説明

信号伝送用可動ケーブル

【課題】可撓性に優れ、ノイズに強い信号伝送用可動ケーブルを提供する。
【解決手段】信号伝送用の信号線束3を被覆するシールド層4が、隣接するターンを一部ラップさせた状態でスパイラル状に巻回されたシールドテープからなる内側シールド層4aと、この内側シールド層を覆う外側シールド層4bとからなっている。外側シールド層4bは、複数本の導電性の金属線と複数本の絶縁糸とが組紐状に編まれて、各金属線及び絶縁糸がそれぞれの巻回方向を異にしてスパイラル状に延びて筒状体をなしている混打ち編組線からなっていて、各金属線の巻回方向が内側シールド層を構成するシールドテープの巻回方向と異なるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互間に相対的な変位が生じる機器と機器との間を接続するように設けられて、主として信号を伝送するために用いられる信号伝送用可動ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットの可動部相互間を接続するケーブルや、ロボットとそのコントローラとの間を接続するケーブル、或いは電車の連結部で車両相互間を接続するジャンパーケーブルのように、相互間に相対的な変位が生じる機器の間を接続するように設けられて、機器相互間で信号のやりとりをするケーブルは、機器の変位に追従して自由に動くことができる(可動性を有している)必要がある。更にこの種のケーブルは、制御に用いる信号を伝送するために用いられるため、信号線を通して伝送される信号にノイズが混入するのを防ぐことができる構造を有している必要があり、また機構部の変位に伴って常時変形させられるため、優れた耐久性を有している必要がある。
【0003】
ノイズの混入を防止する機能を有する可動ケーブルとして、特許文献1に示されているように、心線を絶縁被覆してなる信号線(絶縁線心)を複数本束ねて構成した信号線束を導電材料からなる遮蔽材で被覆し、この遮蔽材の外周を導電層が積層されたシースで被覆した構造のケーブルが提案されている。
【0004】
また特許文献2には、複数の信号線を撚り合わせて構成した信号線束の外周に絶縁樹脂テープを巻き付けて抑え絶縁層を形成し、この抑え絶縁層の外周に並置された多数のシールド用導線をスパイラル状に巻回してシールド層を形成した構造を有するケーブルが開示されている。
【0005】
更に特許文献3には、心線を覆う絶縁被覆の外周に巻き付けられたシールドテープと、このシールドテープの外周を覆う金属編組線とによりシールド層を形成した同軸ケーブルが開示されている。
【0006】
また特許文献4には、心線を覆う絶縁被覆の外周にスパイラル状に巻回されたシールドテープの外周に更に他のシールドテープをスパイラル状に巻回して二重にシールド層を形成した同軸ケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−176626号公報
【特許文献2】特開2007−188738号公報
【特許文献3】特開2009−146704号公報
【特許文献4】特開2009−272209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されたように、複数本の信号線を導電材料からなる遮蔽材で被覆し、この遮蔽材の外周を導電層が積層されたシースで被覆した構造を採用した場合には、導電層の積層によりシースの柔軟性が損なわれるため、ケーブルに大きな可撓性を持たせることが難しい。またケーブルが変形を繰り返すと、シースに積層された導電層が破損するおそれがある。
【0009】
特許文献2に示されたように、信号線束の外周に並置された多数のシールド用導線をスパイラル状に巻き付けてシールド層を構成した場合には、各シールド用導線の電気抵抗に比べて隣接するシールド用導線相互間の接触抵抗が大きいため、シールド層を流れるアース電流は、各シールド用導線内を通して信号線束の周囲をスパイラル状に流れることになる。この場合、図4に示したように、信号線の周囲をスパイラル状に流れるアース電流Iは、ケーブルの軸線方向(長手方向)の成分(以下軸線方向成分という。)Iaとケーブルの軸線方向に対して直角な方向(径方向)の成分(以下径方向成分という。)Irとを持つ。これらの成分のうち、軸線方向成分Iaは、通常シールドの内側の信号線束を通して伝送される信号、及びシールドの近傍または隣接位置に配置されている他の信号線束(絶縁電線や対撚絶縁線、シールド付絶縁線類)に対してノイズ源となることはないが、径方向成分Irは、シールド内の信号線内を伝送される信号、及びシールドの近傍または隣接位置に配置されている他の信号線束に対してノイズ源となる可能性が大きい。このように、信号線束の回りにシールドを構成する導体をスパイラル状に巻回した場合には、シールドをアース電流が流れた際に、該シールドの内側に配置された信号線束を通して伝送される信号及び近接配置されている他の信号線束を通して伝送される信号に対してノイズ源となる可能性がある電流成分が生じるため、特許文献2に示されたシールド構造では、ノイズに対して強いケーブルを得ることが難しい。
【0010】
特許文献3に示されたように、心線を覆う絶縁被覆の外周に巻き付けられたシールドテープと、このシールドテープの外周を覆う金属編組線とによりシールド層を形成した場合も、シールドテープを流れるアース電流がスパイラル状に流れるため、アース電流が軸線方向成分と径方向成分とを持ち、径方向の電流成分が伝送される信号に対してノイズ源となる可能性がある。
【0011】
特許文献4に示されたように、シールドテープを二重に巻回してシールド層を形成する構造を信号伝送用ケーブルに採用した場合には、二重に巻回するシールドテープの巻回方向を異ならせておくと、内側のシールド層を流れるアース電流の径方向成分と、外側のシールド層を流れるアース電流の径方向成分とをほぼ逆向きにして相殺させることができるため、ノイズに強い信号伝送用ケーブルを得ることが可能である。しかしながら、複数本の信号線にシールドテープを二重に巻回すると、ケーブルの可撓性が損なわれるため、可動性に優れた信号伝送用ケーブルを得ることが難しい。また特許文献4に示された構造では、ケーブルが変形する際に内側のシールドテープと外側のシールドテープとの間で大きな摩擦が生じるため、比較的短期間の使用でシールド層が損傷するおそれがあり、耐久性に不安がある。従って、ロボット用の信号伝送用ケーブルや、車両用のジャンパケーブルのように、特に優れた可動性と耐久性とを有することが要求される用途に使われる信号伝送用可動ケーブルに、特許文献4に示されたようなシールド構造を採用することは好ましくない。
【0012】
上記のように、従来技術によった場合には、信号線を通して伝送される信号にノイズが混入するおそれをなくし、しかもケーブル全体に大きな可動性を持たせるという2つの条件を満たす可動ケーブルを得ることが難しかった。
【0013】
本発明の目的は、ノイズに強く、しかも大きな可動性を持たせることができる信号伝送用可動ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、心線を絶縁被覆してなる複数本の信号線(絶縁線心)からなる信号線束をシールド層で被覆した構造を有する信号伝送用可動ケーブルに係わるもので、本発明においては、シールド層が、隣接するターンを一部ラップさせた状態でスパイラル状に巻回されたシールドテープからなる内側シールド層と、この内側シールド層を覆う外側シールド層とからなっている。
【0015】
上記外側シールド層は、複数本の導電性の金属線と複数本の絶縁糸とが組紐状に編まれて、各金属線及び絶縁糸がそれぞれの巻回方向を異にしてスパイラル状に延びて筒状体をなしている構造を有する混打ち編組線からなっていて、各金属線の巻回方向が内側シールド層を構成するシールドテープの巻回方向と異なるように構成されている。
【0016】
上記のように、スパイラル状に巻回された内側シールド層を覆う外側シールド層を混打ち編組により構成して、混打ち編組を構成する金属線の巻回方向が内側シールド層を構成するシールドテープの巻回方向と異なるように構成すると、内側シールド層を流れるアース電流が持つケーブルの径方向成分と、外側のシールド層を構成する金属線を流れるアース電流が持つケーブルの径方向成分とを互いに逆方向に向けてほぼ相殺することができるため、ノイズに強い信号伝送用ケーブルを得ることができる。
【0017】
また編組線は、スパイラル状に巻回されたシールドテープに比べて大きな柔軟性を持たせることができるため、上記のように、外側シールド層を混打ち編組線により構成すると、内側シールド層及び外側シールド層の双方をシールドテープにより構成した場合に比べて格段に大きな可動性を持たせることができる。また編組線は大きな強度を持つことができるだけでなく、ケーブルの変形に伴って内側シールド層との間で大きな摩擦抵抗を生じることなく、あらゆる方向に容易に変形するため、ケーブルの変形に伴って内側シールド層に無理な力が加わるのを防ぐことができ、可動ケーブルの変形が繰り返されることにより生じるシールド層の損傷を抑制して、ケーブルの寿命を長くすることができる。
【0018】
従って、本発明によれば、ノイズに強く、しかも可動性及び耐久性に優れた信号伝送用可動ケーブルを得ることができる。
【0019】
上記シールドテープは、長手方向に沿って連続した導電部分を有するテープである。このシールドテープは、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンの中から選択された一つのプラスチックからなるテープの片面または両面に、銅箔またはアルミニウム箔を貼り合わせた構造を有していることが好ましい。
【0020】
また上記混打ち編組線を構成する金属線は、銅線、錫メッキが施された銅線、銀メッキが施された銅線、ステンレス鋼線の中から選択されることが好ましく、混打ち編組線を構成する絶縁糸は、綿、スフ、ポリエステル、ナイロン及びケプラ(商品名)の中から選択された絶縁材料からなっていることが好ましい。
【0021】
上記のように材料を選択することにより、柔軟性が高く、しかも機械的強度が高い混打ち編組線を得ることができる。
【0022】
本発明に係わるケーブルにおいては、上記内側シールド層の電気抵抗が、外側シールド層の電気抵抗にほぼ等しくなるように、シールドテープの導体部分の厚さ及び混打ち編組を構成する金属線の線径及び本数が設定されていることが好ましい。
【0023】
上記のように内側シールド層及び外側シールド層を構成しておくと、内側シールド層及び外側シールド層に流れるアース電流をほぼ等しくすることができるため、アース電流の径方向成分をキャンセルする効果を高めて、シールド層によるノイズ低減効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スパイラル状に巻回された内側シールド層を覆う外側シールド層を、絶縁糸と金属線とからなる筒状の混打ち編組線により構成して、混打ち編組を構成する金属線の巻回方向と内側シールド層を構成するシールドテープの巻回方向とを異ならせることにより、内側シールド層を流れるアース電流が持つケーブルの径向成分と、外側のシールド層を構成する金属線を流れるアース電流が持つケーブルの径方向成分とを互いに逆向きに向けてほぼ相殺することができるようにしたため、シールドの内側に配置されている信号線束を通して伝送される信号及び近接配置された他の信号線束を通して伝送される信号に対してノイズ源となる可能性がある電流成分を少なくして、ノイズに強い信号伝送用ケーブルを得ることができる。
【0025】
本発明では、外側シールド層を、柔軟性に優れる混打ち編組線により構成するので、ケーブルの可撓性を損なうことなく、ノイズに強い二重シールド構造を実現することができる。また編組線は大きな強度を持つことができるだけでなく、ケーブルの変形に伴って、内側シールド層との間で大きな摩擦抵抗を生じることなくあらゆる方向に容易に変形することができるため、ケーブルの変形に伴って内側シールド層及び外側シールド層に無理な力が加わってシールド層が早期に損傷するのを防いで、ケーブルの寿命を延ばすことができる。
【0026】
従って本発明によれば、ノイズに強く、しかも可動性及び耐久性に優れた信号伝送用可動ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の構造を模式的に示した断面図である。
【図2】本実施形態において、信号線束を覆う内側シールド層の構造を示した正面図である。
【図3】本実施形態において、信号線束を覆う外側シールド層の構造を示した正面図である。
【図4】従来の可動ケーブルにおいてシールド層を流れる電流のベクトル図である。
【図5】本発明に係わる可動ケーブルにおいてシールド層を流れる電流のベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係わる可動ケーブル1の断面図で、同図において、2は、心線2aを絶縁被覆2bで覆った構造を有する信号線(絶縁線心)である。図示の例では、4本の信号線2が星型カッド撚りされて信号線束3が構成され、この信号線束3を覆うようにシールド層4が、またシールド層4を覆うように絶縁シース5が設けられている。信号線の撚り合わせ構造としては、対撚、カッド撚等があるが、本発明において、信号線の撚り合わせ構造は任意である。またシールド層で覆われる信号線束を構成する信号線の数は2以上あればよい。
【0029】
本発明においては、シールド層4が、内側シールド層4aと、外側シールド層4bとからなっている。内側シールド層4aは、図2に示すように、隣接するターンを一部ラップさせた状態でスパイラル状に巻回されたシールドテープ4a1からなっている。シールドテープ4a1としては、ポリエステル、ポリエチレンまたはポリプロピレン等の可撓性を有する絶縁性プラスチックからなるテープの片面または両面に、導電性の箔を貼り合わせた構造を有するものを用いる。導電性の箔としては、銅箔またはアルミニウム箔を用いるのが好ましい。シールドテープ4a1の幅寸法wは、信号線束3の外周に巻き付けるために必要な大きさに設定する。
【0030】
外側シールド層4bは、図3に示すように、黒く塗りつぶされて図示されている複数本の導電性の金属線4b1と、白抜きで図示されている複数本の絶縁糸4b2とを組紐状に編んで筒状体とした混打ち編組線により構成される。
【0031】
図3に示された混打ち編組線は、その長手方向に対して異なる側に傾斜した方向に沿って並置された複数本の金属線4b1と複数本の絶縁糸4b2とが、適宜に上下位置を違えてクロスしながら、それぞれの巻回方向を異にしてスパイラル状に延びて筒状体をなす構造を有している。混打ち編組線を構成する金属線4b1はすべて同じ巻回方向に沿ってスパイラル状に延びており、すべての絶縁糸4b2は、金属線とは異なる巻回方向に沿ってスパイラル状に延びている。本発明においては、スパイラル状に延びる各金属線4b1の巻回方向が、内側シールド層4aを構成するシールドテープ4a1の巻回方向と異なるように、外側シールド層を構成する混打ち編組線が編み上げられている。本実施形態では、内側シールド層4aを構成するシールドテープ4a1が、図2において下方から上方に向って時計方向に回りながらスパイラル状に延びるように巻回されており、混打ち編組線の各金属線4b1は、図3において、下方から上方に向って反時計方向に回りながらスパイラル状に延びるように設けられている。
【0032】
上記外側シールド層4bは、内側シールド層4aが形成されたケーブルを、金属線が巻かれたボビンと絶縁糸が巻かれたボビンとを備えた編組機に通して、その内側シールド層の外周に密着させて混打ち編組線を編上げることにより形成される。
【0033】
混打ち編組線を構成する金属線4b1としては、銅線、錫メッキが施された銅線、銀メッキが施された銅線、またはステンレス鋼線を用いるのが好ましい。また混打ち編組線を構成する絶縁糸としては、綿、スフ、ポリエステル、ナイロン及びケプラ(商品名)の中から選択された少なくとも一つの繊維材からなるものを用いるのが好ましい。
【0034】
シールド層4を構成するに当っては、内側シールド層4a及び外側シールド層4bに分流するアース電流をほぼ等しくするために、シールドテープからなる内側シールド層4aの電気抵抗を、混打ち編組線からなる外側シールド層4bの電気抵抗にほぼ等しくするように(好ましくは両者の電気抵抗の差が、内側シールド層の電気抵抗に対して10%以下となるように)、シールドテープ4aの導体部分の厚さ及び混打ち編組を構成する金属線の線径及び本数を設定することが好ましい。
【0035】
また内側シールド層を流れるアース電流が持つケーブルの軸線方向成分と、外側シールド層を流れるアース電流が持つケーブルの軸線方向成分とをほぼ逆方向に向けるため、シールドテープがケーブルの軸線方向(長手方向)に対してなす傾斜角の絶対値と混打ち編組線を構成する金属線がケーブルの軸線方向に対してなす傾斜角とをほぼ等しくするように、内側シールド層及び外側シールド層を構成することが好ましい。
【0036】
信号線束を覆うようにシールド層を形成した信号ケーブルにおいては、信号線相互間の位置関係の不均一性や、外来ノイズなどにより生じる起電力によってシールド層にアース電流が流れる。シールド層がスパイラル状に巻回されたシールドテープからなっている場合、テープの導電部同士がオーバラップされた部分で相互に電気的に接触していたとしても、その接触抵抗はシールドテープ自体の電気抵抗に比べてかなり大きいため、シールド層を流れるアース電流は、シールドテープの内部を通してスパイラル状に流れる。
【0037】
シールド層が、信号線束の周囲をスパイラル状に延びるシールドテープにより構成されている場合、信号線束の周囲をスパイラル状に流れるアース電流Iは、図4に示すように、ケーブルの軸線方向に向いた軸線方向成分Iaと、ケーブルの径方向に向いた径方向成分Irとを有する。これらの成分のうち、軸線方向成分Iaは、通常シールド層の内側の信号線束を通して伝送される信号及び近接配置された他の信号線束を通して伝送される信号に対してノイズ源となることはないが、径方向成分Irは、シールド層の内側の信号線束を通して伝送される信号及び近接配置された他の信号線束を通して伝送される信号に対してノイズ源となる可能性が大きい。したがって、スパイラル状に巻回されたシールドテープのみによりシールド層を構成すると、信号線にノイズが侵入するおそれがあり、好ましくない。
【0038】
特に、ロボット用ケーブルや、車両の連結部で車両間を接続するジャンパケーブルのように、ケーブルにより接続する機器相互間に常時相対的変位が生じる場合には、ケーブルの内部の信号線束も常に動かされるため、往復線路を構成する対の信号線相互間の位置関係が常時変化し、ノイズの侵入に対して弱点となる部分が生じ易い。万一信号線にノイズが侵入すると、機器が誤動作するおそれがあるため、シールド層を流れるアース電流がノイズ源となる径方向成分を持つことは極力避ける必要がある。
【0039】
特に、ロボット用や車両用の信号伝送ケーブルは、最近では、通信速度100Mbps以上のLAN用の信号の伝送をも行うため、その近端漏話(NEXT)の特性が、LAN規格(JIS X 5150)に合格している必要がある。そのため、ノイズ源となる可能性が高い、アース電流の径方向成分(ケーブルの径方向を向いた成分)Irを低減することは、極めて重要なことである。
【0040】
信号伝送用可動ケーブルにおいて、信号線束を覆うシールド層を金属編組線のみにより構成することも考えられるが、金属編組線のみによりシールド層を構成すると、波長が短い高周波ノイズが編組線の網目を通して内部に侵入するのを防ぐことができないため、信号線を流れる信号がLAN信号や画像信号等の波長が短い高周波信号である場合、信号がノイズの影響を受けるおそれがある。
【0041】
本発明のようにシールド層4を、一部がラップした状態でスパイラル状に巻回されたシールドテープからなる内側シールド層4aと、混打ち編組線からなる外側シールド層4bとにより構成して、混打ち編組線を構成する金属線の巻回方向をシールドテープの巻回方向と逆方向とした場合、内側シールド層4aを流れるアース電流Iは、例えば図5において右側に示されたベクトル図のように、ケーブルの軸線方向を向いた軸線方向成分Iaと、ケーブルの径方向を向いた径方向成分Irとを有する。外側のシールド層4bを構成する金属線4b1を流れるアース電流I′も、図5において左側に示されたベクトル図のように、ケーブルの軸線方向を向いた軸線方向成分Ia′とケーブルの径方向を向いた径方向成分Ir′とを有するが、外側のシールド層4bを構成する金属線4b1を流れるアース電流の径方向成分Ir′は、内側のシールド層を流れるアース電流の径方向成分Irとは逆方向を向いている。このように、本発明のように構成した場合には、内側のシールド層を流れるアース電流Iの径方向成分Irと外側のシールド層を流れるアース電流I′の径方向成分Ir′とを互いに逆向きとして、両者をほぼ相殺することができるため、ノイズに強い信号伝送用ケーブルを得ることができる。
【0042】
また編組線は、大きな柔軟性を有するため、上記のように、外側シールド層4bを混打ち編組線により構成すると、内側シールド層及び外側シールド層の双方をシールドテープにより構成した場合に比べて格段に優れた可動性を持たせることができる。
【0043】
更に、編組線は大きな強度を持つことができるだけでなく、ケーブルの変形に伴って外側シールド層4bと内側シールド層4aとの間で大きな摩擦抵抗を生じることなく、あらゆる方向に容易に変形することができるため、ケーブルが変形した際に内側シールド層4aに無理な力が加わるのを防ぐことができる。従って、シールド層が短期間で損傷するのを防ぐことができ、ケーブルの寿命を長くすることができる。
【0044】
上記の実施形態では、4本の信号線により信号線束3を構成したが、本発明において、信号線束を構成する信号線の数は任意である。
【0045】
上記の実施形態では、一つの信号線束をシールドで被覆した構造を有する可動ケーブルに本発明を適用したが、少なくとも一つの信号線束を絶縁被覆により被覆した構造を有する単位ケーブルまたは少なくとも一つの信号線束をシールド層と絶縁被覆とにより被覆した構造を有する単位ケーブルを、可動性を損なわない範囲で複数本集合させて構成した単位ケーブルの集合体を一括してシールド層により覆う構造を採用する場合にも本発明を適用することができる。この場合、少なくとも、一括して設けるシールド層は、上記実施形態と同様にスパイラル状に巻回されたシールドテープからなる内側シールド層と、混打ち編組線からなる外側シールド層とにより構成する。
【0046】
上記のように、複数の単位ケーブルの集合体を一括してシールド層により被覆する構造を採用する場合、内側に収容する各単位ケーブルは、シールドを有していてもいなくてもよい。各単位ケーブル毎にシールドを設ける場合、各単位ケーブルのシールドは、金属編組線のみにより構成してもよく、シールドテープからなる内側シールド層と混打ち編組からなる外側シールド層とにより構成してもよい。伝送される信号に対してノイズ源となる電流成分がアース電流に生じるのを防ぐため、各単位ケーブル毎に設けるシールドをスパイラル状に巻回されたシールドテープのみにより構成することは避けることが望ましい。
【0047】
本発明に係わる信号伝送用可動ケーブルは、信号を伝送することを主目的として用いられるケーブルであるが、必要に応じて、直流電力供給用の絶縁線心等、他の絶縁線心を混在させることを妨げない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、ロボットとそのコントローラとの間を接続する可動ケーブル、ロボットの関節部分に設ける可動ケーブル、その他の産業機械において相対的に変位を生じる機器の間を接続する可動ケーブル、電車の車両間を連結する連結部において車両間を接続するために設けられるジャンパケーブル等、機器の誤動作を防ぐためにノイズに強いことが要求され、しかも優れた可動性と耐久性とが要求される用途に用いられる可動ケーブルに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 信号伝送用可動ケーブル
2 信号線(絶縁線心)
3 信号線束
4 シールド層
4a シールドテープからなる内側シールド層
4b 混打ち編組線からなる外側シールド層
5 絶縁シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線を絶縁被覆してなる複数本の信号線からなる信号線束をシールド層で被覆した構造を有する信号伝送用可動ケーブルにおいて、
前記シールド層は、隣接するターンを一部ラップさせた状態でスパイラル状に巻回されたシールドテープからなる内側シールド層と、前記内側シールド層を覆う外側シールド層とからなり、
前記外側シールド層は、複数本の導電性の金属線と複数本の絶縁糸とが組紐状に編まれて、各金属線及び絶縁糸がそれぞれの巻回方向を異にしてスパイラル状に延びて筒状をなしている混打ち編組線からなっていて、該混打ち編組線を構成する各金属線の巻回方向が前記内側シールド層を構成するシールドテープの巻回方向と異なるように構成されていること、
を特徴とする信号伝送用可動ケーブル。
【請求項2】
前記シールドテープは、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンの中から選択された一つのプラスチックからなるテープの片面または両面に、銅箔またはアルミニウム箔を貼り合わせた構造を有していること、
を特徴とする請求項1に記載の信号伝送用可動ケーブル。
【請求項3】
前記混打ち編組線を構成する金属線は、銅線、錫メッキが施された銅線、銀メッキが施された銅線及びステンレス鋼線からなる線材群の中から選択され、
前記混打ち編組線を構成する絶縁糸は、綿、スフ、ポリエステル、ナイロン及びケプラからなる繊維材群の中から選択された少なくとも一つの繊維材料からなっていること、
を特徴とする請求項1または2に記載の信号伝送用可動ケーブル。
【請求項4】
前記内側シールド層の電気抵抗が、前記外側シールド層の電気抵抗にほぼ等しくなるように、前記シールドテープの導体部分の厚さ及び前記混打ち編組線を構成する金属線の線径及び本数が設定されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の信号伝送用可動ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−192526(P2011−192526A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57584(P2010−57584)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(591086843)古河電工産業電線株式会社 (40)
【Fターム(参考)】