量3質量%)0.046gを仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、トリメトキシシラン7.7g(0.063mol)を70〜80℃で4時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点143〜144℃/0.3kPaの無色透明留分を14g得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図7には1H−NMRスペクトルのチャート、図8にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 395,321,275,231,163,121
以上の結果より、得られた化合物は下記式(12)、(13)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(12):式(13)=69:31であった。
【化15】

【0054】
[合成例3]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、ノナフルオロペンタン酸51g(0.19mol)、トリエチルアミン1.0g(0.010mol)を仕込み、アリルグリシジルエーテル22g(0.19mol)を内温90〜95℃で5時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。室温まで冷却後、ビス(トリメチルシリル)トリフラート59g(0.23mol)を内温22〜30℃で2時間かけて滴下し、その温度で1時間撹拌した。得られた反応液を蒸留することで、沸点72〜73℃/0.3kPaの無色透明の留分45gを得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図9には1H−NMRスペクトルのチャート、図10にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 435,379,304,219,131,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(14)、(15)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(14):式(15)=78:22であった。
【化16】

【0055】
[実施例3]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、合成例3の留分36g(0.080mol)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含量3質量%)0.052gを仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、トリメトキシシラン7.8g(0.064mol)を70〜80℃で3時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点125〜127℃/0.3kPaの無色透明留分を27g得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図11には1H−NMRスペクトルのチャート、図12にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 541,437,393,353,221,163,121
以上の結果より、得られた化合物は下記式(16)、(17)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(16):式(17)=78:22であった。
【化17】

【0056】
[合成例4]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、ノナフルオロ−1−ヘキサノール25g(0.095mol)、トリエチルアミン0.50g(0.0040mol)を仕込み、アリルグリシジルエーテル11g(0.095mol)を内温90〜100℃で5時間かけて滴下し、その温度で12時間撹拌した。室温まで冷却後、塩化アンモニウム0.21g(0.0040mol)を加え、ヘキサメチルジシラザン9.2g(0.057mol)を内温60〜70℃で2時間かけて滴下し、その温度で1時間撹拌した。得られた反応液を蒸留することで、沸点91〜93℃/0.4kPaの無色透明の留分34.6gを得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図13には1H−NMRスペクトルのチャート、図14にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 435,393,379,227,173,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(18)、(19)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(18):式(19)=99:1であった。
【化18】

【0057】
[実施例4]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、合成例4の留分23g(0.052mol)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含量3質量%)0.036gを仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、トリメトキシシラン5.2g(0.041mol)を70〜80℃で3時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点126〜127℃/0.2kPaの無色透明留分を17g得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図15には1H−NMRスペクトルのチャート、図16にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 541,437,379,263,163,121,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(20)、(21)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(20):式(21)=99:1であった。
【化19】

【0058】
[合成例5]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、ヘキサフルオロ−2−プロパノール34g(0.20mol)、トリエチルアミン0.80g(0.0079mol)を仕込み、アリルグリシジルエーテル23g(0.20mol)を還流条件下で内温61〜95℃で8時間かけて滴下し、内温90〜95℃で8時間撹拌した。室温まで冷却後、塩化アンモニウム0.44g(0.0083mol)を加え、ヘキサメチルジシラザン19.4g(0.12mol)を内温60〜70℃で2時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。得られた反応液を蒸留することで、沸点78〜79℃/0.9kPaの無色透明の留分52gを得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図17には1H−NMRスペクトルのチャート、図18にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 339,297,255,171,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(22)、(23)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(22):式(23)=99:1であった。
【化20】

【0059】
[実施例5]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、合成例5の留分40g(0.11mol)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含量3質量%)0.076gを仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、トリメトキシシラン11g(0.090mol)を70〜80℃で3時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点121〜122℃/0.3kPaの無色透明留分を33g得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図19には1H−NMRスペクトルのチャート、図20にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 403,341,297,221,163,121,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(24)、(25)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(24):式(25)=99:1であった。
【化21】

【0060】
[実施例6]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、合成例1の留分26g(0.10mol)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含量3質量%)0.11gを仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、メチルジエトキシシラン11g(0.080mol)を70〜80℃で4時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点131〜132℃/0.3kPaの無色透明留分を23g得た。
得られた留分の1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルを測定した。図21には1H−NMRスペクトルのチャート、図22にはIRスペクトルのチャートを示した。また、質量スペクトルの結果を下記に示す。
質量スペクトル
m/z 379,349,231,203,175,133,73
以上の結果より、得られた化合物は下記式(26)、(27)の混合物であることを確認した。また、1H−NMRの結果より混合物の比は式(26):式(27)=66:34であった。
【化22】

【0061】
[実施例7〜10、比較例1〜4]
〈表面処理用有機ケイ素化合物溶液の調製と表面処理ガラス基板の作製〉
あらかじめ混合したエタノール44g、80ppm希硝酸水13gの溶液を室温で撹拌しながら、実施例1,3〜5で合成した有機ケイ素化合物A〜D又は下記化合物a〜d0.01molを徐々に添加し、室温で2時間撹拌した。得られた有機ケイ素化合物溶液中に、スライドグラスを1〜2時間浸漬し、70℃の乾燥機で2時間乾燥することで、表面処理ガラス基板を得た。
〈接触角、転落角の測定〉
傾斜法接触角計Drop Master 500(協和界面科学社製)を用いて、上記方法で作製した表面処理ガラス基板を水平に保ち、水接触角の場合は、純水1μLを滴下し、油接触角の場合は、テトラデカン5μLを滴下し、形成した液滴の接触角を測定した。
転落角の場合は、水15μLを滴下し、液滴を形成した後、表面処理ガラス基板を徐々に傾斜させ、液滴が転落し始める基板の傾斜角度(転落角)を測定した。
【0062】
実施例1,3〜5の有機ケイ素化合物A〜D及び下記シランカップリング剤a,b,c,dを用いた表面処理剤で表面処理したガラス基板を用いて測定した。試験結果を表4,5に示す。
実施例7〜10及び比較例1〜4に用いられた有機ケイ素化合物A〜D及びa〜dは次の通りである。
A:実施例1で得られた化合物
B:実施例3で得られた化合物
C:実施例4で得られた化合物
D:実施例5で得られた化合物
a:n−ブチルトリメトキシシラン
b:n−デシルトリメトキシシラン
c:3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン
d:3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
表4の結果から、本発明の有機ケイ素化合物を用いた場合、特に、化合物Aのような末端アルキル鎖の短い化合物では、無機化合物の親水化が可能であった。一方、表5の結果から、化合物B〜Dのようなフルオロアルキル基が末端にある場合では、無機化合物に撥水性、撥油性を付与でき、かつ、転落角が低いことから表面滑り性が向上することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、Raが−AR1のときは、Rbが−OSiR234であり、Raが−OSiR234のときは、Rbが−AR1である。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基である。R2、R3、R4、R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。Bは炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
【請求項2】
上記一般式(1)において、Aが−O−である請求項1記載の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
【請求項3】
上記一般式(1)において、Aが−COO−である請求項1記載の保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物。
【請求項4】
下記一般式(2)
【化2】

(式中、Ra、Rbは−AR1又は−OSiR234であり、Raが−AR1のときは、Rbが−OSiR234であり、Raが−OSiR234のときは、Rbが−AR1である。R1は炭素数1〜18の置換又は非置換の1価炭化水素基である。R2、R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。Aは2価の連結基で、−O−、−S−、−COO−又は炭素数1〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、スルフィド基又はジスルフィド基を含んでもよい。B’は炭素数1〜8の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。)
で示される化合物と、下記一般式(3)
HSiR5n(OR63-n (3)
(式中、R5及びR6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基で、各々同一又は異なっていてもよい。nは0〜2の整数である。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(4)
【化3】

(式中、Ra、Rb、R5、R6及びnは上記の通りであり、B”は炭素数3〜10の置換又は非置換の2価有機基であり、炭素原子の1個以上がO及び/又はSで置き換えられていてもよい。)
で示される保護された水酸基を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物を用いることを特徴とする無機材料の表面改質方法。
【請求項6】
請求項5記載の表面改質方法により表面改質された無機材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−51926(P2011−51926A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201738(P2009−201738)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】