信号伝送媒体、高周波信号伝送媒体
【課題】可撓性を有しつつ高周波信号の伝送も可能な信号伝送媒体を提供する。
【解決手段】本発明の信号伝送媒体は、EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するものであって、第1ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第1端部と、第2ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第2端部と、第1端部と第2端部とを繋ぐ可撓性の伝送線路部10とを有している。伝送線路部10は、リボン状のフレキシブルプリント基板13の略中央部に形成され、第1端部及び第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体11と、フレキシブルプリント基板13から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シート12と、を含む。一対の接地シート12は、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサ14で部分的に支持されており、各接地シート12とストリップ導体11との間に空洞15が形成される。
【解決手段】本発明の信号伝送媒体は、EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するものであって、第1ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第1端部と、第2ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第2端部と、第1端部と第2端部とを繋ぐ可撓性の伝送線路部10とを有している。伝送線路部10は、リボン状のフレキシブルプリント基板13の略中央部に形成され、第1端部及び第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体11と、フレキシブルプリント基板13から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シート12と、を含む。一対の接地シート12は、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサ14で部分的に支持されており、各接地シート12とストリップ導体11との間に空洞15が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてEHF(Extremely High Frequency)帯(30GHz〜3000GHz)のような高周波信号を、2つの装置間で伝送するための信号伝送媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
有線による信号伝送では、装置間における信号の送受信が安定して行われる。信号の伝送速度は年々高速化しており、EHF帯の高周波信号に対しても有線で伝送することが実用化されつつある。そのために、装置間で信号を伝送するために用いられる信号伝送媒体も、高速化に対応する必要がある。信号伝送媒体は、単純な2装置間の信号の伝送の他にも、例えば、EHF帯の高周波信号を処理する半導体チップの特性評価において、被評価デバイスである半導体チップと測定器との間を接続する目的でも用いられる。
【0003】
半導体チップの評価において高周波数信号を測定するための測定系は、例えば、測定ポートがフランジを有する導波管で構成される測定器と、信号伝送媒体とにより構成される。信号伝送媒体は、一端に評価デバイスに接触するプローブチップを備えたプローブヘッドを有し、他端に導波管のフランジに接続するためのコネクタを有する伝送線路部により構成される。伝送線路部には、同軸ケーブル、導波管、或いはストリップ線路等を用いることができる。
【0004】
同軸ケーブルは、可撓性があり、取り回しが容易であるために、測定系を比較的自由に構成することができる。しかし、例えば110GHzの信号を伝送する場合、同軸ケーブルは、中心導体外径が0.4mm、外側導体内径が1mm以下のサイズとなる。加工精度上、このような同軸ケーブルの実現は困難である。そのために、現在、110GHz以上で使用できる同軸ケーブルは存在しない。
導波管やストリップ線路は、高周波信号の伝送という点では同軸ケーブルよりも優れている。しかし導波管では、可撓性が無いために、測定系の構成に制限ができてしまい、測定系を自由に構成することができない。ストリップ線路では、誘電体が不可欠であるために誘電体によるロスが大きくなり、正確な測定が困難になる。
このように、現状、EHF帯のような高周波信号を2つの装置間で伝送させる上で最適な信号伝送媒体は、市場に登場していない。
【0005】
特許文献1、2は、上記のような測定系に用いられる従来の信号伝送媒体についての発明である。いずれも、高周波信号の伝送を目的としており、伝送線路部に、一端にプローブヘッドを有するストリップ線路を用いている。特許文献3は、伝送線路部に、一端にプローブヘッドを有する同軸ケーブルを用いている。
【0006】
高周波信号の伝送に好適なストリップ線路として、サスペンデッド・ストリップ線路が提案されている。例えば、非特許文献1に紹介されているのが、それである。サスペンデッド・ストリップ線路は、高Qファクタ、広い帯域幅、温度に対する特性の安定性等の点で、従来のストリップ線路よりも優れているといわれている。しかし、非特許文献1に紹介されているサスペンデッド・ストリップ線路は、可撓性が無いために、測定系の構成に制限ができてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−122602号公報
【特許文献2】特開2002−290115号公報
【特許文献3】特開2001−349903号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Reviewing the Basic of Suspended Striplines」MicrowaveJournal 2002-10 Vol.45,No.10,ISSN 0192-6225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑み、可撓性を有しつつ高周波信号の伝送も可能な信号伝送媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような課題を解決する本発明の信号伝送媒体は、EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、第1ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第1端部と、第2ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第2端部と、前記第1端部と前記第2端部とを繋ぐ可撓性の伝送線路部とを有する。前記伝送線路部は、リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、各接地シートと前記ストリップ導体との間に空洞が形成されている。前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方から、前記ストリップ導体と電気的に接続された信号プローブチップ、および、前記接地シートと電気的に接続された接地プローブチップが露出している。
【0011】
本発明の信号伝送媒体の伝送線路部は、フレキシブルプリント基板、接地シート、及び可撓性スペーサを用いることで可撓性を有したものになる。また、接地シートとストリップ導体との間に空洞が形成されることで、この空洞内を電気力線が通ることになるために、高周波信号伝送時の誘電体損失に伴う伝送損失が抑制され、高効率の伝送が実現される。
本発明の信号伝送媒体は、例えば、前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満に構成されると、高次モードの信号伝搬が抑制され、良好な特性のストリップ線路となる。
【0012】
本発明の信号伝送媒体は、例えば、前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方に、前記信号プローブチップおよび前記接地プローブチップに代えて、前記ストリップ導体を伝送する信号を他の種類の高周波信号伝送媒体へ導くための伝送媒体変換機構が設けらた構成であってもよい。
この場合、例えば前記他の種類の高周波信号伝送媒体が導波管である場合に、前記伝送媒体変換機構が、前記一対の接地シートが前記導波管の開口部と同じサイズに削除して形成されたシート開口部と、前記導波管のフランジとの取付部とを含んで構成される。
【0013】
本発明の高周波信号伝送媒体は、EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、各接地シートと前記ストリップ導体との間が空洞に形成されている。前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満である。
このような構成の高周波信号伝送媒体は、可撓性を有しており、誘電体損失に伴う伝送損失が極めて小さく低損失となる。
なお、バネ状の補強材が外表面に沿って形成されていてもよい。補強材により、外部からの衝撃などの影響を受けにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明の信号伝送媒体では、ストリップ導体がリボン状のフレキシブルプリント基板上に形成され、一対の接地シートが可撓性スペーサで部分的に支持されるために、可撓性を有しつつ高周波信号の伝送も可能になる。また、接地シートとストリップ導体との間が空洞に形成されているために、高周波信号伝送時の誘電体損失に伴う伝送損失が抑制され、高効率の伝送が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】被測定デバイスの特性評価を行うための測定系の全体構成図である。
【図2】一体型プローブの全体構成図である。
【図3】伝送線路部の断面図である。
【図4】導波管変換部の詳細な構成図である。
【図5】導波管変換部が測定器に接続さた状態を説明する図である。
【図6】伝送線路部とプローブ部との接続部分の拡大図である。
【図7】図6におけるA−A断面図である。
【図8】図6におけるB−B断面図である。
【図9】分図(a)、(b)は、可撓性スペーサの製造方法の説明図である。
【図10】分図(a)、(b)は、ストリップ導体の製造方法の説明図である。
【図11】分図(a)、(b)は、ストリップ導体と可撓性スペーサとを接着して伝送線路部を製造する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
この実施の形態では、プローブ部と導波管変換部とを有する信号伝送媒体の例を説明する。便宜上、このような信号伝送媒体を一体型プローブと呼ぶ。図1は、この一体型プローブを用いた、被測定デバイスの特性評価を行うための測定系の全体構成図である。
【0017】
この測定系は、第1ポイントとなる測定器2に一体型プローブ1を接続し、プローブ微動装置3で一体型プローブ1を微動させつつ、試料台4上に配置された第2ポイントとなる被測定デバイス5の特性評価を行うためのものである。
一体型プローブ1は、高周波信号、例えばEHF帯の信号の伝送を可能とする可撓性のある伝送線路部10を有しており、伝送線路部10の一端には、測定器2との間で信号の受け渡しを行うための導波管変換部20が形成されている。また、伝送線路部10の他端には、被測定デバイス5との間で信号の受け渡しを行うためのプローブ部30が形成されている。
【0018】
測定器2は、例えば一体型プローブ1により伝送された高周波信号を所定のディスプレイに表示することで、信号の状態を視認可能に出力する。測定器2は、一体型プローブ1の導波管変換部20が接続される測定ポートを備える。
高周波信号を受信するために測定ポートは導波管で構成されており、導波管のフランジに、導波管変換部20が接続される。
【0019】
プローブ微動装置3は、その先端に一体型プローブ1のプローブ部30が取り付けられるプローブ支持部6を有している。プローブ微動装置3を操作することでプローブ支持部6が動作して、プローブ部30の位置を微動させることができる。
【0020】
被測定デバイス5は、例えば半導体チップであり、測定時にプローブ部30が接触するためのプローブパッドが形成されている。この被測定デバイス5は、高周波信号、例えばEHF帯の信号の送受信が可能となっている。被測定デバイス5が載置される試料台4は、測定時に被測定デバイス5を試料台4上で固定するとともに、被測定デバイス5を最適な位置に移動させる。
プローブ微動装置3及び試料台4により、プローブ部30と被測定デバイス5の位置が調整されて接触され、測定が行われる。
【0021】
図2は、一体型プローブ1の全体構成図である。
一体型プローブ1は、上述の通り、伝送線路部10、導波管変換部20、プローブ部30とを有するが、これらがそれぞれ分離して、測定時にのみ接続されるような構成であってもよい。但し、測定結果の安定性、測定系の構築のし易さを考慮すれば、一体型である方が便利である。また、伝送線路部10部分は、バネ状の補強材が外表面に沿って形成されていてもよい。補強材により、外部からの衝撃に対する耐久性が向上する。
【0022】
伝送線路部10は、図3の断面図に示されるような構成のものである。すなわち、伝送線路部10は、ストリップ導体11と、一対の接地シート12とを備えている。ストリップ導体11は、リボン状のフレキシブルプリント基板13の略中央部に形成された線状の導体である。ストリップ導体11により、導波管変換部20とプローブ部30との信号線同士が導通する。一対の接地シート12は、フレキシブルプリント基板13から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された導体シートである。
ストリップ導体11及び一対の接地シート12は、電気伝導度ができるだけ高い素材で構成された方がよく、また、そのために表面が平滑であることが望ましい。フレキシブルプリント基板13は、誘電体損失が小さく、絶縁性が高く、屈曲性を有する素材、例えばポリイミド、テフロン(登録商標)、液晶ポリマー等の有機絶縁シート材が好ましい。
【0023】
一対の接地シート12は、絶縁性部材から成る可撓性スペーサ14により部分的に支持されている。可撓性スペーサ14により、ストリップ導体11と接地シート12との間には、空洞15が形成される。可撓性スペーサ14は、フレキシブルプリント基板13と同様の素材により、可撓性をもつことができる。
このような構造にすることで、伝送線路部10は、可撓性を持ったサスペンデッド・ストリップ線路になる。
【0024】
空洞15は、空気で満たされる。そのためにストリップ導体11と接地シート12との間は、誘電損失が空気中の値と等しくなり、実効比誘電率(εr)が約1.0、実効誘電損失(tanδ)が略0となる。
ストリップ導体11が高周波信号を伝送するときには、ストリップ導体11と接地シート12との間に、断面に対して平行に電界が生じる。電気力線の殆どは空洞15を通る。そのために、誘電体損失に伴う伝送損失が極めて小さくなり、低損失のストリップ線路が実現できる。
【0025】
ストリップ導体11の幅及び一対の接地シート12の空洞15内の間隔は、ストリップ導体11を伝送する信号の波長の1/4未満であれば、高次モードの信号伝搬が抑制されて、良好な特性のストリップ線路となる。
【0026】
例えば100GHzの高周波信号を伝送する場合、空気中の信号の波長はλo=3[mm]である。空洞15は空気で満たされるために、ストリップ導体11を伝送する信号の波長(λ)も空気中の波長と同じになる(λ=λo/√εr:εr≒1)。
そのために、ストリップ導体の幅(w)及び接地シート12間の間隔(B)は、以下の式を満たせばよい。
ストリップ導体11の幅(w)<λ/4=0.75[mm]
接地シート12間の間隔(B)<λ/4=0.75[mm]
【0027】
可撓性スペーサ14間の間隔(A)が小さすぎる場合、空洞15内の電界を引き込んで伝送モードに影響を与えることが考えられる。そのために可撓性スペーサ14間の間隔(A)は、電界に影響を与えない程度に大きい方がよい。好適には、以下の式を満たす構成がよい。
可撓性スペーサ14間の間隔(A)≧nλ
(n:可撓性スペーサの誘電率により決まる定数)
【0028】
伝送線路部10は、高周波になるほどストリップ導体11の幅を狭くでき、接地シート12間の間隔を狭くできる。つまり、周波数が高くなるほど、伝送線路部10は、薄く、小さく構成することができる。
【0029】
図4は、導波管変換部20の詳細な構成図である。
本実施形態において導波管変換部20は、伝送線路部10よりも幅が広く形成される。これは、測定器2の測定ポートの導波管の開口部と同じサイズに後述する開口部21を形成し、導波管のフランジに接続しやすくするためである。伝送線路部10の幅が、導波管の開口部のサイズよりも十分に大きく、フランジに接続しやすければ、導波管変換部20を伝送線路部10よりも幅広く形成する必要はない。
【0030】
開口部21は、上述の通り測定器2の測定ポートの導波管の開口部と同じサイズに形成される。開口部21からは、ストリップ導体11が露出するようになっており、接地シート12及び可撓性スペーサ14は削除される。開口部21から露出するストリップ導体11の長さ(h)は、伝送する高周波信号の波長の略1/4に相当する。100GHzの高周波信号を伝送する場合には、h=0.75[mm]になる。さらに導波管変換部20には、ネジ穴22が設けられており、導波管変換部22は、ネジによりフランジに締止される。
【0031】
図5は、導波管変換部20が測定器2の測定ポートの導波管24に接続さた状態を説明する図である。導波管変換部20は、測定ポートの導波管24のフランジ23と導波管終端器25とに挟持され、ネジ26により締止される。フランジ23の導波管変換部20側の面及び導波管終端器25の導波管変換部20側の面は、それぞれ導波管変換部20の接地シート12に電気的に接触する。
【0032】
導波管終端器25には、導波管24の開口部と同じサイズの開口部27が設けられている。導波管変換部20の締止時には、導波管24から導波管変換部20の開口部21を介して導波管終端器25の開口部27までが、一連の空洞になる。導波管終端器25の開口部27の底面から導波管変換部20の開口部21に露出したストリップ導体21までの距離(d)は、伝送する高周波信号の波長の略1/4になるようにする。100GHzの高周波信号を伝送する場合には、d=0.75[mm]になる。
【0033】
このような構成により導波管変換部20を導波管24に接続することで、一体型プローブ1と測定器2との間で、効率よく信号が伝搬することができる。
【0034】
図6は、伝送線路部10とプローブ部30との接続部分の拡大図である。
プローブ部30は、伝送線路部10上に誘電層33を形成し、その上に信号プローブチップ31及び2本の接地プローブチップ32を設けた構成になっている。絶縁層33により、信号プローブチップ31及び2本の接地プローブチップ32は伝送線路部10の接地シート12から分離される。伝送線路部10のストリップ導体11は、プローブ部30部分ではテーパ状になっており、幅が信号プローブチップ31の基端部分の幅と同程度になっている。また、プローブ部30下の伝送線路部10では、空洞15が誘電体スペーサにより埋められる。
【0035】
信号プローブチップ31は、ストリップ導体11に接続されている。図7は、図6のA−A断面図であり、信号プローブチップ31とストリップ導体11との接続状態を表している。
信号プローブチップ31は、基端側で信号ビア34を介してストリップ導体11に接続される。信号ビア34は、誘電層33、接地シート12、誘電体スペーサ36、及びフレキシブルプリント基板13を貫通してストリップ導体11に接続される。信号ビア34を接地シート12から分離するために、信号ビア34と接地シート12との間にも誘電層33が形成される。
【0036】
接地プローブチップ32は、接地シート12に接続されている。図8は、図6のB−B断面図であり、接地プローブチップ32と接地シート12との接続状態を表している。2本の接地プローブチップ32は、同じように接地シート12に接続される。
接地プローブチップ32は、基端側で接地ビア35を介して接地シート12に接続される。接地ビア35は、誘電層33及び誘電体スペーサ36を貫通して2つの接地シート12に接続される。接地ビア35は、ストリップ導体11の位置からずれて配置されるので、接地ビア35がストリップ導体11に影響を与えることはない。
【0037】
信号プローブチップ31及び2本の接地プローブチップ32の先端は、被測定デバイス5の表面に形成されたプローブパッドの配置に合致するように長さや間隔が調整される。
【0038】
[製造方法]
次に、上記のように構成される一体型プローブ1の伝送線路部10の製造方法を、図9〜11により説明する。
【0039】
図9(a)、(b)は、可撓性スペーサ14の製造方法を説明するための図面である。
まず、図9(a)にあるように、セパレータフィルム41、接着シート42、可撓性スペーサ14になるポリイミド43、接着シート42、セパレータフィルム41の順に積層して、2つの治具40で挟み込むことにより、これらを仮接着する。接着シート42には、例えばエポキシ系の接着剤が用いられ25[μm]の厚みで形成される。セパレータフィルム41は、治具40と接着シート42とが接着することを防止する目的で用いられ、可撓性スペーサ14の製造後に除去される。
ポリイミド43の厚さは、接地シート12間の間隔Bとなるために、伝送線路部10で伝送される信号の周波数に応じて決められる。
【0040】
仮接着後、図9(b)にあるように、一方の治具40を取り除き、その取り除いた面にメタルマスク44を配置する。メタルマスク44側からレーザ光を照射することで、メタルマスク44によりマスクされていない部分の、セパレータフィルム41、接着シート42、及びポリイミド43を除去する。残ったポリイミド43が可撓性スペーサ14になる。メタルマスク44による開口寸法が可撓性スペーサ14間の間隔Aを決めることになる。そのために、メタルマスク44による開口寸法は、ポリイミド43の誘電率及び伝送線路部10で伝送される信号の周波数に応じて決められる。
セパレータフィルム41、接着シート42、及びポリイミド43をレーザ除去加工した後、メタルマスク44を取り除く。このようにして可撓性スペーサ14が製造される。
【0041】
図10(a)、(b)は、ストリップ導体11の製造方法を説明するための図面である。
まず、図10(a)にあるように、治具45上に、金属製、例えば銅から成る金属シート46、フレキシブルプリント基板13になるポリイミド47、金属シート46の順に積層して、その上に、フォトレジストシート49を積層圧着し、さらに、マスク48を配置する。マスク48の幅により、完成時のストリップ導体11の幅が決まる。この状態で紫外線照射等のフォトリソグラフィ技術により、マスク48で隠されている部分を残して、フォトレジストシート49を現像除去する。さらに、現像除去されていないフォトレジスト49を、金属シート46を除去するためのエッチングマスクとして、フォトレジストシート49で被覆されている部分を残して金属シート46を除去する。ポリイミド47の他方の面についても、フォトリソグラフィ技術による金属シート46の除去を行う。これにより、図10(b)に示すように、ポリイミド47の両面に、所定の幅の金属シート46が形成される。このポリイミド47の両面に残った金属シート46が、ストリップ導体11になる。
【0042】
図11(a)、(b)は、ストリップ導体11と可撓性スペーサ14とを接着して伝送線路部10を製造する方法を説明するための図面である。
まず、治具50上に、接地シート12になる金属製、例えば銅からなる金属シート51を形成し、その上に図9(b)で製造した可撓性スペーサ14を接着させる。この際、接着シート42により金属シート51を接着させる。このような構成を2つ用意し、それらの間に図10(b)で製造したストリップ導体11のフレキシブルプリント基板13になるポリイミド47を挟み込む。この際、接着シート42によりポリイミド47を接着させる。
このようにして、図11(a)にあるように、図10(b)で製造したストリップ導体11を図9(b)で製造した2つの可撓性スペーサ14で挟み、高温加圧接着する。
その後、図11(b)にあるように、治具50を取り除き、必要に応じて外縁を切断、成形することで伝送線路部10が完成する。完成した伝送線路部10の一端に導波管変換部20を取り付け、他端にプローブ部30を取り付けることで、一体型プローブ1が製造される。
【0043】
[変形例]
上記の説明において、被測定デバイス5からの出力を測定器2で測定する形態を採用しているが、被測定デバイス5に対してプローブ部30により給電するような形態であってもよい。つまり、一体型プローブ1により、被測定デバイス5からの出力信号を測定器2に伝送する他に、信号発生器等からの入力信号を被測定デバイス5に入力するような構成であってもよい。
【0044】
また、一体型プローブ1のプローブ部30を導波管変換部20に取り替えて、伝送線路部10の両端を導波管変換部20にしてもよい。
このような構成では、2つの導波管間を伝送線路部10で接続することができる。導波管が一方の装置の入力ポートと他方の装置の出力ポートを構成するものであった場合、伝送線路部10を介して、該2つの装置間で高周波信号の伝送が可能になる。
【0045】
また、一体型プローブ1の導波管変換部20をブローブヘッド30に取り替えて、伝送線路部10の両端をプローブ部30にしてもよい。
このような構成では、ある部位と他の部位とをブローブヘッド30で接続することで、2つの部位間で高周波信号の伝送が可能になる。
【0046】
さらに、可撓性のある伝送線路部10だけで、信号伝送媒体を構成してもよい。すなわち、導波管変換部20およびプローブ部30を無くし、図示しない種々のコネクタあるいは信号変換線路を接続するようにしてもよい。これにより、可撓性のある伝送線路部10の特質を活かしつつ、高周波信号伝送の用途に対して、よりフレキシブルに対応することができる。
【0047】
あるいは、ストリップ導体11が複数形成されてもよい。例えば、ストリップ導体11が2本の場合は、いわゆる差動信号を伝送する場合に適しており、1つのリボン状のフレキシブルプリント基板13で高速差動信号伝送媒体を構成することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1…一体型プローブ、10…伝送線路部、11…ストリップ導体、12…接地シート、13…フレキシブルプリント基板、14…可撓性スペーサ、15…空洞、20…導波管変換部、21…開口部、22…ネジ穴、23…フランジ、24…導波管、25…導波管終端器、26…ネジ、27…開口部、30…プローブ部、31…信号プローブチップ、32…接地プローブチップ、33…誘電層、34…信号ビア、35…接地ビア、36…誘電体スペーサ、2…測定器、3…プローブ微動装置、4…試料台、5…被測定デバイス、6…プローブ支持部、40,45,50…治具、41…セパレータフィルム、42…接着シート、43,47…ポリイミド、44…メタルマスク、46,51…金属シート、48…マスク、49…フォトレジストシート
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてEHF(Extremely High Frequency)帯(30GHz〜3000GHz)のような高周波信号を、2つの装置間で伝送するための信号伝送媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
有線による信号伝送では、装置間における信号の送受信が安定して行われる。信号の伝送速度は年々高速化しており、EHF帯の高周波信号に対しても有線で伝送することが実用化されつつある。そのために、装置間で信号を伝送するために用いられる信号伝送媒体も、高速化に対応する必要がある。信号伝送媒体は、単純な2装置間の信号の伝送の他にも、例えば、EHF帯の高周波信号を処理する半導体チップの特性評価において、被評価デバイスである半導体チップと測定器との間を接続する目的でも用いられる。
【0003】
半導体チップの評価において高周波数信号を測定するための測定系は、例えば、測定ポートがフランジを有する導波管で構成される測定器と、信号伝送媒体とにより構成される。信号伝送媒体は、一端に評価デバイスに接触するプローブチップを備えたプローブヘッドを有し、他端に導波管のフランジに接続するためのコネクタを有する伝送線路部により構成される。伝送線路部には、同軸ケーブル、導波管、或いはストリップ線路等を用いることができる。
【0004】
同軸ケーブルは、可撓性があり、取り回しが容易であるために、測定系を比較的自由に構成することができる。しかし、例えば110GHzの信号を伝送する場合、同軸ケーブルは、中心導体外径が0.4mm、外側導体内径が1mm以下のサイズとなる。加工精度上、このような同軸ケーブルの実現は困難である。そのために、現在、110GHz以上で使用できる同軸ケーブルは存在しない。
導波管やストリップ線路は、高周波信号の伝送という点では同軸ケーブルよりも優れている。しかし導波管では、可撓性が無いために、測定系の構成に制限ができてしまい、測定系を自由に構成することができない。ストリップ線路では、誘電体が不可欠であるために誘電体によるロスが大きくなり、正確な測定が困難になる。
このように、現状、EHF帯のような高周波信号を2つの装置間で伝送させる上で最適な信号伝送媒体は、市場に登場していない。
【0005】
特許文献1、2は、上記のような測定系に用いられる従来の信号伝送媒体についての発明である。いずれも、高周波信号の伝送を目的としており、伝送線路部に、一端にプローブヘッドを有するストリップ線路を用いている。特許文献3は、伝送線路部に、一端にプローブヘッドを有する同軸ケーブルを用いている。
【0006】
高周波信号の伝送に好適なストリップ線路として、サスペンデッド・ストリップ線路が提案されている。例えば、非特許文献1に紹介されているのが、それである。サスペンデッド・ストリップ線路は、高Qファクタ、広い帯域幅、温度に対する特性の安定性等の点で、従来のストリップ線路よりも優れているといわれている。しかし、非特許文献1に紹介されているサスペンデッド・ストリップ線路は、可撓性が無いために、測定系の構成に制限ができてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−122602号公報
【特許文献2】特開2002−290115号公報
【特許文献3】特開2001−349903号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Reviewing the Basic of Suspended Striplines」MicrowaveJournal 2002-10 Vol.45,No.10,ISSN 0192-6225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑み、可撓性を有しつつ高周波信号の伝送も可能な信号伝送媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような課題を解決する本発明の信号伝送媒体は、EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、第1ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第1端部と、第2ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第2端部と、前記第1端部と前記第2端部とを繋ぐ可撓性の伝送線路部とを有する。前記伝送線路部は、リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、各接地シートと前記ストリップ導体との間に空洞が形成されている。前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方から、前記ストリップ導体と電気的に接続された信号プローブチップ、および、前記接地シートと電気的に接続された接地プローブチップが露出している。
【0011】
本発明の信号伝送媒体の伝送線路部は、フレキシブルプリント基板、接地シート、及び可撓性スペーサを用いることで可撓性を有したものになる。また、接地シートとストリップ導体との間に空洞が形成されることで、この空洞内を電気力線が通ることになるために、高周波信号伝送時の誘電体損失に伴う伝送損失が抑制され、高効率の伝送が実現される。
本発明の信号伝送媒体は、例えば、前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満に構成されると、高次モードの信号伝搬が抑制され、良好な特性のストリップ線路となる。
【0012】
本発明の信号伝送媒体は、例えば、前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方に、前記信号プローブチップおよび前記接地プローブチップに代えて、前記ストリップ導体を伝送する信号を他の種類の高周波信号伝送媒体へ導くための伝送媒体変換機構が設けらた構成であってもよい。
この場合、例えば前記他の種類の高周波信号伝送媒体が導波管である場合に、前記伝送媒体変換機構が、前記一対の接地シートが前記導波管の開口部と同じサイズに削除して形成されたシート開口部と、前記導波管のフランジとの取付部とを含んで構成される。
【0013】
本発明の高周波信号伝送媒体は、EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、各接地シートと前記ストリップ導体との間が空洞に形成されている。前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満である。
このような構成の高周波信号伝送媒体は、可撓性を有しており、誘電体損失に伴う伝送損失が極めて小さく低損失となる。
なお、バネ状の補強材が外表面に沿って形成されていてもよい。補強材により、外部からの衝撃などの影響を受けにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明の信号伝送媒体では、ストリップ導体がリボン状のフレキシブルプリント基板上に形成され、一対の接地シートが可撓性スペーサで部分的に支持されるために、可撓性を有しつつ高周波信号の伝送も可能になる。また、接地シートとストリップ導体との間が空洞に形成されているために、高周波信号伝送時の誘電体損失に伴う伝送損失が抑制され、高効率の伝送が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】被測定デバイスの特性評価を行うための測定系の全体構成図である。
【図2】一体型プローブの全体構成図である。
【図3】伝送線路部の断面図である。
【図4】導波管変換部の詳細な構成図である。
【図5】導波管変換部が測定器に接続さた状態を説明する図である。
【図6】伝送線路部とプローブ部との接続部分の拡大図である。
【図7】図6におけるA−A断面図である。
【図8】図6におけるB−B断面図である。
【図9】分図(a)、(b)は、可撓性スペーサの製造方法の説明図である。
【図10】分図(a)、(b)は、ストリップ導体の製造方法の説明図である。
【図11】分図(a)、(b)は、ストリップ導体と可撓性スペーサとを接着して伝送線路部を製造する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
この実施の形態では、プローブ部と導波管変換部とを有する信号伝送媒体の例を説明する。便宜上、このような信号伝送媒体を一体型プローブと呼ぶ。図1は、この一体型プローブを用いた、被測定デバイスの特性評価を行うための測定系の全体構成図である。
【0017】
この測定系は、第1ポイントとなる測定器2に一体型プローブ1を接続し、プローブ微動装置3で一体型プローブ1を微動させつつ、試料台4上に配置された第2ポイントとなる被測定デバイス5の特性評価を行うためのものである。
一体型プローブ1は、高周波信号、例えばEHF帯の信号の伝送を可能とする可撓性のある伝送線路部10を有しており、伝送線路部10の一端には、測定器2との間で信号の受け渡しを行うための導波管変換部20が形成されている。また、伝送線路部10の他端には、被測定デバイス5との間で信号の受け渡しを行うためのプローブ部30が形成されている。
【0018】
測定器2は、例えば一体型プローブ1により伝送された高周波信号を所定のディスプレイに表示することで、信号の状態を視認可能に出力する。測定器2は、一体型プローブ1の導波管変換部20が接続される測定ポートを備える。
高周波信号を受信するために測定ポートは導波管で構成されており、導波管のフランジに、導波管変換部20が接続される。
【0019】
プローブ微動装置3は、その先端に一体型プローブ1のプローブ部30が取り付けられるプローブ支持部6を有している。プローブ微動装置3を操作することでプローブ支持部6が動作して、プローブ部30の位置を微動させることができる。
【0020】
被測定デバイス5は、例えば半導体チップであり、測定時にプローブ部30が接触するためのプローブパッドが形成されている。この被測定デバイス5は、高周波信号、例えばEHF帯の信号の送受信が可能となっている。被測定デバイス5が載置される試料台4は、測定時に被測定デバイス5を試料台4上で固定するとともに、被測定デバイス5を最適な位置に移動させる。
プローブ微動装置3及び試料台4により、プローブ部30と被測定デバイス5の位置が調整されて接触され、測定が行われる。
【0021】
図2は、一体型プローブ1の全体構成図である。
一体型プローブ1は、上述の通り、伝送線路部10、導波管変換部20、プローブ部30とを有するが、これらがそれぞれ分離して、測定時にのみ接続されるような構成であってもよい。但し、測定結果の安定性、測定系の構築のし易さを考慮すれば、一体型である方が便利である。また、伝送線路部10部分は、バネ状の補強材が外表面に沿って形成されていてもよい。補強材により、外部からの衝撃に対する耐久性が向上する。
【0022】
伝送線路部10は、図3の断面図に示されるような構成のものである。すなわち、伝送線路部10は、ストリップ導体11と、一対の接地シート12とを備えている。ストリップ導体11は、リボン状のフレキシブルプリント基板13の略中央部に形成された線状の導体である。ストリップ導体11により、導波管変換部20とプローブ部30との信号線同士が導通する。一対の接地シート12は、フレキシブルプリント基板13から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された導体シートである。
ストリップ導体11及び一対の接地シート12は、電気伝導度ができるだけ高い素材で構成された方がよく、また、そのために表面が平滑であることが望ましい。フレキシブルプリント基板13は、誘電体損失が小さく、絶縁性が高く、屈曲性を有する素材、例えばポリイミド、テフロン(登録商標)、液晶ポリマー等の有機絶縁シート材が好ましい。
【0023】
一対の接地シート12は、絶縁性部材から成る可撓性スペーサ14により部分的に支持されている。可撓性スペーサ14により、ストリップ導体11と接地シート12との間には、空洞15が形成される。可撓性スペーサ14は、フレキシブルプリント基板13と同様の素材により、可撓性をもつことができる。
このような構造にすることで、伝送線路部10は、可撓性を持ったサスペンデッド・ストリップ線路になる。
【0024】
空洞15は、空気で満たされる。そのためにストリップ導体11と接地シート12との間は、誘電損失が空気中の値と等しくなり、実効比誘電率(εr)が約1.0、実効誘電損失(tanδ)が略0となる。
ストリップ導体11が高周波信号を伝送するときには、ストリップ導体11と接地シート12との間に、断面に対して平行に電界が生じる。電気力線の殆どは空洞15を通る。そのために、誘電体損失に伴う伝送損失が極めて小さくなり、低損失のストリップ線路が実現できる。
【0025】
ストリップ導体11の幅及び一対の接地シート12の空洞15内の間隔は、ストリップ導体11を伝送する信号の波長の1/4未満であれば、高次モードの信号伝搬が抑制されて、良好な特性のストリップ線路となる。
【0026】
例えば100GHzの高周波信号を伝送する場合、空気中の信号の波長はλo=3[mm]である。空洞15は空気で満たされるために、ストリップ導体11を伝送する信号の波長(λ)も空気中の波長と同じになる(λ=λo/√εr:εr≒1)。
そのために、ストリップ導体の幅(w)及び接地シート12間の間隔(B)は、以下の式を満たせばよい。
ストリップ導体11の幅(w)<λ/4=0.75[mm]
接地シート12間の間隔(B)<λ/4=0.75[mm]
【0027】
可撓性スペーサ14間の間隔(A)が小さすぎる場合、空洞15内の電界を引き込んで伝送モードに影響を与えることが考えられる。そのために可撓性スペーサ14間の間隔(A)は、電界に影響を与えない程度に大きい方がよい。好適には、以下の式を満たす構成がよい。
可撓性スペーサ14間の間隔(A)≧nλ
(n:可撓性スペーサの誘電率により決まる定数)
【0028】
伝送線路部10は、高周波になるほどストリップ導体11の幅を狭くでき、接地シート12間の間隔を狭くできる。つまり、周波数が高くなるほど、伝送線路部10は、薄く、小さく構成することができる。
【0029】
図4は、導波管変換部20の詳細な構成図である。
本実施形態において導波管変換部20は、伝送線路部10よりも幅が広く形成される。これは、測定器2の測定ポートの導波管の開口部と同じサイズに後述する開口部21を形成し、導波管のフランジに接続しやすくするためである。伝送線路部10の幅が、導波管の開口部のサイズよりも十分に大きく、フランジに接続しやすければ、導波管変換部20を伝送線路部10よりも幅広く形成する必要はない。
【0030】
開口部21は、上述の通り測定器2の測定ポートの導波管の開口部と同じサイズに形成される。開口部21からは、ストリップ導体11が露出するようになっており、接地シート12及び可撓性スペーサ14は削除される。開口部21から露出するストリップ導体11の長さ(h)は、伝送する高周波信号の波長の略1/4に相当する。100GHzの高周波信号を伝送する場合には、h=0.75[mm]になる。さらに導波管変換部20には、ネジ穴22が設けられており、導波管変換部22は、ネジによりフランジに締止される。
【0031】
図5は、導波管変換部20が測定器2の測定ポートの導波管24に接続さた状態を説明する図である。導波管変換部20は、測定ポートの導波管24のフランジ23と導波管終端器25とに挟持され、ネジ26により締止される。フランジ23の導波管変換部20側の面及び導波管終端器25の導波管変換部20側の面は、それぞれ導波管変換部20の接地シート12に電気的に接触する。
【0032】
導波管終端器25には、導波管24の開口部と同じサイズの開口部27が設けられている。導波管変換部20の締止時には、導波管24から導波管変換部20の開口部21を介して導波管終端器25の開口部27までが、一連の空洞になる。導波管終端器25の開口部27の底面から導波管変換部20の開口部21に露出したストリップ導体21までの距離(d)は、伝送する高周波信号の波長の略1/4になるようにする。100GHzの高周波信号を伝送する場合には、d=0.75[mm]になる。
【0033】
このような構成により導波管変換部20を導波管24に接続することで、一体型プローブ1と測定器2との間で、効率よく信号が伝搬することができる。
【0034】
図6は、伝送線路部10とプローブ部30との接続部分の拡大図である。
プローブ部30は、伝送線路部10上に誘電層33を形成し、その上に信号プローブチップ31及び2本の接地プローブチップ32を設けた構成になっている。絶縁層33により、信号プローブチップ31及び2本の接地プローブチップ32は伝送線路部10の接地シート12から分離される。伝送線路部10のストリップ導体11は、プローブ部30部分ではテーパ状になっており、幅が信号プローブチップ31の基端部分の幅と同程度になっている。また、プローブ部30下の伝送線路部10では、空洞15が誘電体スペーサにより埋められる。
【0035】
信号プローブチップ31は、ストリップ導体11に接続されている。図7は、図6のA−A断面図であり、信号プローブチップ31とストリップ導体11との接続状態を表している。
信号プローブチップ31は、基端側で信号ビア34を介してストリップ導体11に接続される。信号ビア34は、誘電層33、接地シート12、誘電体スペーサ36、及びフレキシブルプリント基板13を貫通してストリップ導体11に接続される。信号ビア34を接地シート12から分離するために、信号ビア34と接地シート12との間にも誘電層33が形成される。
【0036】
接地プローブチップ32は、接地シート12に接続されている。図8は、図6のB−B断面図であり、接地プローブチップ32と接地シート12との接続状態を表している。2本の接地プローブチップ32は、同じように接地シート12に接続される。
接地プローブチップ32は、基端側で接地ビア35を介して接地シート12に接続される。接地ビア35は、誘電層33及び誘電体スペーサ36を貫通して2つの接地シート12に接続される。接地ビア35は、ストリップ導体11の位置からずれて配置されるので、接地ビア35がストリップ導体11に影響を与えることはない。
【0037】
信号プローブチップ31及び2本の接地プローブチップ32の先端は、被測定デバイス5の表面に形成されたプローブパッドの配置に合致するように長さや間隔が調整される。
【0038】
[製造方法]
次に、上記のように構成される一体型プローブ1の伝送線路部10の製造方法を、図9〜11により説明する。
【0039】
図9(a)、(b)は、可撓性スペーサ14の製造方法を説明するための図面である。
まず、図9(a)にあるように、セパレータフィルム41、接着シート42、可撓性スペーサ14になるポリイミド43、接着シート42、セパレータフィルム41の順に積層して、2つの治具40で挟み込むことにより、これらを仮接着する。接着シート42には、例えばエポキシ系の接着剤が用いられ25[μm]の厚みで形成される。セパレータフィルム41は、治具40と接着シート42とが接着することを防止する目的で用いられ、可撓性スペーサ14の製造後に除去される。
ポリイミド43の厚さは、接地シート12間の間隔Bとなるために、伝送線路部10で伝送される信号の周波数に応じて決められる。
【0040】
仮接着後、図9(b)にあるように、一方の治具40を取り除き、その取り除いた面にメタルマスク44を配置する。メタルマスク44側からレーザ光を照射することで、メタルマスク44によりマスクされていない部分の、セパレータフィルム41、接着シート42、及びポリイミド43を除去する。残ったポリイミド43が可撓性スペーサ14になる。メタルマスク44による開口寸法が可撓性スペーサ14間の間隔Aを決めることになる。そのために、メタルマスク44による開口寸法は、ポリイミド43の誘電率及び伝送線路部10で伝送される信号の周波数に応じて決められる。
セパレータフィルム41、接着シート42、及びポリイミド43をレーザ除去加工した後、メタルマスク44を取り除く。このようにして可撓性スペーサ14が製造される。
【0041】
図10(a)、(b)は、ストリップ導体11の製造方法を説明するための図面である。
まず、図10(a)にあるように、治具45上に、金属製、例えば銅から成る金属シート46、フレキシブルプリント基板13になるポリイミド47、金属シート46の順に積層して、その上に、フォトレジストシート49を積層圧着し、さらに、マスク48を配置する。マスク48の幅により、完成時のストリップ導体11の幅が決まる。この状態で紫外線照射等のフォトリソグラフィ技術により、マスク48で隠されている部分を残して、フォトレジストシート49を現像除去する。さらに、現像除去されていないフォトレジスト49を、金属シート46を除去するためのエッチングマスクとして、フォトレジストシート49で被覆されている部分を残して金属シート46を除去する。ポリイミド47の他方の面についても、フォトリソグラフィ技術による金属シート46の除去を行う。これにより、図10(b)に示すように、ポリイミド47の両面に、所定の幅の金属シート46が形成される。このポリイミド47の両面に残った金属シート46が、ストリップ導体11になる。
【0042】
図11(a)、(b)は、ストリップ導体11と可撓性スペーサ14とを接着して伝送線路部10を製造する方法を説明するための図面である。
まず、治具50上に、接地シート12になる金属製、例えば銅からなる金属シート51を形成し、その上に図9(b)で製造した可撓性スペーサ14を接着させる。この際、接着シート42により金属シート51を接着させる。このような構成を2つ用意し、それらの間に図10(b)で製造したストリップ導体11のフレキシブルプリント基板13になるポリイミド47を挟み込む。この際、接着シート42によりポリイミド47を接着させる。
このようにして、図11(a)にあるように、図10(b)で製造したストリップ導体11を図9(b)で製造した2つの可撓性スペーサ14で挟み、高温加圧接着する。
その後、図11(b)にあるように、治具50を取り除き、必要に応じて外縁を切断、成形することで伝送線路部10が完成する。完成した伝送線路部10の一端に導波管変換部20を取り付け、他端にプローブ部30を取り付けることで、一体型プローブ1が製造される。
【0043】
[変形例]
上記の説明において、被測定デバイス5からの出力を測定器2で測定する形態を採用しているが、被測定デバイス5に対してプローブ部30により給電するような形態であってもよい。つまり、一体型プローブ1により、被測定デバイス5からの出力信号を測定器2に伝送する他に、信号発生器等からの入力信号を被測定デバイス5に入力するような構成であってもよい。
【0044】
また、一体型プローブ1のプローブ部30を導波管変換部20に取り替えて、伝送線路部10の両端を導波管変換部20にしてもよい。
このような構成では、2つの導波管間を伝送線路部10で接続することができる。導波管が一方の装置の入力ポートと他方の装置の出力ポートを構成するものであった場合、伝送線路部10を介して、該2つの装置間で高周波信号の伝送が可能になる。
【0045】
また、一体型プローブ1の導波管変換部20をブローブヘッド30に取り替えて、伝送線路部10の両端をプローブ部30にしてもよい。
このような構成では、ある部位と他の部位とをブローブヘッド30で接続することで、2つの部位間で高周波信号の伝送が可能になる。
【0046】
さらに、可撓性のある伝送線路部10だけで、信号伝送媒体を構成してもよい。すなわち、導波管変換部20およびプローブ部30を無くし、図示しない種々のコネクタあるいは信号変換線路を接続するようにしてもよい。これにより、可撓性のある伝送線路部10の特質を活かしつつ、高周波信号伝送の用途に対して、よりフレキシブルに対応することができる。
【0047】
あるいは、ストリップ導体11が複数形成されてもよい。例えば、ストリップ導体11が2本の場合は、いわゆる差動信号を伝送する場合に適しており、1つのリボン状のフレキシブルプリント基板13で高速差動信号伝送媒体を構成することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1…一体型プローブ、10…伝送線路部、11…ストリップ導体、12…接地シート、13…フレキシブルプリント基板、14…可撓性スペーサ、15…空洞、20…導波管変換部、21…開口部、22…ネジ穴、23…フランジ、24…導波管、25…導波管終端器、26…ネジ、27…開口部、30…プローブ部、31…信号プローブチップ、32…接地プローブチップ、33…誘電層、34…信号ビア、35…接地ビア、36…誘電体スペーサ、2…測定器、3…プローブ微動装置、4…試料台、5…被測定デバイス、6…プローブ支持部、40,45,50…治具、41…セパレータフィルム、42…接着シート、43,47…ポリイミド、44…メタルマスク、46,51…金属シート、48…マスク、49…フォトレジストシート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、第1ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第1端部と、第2ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第2端部と、前記第1端部と前記第2端部とを繋ぐ可撓性の伝送線路部とを有し、
前記伝送線路部は、
リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、
前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、
前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、
各接地シートと前記ストリップ導体との間が空洞であり、
前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方から、前記ストリップ導体と電気的に接続された信号プローブチップ、および、前記接地シートと電気的に接続された接地プローブチップが露出している、
信号伝送媒体。
【請求項2】
前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満である、
請求項1記載の信号伝送媒体。
【請求項3】
前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方に、前記信号プローブチップおよび前記接地プローブチップに代えて、前記ストリップ導体を伝送する信号を他の種類の高周波信号伝送媒体へ導くための伝送媒体変換機構が設けられている、
請求項1又は2記載の信号伝送媒体。
【請求項4】
前記他の種類の高周波信号伝送媒体が導波管であり、
前記伝送媒体変換機構は、前記一対の接地シートが前記導波管の開口部と同じサイズに削除して形成されたシート開口部と、前記導波管のフランジとの取付部とを含んで構成されている、
請求項3記載の信号伝送媒体。
【請求項5】
EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、
リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、
前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、
前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、
各接地シートと前記ストリップ導体との間が空洞であり、
前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満である、
高周波信号伝送媒体。
【請求項6】
バネ状の補強材が外表面に沿って形成されている、
請求項5記載の高周波信号伝送媒体。
【請求項1】
EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、第1ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第1端部と、第2ポイントとの間で信号の受け渡しを行う第2端部と、前記第1端部と前記第2端部とを繋ぐ可撓性の伝送線路部とを有し、
前記伝送線路部は、
リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、
前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、
前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、
各接地シートと前記ストリップ導体との間が空洞であり、
前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方から、前記ストリップ導体と電気的に接続された信号プローブチップ、および、前記接地シートと電気的に接続された接地プローブチップが露出している、
信号伝送媒体。
【請求項2】
前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満である、
請求項1記載の信号伝送媒体。
【請求項3】
前記第1端部と前記第2端部の少なくとも一方に、前記信号プローブチップおよび前記接地プローブチップに代えて、前記ストリップ導体を伝送する信号を他の種類の高周波信号伝送媒体へ導くための伝送媒体変換機構が設けられている、
請求項1又は2記載の信号伝送媒体。
【請求項4】
前記他の種類の高周波信号伝送媒体が導波管であり、
前記伝送媒体変換機構は、前記一対の接地シートが前記導波管の開口部と同じサイズに削除して形成されたシート開口部と、前記導波管のフランジとの取付部とを含んで構成されている、
請求項3記載の信号伝送媒体。
【請求項5】
EHF帯の信号を第1ポイントから第2ポイントへ伝達するための信号伝達媒体であって、
リボン状のフレキシブルプリント基板の略中央部に形成され、前記第1端部および前記第2端部の信号線同士を導通させるストリップ導体と、
前記フレキシブルプリント基板から互いに180度異なる方向に略等間隔で平行に配備された一対の接地シートと、を含み、
前記一対の接地シートは、それぞれ絶縁性部材から成る可撓性スペーサで部分的に支持されており、
各接地シートと前記ストリップ導体との間が空洞であり、
前記ストリップ導体の幅および前記一対の接地シートの空洞内の間隔が、それぞれ、前記ストリップ導体を伝送する信号の波長の1/4未満である、
高周波信号伝送媒体。
【請求項6】
バネ状の補強材が外表面に沿って形成されている、
請求項5記載の高周波信号伝送媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−119786(P2012−119786A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265666(P2010−265666)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】
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