説明

保護シートおよびその利用

【課題】保護シート(特にメッキマスキング用保護シート)としての性能と作業性とを高度なレベルで両立させた保護シートを提供すること。
【解決手段】
本発明の保護シートは、基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える。前記粘着剤層は、架橋剤と架橋促進剤とを含むアクリル系粘着剤組成物から形成される。前記保護シートの温度80℃におけるMDについての曲げ剛性値DM80、およびTDについての曲げ剛性値DT80の合計値DS80は、0.1×10−6〜1.2×10−6Pa・mである。前記粘着剤層につき、周波数1Hzで測定される100℃における貯蔵弾性率G’は0.230×10Pa〜10×10Paである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護シートに関し、特に金属をメッキする際にメッキを施さない部分をメッキ液から保護するメッキマスキング用保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板(プリント基板、フレキシブルプリント基板(FPC)等)の接続端子部等を部分的にメッキする方法として、メッキを施さない部分(非メッキ部分)に粘着(感圧接着ともいう。以下同じ。)シートを貼り付けて当該部分をメッキ液から保護した状態でメッキ処理を行う方法が用いられている。かかる態様で用いられる粘着シート(メッキマスキング用保護シート)は、典型的には、メッキ液を透過させない樹脂フィルムを基材とし、該基材の片面に粘着剤層が設けられた構成を有する。この種の保護シートに関する技術文献として特許文献1が挙げられる。また、粘着シートに関連する他の技術文献として特許文献2(光学フィルム用粘着シート)、特許文献3(両面接着テープ)および特許文献4(ウェハ加工用テープ)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−115591号公報
【特許文献2】特開2007−138057号公報
【特許文献3】特開2004−137436号公報
【特許文献4】特開2005−203749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような基板表面には、先に形成された回路による複雑かつ微細な凹凸が存在し得る。かかる基板表面の非メッキ部分を覆うための保護シート(メッキマスキング用保護シート)には、シート外縁から非メッキ部分へのメッキ液浸入を防止するために、該非メッキ部分の表面形状に追従し、浮きや剥がれなく密着する性質(表面形状追従性;密着性(コンフォーマビリティ))が求められる。しかし、密着性を高めるために、例えば、薄い基材や柔軟性の高い基材を使用すると、保護シートのコシ(硬度)が弱くなり、該保護シートを被着体から剥離する際、剥離が重くなったり、該シート自体に裂けや千切れが生じやすくなったりして、剥離時の作業性が低下しがちである。かかる作業性の低下は、保護シートを使用した製品(例えば、該保護シートによるメッキマスキング過程を経て製造される回路基板)の生産性を低下させる要因となり得る。
【0005】
そこで本発明は、保護シート(特にメッキマスキング用保護シート)としての性能(例えば密着性)と作業性(例えば、被着体から剥離する際における作業性)とを高度なレベルで両立させた保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える保護シートが提供される。その粘着剤層は、架橋剤と架橋促進剤とを含むアクリル系粘着剤組成物から形成される。この保護シートは、特性(A):80℃における該保護シートの流れ方向(MD;典型的には基材のMD)についての曲げ剛性値をDM80、および当該流れ方向に対して垂直方向(TD(幅方向);典型的には基材のTD)についての曲げ剛性値をDT80としたとき、これらDM80,DT80の合計値DS80が0.1×10−6〜1.2×10−6Pa・mである;を満たすことを特徴とする。ここで、所定温度における保護シートの所定方向についての曲げ剛性値D(Pa・m)は、当該所定方向についての該保護シートの引張弾性率E、その基材の厚みh、および該基材のポアソン比Vに基づいて、式:D=Eh/12(1−V);により求められる値として定義される。上記保護シートは、さらに、特性(B):当該粘着剤層につき周波数1Hzで測定される100℃における貯蔵弾性率G’が0.230×10Pa〜10×10Paの範囲にある;を満たすことを特徴とする。
【0007】
かかる保護シートは、DS80が0.1×10−6Pa・m以上であることから、適度な硬度(コシの強さ)を有する。したがって、保護シートを被着体の所定位置(例えば、回路基板の非メッキ部分)に載置する際に、該保護シートが縒れたり皺になったりしにくいので作業性が良い。また、被着体から保護シートを剥離する際に、保護シート自体の弾性力(曲げ変形に対して元の形状に戻ろうとする力)を剥離力の一部として利用することができるので作業性が良い。また、DS80が1.2×10−6Pa・m以下であることから、保護シートを高温(例えば60〜120℃程度、典型的には90〜120℃)で被着体に圧着することにより、上記保護シートを被着体の表面形状に沿って良く密着させることができる。さらに、上記保護シートは、その粘着剤層が、架橋剤と架橋促進剤とを含むアクリル系粘着剤組成物から形成され、粘着剤層の100℃貯蔵弾性率G’が0.230×10Pa〜10×10Paの範囲にあることから、熱圧着により被着体に密着させても、該被着体からの剥離が重くなりすぎない。したがって、剥離時の作業性にも優れる。
【0008】
上記基材は、ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。上記架橋剤は、イソシアネート系架橋剤であることが好ましい。また、上記架橋促進剤は、錫(Sn)含有化合物であることが好ましい。
【0009】
ここに開示される保護シートの一態様において、上記粘着剤層は、ガラス転移温度(Tg)が−35℃以上(典型的には、−35℃〜−10℃、例えば−30℃〜−10℃)であることが好ましい。このように汎用の粘着剤よりも高めのTgを有し、比較的硬質な粘着剤層によると、密着性を向上させるために柔軟な基材を用いて保護シートを形成した場合であっても、十分な強度が実現され、保護シートを剥離する際に該シートに裂けや千切れが起こりにくいため好ましい。かかるTgを有する粘着剤層によると、また、上記範囲の100℃貯蔵弾性率G’が実現されやすい。
なお、粘着剤層のTg(℃)としては、市販の粘弾性測定装置(例えば、TAインストルメント社製の型式「ARES」)を用いて、以下のようにして測定される値を採用することができる。すなわち、後述する貯蔵弾性率測定と同様にして厚さ2mmの測定用サンプルを形成し、これを直径7.9mmの円柱状に打ち抜き、直径7.9mmパラレルプレートの治具に固定して、上記粘弾性測定装置により以下の測定条件にて損失弾性率G”の温度依存性を測定し、得られたG”カーブが極大となる温度をTg(℃)とする。測定条件は下記の通りである。
・測定:せん断モード
・温度範囲:−70℃〜150℃
・昇温速度:5℃/min
・周波数:1Hz
【0010】
一態様において、上記粘着剤組成物は、ベースポリマー(主たる粘着性成分)として、エマルション重合により得られたアクリル系重合体を含むことが好ましい。かかる粘着剤組成物によると、100℃貯蔵弾性率G’が上記範囲にある粘着剤層が効率的に実現され得る。
【0011】
他の一態様において、上記保護シートは、さらに特性(C):温度120℃、圧力0.34MPa、加圧時間5秒の条件で評価用被着体に圧着した後、温度50℃で24時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で該被着体から剥離して測定される剥離強度PSHPが0.1〜1.0N/10mmである;を満たすことを特徴とする。かかる保護シートは、被着体に熱圧着されて良好な接着性を示し、且つ、剥離時に被着体の表面形状を損なわず、また該保護シート自体の裂け・千切れ等による作業効率の低下を招くことなく該被着体から剥離され得る。
【0012】
他の好ましい一態様において、上記保護シートは、さらに特性(D):温度25℃におけるMDについての引張弾性率をEM25とし、TDについての引張弾性率をET25としたとき、これらEM25,ET25の合計値ES25が50〜9000MPaである;を満たすことを特徴とする。かかる保護シートは、被着体に対する密着性により優れ、貼付時および剥離時における作業性がより良好なものであり得る。
【0013】
さらに他の好ましい一態様において、上記保護シートは、さらに特性(E):温度25℃におけるMDへの10%延伸時張力をTM25とし、TDへの10%延伸時張力をTT25としたとき、これらTM25,TT25の合計値TS25が8〜60N/10mmである;を満たすことを特徴とする。かかる保護シートは、取扱時に過剰な伸縮が起こり難く、より優れた寸法安定性を示し得る。
【0014】
ここに開示されるいずれかの保護シートは、金属をメッキする際に非メッキ部分に貼り付けられて当該部分をメッキ液から保護するメッキマスキング用保護シートとして好適である。かかるメッキマスキング用保護シートは、例えば、回路基板の接続端子部分を部分的にメッキする工程において好ましく使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る保護シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る保護シートの他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】密着性の評価方法を説明する正面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】剥離時の耐久性評価試験において用いる試験片を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
ここに開示される保護シートは、基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える。本発明により提供される保護シートの典型的な構成例を図1に模式的に示す。この保護シート10は、樹脂製のシート状基材1と、その一方の面(片面)に設けられた粘着剤層2とを備え、該粘着剤層2を被着体の所定箇所(保護対象部分、例えばメッキマスキング用保護シートの場合にはメッキを施さない部分)に貼り付けて使用される。使用前(すなわち、被着体への貼付前)の保護シート10は、典型的には図2に示すように、粘着剤層2の表面(貼付面)が、少なくとも粘着剤層2側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された形態であり得る。あるいは、基材1の他面(粘着剤層2が設けられる面の背面)が剥離面となっており、保護シート10がロール状に巻回されることにより該他面に粘着剤層2が当接してその表面が保護された形態であってもよい。
【0018】
本明細書における保護シートの80℃合計曲げ剛性値DS80は、80℃における該保護シートの第一方向(典型的にはMD)についての曲げ剛性値DM80と、同温度における該保護シートの前記第一方向に垂直な第二方向(典型的にはTD)についての曲げ剛性値DT80との和として定義される。DM80は、基材の厚みをhおよび該基材のポアソン比をVとし、保護シートの80℃における第一方向(MD)についての引張弾性率をEM80として、式:DM80=EM80/12(1−V);により求められる値である。DT80は、保護シートの80℃における第二方向(TD)についての引張弾性率をET80として、同様に、式:DT80=ET80/12(1−V);により求められる値である。
【0019】
保護シートのMD引張弾性率EM80は、該保護シートからそのMDに沿って所定幅の試験片を切り出し、JIS K7161に準拠して、温度80℃にて該試験片を引張速度300mm/分の条件でMDに延伸して得られた応力―ひずみ曲線の線形回帰から算出することができる。TD引張弾性率ET80は、保護シートからそのTDに沿って所定幅に切り出した試験片を用いて、同様にして算出することができる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載した引張弾性率測定方法に従って所定温度において測定される値を採用することができる。ポワソン比Vは、基材の材質によって定まる値(無次元数)であって、該材質が樹脂である場合には、通常、Vの値として0.35を採用することができる。なお、粘着剤層の引張弾性率は基材の引張弾性率に比べ非常に小さいため、保護シートの引張弾性率は、基材の引張弾性率と略同等となり得る。したがって、本明細書において、保護シートの引張弾性率Eは、該保護シートを構成する基材の断面積当たりに換算した値をいうものとする。該基材の断面積は、基材の厚みに基づき算出される。基材の厚みは、保護シートの厚みの実測値から粘着剤層の厚みを差し引いた値とする。
【0020】
ここに開示される保護シートの80℃合計曲げ剛性値DS80は、1.2×10−6Pa・m以下(典型的には0.1×10−6〜1.2×10−6Pa・m)である。DS80が大きすぎると、保護シートを高温(例えば60〜120℃程度)で被着体に圧着しても、該保護シートを被着体表面の形状に十分に追従させ難くなる傾向にある。このため、保護シートの密着性が不足しがちである。ここに開示される保護シートの一態様では、該保護シートのDS80が0.10×10−6Pa・m以上(典型的には0.25×10−6Pa・m以上、通常は0.50×10−6Pa・m以上)である。
【0021】
ここに開示される保護シートの好ましい一態様では、該保護シートの25℃におけるMDについての引張弾性率EM25とTDについての引張弾性率ET25との合計値ES25が、50MPa以上であり、より好ましくは800MPa以上であり、さらに好ましくは1000MPa以上(例えば1100MPa以上)である。かかる保護シートは、常温環境下における取扱性に優れたものとなりやすい。好ましい一態様では、該保護シートのES25が、9000MPa以下である。例えば、8000MPa以下であってもよく、典型的には4000MPa以下(例えば2000MPa以下)である。かかる保護シートは、DS80が適度な値となりやすく、したがって密着性に優れたものとなりやすい。ES25が小さすぎると、取扱性が低下することがある。ES25が大きすぎると、十分な密着性が得られないことがある。
【0022】
上記基材としては、各種の樹脂フィルム(典型的には、熱可塑性樹脂を主成分とするフィルム)を採用し得る。例えば、本発明に係る保護シートがメッキマスキング用保護シートである場合には、想定されるメッキ液に対して耐性を有する樹脂材料からなるフィルムが好ましい。基材を構成する樹脂成分の好適例として、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリウレタン樹脂(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、アクリル樹脂等が挙げられる。このような樹脂の一種類を単独で含む樹脂材料からなる基材であってもよく、二種以上がブレンドされた樹脂材料からなる基材であってもよい。基材の構造は、単層であってもよく、二層以上の多層構造(例えば三層構造)であってもよい。多層構造の樹脂フィルムにおいて、各層を構成する樹脂材料は、上述のような樹脂の一種類を単独で含む樹脂材料であってもよく、二種以上の樹脂がブレンドされた樹脂材料であってもよい。
【0023】
好ましい一態様において、上記基材は、単層または多層のポリオレフィン樹脂フィルムである。ここで、ポリオレフィン樹脂フィルムとは、該フィルムを構成する樹脂成分のうちの主成分がポリオレフィン樹脂(すなわち、ポリオレフィンを主成分とする樹脂)であるフィルムをいう。樹脂成分が実質的にポリオレフィン樹脂からなるフィルムであってもよい。あるいは、樹脂成分として、主成分(例えば50質量%以上を占める樹脂成分)としてのポリオレフィン樹脂に加えて、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂成分(PA,PC,PU,EVA等)を含む樹脂材料から形成されたフィルムであってもよい。ポリオレフィン樹脂としては、一種類のポリオレフィンを単独で、または二種以上のポリオレフィンを組み合わせて用いることができる。該ポリオレフィンは、例えば、α−オレフィンのホモポリマー、二種以上のα−オレフィンのコポリマー、一種または二種以上のα−オレフィンと他のビニルモノマーとのコポリマー、等であり得る。具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ブテンコポリマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン−エチルアクリレートコポリマー、等が挙げられる。低密度(LD)ポリオレフィンおよび高密度(HD)ポリオレフィンのいずれも使用可能である。
【0024】
上記基材には、保護シートの用途に応じた適宜の成分を必要に応じて含有させることができる。例えば、ラジカル捕捉剤や紫外線吸収剤等の光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料等)、充填材、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の添加剤を適宜配合することができる。光安定剤の例としては、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類、ベンゾエート類等を有効成分とするものが挙げられる。酸化防止剤の例としては、アルキルフェノール類、アルキレンビスフェノール類、チオプロピレン酸エステル類、有機亜リン酸エステル類、アミン類、ヒドロキノン類、ヒドロキシルアミン類等を有効成分とするものが挙げられる。このような添加剤は、それぞれ、一種のみを単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の配合量は、保護シートの用途(例えば、メッキマスキング用)に応じて、当該用途において基材として用いられる樹脂フィルムの通常の配合量と同程度とすることができる。
【0025】
このような基材(樹脂フィルム)は、従来公知の一般的なフィルム成形方法(押出成形、インフレーション成形等)を適宜採用して製造することができる。基材のうち粘着剤層が設けられる側の表面(粘着剤層側表面)には、該粘着剤層との接着性を向上させるための処理、例えばコロナ放電処理、酸処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗剤(プライマー)塗布等の表面処理が施されていてもよい。基材のうち上記粘着剤層側表面とは反対側の面(背面)には、必要に応じて、帯電防止処理、剥離処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0026】
基材の厚みは、保護シートの用途および使用する樹脂フィルムのコシの強さ(硬度)等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚み10μm〜80μm程度の基材を採用することができ、通常は厚み20μm〜70μm程度(典型的には20μm〜50μm、例えば25μm以上40μm未満)の基材を用いることが適当である。基材の厚みが上記範囲よりも大きすぎると、密着性が低下する場合がある。基材の厚みが上記範囲よりも小さすぎると、貼付時や剥離時の取扱性が低下する場合がある。
【0027】
上述のように、所定温度における保護シートの所定方向についての引張弾性率Eは、基材の該所定方向についての引張弾性率Eと略同等であり得る。したがって、基材の25℃におけるMD引張弾性率とTD引張弾性率との合計値をESubS25として、ESubS25が上述した保護シートのES25の好ましい範囲と略同等となるよう基材を選択することにより、ES25が上記好ましい範囲にある保護シートを、好適に形成することができる。
【0028】
引張弾性率に基づき算出される曲げ剛性値Dについても、同様に、保護シートの所定方向についてのDは、基材の該所定方向についてのDと略同等であり得る。したがって、基材の80℃におけるMD曲げ剛性値とTD曲げ剛性値との合計値をDSubS80として、DSubS80が上記保護シートのDS80の範囲と略同等となるように基材を選択することにより、DS80が上記所定範囲にある保護シートを、好適に形成することができる。
【0029】
上記基材上に設けられる粘着剤層は、100℃における貯蔵弾性率G’が0.230×10Pa〜10×10Paの範囲にあることを特徴とする。G’は、0.230×10Pa〜1.0×10Pa(例えば0.3×10Pa〜0.5×10Pa)の範囲にあることが好ましい。上記貯蔵弾性率G’の測定周波数は1Hzとする。この貯蔵弾性率は、例えば、厚み2mmの粘着剤層サンプルを、一般的な粘弾性測定装置のパラレルプレート(直径7.9mm)と平板との間にセットして、上記周波数にて剪断モードで測定することができる。測定温度域および昇温速度は、粘弾性測定装置の機種等に応じて適切に設定すればよい。例えば、測定温度としては少なくとも50℃〜130℃の範囲を含む温度域(例えば15℃〜150℃)とすることができ、昇温速度は0.5℃〜15℃/分(例えば5℃/分)程度とすることができる。
【0030】
上記粘着剤層を形成するために用いられるアクリル系粘着剤組成物は、ベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、主たる粘着性成分)として、アクリル系重合体を含む。該アクリル系重合体は、典型的には、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含むモノマー混合物の共重合体である。該モノマー混合物は、これら主モノマーおよび副モノマーに加えて、他のモノマーを任意に含み得る。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0031】
上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH=C(R)COOR (1)
ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基(以下、このような炭素原子数の範囲を「C1−20」と表すことがある。)である。粘着剤の貯蔵弾性率等の観点から、RがC1−14のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、RがC1−10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0032】
上記C1−20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートとして、n−ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が例示される。例えば、これらの一種または二種以上が合計50質量%以上の割合で共重合されたアクリル系重合体が好ましい。
【0033】
上記副モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート共重合可能であって、且つ上記粘着剤組成物から形成される粘着剤(粘着剤層)に架橋点を導入可能な官能基を少なくとも一つ有するモノマーを用いることができる。典型的には、側鎖にヒドロキシル基、シラノール基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、メルカプト基、クロロスルホン基等の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを用いる。中でも、ヒドロキシル基含有モノマーの使用が好ましい。
【0034】
ヒドロキシル基含有モノマーの好ましい例として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、[4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。特に好ましい例として、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。
【0035】
上記モノマー混合物に含まれる副モノマーの量は、所望の架橋度に応じて適宜選択すればよく、例えば、全モノマー成分100質量部に対して、1〜10質量部程度とすることができる。
【0036】
上記モノマー混合物に含まれ得る任意のモノマーとしては、上記主モノマーおよび上記副モノマーの少なくとも一方(典型的には両方)と共重合可能な各種のエチレン性不飽和モノマーが使用され得る。
【0037】
上記モノマー混合物を重合する方法は特に制限されず、従来公知の一般的な重合方法(エマルション重合、溶液重合等)を採用することができる。例えば、エマルション重合を好ましく採用し得る。エマルション重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的なエマルション重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー混合物を重合容器に一度に供給する方法、連続的に滴下する方法、分割して供給(滴下)する方法等のいずれも採用可能である。モノマー混合物の一部または全部をあらかじめ適当な界面活性剤の存在下で水と乳化させ、その乳化液を反応容器に供給してもよい。
【0038】
重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、置換エタン系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が例示されるが、これらに限定されない。
アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が例示される。
過酸化物系開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。
置換エタン系開始剤としては、フェニル置換エタン等が例示される。
レドックス系開始剤としては、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等が例示される。
【0039】
重合開始剤の使用量は、該開始剤の種類やモノマーの種類(モノマー混合物の組成)等に応じて適宜選択できるが、通常は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば0.005〜1質量部程度の範囲から選択することが適当である。
重合開始剤の供給方法としては、使用する重合開始剤の実質的に全量をモノマー混合物の供給開始前に反応容器に入れておく(典型的には、反応容器内に該重合開始剤の水溶液を用意する)一括仕込み方式、連続供給方式、分割供給方式等のいずれも採用可能である。重合操作の容易性、工程管理の容易性等の観点から、例えば一括仕込み方式を好ましく採用することができる。
重合温度は、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度とすることができる。
【0040】
乳化剤(界面活性剤)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を使用できる。アニオン系乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量(固形分基準)は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0041】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。
【0042】
上記アクリル系粘着剤組成物は、ベースポリマーとしての上記アクリル系重合体に加えて、架橋剤をさらに含む。架橋剤の種類は特に制限されず、粘着剤分野で通常使用される各種架橋剤のなかから、上記副モノマーの架橋性官能基に応じて適宜(例えば、上記副モノマーの架橋性官能基に応じて)選択して使用することができる。具体例としては、イソシアネート系架橋剤、シラン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。例えば、上記副モノマーとしてヒドロキシル基含有モノマーを用いた場合、イソシアネート系架橋剤が好ましく使用され得る。上記粘着剤組成物に含まれる架橋剤の量は、上記アクリル系重合体100質量部に対し、例えば、2〜10質量部程度(好ましくは3〜7質量部程度)とすることができる。
【0043】
上記アクリル系粘着剤組成物は、架橋促進剤をさらに含む。架橋促進剤の種類は、使用する架橋剤の種類に応じて適宜選択することができる。なお、本明細書において、架橋促進剤とは、架橋剤による架橋反応の速度を高める触媒を指す。かかる架橋促進剤としては、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、テトラ−n−ブチル錫、トリメチル錫ヒドロキシド等の錫(Sn)含有化合物;N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミンやトリエチルアミン等のアミン類、イミダゾール類等のN含有化合物;等が例示される。なかでも、Sn含有化合物が好ましい。これら架橋促進剤の使用は、上記副モノマーとしてヒドロキシル基含有モノマーを用い、かつ架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を用いた場合に特に効果的である。上記粘着剤組成物に含まれる架橋促進剤の量は、上記アクリル系重合体100質量部に対し、例えば、0.001〜0.5質量部程度(好ましくは0.001〜0.1質量部程度)とすることができる。
【0044】
上記粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、粘度調整剤、レベリング剤、可塑剤、充填材、着色剤(顔料、染料等)、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、粘着剤分野において一般的に使用される各種添加剤が例示される。このような添加剤の配合量は、保護シートの用途(例えばメッキマスキング用)に応じて、当該用途において粘着剤層の形成(保護シートの製造)に用いられる粘着剤組成物の通常の配合量と同程度とすることができる。
【0045】
上記粘着剤組成物の形態は特に限定されない。例えば、溶剤型、エマルション型、水溶液型、活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化型、ホットメルト型、等の種々の形態であり得る。典型的には、上記アクリル系重合体を、他の成分(架橋剤、架橋促進剤等)とともに適当な溶媒に溶解または分散させることにより調製される。例えば、エマルション重合後、必要に応じてpH調整、塩析、精製等の処理を施して得られたアクリル系重合体を、架橋剤、架橋促進剤、および必要に応じて各種の添加剤等(任意成分)とともに、トルエン、酢酸エチル等の有機溶媒に溶解させて得られる溶剤型粘着剤組成物であってもよい。
【0046】
粘着剤層を基材上に設ける方法としては、上記粘着剤組成物を基材に直接付与(典型的には塗布)して硬化処理する方法(直接法);剥離性を有する表面(剥離面)に上記粘着剤組成物を付与して硬化処理することにより該表面上に粘着剤層を形成し、この粘着剤層を基材に貼り合わせて該粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)等を用いることができる。上記硬化処理は、乾燥(加熱)、冷却、架橋、追加の共重合反応、エージング等から選択される一または二以上の処理であり得る。例えば、溶媒を含む粘着剤組成物を単に乾燥させるだけの処理(加熱処理等)や、加熱溶融状態にある粘着剤組成物を単に冷却する(固化させる)だけの処理も、ここでいう硬化処理に含まれ得る。上記硬化処理が二以上の処理(例えば、乾燥および架橋)を含む場合、これらの処理は、同時に行ってもよく、多段階に亘って行ってもよい。
【0047】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。該組成物が塗布される支持体の種類にもよるが、例えば凡そ40〜150℃程度の乾燥温度を採用することができる。なお、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して粘着剤層を形成してもよく、剥離ライナー上に予め形成した粘着剤層を基材に積層(転写)してもよい。乾燥後、架橋反応がさらに進むよう、40〜60℃程度で保持するエージング処理を施してもよい。エージング時間は、所望の架橋度や架橋反応の進行速度に応じて適宜選択すればよく、例えば12時間〜72時間程度とすることができる。
【0048】
粘着剤層の厚みは、例えば1μm〜100μm程度であり得る。通常は、上記粘着剤層の厚みを5μm〜40μm(例えば10μm〜20μm)程度とすることが好ましい。例えば、メッキマスキング用保護シートに具備される粘着剤層の厚みとして、上記範囲を好ましく採用することができる。
【0049】
本明細書における保護シートの熱圧着時剥離強度(熱圧着時粘着力)PSHPは、該保護シートを、温度120℃、圧力0.34MPa、加圧時間5秒の条件で評価用被着体に圧着し、温度50℃で24時間保持した後に、温度25℃、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で該被着体から剥離して測定される値として定義される。好ましい一態様では、PSHPが凡そ0.1〜1.0N/10mmである。PSHPが高すぎると、熱圧着時の軽剥離性が低下する場合がある。PSHPが低すぎると、熱圧着しても十分な接着性が実現されない場合がある。例えば、メッキ前の一般的な回路基板表面においては、ポリイミド(PI)基板が露出している部分が多く存在する。PSHPが上記範囲にある保護シートは、PIに熱圧着された際の接着性と軽剥離性とのバランスに優れることから、回路基板にメッキを施す際に非メッキ部分を保護する用途に好適である。上記熱圧着時粘着力PSHPは、詳しくは、以下のようにして測定された値を採用するものとする。
【0050】
[熱圧着時剥離強度PSHPの測定]
基材のMD(流れ方向、典型的には基材の長手方向)を長手方向として10mm×60mmにカットした保護シートから剥離ライナーを除去し、露出した粘着剤層を、被着体としての15mm×60mmにカットした評価用被着体に重ね合わせ、83gの小型ハンドローラを自重のみで一往復させて仮貼りする。これを、適当なゴムシート2枚の間にはさみ、ゴムシートの上(保護シート側)から、温度120℃、圧力0.34MPa、加圧時間5秒間の条件でプレスして、上記保護シートを上記被着体に熱圧着させる。このとき、溶融した保護シートの粘着剤がゴムシートに貼り付かないよう、シリコーン等による剥離処理が施されたPETフィルム等を、保護シートとゴムシートの間および被着体とゴムシートの間に介在させるとよい。保護シートが熱圧着された被着体を、50℃で24時間保持した後、両面粘着テープを用いてステンレス板(SUS430BA)に固定する。次いで、該保護シートを、JIS Z0237に準じて、温度25℃、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で、SUS板に固定された該被着体から引き剥がし、そのときの剥離強度をPSHP(N/10mm)として測定する。
【0051】
上記評価用被着体としては、銅箔がエッチングアウトされ該銅箔をFPCに固定していた接着剤層が露出したFPC表面(エッチングアウト後のPI基板表面;基板表面の他の部分よりも比較的粘着力が高い表面)に対して保護シートを貼付する場合を想定し、かかるFPC表面と同等の粘着性表面を有するPI板を用いる。ここでは、アルキルアクリレート・アクリロニトリル・アクリル共重合物(東レコーテックス社製、商品名「レオコートR−7000」)100質量部、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(ジャパン・エポキシレジン社製、商品名「jER 1001」)30質量部、フェノール樹脂(住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジン PR−51283」)30質量部を含む厚み25μmの粘着剤層が、PIフィルム(東レ・デュポン社製、商品名「カプトン 200H」)の片面に設けられたものを用いるものとする。
【0052】
ここに開示される保護シートの典型的な態様では、25℃における該保護シートのMDへの10%延伸時張力TM25と、MDと直交するTDへの10%延伸時張力TT25とを合計したTS25が、8N/10mm以上(典型的には8〜100N/10mm)である。TS25が、12N/10mm以上であってもよく、さらに14N/10mm以上であってもよい。かかる保護シートによると、より良好な寸法安定性が実現され得る。TS25の上限は特に限定されない。例えば、TS25が100N/10mm以下(典型的には60N/10mm以下、通常は30N/10mm以下)の保護シートであり得る。TM25,TS25は、JIS K7127に準拠して、温度25℃にて、各測定方向に沿って切り出された幅10mmの試験片を引張速度300mm/分の条件で10%延伸したときの引張張力をいう。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載した10%延伸時張力測定方法に従って得られる値を採用することができる。
【0053】
ここに開示される保護シートの典型的な態様では、25℃における該保護シートのMDについての引裂き強度SM25と、MDと直交するTDについての引裂き強度ST25とを合計したSS25が、3.0N以上である。かかる保護シートは、所望の裂けにくさを有することから、より優れた取扱性が実現され得る。例えば、保護シートを被着体から剥がす際、該保護シートに裂け等が生じにくいので、より良好な剥離作業性が実現され得る。SS25が5.0N以上であることが好ましく、6.0N以上(例えば7.0N以上)であることがより好ましい。SS25の上限は特に限定されない。ここに開示される保護シートの一態様では、SS25が20N以下(例えば15N以下である。)。SM25,ST25は、JIS K6772に準拠して、温度25℃にて試験片を測定方向に引き裂いた時の最大荷重として求められる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載した引裂き強度測定方法に従って得られる値を採用することができる。
【0054】
ここに開示される保護シートの一態様では、25℃における該保護シートのMDについての破断強度HM25と、MDと直交するTDについての破断強度HT25とを合計したHS25が、18N/10mm以上であることが好ましい。かかる保護シートは、所望の引き千切れにくさを有することから、より取扱性に優れたものとなり得る。例えば、保護シートを被着体から剥がす際、保護シートに千切れ等が生じにくいことから、より良好な剥離作業性が実現され得る。HS25が、20N/10mm以上であることがより好ましく、30N/10mm以上であることがさらに好ましい。HS25の上限は特に限定されない。ここに開示される保護シートの一態様では、HS25が140N/10mm以下であり、典型的には100N/10mm以下(例えば50N/10mm以下)である。HM25,HT25は、JIS K7161に準拠して、測定温度25℃にて試験片を各測定方向に、該試験片が千切れるまで引っ張ったときの最大荷重として求められる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載した破断強度測定方法に従って得られる値を採用することができる。
【0055】
ここに開示される保護シートは、粘着剤層の表面(粘着面、すなわち保護対象物に貼り付けられる側の表面)上に剥離ライナーが配置された形態であり得る。このような形態の保護シート(剥離ライナー付き保護シート)は、例えば、メッキマスキング用保護シートにおいて好ましく採用され得る。これは、一般にメッキマスキング用保護シートは該保護シートをマスキング範囲(すなわち保護対象領域)に応じた形状に打ち抜いた上で被着体に貼り付けられるところ、粘着剤層上に剥離ライナーを有する形態の保護シート(剥離ライナー付き保護シート)によれば上記打ち抜き操作を効率よく行い得るためである。打ち抜かれた剥離ライナー付き保護シートは、その後、剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させ、該粘着面を被着体に圧着して使用される。
【0056】
上記剥離ライナーとしては、各種の紙(表面に樹脂がラミネートされた紙であり得る)、樹脂フィルム等を特に限定なく用いることができる。剥離ライナーとして樹脂フィルムを用いる場合、該樹脂フィルムを構成する樹脂成分の好適例としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂(PET等)、PA、PC、PU等が挙げられる。このような樹脂の一種類を単独で含む樹脂材料からなる樹脂フィルムであってもよく、二種以上の樹脂(例えば、PEとPP)がブレンドされた樹脂材料からなる樹脂フィルムであってもよい。該樹脂フィルムの構造は、単層であってもよく、二層以上の多層構造であってもよい。このような剥離ライナー用樹脂フィルムは、基材用の樹脂フィルムと同様に、一般的なフィルム成形方法を適宜採用して製造され得る。
【0057】
剥離ライナーの厚みは特に限定されず、例えば凡そ5μm〜500μm(好ましくは凡そ10μm〜200μm、例えば凡そ30μm〜200μm)であり得る。該剥離ライナーの剥離面(粘着面に接して配置される面)には、必要に応じて、従来公知の剥離剤(例えば、一般的なシリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系等)による剥離処理が施されていてもよい。上記剥離面の背面は、剥離処理されていてもいなくてもよく、剥離処理以外の表面処理が施されていてもよい。
【0058】
ここに開示される保護シートは、メッキマスキング用保護シートとして好適である。例えば、処理対象物の一部に金属(典型的には、金、ニッケル等のような高導電性金属)をメッキ(例えば電解メッキ)する際に、非メッキ部分に貼り付けられて、該非メッキ部分をメッキ液から保護する用途に好ましく使用され得る。かかるメッキマスキング用保護シートは、例えば、回路基板(プリント基板、FPC等)の一部(例えば接続端子部分)を部分的にメッキする工程において好ましく使用され得る。本発明に係る保護シートは、良好な密着性を有することから、非メッキ部分へのメッキ液の浸み込みを抑えて精度よくメッキを施すことができる。該保護シートは、例えば、後述する実施例に記載の密着性試験において、メッキ液の浸み込みを許すほどの隙間が確認できないレベルの密着性を示し得る。また、ここに開示される保護シートは取扱性に優れる。例えば該保護シートを非メッキ部分に貼り付ける際や、メッキ後に保護シートを剥がす際における作業性が良い。したがって、本発明に係る保護シートを用いてメッキマスキングを行うことにより、より高品質な回路基板を効率よく製造することができる。
なお、本発明に係る保護シートは、上記のように金属メッキを施さない部分をメッキ液から保護する用途に限定されず、例えば、回路パターンを形成する際に非処理面を処理液から保護(マスキング)する用途等にも好適に用いることができる。
【0059】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0060】
[保護シートの作製]
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計、攪拌装置を備えた反応容器に、ブチルアクリレート64部、メチルメタアクリレート33部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3部、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(乳化剤)1.5部、および水100部を加え、80℃で5時間乳化重合させた。重合終了後、この反応液に15%濃度のアンモニア水を添加してpH7.0に調整し、固形分濃度50%のアクリル系重合体エマルションを得た。
このエマルションに塩酸を添加して塩析させ、その凝集物を水洗し、乾燥させて、アクリル系重合体を得た。このアクリル系重合体をトルエンに溶解させた溶液に、該重合体100部に対してイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製品、商品名「コロネートL」)5部およびジ−オクチル錫ジラウレート(東京ファインケミカル社製、商品名「エンビライザー OL−1」)0.05部を添加し、さらに塗工しやすい固形分濃度となるようトルエンで希釈して本例の粘着剤組成物を得た。
PP80部(樹脂密度0.905の結晶性ホモポリプロピレン(HPP)40部/樹脂密度0.900のランダムポリプロピレン(RPP)40部)とPE(東ソー社製、商品名「ペトロセン205」)10部、EPR(三井化学社製、商品名「タフマーP0180」)10部を、Tダイ法にて押出し、PP/PE/EPRブレンド物からなる厚さ35μmのフィルム(PP/PE/EPRフィルム)を作製し、その片面にコロナ放電処理を施して基材を得た。これを二枚用意した。一枚目の基材のコロナ放電処理面に上記粘着剤組成物を塗付し、80℃で1分間乾燥させて、厚み約15μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層に二枚目の基材の未処理面を貼り合わせて50℃で2日間保持した後、該二枚目の基材を除去し、露出した粘着剤層に剥離ライナーを貼り合わせて、本例の保護シートを得た。
上記剥離ライナーとしては、各面に厚さ20μmのPE層がラミネートされた厚さ115μmの上質紙の片面(剥離面)にシリコーン系剥離剤を付与したものを用いた。
【0061】
<例2>
厚み30μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(サントックス社製CPPフィルム 品番「MK72」)の片面にコロナ放電処理を施して基材を得た。該基材を用いた他は例1と同様にして、本例の保護シートを得た。
<例3>
厚み30μmのCPPフィルムの片面にコロナ放電処理を施して基材を得た。このCPPフィルムのMD曲げ剛性値とTD曲げ剛性値との合計DSubS80は、0.97×10−6Pa・mであった。この基材を用いた他は例1と同様にして、本例の保護シートを得た。
【0062】
<例4>
アクリル系重合体のトルエン溶液にジ−オクチル錫ジラウレート(東京ファインケミカル社製、商品名「エンビライザー OL−1」)を添加しなかった他は例1と同様にして本例の粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物と例1の基材とを用い、例1と同様にして本例の保護シートを得た。
<例5>
樹脂密度0.905の結晶性ホモプロピレン(HPP)と、樹脂密度0.900ランダムポリプロピレン(RPP)と上記HPPとのコンパウンド樹脂(質量比で、RPP:HPP=1:1)とを、上記HPPの間に上記コンパウンド樹脂を挟んだ三層構造(厚み比で、HPP:コンパウンド樹脂:HPP=1:3:1)となるようにTダイから押し出して厚さ40μmに成形し、片面にコロナ放電処理を施して基材を得た。この三層構造PPフィルムは、室温におけるMDについての弾性率が477.2MPa、同温度でのTDについての弾性率が472.2MPaであった。この基材の合計曲げ剛性値DSubS80は、1.3×10−6Pa・mであった。この基材を用いた他は例1と同様にして、本例の保護シートを得た。
<例6>
例5の基材を用いた他は例1と同様にして、本例の保護シートを得た。
【0063】
各例に係る粘着剤および保護シートにつき、下記評価試験を行った。それらの結果を、各例の構成と併せて表1に示す。
【0064】
[貯蔵弾性率]
各例の粘着剤組成物を剥離ライナーの剥離面に塗布し、発泡させないように80℃で3分間乾燥させて粘着剤層を形成した。これを厚さが2mmになるまで積層して測定用のサンプルとした。これを直径7.9mmのパラレルプレートに合わせて打ち抜き、剥離ライナーを除去して露出した粘着剤層(基材レス粘着シート)を、粘弾性測定装置(TAインストルメント社製の型式「ARES」)に装着し、JIS K7244−1に準拠して、1Hzの周期にて剪断モードでひずみを与えつつ、5℃/分の昇温速度で、15℃から150℃まで温度を上昇させて、100℃のときの貯蔵弾性率G’を測定した。
【0065】
[25℃引張弾性率]
各保護シートを、MDを長手方向として幅10mmの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片を、JIS K7161に準拠して、下記条件で延伸することにより応力−ひずみ曲線を得た。
測定温度:25℃
引張速度:300mm/分
チャック間距離:50mm
MD引張弾性率EM25は、規定された2点のひずみε=1及びε=2の間の曲線の線形回帰によって求めた。異なる箇所から切り出した3つの試験片を用いて上記測定を行い、それらの平均値を25℃におけるMDへの引張弾性率EM25(MPa)とした。
各保護シートを、TDを長手方向として幅10mmの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片を用い、上記と同様にして、25℃におけるTDへの引張弾性率ET25(MPa)を求めた。
測定されたEM25,ET25から、これらの合計値ES25(MPa)を求めた。
なお、EM25,ET25は、各保護シートの厚みの実測値から粘着剤層の厚みを差し引いた厚みの値に基づいて、基材の断面積当たりの値に換算して求めた。
[80℃引張弾性率]
各保護シートにつき、測定温度を80℃とした他は25℃引張弾性率と同様にして、80℃におけるMD引張弾性率EM80(MPa)およびTD引張弾性率ET80(MPa)(基材の断面積当たりの換算値)を求めた。
【0066】
[曲げ剛性値]
上記で測定したEM80,ET80、各基材の厚みh、および式:D=Eh/12(1−V);から、曲げ剛性値DM80,DT80を各々算出し、それらの合計値DS80(Pa・m)を求めた。ここで、上記式におけるポアソン比Vの値としては0.35を採用した。
【0067】
[10%延伸時張力]
各保護シートにつき、MDを長手方向として幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用い、JIS K7127に準拠し、MDへ10%延伸したときの引張張力を以下の条件で測定した。
測定温度:25℃
引張速度:300mm/分
チャック間距離:50mm
異なる箇所から切り出した3つの試験片を用いて上記測定を行い、それらの平均値をMDについての10%延伸時張力TM25(N/10mm)とした。
各保護シートにつき、TDを長手方向として幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用い、上記と同様にしてTDへ10%延伸したときの引張張力を測定し、TDについての10%延伸時張力TT25(N/10mm)を求めた。
測定されたTM25,TT25から、これらの合計値TS25(N/10mm)を求めた。
【0068】
[引裂き強度]
各保護シートにつき、MDを長手方向として40mm×150mmの短冊状に切り出した試験片を用い、JIS K6772に準拠して、該試験片の一方の短辺の中央から長辺に平行に内部へ長さ75mmの切込を入れた。試験片の上記切込を入れた辺を、該切込の両側が表裏となるように引張試験機にセットし、測定温度25℃において300mm/分の速度で引っ張ることにより上記切込の方向に試験片を引き裂き、そのときの最大荷重を求めた。異なる箇所から切り出した3つの試験片を用いて上記測定を行い、それらの平均値をMDへの引裂き強度SM25(N)とした。
各保護シートにつき、TDを長手方向として40mm×150mmの短冊状に切り出した試験片を用い、上記と同様にしてST25(N)を測定した。
測定されたSM25,ST25から、これらの合計値SS25(N)を求めた。
【0069】
[破断強度]
各保護シートにつき、MDを長手方向として幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用い、JIS K 7161に準拠して、上述した10%延伸時張力と同様の測定条件にて当該試験片を長手方向に引っ張り、試験片が破断したときの荷重(破断時荷重)を求めた。異なる箇所から切り出した3つの試験片を用いて上記測定を行い(すなわちn=3)、それらの平均値をMDについての破断強度HM25(N/10mm)とした。
各保護シートにつき、TDを長手方向として幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用い、上記と同様にして、TDについての破断強度HT25(N/10mm)を測定した。
測定されたHM25,HT25から、これらの合計値HS25(N/10mm)を求めた。
【0070】
[熱圧着時粘着力PSHP
各保護シートにつき、熱圧着時の粘着力PSHP(N/10mm)を上述のとおり測定した。
各保護シート付き被着体は、PETフィルム(剥離処理面が内側)で挟み、さらにその両側から上記ゴムシートで挟むことで、熱プレス時に保護シートがゴムシートに貼り付かないようにした。PETフィルムとしては、三菱化学ポリエステルフィルム製の商品名「ダイヤホイル MRF38」の片面にシリコーンによる剥離処理を施して40mm×100mmにカットしたもの2枚を使用した。ゴムシートとしては、上記PETフィルムと同サイズの厚さ1.0mmの天然ゴム(NBR)製シート2枚を使用した。各例の測定結果に基づき、軽剥離性を以下の二段階に評価した。
良:PSHPが0.1〜1N/10mmの範囲にある。
不良:PSHPが0.1N/10mm未満または1N/10mmを超える。
【0071】
[剥離時の耐久性評価(裂け・千切れの有無)]
各保護シートを、MDを長手方向として15mm×40mmの短冊状に切り出し、その一角から幅5mm×長さ20mm分を切り取って試験片110を作製した(図5参照)。これを、上記PSHPの測定に用いたのと同様の評価用被着体120(15mm×40mm)の粘着剤層側に貼り合わせ、PSHP測定と同様の条件および手順で熱圧着させた後、50℃で24時間保持した。次いで、試験片110を、その10mm幅側の端部(図5の右側)から長手方向(図5の矢印方向)に15mmのところまで、被着体120から剥離して持ち手を形成した。JIS Z0237に準じ、温度25℃、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件にて、その持ち手部分を長手方向(図5の矢印方向)に引っ張り、被着体120から試験片110を完全に剥離した。剥離後の試験片110につき、裂けおよび/または千切れの有無を目視にて確認した。裂けおよび千切れのいずれも確認されなかった場合を「なし」、裂けおよび千切れの少なくともいずれかが確認された場合を「有」として表1に示す。
【0072】
[密着性]
フレキシブルプリント基板(FPC)にメッキを施す際に用いられる保護シート(メッキマスキング用保護シート)としての使用態様を想定して、FPCの配線(典型的には銅線)とベースフィルムとの間の段差に対する密着性(段差追従性)を評価した。
図3,4に示されるように、40mm×100mmのPIフィルム22(東レ社製、商品名「カプトン200H」)の片面に、その長手方向に沿ってPIフィルム22表面の片側半分の面積を覆うように、20mm×100mmの厚さ35μmの銅箔24を接合して基板20を作製した。20mm×70mmにカットし、剥離ライナーを除去した各保護シートの試験片26を、基板20の上に、幅の略中央がPIフィルム22と銅箔24との境界に来るように位置合わせして、ハンドローラで軽く貼り合わせた。これを、上記熱圧着時粘着力測定の際と同様に、剥離処理されたPETフィルムを介してゴムシートで挟んだ。これを、保護シート側が上になるように配置し、ゴムシートの上から、温度120℃、圧力0.34MPa、加圧時間5秒間の条件でプレスした。プレス後、試験片26の貼り付けられた基板20のPIフィルム22と銅箔24との境界付近を真上(図4の矢印方向、すなわち基板表面に対して垂直な方向)から観察して、銅箔24とPIフィルム22との段差部分に存在する隙間(試験片26の粘着面が基板20の表面から浮いている部分)Lの有無を確認した(図4)。隙間の確認は、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ(倍率:100倍)を用いて、試験片26の長手方向の一端から10mm,35mmおよび60mmの箇所について行った。それらの結果に基づき、各保護シートの密着性を以下の二段階に評価した。
良:メッキ液の浸み込みを許すほどの隙間の存在は確認されなかった。
不良:上記隙間の存在が確認された。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示されるとおり、架橋剤に加えて架橋促進剤を含む粘着剤組成物を用いてなり、80℃合計曲げ剛性値DS80が0.1×10−6〜1.2×10−6Pa・mの範囲にあり、且つ粘着剤層の貯蔵弾性率G’が0.230×10〜10×10Paの範囲にある例1〜3の保護シートは、被着体に対する密着性に優れ、熱圧着後も軽剥離性を示し、且つ剥離時に保護シートが裂けたり千切れたりしないという、保護シートとしての性能と作業性とのバランスに優れていた。
一方、架橋促進剤を含まない粘着剤組成物を用いてなり、G’が0.230×10Paより小さかった例4の保護シートは、密着性は良好であったものの、被着体からの剥離が不良であった。また、剥離時に裂け・千切れが起こった。架橋促進剤を含まない粘着剤組成物を用いてなり、G’が0.230×10Paより小さく、さらにDS80が1.2×10−6Pa・mを超える例5の保護シートは、密着性、軽剥離性ともに不良であった。加えて、剥離時、保護シートに裂け・千切れが生じた。また、架橋促進剤を含む粘着剤組成物を用いてなり、G’が0.230×10Pa〜10×10の範囲にあっても、DS80が1.2×10−6Pa・mを超える例6の保護シートは、剥離時に裂け・千切れは起こらなかったものの、密着性が不良であった。
【0075】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1:基材
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
10:保護シート
20:基板(被着体)
22:ポリイミドフィルム
24:銅箔
26:保護シート
110:保護シート
120:基板(被着体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える保護シートであって、
前記粘着剤層は、架橋剤と架橋促進剤とを含むアクリル系粘着剤組成物から形成され、
前記保護シートの所定方向についての曲げ剛性値D(Pa・m)を、当該所定方向についての当該保護シートの引張弾性率E、前記基材の厚みh、および当該基材のポアソン比Vに基づいて、式:D=Eh/12(1−V);により求められる値と定義したとき、以下の条件:
(A)前記保護シートにつき、温度80℃における流れ方向についての曲げ剛性値をDM80とし、同温度における当該流れ方向に対して垂直方向についての曲げ剛性値をDT80としたとき、これらDM80,DT80の合計値DS80が0.1×10−6〜1.2×10−6Pa・mである;を満たし、
さらに、以下の特性:
(B)前記粘着剤層につき、周波数1Hzで測定される100℃における貯蔵弾性率G’が0.230×10Pa〜10×10Paの範囲にある;
を満たす、保護シート。
【請求項2】
前記架橋促進剤が錫含有化合物である、請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記架橋剤がイソシアネート系架橋剤である、請求項1または2に記載の保護シート。
【請求項4】
前記粘着剤組成物が、ベースポリマーとして、エマルション重合により得られたアクリル系重合体を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の保護シート。
【請求項5】
前記基材が、ポリプロピレンフィルムである、請求項1から4のいずれか一項に記載の保護シート。
【請求項6】
さらに、以下の条件:
(C)前記保護シートを、温度120℃、圧力0.34MPa、加圧時間5秒の条件で評価用被着体に圧着した後、温度50℃で24時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で該保護シートを該被着体から剥離して測定される剥離強度PSHPが0.1〜1N/10mmである;
を満たす、請求項1から5のいずれか一項に記載の保護シート。
【請求項7】
さらに、以下の条件:
(D)前記保護シートにつき、温度25℃における流れ方向についての引張弾性率をEM25とし、同温度における当該流れ方向に対して垂直方向についての引張弾性率をET25としたとき、これらEM25,ET25の合計値ES25が50MPa〜9000MPaである;
を満たす、請求項1から6のいずれか一項に記載の保護シート。
【請求項8】
さらに、以下の条件:
(E)前記保護シートにつき、温度25℃における流れ方向への10%延伸時張力をTM25とし、同温度における当該流れ方向に対して垂直方向への10%延伸時張力をTT25としたとき、これらTM25,TT25の合計値TS25が8〜60N/10mmである;
を満たす、請求項1から7のいずれか一項に記載の保護シート。
【請求項9】
金属をメッキする際に非メッキ部分に貼り付けられて当該非メッキ部分をメッキ液から保護するメッキマスキング用保護シートである、請求項1から8のいずれか一項に記載の保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−202151(P2011−202151A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33239(P2011−33239)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】