説明

保護基板及び保護基板の製造方法

【課題】ダイヤモンドライクカーボン膜で被覆保護された導電性基板を提供する。
【解決手段】保護基板は、導電性の基板15と、該基板15の表面を被覆するダイヤモンドライクカーボン層からなる保護膜50と、保護膜50中に分散される導電性の炭素粒子15であって、15基板に接触する接触部と、保護膜から表出する表出部とを有する炭素粒子Cと、を備える。かかる保護基板は、基板洗浄工程、炭素粒子スパッタ工程、ダイヤモンドライクカーボン層形成工程及び表面層除去工程を経て形成される。基板洗浄工程、炭素粒子スパッタ工程及びダイヤモンドライクカーボン層形成工程は、同一のマグネトロンスパッタ装置において連続して実行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護基板及び保護基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば燃料電池のセパレータは、酸性雰囲気かつ電位が印加される環境において、長期間の耐食性を持つつとともに、電極に対する小さな接触抵抗を維持することが要求される。そのため、従来では、チタンやステンレス鋼などからなる導電性基板へ耐食性の高い金などの貴金属を保護膜としてコーティングしていた。
本件発明に関連する技術を開示する文献として特許文献1〜特許文献3を参照されたい。
【特許文献1】特開2004−217975号公報
【特許文献2】特開2003−297378号公報
【特許文献3】特開2001−266913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような保護基板は貴金属材料を使用するのでその製造コストが高くなる。
耐食性が高く、安価な材料としては、炭素材料が有望であり、種々のコーティング方法が検討されている。中でも強固な皮膜が形成でき、耐久性に優れたダイヤモンドライクカーボン(以下、単に「DLC」と略することがある)が有望である。しかし、DLCは電気抵抗が高い(絶縁性)為、そのままのかたちで燃料電池のセパレータの保護膜として使用することは出来ない。即ち、DLC膜は導電性の基板の導電機能を維持する保護膜としては不適である。
そこで、特許文献1ではDLCに高い導電性を付与しようとしている。
しかしながら、特許文献1に開示の技術を実行するには、複雑な装置を必要とし、その結果製造コストの上昇を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明者はDLCからなる保護膜へ導電性の材料を添加し、この導電性材料により基板全体の導電性を確保すればよいことに気づき、この発明に想到した。
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
導電性の基板と、
該基板の表面を被覆するダイヤモンドライクカーボン層からなる保護膜と、
前記保護膜中に分散される導電性の炭素粒子であって、前記基板に接触する接触部と、前記保護膜から表出する表出部とを有する炭素粒子と、
を備える、ことを特徴とする保護基板。
【0005】
このように規定される第1の局面の保護基板によれば、耐食性に優れたDLCからなる保護膜に導電性の炭素粒子が分散されて、この炭素粒子の一部は基板に接触するとともに他部が保護膜より表出するので、炭素粒子が電流を通し、基板全体として導電性を確保する。
炭素粒子に電流パスの機能を確実に付与するためには、炭素粒子の直径を保護膜の厚さより大きくすることが好ましい(第2の局面)。例えば、保護膜の膜厚を炭素粒子の直径の半分とすることが好ましい。
【0006】
この発明の第3の局面は次のように規定される。
真空チャンバと、導電性の基板を保持して該基板へ電圧を印加可能な基板ホルダと、スパッタ用ターゲットを保持して該ターゲットへ電圧を印加可能なターゲットホルダと、前記ターゲットの近傍に配置される永久磁石とを備える表面処理装置を利用して前記基板の表面を処理して保護基板を製造する方法であって、
逆スパッタ条件にて前記基板の表面をクリーニングするクリーニングステップと、
前記ターゲットとして炭素板を用い、炭素粒子を前記基板表面へ分散状態で堆積する炭素粒子堆積ステップと、
前記真空チャンバへ希ガスを導入して、前記基板と前記炭素粒子の表面へダイヤモンドライクカーボン層からなる保護膜を堆積する保護膜堆積ステップと、
前記保護膜を研磨して前記炭素粒子の一部を保護膜から表出する研磨ステップと、
を含んでいる、ことを特徴とする保護基板の製造方法。
このように規定される第3の局面の発明によれば、第1の局面で規定する保護基板を安価に製造できる。
【0007】
この発明の第4の局面は次のように規定される。
即ち、第3の局面で規定した製造方法において、前記クリーニングステップ、前記炭素粒子堆積ステップ及び前記保護膜堆積ステップは同一の真空チャンバ内で行われ、該真空チャンバへ流通される希ガスを同一ガスとする。
このように規定される第4の局面の発明によれば、同一の真空チャンバを用いかつキャリアガスも統一されているので、各ステップを連続して実行できる。よって、製品製造のスループットが向上する。
【0008】
この発明の第5の局面は次のように規定される。
即ち、第4の局面で規定した発明において、前記炭素粒子堆積ステップは、前記ターゲットへ約‐300Vの直流電圧を印加し、前記真空チャンバ内の圧力を100〜400mトルとし、前記基板へ約+50Vの直流バイアス電圧を印加する。
第5の局面で規定する条件は、炭素粒子堆積ステップとして好ましい条件と考えられ、この条件で平均直径が500nm程度の炭素原子を基板へスパッタすることができた。
【0009】
この発明の第6の局面は次のように規定される。
即ち、第3〜第5のいずれかの局面に規定の発明において、前記炭素粒子堆積ステップと前記保護膜堆積ステップとにおいて前記キャリアガスの滞在時間を変える。
かかる操作を実行することにより、第1の局面で規定する保護基板を品質よく製造することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記において、ダイヤモンドライクカーボンとは水素を含有した非晶質炭素をいい、一般的にPVD法やプラズマCVD法により膜状に形成される。かかるDLC膜の膜厚は50〜500nmとすることが好ましい。膜厚が50nm未満となると、保護膜として耐食性が不十分となるおそれがある。他方、保護膜の機能の点からみて500nmを超えてこれを厚くする必要がなく、そのように厚くすると製造コストが嵩むこととなるので好ましくない。
基板の材料は導電性であれば、特に限定されるものではない。例えば、ステンレス鋼、チタン合金、アルミニウム合金、銅合金等を用いることができる。
炭素粒子は基板に接触しつつ、保護膜からも表出するため、所望の粒子径を有するものとする。この発明では、炭素粒子の平均粒子径を100〜1000nmとする。炭素粒子の平均粒子径が100nm未満となると、基板に対する接触抵抗が大きくなるので好ましくない。その粒子径が1000nmを超えて大きくなると、製造困難となるばかりか製造に時間がかかるので好ましくない。炭素粒子の平均粒子径のより好ましい範囲は300〜700nmである。
この炭素粒子を電流パスとして保護膜から確実に表出させるためには、その平均粒子径を保護膜の膜厚よりも大きくする。前者を後者の1.5〜3倍程度とすることが好ましい。
【0011】
炭素粒子を良好な電流パスとしてその電気抵抗を小さくするには、保護膜中における炭素粒子の占有面積を広くする。しかしながら、炭素粒子の占有面積が広くなると、保護膜としての耐久性が低下するので好ましくない。炭素粒子と基板との間に充分な接着性を確保しがたいからである。
炭素粒子の占有面積は0.1〜5%程度とすることが好ましい。例えば、粒子径が100nmの炭素粒子の場合、1cm当たり1000万個の炭素粒子を分散させたとき、占有面積が0.1%となる。1000nm粒子径の炭素粒子の場合、1cm当たり100万個の炭素粒子を分散させたとき、占有面積が1%となる。
【実施例】
【0012】
以下、この発明の実施例について説明をする。
図1に実施例の保護基板を製造するための製造装置1を示す。
この製造装置1はマグネトロンスパッタ装置の構造を有し、真空チャンバ3にその内圧を調整するために真空チャンバ3の底部側壁から真空引きポート4が形成されて、当該ポート4に真空バルブ5を介してターボ分子ポンプ7及び油回転ポンプ8が連接されている。真空引きポート4と真空チャンバ3の上壁にキャリアガスを導入するための第1のガス口10及び第2のガス口11が形成されている。当該ガス口10、11には図示しないバルブが付設され、スパッタリングに使用する希ガスのガスボンベへ連結される。
この実施例ではスパッタ用の希ガスとしてアルゴンガスを利用したが、使用ガスは特に限定されるものではない。
真空チャンバ3の底壁から基板ホルダ13が立設され、導電性の基板15が保持される。実施例ではステンレス鋼製の基板を用いている。基板15には高周波電源16と直流電源18とからそれぞれ電力を印加可能である。符号17は整合回路、符号19はスイッチである。
【0013】
真空チャンバ3の上壁には永久磁石21が配設され、その下面にスパッタターゲットとしての炭素板23が保持される。この炭素板23には高周波電源25と直流電源26とが接続されている。符号27は整合回路、符号28はローパスフィルタである。
【0014】
かかる製造装置1を用いた保護基板の製造方法について説明する。
基板洗浄工程
ステンレス鋼製の基板15を基板ホルダ13にセットして(図2A参照)、真空チャンバ3内を10〜20mトルに減圧し、アルゴンガスをガス入り口10から導入する。高周波電源16より基板15へ‐300V、2MHzの高周波電圧を20分程度印加する。これにより、基板15が逆スパッタ(エッチング)されてその表面が洗浄される(図2B参照)。
【0015】
炭素粒子スパッタ工程
次に、炭素基板からなるターゲット23へ直流電源26より‐300Vの直流電圧を印加する。真空チャンバ3内の圧力を100mトル〜400mトルとして、上記逆スパッタ時より10〜20倍程度真空度をゆるくする。なお、アルゴンガスはガス口10より導入される。これにより、図1のガス口11からアルゴンガスを導入してバルブ5から排出する場合と比べて基板15周囲のガスの滞在時間を長くする。基板15へ印加される基板バイアス電圧は+50V(直流)とする。かかる条件でスパッタリングを30分実行した結果、基板15の表面に500nm程度の炭素粒子Cが分散状態で堆積された(図2C参照。当該基板15の表面の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0016】
DLC層形成工程
次に、基板15と炭素粒子Cの表面へDLC層を堆積する。DLCの膜厚は炭素粒子Cの直径の約半分とすることが好ましく、この例では250nm厚とした。
真空チャンバ3を強く真空引きしてその内圧を2〜5mトルとする。アルゴンガスと水素ガスとの混合ガスをガス口11から導入する。アルゴンガスと水素ガスとの混合比は4:1とした。
炭素基板からなるターゲット23には13.56MHzの高周波電圧に直流バイアスを重畳し、合計電圧が‐800V程度、望ましくは−1000〜−1200Vとする。基板バイアス電圧は−100〜500Vとする。
かかる製膜条件を数時間維持して、図2のDに示すように、基板15と炭素粒子Cの表面をDLC膜50(膜厚:250nm)で被覆する。
この実施例では、マグネトロンスパッタ装置の製膜条件を制御することにより、基板をin-situの状態でDLC膜を形成できた。勿論、基板を真空チャンバ3から一旦取り出して、CVD装置等を用いて当該DLC膜を形成することができる。
【0017】
表面層除去工程
次に、図2Eに示すように、図2Dに示す基板‐炭素粒子‐DLC積層物の表面を除去し、炭素粒子Cの表面をDLC層50から表出させる。
表層の除去方法として、パフ研磨、エッチング(乾式、湿式)等を用いることができる。
例えばパフ研磨を行うことにより、DLC層とともに炭素粒子Cの上側部分も除去され、積層物の表面は平坦になる。
炭素粒子Cの表出の程度として、当該炭素粒子径10〜15%程度を研磨除去して表出させることが好ましい。
【0018】
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
例えば、本実施例では、DLC層形成工程で真空チャンバへアルゴンガスと水素ガスとの混合ガスを導入してDLC膜を形成する場合について説飯したが、アルゴンガスのみを導入してフリーDLC膜を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施例の製造装置の概念図である。
【図2】この発明の実施例の製造方法を示すフロー図である。
【図3】基板表面にスパッタリングされた炭素粒子を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0020】
1 マグネトロンスパッタ装置
3 真空チャンバ、13 基板ホルダ
15 基板
23 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板と、
該基板の表面を被覆するダイヤモンドライクカーボン層からなる保護膜と、
前記保護膜中に分散される導電性の炭素粒子であって、前記基板に接触する接触部と、前記保護膜から表出する表出部とを有する炭素粒子と、
を備える、ことを特徴とする保護基板。
【請求項2】
前記炭素粒子の直径が前記保護膜の厚さより大きい、ことを特徴とする請求項1に記載の保護基板。
【請求項3】
真空チャンバと、導電性の基板を保持して該基板へ電圧を印加可能な基板ホルダと、スパッタ用ターゲットを保持して該ターゲットへ電圧を印加可能なターゲットホルダと、前記ターゲットの近傍に配置される永久磁石とを備える表面処理装置を利用して前記基板の表面を処理して保護基板を製造する方法であって、
逆スパッタ条件にて前記基板の表面をクリーニングするクリーニングステップと、
前記ターゲットとして炭素板を希ガスともに用い、炭素粒子を前記基板表面へ分散状態で堆積する炭素粒子堆積ステップと、
前記真空チャンバへ希ガスを導入して、前記基板と前記炭素粒子の表面へダイヤモンドライクカーボン層からなる保護膜を堆積する保護膜堆積ステップと、
前記保護膜を研磨して前記炭素粒子の一部を保護膜から表出する研磨ステップと、
を含んでいる、ことを特徴とする保護基板の製造方法。
【請求項4】
前記クリーニングステップ、前記炭素粒子堆積ステップ及び前記保護膜堆積ステップは同一の真空チャンバ内で行われ、該真空チャンバへ導入される希ガスを同一ガスとする、ことを特徴とする請求項3に記載の保護基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭素粒子堆積ステップは、前記ターゲットへ約‐300Vの直流電圧を印加し、前記真空チャンバ内の圧力を100〜400mトルとし、前記基板へ約+50Vの直流バイアス電圧を印加する、ことを特徴とする請求項4に記載の保護基板の製造方法。
【請求項6】
前記炭素粒子堆積ステップと前記保護膜堆積ステップとにおいて前記希ガスの滞在時間を変える、ことを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載の保護基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−53411(P2010−53411A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220600(P2008−220600)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】