説明

信号処理装置、信号処理方法及び信号再生装置

【課題】信号処理装置において、ビット誤り率を低減すること。
【解決手段】実施形態によれば、信号処理装置は、再生信号に対して第1のPR特性に応じた波形等化処理を行い第1のPR信号を出力する第1のPR等化器と、再生信号に対して第2のPR特性に応じた波形等化処理を行い第2のPR信号を出力する第2のPR等化器と、第1のPR等化器の出力をビタビ復号する第1のビタビ等化器と、第2のPR等化器の出力をビタビ復号する第2のビタビ等化器とを具備し、第1のビタビ等化器から出力される事後確率値の対数尤度比と、第2のビタビ等化器から出力される外部値の対数尤度比とに応じて入力信号を復元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ハードディスクドライブ、DVDドライブ等の記録再生装置、あるいは伝送信号を復調する受信装置、並びにこれらの装置に用いられる信号処理装置、信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ、CDドライブ、DVDドライブ、BDドライブ等の記録再生装置においては、高密度記録化が進んできており、パーシャルレスポンス最尤(PRML:Partial Response Maximum Likelihood)信号処理方式が採用されている。
【0003】
従来の記録再生装置では、再生信号の二値化方式として、波形スライス方式を採用している。波形スライスとは、再生信号の振幅がある閾値よりも高いか低いかにより二値化するものである。しかし、高密度化により再生信号の振幅が低下するため、波形スライスによる二値化では多くの識別誤りが発生する。PRML信号処理方式は従来のレベルスライス方式に比べ、高密度に記録された情報においても高い信号品質が得られる。
【0004】
PRML信号処理方式では、PR等化器を介して入力信号をビタビ等化器に供給し、ビタビ等化器から復号信号を出力する。ビタビ等化器は、各サンプル点における実際の入力信号と想定される全てのパスとの誤差を累積加算し、累積加算値が最も小さいパスを選択する。選択したパスに対応するビット系列を復号信号として出力する。PRML信号処理方式では、PR等化器においてどのようなパーシャルレスポンス応答に等化するかにより復号の精度が決定される。
【0005】
従来、再生信号を複数のPR等化器に供給して複数のパーシャルレスポンス信号に等化して、得られた複数のパーシャルレスポンス信号を適当な比で重み付け加算し、得られた1つのパーシャルレスポンス信号をビタビ等化器に入力する装置が開発されている。しかし、この装置は特性(ビット誤り率)の改善効果が小さい。この装置は複数のPRターゲットから1つのメトリックを導出してビタビ等化するだけであり、1つのPRターゲットに対してPR等化を行う装置でもPR等化器を構成するFIRフィルタのタップ係数を適切に選べば、この装置と同程度の特性(ビット誤り率)が得られる。
【0006】
なお、伝送信号を復号する受信装置でもPRML信号処理方式を採用することがあり、同様な現象が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−121285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は信号再生装置、あるいは受信装置に用いられる信号処理装置、信号処理方法のビット誤り率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、信号処理装置は、第1、第2の波形等化手段と、第1、第2のビタビ手段とを具備する。第1の波形等化手段は、入力信号に対して第1のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第1のパーシャルレスポンス信号を出力し、第2の波形等化手段は、入力信号に対して第2のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第2のパーシャルレスポンス信号を出力する。第1のビタビ手段は、第1の波形等化手段の出力をビタビ復号し、第2のビタビ手段は、第2の波形等化手段の出力をビタビ復号する。第1のビタビ手段の出力と第2のビタビ手段の出力とに応じて入力信号が復元される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るハードディスクドライブの回路構成を示す図。
【図2】第1実施形態に係るリード・ライトブロック内の再生信号の処理回路の構成を示す図。
【図3】第1実施形態の第1の変形例に係る再生信号処理回路の構成を示す図。
【図4】第1実施形態の第2の変形例に係る再生信号処理回路の構成を示す図。
【図5】第1実施形態の第3の変形例に係る再生信号処理回路の構成を示す図。
【図6】第1実施形態におけるPRターゲットの選択のための回路構成を示す図。
【図7】図2の信号処理回路によるビット誤り率の改善効果を示す図である。
【図8】図3、図4の信号処理回路によるビット誤り率の改善効果を示す図である。
【図9】第2実施形態に係るリード・ライトブロック内の再生信号の処理回路の構成を示す図。
【図10】第2実施形態の第1の変形例に係る再生信号処理回路の構成を示す図。
【図11】第2実施形態の第2の変形例に係る再生信号処理回路の構成を示す図。
【図12】第2実施形態の第3の変形例に係る再生信号処理回路の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
第1実施形態
図1は一実施形態としてのハードディスクドライブ(HDD)2の回路構成を示す。HDD2は、ホストシステムとしてのコントローラ6からの要求に応じてディスク(磁気ディスク)12の記録面上にデータ(誤り訂正符号化データを含む)を書き込み、或いは当該記録面からデータを読み出すための記憶装置である。
【0013】
ディスク12はスピンドルモータ(SPM)14に固定されており、SPM14が駆動されることにより一定の速度で回転する。ディスク12の例えば一方のディスク面は、データが磁気記録される記録面をなしている。ヘッド(磁気ヘッド)16はディスク12の記録面に対応して配置される。ヘッド16はアクチュエータ18の一端に固定されている。アクチュエータ18の他端はボイスコイルモータ(VCM)20に固定されている。ヘッド16は、VCM20が駆動されることにより、VCM20の軸を中心とした円弧軌道のうちディスク12の面に重なる範囲を移動する。
【0014】
図1の構成では、単一枚のディスク12を備えたHDD2を想定している。しかし、複数のディスク12がある間隙をもった状態でSPM14に固定された構成であっても構わない。この場合、複数のアクチュエータ18が、複数のディスク12の間隙に適合するように重なった状態でVCM20に固定される。複数のアクチュエータ18の一端にはそれぞれヘッド16が固定されている。したがってSPM14が駆動されると、全てのディスク12は同時に回転し、VCM20が駆動されると、全てのヘッド16は同時に移動する。また、図1の構成では、ディスク12の一方の面が記録面をなしている。しかし、ディスク12の両面がいずれも記録面をなし、両記録面にそれぞれ対応してヘッド16が配置されても構わない。
【0015】
CPU22はHDD2の主コントローラとして機能する。CPU22はモータドライバ24を介してSPM14の起動・停止及び回転速度維持のための制御を行う。CPU22はまたモータドライバ24を介してVCM20を駆動制御することで、ヘッド16を目標とするトラックに移動させて、当該トラックの目標とする範囲内に整定するための制御を行う。
【0016】
ヘッド16の位置決めはSPM14の起動後の定常回転状態で行われる。図示していないが、ディスク12の円周方向に等間隔にサーボ領域が配置されている。このため、ヘッド16によってディスク12から読み出され、ヘッドIC26で増幅されたアナログ信号中には、サーボ領域に記録されているサーボ信号が時間的に等間隔に現れることになる。リード・ライトIC28(リード・ライトIC28に含まれているサーボブロック30)とゲートアレイ34とは、この状態を利用して上記アナログ信号を処理することにより、ヘッド16の位置決めのための信号を生成する。CPU22はこの信号をもとにモータドライバ24を制御することにより、当該モータドライバ24からVCM20に、ヘッド16の位置決めのための電流(VCM電流)をリアルタイムで供給させる。
【0017】
CPU22は、上述のようにモータドライバ24を介してSPM14及びVCM20を制御する一方で、HDD2内の他の要素の制御及びコマンド処理などを行う。CPU22はCPUバス36に接続されている。
【0018】
CPUバス36には、リード・ライトIC28、ゲートアレイ34、ディスクコントローラ(HDC)38、RAM40が接続されている。RAM40は、例えばCPU22が使用する種々の変数を格納するのに用いられる。RAM40の記憶領域の一部は、CPU22のワーク領域として用いられる。
【0019】
リード・ライトIC28は、サーボブロック30とリード・ライトブロック32とを有する。サーボブロック30は、サーボ信号の抽出を含む、ヘッド16の位置決めに必要な信号処理を行う。リード・ライトブロック32は、データの読み出し・書き込みのための信号処理(誤り訂正符号化・復号化処理を含む)を行う。ゲートアレイ34は、サーボブロック30によるサーボ信号の抽出のための信号を含む、制御用の諸信号を生成する。
【0020】
HDC38は、CPUバス36以外に、リード・ライトIC28、ゲートアレイ34に接続されている。HDC38はコントローラ6から転送されるコマンド(ライトコマンド、リードコマンド等)を受信し、且つホストとHDC38との間のデータ転送を制御する、ホストインタフェース制御機能を有する。
【0021】
リード・ライトIC28、ゲートアレイ34、及びHDC38は、それぞれ制御用レジスタを有する。これらの制御用レジスタは、それぞれCPU22のメモリ空間の一部に割り当てられており、CPU22はこの一部の領域に対してアクセスすることで、制御用レジスタを介してリード・ライトIC28、ゲートアレイ34、またはHDC38を制御する。
【0022】
図2はリード・ライトブロック32内の再生信号の処理回路の構成を示す。ヘッド16によってディスク12から読み出され、ヘッドIC26で増幅されたアナログ信号がA/D変換器52に供給される。A/D変換器52から出力されたデジタル信号は2つの異なるPR等化器54a、54bを介してビタビ等化器56a、56bに供給される。PR等化器54a、54bは入力信号を異なるPRターゲット(PR特性)に応じた波形等化処理を行い、PR応答を表すPR信号を出力する。ビタビ等化器56a、56bはPR等化器54a、54bのPRターゲットの状態遷移を有する。ビタビ等化器56a、56bはPR等化器54a、54bから出力されたPR信号(再生信号系列)ykを入力し、ビタビ復号処理を行い、硬判定値dk(これは実際には使用されない)、軟判定値である事後確率値の対数尤度比Lpostと外部値の対数尤度比Lextを出力する。ビタビ等化器56a、56bの出力は合成器58に供給される。
【0023】
ビタビ等化器56aの出力のうち事後確率値の対数尤度比Lpostが合成器58に供給され、ビタビ等化器56bの出力のうち外部値の対数尤度比Lextが合成器58に供給される。合成器58は両者を適当な重み係数を掛けて加算する。加算結果は新たな事後確率値の対数尤度比Lnewpostとされる。この加算結果を硬判定することにより、ビット誤り率の改善された再生信号系列を得ることができる。
【0024】
例えば、記録再生系をPR(h0,h1,h2,h3)特性と仮定する。括弧内はインパルス応答列である。つまり、記録ビット“1”に対して再生信号のサンプル値はh0,h1,h2,h3の振幅を持つ系列として現れ、それより外側のサンプル点では0となる。PR等化器54a、54bはヘッドからの再生信号を目標のPR特性(PRターゲット)に応じた応答波形(パーシャルレスポンス波形信号)に合わせ込む(波形等化する)FIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)型フィルタからなる。記録再生系の信号特性と似通ったPR特性を選択することにより、等化による雑音成分の増幅が抑制される。
【0025】
FIR型フィルタはMMSE(最小二乗誤差:Minimum Mean Square Error)基準やビット誤り率最小基準など設計基準が異なるものを用いても良い。
【0026】
ビタビ等化器56a、56bはブランチメトリック計算回路、加算・比較・選択(ACS)回路、パスメモリ、パス決定回路、パスメトリックメモリからなる。ブランチメトリック計算回路はPR等化器54a、54bからの入力を用いて、ブランチメトリック計算を行う。加算・比較・選択回路はブランチメトリック計算回路の出力を用いてパスメトリックメモリに記憶されているパスメトリックとの加算、比較、選択を行い、パスとパスメトリックを決定する。パスメモリはパスの選択の経過を保存している。保持された選択結果をもとに、パス決定回路にて、最終的な復号信号が決定され、出力される。
【0027】
以下、事後確率値の対数尤度比Lpostと外部値の対数尤度比Lextの詳細を説明する。Max−Log−MAP(最大事後確率:Maximum A Posteriori probability)アルゴリズムを利用する等化器や軟判定値を出力するビタビ等化器などを用いた場合、等化器から出力される事後確率値の対数尤度比は式(1)で表わされる。
【数1】

【0028】
ただし、dは時刻kでの情報ビット(+1または−1)であり、yは入力された再生信号系列である。時刻k、k−1におけるトレリス線図の状態をs、sk−1と定義すると、式(1)は式(2)と書き換えることができる。
【数2】

【0029】
ただし p(sk−1,s,y)は再生信号系列yと状態sk−1からsへの遷移結合確率である。ここで、マルコフ性を仮定するとp(sk−1,s,y)は式(3)となる。
【数3】

【0030】
また、γ(sk−1,s)は、
γ(sk−1,s
=p(s,yk|sk−1)p(s|sk−1
=q(d|sk−1,s)p(yk|d)P(d
と表わされる。ただし、q(d|sk−1,s)はd=+1,−1に対して状態sk−1からsへの遷移ブランチが存在すれば1、存在しなければ0である。また、p(d)はdに関する事前情報であり、p(y|d)は、最尤復号におけるビタビアルゴリズムのブランチメトリック値である。したがって、式(1)から式(7)より、事後確率値の対数尤度比Lpostは次式で表わすことができる。
【数4】

【0031】
次に、外部値の対数尤度比Lextは、事後確率値の対数尤度比Lpostから事前値の対数尤度比Lapp及びブランチメトリック値の対数尤度比Lchを引いたものであるので、式(9)で表わすことができる。
【数5】

【0032】
この合成器58の出力値を硬判定することにより、ビット誤り率の改善された再生信号列を得ることができる。合成器58の重みαは経験則から所定値に設定してもよいし、ノイズの状態で調整する可変値としてもよい。例えば、記録時にリトライする場合があるが、そのような場合は誤り率が高いと判断して、重みαを可変することが考えられる。
【0033】
図3はビタビ等化器(合成器58)の後段に誤り訂正復号器60を有する変形例を示す。
【数6】

【0034】
後段の誤り訂正復号器60に事前値の対数尤度比Lappとして入力する。誤り訂正復号器60は、例えば、ターボ符号やLDPC(低密度パリティチェック:Low Density Parity Check)符号などの復号、あるいは軟判定出力値を硬判定した結果を利用してRS(リードソロモン:Reed Solomon)符号の消失訂正を行う。これにより、ビット誤り率を大きく改善できる。
【0035】
図4は誤り訂正復号器として硬判定値及び軟判定値(外部値の対数尤度比Lext)を出力する復号器64を用いる変形例を示す。ビタビ等化器62a、62bは事前値の対数尤度比Lapp及び再生信号を入力して、硬判定値dkと事後確率値の対数尤度比Lpost、外部値の対数尤度比Lextを出力する。誤り訂正復号器64から出力される軟判定値(外部値の対数尤度比Lext)をビタビ等化器62a、62bの事前値の対数尤度比Lappとしてフィードバックすると、ターボ符号と同様な原理(2つの再帰的組織畳み込み(RSC:Recursive Systematic convolutional)符号器をインターリーバで接続することで非常に長い符号語を生成し、復号器はそれぞれのRSC符号器に対応した復号器で構成され、対数尤度比をやり取りすることで効率的に復号を行う)により、情報の信頼性を高めることができ、ビット誤り率をさらに改善できる。
【0036】
上述の説明では、PR等化器及び対応するビタビ等化器の個数を2個としているが、図5に示すようにPR等化器及び対応するビタビ等化器をN個(N>1)用意してもよい。図5は図2の例の変形例を示すが、図3、図4のいずれもPR等化器及び対応するビタビ等化器をN個用意してもよい。
【0037】
ビタビ等化器56aの出力のうち事後確率値の対数尤度比Lpostが加算器66に供給され、ビタビ等化器56b、56c、…の出力のうち外部値の対数尤度比Lextが合成器68に供給され、合成値が加算器66に供給される。合成器68は外部値の対数尤度比Lextに適当な重み係数αを掛けて加算する。すなわち、合成器68は式(11)に示すように、第2から第Nまでのビタビ等化器56b、56c、…から出力される外部値の対数尤度比Lextを重みα倍したものの総和と、第1のビタビ等化器56aから出力される事後確率値の対数尤度比Lpostとの加算結果を出力する。
【数7】

【0038】
次に、ビット誤り率が良くなる異なる2つのPRターゲットの効率的な選び方について説明する。第1のビタビ等化器56aの出力のうち事後確率値の対数尤度比Lpostが使われ、第2(第3、…)のビタビ等化器56b(56c、…)の出力のうち外部値の対数尤度比Lextが使われるので、第1のPR等化器54aのPRターゲットとしては、ビタビ等化器56aから出力される事後確率値の対数尤度比Lpostの相互情報量が高くなるものを選び、第2のPR等化器54bのPRターゲットとしては、ビタビ等化器56bから出力される外部値の対数尤度比Lextの相互情報量が高くなるものを選ぶ。これにより、組み合わせを考慮することなく、最適な2つのPRターゲットを選ぶことが可能となる。
【0039】
図6にPRターゲットを決定するための相互情報量を算出する処理構成を示す。ヘッド16により再生され、ヘッドIC26により増幅されたアナログ信号は、A/D変換器52に入力されデジタル化された後、任意のFIR型フィルタからなるPR等化器54によって、ターゲットのPR信号となるようにPR等化される。PR等化された再生信号は、当該PRターゲットの状態遷移を有するビタビ等化器56に入力される。ビタビ等化器56から出力される事後確率値の対数尤度比Lpostと外部値の対数尤度比Lextが相互情報量算出器70に入力され、それぞれの相互情報量が算出される。
【0040】
なお、事後確率値の対数尤度比Lpostの相互情報量とは事後確率値の対数尤度比Lpostから再生信号に関する情報がどの程度分かっているかを0から1の値で示すものである。そのため、ビタビ等化器56から出力される事後確率値の対数尤度比Lpostのヒストグラムを取り、再生信号が+1の場合のビタビ等化器56から出力される事後確率値の対数尤度比Lpostの確率密度関数および再生信号が−1の場合のビタビ等化器56から出力される事後確率値Lpostの確率密度関数を推定し、得られた確率密度関数について積分を行うことにより、式(12)のように算出される。
【0041】
同様にして、外部値の対数尤度比Lextの相互情報量も式(13)のように算出される。
【数8】

【0042】
これにより、任意のPRターゲットで事後確率値の対数尤度比Lpostおよび外部値の対数尤度比Lextの相互情報量を求め、第1のPRターゲットとして事後確率値の相互情報量Lpostが最も高いもの、第2のPRターゲットとして外部値の相互情報量Lextが最も高いものを選択することができる。
【0043】
第1の実施形態によれば、異なる複数のPRターゲットについて複数のPR等化器、複数のビタビ等化器を設け、異なる複数のPRターゲットについてビタビ等化まで行い、第1のビタビ等化器から出力される事後確率値の対数尤度比と、第2以降のビタビ等化器から出力される外部値の対数尤度比との合成値を新たな事後確率値の対数尤度比とみなすことで、ビタビ等化後あるいは誤り訂正後のビット誤り率が改善される。
【0044】
図7、図8は実施形態によるビット誤り率の改善効果を示す図である。図7、図8の右側の特性(測定値を+で示す)はPR等化器、ビタビ等化器が1つ(PRターゲットはPR(30,31,0,−1)、ARタップ係数は2である)の場合のビット誤り率(BER:bit error rate)を示す。なお、ARタップ係数とは、ARML(Autoregressive Maximum-Likelihood))で用いる雑音の白色化のタップ数である。左側の特性(測定値を×で示す)はPR等化器、ビタビ等化器がそれぞれ2つ(PRターゲットはPR(30,31,0,−1)、ARタップ係数1とPR(3,4)、ARタップ係数3である)の実施形態の場合のビット誤り率を示す。図7は誤り訂正復号器が無い(図2に示す)実施形態のビタビ等化器の出力におけるビット誤り率を示し、図8は誤り訂正復号器がある(図3、図4に示す)実施形態の誤り訂正復号器の出力におけるビット誤り率を示す。誤り訂正復号器は符号化率0.93のLDPC符号を復号するものとする。このように、誤り訂正復号器を用いると、ビット誤り率BERはSNRが大きくなると約1桁改善されることがわかる。
【0045】
第2実施形態
複数のPRターゲットで等化する再生信号処理回路において、図9のような構成も可能である。第1実施形態と同様に、ビタビ等化器56bは再生信号系列ykを入力し、硬判定値dk(これは実際には使用されない)、事後確率値の対数尤度比Lpost(これは実際には使用されない)、外部値の対数尤度比Lextを出力する。ビタビ等化器56bから出力される外部値の対数尤度比Lextを重みα倍したものをビタビ等化器56aの事前値の対数尤度比Lappとして入力する。ビタビ等化器56aは再生信号系列ykと事前値の対数尤度比Lappとから、硬判定値dk(これは実際には使用されない)、事後確率値の対数尤度比Lpost、外部値の対数尤度比Lext(これは実際には使用されない)を算出する。ビタビ等化器56aから出力される事後確率値の対数尤度比Lpostを硬判定することにより、ビット誤り率の改善された再生信号系列を得ることができる。
【0046】
第2実施形態も第1実施形態と同様に変形可能である。図10、図11は図9の第2実施形態を図3、図4と同様に誤り訂正復号器を付加した変形例である。図12は図9の第2実施形態を図5と同様にPRターゲットをN個(N>1)とし、PR等化器及び対応するビタビ等化器をN個用意した変形例である。3番目以降のビタビ等化器56から出力される外部値の対数尤度比Lextを重みα倍したものを1つ前のビタビ等化器56の事前値の対数尤度比Lappとして入力する。ビタビ等化器の数が増えても1番目のビタビ等化器56aから出力される事後確率値の対数尤度比Lpostを硬判定する点は変わらない。
【0047】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、例えば図6の構成を用いて、第1のPRターゲットとして、事後確率値の対数尤度比の相互情報量が高いもの、2番目以降のPRターゲットとして外部値の対数尤度比の相互情報量が高いものを選択し、選択したターゲットを用いて等化を行う。そして、2番目以降のビタビ等化器から出力される外部値の対数尤度比を重み付けしたものを1つ前のビタビ等化器の事前値の対数尤度比として入力することにより、ビタビ等化後、あるいは誤り訂正後のビット誤り率が改善される。
【0048】
なお、上述の実施形態は磁気記録再生装置について行ったが、DVD等の光学的記録再生装置について適用可能であるし、さらには伝送路を伝播した伝送信号を受信して、復調する受信装置にも適用可能である。
【0049】
以上説明した実施形態によれば、信号処理装置は、再生信号に対して第1のPR特性に応じた波形等化処理を行い第1のPR信号を出力する第1のPR等化器と、再生信号に対して第2のPR特性に応じた波形等化処理を行い第2のPR信号を出力する第2のPR等化器と、第1のPR等化器の出力をビタビ復号する第1のビタビ等化器と、第2のPR等化器の出力をビタビ復号する第2のビタビ等化器とを具備し、第1のビタビ等化器から出力される事後確率値の対数尤度比Lpostと、第2のビタビ等化器から出力される外部値の対数尤度比Lextとに応じて入力信号を復元することにより、ビット誤り率の改善された入力信号を復元することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対して第1のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第1のパーシャルレスポンス信号を出力する第1の波形等化手段と、
前記入力信号に対して第2のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第2のパーシャルレスポンス信号を出力する第2の波形等化手段と、
前記第1の波形等化手段の出力をビタビ復号する第1のビタビ手段と、
前記第2の波形等化手段の出力をビタビ復号する第2のビタビ手段とを具備し、
前記第1のビタビ手段の出力と前記第2のビタビ手段の出力とに応じて前記入力信号を復元する信号処理装置。
【請求項2】
前記第1のビタビ手段から出力される事後確率値の対数尤度比と、前記第2のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比とを重み付け係数を用いて加算する合成手段をさらに具備し、
前記合成手段の出力に基づいて前記入力信号を復元する請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記合成手段の出力を誤り訂正復号する復号手段をさらに具備し、
該復号手段はターボ符号復号器あるいは低密度パリティチェック符号復号器からなる請求項2記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記復号手段は外部値の対数尤度比を出力し、該対数尤度比は前記第1のビタビ手段と第2のビタビ手段へ事前値の対数尤度比として供給される請求項3記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記入力信号に対して第3のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第3のパーシャルレスポンス信号を出力する第3の波形等化手段と、
前記第3の波形等化手段の出力をビタビ復号する第3のビタビ手段と、
前記第2のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比と、前記第3のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比とを重み付け係数を用いて加算する合成手段と、
前記第1のビタビ手段から出力される事後確率値の対数尤度比と前記合成手段の出力とを加算する加算手段とをさらに具備し、
前記加算手段の出力に基づいて前記入力信号を復元する請求項2、請求項3、請求項4のいずれか一項記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記第2のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比が事前値の対数尤度比として前記第1のビタビ手段に供給され、
前記第1のビタビ手段から出力される事後確率値の対数尤度比に基づいて前記入力信号を復元する請求項1記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記第1のビタビ手段の出力を誤り訂正復号する復号手段をさらに具備し、
該復号手段はターボ符号復号器あるいは低密度パリティチェック符号復号器からなる請求項6記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記復号手段は外部値の対数尤度比を出力し、該対数尤度比は前記第2のビタビ手段へ事前値の対数尤度比として供給される請求項7記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記入力信号に対して第3のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第3のパーシャルレスポンス信号を出力する第3の波形等化手段と、
前記第3の波形等化手段の出力をビタビ復号する第3のビタビ手段とをさらに具備し、
前記第3のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比が事前値の対数尤度比として前記第2のビタビ手段に供給される請求項6、請求項7、請求項8のいずれか一項記載の信号処理装置。
【請求項10】
入力信号に対して第1のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第1のパーシャルレスポンス信号を出力する第1の波形等化ステップと、
前記入力信号に対して第2のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第2のパーシャルレスポンス信号を出力する第2の波形等化ステップと、
前記第1の波形等化手段の出力をビタビ復号する第1のビタビステップと、
前記第2の波形等化手段の出力をビタビ復号する第2のビタビステップとを具備し、
前記第1のビタビステップの出力と前記第2のビタビステップの出力とに応じて前記入力信号を復元する信号処理方法。
【請求項11】
前記第1のビタビステップから出力される事後確率値の対数尤度比と、前記第2のビタビステップから出力される外部値の対数尤度比とを重み付け係数を用いて加算する合成ステップをさらに具備し、
前記合成ステップの出力に基づいて前記入力信号を復元する請求項10記載の信号処理方法。
【請求項12】
前記合成ステップの出力を誤り訂正復号する復号ステップをさらに具備し、
該復号ステップはターボ符号復号あるいは低密度パリティチェック符号復号を行う請求項11記載の信号処理方法。
【請求項13】
前記復号ステップは外部値の対数尤度比を出力し、
前記第1のビタビステップと第2のビタビステップは該外部値の対数尤度比を事前値の対数尤度比として用いてビタビ復号を行う請求項12記載の信号処理方法。
【請求項14】
前記第1のビタビステップは前記第2のビタビステップから出力される外部値の対数尤度比を事前値の対数尤度比として用いてビタビ復号を行い、
前記第1のビタビステップから出力される事後確率値の対数尤度比に基づいて前記入力信号を復元する請求項10記載の信号処理方法。
【請求項15】
前記第1のビタビステップの出力を誤り訂正復号する復号ステップをさらに具備し、
該復号ステップはターボ符号復号あるいは低密度パリティチェック符号復号を行う請求項14記載の信号処理方法。
【請求項16】
前記復号ステップは外部値の対数尤度比を出力し、該対数尤度比は前記第2のビタビステップへ事前値の対数尤度比として供給される請求項15記載の信号処理方法。
【請求項17】
ディスク状の記憶媒体から信号を読み取るヘッドと、
前記ヘッドの出力信号に対して第1のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第1のパーシャルレスポンス信号を出力する第1の波形等化手段と、
前記ヘッドの出力信号に対して第2のパーシャルレスポンス特性に応じた波形等化処理を行い第2のパーシャルレスポンス信号を出力する第2の波形等化手段と、
前記第1の波形等化手段の出力をビタビ復号する第1のビタビ手段と、
前記第2の波形等化手段の出力をビタビ復号する第2のビタビ手段とを具備し、
前記第1のビタビ手段の出力と前記第2のビタビ手段の出力とに応じて前記記憶媒体の信号を再生する信号再生装置。
【請求項18】
前記第1のビタビ手段から出力される事後確率値の対数尤度比と、前記第2のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比とを重み付け係数を用いて加算する合成手段をさらに具備し、
前記合成手段の出力に基づいて前記記憶媒体の信号を再生する請求項17記載の信号再生装置。
【請求項19】
前記第2のビタビ手段から出力される外部値の対数尤度比が事前値の対数尤度比として前記第1のビタビ手段に供給され、
前記第1のビタビ手段から出力される事後確率値の対数尤度比に基づいて前記記憶媒体の信号を再生する請求項17記載の信号再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−227970(P2011−227970A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98187(P2010−98187)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】