説明

信号再生装置及び信号再生プログラム

【課題】マルチチャンネル信号に対して信号処理を施すことにより、迫力、臨場感のある音声再生を実現する。
【解決手段】音声信号処理装置は、フロントチャンネル信号とサラウンドチャンネル信号とを受け取り、フロントチャンネル信号のレベルを検出する。フロントチャンネル信号のレベルが所定の割合以上に変化するレベル増加が検出されると、一定時間にわたり、フロントチャンネル信号がサラウンドチャンネル信号に加算される。これにより、例えば効果音などに起因するフロントチャンネル信号の急峻な変化をサラウンドチャンネルに反映することができ、迫力や臨場感を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチチャンネル音声信号の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
映像ソースとともに再生される音声信号として、5.1チャンネルなどのマルチチャンネル音声信号を用いて立体感のある音声再生を行う手法が知られている。また、近年注目されている3D映像の再生システムにおいても、臨場感のある音声再生が求められている。
【0003】
このような観点から、信号ソースから得られるマルチチャンネル音声信号に対して各種の信号処理を施す手法が提案されている。例えば、特許文献1では、2チャンネル信号から定位情報を抽出して、4チャンネル化する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−028693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のものが例として挙げられる。本発明は、マルチチャンネル信号に対して信号処理を施すことにより、迫力、臨場感のある音声再生を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、映像及び音声からなるコンテンツの信号再生装置であって、フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力部と、前記フロントチャンネル信号のレベル増加を検出するレベル検出手段と、前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算するフロントチャンネル信号混合手段と、を備え、前記フロントチャンネル信号混合手段は、サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号に含まれるセリフの影響を除去するセリフ影響除去手段を有することを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、コンピュータを備える装置において実行される、映像及び音声からなるコンテンツの信号再生プログラムであって、フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力手段、前記フロントチャンネル信号のレベル増加を検出するレベル検出手段、前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算するフロントチャンネル信号混合手段、として前記コンピュータを機能させ、前記フロントチャンネル信号混合手段は、サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号に含まれるセリフの影響を除去するセリフ影響除去手段を有することを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、映像及び音声からなるコンテンツを再生するTVシステムであって、2チャンネルのスピーカと、フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力部と、前記フロントチャンネル信号のレベル増加を検出するレベル検出手段と、前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算するフロントチャンネル信号混合手段と、前記フロントチャンネル信号を前記2チャンネルのスピーカから再生させるとともに、前記サラウンドチャンネル信号に基づいて疑似サラウンドチャンネル信号を生成して前記2チャンネルのスピーカから再生させる再生手段と、を備え、前記フロントチャンネル信号混合手段は、サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号に含まれるセリフの影響を除去するセリフ影響除去手段を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の音声信号処理装置を適用した音声信号再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】信号処理部の基本実施例の構成を示すブロック図である。
【図3】レベル比と加算係数との関係の一例を示す。
【図4】フロントチャンネル信号、及び、サラウンドチャンネル信号に混合される信号の波形の例を示す。
【図5】フロントチャンネル信号混合処理のフローチャートを示す。
【図6】セリフの影響を除去する第1の例に係る信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図7】セリフの影響を除去する第2の例に係る信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図8】セリフの影響を除去する第3の例に係る信号処理部の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0010】
1 音声再生装置
2 デコーダ
3 DV変換器
10 レベル検出部
20 レベル制御部
100、100a〜100c 信号処理部
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態では、音声信号処理装置は、フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力部と、前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加を検出するレベル検出手段と、前記所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算する加算手段と、を備える。
【0012】
上記の音声信号処理装置は、フロントチャンネル信号とサラウンドチャンネル信号とを受け取り、フロントチャンネル信号のレベルを検出する。フロントチャンネル信号のレベルが所定の割合以上に変化するレベル増加が検出されると、一定時間にわたり、フロントチャンネル信号がサラウンドチャンネル信号に加算される。これにより、例えば効果音などに起因するフロントチャンネル信号の急峻な変化をサラウンドチャンネルに反映することができ、迫力や臨場感を向上させることができる。
【0013】
上記の音声信号処理装置の一態様は、前記レベル増加の割合に基づいて、前記サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号のレベルである加算レベルを制御するレベル制御手段を備える。好適な例では、前記レベル制御手段は、前記レベル増加の割合が大きいほど、前記加算レベルを大きくする。この態様では、レベル増加の割合が大きいほど、その変化がサラウンドチャンネル大きく反映されるので、フロントチャンネルの変化の大きさに応じて適切なレベルでサラウンドチャンネルに変化が与えられる。
【0014】
上記の音声信号処理装置の他の一態様では、前記レベル制御手段は、前記一定時間の経過時に前記加算レベルがゼロとなるように、前記一定時間中に前記加算レベルを減少させる。この態様では、フロントチャンネルの変化をサラウンドチャンネルに反映する処理を一定の時間で終了させることにより、そのような変化が発生するたびに、効果を確保することが可能となる。また、徐々にレベルを減少させることにより違和感をなくすことができる。
【0015】
上記の音声信号処理装置の他の一態様では、前記レベル検出手段は、前記フロントチャンネル信号の現在のレベルと直前の所定期間におけるレベルとの比が所定値以上となったことを、前記所定割合以上のレベル増加として検出する。これにより、フロントチャンネルにおけるレベルの急峻な変化を的確に検出することができる。
【0016】
上記の音声信号処理装置の他の一態様では、前記フロントチャンネル信号は左右のフロントチャンネル信号を含み、前記レベル検出手段は、左右のフロントチャンネル信号の差信号について、前記レベル増加を検出する。この態様では、左右のフロントチャンネル信号の差信号を利用することにより、フロントチャンネル信号の通常左右同相に含まれるセリフの成分がサラウンドチャンネルに混合されることが防止される。
【0017】
また、上記の音声信号処理装置の他の一態様では、前記フロントチャンネル信号は左右のフロントチャンネル信号を含み、前記レベル検出手段は、前記左右のフロントチャンネル信号の和信号の低域成分と、前記左右のフロントチャンネル信号の差信号の高域成分との加算信号について、前記レベル増加を検出する。この態様では、フロントチャンネル信号の和信号については、低域成分のみを利用することにより、フロントチャンネル信号に含まれる中高域のセリフの成分がサラウンドチャンネルに混合されることが防止される。
【0018】
また、上記の音声信号処理装置の他の一態様では、前記フロントチャンネル信号は左右のフロントチャンネル信号を含み、前記レベル検出手段は、前記左右のフロントチャンネル信号の和信号の低域成分について、前記レベル増加を検出する。この態様では、左右のフロントチャンネル信号の和信号の低域成分のみを利用することにより、フロントチャンネル信号に含まれる中高域のセリフの成分がサラウンドチャンネルに混合されることが防止される。
【0019】
上記の音声信号処理装置の他の一態様では、前記フロントチャンネル信号は左右のフロントチャンネル信号を含み、前記サラウンドチャンネル信号は左右のサラウンドチャンネル信号を含み、前記加算手段は、前記左右のフロントチャンネル信号の和信号を、前記左右のサラウンド信号の一方に正相で加算するとともに前記左右のサラウンド信号の他方に逆相で加算する。この態様では、フロントチャンネル信号の和信号を、左右のサラウンドチャンネル信号にそれぞれ正相と逆相で混合することにより、迫力や臨場感をより一層向上させることができる。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態では、コンピュータを備える装置において実行される音声信号処理プログラムは、フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力手段、前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加を検出するレベル検出手段、前記所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算する加算手段、として前記コンピュータを機能させる。上記のプログラムをコンピュータにより実行することによって、音声信号再生装置を実現することができる。
【実施例】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0022】
[全体構成]
図1は、本発明の音声信号処理装置を適用した音声信号再生装置の構成を示すブロック図である。音声信号再生装置1は、デコーダ2と、本発明に係る音声信号処理装置の実施例である信号処理部100と、D/A変換器3とを備える。
【0023】
デコーダ2は、信号ソースから圧縮ストリームSTを受け取る。信号ソースとしては、例えばDVD、BD、ハードディスクレコーダなどが挙げられる。これらの記録媒体には映像信号と音声信号とが記録されるが、デコーダ2は映像信号と音声信号とを含む圧縮ストリームを受け取ってもよいし、音声信号のみの圧縮ストリームを受け取ってもよい。
【0024】
デコーダ2は、受け取った圧縮ストリームSTを復号化し、ディジタルの音声信号を生成する。具体的には、デコーダ2は、左フロントチャンネル信号FL、右フロントチャンネル信号FR、左サラウンドチャンネル信号SL、右サラウンドチャンネル信号SR、センターチャンネル信号C及びLFE(Low Frequency Effect)信号LFEを生成し、信号処理部100へ供給する。以下、「チャンネル」を「ch」とも表記する。
【0025】
信号処理部100は、入力された信号に基づいて、サラウンドch信号に対する信号処理を行い、処理後の信号をD/A変換器3へ供給する。具体的には、信号処理部100は、フロントch信号FL及びFR、センターch信号C及びLFE信号LFEをそのままD/A変換器3へ出力するとともに、信号処理により得られたサラウンドch信号SLx及びSRxをD/A変換器3へ出力する。なお、この信号処理については後に詳しく説明する。
【0026】
D/A変換器3は、受け取った信号FL、FR、SLx、SRx、C及びLFEをそれぞれD/A変換し、アナログ信号AFL、AFR、ASLx、ASRx、AC及びALFEを各チャンネルのスピーカへ出力する。
【0027】
[フロントチャンネル信号混合処理]
次に、信号処理部100が実行する信号処理について詳しく説明する。信号処理部100は、フロントch信号の急峻な立ち上がり、具体的には所定割合以上のレベル増加を検出し、急峻な立ち上がりが検出されたときに、フロントch信号をサラウンドch信号に混合(加算)する。この処理を、以下、「フロントch信号混合処理」とも呼ぶ。フロントch信号混合処理は、入力信号レベルの急峻な変化を音場の後方に広げることにより、迫力、臨場感などを向上させる。以下、詳しく説明する。
【0028】
図2は、信号処理部100の基本実施例の構成を示すブロック図である。なお、前述のように、信号処理部100は、フロントch信号をサラウンドch信号に加える処理を行うものであり、フロントch信号FL及びFR、センターch信号C並びにLFE信号については入力された信号をそのまま出力するので、その部分の構成は図示を省略している。
【0029】
図2に示すように、信号処理部100は、レベル検出部10と、レベル制御部20と、加算器31、32、33と、増幅器40とを備える。サラウンドch信号SLは加算器32に入力され、サラウンドch信号SRは加算器33に入力される。
【0030】
フロントch信号FL及びFRは加算器31により加算され、得られたフロントch信号F(=FL+FR)はレベル検出部10及び増幅器40へ供給される。増幅器40は、レベル制御部20から供給される加算係数αに基づいてフロントch信号Fを増幅して信号α(FL+FR)を生成し、加算器32、33へ供給する。加算係数αは、サラウンドch信号に加算されるフロントch信号のレベル(「加算レベル」という。)を示すものである。加算係数αが大きいほど、サラウンドch信号に加算されるフロントch信号のレベルが大きくなる。
【0031】
加算器32はフロントch信号SLに信号α(FL+FR)を加算し、サラウンドch信号SLxとして出力する。同様に、加算器33は、フロントch信号SRに信号α(FL+FR)を加算し、サラウンドch信号SRxとして出力する。
【0032】
レベル検出部10及びレベル制御部20は、フロントch信号Fのレベルに基づいて、加算係数αを制御する役割を有する。レベル検出部10は、過去レベル保持部11と、現在レベル検出部12と、レベル比算出部13とを備える。レベル制御部20は、加算係数決定部21と、係数減少部22とを備える。
【0033】
現在レベル検出部12は、フロントch信号Fのレベルを検出し、現在レベルLcとして保持する。過去レベル保持部11は、現在を基準とした直前の所定期間における、フロントch信号Fのレベルを保持する。即ち、過去レベル保持部11は、現在レベル検出部12が検出したフロントch信号Fのレベルを、常に所定期間分保持する。ここで、「所定期間」は、数秒(例えば5〜8秒程度)とする。そして、過去レベル保持部11は、所定期間のフロントch信号Fのレベルを代表する過去レベルLpを決定する。過去レベルLpは、例えば所定期間におけるフロントch信号Fの平均値、もしくは、各時点におけるフロントch信号の絶対値の平均値又は絶対値のうちの最大値などとすることができる。
【0034】
レベル比算出部13は、現在レベルLcと過去レベルLpとの比であるレベル比R(=Lc/Lp)を算出し、レベル制御部20へ出力する。レベル比Rは、フロントch信号Fのレベル変化を示し、レベル比Rの値が大きいほど、フロントch信号Fのレベル増加は大きい。
【0035】
レベル制御部20の加算係数決定部21は、レベル検出部10から供給されたレベル比Rに基づいて、加算係数αを決定する。図3は、レベル比Rと加算係数αとの関係の一例を示す。
【0036】
図3に示すように、レベル比Rの閾値Rthが用意される。本実施例は、フロントch信号のレベル増加が急峻であるときに、サラウンドch信号にフロントch信号Fを加算することを意図している。閾値Rthは、フロントch信号Fのレベル変化が急峻であると判定される所定割合を示す。レベル比Rが閾値Rthより小さい場合、加算係数決定部21は、フロントch信号Fのレベル増加は急峻ではないと判定し、加算係数αを「0」とする。これにより、フロントch信号Fはサラウンド信号に加算されない。一方、レベル比Rが閾値Rth以上である場合、加算係数決定部21はフロントch信号Fのレベル増加が急峻であると判定し、加算係数αを「0」より大きい値に設定する。これにより、フロントch信号Fは、加算係数αに応じた割合でサラウンドch信号に加算される。
【0037】
閾値Rthは、各種の音声信号ソースを用いた実験などにより決定することができ、例えば「2〜3」程度に設定することができる。閾値Rthが「2」に設定された場合、フロントch信号Fのレベルが2倍となったときに、レベル増加が急峻であると判断される。
【0038】
図3に示すように、レベル比Rが閾値Rth以上となった場合、加算係数αはレベル比Rに比例して増加する。つまり、フロントch信号Fのレベル変化が急峻であるほど、サラウンドch信号に加算されるフロントch信号Fのレベル、即ち加算レベルが増加する。こうして、レベル制御部20は、フロントch信号Fのレベル変化が大きいときにはその変化をサラウンドchにも大きく伝え、レベル変化が小さいときにはサラウンドchの変化もそれなりのレベルに設定する。これにより、連続的かつダイナミックレンジの広い効果を得ることができる。
【0039】
また、図3に示すように、加算係数αには最大値αmaxが設定される。例えば、加算係数の最大値αmaxが「0.5」に設定されている場合、フロントチャンネル信号の1/2以上がサラウンドchに混合されることはない。つまり、フロントch信号Fのレベル変化が大きい場合でも、無制限にフロントch信号Fがサラウンドch信号に混合されることはない。こうして、過剰な混合処理がなされて音場に違和感が生じることを防止している。
【0040】
係数減少部22は、フロントch信号Fをサラウンドch信号に混合する時間を一定時間に制限する役割を有する。具体的には、係数減少部22は予め決められた一定時間「τ」を有する。レベル比Rが閾値Rth以上となったとして加算係数決定部21が加算係数αを「0」より大きい値に設定し、増幅器40によりフロントch信号Fがサラウンドch信号に加算されると、係数減少部22はフロントch信号Fがサラウンドch信号に加算され始めた時点から一定時間τ内に加算係数αを直線的に「0」まで減少させる。よって、フロントch信号Fに急峻なレベル増加があると、加算係数αに応じた割合でフロントch信号Fがサラウンドch信号に加算されるが、その後は徐々に加算されるフロントch信号Fのレベルが減少する。そして、フロントch信号Fがサラウンドch信号に加算され始めてから一定時間τが経過したときには、フロントch信号Fはサラウンドch信号に加算されなくなる。これにより、次にフロントch信号Fの急峻なレベル増加が発生したときに、フロントch信号を加算することによる効果を確保する。また、フロントch信号Fを加算する割合をある程度の時間をかけて徐々に減少させることにより、違和感なく、効果を減少させていくことができる。
【0041】
なお、この一定時間「τ」は、例えば1〜1.5秒程度に設定される。また、この一定時間τは、レベル検出部10の過去レベル保持部11が過去レベルを保持する所定時間(上記の例では7〜8秒)より小さく、例えば過去レベル保持部11の時間は一定時間τの5〜6倍程度が好ましい。
【0042】
図4は、フロントch信号、及び、上記の処理によりサラウンドch信号に混合される信号の波形の例を示す。図4に示すように、ある時刻t1でフロントch信号のレベルが急峻に増加すると、フロントch信号が加算係数αに応じた割合でサラウンドch信号へ混合される。その後、加算係数αは徐々に減少していき、サラウンドch信号に混合される信号は徐々にフェードアウトする。一定時間τが経過する時刻t2において加算係数αは「0」となり、フロントch信号のサラウンドch信号への混合が停止される。
【0043】
なお、図4において、時刻t1〜t2の間に再度フロントch信号の急峻なレベル増加が検出された場合には、信号処理部100は同じ処理を行う。つまり、レベル制御部20はそのときのレベル比Rに基づいて加算係数αを決定し、一定時間τにわたりフロントch信号をサラウンドch信号に混合する。
【0044】
図5は、フロントch信号混合処理のフローチャートを示す。この処理は、信号処理部100を構成するコンピュータが、予め用意されたプログラムを実行し、図2に示す各構成要素として動作することにより実現される。
【0045】
まず、レベル検出部10は、フロントch信号のレベルを検出し(ステップS11)、急峻なレベル増加があったか否かを判定する(ステップS12)。急峻なレベル増加が無い場合(ステップS12;No)、処理はステップS11へ戻る。急峻なレベル増加があった場合(ステップS12;Yes)、レベル制御部20はそのときのレベル比Rに基づいて加算係数αを決定する(ステップS13)。そして、レベル制御部20は増幅器40へ加算係数αを供給することにより、サラウンドch信号にフロントch信号を混合する(ステップS14)。
【0046】
次に、レベル制御部20は、フロントch信号の混合を開始してから一定期間τが経過したか否かを判定する(ステップS15)。一定時間τが経過していない場合(ステップS15;No)、レベル制御部20は加算係数αを徐々に減少させ(ステップS16)、フロントch信号の混合を継続する(ステップS14)。一方、一定時間τが経過した場合(ステップS15;Yes)、処理は終了する。
【0047】
以上説明したように、本実施例によれば、リスニングルームのフロント側の音場で起きている音量のダイナミックな変化をリスニングルーム全体の前後音場のダイナミックな変化に変換でき、音場の前後の動きをよりダイナミックにすることができる。例えば、映画などのコンテンツにおいて、フロントch信号に爆発音などの効果音が含まれている場合には、それをサラウンドスピーカからも出力することができる。こうして、迫力、臨場感を向上させ、音の移動感、音のつながりを良くし、音場全体を一体化させることができる。また、本処理は、前後の音場のつながり、移動感という意味で3D映像と非常に整合がよく、視聴者により高いレベルの臨場感を与えることが可能となる。
【0048】
上記の実施例では、増幅器40により出力されたフロントch信号Fが加算器32、33によりサラウンドch信号SL、SRに加算される。この際、フロントch信号Fをサラウンドch信号SL、SRに対して正相で加算するのが通常である。その代わりに、左右のサラウンドch信号SL、SRの一方に対してフロントch信号Fを正相で加算し、他方に対してはフロントch信号Fを逆相で加算することとしてもよい。これにより、上記の迫力、臨場感の向上などの効果をより強調し、広い空間表現が可能となる。
【0049】
[セリフを考慮した処理]
次に、上記のフロントch信号混合処理における、セリフを考慮した処理について説明する。映像及び音声からなるコンテンツにおいては、フロントch信号にはセリフ、つまり人間の声が含まれていることがある。通常、セリフの有無によってフロントch信号の振幅は大きく変化するため、上記のフロントch信号混合処理によってセリフによる急峻なレベル増加が検出されると、セリフがサラウンドch信号に混合されてしまうという問題がある。そこで、上記のフロントch信号混合処理をベースとしつつ、フロントch信号に含まれるセリフの影響を除去する手法の例を以下に説明する。
【0050】
(第1の例)
第1の例では、上記のフロントch信号混合処理において使用するフロントch信号Fを、左右のフロントch信号の差信号とする。通常、セリフの成分は左右のフロントch信号に同相かつ同レベルで含まれているため、左右のフロントch信号の差信号においてはセリフの成分はキャンセルされる。よって、セリフの成分は、サラウンドch信号に混合されるフロントch信号から除去される。
【0051】
図6は、第1の例に係る信号処理部100aの構成を示すブロック図である。図2に示す基本実施例の構成と比較するとわかるように、信号処理部100aは、信号処理部100における加算器31の代わりに加算器35が設けられている以外は、信号処理部100と同一の構成を有する。加算器35は、フロントch信号FLとFRの差信号F(=FL−FR)を生成し、これをフロントch信号Fとしてレベル検出部10及び増幅器40へ供給する。よって、フロントch信号Fからはセリフの成分が除去されており、セリフの成分がサラウンドch信号へ混合されることが防止される。なお、図6においては、差信号F(=FL−FR)を生成しているが、その代わりに、差信号F(=FR−FL)を生成し、使用することとしてもよい。
【0052】
(第2の例)
通常、セリフの成分は周波数帯域がある程度決まっており、セリフの成分を除去する必要があるのはセリフが存在する周波数帯域のみである。よって、第2の例では、クロスオーバーネットワークフィルタを設け、フロントch信号の帯域を2分割する。そして、高域側信号のみについて差信号を生成する。
【0053】
図7は、第2の例に係る信号処理部100bの構成を示すブロック図である。図2に示す基本実施例の構成と比較するとわかるように、信号処理部100bは、信号処理部100の加算器31の代わりに、クロスオーバーネットワーク回路50を備える。具体的には、クロスオーバーネットワーク回路50は、加算器41、42、43と、ローパスフィルタ(LPF)44と、ハイパスフィルタ(HPF)45とを備える。なお、セリフの成分の帯域は500Hz以上であるとし、LPF44及びHPF45のカットオフ周波数fcは500Hz程度とする。
【0054】
加算器41は、フロントch信号FLとFRの和信号を生成し、LPF44はこの和信号の低域成分を加算器43へ供給する。一方、加算器42はフロントch信号FLとFRの差信号を生成し、HPF45はこの差信号の高域成分を加算器43へ供給する。加算器43は、フロントch信号FL、FRの和信号の低域成分と、差信号の高域成分とを含む下記のフロントch信号F:
F=LPF[FL+FR]+HPF[FL−FR] ([ ]はフィルタ処理を示す)
をレベル検出部10及び増幅器40へ供給する。これにより、第1の例と比較して、セリフを含まない低域の同相成分がキャンセルされてしまうことを防止することができる。
【0055】
(第3の例)
第2の例では、クロスオーバーネットワーク回路を付加する分、回路構成が複雑化する。第3の例では、単純にフロントch信号FL、FRの和信号の低域成分のみを用いてフロントch信号混合処理を行う。これにより、回路構成を単純化することができる。
【0056】
図8は、第3の例に係る信号処理部100cの構成を示すブロック図である。図2に示す基本実施例の構成と比較するとわかるように、信号処理部100cでは、加算器31の後段にLPF48が挿入される。LPF48は、加算器31から出力されるフロントch信号SL、SRの和信号の低域成分のみをレベル検出部10及び増幅器40へ供給する。なお、LPF48のカットオフ周波数fcは500Hz程度とする。この方法によっても、単純な構成でセリフの影響を除去することができる。なお、この方法では、フロントch信号の高域成分はサラウンドch信号に混合されないこととなるが、通常、本システムが狙いとしている効果音は低域成分を多く含むので、基本実施例と比較してフロントch信号を混合することによる効果が大きく減退することはない。
【0057】
(第4の例)
第1〜第3の例のように差信号を生成したり、フィルタリングしたりする手法の代わりに、例えばドルビープロロジック(登録商標)などにおいて採用されているステアリング処理(方向性強調処理)を施すことにより、フロントch信号からセリフの成分を除去した信号を生成し、これを用いてフロントch信号混合処理を行うこととしてもよい。
【0058】
[変形例]
上記の実施例は、5.1chの環境を前提に説明しているが、本発明のシステムは、疑似サラウンドチャンネルを生成可能なフロント2ch又は3chのシステムにも適用することができる。疑似サラウンドチャンネルとは、サラウンドch信号を、実際はフロントスピーカから出力されるが、疑似的にサラウンドスピーカの位置(即ち後方)から聞こえるように信号処理して出力されるチャンネルをいう。この手法を用いれば、TVなどのフロント2chのシステムや、TVラックなどのフロント3chのシステムに対しても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、AVレシーバー、一般のTV、DVD/BDプレイヤーなど、映像とともにマルチチャンネルの音声信号を再生する装置に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像及び音声からなるコンテンツの信号再生装置であって、
フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力部と、
前記フロントチャンネル信号のレベル増加を検出するレベル検出手段と、
前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算するフロントチャンネル信号混合手段と、を備え、
前記フロントチャンネル信号混合手段は、サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号に含まれるセリフの影響を除去するセリフ影響除去手段を有することを特徴とする信号再生装置。
【請求項2】
前記セリフ影響除去手段は、フロントチャンネル信号の差信号をサラウンドチャンネル信号に加算する手法、フロントチャンネル信号からセリフの周波数成分をフィルタリングにより除去する手法、または、フロントチャンネル信号に方向性強調処理を施す手法により、セリフの成分を除去する請求項1に記載の信号再生装置。
【請求項3】
疑似サラウンドチャンネルを生成し、サラウンドチャンネル信号を擬似的にサラウンドスピーカから聞こえるように信号処理する手段を備える請求項1または2に記載の信号再生装置。
【請求項4】
コンピュータを備える装置において実行される、映像及び音声からなるコンテンツの信号再生プログラムであって、
フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力手段、
前記フロントチャンネル信号のレベル増加を検出するレベル検出手段、
前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算するフロントチャンネル信号混合手段、として前記コンピュータを機能させ、
前記フロントチャンネル信号混合手段は、サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号に含まれるセリフの影響を除去するセリフ影響除去手段を有することを特徴とする信号再生プログラム。
【請求項5】
映像及び音声からなるコンテンツを再生するTVシステムであって、
2チャンネルのスピーカと、
フロントチャンネル信号及びサラウンドチャンネル信号を含む入力信号を受け取る入力部と、
前記フロントチャンネル信号のレベル増加を検出するレベル検出手段と、
前記フロントチャンネル信号の所定割合以上のレベル増加が検出されたときに、一定時間にわたり、サラウンドチャンネル信号にフロントチャンネル信号を加算するフロントチャンネル信号混合手段と、
前記フロントチャンネル信号を前記2チャンネルのスピーカから再生させるとともに、前記サラウンドチャンネル信号に基づいて疑似サラウンドチャンネル信号を生成して前記2チャンネルのスピーカから再生させる再生手段と、を備え、
前記フロントチャンネル信号混合手段は、サラウンドチャンネル信号に加算されるフロントチャンネル信号に含まれるセリフの影響を除去するセリフ影響除去手段を有することを特徴とするTVシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−213127(P2012−213127A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173810(P2011−173810)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【分割の表示】特願2011−524045(P2011−524045)の分割
【原出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】