説明

信号再生装置および信号再生方法

【課題】信号再生装置および信号再生方法を提供する。
【解決手段】複数のトラックにまたがった状態で記録媒体を走査して重畳再生信号を取得する再生ヘッドと、複数の重畳再生信号が入力され、前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出するパーシャルレスポンスフィルタと、前記パーシャルレスポンスフィルタにより抽出された再生信号をビット列に復号するビット復号部と、前記ビット復号部による復号結果に基づいて各トラックの再生信号に対する干渉信号のレプリカを生成するレプリカ生成部と、前記レプリカ生成部により生成された前記干渉信号のレプリカを前記複数の重畳再生信号から減算する干渉キャンセラと、を備え、前記パーシャルレスポンスフィルタは、前記干渉キャンセラによる減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を再度抽出する、信号再生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号再生装置および信号再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近日、磁気ディスク装置における記録密度を向上するために、再生ヘッド、媒体、および信号処理技術などの研究が盛んに行なわれている。例えば、トラック密度を高めるためには、一般的により狭い幅の再生ヘッドの製作が必要になるが、特許文献1には、再生ヘッドの幅を狭めることなくトラック密度が向上した場合の信号再生方法が開示されている。以下、図9〜図11を参照し、特許文献1に記載されている従来の信号再生方法について具体的に説明する。
【0003】
従来の信号再生方法では、図9に示したように、磁気記録媒体の1回転ごとに再生ヘッド91をヘッド駆動機構によって移動させてデータを読み出す。また、再生ヘッド91は、図9に示したように複数のトラックにまたがるように位置決めされる。
【0004】
例えば、ある時点においてトラック#1およびトラック#2にまたがる位置に再生ヘッド91が位置決めされていたとする。この場合、再生ヘッド91は、トラック#1の磁気信号sとトラック#2の磁気信号sとが重畳された信号を読み出す。すなわち、再生ヘッド91から出力される信号xは、トラック#1およびトラック#2の磁気信号をある比率で重ね合わせた信号となる。
【0005】
さらに、磁気記録媒体の1回転後は、再生ヘッド91はおよそ1トラックピッチ移動し、トラック#2およびトラック#3にまたがる位置に配されるので、このときに出力される信号xは、トラック#2の磁気信号sおよびトラック#3磁気信号sが重畳された信号となる。
【0006】
同様に、磁気記録媒体がさらに1回転した後、再生ヘッド91はおよそ1トラックピッチ移動し、トラック#3およびトラック#4にまたがる位置に配されるので、このときに出力される信号xは、トラック#3の磁気信号sおよびトラック#4磁気信号sが重畳された信号となる。
【0007】
このように、再生ヘッド91から上記の3つの状態で信号x、x、およびxが時系列に連続して得られる。
【0008】
そして、各信号x、x、およびxは、図10に示したように信号再生回路92に送られる。信号再生回路92は、遅延回路93A〜93Cを備え、各遅延回路93は、磁気記録媒体が1回転するのに要する時間だけ入力される信号を遅延させて出力する。図10に示した例では、2つの遅延回路93Aおよび93Bにより遅延された信号x、1つの遅延回路93Cにより遅延された信号x、および遅延回路を通過しないx信号が同時にトラック弁別処理部94に入力される。これにより、疑似的に3つの再生ヘッドにより隣接トラックの同時読み出しが実現されたこととなる。
【0009】
ここで、各信号x、x、およびxは、各トラックからの信号磁界の線形結合となっていることから、トラック#1〜トラック#4の各々から発生する信号磁界をs=[s,s,s,sとすると、再生ヘッド91から出力される信号x=[x,x,xは以下の数式1のように表現される。
【0010】
【数1】

【0011】
数式1において、αij(i=1〜3、j=1〜4)は、信号磁界sが信号xに及ぼす影響の大きさを示す係数であり、磁性層の磁気的な伝達関数に依存することから伝達係数と称される。したがって、以下の数式2のように表現される伝達関数行列が既知であれば、以下の数式3に示す演算によって各トラックの信号磁界sを算出することが可能である。なお、図11に示した逆行列計算部96が数式2に示した伝達係数行列の逆行列を演算し、行列乗積部98が数式3に示した演算を実行する。
【0012】
【数2】

【0013】
【数3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−303401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来の信号再生方法では、トラック間干渉を逆行列演算によって除去するので、トラック間干渉が大きくなるにつれて伝達係数行列の非正則性が大きくなる。その結果、逆行列演算に際して雑音強調が発生し、再生信号のSN比が劣化し、十分な精度の再生信号を得ることが困難となる。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、複数トラックの信号が重畳された重畳再生信号から各トラックの再生信号を高い精度で取得することが可能な、新規かつ改良された信号再生装置および信号再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、複数のトラックにまたがった状態で記録媒体を走査して重畳再生信号を取得する再生ヘッドと、前記トラックの間隔方向上の複数の位置から前記再生ヘッドにより取得された複数の重畳再生信号が入力され、前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出するパーシャルレスポンスフィルタと、前記パーシャルレスポンスフィルタにより抽出された再生信号をビット列に復号するビット復号部と、前記ビット復号部による復号結果に基づいて各トラックの再生信号に対する干渉信号のレプリカを生成するレプリカ生成部と、前記レプリカ生成部により生成された前記干渉信号のレプリカを前記複数の重畳再生信号から減算する干渉キャンセラと、を備え、前記パーシャルレスポンスフィルタは、前記干渉キャンセラによる減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を再度抽出する、信号再生装置が提供される。かかる構成によれば、再生ヘッドに対して狭い幅でトラックが形成された記録媒体から、例えばトラック間干渉を除去および活用することによりトラック間干渉が増加した場合でも信号検出を行うことができる。このため、記録媒体の記録密度の向上を図りつつ、高精度な信号検出を実現することが可能である。
【0018】
前記トラックの間隔方向上の複数の位置は、再生信号の検出対象の2以上のトラックの少なくともいずれかに前記再生ヘッドがまたがり、他のトラックには前記再生ヘッドがまたがらない位置であってもよい。かかる構成によれば、検出対象以外のトラックから再生ヘッドが干渉信号を読み出してしまう場合を抑制できるので、信号検出精度のさらなる向上を図ることが可能である。
【0019】
前記信号再生装置は、前記ビット復号部により得られたビット列の誤り検出を行う誤り検出部と、前記誤り検出部による誤り検出の結果に応じ、前記ビット復号部による復号結果を前記レプリカ生成部に供給するか否かを切り替える切替部と、をさらに備えてもよい。かかる構成によれば、ビット誤り検出の結果に応じて繰り返し検出処理を継続するか否かを切り替えることが可能である。
【0020】
前記レプリカ生成部は、各トラックに対するトラック間干渉信号のレプリカ、および各トラック内の符号間干渉信号のレプリカを生成し、前記干渉キャンセラは、第1のトラックに着目する第1の重畳再生信号からは前記第1のトラックに対する前記トラック間干渉信号のレプリカを減算し、第2のトラックに着目する第2の重畳再生信号からは前記第2のトラック内の前記符号間干渉信号のレプリカを減算してもよい。かかる構成によれば、双方の重畳再生信号に、第1のトラックの信号を残すことが可能となる。
【0021】
前記パーシャルレスポンスフィルタは、前記重畳再生信号から前記トラックの再生信号をターゲット応答へ等化する事前に取得された干渉抑圧用タップ係数を用いて前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出し、前記トラック以外の他のトラックの再生信号が除去された前記重畳再生信号から前記トラックの再生信号をターゲット応答へ等化する事前に取得された干渉除去後タップ係数を用いて前記干渉キャンセラによる減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出してもよい。かかる構成によれば、重畳再生信号からトラック間干渉を抑制しつつ符号間干渉が抑制された各トラックの再生信号を抽出し、干渉キャンセラによる減算後の重畳再生信号から符号間干渉が抑制された各トラックの再生信号を抽出することができる。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、複数のトラックにまたがった状態で再生ヘッド記録媒体を走査して、前記トラックの間隔方向上の複数の異なる位置から複数の重畳再生信号を取得するステップと、前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出するステップと、前記再生信号をビット列に復号するステップと、前記ビット列の復号結果に基づいて各トラックの再生信号に対する干渉信号のレプリカを生成するステップと、前記干渉信号のレプリカを前記複数の重畳再生信号から減算するステップと、前記干渉信号のレプリカの減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を再度抽出するステップと、を含む信号再生方法が提供される。かかる構成によれば、再生ヘッドに対して狭い幅でトラックが形成された記録媒体から、例えばトラック間干渉を除去および活用することによりトラック間干渉が増加した場合であっても信号検出を行うことができる。このため、記録媒体の記録密度の向上を図りつつ、高精度な信号検出を実現することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、複数トラックの信号が重畳された重畳再生信号から各トラックの再生信号を高い精度で取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態による信号処理装置の構成を示した説明図である。
【図2】記録信号生成部の構成を示した機能ブロック図である。
【図3】記録信号生成部の構成を示した機能ブロック図である。
【図4】ヘッドによる走査の変形例を示した説明図である。
【図5】再生信号処理部の構成を示した機能ブロック図である。
【図6】マルチトラック信号検出部の構成を示した機能ブロック図である。
【図7】繰り返し処理の初期段階での各干渉の残留状態を示した説明図である。
【図8】繰り返し回数が増加した段階での各干渉の残留状態を示した説明図である。
【図9】従来の信号再生方法によるヘッド走査を示した説明図である。
【図10】従来の信号再生回路を示した説明図である。
【図11】従来のトラック弁別処理部を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。例えば、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成を、必要に応じてバッファ22A、およびバッファ22Bのように区別する。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。例えば、バッファ22A、およびバッファ22Bを特に区別する必要が無い場合には、単にバッファ22と称する。
【0027】
<1.信号処理装置の基本構成>
まず、図1を参照し、信号再生装置および信号記録装置としての機能を有する本発明の実施形態による信号処理装置1の基本構成を説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態による信号処理装置1の構成を示した説明図である。図1に示したように、本発明の実施形態による信号処理装置1は、記録媒体4と、スピンドルモータ6と、ヘッド8と、記録信号生成部10と、再生信号処理部20と、を備える。
【0029】
記録媒体4は、スピンドルモータ6に装着されており、スピンドルモータ6によって回転駆動される。この記録媒体4は、図1に示したように、複数トラックが形成された磁気ディスクであってもよい。なお、図1においては記録媒体4として1枚の磁気ディスクのみを示しているが、信号処理装置1は複数枚の磁気ディスクを有してもよい。
【0030】
ヘッド8は、記録信号生成部10から供給される記録信号を記録媒体4に記録する記録ヘッド、および記録媒体4から再生信号を読み出す再生ヘッドとして機能する。また、本実施形態によるヘッド8は、図3および図4を参照して具体的に説明するように、記録媒体4のトラック幅よりも大きいので、複数トラックにまたがった状態で記録媒体4を走査する。
【0031】
記録信号生成部10は、記録媒体4に記録するための記録信号を生成する。また、再生信号処理部20は、記録媒体4からヘッド8により読み出された再生信号を処理する。このような記録信号生成部10の詳細な構成については図2を参照して説明し、再生信号処理部20の詳細な構成については図5および図6を参照して説明する。
【0032】
なお、上述した信号処理装置1は、例えばPC(Personal Computer)、家庭用映像処理装置(DVDレコーダ、ビデオデッキなど)、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、携帯用音楽再生装置、携帯用映像処理装置、PDA(Personal Digital Assistants)、家庭用ゲーム機器、携帯用ゲーム機器、家電機器などの情報処理装置に設けられてもよい。
【0033】
<2.記録信号生成部10の構成>
図2は、記録信号生成部10の構成を示した機能ブロック図である。図2に示したように、記録信号生成部10は、CRC符号器12と、LDPC符号器14と、インターリーバ16と、記録信号変換器18と、を備える。
【0034】
CRC(Cyclic redundancy check)符号器12は、供給される記録情報データに対し、CRC符号などの誤り検出符号を付加する。LDPC(Low Density Parity Check)符号器14は、低いSN比でも所定のエラー率を確保するための誤り訂正符号化部である。
【0035】
インターリーバ16は、LDPC符号器14による処理後のデータをトラックごとに異なるパターンでインターリーブする。記録信号変換部18は、インターリーバ16によるインターリーブ後のデータを磁気の極性信号に変換して記録信号を生成する。そして、記録信号変換部18により生成された記録信号は、ヘッド8により記録媒体4に記録される。
【0036】
<3.ヘッド8の走査制御>
続いて、本発明の実施形態によるヘッド8の走査制御について説明する。上述したように、本発明の実施形態によるヘッド8は、記録媒体4のトラック幅よりも大きいので、ヘッド8は、複数トラックにまたがった状態で記録媒体4を複数回にわたって走査する。ただし、信号処理装置1は、この複数回にわたる走査に際し、再生信号の検出対象でないトラックにはヘッド8がはみ出さないように(またがらないように)ヘッド8の位置を制御する。以下、図3および図4を参照してより具体的に説明する。
【0037】
図3は、ヘッド8が記録媒体4を走査する様子を示した説明図である。より詳細には、図3は、2つのトラック(トラック#1およびトラック#2)からの再生信号を検出対象とする場合の走査例を示している。この場合、信号処理装置1は、まずトラック#1およびトラック#2にまたがる位置P1でヘッド8が記録媒体4を走査するように制御し、記録媒体4の一回転後、位置P1よりもトラック#2側である位置P2でヘッド8が記録媒体4を走査するように制御する。
【0038】
ここで、信号処理装置1は、再生信号の検出対象であるトラック#1およびトラック#2以外のトラック、すなわち、図3におけるトラック#1の下側のトラックおよびトラック#2の上側のトラックにはヘッド8がはみ出さないようにヘッド8の位置を制御する。かかる構成によれば、検出対象以外のトラックからヘッド8が干渉信号を読み出してしまう場合を抑制できるので、後述の再生信号処理部20による信号検出精度の向上を図ることが可能である。
【0039】
なお、本明細書においては2つのトラックの再生信号を同時に検出対象とする例に重きをおいて説明するが、本実施形態はかかる例に限定されない。例えば、3つのトラックの再生信号を同時に検出対象とすることも可能であり、この場合、信号処理装置1はヘッド8の走査制御を図4に示すように行ってもよい。
【0040】
図4は、ヘッド8によるトラック走査の変形例を示した説明図である。図4に示したように、トラック#1〜トラック#3からの再生信号を検出対象とする場合、信号処理装置1は、ヘッド8を記録媒体の一回転ごとに位置P1→位置P2→位置P3と移動させる。ただし、信号処理装置1は、再生信号の検出対象であるトラック#1〜#3以外のトラック、すなわち、図4におけるトラック#1の下側のトラックおよびトラック#3の上側のトラックにはヘッド8がはみ出さないようにヘッド8の位置を制御する。かかる構成により、検出対象のトラックが2つである場合と同様に、後述の再生信号処理部20による信号検出精度の向上を図ることが可能である。
【0041】
<4.再生信号処理部20の構成>
続いて、図5および図6を参照し、再生信号処理部20の構成を詳細に説明する。
【0042】
図5は、再生信号処理部20の構成を示した機能ブロック図である。図5に示したように、再生信号処理部20は、バッファ22Aおよび22Bと、マルチトラック信号検出部30と、を備える。
【0043】
バッファ22Aは、ヘッド8により位置P1において記録媒体4から読み出された信号を保持する。同様に、バッファ22Bは、ヘッド8により位置P2において記録媒体4から読み出された信号を保持する。そして、バッファ22Aおよびバッファ22Bは、保持したデータを同時にマルチトラック信号検出部30に出力する。かかる構成により、位置P1および位置P2からの同時読み出しが疑似的に実現される。
【0044】
ここで、位置P1においてヘッド8はトラック#1およびトラック#2にまたがった状態で走査を行うので、位置P1においてヘッド8により記録媒体4から読み出される信号は、トラック#1の再生信号およびトラック#2の再生信号が重畳されたマルチトラック再生信号(重畳再生信号と同意。以下、マルチトラック再生信号#1と称する。)である。同様に、位置P2においてもヘッド8はトラック#1およびトラック#2にまたがった状態で走査を行うので、位置P2においてヘッド8により記録媒体4から読み出される信号も、トラック#1の再生信号およびトラック#2の再生信号が重畳されたマルチトラック再生信号(以下、マルチトラック再生信号#2)である。ただし、マルチトラック再生信号#1とマルチトラック再生信号#2とでは、位置P1と位置P2の相違に基づき、トラック#1の再生信号とトラック#2の再生信号の重畳比率が異なる。
【0045】
マルチトラック信号検出部30は、バッファ22Aおよびバッファ22Bから入力されるマルチトラック再生信号から、繰り返し信号検出処理に基づいてトラック#1の再生信号およびトラック#2の再生信号を高い精度で検出する。以下、このようなマルチトラック信号検出部30の構成について図6を参照して説明する。
【0046】
図6は、マルチトラック信号検出部30の構成を示した機能ブロック図である。図6に示したように、マルチトラック信号検出部30は、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aおよび32Bと、Max−log−MAP検出器34Aおよび34Bと、デインターリーバ36Aおよび36Bと、LDPC復号器38Aおよび38Bと、硬判定部40Aおよび40Bと、CRC復号器42Aおよび42Bと、切替部44と、インターリーバ46Aおよび46Bと、インターリーバ48Aおよび48Bと、ソフトレプリカ生成部50Aおよび50Bと、干渉キャンセラ52A、52B、54Aおよび54Bと、を備える。
【0047】
2次元パーシャルレスポンスフィルタ32は、マルチトラック再生信号を一括して処理して、マルチトラック再生信号から各トラックの再生信号を抽出するための処理を行う。具体的には、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32は、トラック間干渉のあるマルチトラック再生信号からトラックmの再生信号をターゲット応答に等化する事前に取得されたトラック間干渉抑圧用タップ係数に基づき、マルチトラック再生信号からトラック間干渉が抑制されたトラックmの再生信号を抽出する。例えば、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aがトラック間干渉の抑制されたトラック#1の再生信号を抽出し、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Bがトラック間干渉の抑制されたトラック#2の再生信号を抽出する。
【0048】
Max−log−MAP検出器34、デインターリーバ36、およびLDPC復号器38は、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32により抽出された再生信号をビット列に復号するビット復号部として機能する。
【0049】
例えば、Max−log−MAP検出器34Aは、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32により抽出されたトラック#1の再生信号、およびインターリーバ46Aによるインターリーブ後の信号が入力され、これらターゲット応答に則して遅延重畳された信号からMax−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。そして、デインターリーバ36Aは、Max−log−MAP検出器34Aにより得られた尤度にデインターリーブを施す。さらに、LDPC復号器38Aは、誤り訂正符号を用いてトラック#1のビット列の復号を行う。
【0050】
同様に、Max−log−MAP検出器34Bは、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32により抽出されたトラック#2の再生信号、およびインターリーバ46Bによるインターリーブ後の信号が入力され、これらターゲット応答に則して遅延重畳された信号からMax−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。そして、デインターリーバ36Bは、Max−log−MAP検出器34Bにより得られた尤度にデインターリーブを施す。さらに、LDPC復号器38Bは、誤り訂正符号を用いてトラック#1のビット列の復号を行う。
【0051】
CRC復号器42は、LDPC復号器38により復号されたビット列に対する硬判定部40による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。
【0052】
切替部44は、CRC復号器42によりビット誤りの残存が検出された場合、LDPC復号器38と、インターリーバ46およびインターリーバ48を接続する。この接続により、LDPC復号器38による復号結果がインターリーバ46およびインターリーバ48に供給されるようになる。一方、CRC復号器42によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は再生記録データとして上位レイヤへ出力される。
【0053】
インターリーバ48は、各トラックの復号結果に対し、復号で得られた各ビットの尤度を記録時と同様のインターリーブを行う。具体的には、インターリーバ48Aはトラック#1の復号結果をインターリーブし、インターリーバ48Bはトラック#2の復号結果をインターリーブする。
【0054】
ソフトレプリカ生成部50は、インターリーブしたビット尤度を双曲線正接関数を用いてソフトレプリカに変換し、ソフトレプリカに基づいてトラック間干渉ソフトレプリカおよび符号間干渉ソフトレプリカを生成する。
【0055】
例えば、ソフトレプリカ生成部50Aは、トラック#1に関するソフトレプリカに、事前に推定された符号間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#1の符号間干渉ソフトレプリカを生成し、事前に推定されたトラック間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#1に対するトラック#2からのトラック間干渉ソフトレプリカを生成する。
【0056】
同様に、ソフトレプリカ生成部50Bは、トラック#2に関するソフトレプリカに、事前に推定された符号間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#2の符号間干渉ソフトレプリカを生成し、事前に推定されたトラック間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#2に対するトラック#1からのトラック間干渉ソフトレプリカを生成する。
【0057】
干渉キャンセラ(減算部)52および54は、ソフトレプリカ生成部50により生成された干渉ソフトレプリカをマルチトラック再生信号から減算する。
【0058】
例えば、トラック#1の信号検出に際しては、干渉キャンセラ52Aがマルチトラック再生信号#1からトラック#1に対するトラック間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセル(減算)し、干渉キャンセラ54Aがマルチトラック再生信号#2からトラック#2の符号間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセルする。
【0059】
これにより、いずれのマルチトラック再生信号にもトラック#1の信号が残るので、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aは、干渉キャンセラ52Aおよび54Aによるソフトキャンセル後のマルチトラック再生信号を等化する。
【0060】
ここで、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aは、繰り返し信号に対する等化処理を行う場合には、繰り返し一回目と異なるトラック間干渉除去後タップ係数を用いる。このトラック間干渉除去後タップ係数は、マルチトラック再生信号からトラックm以外のトラック信号を除去したマルチトラック信号からトラックmの再生信号をターゲット応答へ等価するものであり、事前のトレーニングにより取得可能である。
【0061】
同様に、トラック#2の信号検出に際しては、干渉キャンセラ54Bがマルチトラック再生信号#2からトラック#2に対するトラック間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセルし、干渉キャンセラ52Bがマルチトラック再生信号#1からトラック#1の符号間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセルする。
【0062】
これにより、いずれのマルチトラック再生信号にもトラック#2の信号が残るので、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Bは、干渉キャンセラ52Bおよび54Bによるソフトキャンセル後のマルチトラック再生信号を、上記のトラック間干渉除去後タップ係数を用いて等化する。
【0063】
マルチトラック信号検出器30は、上記の干渉ソフトレプリカを用いた干渉キャンセルの繰り返し処理を、Max−log−MAP検出器34、デインターリーバ36、およびLDPC復号器38によるビット列の復号処理と共に、CRC復号器42によりビット誤りが検出されなくなるまで繰り返す。
【0064】
上述した繰り返し処理による効果を図7および図8を参照して説明する。図7は、繰り返し処理の初期段階での各干渉の残留状態を示した説明図であり、図8は、繰り返し回数が増加した段階での各干渉の残留状態を示した説明図である。
【0065】
図7に示したように、繰り返しの初期段階であっても、例えばトラック#1の信号検出に際してはトラック#1に対するトラック間干渉およびトラック#2の符号間干渉を大幅に抑制することができるので、信号品質が向上する。この効果により信号検出精度が改善されるとビット尤度が大きくなり、ソフトレプリカがハードレプリカに漸近する。その結果、次の繰り返し処理では、図8に示したようにトラック#1に対するトラック間干渉およびトラック#2の符号間干渉をさらに改善される。同時に、隣接トラックへ漏れた有用な信号成分を信号検出に活用できるという効も奏する。
【0066】
<5.まとめ>
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、ヘッド8に対して狭い幅でトラックが形成された記録媒体4から、トラック間干渉を除去および活用することによりトラック間干渉を増加させて信号検出を行うことができる。このため、本発明の実施形態によれば、記録媒体4の記録密度の向上を図りつつ、高精度な信号検出を実現することが可能である。
【0067】
なお、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0068】
1 信号処理装置
4 記録媒体
6 スピンドルモータ
8 ヘッド
10 記録信号生成部
20 再生信号処理部
22 バッファ
30 マルチトラック信号検出部
32 2次元パーシャルレスポンスフィルタ
34 Max−log−MAP検出器
36 デインターリーバ
38 LDPC復号器
40 硬判定部
42 CRC復号器
44 切替部
46、48 インターリーバ
50 ソフトレプリカ生成器
52、54 干渉キャンセラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトラックにまたがった状態で記録媒体を走査して重畳再生信号を取得する再生ヘッドと、
前記トラックの間隔方向上の複数の位置から前記再生ヘッドにより取得された複数の重畳再生信号が入力され、前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出するパーシャルレスポンスフィルタと、
前記パーシャルレスポンスフィルタにより抽出された再生信号をビット列に復号するビット復号部と、
前記ビット復号部による復号結果に基づいて各トラックの再生信号に対する干渉信号のレプリカを生成するレプリカ生成部と、
前記レプリカ生成部により生成された前記干渉信号のレプリカを前記複数の重畳再生信号から減算する干渉キャンセラと、
を備え、
前記パーシャルレスポンスフィルタは、前記干渉キャンセラによる減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を再度抽出する、信号再生装置。
【請求項2】
前記トラックの間隔方向上の複数の位置は、再生信号の検出対象の2以上のトラックの少なくともいずれかに前記再生ヘッドがまたがり、他のトラックには前記再生ヘッドがまたがらない位置である、請求項1に記載の信号再生装置。
【請求項3】
前記信号再生装置は、
前記ビット復号部により得られたビット列の誤り検出を行う誤り検出部と、
前記誤り検出部による誤り検出の結果に応じ、前記ビット復号部による復号結果を前記レプリカ生成部に供給するか否かを切り替える切替部と、
をさらに備える、請求項2に記載の信号再生装置。
【請求項4】
前記レプリカ生成部は、
各トラックに対するトラック間干渉信号のレプリカ、および各トラック内の符号間干渉信号のレプリカを生成し、
前記干渉キャンセラは、第1のトラックに着目する第1の重畳再生信号からは前記第1のトラックに対する前記トラック間干渉信号のレプリカを減算し、第2のトラックに着目する第2の重畳再生信号からは前記第2のトラック内の前記符号間干渉信号のレプリカを減算する、請求項3に記載の信号再生装置。
【請求項5】
前記パーシャルレスポンスフィルタは、
前記重畳再生信号から前記トラックの再生信号をターゲット応答へ等化する事前に取得された干渉抑圧用タップ係数を用いて前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出し、
前記トラック以外の他のトラックの再生信号が除去された前記重畳再生信号から前記トラックの再生信号をターゲット応答へ等化する事前に取得された干渉除去後タップ係数を用いて前記干渉キャンセラによる減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出する、請求項4に記載の信号再生装置。
【請求項6】
複数のトラックにまたがった状態で再生ヘッドが記録媒体を走査して、前記トラックの間隔方向上の複数の異なる位置から複数の重畳再生信号を取得するステップと、
前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を抽出するステップと、
前記再生信号をビット列に復号するステップと、
前記ビット列の復号結果に基づいて各トラックの再生信号に対する干渉信号のレプリカを生成するステップと、
前記干渉信号のレプリカを前記複数の重畳再生信号から減算するステップと、
前記干渉信号のレプリカの減算後の前記複数の重畳再生信号から各トラックの再生信号を再度抽出するステップと、
を含む、信号再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−48800(P2012−48800A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192622(P2010−192622)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】