説明

保護シートおよびその製造方法

【課題】被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立させた保護シートを提供すること。
【解決手段】本発明により提供される保護シートは、基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える保護シートであって、以下の特性(A)および(B):(A)所定の条件で行われる斜め定荷重試験において、保護シートの下端に200gの錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)が30mm以下であること;(B)所定の条件で測定される剥離強度PSが、0.2〜2.0N/20mmであること;を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の被着体を保護する目的で、基材とその片面に設けられた粘着剤層とを備える粘着(感圧接着ともいう。)シート(以下、保護シートともいう。)が用いられており、例えば回路基板(プリント基板、フレキシブルプリント基板(FPC)等)の接続端子部等を部分的にメッキするため、メッキを施さない部分(非メッキ部分)を覆うメッキマスキング用保護シートとして好適に用いられている。この種のメッキマスキング用保護シートに関する従来技術として特許文献1〜7が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2806728号公報
【特許文献2】特開2004―115591号公報
【特許文献3】特許第3397913号公報
【特許文献4】特開2008―300441号公報
【特許文献5】特開平6―264036号公報
【特許文献6】特開2010―150498号公報
【特許文献7】特開2011―148943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような保護シートには、被着体表面への密着性と、使用後に被着体から剥離しやすい性質(軽剥離性)とを両立することが求められている。例えば上述のメッキマスキング用保護シートにおいては、シート外縁から非メッキ部分へのメッキ液の浸入を防止するために、接続端子部等の複雑かつ微細な凹凸が形成された該非メッキ部分の表面形状に追従し(表面形状追従性)、浮きや剥がれなく密着する性質(密着性(コンフォーマビリティ))と、メッキ後に該保護シートを剥離する際に、FPC等の回路基板が変形しない程度に剥離しやすい性質(軽剥離性)とを高度に両立することが求められている。
【0005】
そこで本発明は、被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立させた保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える保護シートが提供される。その保護シートは、以下の特性(A)および(B):
(A)厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのポリイミドフィルムからなる被着体に、幅20mm、長さ70mmの前記保護シートを、温度25℃にてローラを用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で貼り合わせ、その被着体背面を297mm×420mmのステンレス鋼板に両面テープで固定し、該保護シートが該ステンレス鋼板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定し、該保護シートの下端に200g(±10g)の錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)が30mm以下であること;
(B)前記保護シートを、温度100℃にてローラを用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件でポリイミドフィルムからなる被着体に圧着し、温度50℃で30分保持した後、温度25℃で1時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で前記被着体から剥離して測定される剥離強度PSが、0.2〜2.0N/20mmであること;を満たすことを特徴とする。
【0007】
本発明者らは、被着体への密着性と軽剥離性とをバランスよく向上させることについて鋭意検討していたところ、密着性の評価方法として上述の斜め(45°)定荷重(200g±10g)試験を採用し、該試験および剥離強度測定試験の結果が所定値を満たす保護シートは、被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、上述の斜め定荷重試験は、保護シートの密着性を評価する方法として好適であり、かかる斜め定荷重試験において、保護シートが剥がされた距離(H)が30mm以下のものは、被着体の表面形状への追従性に優れ、被着体への密着性に優れる。また、かかる保護シートは、上記剥離強度測定試験による剥離強度PSが0.2〜2.0N/20mmであるので、上述したように密着性に優れる一方、軽剥離性にも優れたものとなる。したがって、上記特性(A)および(B)を満たす保護シートは、被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立することができる。
【0008】
なお、本発明の上記特性は、例えば粘着剤層の配合成分およびその配合割合を選定することによって満たすことができるものであるが、特許文献1の実施例に開示されているマスキングテープは本発明の上記特性を満たさない。特許文献2に記載の技術は、メッキ処理時の被着体への密着性およびメッキ後の剥離性を、メッキ処理される温度域と剥離される温度域における粘着剤層の貯蔵弾性率を所定の範囲とすることで両立しようとするものであるが、貯蔵弾性率の特定のみでは、本発明が達成しようとする密着性と軽剥離性との両立を実現することはできず、特許文献2の実施例に開示されている粘着フィルムは本発明の上記特性を満たすものではない。特許文献3および4は、いずれも保護シートの基材に着目した技術であり、被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立し得る粘着剤の具体的構成を示唆する開示はない。特許文献5に記載の技術は、メッキ工程後に紫外線硬化型粘着剤層に紫外線を照射することで、メッキ処理時には未硬化であった粘着剤層を剥離前に硬化させる技術であり、硬化前後の物性の変化によらずに被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立し得る本発明の保護シートとは本質的に異なる技術である。特許文献6は、柔らかい基材を用いて表面形状追従性を向上させることを主目的としていることから理解されるように基材に関する技術であり、本発明の上記特性(A)を満たすものではない。特許文献7も特許文献6と同様、表面形状追従性を向上する基材の構成に関する技術であり、本発明の上記特性(A)を満たすものではない。
【0009】
ここに開示される保護シートの好ましい一態様では、さらに、以下の特性(C):
(C)前記保護シートにつき、温度25℃における流れ方向についての引張弾性率をEM25とし、同温度における当該流れ方向に対する垂直方向についての引張弾性率をET25としたとき、これらEM25およびET25の合計値ES25が50MPa〜9000MPaであること;を満たす。かかる保護シートは、ES25が50MPa〜9000MPaであることから、適度な硬度(コシの強さ)を有する。したがって、保護シートを被着体の所定位置に載置する際に、該保護シートが縒れたり皺になったりしにくいので作業性に優れる。また、被着体から保護シートを剥離する際に、保護シート自体の弾性力(曲げ変形に対して元の形状に戻ろうとする力)を剥離力の一部として利用することができるので、より軽剥離性に優れ、作業性に優れる。
【0010】
また、前記粘着剤層を構成する粘着剤が、アクリル系ポリマーを主成分とするアクリル系粘着剤であることが好ましく、前記基材が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とすることが好ましい。
【0011】
ここに開示されるいずれかの保護シートは、金属をメッキする際に非メッキ部分に貼り付けられて当該非メッキ部分をメッキ液から保護するメッキマスキング用保護シートとして好適である。かかるメッキマスキング用保護シートは、例えば回路基板の接続端子部分を部分的にメッキする工程において好ましく使用され得る。すなわち、上述した特性(A)および(B)を満たすメッキマスキング用保護シートによると、被着体表面への密着性(表面形状追従性を含む)に優れるため、メッキ処理時にメッキ液が保護シートと被着体との間に浸入しない。にもかかわらず、上記剥離強度PSが0.2〜2.0N/20mmの範囲内であることから、剥離の際に被着体が変形しない程度の軽い剥離性を示す。
【0012】
また、本発明によると、保護シートを製造する方法が提供される。その製造方法は、以下の特性(A)および(B):
(A)厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのポリイミドフィルムからなる被着体に、幅20mm、長さ70mmの前記保護シートを、温度25℃にてローラを用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で貼り合わせ、その被着体背面を297mm×420mmのステンレス鋼板に両面テープで固定し、該保護シートが該ステンレス鋼板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定し、該保護シートの下端に200g(±10g)の錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)が30mm以下であること;
(B)前記保護シートを、温度100℃にてローラを用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件でポリイミドフィルムからなる被着体に圧着し、温度50℃で30分保持した後、温度25℃で1時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で前記被着体から剥離して測定される剥離強度PSが、0.2〜2.0N/20mmであること;
を満たすように、配合成分およびその配合割合を選定して粘着剤組成物を調製すること、および前記調製した粘着剤組成物を用いて、前記基材の片面に粘着剤層を設けること、を含むことを特徴とする。かかる特性を満たすように粘着剤組成物を調製することにより、被着体への密着性と軽剥離性とを高度に両立した保護シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】保護シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】保護シートの他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】斜め定荷重試験の方法を説明する模式図である。
【図4】図3の保護シート下部を拡大して示す模式図である。
【図5】密着性の評価方法を模式的に説明する正面図である。
【図6】図5のVI−VI線における拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
ここに開示される保護シートは、基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える。本発明により提供される保護シートの典型的な構成例を図1に模式的に示す。この保護シート10は、樹脂製のシート状基材1と、その一方の面(片面)に設けられた粘着剤層2とを備え、この粘着剤層2を被着体の所定箇所(保護対象部分、例えばメッキマスキング用保護シートの場合にはメッキを施さない部分)に貼り付けて使用される。使用前(すなわち、被着体への貼付前)の保護シート10は、典型的には図2に示すように、粘着剤層2の表面(貼付面)が、少なくとも粘着剤層2側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された形態であり得る。あるいは、基材1の他面(粘着剤層2が設けられる面の背面)が剥離面となっており、保護シート10がロール状に巻回されることにより該他面に粘着剤層2が当接してその表面が保護された形態であってもよい。
【0016】
ここに開示される保護シートは、以下の特性(A):
(A)厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのポリイミド(PI)フィルムからなる被着体の表面(第1面)に、幅20mm、長さ70mmの前記保護シートを、温度25℃にてローラを用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で貼り合わせ、その被着体の背面(第2面)を297mm×420mmのステンレス鋼板(SUS板)に両面テープで固定し、該保護シートが該SUS板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定し、該保護シートの下端に200g(±10g)の錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)が30mm以下であること;を満たすことが好ましい。前記剥がされた距離(H)は、より好ましくは20mm以下、特に好ましくは10mm以下である。上記剥がされた距離が30mm以下であることにより良好な密着性が得られる。また、上記保護シートをメッキマスキング用保護シートとして用いる場合、上記剥がされた距離が30mm以下であることにより、メッキ液の浸入に耐えることができる。特に、被保護部分に複雑かつ微細な凹凸(典型的には接続端子部)が形成されているような回路基板に対して、良好な表面形状追従性を示し、そのような被着体に対しても、非メッキ部分へのメッキ液の滲み込みを抑えて精度よくメッキを施すことができる。なお、上記特性(A)は本発明に係る保護シートに必須の特性ではなく、本発明に係る保護シートまたはその密着性を特定する好適な特性の一つとして把握されるものである。したがって、本発明に係る保護シートを上記特性(A)とは異なる表現で特定することも可能である。
【0017】
本発明者らは、被着体への密着性と軽剥離性とが要求される保護シートにおいて、まず、より適切な密着性の評価方法について検討した。その結果、上述した特性(A)で示される、厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのPIフィルムからなる被着体に、幅20mm、長さ70mmの前記保護シートを、温度25℃にてローラを用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で貼り合わせ、その被着体背面を297mm×420mmのSUS板に両面テープで固定し、該保護シートが該SUS板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定し、該保護シートの下端に200gの錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)を測定する評価方法が、保護シートの密着性を評価する方法として相応しいことを知得した。その理由として、被着体を斜め(45°)に傾斜させた状態で保護シート下端に定荷重を付与した場合における保護シートの被着体からの剥がれにくさと、被着体の表面形状からの浮きにくさに寄与する密着力との相関が高いと推察されることが挙げられる。特に、表面に複雑かつ微細な凹凸が形成されている被着体に保護シートを貼り付ける場合、凹凸間の段差部分で保護シートが浮きやすくなるが、上記特性(A)を満たす保護シートは、上記の斜め定荷重試験において所定の剥がれにくさを示すため、被着体表面の凹凸間の段差部分に対して保護シートが追従した状態で優れた密着性を発揮することができる。したがって、上述した評価方法は、被着体表面(特に、被保護部分に複雑かつ微細な凹凸が形成されているような被着体表面、典型的には回路基板の接続端子部)に対する保護シートの密着性(表面形状追従性を含む)を評価する方法として特に好適である。なお、上述した評価方法は、保護シートがSUS板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定する他は、JIS Z0237の「13 保持力」に準じて測定することができる。保護シートの貼合せは、ローラを備えたラミネータを用いることができ、そのようなラミネータとしては、(株)エム・シー・ケー製「MRK−600型卓上タイプ」(直径80mmのシリコンローラを前後上下に合計4つ備えたもの)が挙げられる。PIフィルムとしては、東レ・デュポン(株)製のカプトン(登録商標)200H、両面テープとしては日東電工(株)製のNo.500をそれぞれ用いることができる。
【0018】
ここに開示される保護シートは、上記特性(A)に加えて特性(B):
(B)前記保護シートを、温度100℃にてローラを用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件でPIフィルムからなる被着体に圧着し、温度50℃で30分保持した後、温度25℃で1時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で前記被着体から剥離して測定される剥離強度PSが、0.2〜2.0N/20mmであること;を満たすことが好ましい。上記剥離強度PSは、例えば0.3N/20mm以上(典型的には0.5N/20mm以上)であり、より好ましくは1.8N/20mm以下(典型的には1.5N/20mm以下)である。上記剥離強度PSが上述の範囲内であることにより、熱圧着によって充分な接着性を示すにもかかわらず、剥離の際に被着体が変形しない程度の軽い剥離が可能となる。例えばメッキ前の一般的な回路基板表面には、PI基板が露出している部分が多く存在する。PSが上記範囲内にある保護シートは、PIに熱圧着された際の接着性と軽剥離性とのバランスに優れることから、回路基板にメッキを施す際に非メッキ部分を保護する用途に好適である。
【0019】
上記特性(B)における剥離強度PSの測定方法としては、例えば以下の方法を採用し得る。基材のMD(流れ方向、典型的には基材の長手方向)を長手方向として10mm×60mmにカットした保護シートから剥離ライナーを除去し、露出した粘着剤層を、被着体としての15mm×60mmにカットした評価用被着体に重ね合わせ、温度100℃にてローラを用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件で一往復させて上記保護シートを上記被着体に熱圧着させる。保護シートが熱圧着された被着体を、50℃で30分保持した後、さらに温度25℃で1時間保持し、両面粘着テープを用いてSUS板(SUS430BA)に固定する。次いで、該保護シートを、JIS Z0237に準じて、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で、SUS板に固定された該被着体から引き剥がし、そのときの剥離強度をPS(N/20mm)として測定する。保護シートの熱圧着は、ローラを備えた熱ラミネータを用いることができ、そのような熱ラミネータとしては、(株)エム・シー・ケー製「MRK−600型卓上タイプ」(直径80mmのシリコンローラを前後上下に合計4つ備えたもの)が挙げられる。上記評価用被着体としては、PIフィルム(東レ・デュポン(株)製、商品名「カプトン(登録商標)200H」)、両面テープとしては日東電工(株)製のNo.532をそれぞれ用いることができる。
【0020】
ここに開示される保護シートは、さらに、以下の特性(C):
(C)前記保護シートにつき、温度25℃における流れ方向(MD)についての引張弾性率をEM25とし、同温度における当該流れ方向に対する垂直方向(TD)についての引張弾性率をET25としたとき、これらEM25およびET25の合計値ES25が50MPa〜9000MPaであること;を満たすことが好ましい。ES25は、より好ましくは800MPa以上であり、さらに好ましくは1000MPa以上(典型的には1100MPa以上)である。また、ES25は、8000MPa以下であってもよく、典型的には4000MPa以下(例えば2000MPa以下)である。かかる引張弾性率を示す保護シートは、常温環境下において、適度な硬度(コシの強さ)を有する。したがって、保護シートを被着体の所定位置(例えば回路基板の非メッキ部分)に載置する際に、該保護シートが縒れたり皺になったりしにくいので作業性に優れる。また、被着体から保護シートを剥離する際に、保護シート自体の弾性力(曲げ変形に対して元の形状に戻ろうとする力)を剥離力の一部として利用することができるので、軽剥離性がより優れ、作業性がより優れる。
【0021】
ここに開示される保護シートに用いられる基材としては、各種の樹脂フィルム(典型的には、熱可塑性樹脂を主成分とするフィルム)を採用し得る。例えば、保護シートがメッキマスキング用保護シートである場合には、想定されるメッキ液に対して耐性を有する樹脂材料からなるフィルムが好ましい。基材を構成する樹脂成分の好適例として、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリウレタン樹脂(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、アクリル樹脂等が挙げられる。このような樹脂の一種類を単独で含む樹脂材料からなる基材であってもよく、二種以上がブレンドされた樹脂材料からなる基材であってもよい。基材の構造は、単層であってもよく、二層以上の多層構造(例えば三層構造)であってもよい。多層構造の樹脂フィルムにおいて、各層を構成する樹脂材料は、上述のような樹脂の一種類を単独で含む樹脂材料であってもよく、二種以上の樹脂がブレンドされた樹脂材料であってもよい。
【0022】
好ましい一態様において、上記基材は、単層または多層のポリオレフィン樹脂フィルムである。ここで、ポリオレフィン樹脂フィルムとは、該フィルムを構成する樹脂成分のうちの主成分がポリオレフィン樹脂(すなわち、ポリオレフィンを主成分とする樹脂)であるフィルムをいう。樹脂成分が実質的にポリオレフィン樹脂からなるフィルムであってもよい。あるいは、樹脂成分として、主成分(例えば樹脂成分中50質量%を超える成分)としてのポリオレフィン樹脂に加えて、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂成分(PA,PC,PU,EVA等)を含む樹脂材料から形成されたフィルムであってもよい。ポリオレフィン樹脂としては、一種類のポリオレフィンを単独で、または二種以上のポリオレフィンを組み合わせて用いることができる。該ポリオレフィンは、例えばα−オレフィンのホモポリマー、二種以上のα−オレフィンの共重合体、一種または二種以上のα−オレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体等であり得る。具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等のエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。
【0023】
上記PPは、プロピレンを主モノマー(主構成単量体、すなわち単量体全体の50質量%を超える成分)とする種々のポリマー(プロピレン系ポリマー)であり得る。ここでいうプロピレン系ポリマーの概念には、例えば以下のようなポリプロピレンが包含される。
プロピレンのホモポリマー(すなわちホモポリプロピレン)。例えばアイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン。
プロピレンと他のα−オレフィン(典型的には、エチレンおよび炭素数4〜10のα−オレフィンから選択される一種または二種以上)とのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)。例えばプロピレン96〜99.9モル%と他のα−オレフィン(好ましくはエチレンおよび/またはブテン)0.1〜4モル%とをランダム共重合したランダムポリプロピレン。
プロピレンに他のα−オレフィン(典型的には、エチレンおよび炭素数4〜10のα−オレフィンから選択される一種または二種以上)をブロック共重合した共重合体(ブロックポリプロピレン)。かかるブロックポリプロピレンは、副生成物として、プロピレンおよび上記他のα−オレフィンのうち少なくとも一種を成分とするゴム成分をさらに含み得る。例えばプロピレン90〜99.9モル%に他のα−オレフィン(好ましくはエチレンおよび/またはブテン)0.1〜10モル%をブロック共重合したポリマーと、副生成物としてプロピレンおよび他のα−オレフィンのうち少なくとも一種を成分とするゴム成分をさらに含むブロックポリプロピレン。
【0024】
上記PP樹脂は、樹脂成分のうちの主成分が上述のようなプロピレン系ポリマーであり、副成分として他のポリマーがブレンドされた樹脂であり得る。上記他のポリマーは、プロピレン以外のα−オレフィン、例えば炭素数2または4〜10のα−オレフィンを主モノマー(主構成単量体、すなわち単量体全体の50質量%を超える成分)とするポリオレフィンの一種または二種以上であり得る。上記PP樹脂は、上記副成分として少なくともPEを含む組成であり得る。PEの含有量は、例えばPP100質量部当たり3〜50質量部(典型的には5〜30質量部)とすることができる。樹脂成分が実質的にPPとPEとからなるPP樹脂であってもよい。また、副成分として少なくともPEおよびEPRとを含むPP樹脂(例えば樹脂成分が実質的にPPとPEとEPRとからなるPP樹脂)であってもよい。この場合、EPRの含有量は、例えばPP100質量部当たり3〜50質量部(典型的には5〜30質量部)とすることができる。上述した特性(A)および(B)(好適には、さらに特性(C))を満たす基材としては、PE、PPおよびEPRからなる群から選ばれる少なくとも一種を主成分とすることがより好ましい。
【0025】
上記PEは、エチレンのホモポリマーであってもよく、主モノマーとしてのエチレンと他のα−オレフィン(例えば炭素数3〜10のα−オレフィン)との共重合体であってもよい。上記α−オレフィンの好適例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)のいずれも使用可能である。例えばLDPEおよび/またはLLDPEを好ましく採用することができる。
【0026】
上記基材には、保護シートの用途に応じた適宜の成分を必要に応じて含有させることができる。例えばラジカル捕捉剤や紫外線吸収剤等の光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料等)、充填材、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の添加剤を適宜配合することができる。光安定剤の例としては、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類、ベンゾエート類等を有効成分とするものが挙げられる。酸化防止剤の例としては、アルキルフェノール類、アルキレンビスフェノール類、チオプロピレン酸エステル類、有機亜リン酸エステル類、アミン類、ヒドロキノン類、ヒドロキシルアミン類等を有効成分とするものが挙げられる。このような添加剤は、それぞれ、一種のみを単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の配合量は、保護シートの用途(例えばメッキマスキング用)に応じて、当該用途において基材として用いられる樹脂フィルムの通常の配合量と同程度とすることができる。
【0027】
このような基材(樹脂フィルム)は、従来公知の一般的なフィルム成形方法(押出成形、インフレーション成形等)を適宜採用して製造することができる。基材のうち粘着剤層が設けられる側の表面(粘着剤層側表面)には、該粘着剤層との接着性を向上させるための処理、例えばコロナ放電処理、酸処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗剤(プライマー)塗布等の表面処理が施されていてもよい。基材のうち上記粘着剤層側表面とは反対側の面(背面)には、必要に応じて、帯電防止処理、剥離処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0028】
基材の厚みは、保護シートの用途および使用する樹脂フィルムのコシの強さ(硬度)等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚み10μm〜80μm程度の基材を採用することができ、通常は厚み20μm〜70μm程度(典型的には20μm〜50μm、例えば25μm以上40μm未満)の基材を用いることが適当である。基材の厚みが上記範囲内であることにより、密着性がより向上し、貼付時や剥離時の取扱性がより向上する傾向がある。
【0029】
なお、所定温度における保護シートの所定方向についての引張弾性率Eは、基材の該所定方向についての引張弾性率Eと略同等であり得る。したがって、基材の25℃におけるMD引張弾性率とTD引張弾性率との合計値をESubS25として、ESubS25が上述した保護シートのES25の好ましい範囲と略同等となるように基材を選択することにより、ES25が上記好ましい範囲にある保護シートを好適に形成することができる。
【0030】
上記基材上に設けられる粘着剤層を構成する粘着剤の種類は特に限定されず、例えばアクリル系粘着剤(アクリル系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分)とする粘着剤をいう。以下同様。)、ゴム系粘着剤(天然ゴム系、合成ゴム系、これらの混合系等)、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤等の公知の各種粘着剤から選択される一種または二種以上の粘着剤を含んで構成された粘着剤層であり得る。
【0031】
同様に、粘着剤(層)を形成するために用いられる粘着剤組成物も、特に限定されないが、得られる保護シートが上記特性(A)および(B)を満たすように配合成分およびその配合割合を選定することが好ましい。なかでも、上記粘着剤組成物は、ベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、主たる粘着性成分)として、アクリル系ポリマーを含むことが好ましい。該アクリル系ポリマーは、典型的には、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含むモノマー混合物の共重合体である。該モノマー混合物は、これら主モノマーおよび副モノマーに加えて、他の共重合成分を任意に含み得る。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0032】
上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば下記式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH=C(R)COOR (1)
ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基(以下、このような炭素原子数の範囲を「C1−20」と表すことがある。)である。粘着剤の貯蔵弾性率等の観点から、RがC1−14のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、RがC1−10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、Rがブチル基または2−エチルヘキシル基であるアルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0033】
上記C1−20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートとして、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。例えばこれらの一種または二種以上が合計50質量%(例えば60質量%以上99質量%以下、典型的には70質量%以上98質量%以下)を超える割合で共重合されたアクリル系ポリマーが好ましい。
【0034】
主モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートと共重合性を有する副モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。例えば、以下のような官能基含有モノマー成分を、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
カルボキシル基含有モノマー:例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸およびその無水物(無水マレイン酸、無水イコタン酸等)。
水酸基含有モノマー:例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール類。
アミド基含有モノマー:例えば(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
エポキシ基を有するモノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えばジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えばN−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリン。
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン。
【0035】
上記副モノマーの量は、所望の架橋度に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、良好な粘着特性(例えば接着力)を得るために、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して50質量部以下(例えば1〜50質量部、典型的には2〜40質量部)とすることが好ましい。なかでも、低速での引剥しに対する粘着性に優れ、上記特性(A)および(B)を満たす保護シートが得られやすいという理由から、上記式(1)中のRがC4−14(例えばC6−10、典型的にはC)のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して、窒素原子含有環を有するモノマーを15〜50質量部(典型的には20〜40質量部)、カルボキシル基含有モノマーを1〜10質量部(典型的には2〜5質量部)含有するもの、あるいは上記式(1)中のRがC6−14(例えばC6−10、典型的にはC)のアルキル基であるアルキルアクリレート30〜70質量%(典型的には40〜60質量%)および上記式(1)中のRがC2−4(典型的にはC)のアルキル基であるアルキルメタクリレート30〜70質量%(典型的には40〜60質量%)を含むアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して、カルボキシル基含有モノマーを1〜10質量部(典型的には2〜5質量部)含有するものが好適に用いられる。これらには、密着性や軽剥離性を考慮して、さらにアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して0.01〜20質量部(例えば0.01〜10質量部、典型的には0.1〜5質量部)程度のその他(窒素原子含有環を有するモノマーとカルボキシル基含有モノマー以外)の官能基含有モノマー(好ましくは水酸基含有モノマーおよび/またはアルコキシシリル基含有モノマー)を含有させてもよい。
【0036】
また、アクリル系ポリマーの凝集力を高める等の目的で、上述した副モノマー以外の他の共重合成分を用いることができる。かかる共重合成分としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;シクロアルキル(メタ)アクリレート(シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチルジ(メタ)アクリレート等)、イソボルニル(メタ)アクリレート等の非芳香族性環含有(メタ)アクリレート;アリール(メタ)アクリレート(例えばフェニル(メタ)アクリレート)、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート(例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート)、アリールアルキル(メタ)アクリレート(例えばベンジル(メタ)アクリレート)等の芳香族性環含有(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;等が挙げられる。かかる他の共重合成分の量は、目的および用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えばアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して10質量部以下程度とすることが好ましい。
【0037】
上記モノマー混合物を重合する方法は特に制限されず、従来公知の一般的な重合方法(エマルション重合、溶液重合等)を採用することができる。例えばエマルション重合を好ましく採用し得る。エマルション重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的なエマルション重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー混合物を重合容器に一度に供給する方法、連続的に滴下する方法、分割して供給(滴下)する方法等のいずれも採用可能である。モノマー混合物の一部または全部をあらかじめ適当な界面活性剤の存在下で水と乳化させ、その乳化液を反応容器に供給してもよい。
【0038】
重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、置換エタン系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が例示されるが、これらに限定されない。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が例示される。過酸化物系開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。置換エタン系開始剤としては、フェニル置換エタン等が例示される。レドックス系開始剤としては、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組合せ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組合せ等が例示される。
【0039】
重合開始剤の使用量は、該開始剤の種類やモノマーの種類(モノマー混合物の組成)等に応じて適宜選択できるが、通常は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば0.005〜1質量部程度の範囲から選択することが適当である。重合開始剤の供給方法としては、使用する重合開始剤の実質的に全量をモノマー混合物の供給開始前に反応容器に入れておく(典型的には、反応容器内に該重合開始剤の水溶液を用意する)一括仕込み方式、連続供給方式、分割供給方式等のいずれも採用可能である。重合操作の容易性、工程管理の容易性等の観点から、例えば一括仕込み方式を好ましく採用することができる。重合温度は、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度とすることができる。
【0040】
乳化剤(界面活性剤)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を使用できる。アニオン系乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量(固形分基準)は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0041】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えばドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。連鎖移動剤の使用量は特に限定されないが、例えば全モノマー成分100質量部に対して凡そ0.001〜0.5質量部程度の範囲から選択することが好ましい。連鎖移動剤の使用量が上述の範囲内であることにより、保護シートを剥離した後の被着体表面に糊残りが発生せず、非汚染性がより優れたものとなる。
【0042】
上記アクリル系粘着剤組成物は、ベースポリマーとしての上記アクリル系ポリマーに加えて、架橋剤をさらに含むことができる。架橋剤の種類は特に制限されず、粘着剤分野で通常使用される各種架橋剤のなかから、例えば上記副モノマーの架橋性官能基に応じて適宜選択して使用することができる。具体例としては、イソシアネート系架橋剤、シラン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。なかでも、軽剥離性に優れるという理由から、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤が好ましく使用され得る。上記粘着剤組成物に含まれる架橋剤の量は、上記アクリル系ポリマー100質量部に対し、例えば2〜10質量部程度(好ましくは3〜7質量部程度)とすることができる。
【0043】
上記アクリル系粘着剤組成物は、架橋促進剤をさらに含んでもよい。架橋促進剤の種類は、使用する架橋剤の種類に応じて適宜選択することができる。なお、本明細書において架橋促進剤とは、架橋剤による架橋反応の速度を高める触媒を指す。かかる架橋促進剤としては、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、テトラ−n−ブチル錫、トリメチル錫ヒドロキシド等の錫(Sn)含有化合物;N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミンやトリエチルアミン等のアミン類、イミダゾール類等の窒素(N)含有化合物;等が例示される。なかでも、Sn含有化合物が好ましい。上記粘着剤組成物に含まれる架橋促進剤の量は、上記アクリル系ポリマー100質量部に対し、例えば0.001〜0.5質量部程度(好ましくは0.001〜0.1質量部程度)とすることができる。
【0044】
上記粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、レベリング剤、可塑剤、充填材、着色剤(顔料、染料等)、分散剤、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、粘着剤分野において一般的に使用される各種添加剤が例示される。このような添加剤の配合量は、保護シートの用途(例えばメッキマスキング用)に応じて、当該用途において粘着剤層の形成(保護シートの製造)に用いられる粘着剤組成物の通常の配合量と同程度とすることができる。なお、粘着剤組成物には、密着性や軽剥離性、非汚染性を考慮して粘着付与剤を含有しないことが好ましい。
【0045】
上記粘着剤組成物の形態は特に限定されない。例えば溶剤型、エマルション型、水溶液型、活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化型、ホットメルト型等の種々の形態であり得る。典型的には、上記モノマー混合物を適当な溶媒中で重合させて得られたアクリル系ポリマー溶液または分散液に、必要に応じて他の成分を配合することにより調製される。あるいは例えば、エマルション重合後、必要に応じてpH調整、塩析、精製等の処理を施して得られたアクリル系ポリマーを、架橋剤および必要に応じて各種の添加剤等(任意成分)とともに、トルエン、酢酸エチル等の有機溶媒に溶解させて得られる溶剤型粘着剤組成物であってもよい。
【0046】
粘着剤層を基材上に設ける方法としては、上記粘着剤組成物を基材に直接付与(典型的には塗布)して硬化処理する方法(直接法);剥離性を有する表面(剥離面)に上記粘着剤組成物を付与して硬化処理することにより該表面上に粘着剤層を形成し、この粘着剤層を基材に貼り合わせて該粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)等を用いることができる。上記硬化処理は、乾燥(加熱)、冷却、架橋、追加の共重合反応、エージング等から選択される一または二以上の処理であり得る。例えば、溶媒を含む粘着剤組成物を単に乾燥させるだけの処理(加熱処理等)や、加熱溶融状態にある粘着剤組成物を単に冷却する(固化させる)だけの処理も、ここでいう硬化処理に含まれ得る。上記硬化処理が二以上の処理(例えば乾燥および架橋)を含む場合、これらの処理は、同時に行ってもよく、多段階に亘って行ってもよい。
【0047】
粘着剤組成物の塗布は、例えばグラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。該組成物が塗布される支持体の種類にもよるが、例えば凡そ40〜150℃程度の乾燥温度を採用することができる。乾燥後、架橋反応がさらに進むように40〜60℃程度で保持するエージング処理を施してもよい。エージング時間は、所望の架橋度や架橋反応の進行速度に応じて適宜選択すればよく、例えば12時間〜120時間程度とすることができる。
【0048】
粘着剤層の厚みは、例えば1μm〜100μm程度であり得る。通常は、上記粘着剤層の厚みを2μm〜40μm(例えば5μm〜20μm、典型的には7μm〜13μm)程度とすることが好ましい。例えばメッキマスキング用保護シートに具備される粘着剤層の厚みとして、上記範囲を好ましく採用することができる。
【0049】
ここに開示される保護シートは、粘着剤層の表面(粘着面、すなわち保護対象物に貼り付けられる側の表面)上に剥離ライナーが配置された形態であり得る。このような形態の保護シート(剥離ライナー付き保護シート)は、例えばメッキマスキング用保護シートにおいて好ましく採用され得る。これは、一般にメッキマスキング用保護シートは該保護シートをマスキング範囲(すなわち保護対象領域)に応じた形状に打ち抜いた上で被着体に貼り付けられるところ、粘着剤層上に剥離ライナーを有する形態の保護シート(剥離ライナー付き保護シート)によれば上記打ち抜き操作を効率よく行い得るためである。打ち抜かれた剥離ライナー付き保護シートは、その後、剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させ、該粘着面を被着体に圧着して使用される。
【0050】
上記剥離ライナーとしては、各種の紙(表面に樹脂がラミネートされた紙であり得る)、樹脂フィルム等を特に限定なく用いることができる。剥離ライナーとして樹脂フィルムを用いる場合、該樹脂フィルムを構成する樹脂成分の好適例としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂(PET等)、PA、PC、PU等が挙げられる。このような樹脂の一種類を単独で含む樹脂材料からなる樹脂フィルムであってもよく、二種以上の樹脂(例えばPEとPP)がブレンドされた樹脂材料からなる樹脂フィルムであってもよい。該樹脂フィルムの構造は、単層であってもよく、二層以上の多層構造であってもよい。このような剥離ライナー用樹脂フィルムは、基材用の樹脂フィルムと同様に、一般的なフィルム成形方法を適宜採用して製造され得る。
【0051】
剥離ライナーの厚みは特に限定されず、例えば凡そ5μm〜500μm(好ましくは凡そ10μm〜200μm、例えば凡そ30μm〜200μm)であり得る。該剥離ライナーの剥離面(粘着面に接して配置される面)には、必要に応じて従来公知の剥離剤(例えば一般的なシリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系等)による剥離処理が施されていてもよい。上記剥離面の背面は剥離処理されていてもいなくてもよく、剥離処理以外の表面処理が施されていてもよい。
【0052】
ここに開示される保護シートは、メッキマスキング用保護シートとして好適である。例えば、処理対象物の一部に金属(典型的には金、ニッケル等のような高導電性金属)をメッキ(例えば電解メッキ)する際に、非メッキ部分に貼り付けられて、該非メッキ部分をメッキ液から保護する用途に好ましく使用され得る。かかるメッキマスキング用保護シートは、例えば回路基板(プリント基板、FPC等)の一部(例えば接続端子部分)を部分的にメッキする工程において好ましく使用され得る。かかる保護シートは、良好な密着性(表面形状追従性を含む)を有することから、非メッキ部分へのメッキ液の滲み込みを抑えて精度よくメッキを施すことができ、特に上述したような回路基板におけるメッキマスキング用保護シートとして好適である。該保護シートは、例えば後述する実施例に記載の密着性試験において、メッキ液の滲み込みを許すほどの隙間が確認できないレベルの密着性を示し得る。また、ここに開示される保護シートは、上述したように良好な密着性を示す一方で、剥離の際に、被着体(例えばFPC等の回路基板)が変形しない程度の軽い剥離が可能であり、熱圧着した場合に充分な接着性を実現することができる。さらに保護シートを剥離した後の被着体表面に糊残りが発生しないため、非汚染性にも優れる。したがって、かかる保護シートを用いてメッキマスキングを行うことにより、より高品質な回路基板を効率よく製造することができる。なお、かかる保護シートは、上記のように金属メッキを施さない部分をメッキ液から保護する用途に限定されず、例えば回路パターンを形成する際に非処理面を処理液から保護(マスキング)する用途等にも好適に用いることができる。
【0053】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0054】
[保護シートの作製]
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計、攪拌装置を備えた反応容器に、2−エチルヘキシルアクリレート75部、N−アクリロイルモルホリン25部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.1部、アクリル酸3部、および重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(キシダ化学(株)製「1級AIBN」)0.2部を投入し、所望の固形分になるように酢酸エチルを加え、60℃で6時間共重合させることにより、アクリル系共重合体の酢酸エチル溶液を得た。このアクリル系共重合体溶液(反応液)に、該共重合体100部に対してイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネート(登録商標)L」)4部を添加し、さらにトルエンを用いて所定の固形分となるように調整して粘着剤組成物を得た。
【0055】
PP80部(樹脂密度0.905の結晶性ホモポリプロピレン(HPP)40部/樹脂密度0.900のランダムポリプロピレン(RPP)40部)とPE(東ソー(株)製「ペトロセン205」)10部、EPR(三井化学(株)製「タフマー(登録商標)P0180」)10部を、Tダイ法にて押出し、PP/PE/EPRブレンド物からなる厚さ35μmのフィルム(PP/PE/EPRフィルム)を作製した。得られたフィルムの片面にコロナ放電処理を施して基材を得た。
【0056】
上記基材を二枚用意し、一枚目の基材のコロナ放電処理面に、上記で作製した粘着剤組成物を塗布し、80℃で1分間乾燥させて、厚み約10μmの粘着剤層を形成した。さらにこの粘着剤層に、二枚目の基材のコロナ放電未処理面を貼り合わせ、50℃の条件下で3日間エージングした後、上記二枚目の基材を剥離し、露出した粘着剤層に剥離紙を貼り合わせ、保護シートを得た。剥離紙としては、厚さ120μmの上質紙の両面にそれぞれ厚さ10μmとなるようにPE樹脂をラミネートし、そのうち片面(剥離面)をさらにシリコーン系剥離剤で処理したものを使用した。
【0057】
<例2>
冷却管、窒素導入管、温度計、撹拌装置を備えた反応容器に、2−エチルヘキシルアクリレート49部、n−ブチルメタクリレート49部およびアクリル酸2部からなる単量体混合物100部に対し、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸(第一工業製薬(株)製「アクアロン(登録商標)BC−2020」)2部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業(株)製「V−50」)0.03部を添加し、所望の固形分になるように水を加え、50℃で5時間乳化重合させた。重合終了後、この反応液に10%濃度のアンモニア水(キシダ化学(株)製「10%アンモニア水」)を添加してpH8.0に調整し、アクリル系共重合体エマルションを得た。このアクリル系共重合体エマルションの固形分100部に対し、オキサゾリン系水溶性架橋剤(日本触媒(株)製「エポクロス(登録商標)WS―500」)5部を混合して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いた他は、例1と同様にして保護シートを得た。
【0058】
<例3>
粘着剤組成物として、例1と同様にして調製したアクリル系共重合体100部に対し、「コロネート(登録商標)L」4部およびエポキシ系架橋剤(三菱瓦斬化学(株)製「TETRAD(登録商標)−C」)0.5部を加え、さらにトルエンを用いて所定の固形分となるように調整して粘着剤組成物を得た他は、例1と同様にして保護シートを得た。
【0059】
<例4>
冷却管、窒素導入管、温度計、撹拌装置を備えた反応容器に、2−エチルヘキシルアクリレート100部、酢酸ビニル80部、アクリル酸5部、および重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド(日油(株)製「ナイパー(登録商標)BW」)0.3部を投入し、所望の固形分になるようにトルエンを加え、60℃で6時間共重合させることによりアクリル系共重合体のトルエン溶液を得た。このアクリル系共重合体溶液に、該共重合体100部に対して「コロネート(登録商標)L」4部および「TETRAD(登録商標)−C」0.5部を添加し、さらにトルエンを用いて所定の固形分となるように調整して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いて、基材のコロナ放電処理面に厚み約5μmの粘着剤層を形成した他は、例1と同様にして保護シートを得た。
【0060】
<例5>
冷却管、窒素導入管、温度計、撹拌装置を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート58部、n−ブチルメタクリレート40部およびアクリル酸2部からなる単量体混合物100部に対し、乳化剤として「アクアロン(登録商標)BC−2020」1.65部、分散剤としてリン酸エステル系分散剤(東邦化学工業(株)製「フォスファノール(登録商標)RE−410」)0.6部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(キシダ化学(株)製「1級ペルオキソニ硫酸アンモニウム」)0.23部を添加し、所望の固形分になるように水を加え、60℃で6時間乳化重合させた。重合終了後、この反応液に10%濃度のアンモニア水(キシダ化学(株)製「10%アンモニア水」)を添加してpH8.0に調整し、アクリル系共重合体エマルションを得た。このアクリル系共重合体エマルションの固形分100部に対し、「エポクロス(登録商標)WS―500」2部を混合して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いて、基材のコロナ放電処理面に厚み約15μmの粘着剤層を形成した他は、例1と同様にして保護シートを得た。
【0061】
各例に係る保護シートにつき、下記評価試験を行った。それらの結果を、各例の構成と併せて表1に示す。
【0062】
[斜め定荷重試験]
図3,4に示すように、試験板を固定するテストスタンド30を鉛直に対して45°の角度となるように固定した他は、JIS Z0237の「13 保持力」に記載の要領で試験を行った。すなわち、厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのPIフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトン(登録商標)200H」)31からなる被着体に、幅20mm、長さ70mmの保護シート10を、温度25℃にてローラを備えたラミネータ(株)エム・シー・ケー製「MRK−600型卓上タイプ」(直径80mm×610mm×720mmのシリコンローラを前後上下に合計4つ備えたもの))を用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で一往復させて貼り合わせ、その被着体背面を297mm×420mmのSUS板(図示せず)に両面テープ(日東電工(株)製「No.500」、図示せず)で固定し、保護シート10がSUS板(図示せず)に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度でテストスタンド30に固定し、保護シート10の下端を粘着剤層同士が重なるように折り返し、クリップ(図示せず)で固定した。この折返し部分34に重さ6gのフック32を固定した。このフック32に200gの錘33をつけて温度25℃にて静置し、5分経過後、錘33によって剥がされた距離(H)を測定した。5分以内に全て剥がれて落下した場合は×とした。
【0063】
[剥離強度測定試験]
基材のMDを長手方向として10mm×60mmにカットした保護シートから剥離ライナーを除去し、露出した粘着剤層を、被着体としての15mm×60mmにカットしたPIフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトン(登録商標)200H」)に重ね合わせ、温度100℃にてローラを備えた熱ラミネータ((株)エム・シー・ケー製「MRK−600型卓上タイプ」(直径80mm×610mm×720mmのシリコンローラを前後上下に合計4つ備えたもの))を用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件で一往復させて保護シートを上記PIフィルムに熱圧着させた。保護シートが熱圧着された被着体を、50℃で30分保持した後、さらに温度25℃で1時間保持し、両面粘着テープ(日東電工(株)製「No.532」)を用いてSUS板(SUS430BA)に固定した。次いで、該保護シートを、JIS Z0237に準じて、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で、SUS板に固定された該被着体から引き剥がし、そのときの剥離強度をPS(N/20mm)として測定した。測定した結果に基づき、以下に示す基準で剥離性を評価した。
良:PSが0.2〜2.0N/20mmの範囲にある。
不良:PSが0.2N/20mm未満または2.0N/20mmを超える。
【0064】
[引張弾性率]
各保護シートを、MDを長手方向として幅10mmの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片を、JIS K7161に準拠して下記条件で延伸することにより応力−ひずみ曲線を得た。
測定温度:25℃
引張速度:300mm/分
チャック間距離:50mm
MD引張弾性率EM25は、規定された2点のひずみε1=1及びε2=2の間の曲線の線形回帰によって求めた。異なる箇所から切り出した3つの試験片を用いて上記測定を行い、それらの平均値を25℃におけるMDへの引張弾性率EM25(MPa)とした。
各保護シートを、TDを長手方向として幅10mmの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片を用い、上記と同様にして、25℃におけるTDへの引張弾性率ET25(MPa)を求めた。
測定されたEM25,ET25から、これらの合計値ES25(MPa)を求めた。
なお、EM25,ET25は、各保護シートの厚みの実測値から粘着剤層の厚みを差し引いた厚みの値に基づいて、基材の断面積当たりの値に換算して求めた。
【0065】
[密着性]
フレキシブルプリント基板(FPC)にメッキを施す際に用いられる保護シート(メッキマスキング用保護シート)としての使用態様を想定して、FPCの配線(典型的には銅線)とベースフィルムとの間の段差に対する密着性(段差追従性)を評価した。
図5,6に示すように、40mm×100mmのPIフィルム22((東レ・デュポン(株)製「カプトン(登録商標)200H」)の片面に、その長手方向に沿ってPIフィルム22表面の片側半分の面積を覆うように、20mm×100mmで厚さ35μmの銅箔24を接合して基板20を作製した。20mm×70mmにカットし、剥離ライナーを除去した各保護シートの試験片26を、基板20の上に、幅の略中央がPIフィルム22と銅箔24との境界に来るように位置合わせして、ハンドローラで軽く貼り合わせた。これを、上記剥離強度測定試験の際と同様の方法および条件で貼り合わせた(熱圧着)。熱圧着後、試験片26の貼り付けられた基板20のPIフィルム22と銅箔24との境界付近を真上(図6の矢印方向、すなわち基板表面に対して垂直な方向)から観察して、銅箔24とPIフィルム22との段差部分に存在する隙間(試験片26の粘着面が基板20の表面から浮いている部分)の有無を確認した(図6)。隙間の確認は、(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(倍率:100倍)を用いて、試験片26の長手方向の一端から10mm,35mmおよび60mmの箇所について行った。なお、隙間の幅Lが700μm以上の場合、メッキ液が滲み込み、不具合が発生する傾向があることから、メッキ液の滲み込みを許すほどの隙間の幅Lを700μm以上と定義した。それらの結果に基づき、各保護シートの密着性を以下の二段階に評価した。
良:メッキ液の滲み込みを許すほどの隙間の存在は確認されなかった。
不良:上記隙間の存在が確認された。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、斜め定荷重試験において剥がされた距離(H)が30mm以下であり、剥離強度PSが0.2〜2.0N/20mmの範囲内である例1〜例3に係る保護シートは、密着性、剥離性がともに優れていた。一方、斜め定荷重試験において剥がされた距離(H)が30mmを超えた例4に係る保護シートは、メッキ液の滲み込みを許すほどの隙間の存在が確認され、密着性に劣ることが示された。また、剥離強度PSが2.0N/20mmを超えた例5の保護シートは、剥離性が不良であった。
【0068】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1 基材
2 粘着剤層
3 剥離ライナー
10 保護シート
20 基板(被着体)
22 ポリイミド(PI)フィルム
24 銅箔
26 保護シート
30 テストスタンド
31 ポリイミド(PI)フィルム
32 フック
33 錘
34 折返し部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材の片面に設けられた粘着剤層とを備える保護シートであって、
以下の特性(A)および(B):
(A)厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのポリイミドフィルムからなる被着体に、幅20mm、長さ70mmの前記保護シートを、温度25℃にてローラを用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で貼り合わせ、その被着体背面を297mm×420mmのステンレス鋼板に両面テープで固定し、該保護シートが該ステンレス鋼板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定し、該保護シートの下端に200gの錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)が30mm以下であること;
(B)前記保護シートを、温度100℃にてローラを用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件でポリイミドフィルムからなる被着体に圧着し、温度50℃で30分保持した後、温度25℃で1時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で前記被着体から剥離して測定される剥離強度PSが、0.2〜2.0N/20mmであること;
を満たす保護シート。
【請求項2】
さらに、以下の特性(C):
(C)前記保護シートにつき、温度25℃における流れ方向についての引張弾性率をEM25とし、同温度における当該流れ方向に対する垂直方向についての引張弾性率をET25としたとき、これらEM25およびET25の合計値ES25が50MPa〜9000MPaであること;
を満たす、請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記粘着剤層を構成する粘着剤が、アクリル系ポリマーを主成分とするアクリル系粘着剤である、請求項1または2に記載の保護シート。
【請求項4】
前記基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする、請求項1から3のいずれかに記載の保護シート。
【請求項5】
金属をメッキする際に非メッキ部分に貼り付けられて当該非メッキ部分をメッキ液から保護するメッキマスキング用保護シートである、請求項1から4のいずれかに記載の保護シート。
【請求項6】
保護シートを製造する方法において、
以下の特性(A)および(B):
(A)厚さ50μm、幅20mm、長さ100mmのポリイミドフィルムからなる被着体に、幅20mm、長さ70mmの前記保護シートを、温度25℃にてローラを用いて付与圧力0.26MPa、移動速度0.3m/分の条件で貼り合わせ、その被着体背面を297mm×420mmのステンレス鋼板に両面テープで固定し、該保護シートが該ステンレス鋼板に対して下方となるように鉛直に対して45°の角度で治具に固定し、該保護シートの下端に200gの錘をつけて温度25℃にて静置し、5分間の間に前記錘によって剥がされた距離(H)が30mm以下であること;
(B)前記保護シートを、温度100℃にてローラを用いて付与圧力0.66MPa、移動速度1.0m/分の条件でポリイミドフィルムからなる被着体に圧着し、温度50℃で30分保持した後、温度25℃で1時間保持した場合において、温度25℃、剥離速度5m/分、剥離角度180°の条件で前記被着体から剥離して測定される剥離強度PSが、0.2〜2.0N/20mmであること;
を満たすように、配合成分およびその配合割合を選定して粘着剤組成物を調製すること、および
前記調製した粘着剤組成物を用いて、前記基材の片面に粘着剤層を設けること、
を含む、保護シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112716(P2013−112716A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258609(P2011−258609)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】