説明

保護膜形成方法、セル接続部材および固体酸化物形燃料電池用セル

【課題】SOFC用セルに用いられるCrを含有する合金等からなる基材の表面に、より均一で緻密な保護膜12を形成する技術、および、その保護膜12を用いたSOFC用セルを提供すること。
【解決手段】SOFC用セルに用いられるCrを含有する基材の表面に、保護膜12を形成する場合に、基材の表面に、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂との混合液を用いて、アニオン電着塗装法により電着塗膜を形成する電着工程を行い、電着塗膜を焼成して電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行い、さらに焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜12を形成する焼結工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下、適宜「SOFC」と記載する。)用セルに用いられるCr(クロム)を含有する合金または酸化物(以下、「合金等」と呼ぶ場合がある。)からなる基材の表面に、保護膜を形成する保護膜形成方法、および、
Crを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜として金属酸化物膜を形成してあるセル接続部材、および、前記セル接続部材に空気極を接合してなるSOFCに関する。
【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子電導性の基材により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルでは、たとえば700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極の間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。セル接続部材にはインターコネクタやインターコネクタを介してセル間を電気的に接続する部材が該当する。
【0003】
セル接続部材は燃料と空気の隔壁となる部材である。近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、合金が使用できるようになってきた。合金使用により、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
前記合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などが用いられることもある。また、合金ではなく、(La,Ca)CrO3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金等は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr23やMnCr24の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている。(Cr被毒と呼ばれる)また、(La,Ca)CrO3(カルシウムドープランタンクロマイト)を用いた場合でも合金を用いた場合よりも少ないが、Cr被毒が生じる場合がある。そこで、合金等の表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料を被覆して保護膜を形成することにより劣化を抑制する試みがなされている。
【0006】
前記保護膜を形成する材料としては、LaMO3(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物や、AB24で示されるスピネル型酸化物、具体的にはNiCo24,(ZnxCo1-x)Co24(0.45≦x≦1.00),FeMn24,NiMn24,CoMn24,MnFe24,MnNi24,MnCo24,Mn(Mn0.25Co0.7524,(Mn0.5Co.5)Co24,TiCo24,ZnFe24,FeCo24,CoFe24,MgCo24,Co34,などが挙げられる。
【0007】
一般的にセル接続部材として用いられる基材は複雑な形状をしていることが多く、酸化被膜の増大、Cr被毒の発生といった劣化を抑制するためには、劣化防止被膜を形成する必要がある。この劣化防止被膜は緻密で、均一な膜厚とすることが望ましい。膜厚が不均一になった場合、あるいは、膜厚が大きすぎる部位がある場合には、起動停止に熱応力(接合する部材の熱膨張率の不一致に起因することが多い)が発生し、クラックや剥離が生じやすくなり、膜厚が小さすぎる部位は、劣化防止の機能(合金の酸化被膜の増大抑制、Cr被毒抑制)が十分発揮できず、その部位の劣化が十分に抑制されなくなるという問題が生じやすい。
【0008】
そこで、複雑な形状のセル接続部材に対して、均一な成膜が実現できる成膜法を検討されている。一般的な成膜法としては、下記のようなものが挙げられる。
【0009】
たとえば、ウエットコ−ティング法あるいは、ドライコーティング法によって形成することができる。ウェットコーティング法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法等が例示できる。また、ドライコーティング法としては、たとえば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長(CVD)法、電気化学気相成長(EVD)法、イオンビーム法、レーザーアブレーション法、大気圧プラズマ成膜法、減圧プラズマ成膜法、溶射法等が例示できる。
【0010】
しかし、ドライコーティング法として、CVD・EVD法や溶射法等は、保護膜形成のためのプロセスが複雑であったり、保護膜の組成が安定しないという欠点があるため、これらの方法に代えて、レーザーアブレーション法により保護膜を形成することも考えられている。(特許文献1)
また、レーザーアブレーション法を採用すると、CVD・EVD法や溶射法に比べて、製造コストが高くなるため、現実的には、安価に保護膜を製造できる技術として、ウェットコーティング法が採用される場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平05−174853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上述べてきたように、Cr被毒、基材の酸化劣化を抑制するため種々の材料が保護膜として用いられている。SOFCのセル接続部材に用いられる基材はプレス加工等の成型方法により、複雑な形状をしていることが多く、全面に均一な膜厚で、かつ緻密な保護膜できるかがポイントとなる。ドライコーティング法(スパッタリング、PLD、レーザーアブレーション)を採用すれば、比較的均一膜厚を実現することができる。ただし、成膜コストが比較的高くなってしまう。量産性を考慮した安価な成膜プロセスという観点では、ウェットコーティングが好ましい。
【0013】
ウェットコーティング法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法等が例示できる。
【0014】
複雑な形状への均一膜厚を形成することを考えた場合、電気的なコーティング法である電気めっき、電気泳動堆積法、電着塗装法、あるいは無電解めっき法が望ましい。ただし、電気めっき、無電解めっきについては比較的均一膜厚の膜が得られるが、金属状態の膜として成膜されるので、後工程として酸化処理が必要となる。また、スピネル系酸化物等の二成分系の金属酸化物を得るためには合金めっきあるいは2層以上のめっきが必要となり、工程が複雑化しやすい。また、酸化処理時にめっきを構成する金属元素が基材に拡散しやすいために、基材表面近傍のCr濃度が下がって基材の耐熱性が低下してしまう懸念がある。
【0015】
上記実状に鑑み、本発明の目的は、SOFCに用いられるCrを含有する基材の表面に、より均一で緻密な保護膜を形成する技術およびその保護膜を用いたSOFC用セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
〔構成1〕
発明者らは電着塗装は樹脂膜を得る手法であるという従来の固定観念にとらわれず、塗膜中の金属酸化物成分の割合を増加し、金属酸化物被膜の形成を試みたところ、意外にも、保護膜として機能するにたる緻密で均一な膜厚となる金属酸化物被膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、電着塗装は、自動車のボディの下塗り、携帯電話の外装部品の塗装で工業化されている塗装方法であり、原理的に均一膜厚の塗膜が得られる手法である。しかし、基本的に均一な膜厚の樹脂を主成分とする膜を得る手法であり、今回求めているような金属酸化物膜を得る手法ではないと考えられていたのであるが、上記知見に基づき、金属酸化物を主成分とする保護膜を形成する場合に好適に用いられることが明らかになった。
【0017】
すなわち本発明のSOFC用セルに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成する保護膜形成方法の特徴構成は、
前記基材の表面に、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂との混合液を用いて、アニオン電着塗装法により電着塗膜を形成する電着工程を行い、前記電着塗膜を焼成して前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行い、さらに前記焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜を形成する焼結工程を行う点にある。
【0018】
なお、本発明にいう焼成工程、焼結工程等の工程は、代表的には、所定の温度域で所定の時間熱処理することによって行われるが、たとえば、連続的な加熱工程中で、塗膜中の樹脂成分を焼失させても焼成工程により焼成被膜を形成したものとすることができ、また、連続的な加熱工程中で焼成被膜を焼結させても、焼結工程により焼成被膜を焼結したものとすることができる。その他の加熱工程に対しても同様である。
【0019】
〔作用効果〕
前記基材の表面に、電着工程により、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂との混合液を用いて、アニオン電着塗装法により電着塗膜を形成すると、その電着塗膜中のアニオン型樹脂成分を除去したとしても保護膜として機能しうる金属酸化物微粒子の層を形成することができる。この際、アニオン型樹脂は、前記混合液中において、前記金属酸化物微粒子に包摂した状態で、溶媒中に溶解あるいは分散し、電着により高分子化し、前記基材の表面に析出しつつ、前記アニオン型樹脂の重合高分子化により、緻密で強固な層を形成した電着塗膜となる。
この後、焼成工程を行い、前記電着塗膜を焼成して前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させると、前記電着皮膜が、金属酸化物微粒子からなる焼成被膜とすることができる。この焼成被膜は、金属酸化物どうしを接続していた前記アニオン型樹脂が高分子化し、前記金属酸化物微粒子どうしを接着していた構造部分が焼失することにより、実質的には前記電着塗膜中の金属酸化物微粒子のみが前記焼成被膜の構成成分として残留することになる。
【0020】
従来、金属酸化物からなる保護膜の形成に電着塗装が用いられてこなかった理由は、樹脂製分が焼失する際に、前記電着皮膜中の金属酸化物粒子の割合が少なすぎると前記焼成被膜が脆くなり、前記焼成被膜が膜としての形態を維持できない、一方、金属酸化物粒子の割合が多すぎると、前記混合液が安定に存在しえず、2層分離してしまうので電着塗装の混合液としては用いられないという2つの問題による。しかし、本発明者らの知見によると、意外にも、電着塗装用に調整される混合液は安定な混合状態となり、かつ、焼成工程後に焼成被膜として充分な強度を備えた被膜を形成可能な金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂との混合液として調整することが可能であることがわかった。そのため、電着塗装法による簡便な工程により、強固な焼成被膜を作成できるようになった。
【0021】
さらに前記焼結工程を行うと、前記焼成被膜を焼結させることにより、前記金属酸化物微粒子同士の結合が強固になり、前記焼成皮膜が、緻密な保護膜に変換される。
【0022】
〔構成2〕
前記焼成工程を300℃以上600℃未満の温度域で0.5時間以上5時間以下加熱することにより行うことが好ましい。
【0023】
〔作用効果2〕
焼成工程の温度域としては、300℃以上600℃未満とすることにより、一般的な樹脂成分を焼失させることができ、0.5時間以上加熱することにより完全に焼失させることができる。なお、加熱しすぎてもエネルギー的に不経済である等の理由から5時間以下とすることが好ましい。
【0024】
〔構成3〕
前記焼結工程を800℃以上1200℃未満の温度域で0.5時間以上5時間以下加熱することにより行うことが好ましい。
【0025】
〔作用効果3〕
焼結工程の温度域としては、800℃以上1200℃未満とすることにより、一般的な金属酸化物成分を焼結させることができ、0.5時間以上加熱することにより充分に焼結させることができる。なお、焼結しすぎると、保護膜の気孔率が低下する、エネルギー的に不経済である、基材の酸化劣化が進んでしまう等の理由から5時間以下とすることが好ましい。
【0026】
〔構成4〕
また、本発明のセル接続部材の特徴構成は、Crを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に保護膜を前記保護膜形成方法により形成してある点にある。
【0027】
〔作用効果4〕
このインターコネクタセル接続部材は、上記保護膜形成方法により形成してあるから、緻密でかつ劣化防止効果の高い保護膜が付与されており、化学的に安定で、劣化が少なく長期にわたって信頼性高く用いることのできるセル接続部材を提供することができる。
【0028】
〔構成5〕
また、本発明のSOFC用セルの特徴構成は、前記セル接続部材を空気極と接合してなる点にある。
【0029】
〔作用効果5〕
このSOFC用セルは、上記セル接続部材を備えるので、性能安定性の高い固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【0030】
〔構成6〕
なお、前記電着工程における混合液が質量比で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(0.5:1)〜(1.7:1)の割合で含有していることが好ましい。
【0031】
〔作用効果6〕
前記混合液が、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂とを質量比が、(0.5:1)以上であれば、金属酸化物微粒子は充分アニオン型樹脂に取り込まれつつ、前記アニオン型樹脂の消失後に成膜することができ、脆くなりすぎず、充分な強度を備えたものとなり、焼結により緻密で強固な保護膜に変換するうえで好ましい。また、前記質量比が(1.7:1)以上になると、溶液中において金属酸化物微粒子がアニオン型樹脂から解離して凝集沈殿しやすくなる傾向があるので、(1.7:1)以下とすることが取り扱い容易とするうえで好ましい。
【0032】
〔構成7〕
また、前記電着工程による電着塗膜の膜厚が1μm〜30μmであることが好ましい。
【0033】
〔作用効果7〕
電着塗膜の膜厚は、焼成、焼結後、緻密で強固な保護膜を形成するが、電着皮膜の段階において薄すぎると、長時間の発電中に充分な劣化防止機能を発揮させることが困難になること、強度の面で焼成、焼結工程における取り扱いに注意を要し、操作性を低下させる要因となることなどの理由から1μm以上とすることが好ましい。逆に、電着塗膜が厚すぎると、長時間の発電中に充分な劣化防止機能は高くなるものの、電池用セルに用いられる場合の電気抵抗を増大させてしまうこと、膜厚が厚くなるほど熱応力に弱くなる傾向があること、電着塗膜の形成に必要な材料が多くなり、不経済であることなどから30μm以下とすることが好ましい。このようにして形成される保護膜は、基材側から空気極側あるいは空気極と電解質との界面への気相のCr(VI)の酸化物(又はオキシ水酸化物)の拡散を確実に抑制することができる。その結果、空気極のCr被毒の発生を確実に抑制することができる。また、基材側からのCrの飛散が抑制されるので、Cr枯れに起因する基材の酸化劣化の進行を抑制することができる。
【0034】
〔構成8〕
また、前記基材がフェライト系ステンレス鋼であれば好ましい。
【0035】
〔作用効果8〕
前記基材がフェライト系ステンレス鋼であれば、前記金属酸化物微粒子を焼結してなる被膜との親和性が高いこと、熱膨張率の面からも前記被膜に熱応力を生じさせにくい、SOFCセルの構成材料との熱膨張率に近いこと等からより耐久性の高い保護膜を作成するのに好適である。
【0036】
〔構成9〕
また、前記焼成工程後の焼成被膜の気孔率が40%以下であることが好ましい。
【0037】
〔作用効果9〕
前記焼成被膜は、焼結により緻密な金属酸化物の層を形成し、保護膜として機能するようになる。このとき、前記焼成被膜の気孔率が大きすぎると、保護膜が脆くなり、充分な強度を保ちにくくなるとともに、本来の保護膜としての役割である酸素のバリア層としての機能を十分果たすことができない。そこで、強度の高い保護膜を形成すべく、焼成被膜の気孔率を40%以下とすることが好ましい。
【0038】
〔構成10〕
また、前記電着工程における金属酸化物微粒子の平均粒径が0.1μm以上2μm以下であることが望ましい。
【0039】
〔作用効果10〕
前記電着工程において、前記金属酸化物微粒子の粒径が、大きすぎると、電着工程を行う際の混合液を作成する際に、前記金属酸化物微粒子がその混合液内で均一に分散しにくく、また、適度な粘度に調整しにくいため、混合液の調整が困難になるので、2μm以下であることが望ましい。また、小さくなりすぎると、電着塗膜を焼結する際に焼結による体積収縮が進みすぎてクラックや剥離が発生しやすくなる傾向があるので0.1μm以上とすることが望ましい。
〔構成11〕
なお、前記金属酸化物微粒子がCoを含む酸化物からなることが好ましい。
【0040】
〔作用効果11〕
上記金属酸化物のうちCoを含む酸化物は、その熱膨張率が、主に基材として使用されるフェライト系ステンレス鋼(熱膨張率:11×10-6-1)や、接合して使用される空気極材料である(La,Sr)(Co,Fe)O3(熱膨張率:15〜21×10-6-1)、(La,Sr)MnO3(熱膨張率:11×10-6-1)に比較的近いものである。たとえば、ZnCo24の熱膨張率は9.3×10-6-1、(Zn0.45Co0.55)Co24の熱膨張率は10.7×10-6-1、MnCo24の熱膨張率は11.8×10-6-1である。従って、本構成の被膜は、基材が熱膨張しても基材から容易に剥がれ落ちることがなく、耐久性に優れた被膜であるといえる。
【0041】
〔構成12〕
さらには、前記金属酸化物微粒子がZnとCoを含む酸化物からなることが好ましい。
【0042】
〔作用効果12〕
また、Zn−Co系のものは、焼結による製膜を行う際に、他の材料に比べて比較的低温で、緻密な酸素バリア性の高い膜を得られるので、工業的に好ましい。また、Zn−Co系のものは、比較的低温(例えば650℃)における電気抵抗が小さく、SOFCの運転条件を低温にシフトさせても高い性能を維持しやすいという利点がある。
【0043】
〔構成13〕
また、前記金属酸化物微粒子がNiとCoを含む酸化物からなるものであってもよい。
【0044】
〔作用効果13〕
Zn−Co系のものと同様に、Ni−Co系のものについても、後述の実施例より劣化量が少なく、長期にわたって高い性能を維持しやすい。
【0045】
〔構成14〕
また、前記アニオン型樹脂がポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種以上を含有することができる。
【0046】
〔作用効果14〕
前記ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸は、アニオン型樹脂として、金属酸化物微粒子を高分散で含有する混合液を容易に形成することができるとともに、電着工程において、その金属酸化物微粒子を膜状の電着塗膜に成形することができる。また、このとき前記金属酸化物微粒子同士の結合を促進することができるので、焼成工程において前記アニオン型樹脂が焼失したとしても、金属酸化物微粒子同士が強固に結合した緻密な焼成被膜を形成するのに役立つので好ましい。
【0047】
〔構成15〕
また、前記保護膜の最厚部と最薄部との厚さ比(最厚部の厚さ/最薄部の厚さ)が、2以下であることが好ましい。
【0048】
〔作用効果15〕
つまり、上記保護膜は、基材に対して膜厚を均一に形成しやすいので、生産性良く物性にムラのない良質なSOFC用セルを製造できる。その保護膜の膜厚は均質で適度な厚さを有することが望まれるわけであるが、前記保護膜の最厚部と最薄部との厚さ比(最厚部の厚さ/最薄部の厚さ)が、2以下としておくことによって、実用的に十分均質といえる高品質な燃料電池用セル接続部材を安価に提供することができるようになった。
【発明の効果】
【0049】
従って、耐久性が高く長期にわたって安定して使用することができるセル接続部材、SOFC用セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】固体酸化物燃料電池の概略図
【図2】固体酸化物燃料電池のセル接続部材の使用形態を示す図
【図3】保護膜を形成したセル接続部材試験片の断面図
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に、本発明のSOFCに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成する保護膜形成方法およびSOFC用セル接続部材およびSOFC用セルを説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例は、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0052】
<固体酸化物型燃料電池>
本発明にかかるSOFC用セル接続部材およびその製造方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン電導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオンおよび電子電導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子電導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
【0053】
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子電導性の合金または酸化物からなる基材11に保護膜12を形成してあるセル接続部材1(図3に形状が断面長方形の単純形状である場合の模式図を示す)により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とセル接続部材1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とセル接続部材1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。
【0054】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、たとえば、上記空気極31の材料としては、LaMO3(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0055】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル接続部材1の材料としては、電子電導性および耐熱性の優れた材料であるLaCrO3系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金や、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金または酸化物が利用されている。
【0056】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、かかる積層構造のセルスタックでは、上記セル接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0057】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、たとえば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO2が電子e-と反応してO2-が生成され、そのO2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH2がそのO2-と反応してH2Oとe-とが生成されることで、一対のセル接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0058】
<セル接続部材>
前記セル接続部材1は、図1、図3に示すように、セル接続部材用の基材11の表面に保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各単セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。
【0059】
前記保護膜12は、導電性セラミックス材料を含有する塗膜形成用材料を、前記基材11に電着塗装することにより保護膜12を厚膜として形成してある。
【0060】
<保護膜>
前記保護膜12は、たとえば、Crを22%、Mnを約0.5%含むフェライト系ステンレス鋼等からなる前記基材11の表面にたとえば、ZnCo24等の金属酸化物微粒子とポリアクリル酸等のアニオン型樹脂とを質量比で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(0.5:1)〜(1.7:1)の割合で含有している混合液を用いて、アニオン電着塗装法により電着塗膜を形成する電着工程を行い、前記電着塗膜を焼成して前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行い、さらに前記焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜12を形成する焼結工程を行うことにより形成されている。
【0061】
以下に前記保護膜12の具体的な製造方法を詳述するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>
(1)アニオン型樹脂の合成
1,4ジオキサン50部を、還流冷却器と温度計と撹拌機と滴下ロートとを付けた4つ口フラスコ中で約82℃に加熱し、撹拌しながら滴下ロートから下記表1に示す混合物と1,4ジオキサン50部を3時間かけて連続滴下する。
滴下完了後同温度でさらに3時間反応を続行して、アニオン性をもつアクリル樹脂(固形分50%)を合成する。得られたアニオン型樹脂のTgは、−27℃(計算上の推定値)、分子量MW12万〜15万であった。
【0063】
【表1】

表1中のAIBNは、重合開始剤である。L−SHは、連鎖移動剤である。
【0064】
アニオン型樹脂の化学的性状については、Tg:−50℃〜+25℃および分子量(MW質量平均分子量):5万〜20万の範囲内が好適である。一般にアニオン型樹脂のTgは+20℃前後、MWは3万〜7万程度である。なお、多量の無機微粒子を電気泳動共析させて、電解ガスを局所発生させて共析率を向上するためには、低Tgで高分子量のアニオン型樹脂とすることが好ましい。Tgが−50℃以下の場合、析出塗膜の粘性が強すぎ焼付硬化後に流動が大きく、+25℃以上になると流動性が低下しZnCo24微粒子共析時に発生したガス跡を消すことができずピンホール状となる。MWが5万以下ではZnCo24微粒子の分散性が低下する。また20万以上になると流動性が低下し塗膜中のZnCo24微粒子の均一な分散が悪くなり、見た目も不均一な外観となる。
【0065】
また後述のシラン系カップリング剤を用いて、アニオン型樹脂と金属酸化物微粒子とをカップリング反応させると、ZnCo24微粒子に代表される金属酸化物微粒子の析出効率を飛躍的に向上させることができる。
【0066】
(2)混合液の作成
シラン系カップリング剤として、イソシアネート官能性シラン(OCN−C36−Si(OC253)を用い、この溶剤nMP(nメチルピロリドン)3質量部と(1)で作成したアニオン型樹脂120質量部と溶剤nMP(nメチルピロリドン)60部を混ぜた後、スズ系触媒(DBTDL0.2部)を添加し60℃で1時間反応させることにより、シラン系カップリング剤のイソシアネート基とアニオン型樹脂のOH基が反応しシラン系カップリング剤がアニオン型樹脂に付加する。(表2第一成分)
【0067】
【表2】

【0068】
ZnCo24微粒子(平均粒径0.5μm)100質量部と溶剤nMP(nメチルピロリドン)200部と3ミリ径のジルコニアビーズ750質量部を混合し、撹拌機で湿式分散を行いスラリー状のZnCo24微粒子を得る。(表3第二成分)
【0069】
【表3】

【0070】
前記第二成分の中に前記第一成分を添加し均一混合する。
さらに、トリエチルアミン1.4質量部と溶剤nMP(nメチルピロリドン)10質量部と消泡剤(サーフィノール104)10質量部を添加し攪拌する。
均一混合した後、イオン交換水500質量部を少しずつ加えて、ZnCo24微粒子とアニオン型樹脂との混合液を作成する。24時間攪拌し、シラン系カップリング剤の加水分解反応を促したのち、イオン交換処理で不純物を除去し、pH9.0±0.2浴電導度200±50μS/cmの混合液が得られる。得られた分散液は、ZnCo24微粒子:樹脂=1.7:1(質量比)の混合液として用いられる。
【0071】
なお、下記の配合物第一成分および第二成分の混合割合を変えることでZnCo24微粒子:樹脂=0.5:1(質量比)〜1.7:1(質量比)の作成ができる。
【0072】
(3) 電着塗装
上記(2)で作成したアニオン型分散剤組成物をその中の分散剤粒子が、電着液1リットル当り100gになるように分散させ、25℃の溶液において、電圧40Vで30秒間、スターラ撹拌(20rpm)下で電着塗装を行った。
なお、電着塗装は下記のようにして行った。
【0073】
形状が断面長方形の単純形状である基材11の試験片に、必要に応じて脱脂処理、酸洗処理などを施した後、前記混合液に被処理品を浸漬し、通電を行うことによって、基材11表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
【0074】
(3−1) 前処理
なお、各電極には以下の1〜7を順に行う前処理を行った。
1. 電解洗浄剤による陰極電解
(アクチベータS(シミズ社製)100g/L、40℃、10A/dm2、30秒)
2. 水洗
3. 電解洗浄剤による陽極極電解
(アクチベータS(シミズ社製)100g/L、40℃、10A/dm2、30秒)
4. 水洗
5. 酸中和(硝酸200mL/L)
6. 水洗
7. 純水洗
【0075】
また、陽極とする基材11の試験片には、別途、脱脂処理、酸洗処理などを施してもよい。
脱脂処理は、たとえば、基材11の表面にアルカリ水溶液を供給することにより行われる。アルカリ水溶液の供給は、たとえば、基材11にアルカリ水溶液を噴霧するかまたは基材11をアルカリ水溶液に浸漬させることにより行われる。アルカリとしては金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、たとえば、処理する金属の種類、基材11の汚れの度合いなどに応じて適宜決定される。さらにアルカリ水溶液には、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の適量が含まれていてもよい。脱脂は、20〜50℃程度の温度下(アルカリ水溶液の液温)に行われ、1〜5分程度で終了する。
【0076】
脱脂後、基材11を水洗され、次の酸洗処理に供される。その他、酸性浴に浸漬する脱脂、気泡性浸漬脱脂、電解脱脂などを適宜組み合わせて実施することもできる。酸洗処理は、たとえば、基材11の表面に酸水溶液を供給することにより行われる。酸水溶液の供給は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の供給と同様に、基材11への酸水溶液の噴霧、基材11の酸水溶液への浸漬などにより行われる。酸としては金属の酸洗に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、たとえば、基材11の種類などに応じて適宜決定される。酸洗処理は、20〜30℃程度の温度下(酸水溶液の液温)に行われ、15〜60秒程度で終了する。脱脂処理および酸洗処理のほかに、スケール除去処理、下地処理、防錆処理などを施してもよい。これらの処理の後、基材11を70〜120℃程度の温度下に乾燥させて次の電着塗装に供する。
【0077】
(3−2)電着工程
このようにして、前処理を行った基材11の試験片を、25℃の溶液において、基材11をプラス、対極としてSUS304の極板をマイナスの極性とし、直流電圧40Vで30秒間、スターラ撹拌(20rpm)して通電を行うことによって、基材11表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
なお、電着電圧、電着時間を変更することにより電着塗膜の膜厚をコントロールできる。
【0078】
電着工程後の基材11は、通電槽から取り出され、加熱処理が施される。この未硬化の電着塗膜が形成された基材11に加熱処理することによって、基材11表面に硬化した電着塗膜が形成されたセル接続部材が得られる。
【0079】
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、前記混合液を満たした通電槽中に基材11を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、通電することにより実施される。
電着塗装条件も特に制限されず、基材11である金属の種類、前記混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られるセル接続部材の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(前記混合液温度)10〜50℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、前記混合液の液温10〜45℃とすればよい。
【0080】
加熱処理は、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、電着塗膜を硬化させる硬化加熱とを含み、予備乾燥後に硬化加熱が行われる。予備乾燥は、60〜140℃程度の加熱下に行われ、3〜30分程度で終了する。硬化加熱は、150〜220℃程度の加熱下に行われ、10〜60分程度で終了する。このようにして、前記混合液による電着塗膜が得られる。
【0081】
(3−3)(焼成工程および焼結工程)
前記混合液としてZnCo24微粒子:樹脂=1.7:1(質量比)のものを用いて形成した電着塗膜を、500℃で2hr保持してアクリル樹脂を焼き飛ばす焼成工程を行った後、1000℃まで昇温して2hr保持することでZnCo24粒子の焼結および基材11の試験片の表面との反応を起こさせる焼結工程を行い、基材11に対して密着力があり、かつ緻密な保護膜12を形成した。
【0082】
焼結工程終了後、断面観察を行い、保護膜12の形成状態を確認した。
保護膜12の厚さの評価は、図3に示すように、保護膜12を形成した基材11の試験片を横断し、面部に相当する図中a,bの保護膜12の厚さの平均(x)を圧延面膜厚、角部に相当するc,d,e,fの保護膜12の厚さの平均(z)をエッジ膜厚として評価した。結果を表1に示す。
【0083】
保護膜12の膜厚は、電着塗膜(エッジ部)が11μm、電着塗膜(圧延面)が16μm、保護膜12(エッジ部)が4μm、保護膜12(圧延面)が6.8μmとなっており、気孔率は、36%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、電着塗膜は1.45であり、保護膜12は1.7であった。
【0084】
<実施例2>
ZnCo24微粒子:樹脂=1:1(質量比)とした以外は、実施例1と同様にして保護膜12を作成した。
【0085】
焼結工程終了後、断面観察を行い、保護膜12の形成状態を確認した。
電着塗膜および保護膜12の膜厚は、電着塗膜(エッジ部)が8.3μm、電着塗膜(圧延面)が16μm、保護膜12(エッジ部)が2μm、保護膜12(圧延面)が4μmとなっており、気孔率は、36%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、電着塗膜は1.9であり、保護膜12は2.0であった。
【0086】
<実施例3>
NiCo24微粒子:樹脂=1:1(質量比)とした以外は、実施例1と同様にして保護膜12を作成した。
焼結工程終了後、断面観察を行い、保護膜12の形成状態を確認した。
保護膜12の膜厚は、保護膜12(エッジ部)が4.6μm、保護膜12(圧延面)が7.0μmとなっており、気孔率は、35%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、保護膜12は1.5であった。
【0087】
<実施例4>
(Zn0.45Co0.55)Co24微粒子:樹脂=1:1(質量比)とした以外は、実施例1と同様にして保護膜12を作成した。
焼結工程終了後、断面観察を行い、保護膜12の形成状態を確認した。
保護膜12の膜厚は、保護膜12(エッジ部)が3.6μm、保護膜12(圧延面)が9.0μmとなっており、気孔率は、34%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、保護膜12は2.5であった。
【0088】
<比較例5>
ZnCo24微粒子(平均粒径1.0μm)を、バインダとともに溶媒中に分散させ、スラリー状の塗膜形成材料を形成する。具体的には、ZnCo24材料微粒子15gを溶媒としてのイソプロパノール50mlに分散させ、バインダとしてヒドロキシプロピルセルロースを添加したスラリーを調製した。このスラリーの粘度は、室温(25℃)で40mPa・sであった。
【0089】
塗膜形成工程は、ディップコーター(株式会社アイデン社製DC4200)を用い室温にて行った。試験片は吊り下げ保持した状態で、前記スラリー中に浸漬した後、引き上げ速度36mm/sで引き上げることにより塗膜を形成した。得られた塗膜は、完全乾燥させるのに大気開放状態(25℃、62%RH)で約600秒(完全乾燥時間)要した。
完全乾燥してから、再度同様の条件でディップし、合計5回ディップを繰り返した。
複数回ディップを行った理由は、1回のディップではエッジ部に塗布がほとんどできないためである。
【0090】
得られた塗膜を、実施例1,2と同様に焼成工程および焼結工程に供した。
保護膜12の膜厚は、保護膜12(エッジ部)が9.5μm、保護膜12(圧延面)が42μmとなっており、気孔率は、40%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、4.5であった。
【0091】
<比較例6>
NiCo24微粒子(平均粒径0.21μm)を、バインダとともに溶媒中に分散させ、スラリー状の塗膜形成材料を形成する。具体的には、NiCo24材料微粒子15gを溶媒としてのイソプロパノール50mlに分散させ、バインダとしてヒドロキシプロピルセルロースを添加したスラリーを調製した。
【0092】
塗膜が完全に乾燥する完全乾燥時間経過前に、前記塗膜上に新たな塗膜を重ねてディップコートする重ね塗り工程をくり返し、複数回重ねてディップコートされた塗膜を得ると、完全乾燥させて重ね塗り工程を行うのに比べて、膜厚比があまりおおきくならない状態で、薄くて強固な保護膜を形成できることがわかった。(特開2011−165652)
この技術を使って成膜を実施した。
【0093】
塗膜形成工程は、ディップコーター(株式会社アイデン社製DC4200)を用い室温にて行った。試験片は吊り下げ保持した状態で、前記スラリー中に浸漬した後、引き上げ速度36mm/sで引き上げることにより塗膜を形成した。塗膜が完全に乾燥する完全乾燥時間経過前に、前記塗膜上に新たな塗膜を重ねてディップコートする重ね塗り工程をくり返し、複数回重ねてディップコートされた塗膜を得ることで、圧延面とエッジ部の膜厚を近づけることを狙った。
このような重ね塗り工程を6回繰り返した。
なお、ディップコートしてから次のディップコート工程に入るまでの時間は30秒と(25℃、62%RH)した。
【0094】
得られた塗膜を、実施例1,2と同様に焼成工程および焼結工程に供した。
保護膜12の膜厚は、保護膜12(エッジ部)が3.3μm、保護膜12(圧延面)が12.9μmとなっており、気孔率は、44%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、3.9であった。
【0095】
<比較例7>
(Zn0.45Co0.55)Co24微粒子(平均粒径0.22μm)を、バインダとともに溶媒中に分散させ、スラリー状の塗膜形成材料を形成する。具体的には、(Zn0.45Co0.55)Co24材料微粒子15gを溶媒としてのイソプロパノール50mlに分散させ、バインダとしてヒドロキシプロピルセルロースを添加したスラリーを調製した。
【0096】
塗膜が完全に乾燥する完全乾燥時間経過前に、前記塗膜上に新たな塗膜を重ねてディップコートする重ね塗り工程をくり返し、複数回重ねてディップコートされた塗膜を得ると、完全乾燥させて重ね塗り工程を行うのに比べて、膜厚比があまりおおきくならない状態で、薄くて強固な保護膜を形成できることがわかった。(特開2011−165652)
この技術を使って成膜を実施した。
【0097】
塗膜形成工程は、ディップコーター(株式会社アイデン社製DC4200)を用い室温にて行った。試験片は吊り下げ保持した状態で、前記スラリー中に浸漬した後、引き上げ速度36mm/sで引き上げることにより塗膜を形成した。塗膜が完全に乾燥する完全乾燥時間経過前に、前記塗膜上に新たな塗膜を重ねてディップコートする重ね塗り工程をくり返し、複数回重ねてディップコートされた塗膜を得ることで、圧延面とエッジ部の膜厚を近づけることを狙った。
このような重ね塗り工程を6回繰り返した。
なお、ディップコートしてから次のディップコート工程に入るまでの時間は30秒と(25℃、62%RH)した。
【0098】
得られた塗膜を、実施例1,2と同様に焼成工程および焼結工程に供した。
保護膜12の膜厚は、保護膜12(エッジ部)が5.0μm、保護膜12(圧延面)が13.8μmとなっており、気孔率は、45%、均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、2.8であった。
【0099】
<結果1>
実施例1、2と比較例5を比べて、ディップコートに比べて電着塗装は膜厚均一性を向上できることがわかる。また、得られる保護膜12の気孔率は金属酸化物微粒子と樹脂成分の混合比(質量比)や、電着塗装条件により変化する。
【0100】
<耐久性試験1>
保護膜12のSOFC用セルとしての性能、耐久性が確保されているかを評価するために、実施例1、比較例5の保護膜12の電気抵抗の経時変化を評価する試験を実施した。
具体的な試験方法としては、先ず、保護膜12を形成してある基材11と空気極材料とを接合した状態で、大気雰囲気中において1000〜1150℃の焼成温度で2時間焼成処理を行うとともに、集電部として白金メッシュを付設してSOFC用セルとした。
基材11の両側から、SOFCの作動時を想定して、大気雰囲気中で一定温度で保持した状態で0.24A/cm2の直流電流を流し続け、電圧降下をモニタリングした。
【0101】
ここでの電圧降下は、基材11自体の抵抗と空気極材料、集電に用いた白金メッシュの抵抗の合計値である。775℃、800℃、825℃、850℃、875℃の温度条件で各保護膜12を試験に供した。
各温度いずれにおいても、経時的に電気抵抗は増大する。これは、ステンレス鋼表面の酸化被膜の増大や、ステンレス鋼中のCrがステンレス鋼から空気極材料に飛散する(Cr被毒)ことで空気極材料のオーミック抵抗の増大が起こる、などの要因によるものである。
電気抵抗の増大速度は下記表4のとおりであった。
なお、下記表4では、0.24A/cm2の直流電流を流し続けたときの電圧降下量の1000hrあたりの電圧降下量をまとめた。
また、実施例3,4、比較例6,7のものについても875℃における電圧降下量を測定した結果をあわせて示す。
【0102】
【表4】

【0103】
<結果2>
表4より、比較例5に比べて実施例1は各温度とも劣化速度が大幅に抑制できていることがわかる。一般的に700〜800℃の作動温度のSOFC用セルは長期耐久性(5年から10年)の確保が大きな課題といわれており、特に基材11を使用する場合は基材11の劣化が問題といわれている。実施例1のように基材11の劣化を大幅に抑制でき、SOFC用セルの長期耐久性の確保に大きな寄与を果たすことができる。(850℃、5800Hrの試験で、5年〜10年の耐久テストに相当するとされている。)
【0104】
また、850℃×1500hrの耐久性試験後の実施例1、比較例5の基材11に形成された酸化被膜の厚さを調べたところ、比較例5においては、基材11の酸化劣化が大きく進行し、0.9μmから1.9μmに増加した。これに対し、実施例1では、酸化被膜の厚さはあまり変っていなかった。すなわち、実施例1においては劣化の要因となる酸化被膜の成長速度が大幅に抑制できていることがわかる。
【0105】
また、875℃×655hr耐久性試験後の実施例3、4の基材11に形成された酸化被膜の厚さを調べたところ、それぞれ1.2μm、0.9μmであった。
一方、比較例6、7ではそれぞれ2.0μm、1.6μmであり、実施例3、4では耐久性試験後の酸化被膜の膜厚が比較例6,7に比べて薄い状態で維持できていることがわかる。
【0106】
<耐久性試験2>
保護膜12のSOFC用セルとしての性能、耐久性が確保されているかを評価するために、実施例2、比較例5の保護膜12の電気抵抗の経時変化を評価する試験を実施した。
具体的な試験方法としては、先ず、保護膜12を形成してある基材11と空気極材料とを接合した状態で、大気雰囲気中において1000〜1150℃の焼成温度で2時間焼成処理を行うとともに、集電部として白金メッシュを付設してSOFC用セルとした。
基材11の両側から、SOFCの作動時を想定して、大気雰囲気中で900℃で保持した状態で0.24A/cm2の直流電流を流し続け、電圧降下をモニタリングした。298hr直流電流を流し続けた後、Crの分布状態をEPMAで分析した。
Crの飛散量を定量的に評価するために、空気極材料中のCrのカウント数で評価する。Crのカウント数は実施例2で2332、比較例5で4942であった。
これらの比較より、本発明の燃料電池用セル間接続部材1はCrの飛散の抑制効果も高いことがわかる。
【0107】
<実施例8>
Co34微粒子(平均粒径0.5μm):樹脂=1:1(質量比)を用いた以外は、実施例1と同様にして保護膜12を作成した。
【0108】
<比較例9>
Co3O4(平均粒径1.0μm)を用いた以外は、比較例5と同様にして、保護膜12を作成した。
【0109】
<耐久性試験3>
耐久性試験1同様に、実施例8、比較例9の保護膜12の電気抵抗の経時変化を評価する試験を実施した。
850℃の温度条件で実施例8、比較例9のサンプルを試験に供した。
経時的に電気抵抗は増大する。これは、ステンレス鋼表面の酸化被膜の増大や、ステンレス鋼中のCrがステンレス鋼から空気極材料に飛散する(Cr被毒)ことで空気極材料のオーミック抵抗の増大が起こる、などの要因によるものである。
電気抵抗の増大速度は下記表5のとおりであった。
なお、下記表5では、0.24A/cm2の直流電流を流し続けたときの電圧降下量の1000hrあたりの電圧降下量をまとめた。
【0110】
【表5】

【0111】
表5より、比較例9に比べて実施例8は劣化速度が大幅に抑制できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の保護膜形成方法によれば、耐久性が高く長期にわたって安定して使用することができるセル接続部材、SOFC用セルを提供することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 :セル接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
11 :基材
12 :保護膜
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :SOFC用セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成する保護膜形成方法であって、
前記基材の表面に、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂との混合液を用いて、アニオン電着塗装法により電着塗膜を形成する電着工程を行い、
前記電着塗膜を焼成して前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行い、
さらに前記焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜を形成する焼結工程を行う保護膜形成方法。
【請求項2】
前記焼成工程を300℃以上600℃未満の温度域で0.5時間以上5時間以下加熱することにより行う請求項1に記載の保護膜形成方法。
【請求項3】
前記焼結工程を800℃以上1200℃未満の温度域で0.5時間以上5時間以下加熱することにより行う請求項1または2に記載の保護膜形成方法。
【請求項4】
Crを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に保護膜を形成してあるセル接続部材であって、
前記保護膜を請求項1〜3のいずれか一項に記載の保護膜形成方法により形成してあるセル接続部材。
【請求項5】
請求項4に記載のセル接続部材を空気極と接合してなる固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項6】
前記電着工程における混合液が、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂とを質量比で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(0.5:1)〜(1.7:1)の割合で含有している請求項5記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項7】
前記電着工程による電着塗膜の膜厚が1μm〜30μmである請求項5または6に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項8】
前記基材がフェライト系ステンレス鋼からなる請求項5〜7のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項9】
前記焼成工程後の焼成被膜の気孔率が40%以下である請求項5〜8のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項10】
前記電着工程における金属酸化物微粒子の粒径が0.1μm以上2μm以下である請求項5〜9のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項11】
前記金属酸化物微粒子がCoを含む酸化物からなる請求項5〜10のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項12】
前記金属酸化物微粒子がZnとCoを含む酸化物からなる請求項5〜11のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項13】
前記金属酸化物微粒子がNiとCoを含む酸化物からなる請求項5〜11のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項14】
前記アニオン型樹脂がポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種以上を含有する請求項5〜13のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項15】
前記保護膜の最厚部と最薄部との厚さ比(最厚部の厚さ/最薄部の厚さ)が、2以下である請求項5〜14のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−212651(P2012−212651A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271447(P2011−271447)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【Fターム(参考)】