説明

保護バッグ

【課題】 乗員の腰部を適切に拘束することにより、該乗員に対する保護を有効に図ることが可能な保護バッグを提供する。
【解決手段】 保護バッグ31は、車両の側突時に該車両のシート11に着座する乗員Pの腰部Lを拘束して該乗員Pを保護するために、液体41を流入させることにより、ドアトリム36から乗員Pの腰部Lに向かって展開する。保護バッグ31は、乗員Pの腰部Lの側方に配置され、かつ車両の側突時に乗員Pの腰部Lに向かって側方に展開することが好ましい。保護バッグ31は、車両のシート11に着座する乗員Pの骨格において、腸骨121を中心とした骨盤111の後部で該乗員Pの腰部Lを拘束する。保護バッグ31は、乗員Pの斜め後方から該乗員Pの腰部Lに当接すること、及び、車両の前進方向に関して後方ほど該車両の内側に位置するように斜めに傾斜した状態で乗員Pの腰部Lに当接することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側突時に該車両のシートに着座する乗員を保護するための保護バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両の側突時に、車両のシートに着座する乗員を保護するためのサイドエアバッグ装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−335210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、前記従来のサイドエアバッグ装置による乗員の保護とは異なる戦略を打ち立てて、乗員の保護を図る方法について鋭意研究を行った。その結果、車両のシートに着座する乗員の側部を保護する際に、着座姿勢の乗員の骨格に着目して様々なシミュレーションを行ったところ、乗員の腸骨を中心とした骨盤の後部で該乗員の腰部を拘束することにより、最も有効な保護が可能となることを見出した。そして、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0004】
本発明の目的とするところは、乗員の腰部を適切に拘束することにより、該乗員に対する保護を有効に図ることが可能な保護バッグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両の側突時に該車両のシートに着座する乗員の腰部を拘束して該乗員を保護する保護バッグであって、前記車両には前記乗員の側方に配置されるインナートリムが設けられ、該保護バッグは、前記車両の側突時に流体を流入させることにより、前記インナートリムから前記乗員の腰部に向かって展開することを要旨とする。
【0006】
この構成によれば、保護バッグは、車両の側突時に、ドアトリムのようなインナートリムから乗員の腰部に向かって展開する。インナートリムは車両のシートに着座する乗員に近接した位置に配置されているため、保護バッグは乗員を迅速に保護することを容易にする。さらに、インナートリムは乗員の側方に配置されているため、保護バッグは、該保護バッグを備えた車両に対する別の車両等の衝突の方向とほぼ一致した方向に展開する。このため、保護バッグは、乗員と前記別の車両等との間に適切に展開し、該別の車両等により加えられる衝撃を効果的に吸収する。従って、車両の側突時に乗員の腰部が適切に拘束され、結果的に乗員に対する保護が有効に図られる。
【0007】
請求項2に記載の保護バッグは、請求項1に記載の発明において、前記流体は液体であることを要旨とする。
この構成によれば、液体の流入により展開する保護バッグの表面は、人体のような複雑な形状に対する高い追従性を有しているため、車両の側突時に乗員に加えられる荷重を該乗員の腰部に沿って適切に分散させる。従って、車両の側突時に乗員の腰部が適切に拘束され、結果的に乗員に対する保護が有効に図られる。
【0008】
請求項3に記載の保護バッグは、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記保護バッグは、前記乗員の腰部の側方に配置され、かつ前記車両の側突時に前記乗員の腰部に向かって側方に展開することを要旨とする。
【0009】
この構成によれば、保護バッグは、乗員の腰部の側方に配置されているため、インナートリムと乗員の腰部との間をほぼ最短距離で繋ぐように展開する。従って、保護バッグによる乗員の迅速な保護が図られる。
【0010】
請求項4に記載の保護バッグは、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記インナートリムにはアームレストが突設され、前記保護バッグは、前記アームレストの基端部に配置され、かつ前記車両の側突時に前記アームレストの下部から前記乗員の腰部に向かって展開することを要旨とする。
【0011】
この構成によれば、保護バッグは、アームレストよりも下方の空間を埋めるように展開するため、アームレストと乗員との間の干渉が容易に抑えられる。さらに、アームレストよりも下方の空間には、保護バッグの展開を妨げる障害物が少ないため、保護バッグの展開がスムーズに行われる。
【0012】
請求項5に記載の保護バッグは、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記保護バッグは、前記車両のシートに着座する前記乗員の骨格において、寛骨臼よりも後方の骨盤に対応する部位で該乗員の腰部を拘束することを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の保護バッグは、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記保護バッグは、前記車両のシートに着座する前記乗員の骨格において、腸骨に対応する部位で該乗員の腰部を拘束することを要旨とする。
【0014】
車両の側突時に乗員が車幅方向に慣性力を受ける場合、該乗員の腰部は、例えば車室の側部を区画するインナートリムのような内側壁に向かって移動する。また、車両の側突時に、前記内側壁が乗員の腰部に向かって近づくように移動する場合もある。乗員の腰部が前記内側壁等に当接して、車室の内側へと押圧される場合、該乗員の腰部には、内側壁等から及ぼされる押圧力に応じた荷重が入力される。
【0015】
一方、車両のシートに着座している姿勢の乗員において、腰部の前部には、大腿骨の上端部において外側に突出するように延びる大転子と、骨盤の前面を構成する恥骨とがそれぞれほぼ車幅方向に延びるように配置されている。また、腰部の後部には、骨盤の後面を構成する腸骨の一部がほぼ車幅方向に延びるように配置されている。大転子の先端は腸骨の側端部よりも外側に突出し、車幅方向に延びる恥骨の断面積の最小値は、同方向に延びる腸骨の断面積の最小値の3分の1程度しかない。
【0016】
このため、乗員の腰部の側面が前記内側壁等に当接して押圧されるような場合、大転子に対応する部位で押圧されるよりも、腸骨を中心とした骨盤の後部で押圧される方がより大きな荷重の入力に耐えられる構造になっている。即ち、骨盤の後部に荷重が入力される場合、大転子に対応する部位に荷重が入力される場合よりも、該荷重がより広い面積に分散して受け止められるようになる。よって、例えば同じ大きさの荷重が入力される場合、該荷重の入力方向に直交する骨の断面に関し、単位面積あたりに入力される荷重の大きさは、恥骨よりも腸骨で低下するため、腸骨全体では前記荷重をより低い応力で受け止めることが可能となる。
【0017】
そこで、請求項5に記載の保護バッグは、車両の側突時に、車両のシートに着座する乗員の骨格において、寛骨臼よりも後方の骨盤に対応する部位で該乗員の腰部を拘束するため、腰部の前部で拘束する場合と比べて、乗員の腰部に加えられる荷重をより低い応力で受け止めることを可能にする。従って、乗員の腰部の骨格に適した形態で該乗員の腰部が適切に拘束されるため、該乗員に対する保護を有効に図ることが可能となる。
【0018】
請求項6に記載の保護バッグは、車両の側突時に、車両のシートに着座する乗員の骨格において、腸骨に対応する部位で該乗員の腰部を拘束するため、腰部の前部で拘束する場合と比べて、乗員の腰部に加えられる荷重をより低い応力で受け止めることを可能にする。従って、乗員の腰部の骨格に適した形態で該乗員の腰部が適切に拘束されるため、該乗員に対する保護を有効に図ることが可能となる。
【0019】
請求項7に記載の保護バッグは、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記保護バッグは、前記車両の側突時に前記乗員の斜め後方から該乗員の腰部に当接することを要旨とする。
【0020】
請求項8に記載の保護バッグは、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の発明において、前記保護バッグは、前記車両の側突時に、前記車両の前進方向に関して後方ほど該車両の車室側に位置するように斜めに傾斜した状態で前記乗員の腰部に当接することを要旨とする。
【0021】
請求項7及び請求項8に記載の発明によれば、乗員の腰部は、腸骨を中心とした骨盤の後部の外側の面のうちの広い範囲に対応する部位で、保護バッグからの荷重の入力を受ける。その結果、前記荷重は腸骨を中心とした骨盤の後部の広い範囲に亘って分散しながら伝えられるため、乗員に対する高い保護性能が発揮される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、乗員の腰部を適切に拘束することにより、該乗員に対する保護を有効に図ることが可能な保護バッグを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の保護バッグを具体化した一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、人体の骨盤付近の骨格を示す斜視図であり、例えば、車両の運転席のシートに着座した姿勢の乗員の骨盤111(pelvis)付近を、ステアリングホイール付近から見た斜視図に相当する。図2(a)は、人体の骨盤111付近の骨格を左斜め後方から示す斜視図である。
【0024】
図1及び図2(a)に示すように、骨盤111は、脊柱と下肢との間にある輪状の骨であり、頭部、上肢及び胴体の重量を支える強靱な構造を有している。骨盤111は、頭蓋腔や胸腔の壁よりも丈夫で厚く作られており、骨盤111の側面及び前面を形作る2個の寛骨112(hip bone)と、後部の壁を形作る仙骨113(sacrum)及び尾骨114(coccyx)とから構成されている。
【0025】
寛骨112は、骨盤111の大部分を占め、比較的平坦ではあるが不規則な形状を有している。各寛骨112は、腸骨121(ilium)、坐骨122(ischium)及び恥骨123(pubis)の3つの骨を癒合させることにより構成されている。癒合は、大腿骨170の骨頭171が嵌る寛骨臼125(acetabulum、図3参照)と呼ばれるカップ状の関節空洞周辺及び各骨の両端部で起きている。
【0026】
腸骨121は、寛骨112の側面を形成し、寛骨臼125から上方に向かって広く拡大するように延びる部分である。腸骨121は、大きな翼型の腸骨翼(ala ossis ilium)及び寛骨臼125の一部を含む腸骨体126(body of the ilium、図3参照)の2つの部分に分けられる。腸骨翼の上部前方を上前腸骨棘(anterior−superior iliac spine)、下部前方を下前腸骨棘(anterior−inferior iliac spine)、上部後方を上後腸骨棘127(posterior−superior iliac spine)、下部後方を下後腸骨棘(posterior−inferior iliac spine)と呼ぶ。腸骨121は、耳状面128(auricular surface)と呼ばれる内側の面で、仙骨113に固く結合している。
【0027】
仙骨113の耳状面128と、腸骨121の耳状面128とにより、仙腸関節129(articulatio sacroiliaca、図2(a)参照)が形成されている。仙腸関節129の関節面には、滑液を含むとともに軟骨で覆われた狭い関節腔が存在する。仙腸関節129は、ほとんど可動性を示さない関節ではあるが、前記関節面に凹凸を有しているうえ、複数の強い靱帯により包まれているという特徴的な構造を有しているため、仙骨113と腸骨121との間の限られた相対運動を許容する。即ち、仙腸関節129は、図2(a)、(b)に示すように、仙骨113に対して各腸骨121が前後方向に回動するような運動を許容する。
【0028】
坐骨122は、寛骨112の下側の後方部位を形成し、坐骨体(body of ischium)及び坐骨枝141(ramus of ischium)に分けられる。坐骨体は、寛骨臼125の後方の3分の1を構成している。坐骨体の下側部分は、坐骨結節(ischial tuberosity)であり、着座姿勢時の乗員Pの胴体を支える。坐骨枝141は、薄い平坦な坐骨を恥骨枝151に繋ぐ部分である。
【0029】
恥骨123は、恥骨体152(図3参照)及び恥骨枝151からなる不規則な形状を有する骨である。恥骨体152は、寛骨臼125の前方の3分の1を構成している。恥骨枝151は、恥骨上枝151a及び恥骨下枝151bより構成されている。恥骨上枝151aは、恥骨体152から正中矢状面へ延び、反対側にある対応する恥骨上枝151aと関節をなしている。この関節は、恥骨結合153(pubic symphysis)と呼ばれ、軟骨板を含むため、若干動くことのできる関節である。恥骨下枝151bは、坐骨枝141と結合し、閉鎖孔(obuturator foramen)の低部弓(bottom arch)を形成している。恥骨下枝151bも、恥骨上枝151aと同様に、恥骨結合153により反対側にある恥骨下枝151bと結合している。
【0030】
各大腿骨170の上端部には、骨頭171と、該骨頭171より側方に向かって延びる大転子172とが存在する。大転子172の先端は、通常、図1に示すように、骨盤111の側端部よりも身体の外側に向かって若干突出している。また、図3に示すように、大転子172と同じ高さに位置する左右の腸骨121は、寛骨臼125の部分を最も外側に位置させ、上後腸骨棘127又は下後腸骨棘の部分を最も内側に位置させるように、後方ほど狭まるテーパ形状に形成されている。即ち、大転子172と同じ高さに位置する腰部の骨格においては、大転子172が最も身体の外側に配置される骨となっている。
【0031】
図3は、車両のシート11の座部11aに着座した姿勢の乗員Pの腰部Lを模式的に示す平断面図である。図示するように、シート11の側方には、車室の側部を区画する内側壁13(例えばドアトリムのようなインナートリムの側面)が配置されている。内側壁13は、シート11及び乗員Pと同様に、車両の前後方向に延びるように配置されている。
【0032】
さて、車両の側突時には、乗員Pは、車幅方向、即ち内側壁13側に向かって慣性力を受ける。さらに、内側壁13の外側(サイドドアのようなボディの外側面)に別の車両等が衝突するような場合には、内側壁13が乗員Pに向かって近づくように膨出する場合もある。このような場合、乗員Pの腰部Lは、内側壁13に対して直接的に、又はサイドエアバッグ等を介して間接的に当接する。
【0033】
本発明者らは、シート11に着座した姿勢の乗員Pに対して、このような車両の側突時に加えられる荷重と、該乗員Pの骨格との関係について、コンピュータ支援エンジニアリング解析(CAE解析)によるシミュレーションを実施した。その結果、乗員Pの腰部Lが内側壁13と真横から当接するような従来の技術(乗員Pの腰部Lが図3に示される内側壁13と平行な面で当該内側壁13と当接するような場合)では、内側壁13から乗員Pへと入力された荷重は、該乗員Pの骨格において、特徴的な偏りのある分布を示していた。特に、乗員Pの身体の外側に位置する大転子172への初期荷重の入力が、小さな断面積を有する恥骨123にダイレクトに集中する傾向が見られた。従って、このような荷重の入力を時間的及び空間的に可能な限り広い範囲に分散させるとともに均等化させること、或いは荷重の入力に対して高い耐性を有する部位に荷重の分布を選択的に偏らせることが望ましい。
【0034】
ここで、図1に示すように、大転子172の内側には、恥骨上枝151a及び恥骨下枝151bからなる恥骨123が、ほぼ車幅方向に延びるように配置されている。また、骨盤111の後部には、ほぼ車幅方向に沿って延びる腸骨121の耳状面128が存在する。耳状面128付近は、骨盤111の後部において、車幅方向に沿って延びる骨のうち、最も小さな断面積を有している。しかしながら、恥骨上枝151aの断面積S1と恥骨下枝151bの断面積S2との和は、耳状面128付近における腸骨121の断面積S3の3分の1程度しかない。
【0035】
本発明者らは、前記CAE解析において、具体的に、図4(a)に示す荷重を骨盤111に加えた場合に該骨盤111が示す応力の変化をシミュレーションした。図4(a)は、骨盤111の前部(恥骨側)及び後部(仙骨側)に、それぞれ同等な荷重を入力したときの骨盤111に加わる荷重の変化をシミュレーションしたグラフであり、図4(b)は、前記骨盤111が示す応力の時間変化を示すグラフである。
【0036】
図4(b)に示すように、同等の荷重を入力したにも関わらず、骨盤111の前部(恥骨側)における応力は、後部(仙骨側)における応力よりも大きくなっていた。特定の条件(例えば、乗員Pを米国人男性の標準体格に設定したような条件)でのCAE解析の結果によれば、骨盤111の前部(恥骨側)及び後部(仙骨側)における断面積の相違にほぼ反比例するように、骨盤111の前部(恥骨側)における応力は、後部(仙骨側)における応力の3倍程度大きくなっていた。つまり、乗員Pの保護を有効に図るという観点から、乗員Pの腰部Lにおいて、大転子172を介して恥骨123へと多くの荷重を入力させることは、応力の極端な偏りを招くため、あまり望ましくない。好ましくは、骨盤111の前部(恥骨側)に入力される荷重が、後部(仙骨側)に入力される荷重よりも小さくなることである。ちなみに、上記特定の条件において最も好ましくは、骨盤111の前部(恥骨側)に入力される荷重が、後部(仙骨側)に入力される荷重の3分の1程度になることである。
【0037】
このような望ましい荷重の入力を達成するために、車両のシート11に着座した乗員Pの腰部Lの側方に、図3に示すような衝撃吸収部材21を設けることが好ましい。なお、図3には、衝撃吸収部材21の一部のみが示されている。衝撃吸収部材21は、衝撃吸収作用を有する材料よりなり、乗員Pの腰部Lに当接するテーパ面23を備えている。なお、図3に二点鎖線で示すように、衝撃吸収部材21には、乗員Pの腰部Lと当接する前記テーパ面23に代えて、乗員Pの腰部Lとは所定間隔離間して配置されるテーパ面23aが設けられていても構わない。
【0038】
テーパ面23,23aは、乗員Pの腰部Lの側方において、腸骨121を中心とした骨盤111の後部、具体的には寛骨臼125よりも後方の骨盤111に対応する部位で該乗員Pの腰部L(臀部)に当接可能となるように配置されている。ちなみに、前記寛骨臼125よりも後方の骨盤111に対応する部位には、寛骨臼125自体は含まれない。さらに、テーパ面23,23aは、腸骨121、仙骨113及び坐骨122の側方で該乗員Pの腰部Lに当接可能となるように配置されていることが好ましく、腸骨121に対応する部位で該乗員Pの腰部Lに当接可能となるように配置されていることが特に好ましい。また、テーパ面23,23aは、腸骨121を中心とした骨盤111の後部、具体的には寛骨臼125よりも後方の骨盤111に沿うように形成されていることが好ましく、腸骨121に沿って延びるように形成されていることが特に好ましい。
【0039】
このようなテーパ面23,23aは、車両の前進方向に関し、後方ほど車室側に突出するように、内側壁13に対して所定角度で傾斜する面により構成されていることが好ましい。また、テーパ面23,23aは、後方ほど車室内に突出するとともに、中央部を弧状に凹ませるような曲面、例えば、ほぼ椀型形状の一部をなす腸骨121の外側の面に沿った曲面により構成されていることが特に好ましい。さらに、テーパ面23,23aは、車両の上下方向に関し、下方ほど車室内に突出するように形成されていることが好ましく、下方ほど車室内に突出するとともに、中央部を弧状に凹ませるように形成されていることが特に好ましい。このようなテーパ面23,23aは、車両の側突時に、乗員Pの腰部L(臀部、特に大臀筋の中央部付近の臀部)と当接し、該乗員Pの腰部Lを車室側へと押圧することにより、腰部Lがテーパ面23,23aよりも車両の外側に移動しないように拘束する。このとき、テーパ面23,23aは、車両のシート11に着座した乗員Pの骨格において、腸骨121を中心とした骨盤111の後部で、該乗員Pの腰部Lを拘束することにより、乗員Pに対する保護性能を発揮する。
【0040】
上述したように、腸骨121を中心とした骨盤111の後部は、大転子172に対応する部位よりも、車幅方向の荷重に対して強靱な骨格を有している。さらにこの場合、骨盤111の後部は、大臀筋が最も厚く介在しているため、腸骨121に荷重が伝わる前に大臀筋による高い衝撃吸収作用が発揮される。このため、例えば上記特定の条件において、テーパ面23,23aが腸骨121を中心とした骨盤111の後部で乗員Pの腰部Lに当接して該乗員Pを拘束する場合には、大転子172に対応する部位で当接する場合よりも、3倍以上高い荷重の入力に耐えることが可能となるはずである。よって、乗員Pに対する保護性能をより一層高めることができる。
【0041】
さらに、テーパ面23,23aは、乗員Pの腰部Lのうち、腸骨121を中心とした骨盤111の後部(臀部)と最初に当接(接触)することが好ましい。このとき、テーパ面23,23aが大転子172に対応する部位に最初に当接する場合と比べて、恥骨123に対して加えられる荷重が大幅に低減されるため、乗員Pに対する保護性能を容易に高めることが可能となる。また、テーパ面23,23aを含む衝撃吸収部材21は、乗員Pの斜め後方から該乗員Pの腰部Lに当接することが好ましい。このとき、テーパ面23,23aは、腸骨121を中心とした骨盤111の後部の外側の面のうちの広い範囲に亘って同時に荷重を伝えることが可能となる。その結果、前記荷重は骨盤111の後部の広い範囲に亘って分散しながら伝えられるため、乗員Pに対する高い保護性能が発揮される。
【0042】
さらに、本発明者らは、腸骨121を中心とした骨盤111の後部のどの部位に荷重の入力を偏らせることが最も有効な保護を図り得るかについて、CAE解析によるシミュレーションを行った。その結果、テーパ面23,23aが腸骨121の上端部(耳状面128よりも上方の腸骨翼)に当接するような場合、該テーパ面23,23aから乗員Pへと入力された荷重が、該乗員Pの骨格において、特徴的な偏りのある分布を示していた。即ち、テーパ面23,23aから入力された荷重は、仙腸関節129を軸に仙骨113に対して腸骨121を前方に回動させるべく、仙腸関節129を支点とし、腸骨121を作用点とする回転モーメントを発生させた。この回転モーメントは、腸骨121の前端部から恥骨123へと作用するが、恥骨結合153を軸に可動となる恥骨123の動きと一致した方向には作用しない。このため、前記回転モーメントは、小さな断面積を有する恥骨123に対する曲げモーメントに転化され、恥骨123にダイレクトに集中する傾向が見られた。従って、このような荷重の入力に対して高い耐性を有する部位に荷重の分布を選択的に偏らせることが望ましい。
【0043】
このような観点から、テーパ面23,23aは、乗員Pの骨格において、シート11に着座した乗員Pの骨盤111の上下方向に関し、仙腸関節129(耳状面128)以下の部位で、該乗員Pの腰部Lに当接可能となるように配置されていることが好ましい。この場合、例えば、テーパ面23,23aは、坐骨122、仙骨113及び仙腸関節129以下の腸骨121(即ち、腸骨体126)の側方で、乗員Pの腰部Lに当接可能となるように配置される。
【0044】
さらに、テーパ面23,23aは、仙腸関節129に向かって荷重を入力するように配置されていることが好ましい。この場合、例えば、テーパ面23,23aは、腸骨121の斜め後方やや下側に配置され、その位置から仙腸関節129に向かう方向に垂直な平面により構成される。また、テーパ面23,23aは、腸骨121の斜め後方やや下側に配置され、その位置から仙腸関節129をほぼ等距離で取り囲むように湾曲して延びる椀型状の曲面により構成することも可能である。このような態様のテーパ面23,23aは、乗員Pの骨格において、腸骨121の斜め後方やや下側から、仙腸関節129に向かって荷重を入力することが可能である。
【0045】
このような望ましい形態で乗員Pを保護するべく、本実施形態では、図5(a)、(b)に示すような保護バッグ31を設ける構成が採用されている。保護バッグ31は、布帛又はフィルムにより袋状に形成されている。
【0046】
図6(a)に示すように、車両のシート11の車外側には、サイドドア32が設けられている。サイドドア32の上部にはサイドドアウインドウ33が設けられている。図6(a)、(b)に示すように、サイドドア32の下部には、車幅方向に関して車外側から車室側へと順に、サイドアウターパネルとしてのサイドドアアウターパネル34、サイドインナーパネルとしてのサイドドアインナーパネル35及びインナートリムとしてのドアトリム36が設けられている。サイドドアアウターパネル34及びサイドドアインナーパネル35は鋼板により構成され、ドアトリム36は主に樹脂板により構成されている。
【0047】
サイドドアアウターパネル34とサイドドアインナーパネル35との間には、不燃性の液体41を封入したアルミニウム製の液体タンク42が設けられている。ここで、液体41は、非圧縮流体であり、かつ低い粘度及び高い沸点を有していることが好ましい。液体タンク42は、サイドドアアウターパネル34の上下方向のほぼ中央部に位置している。液体タンク42は、サイドドアアウターパネル34の裏面に沿って配置され、車両の側突時にサイドドアアウターパネル34の変形に追従するように変形可能である。サイドドアインナーパネル35の上下方向のほぼ中央部には、円孔43が設けられている。円孔43には、液体タンク42の固定部44が固定されている。
【0048】
固定部44は、スチールにより車室側ほど狭まるテーパ形状に形成された環状テーパ部44aと、環状テーパ部44aの先端に設けられた破断部44bとを備えている。環状テーパ部44aは、液体タンク42内の液体41をサイドドアインナーパネル35よりも車室側に向かって側方(ほぼ真横)に流出させるべく、方向付けを行うために設けられている。破断部44bは、図7(b)に示すように、液体タンク42内の圧力の上昇により破断可能となっている。
【0049】
図6(b)に示すように、円孔43の車室側には、保護バッグ31の基端部を固定するための固定ブラケット46が設けられている。固定ブラケット46は、円孔43に沿って開口された開口孔46aを備えた円環状に形成されている。開口孔46aの車室側には、保護バッグ31の基端部が固定されているうえ、折り畳まれた状態の保護バッグ31を収容するための収容凹部46bが設けられている。収容凹部46bは、先端側ほど広がるテーパ形状に形成されている。
【0050】
固定ブラケット46の側方に位置するドアトリム36の裏面(車外側の面)には、切欠き部47が設けられている。切欠き部47は、図7(b)に示すように、保護バッグ31が車室側に展開する際に、破断及び変形して開口47aを形成する。なお、図6(a)に示すように、固定ブラケット46は、ドアトリム36の上下方向のほぼ中央部に突設されたアームレスト48よりも下方に配置されるとともに、シート11の座部11aの上面よりも上方に配置されている。このため、固定ブラケット46の側方(ほぼ真横)には、シート11に着座した乗員Pの腰部Lが位置することとなる。
【0051】
次に、上記保護バッグ31の作用について説明する。
本実施形態の車両において、図5(a)の太矢印Aで示す方向から別の車両等が側突するような場合、同図に示すように、サイドドアアウターパネル34が車室側に凹む。このとき、液体タンク42は、サイドドアアウターパネル34の変形に追従するように変形して押し潰される。その結果、液体タンク42内の圧力が上昇し、図7(b)に示すように、液体タンク42内の液体41が破断部44bを破断させて保護バッグ31内に流入する。保護バッグ31内に流入する液体41は、環状テーパ部44aにより所定方向に方向付けられつつ、折り畳み状態の保護バッグ31の内部に向かって噴出する。
【0052】
保護バッグ31は、前記液体41の流入によって膨張するが、収容凹部46bの側面に規制されているため、車室側に向かって膨張するように方向付けられる。保護バッグ31が車室側に向かって膨張すると、該保護バッグ31は、ドアトリム36の裏面を車室側に向かって押圧しながら、図7(a)に示すように、切欠き部47を破断及び変形させて開口47aを形成させる。続いて、図5(a)、(b)に示すように、保護バッグ31は、収容凹部46bの側面及び開口47aの周縁部にガイドされながら、ドアトリム36の下部と、シート11に着座する乗員Pの腰部Lとの間をほぼ最短距離で繋ぐように、ドアトリム36から乗員Pの腰部Lに向かって側方(ほぼ真横)に展開する。ちなみに、最も大きく展開したときの保護バッグ31の容積は、液体タンク42が押し潰された容積に比例する。
【0053】
展開した保護バッグ31は、乗員Pの腰部Lと当接する位置にテーパ面31aを形成させる。テーパ面31aの形成は、次のようにして行われる。まず、保護バッグ31の外面が乗員Pの腰部Lに当接すると、該保護バッグ31の外面は、乗員Pの腰部Lを車室側に押圧しながら、該腰部Lと当接した部分を中心にして乗員Pの腰部Lの外面形状に追従するように変形する。その結果、テーパ面31aは、乗員Pの腰部Lの後部に沿った形状に形成される。
【0054】
このテーパ面31aは、乗員Pの腰部Lの側方において、腸骨121を中心とした骨盤111の後部で該乗員Pの腰部Lに当接している。さらに、テーパ面31aは、腸骨121に沿って延びるように形成されている。また、テーパ面31aは、車両の前進方向に関し、後方ほど車室内に突出するとともに、中央部を弧状に凹ませるように形成されている。さらに、テーパ面31aは、車両の上下方向に関し、下方ほど車室内に突出するとともに、中央部を弧状に凹ませるように形成されている。このテーパ面31aは、乗員Pの腰部Lと当接し、該乗員Pの腰部Lを車室側へと押圧することにより、腰部Lがテーパ面31aよりも車両の外側に移動しないように拘束する。このとき、テーパ面31aは、車両のシート11に着座した乗員Pの骨格において、腸骨121を中心とした骨盤111の後部に荷重を集中させ、大転子172に対応する部位に加えられる荷重を低減させるように乗員Pの腰部Lを拘束するため、乗員Pに対する高い保護性能を発揮する。
【0055】
また、本実施形態のテーパ面31aは、ほとんどの場合、乗員Pの腰部Lのうち、腸骨121を中心とした骨盤111の後部と最初に当接(接触)する。さらに、保護バッグ31は、その高い追従性により、乗員Pの腰部Lとシート11の背もたれ部11bとの間にも進入し、乗員Pの斜め後方から該乗員Pの腰部Lに当接する。このため、テーパ面31aは、腸骨121を中心とした骨盤111の後部の外側の面のうちの広い範囲に亘って分散しながら荷重を伝えるとともに、乗員Pの腰部Lに対して斜め後方から当接して荷重を伝える。
【0056】
加えて、保護バッグ31は、その高い追従性により、乗員Pの腰部Lとシート11の座部11aとの間にも進入し、乗員Pの斜め下方から該乗員Pの腰部Lに当接する。このため、テーパ面31aは、乗員Pの骨格において、シート11に着座した乗員Pの骨盤111の上下方向に関し、仙腸関節129以下の部位で、該乗員Pの腰部Lに当接する。さらにこのとき、テーパ面31aは、仙腸関節129に向かって荷重を入力するため、乗員Pの骨格において、腸骨121の斜め後方やや下側から、仙腸関節129に向かって荷重を入力することを容易にする。
【0057】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の保護バッグ31は、車両の側突時にドアトリム36から乗員Pの腰部Lに向かって展開する。ドアトリム36は車両のシート11に着座する乗員Pに近接した位置に配置されているため、保護バッグ31は乗員Pを迅速に保護することができる。さらに、ドアトリム36は乗員Pの側方に配置されているため、保護バッグ31は、該保護バッグ31を備えた車両に対する別の車両等の衝突の方向とほぼ一致した方向に展開する。このため、保護バッグ31は、乗員Pと前記別の車両等との間に適切に展開し、該別の車両等により加えられる衝撃を効果的に吸収することができる。従って、車両の側突時に乗員Pの腰部Lが適切に拘束され、結果的に乗員Pに対する保護を有効に図ることが可能となる。
【0058】
・ 本実施形態の保護バッグ31には、液体41を流入させることにより展開する構成が採用されている。液体41の流入により展開する保護バッグ31の表面は、人体のような複雑な形状に対する高い追従性を有しているため、車両の側突時に乗員Pに加えられる荷重を該乗員Pの腰部Lに沿って適切に分散させることができる。従って、車両の側突時に乗員Pの腰部Lが適切に拘束され、結果的に乗員Pに対する保護を有効に図ることが可能となる。
【0059】
さらに、液体41を流入させることにより展開する保護バッグ31は、シート11等の障害物に当接すると、該障害物の外面に追従しながら障害物を避けるように展開する性質を有する。このため、車両の前進方向及び上下方向に関するシート11の位置が乗員Pの体格等に伴って変更されたような場合でも、乗員Pの腰部Lを適切な位置で拘束することが可能である。さらに、保護バッグ31の車室側への突出量(容積)は、液体タンク42が押し潰された容積に比例するため、側突の程度に応じた保護性能を発揮することが可能である。また、液体タンク42は、車両の走行中及びサイドドア32の開閉時における振動を低減させるためのダンパー機能を発揮し得るうえ、車室内の保温性能を高めるための断熱材としての機能も発揮し得る。
【0060】
・ 本実施形態の保護バッグ31は、乗員Pの腰部Lの側方(ほぼ真横)に配置され、かつ車両の側突時に乗員Pの腰部Lに向かって側方(ほぼ真横)に展開する。即ち、保護バッグ31は、乗員Pの腰部Lの側方に配置されているため、ドアトリム36と乗員Pの腰部Lとの間をほぼ最短距離で繋ぐように展開することができる。従って、保護バッグ31による乗員Pの迅速な保護を容易に図ることが可能となる。さらに、保護バッグ31は、乗員Pの腰部Lを側方に移動させてドアトリム36から逃がす方向に展開するため、例えば車両の前進方向や上下方向に展開する特許文献1のエアバッグ装置と比較して、高い保護性能を発揮することができる。
【0061】
・ 本実施形態の保護バッグ31は、車両の側突時に、車両のシート11に着座する乗員Pの骨格において、腸骨121を中心とした骨盤111の後部で該乗員Pの腰部Lを拘束するため、腰部Lの前部で乗員Pを拘束する場合と比べて、乗員Pの腰部Lに加えられる荷重をより低い応力で受け止めることを可能にする。従って、乗員Pの腰部Lの骨格に適した形態で該乗員Pの腰部Lが適切に拘束されるため、該乗員Pに対する保護を有効に図ることが可能となる。
【0062】
・ 本実施形態の保護バッグ31は、車両の側突時に乗員Pの斜め後方から該乗員Pの腰部Lに当接する。また、本実施形態の保護バッグ31は、車両の側突時に、車両の前進方向に関して後方ほど該車両の内側に位置するように斜めに傾斜した状態で乗員Pの腰部Lに当接する。このような保護バッグ31を採用した場合、乗員Pの腰部Lは、腸骨121を中心とした骨盤111の後部の外側の面のうちの広い範囲に対応する部位で、保護バッグ31からの荷重の入力を受ける。その結果、前記荷重は腸骨121を中心とした骨盤111の後部の広い範囲に亘って分散しながら伝えられるため、乗員Pに対する高い保護性能を発揮することができる。
【0063】
(変更例)
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図8(a)、(b)に示すように、アームレスト48の基端部に折り畳み状態の保護バッグ31を収容するとともに、車両の側突時に保護バッグ31をアームレスト48の下部(下面)から乗員Pの腰部Lに向かって展開するように変更してもよい。なお、アームレスト48の基端部には、保護バッグ31をアームレスト48の下部から乗員Pの腰部Lへと向けて展開させるように方向付けするためのジャンプブラケット51(図8(b)参照)を設けることが好ましい。この場合、ジャンプブラケット51の基端部はサイドドアインナーパネル35に固定され、先端部は開口47aの上端部付近に配置されている。なお、この保護バッグ31は、自重により所望とする方向に展開されやすくなるため、液体41を流入させることにより展開する構成であることが好ましい。
【0064】
この構成によれば、保護バッグ31は、アームレスト48よりも下方の空間を埋めるように展開するため、アームレスト48と乗員Pとの間の干渉を容易に抑えることが可能となる。さらにこの場合、保護バッグ31が乗員Pの胸部と干渉しにくくなるため、乗員Pの胸部に対する保護性能を高めることもできる。また、この変更例は、特に、シート11の背もたれ部11bとアームレスト48との間にほとんど空間のないような車両においても、保護バッグ31をスムーズに展開させることができる点で優れている。
【0065】
さらに、アームレスト48よりも下方の空間には、保護バッグ31の展開を妨げる障害物が少ないため、保護バッグ31の展開をスムーズに行うことが容易となる。例えば、アームレスト48の下方にドアポケット52が設けられている場合でも、本変更例の保護バッグ31の展開に際しての妨げとはなりにくい。また、保護バッグ31は、アームレスト48の基端部に形成される比較的広い空間内に配置されているため、車両に対する保護バッグ31の組付けを容易に行うことも可能となる。
【0066】
・ 図9に示すように、保護バッグ31は、液体41の代わりに、インフレータ53から発生する流体としてのガスにより展開するように変更してもよい。この場合、例えば、円孔43を省略し、インフレータ53をサイドドアインナーパネル35又は固定ブラケット46に固定する構成が採用される。
【0067】
・ 液体タンク42を2室に区画し、混合により膨張する性質を有する2種類の液体を互いに分離して封入するように変更してもよい。
・ 保護バッグ31は、車両の前進方向に関し、乗員Pの腰部Lよりも前方又は後方に位置するドアトリム36の部分から、該乗員Pの腰部Lに向かって展開されてもよい。また、保護バッグ31は、車両の上下方向に関し、乗員Pの腰部Lよりも下方に位置するドアトリム36の部分から、該乗員Pの腰部Lに向かって展開されても構わない。
【0068】
・ 保護バッグ31は、電子制御装置(ECU)の制御により展開するように変更可能である。この場合、ECUは、車両の側突に起因する衝撃を検知する衝撃センサからの検知信号に基づいて、保護バッグ31を展開させる。なお、前記保護バッグ31は、液体41の流入及びインフレータ53から発生するガスの流入のいずれかによって展開される。
【0069】
・ 保護バッグ31は、フロントシートの側方及びリヤシートの側方のいずれに設けられていてもよい。また、保護バッグ31は、サイドドア32に設けられる以外にも、例えば2ドア車、3ドアハッチバック車又は3列シート仕様の車のリヤシートの側方に位置するサイドアウターパネルとインナートリムとの間に設けられていてもよい。また、片面スライドドア車におけるサイドアウターパネルとインナートリムとの間に設けられていてもよい。
【0070】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記車両は前記インナートリムよりも車外側にサイドインナーパネルを備え、該保護バッグは前記サイドインナーパネルと前記インナートリムとの間に設けられる請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の保護バッグ。
【0071】
・ 前記車両は、前記インナートリムよりも車外側に設けられるサイドインナーパネルと、該サイドインナーパネルよりも車外側に設けられ前記液体が封入される液体タンクと、該液体タンクよりも車外側に設けられるサイドアウターパネルとを備え、前記液体タンクは前記車両の側突時に前記サイドアウターパネルの変形に伴って変形可能であり、該保護バッグは前記サイドインナーパネルと前記インナートリムとの間に設けられる請求項2に記載の保護バッグ。
【0072】
・ 前記車両の側突時には、前記保護バッグが前記寛骨臼よりも後方の前記骨盤に沿うように前記乗員の腰部と当接することを特徴とする請求項5に記載の保護バッグ。
・ 前記車両の側突時には、前記保護バッグが前記腸骨に対応する部位で前記乗員の腰部と最初に当接することを特徴とする請求項6に記載の保護バッグ。
【0073】
・ 前記車両の側突時に前記乗員に加えられる荷重を、該乗員の仙腸関節に向かって入力させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の保護バッグ。
・ 前記車両の側突時に前記乗員に加えられる荷重のうち、該乗員の大転子に向かって入力される荷重を低減させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の保護バッグ。
【0074】
・ 前記保護バッグは、前記車両の側突時に前記乗員の斜め後方から該乗員の腰部に当接するようなテーパ面を形成することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の保護バッグ。
【0075】
・ 前記保護バッグは、前記車両の側突時に、前記車両の前進方向に関して後方ほど該車両の車室側に位置するように斜めに傾斜した状態で前記乗員の腰部に当接するようなテーパ面を形成することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の保護バッグ。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】人体の骨盤付近の骨格を示す斜視図。
【図2】(a)は人体の骨盤付近の骨格を斜め後方から示す斜視図、(b)は図2(a)に示す骨格において、仙腸関節を軸に右側の腸骨を前方に回動させた場合の様子を模式的に示す斜視図。
【図3】車両のシートの座部に着座した姿勢の乗員の腰部を模式的に示す平断面図。
【図4】(a)は、シートに着座した姿勢の乗員の腰部に加えられる荷重と、該乗員の骨格との関係をシミュレーションした場合において、骨盤の前部(恥骨側)及び後部(仙骨側)にそれぞれ同等な荷重を入力したときの荷重の時間変化を示すグラフ、(b)は、図4(a)に示す荷重の入力を行った場合のシミュレーションにおいて、骨盤が示す応力の時間変化を示すグラフ。
【図5】(a)は車両のシートに着座した乗員及び該乗員の腰部を拘束する保護バッグの展開状態を示す正面図、(b)は図5(a)の5b−5b線に沿った平断面図。
【図6】(a)は車両のシートに着座した乗員を示す正面図、(b)は図6(a)の6b線に沿った平断面図。
【図7】(a)は車両のシート及び保護バッグの展開初期の状態を示す斜視図、(b)は図7(a)の7b線に沿った平断面図。
【図8】(a)は変更例の保護バッグを示す斜視図、(b)は図8(a)の正面図。
【図9】変更例の保護バッグを示す平断面図。
【符号の説明】
【0077】
11…シート、31…保護バッグ、36…インナートリムとしてのドアトリム、41…流体としての液体、48…アームレスト、111…骨盤、121…腸骨、125…寛骨臼、P…乗員、L…腰部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の側突時に該車両のシートに着座する乗員の腰部を拘束して該乗員を保護する保護バッグであって、
前記車両には前記乗員の側方に配置されるインナートリムが設けられ、
該保護バッグは、前記車両の側突時に流体を流入させることにより、前記インナートリムから前記乗員の腰部に向かって展開することを特徴とする保護バッグ。
【請求項2】
前記流体は液体であることを特徴とする請求項1に記載の保護バッグ。
【請求項3】
前記保護バッグは、前記乗員の腰部の側方に配置され、かつ前記車両の側突時に前記乗員の腰部に向かって側方に展開することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の保護バッグ。
【請求項4】
前記インナートリムにはアームレストが突設され、
前記保護バッグは、前記アームレストの基端部に配置され、かつ前記車両の側突時に前記アームレストの下部から前記乗員の腰部に向かって展開することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の保護バッグ。
【請求項5】
前記保護バッグは、前記車両のシートに着座する前記乗員の骨格において、寛骨臼よりも後方の骨盤に対応する部位で該乗員の腰部を拘束することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の保護バッグ。
【請求項6】
前記保護バッグは、前記車両のシートに着座する前記乗員の骨格において、腸骨に対応する部位で該乗員の腰部を拘束することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の保護バッグ。
【請求項7】
前記保護バッグは、前記車両の側突時に前記乗員の斜め後方から該乗員の腰部に当接することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の保護バッグ。
【請求項8】
前記保護バッグは、前記車両の側突時に、前記車両の前進方向に関して後方ほど該車両の車室側に位置するように斜めに傾斜した状態で前記乗員の腰部に当接することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の保護バッグ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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