説明

信号処理回路

【課題】チョッパアンプの出力電圧から、そこに含まれているオフセット電圧(周期的に正負が反転する)の影響をよりよく除去することができる処理回路を提供する。
【解決手段】チョッパアンプ500の出力電圧を所定周期でサンプルホールドする第1サンプルホールド回路110と、チョッパアンプの出力電圧と第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算する加算回路120と、加算回路の出力電圧を所定周期でサンプルホールドする第2サンプルホールド回路130を備えている。チョッパアンプの出力電圧に重畳するオフセット電圧の正負が反転する第1タイミングと、第1サンプルホールド回路でサンプルホールドする第2タイミングの間に、第2サンプルホールド回路でサンプルホールドする第3タイミングが設定されている。正負が反転するオフセット電圧が相殺された電圧が第2サンプルホールド回路130から出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
チョッパアンプの出力電圧は、増幅された直流電圧に、所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧となっている。本発明は、チョッパアンプの出力電圧からオフセット電圧の影響を除去する処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
センサ等が微小な直流電圧を出力する場合、図9に示すチョッパアンプ500で増幅する手法が多用される。図9の場合、センサが2種類の直流電圧Vsm(t),Vsp(t)を出力する場合を例示しており、真に有効なセンサの信号電圧が、両者の差分(Vsp(t)−Vsm(t))である場合を例示している。センサが出力する真に有効な信号電圧(Vsp(t)−Vsm(t))は、経過時間とともに変動する。
チョッパアンプ回路500の出力電圧V1(t)には、たとえば図10に示されるように、センサの有効出力電圧(Vsp(t)−Vsm(t))を増幅した直流電圧(ただし経過時間に対して変動する)に、所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧が現れる。図10において、G1は増幅率であり、Vrefは基準電圧であり、ΔVosは所定周期で正負が反転するオフセット電圧である。図10におけるVs(t)は、センサの有効出力電圧に応じて変動する値であり、センサの有効出力電圧が時間に対して変動すれば、それに対応して変動する。図10の場合、オフセット電圧の正負が反転する周期に比して、Vs(t)の値が変化する速度が低速であることから、Vs(t)の値が変動しないように図示されている。より長時間に亘って図示すれば、Vs(t)の値は変動する。
【0003】
チョッパアンプ回路500の出力電圧V1(t)から、センサの有効出力電圧に対応する電圧Vs(t)を得るためには、出力電圧V1(t)から所定周期で正負が反転するオフセット電圧の影響を除去する必要がある。そこで、図9に示すように、チョッパアンプ回路500の出力電圧V1(t)をローパスフィルタ回路600に入力し、高速度で変化するオフセット電圧をカットし、低速度で変化するVs(t)を得る手法が多用されている。この従来技術は、非特許文献1に詳しく説明されている。
【0004】
特許文献1に、チョッパアンプの出力電圧V1(t)を複数の時刻でサンプリング(標本化)し、サンプリングした複数の電圧を平均化することで、スイッチングノイズの影響を除去する技術が提案されている。この技術では、チョッパアンプのスイッチングタイミング(これに連動してオフセット電圧の正負が反転する)と、サンプリングタイミングをずらすことで、スイッチングノイズの影響を回避する(たとえば段落0009)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−219404号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「定本OPアンプ回路の設計」p287〜p288、図10〜30、岡村廸夫著、CQ出版社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載されているローパスフィルタ回路600を利用する従来技術では、図10に示すように、所定周期で正負が反転するオフセット電圧の影響を除去しきれないという問題が残っている。
特許文献1に記載されているサンプリング技術によると、スイッチングノイズの影響を回避することはできるが、所定周期で正負が反転するオフセット電圧の影響を除去することができないという問題が残っている。またサンプリング動作に続けて平均化動作を実施する処理を断続的に繰り返すことから、処理後の電圧を連続的に出力できないという問題も残している。
【0008】
本発明は、チョッパアンプの出力電圧から、そこに含まれているオフセット電圧(周期的に正負が反転する)の影響をよりよく除去することができる処理回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の信号処理回路は、センサ等からの信号電圧を入力するとともにその信号電圧を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧を出力するチョッパアンプと、チョッパアンプの出力電圧を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧を出力する第1サンプルホールド回路と、チョッパアンプの出力電圧と第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算する処理を含む演算結果に対応する電圧を出力する演算回路と、演算回路の出力電圧を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧を出力する第2サンプルホールド回路を備えている。第2サンプルホールド回路は、演算回路の出力電圧自体をサンプルホールドするものであってもよいし、演算回路の出力電圧をさらに処理した電圧をサンプルホールドするものであってもよい。
オフセット電圧の正負が反転する周期と、第1サンプルホールド回路のサンプリング周期と、第2サンプルホールド回路のサンプリング周期は、すべて同一の周期である。ただし、チョッパアンプの出力電圧に重畳するオフセット電圧の正負が反転するタイミングを第1タイミングとし、第1サンプルホールド回路でサンプルホールドするタイミングを第2タイミングとし、第2サンプルホールド回路でサンプルホールドするタイミングを第3タイミングとしたときに、第1タイミングから第2タイミングまでの期間内に第3タイミングが設定されている。
なおここでいう第1タイミングとは、オフセット電圧の正負が反転し始めた時ではなく、反転を終えた時をいう。また、第2タイミングと第3タイミングは、サンプルホールド回路でサンプルホールドしている値を更新し始めた時でなく、更新を終えた時をいう。
【0010】
上記の信号処理回路によると、第1タイミングから第2タイミングまでの期間内では、チョッパアンプの出力電圧に含まれているオフセット電圧の正負と、第1サンプルホールド回路でサンプルホールドされている電圧に含まれているオフセット電圧の正負が逆の関係となっている。演算回路は、正負が逆のオフセット電圧を含む電圧を加算する処理を含む演算を実施することから、正負のオフセット電圧が打消された電圧を出力する。演算回路の出力電圧を第1タイミングから第2タイミングまでの期間内でサンプリングすれば、正負のオフセット電圧が打消された電圧を検出することができる。すなわち、オフセット電圧の影響を除去し、センサの有効出力電圧に対応する電圧を取出すことが可能となる。演算回路の出力電圧をさらに処理した電圧を第2サンプルホールド回路でサンプルホールドする場合も同様であり、オフセット電圧の影響を除去することによってセンサの有効出力電圧に対応する電圧を取出すことが可能となる。
【0011】
チョッパアンプは、図5を参照して説明するように、図9と同様の2入力型であってもよいし、図1、図7を参照して説明する1入力型であってもよい。
【0012】
2種類の信号電圧の差が有効なセンサ電圧である場合、図5に例示するように2入力型のチョッパアンプを利用してもよいし、図7に例示するように1入力型のチョッパアンプを2個利用してもよい。
2入力型のチョッパアンプを利用する場合、2種類の信号電圧を入力するとともに2種類の信号電圧の差を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧を出力するチョッパアンプを用いる。
【0013】
1入力型のチョッパアンプを2個利用する場合は、第1の信号電圧を入力して処理するチョッパアンプと第1サンプルホールド回路と、第2の信号電圧を入力して処理するチョッパアンプと第1サンプルホールド回路を設ける。その場合、第1の信号電圧を処理するチョッパアンプの出力電圧と第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算した値と、第2の信号電圧を処理するチョッパアンプの出力電圧と第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算した値との差に対応する電圧を出力する演算回路を用いる。
【0014】
2種類の信号電圧の差が有効なセンサ電圧である場合、2種類の信号電圧の差を増幅した電圧からオフセット電圧の影響を除去してもよい。それに代えて、各々のチョッパアンプの各々の増幅電圧からオフセット電圧の影響を除去し、それから電圧差を取り出してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の処理回路によれば、チョッパアンプの出力電圧に含まれているオフセット電圧の影響をほぼ完全に除去することができ、信号電圧を増幅した電圧を取出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例に係る信号処理回路100の概略構成を示す図。
【図2】信号処理回路100でオフセット電圧ΔVosが打消される原理を示す図。
【図3】信号処理回路100の内部構成を示す図。
【図4】信号処理回路100の処理内容を示すタイムチャート。
【図5】本発明の第2実施例に係る信号処理回路100aの概略構成を示す図。
【図6】信号処理回路100aの内部構成を示す図。
【図7】本発明の第3実施例に係る信号処理回路の概略構成を示す図。
【図8】第3実施例に係る信号処理回路の内部構成を示す図。
【図9】従来技術の構成を示す図。
【図10】従来技術による処理内容を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の作用や効果を明確に説明するために、本発明の実施の形態を、次のような順序に従って説明する。
A.本発明の第1実施例に係る信号処理回路の構成と動作
B.本発明の第2実施例に係る信号処理回路の構成と動作
C.本発明の第3実施例に係る信号処理回路の構成と動作
【0018】
A.本発明の第1実施例に係る信号処理回路の構成:
図1は、本発明の第1実施例に係る信号処理回路100の概略構成を示す図である。図2は、信号処理回路100によってオフセット電圧ΔVos(オフセット誤差)が打消される原理を示す説明図である。図3は、信号処理回路100の内部構成を示す図である。
【0019】
信号処理回路100は、センサ等が出力する信号電圧Vs(t)を入力し、アナログ基準電圧Vrefを基準とする出力電圧V1(t)を出力するチョッパアンプ500と、チョッパアンプ500の出力電圧を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧V2(t)を出力する第1サンプルホールド回路110と、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)をVrefを基準にして反転した電圧と、第1サンプルホールド回路110の出力電圧V2(t)をVrefを基準にして反転した電圧を加算した電圧V3(t)をVrefを基準にして出力する加算回路120と、加算回路120の出力電圧V3(t)を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧Vout(t)を出力する第2サンプルホールド回路130を備えている。ここで(t)は経過時間とともに変化する値であることを示している。チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)は、入力電圧Vs(t)を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧となっている。
チョッパアンプ500によるオフセット電圧の正負が反転する周期と、第1サンプルホールド回路110のサンプリング周期と、第2サンプルホールド回路130のサンプリング周期は、すべて同一の周期である。ただし、チョッパアンプ500の出力電圧に重畳するオフセット電圧の正負が反転するタイミングを第1タイミングとし、第1サンプルホールド回路110でサンプルホールドするタイミングを第2タイミングとし、第2サンプルホールド回路130でサンプルホールドするタイミングを第3タイミングとしたときに、第1タイミングから第2タイミングまでの期間内に第3タイミングが設定されている。第1タイミングとは、オフセット電圧の正負が反転し始めた時ではなく、反転を終えた時をいう。また、第2タイミングと第3タイミングは、サンプルホールド回路でサンプルホールドしている値を更新し始めた時でなく、更新を終えた時をいう。
【0020】
図2の(1)は、チョッパアンプ500が出力する電圧V1(t)を例示している。出力電圧V1(t)は、信号電圧Vs(t)を増幅した電圧(信号電圧Vs(t)を−G倍した電圧)に基準電圧Vrefを加えた電圧に、所定周期で正負が反転するオフセット電圧ΔVosが重畳したものとなる。前記の−Gは、チョッパアンプ500の増幅率であり、基準電圧Vrefは、図1に示したように、チョッパアンプ500に加えられている基準電圧である。また、オフセット電圧ΔVosは、チョッパアンプ500に所定周期で加えられる第1タイミング信号に同期して正負を反転する。図2の場合、タイミングt3,t6,t9,t12で、出力電圧V1(t)に重畳しているオフセット電圧ΔVosの正負が反転する。実際には、チョッパアンプ500にタイミング信号が加えられた瞬間に、オフセット電圧ΔVosの正負が反転するものでなく、タイミング信号が加えられた時に反転を始め、所定時間後に反転を終える。ここで言う第1タイミングCLK1とは、反転を終えるタイミングをいう。オフセット電圧ΔVosの正負を反転させるためにチョッパアンプ500に加えられるタイミング信号は、第1タイミングCLK1よりも所定時間だけ早いタイミングでチョッパアンプ500に加えられる。
図2の(1)の水平線は、信号電圧Vs(t)を増幅した電圧(−G×Vs(t))に基準電圧Vrefを加えた電圧であり、時間に対して変化する値である。ただし、その変化時間が第1タイミングCLK1の周期に比して長く、図示の時間スケールで示すと、水平線で示される。
【0021】
図2の(2)は、第1サンプルホールド回路110が出力する電圧V2(t)を示している。第1サンプルホールド回路110は、第2タイミング信号CLK2の入力タイミングにおける電圧V1(t)の値をホールドして出力する。図2の場合、タイミングt2,t5,t8,t11で、第2タイミング信号CLK2が第1サンプルホールド回路110に加えられる。明らかに、t3〜t5の期間、t6〜t8の期間、t9〜t11の期間、t12〜t14の期間では、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)に重畳しているオフセット電圧ΔVosの正負と、第1サンプルホールド回路110の出力電圧V2(t)に重畳しているオフセット電圧ΔVosの正負は、逆転している。すなわち、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)に重畳するオフセット電圧の正負が反転するタイミングを第1タイミング(t3,t6,t9,t12)とし、第1サンプルホールド回路110でサンプルホールドするタイミングを第2タイミング(t2,t5,t8,t11)とすると、第1タイミングから第2タイミングまでの期間(t3〜t5、t6〜t8、t9〜t11、t12〜t14)では、重畳しているオフセット電圧ΔVosの正負が反転している。
実際には、第1サンプルホールド回路110でサンプルホールド値を更新するには時間を要する。ここでいう第2タイミングは、第1サンプルホールド回路110でサンプルホールドしている値を更新し始めた時でなく、更新し終えた時をいう。第1サンプルホールド回路110でサンプルホールドしている値を更新し始めるためのタイミング信号は、第2タイミングCLK2よりも所定時間だけ早いタイミングで第1サンプルホールド回路110に加えられる。
【0022】
図2の(3)は、加算回路120が出力する電圧V3(t)を示している。明らかに、第1タイミングから第2タイミングまでの期間(t3〜t5、t6〜t8、t9〜t11、t12〜t14)では、正負が反転しているオフセット電圧ΔVosの影響が打消され、+2G×Vs(t)+Vrefに等しい電圧が出力されることが分る。ここでは、加算回路といいながら、V1(t)とV2(t)の各々に含まれている基準電圧Vrefについては加算されない。ここでいう加算回路は、少なくともV1(t)とV2(t)の和に直接的に対応する値を出力するものであれば足り、バイアス電圧の大きさには制約されないし、V1(t)の反転電圧とV2(t)の反転電圧を加算するものであってもよい。本実施例の加算回路120は、V1(t)の反転電圧とV2(t)の反転電圧を加算する。
【0023】
図2の(4)は、第2サンプルホールド回路130が出力する電圧Vout(t)を示している。第2サンプルホールド回路110は、第3タイミング信号CLK3の入力タイミングにおける電圧V3(t)の値をホールドして出力する。図2の場合、タイミングt4,t7,t10,t13で、第3タイミング信号CLK3が第2サンプルホールド回路130に加えられる。明らかに、タイミングt4はt3〜t5の期間内にあり、タイミングt7はt6〜t8の期間内にあり、タイミングt10はt9〜t11の期間内にあり、タイミング13はt12〜t14の期間内にある。第2サンプルホールド回路130でサンプルホールドする第3タイミングを第1タイミングから第2タイミングまでの期間内に設定すれば、第2サンプルホールド回路130の出力Vout(t)は、オフセット電圧ΔVosの影響が打消された電圧となることが分る。
実際には、第2サンプルホールド回路130でサンプルホールド値を更新するには時間を要する。ここでいう第3タイミングは、第2サンプルホールド回路130でサンプルホールドしている値を更新し始めた時でなく、更新し終えた時をいう。第2サンプルホールド回路130でサンプルホールドしている値を更新し始めるためのタイミング信号は、第3タイミングCLK3よりも所定時間だけ早いタイミングで第2サンプルホールド回路130に加えられる。
【0024】
期間t1〜t4の間の出力電圧VoutはV3(t1)に等しい。期間t4〜t7の間の出力電圧VoutはV3(t4)に等しく、その値はVs(t2)とVs(t4)の平均値に1対1に対応する値となる。Vout(t4〜t7)の値から、Vs(t2)とVs(t4)の平均値を算出できることが分る。同様に、期間t7〜t10の間の出力電圧VoutはV3(t7)に等しく、その値はVs(t5)とVs(t7)の平均値に1対1に対応する値となる。Vout(t7〜t10)の値から、Vs(t5)とVs(t7)の平均値を算出できることが分る。同様に、期間t10〜t13の間の出力電圧VoutはV3(t10)に等しく、その値はVs(t8)とVs(t10)の平均値に1対1に対応する値となる。Vout(t10〜t13)の値から、Vs(t8)とVs(t10)の平均値を算出できることが分る。
【0025】
第1サンプルホールド回路110でサンプリングする第2タイミングt2,t5,t8,t11を、その後にオフセット電圧の正負が反転する第1タイミングt3,t6,t9,t12の直前にとることができる。例えば、タイミングt2をタイミングt3の直前に設定し、タイミングt5をタイミングt6の直前に設定し、タイミングt8をタイミングt9の直前に設定し、タイミングt11をタイミングt12の直前に設定することができる。すると、第1タイミングから第2タイミングまでの期間を長く設定で切ることが分る。すなわち、タイミングt3〜t6の直前までと、タイミングt6〜t9の直前までと、タイミングt9〜t12の直前までといった期間が、第1タイミングから第2タイミングまでの期間なる。すなわち、第2タイミングを第1タイミングの直前にとると、実質的には全期間が、第1タイミングから第2タイミングまでの期間となり、ほぼ全期間において加算回路120の出力電圧V3(t)からオフセット電圧の影響をなくすことができる。この場合、第2サンプルホールド回路130でサンプルホールドする第3タイミングを比較的自由に設定できることになる。
【0026】
図3は、信号処理回路100の内部構成を示す説明図である。チョッパアンプ500は、オペアンプCA1と、2個の抵抗R1、R2を備えている。オペアンプCA1の非反転入力端子(+)には、センサ等が出力する信号電圧Vs(t)が入力される。抵抗R1とR2は、オペアンプCA1の出力端子と基準電圧Vrefの間に直列に接続されている。抵抗R1とR2の間の電圧がオペアンプCA1の反転入力端子(−)に入力される。抵抗R2は、チョッパアンプCA1に負帰還をかけているフィードバック抵抗である。オペアンプCA1には所定周期で第1タイミング信号が加えられる。図4に、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)が示されており、所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳していることが分る。タイミングt3,t6は、オフセット電圧ΔVosの正負が反転し終えた第1タイミングCLK1を示している。実際には、チョッパアンプ500に第1タイミング信号が加えられた瞬間に、オフセット電圧ΔVosの正負が反転するものでなく、第1タイミング信号が加えられた時に反転を始め、所定時間後に反転を終える。ここで言う第1タイミングCLK1とは、反転を終えるタイミングをいう。オフセット電圧ΔVosの正負が反転させるためにチョッパアンプ500に加えられる第1タイミング信号は、第1タイミングCLK1よりも所定時間だけ早いタイミングでチョッパアンプ500に加えられる。
【0027】
第1サンプルホールド回路110は、スイッチS1と、コンデンサC1と、オペアンプA1を備えている。第1サンプルホールド回路110は、時間に対して変化する電圧V1(t)を所定周期で標本化(サンプリング)し、サンプリングした値を出力する。
【0028】
スイッチS1は、第2タイミング信号の立上りエッジに応じてオンし、立下がりエッジに応じてオフする。スイッチS1がオンすると、コンデンサC1の電圧が、その時の電圧V1(t)に等しくなるまで充電される。コンデンサC1が充電し終える時間に、第2タイミング信号が立下がり、スイッチS1がオフされる関係に設定されている。コンデンサC1は、第2タイミング信号の立下がりエッジのタイミングにおけるV1(t)の値を保持する。ここでいう第2タイミングCLK2とは、第1サンプルホールド回路110でサンプルホールドしている値を更新し終えたタイミングに相当する。すなわち第2タイミング信号の立下がりエッジのタイミングをいう。オペアンプA1は、出力電圧が反転入力端子に全帰還されているので、電圧フォロワとして使用されている。これにより、オペアンプA1の出力電圧V2(t)は、コンデンサC1の電圧に等しくなる。オペアンプA1は、コンデンサC1の放電を禁止する高インピーダンス素子として機能する。
【0029】
加算回路120は、オペアンプA2と、3個の抵抗R3a、R3b、R4を備えている。オペアンプA2の反転入力端子(−)に、抵抗R3bを介して、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)が接続されており、さらに、抵抗R3aを介して、第1サンプルホールド回路110の出力電圧V2(t)が接続されている。抵抗R4は、オペアンプA2の反転入力端子と出力端子の間に接続されており、負帰還のフィードバック抵抗として機能する。オペアンプA2の非反転入力端子(+)には基準電圧Vrefが入力されている。加算回路120は、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)をVrefを基準にして反転した電圧と、第1サンプルホールド回路110の出力電圧V2(t)をVrefを基準にして反転した電圧を加算し、加算した電圧V3(t)をVrefを基準にして出力する。
【0030】
この例では、加算回路120の利得G2を1.0としている。その利得は自由に設定することができる。なお図4に示すように、加算回路120の出力信号V3(t)は、チョッパアンプ500の出力電圧V1(t)と、第1サンプルホールド回路110の出力電圧V2(t)に過渡現象が生じている期間では、大きなノイズを含んでいるものの、その他の期間では安定しており、正負に反転するオフセット電圧の影響が除去されている。
【0031】
第2サンプルホールド回路130は、第1サンプルホールド回路110と同様に、スイッチS2と、コンデンサC2と、オペアンプA3を備えている。第2サンプルホールド回路130は、時間に対して変化する電圧V3(t)を所定周期で標本化(サンプリング)し、サンプリングした値を出力する。
【0032】
スイッチS2は、第3タイミング信号の立上りエッジに応じてオンし、立下がりエッジに応じてオフする。スイッチS2がオンすると、コンデンサC2の電圧が、その時の電圧V3(t)に等しくなるまで充電される。コンデンサ2が充電し終える時間に、第3タイミング信号が立下がり、スイッチS2がオフされる関係に設定されている。コンデンサC2は、第3タイミング信号の立下がりタイミングにおけるV3(t)の値を保持する。ここでいう第3タイミングCLK3とは、第2サンプルホールド回路130でサンプルホールドしている値を更新し終えたタイミングに相当する。すなわち第3タイミング信号の立下がりエッジのタイミングをいう。オペアンプA3は、出力電圧が反転入力端子に全帰還されているので、電圧フォロワとして使用されている。これにより、オペアンプA3の出力電圧Vout(t)は、コンデンサC2の電圧に等しくなる。オペアンプA3は、コンデンサC2の放電を禁止する高インピーダンス素子として機能する。
【0033】
第2サンプルホールド回路130は、オペアンプA3の非反転入力端子とスイッチS2との間に、抵抗R5を備えている点で第1サンプルホールド回路110と相違する。抵抗R5は、オペアンプA3の非反転入力端子の急峻な電圧変動に起因するノイズの低減を目的として装備されている抵抗である。
第1サンプルホールド回路110では、コンデンサC1が短時間でV1(t)に等しい電圧にまで充電されるようにするために、スイッチS1とコンデンサC1の間に抵抗が接続されていない。第1サンプルホールド回路110では、第2タイミング信号の立上りエッジから立下がりエッジまでの時間を短くできる。スイッチS1のオン期間と、スイッチS2のオン期間をずらすことによって、第1サンプルホールド回路110で発生したノイズが、第2のサンプルホールド回路130でサンプリングされないようにすることができる。
【0034】
本発明の実施例に係る信号処理回路100では、オフセット電圧ΔVosの正負が反転する第1タイミングCLK1から、第1サンプリングホールド回路110のスイッチS1がオフする第2タイミングCLK2までの間に、第2サンプリングホールド回路130のスイッチS2がオフする第3タイミングCLK3となる時間関係に設定されている。この結果、オフセット電圧ΔVosの影響を相殺した電圧が第2サンプリングホールド回路130から出力される。オフセット電圧ΔVosの影響をほぼ完全に除去することができる。
【0035】
B.第2実施例
図5は、本発明の第2実施例に係る信号処理回路100aの概略構成を示し、図6は、信号処理回路100aの内部構成を示している。信号処理回路100aのチョッパアンプ500aは、一対のオペアンプCA1、CA2を有し、2種類の直流電圧Vsm(t),Vsp(t)の差を増幅する。信号処理回路100aは、センサが2種類の直流電圧Vsm(t) ,Vsp(t)を出力し、両者の差が実際の検出対象の状態を示す場合に有用である。
本発明でいうチョッパアンプは、1入力1出力のアンプに限られず、複数種類の電圧を入力して増幅するアンプをも含む。
【0036】
C.第3実施例
図7は、本発明の第3実施例に係る信号処理回路の概略構成を示している。第3実施例の信号処理回路は、センサが2種類の直流電圧Vsm(t),Vsp(t)を出力し、両者の差が実際の検出対象の状態を示す場合に有用である。
第3実施例では、第1の信号電圧Vsm(t)のために、第1の信号電圧Vsm(t)を入力して増幅した出力電圧Vm1(t)を出力するチョッパアンプ600aと、チョッパアンプ600aの出力電圧Vm1(t)を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧Vm2(t)を出力する第1サンプルホールド回路610aを備えている。また、第2の信号電圧Vsp(t)のために、第2の信号電圧Vsp(t)を入力して増幅した出力電圧Vp1(t)を出力するチョッパアンプ600bと、チョッパアンプ600bの出力電圧Vp1(t)を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧Vp2(t)を出力する第1サンプルホールド回路610bを備えている。
さらに、第3実施例の信号処理回路は、演算回路630を備えている。演算回路630は、第1信号電圧Vsm(t)を処理するチョッパアンプ600aの出力電圧Vm1(t)と第1サンプルホールド回路610aの出力電圧Vm2(t)と、第2信号電圧Vsp(t)を処理するチョッパアンプ600bの出力電圧Vp1(t)と第2サンプルホールド回路610bの出力電圧Vp2(t)を入力し、Vm1(t)とVm2(t)を加算した電圧と、Vp1(t)とVp2(t)を加算した電圧の電圧差に対応する電圧を出力する。すなわち、演算回路630は、(Vm1(t)+Vm2(t))−(Vp1(t)とVp2(t))で示される値を示す電圧をVrefを基準にして出力する。演算回路630は、チョッパアンプ600aの出力電圧と第1サンプルホールド回路610aの出力電圧を加算する処理と、チョッパアンプ600bの出力電圧と第1サンプルホールド回路610bの出力電圧を加算する処理とを含んでいる演算を実施する。
さらに、第3実施例の信号処理回路は、演算回路630の出力電圧を所定周期でサンプルホールドしてサンプルホールドした電圧Vout(t)を出力する第2サンプルホールド回路640を備えている。
その他の説明は、第1実施例のそれと同一であり、重複説明を省略する。
【0037】
図8は、第3実施例の信号処理回路の内部構成を示している。オペアンプ700a等によってチョッパアンプ600aが構成され、スイッチSW1とオペアンプ710a等によって第1サンプルホールド回路610aが構成され、オペアンプ700b等によってチョッパアンプ600bが構成され、スイッチSW2とオペアンプ710b等によって第1サンプルホールド回路610bが構成されている。また、抵抗R63,R64とオペアンプ730等によって、演算回路630が構成されている。さらに、スイッチSW3とオペアンプ740等によって第2サンプルホールド回路640が構成されている。
【0038】
第3実施例の信号処理回路によると、チョッパアンプ600aの出力電圧Vm1(t)は、第1の信号電圧Vsm(t)を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳したものとなっている。その出力電圧Vm1(t)と、第1サンプルホールド回路610aでサンプルホールドされている電圧Vm2(t)を加算することから、演算回路630が出力する出力電圧からはオフセット電圧の影響が除去されている。同様に、チョッパアンプ600bの出力電圧Vp1(t)は、第2の信号電圧Vsp(t)を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳したものとなっている。その出力電圧Vp1(t)と、第1サンプルホールド回路610bでサンプルホールドされている電圧Vp2(t)を加算することから、演算回路630が出力する出力電圧からはオフセット電圧の影響が除去されている。演算回路630は、第1の信号電圧Vsm(t)を増幅した電圧からオフセット電圧の影響を除去した電圧と、第2の信号電圧を増幅した電圧からオフセット電圧の影響を除去した電圧との電圧差を取り出すことができる。
第2実施例では、電圧差を増幅してからオフセット電圧の影響を除去しているのに対し、第3実施例では、2種類の信号電圧の各々を増幅し、各々からオフセット電圧の影響を除去し、その後に電圧差を取り出している。いずれによっても、オフセット電圧の影響を受けない電圧差を取り出すことができる。
【0039】
C.変形例:
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、サンプルホールド時に発生するナイキスト周波数(サンプリング周波数の1/2の周波数)よりも高い周波数帯のノイズ成分が折り返すことによってS/N比が低下することを防止する場合には、チョッパアンプの出力電圧からナイキスト周波数よりも高い周波数帯のノイズを遮断する低域通過フィルタを挿入することが好ましい。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
100、100a…信号処理回路
110…第1サンプルホールド回路
120…加算回路
130…第2サンプルホールド回路
500…チョッパアンプ
500a…差動増幅型チョッパアンプ
600…ローパスフィルタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号電圧を入力し、その信号電圧を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧を出力するチョッパアンプと、
そのチョッパアンプの出力電圧を前記所定周期でサンプルホールドし、サンプルホールドした電圧を出力する第1サンプルホールド回路と、
前記チョッパアンプの出力電圧と前記第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算する処理を含む演算結果に対応する電圧を出力する演算回路と、
その演算回路の出力電圧を前記所定周期でサンプルホールドし、サンプルホールドした電圧を出力する第2サンプルホールド回路を備えており、
前記チョッパアンプの出力電圧に重畳するオフセット電圧の正負が反転するタイミングを第1タイミングとし、前記第1サンプルホールド回路でサンプルホールドするタイミングを第2タイミングとし、前記第2サンプルホールド回路でサンプルホールドするタイミングを第3タイミングとしたときに、第1タイミングから第2タイミングまでの期間内に第3タイミングが設定されていることを特徴する信号処理回路。
【請求項2】
前記チョッパアンプが、2種類の信号電圧を入力するとともに、2種類の信号電圧の差を増幅した電圧に所定周期で正負が反転するオフセット電圧が重畳した電圧を出力することを特徴とする請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項3】
第1の信号電圧を入力して処理する、請求項1に記載にチョッパアンプと第1サンプルホールド回路と、
第2の信号電圧を入力して処理する、請求項1に記載にチョッパアンプと第1サンプルホールド回路を備えており、
前記演算回路が、第1の信号電圧を処理する前記チョッパアンプの出力電圧と前記第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算した値と、第2の信号電圧を処理する前記チョッパアンプの出力電圧と前記第1サンプルホールド回路の出力電圧を加算した値との差に対応する電圧を出力することを特徴する請求項1に記載の信号処理回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−135225(P2011−135225A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291387(P2009−291387)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】