説明

信号再生処理回路、磁気記憶装置、及び信号再生処理方法

【課題】垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する際のエラーレートを改善することができる信号再生処理回路、磁気記憶装置、及び信号再生処理方法を提供する。
【解決手段】信号増幅器31が、記録媒体から読み出された信号を増幅し、波形等化器32が、波形等化目標記憶部34に予め記憶されている、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つの波形等化目標を用いて、上記増幅された信号に対して波形等化処理を行い、畳込復号器33が、上記の波形等化処理で用いられた波形等化目標を用いて、波形等化処理された信号を畳み込み復号して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号再生処理回路、磁気記憶装置、及び信号再生処理方法に関し、特に、垂直磁気記録方式を用いて信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生する際のエラーレートを改善することができる信号再生処理回路、磁気記憶装置、及び信号再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録における最適波形等化目標については、DC(直流)成分を含む波形等化目標がエラーレート的に良好であることが提唱されている。
【0003】
なお、再生ヘッドから出力される再生信号を、直流成分を含む低周波信号成分を通過かつ抑制する周波数特性を有するパーシャルレスポンス波形等化回路を介して処理し、これを最尤復号器に入力してデータ再生する磁気記録再生信号処理回路が提案されている。
【特許文献1】特開2006−331641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、垂直磁気記録においては、例えば下記の参考文献1に示すように、SUL層(Soft magnetic underlayer)を介した隣接トラックからの低周波ノイズのオントラック位置へのクロストークが生じる。従って、低周波成分を使用するDC成分を含む波形等化目標、すなわち、[1−D]を含まない波形等化目標を適用して信号再生した場合、隣接トラックからの低周波ノイズがオントラック位置に影響を及ぼし、エラーレートが劣化してしまう。ここで、Dは1ビット遅延演算子であり、e−jωtを意味する。
参考文献1:"Adjacent-Track Interference in Dual-Layer Perpendicular Recording,"IEEE Trancactions on Magnetics, Vol. 39, No. 4, July 2003, pp.1891-1896, Wen Jiang他
ここで、隣接トラックからの低周波ノイズの実測結果を図9に示す。図9に示すグラフは、オントラック位置の信号レベルを1とした場合の、隣接トラックからの(クロストーク)ノイズ量を示す。図9に示すグラフの横軸がNormalized Write Frequency(正規化されたライト周波数)であり、縦軸がSide Track cross-talk (隣接トラックからのクロストーク)である。図9を参照すると、隣接トラックがDCイレーズであれば、24%のノイズがオントラック位置に出現することがわかる。このクロストークノイズ(Vxtk)は、以下の式1の通り近似することができる。
【0005】
【数1】

式1において、fは記録周波数、ftauは時定数である。式1で示される隣接トラックからのノイズは、低周波ほど出現し、高周波になると減少する。
【0006】
図10は、隣接トラックからのクロストークノイズ量とエラーレート(ERT)の劣化度合いを示す。PRML(Partial response maximum likelihood)波形等化目標は、DC成分を有する[4+7D+D2 ]とした。図10の横軸を式1のftauの常用対数、縦軸をエラーレートの劣化量(ΔERT)とした。実測結果から、ftauは0.02(常用対数表記で−1.70)であるので、エラーレート劣化量(ΔERT)は約0.5桁である。このように、DC成分を有するPRML波形等化目標では、クロストークノイズが低周波に出現するので、エラーレート劣化が発生する。また、隣接トラックからのクロストークノイズは低周波ノイズであるため、本ノイズによるエラーは長ビットの誤りとなる。従って、例えば磁気記憶装置が備えている周知のReed Solomon ECC等によるエラー訂正能力が低下する。一方、他の実測結果によれば、[1−D]を含む波形等化目標を用いた場合には、エラーレートの劣化量は0となる。このことから、[1−D]を含む、すなわち、DC成分を含まない波形等化目標を適用することが、エラーレート改善に有効であると考えられる。
【0007】
本発明は、垂直磁気記録方式を用いて信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生する際のエラーレートを改善することができる信号再生処理回路の提供を目的とする。
【0008】
また、本発明は、垂直磁気記録方式を用いて信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生する際のエラーレートを改善することができる磁気記憶装置の提供を目的とする。
【0009】
また、本発明は、垂直磁気記録方式を用いて信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生する際のエラーレートを改善することができる信号再生処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本信号再生処理回路は、垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する信号再生処理回路であって、1ビット遅延演算子をDとして、前記読み出された信号に対して、予め記憶手段に記憶された波形等化目標を用いて波形等化処理を行う波形等化手段を備え、前記波形等化目標が、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである。
【0011】
また、本磁気記憶装置は、垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する信号再生処理回路を備える磁気記憶装置であって、前記信号再生処理回路が、1ビット遅延演算子をDとして、前記読み出された信号に対して、予め記憶手段に記憶された波形等化目標を用いて波形等化処理を行う波形等化手段を備え、前記波形等化目標が、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである。
【0012】
また、本信号再生処理方法は、垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する信号再生処理回路における信号再生処理方法であって、1ビット遅延演算子をDとして、前記信号再生処理回路が、前記読み出された信号に対して、予め記憶手段に記憶された波形等化目標を用いて波形等化処理を行い、前記波形等化目標が、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである。
【発明の効果】
【0013】
本信号再生処理回路、本磁気記憶装置、及び本信号再生処理方法によれば、垂直磁気記録方式を用いて信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生する際のエラーレートを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本実施形態の磁気記録再生装置の構成例を示す図である。本実施形態の磁気記録再生装置は、磁気記憶装置であって、垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体4から読み出された信号を再生処理する。図1に示す磁気記録再生装置は、RLL(ランレングス・リミテッド)符号化器1、磁気ヘッド2、信号再生処理回路3を備える。
【0015】
RLL符号化器1は、ユーザデータに対してランレングス制限符号を用いた符号化処理を行って、記録媒体4へ書き込む対象とする信号を出力する。磁気ヘッド2は、RLL符号化器1が出力した信号を垂直磁気記録方式で記録媒体4へ書き込む。また、磁気ヘッド2は、記録媒体4から該記録媒体4に書き込まれている信号を読み出して出力する。磁気ヘッド2は、本実施形態の磁気記録再生装置が備える、図示を省略するMPU(Micro processing Unit )等の所定の制御手段の指示に従って、上述した記録媒体4への信号の書き込み処理、記録媒体4からの信号の読み出し処理を実行する。なお、他の実施形態の磁気記録再生装置によれば、RLL符号化器1以外の任意の符号化器を用いることができる。
【0016】
信号再生処理回路3は、磁気ヘッド2によって読み出された信号を再生処理する。具体的には、信号再生処理回路3は、1ビット遅延演算子をDとして、上記読み出された信号に対して、予め波形等化目標記憶部34(後述する図2を参照)に記憶された、[1−D]を含む波形等化目標を用いて、波形等化処理を行う。また、信号再生処理回路3は、波形等化処理された信号を上記波形等化目標を用いて畳み込み復号し、畳み込み復号された信号を再生信号として出力する。
【0017】
図2は、図1に示す磁気記録再生装置が備える信号再生処理回路の構成例を示す図である。図1中に示す信号再生処理回路は、信号増幅器31、波形等化器32、畳込復号器33、波形等化目標記憶部34を備える。
【0018】
信号増幅器31は、磁気ヘッド2によって読み出されて出力された信号を増幅する。波形等化器32は、増幅された信号に対して、予め波形等化目標記憶部34に記憶された、[1−D]を含む波形等化目標を用いて、波形等化処理を行う。具体的には、波形等化器32は、磁気ヘッド2によって読み出された信号の該磁気ヘッド2からの出力から波形等化器32の出力までの系の伝達関数が上記波形等化目標となるように、上記増幅された信号を波形等化する。本実施形態において波形等化目標記憶部34に予め記憶された波形等化目標は、例えば、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである。波形等化器32は、例えば上記の3つの波形等化目標のうちのいずれか一つを用いて波形等化処理を行う。
【0019】
なお、波形等化器32が、波形等化目標記憶部34に予め記憶された波形等化目標のうち、現時点における垂直磁気記録における規格化線密度であるKpに応じたエラーレートが最も低くなる波形等化目標を選択した上で、該選択された波形等化目標を用いて波形等化処理を行うようにしてもよい。
【0020】
畳込復号器33は、波形等化器によって波形等化処理された信号を該波形等化処理に用いられた波形等化目標を用いて畳み込み復号して出力する。畳込復号器33は、例えば、ビタビ復号器や反復復号器等である。畳込復号器33が、DDNP(Data-DependentNoise Prediction)ビタビ復号器であってもよい。畳込復号器33としてDDNPビタビ復号器を用いることにより、磁気記録パターン(データパターン)に依存したノイズを考慮したビタビ復号を行うことが可能となる。波形等化目標記憶部34には、上述した[1−D]を含む波形等化目標が予め記憶される。
【0021】
図3は、[1+3D+2D2 ][1−D]という波形等化目標の周波数特性を示す図である。図4は、[2+5D+2D2 ][1−D]という波形等化目標の周波数特性を示す図である。図5は、[1+4D+2D2 ][1−D]という波形等化目標の周波数特性を示す図である。なお、図3、図4、図5に示すグラフの横軸にとったNormalized Freqは、波形等化目標の正規化された周波数、縦軸にとったMagnitudeは、波形等化目標の振幅である。図3乃至図5を参照すると、波形等化目標[1+3D+2D2 ][1−D]、[2+5D+2D2 ][1−D]、又は[1+4D+2D2 ][1−D]は、低域成分を抑制する(減衰させる)ので、低域に集中する隣接トラックからのクロストークノイズを抑制できることがわかる。
【0022】
図6は、本実施形態の信号再生処理フローの一例を示す図である。まず、磁気ヘッド2が、記録媒体4から信号を読み出す(ステップS1)。次に、信号増幅器31が、ステップS1において読み出された信号を増幅する(ステップS2)。続いて、波形等化器32が、波形等化目標記憶部34に予め記憶されている波形等化目標(例えば、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つ)を用いて、ステップS2において増幅された信号に対して波形等化処理を行う(ステップS3)。次に、畳込復号器33が、ステップS3において用いられた波形等化目標を用いて、上記波形等化処理された信号を畳み込み復号し(ステップS4)、畳み込み復号された信号を出力する。
【0023】
図7及び図8は、本実施形態の磁気記録再生装置による信号再生処理の効果を説明するグラフを示す図である。図7中のグラフの横軸は信号再生処理に用いる波形等化目標であり、縦軸は、各々の波形等化目標を用いて信号再生処理した際の、ECC前のセクタエラーレートである。また、図8中のグラフの横軸は信号再生処理に用いる波形等化目標であり、縦軸は、各々の波形等化目標を用いて信号再生処理した際の、ECC後のセクタエラーレートである。図7、図8中のグラフの横軸には、従来エラーレート性能が良いとされていた波形等化目標[2+6D+4D2 +D3 ][1−D]と、本実施形態の磁気記録再生装置で用いられる波形等化目標の例である[1+3D+2D2 ][1−D]、[2+5D+2D2 ][1−D]、[1+4D+2D2 ][1−D]が示される。なお、図7中の200はKp=1.1の場合のセクタエラーレートであり、201はKp=1.2の場合のセクタエラーレートである。図8中の202はKp=1.1の場合のセクタエラーレートであり、203はKp=1.2の場合のセクタエラーレートである。
【0024】
図7、図8を参照すると、本実施形態の磁気記録再生装置で用いられる波形等化目標を用いて信号再生処理を行うと、従来の波形等化目標[2+6D+4D2 +D3 ][1−D]を用いた場合と比べて、ECC前のエラーレートについて約0.5桁、ECC後のエラーレートについて約1.5桁改善することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の磁気記録再生装置の構成例を示す図である。
【図2】磁気記録再生装置が備える信号再生処理回路の構成例を示す図である。
【図3】波形等化目標の周波数特性を示す図である。
【図4】波形等化目標の周波数特性を示す図である。
【図5】波形等化目標の周波数特性を示す図である。
【図6】本実施形態の信号再生処理フローの一例を示す図である。
【図7】本実施形態の磁気記録再生装置による信号再生処理の効果を説明するグラフを示す図である。
【図8】本実施形態の磁気記録再生装置による信号再生処理の効果を説明するグラフを示す図である。
【図9】隣接トラックからの低周波ノイズの実測結果を示す図である。
【図10】隣接トラックからのクロストークノイズ量とエラーレートの劣化度合いを示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 RLL符号化器
2 磁気ヘッド
3 信号再生処理回路
4 記録媒体
31 信号増幅器
32 波形等化器
33 畳込復号器
34 波形等化目標記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する信号再生処理回路であって、
1ビット遅延演算子をDとして、前記読み出された信号に対して、予め記憶手段に記憶された波形等化目標を用いて波形等化処理を行う波形等化手段を備え、
前記波形等化目標が、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである
ことを特徴とする信号再生処理回路。
【請求項2】
前記信号再生処理回路が、更に、前記波形等化処理結果を前記波形等化処理に用いられた波形等化目標を用いて畳み込み復号するDDNPビタビ復号器を備える
ことを特徴とする請求項1記載の信号再生処理回路。
【請求項3】
垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する信号再生処理回路を備える磁気記憶装置であって、
前記信号再生処理回路が、1ビット遅延演算子をDとして、前記読み出された信号に対して、予め記憶手段に記憶された波形等化目標を用いて波形等化処理を行う波形等化手段を備え、
前記波形等化目標が、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである
ことを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項4】
前記信号再生処理回路が、更に、前記波形等化処理結果を前記波形等化処理に用いられた波形等化目標を用いて畳み込み復号するDDNPビタビ復号器を備える
ことを特徴とする請求項3記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
垂直磁気記録方式で信号が記録された記録媒体から読み出された信号を再生処理する信号再生処理回路における信号再生処理方法であって、
1ビット遅延演算子をDとして、前記信号再生処理回路が、前記読み出された信号に対して、予め記憶手段に記憶された波形等化目標を用いて波形等化処理を行い、
前記波形等化目標が、aを整数として、a[1+3D+2D2 ][1−D]、a[2+5D+2D2 ][1−D]、又はa[1+4D+2D2 ][1−D]のいずれか一つである
ことを特徴とする信号再生処理方法。
【請求項6】
前記信号再生処理回路が備えるDDNPビタビ復号器が、前記波形等化処理結果を前記波形等化処理に用いられた波形等化目標を用いて畳み込み復号する
ことを特徴とする請求項5記載の信号再生処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−152943(P2010−152943A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326913(P2008−326913)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】